発光によるビタミンC検出法及び定量法
【課題】従来法の問題点を克服しうる、新規なビタミンCの検出法及び定量法を提供することを目的とする。特に、生体内でのビタミンCの挙動を解明しうるバイオイメージングへの応用が可能な、発光によるビタミンCの検出法及び定量法を提供することを目的とする。
【解決手段】ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特にニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体からなるレドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いた生体内外におけるビタミンCの検出法及び定量法。
【解決手段】ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特にニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体からなるレドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いた生体内外におけるビタミンCの検出法及び定量法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いたビタミンCの検出法及び定量法に関する。具体的に本発明は、ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特にニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体からなる蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いた生体内外におけるビタミンCの検出法及び定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンC(アスコルビン酸)は、水溶性ビタミンの一種であり、広く植物界に分布するが、とくに果物類、緑黄色野菜類などに多く含まれていることが知られている。ビタミンCは、生体内において重要な役割を果たしており、その例として(1)アミノ酸生合成への利用、(2)副腎からのホルモン分泌、(3)脂肪酸をミトコンドリアに運ぶための担体であるL−カルニチンの合成などが挙げられる。また、結合組織でコラーゲンを生成する際に必要とされるため、ビタミンC不足により壊血病の症状(歯のぐらつき・血管の脆弱化・皮膚からの出血・怪我の回復や免疫機能の低下・軽度の貧血など)を呈するようになる。
【0003】
ヒトはビタミンCを体内で合成することができないため、必要量をすべて食品などを通じて外部から摂取しなければならない。さらにビタミンCは強力な抗酸化活性を有することが知られている。したがって、抗酸化ビタミンとして、又は食品添加物である酸化防止剤として、加工・健康食品などへの添加が広く行なわれている。
【0004】
食品又は生体由来試料中のビタミンCの検出法及び定量法としては、例えば、HPLC法、ヒドラジン比色法及びインドフェノール法などが従来から用いられている。その他、アスコルビン酸酸化酵素の存在下、還元型アスコルビン酸と酸素から酸化型アスコルビン酸と過酸化水素を生成する反応と、生成した過酸化水素と色源体とをパーオキシダーゼの存在下に反応させて色素を生成する反応とを同一反応系で行わせ、生成する色素を定量することによって試料中のアスコルビン酸を定量する方法(例えば、特許文献1参照)や、ビタミンCを含む試料にo−フェニレンジアミンを加え、この試料に偏光性をもたせた励起光を照射し、これにより生じる蛍光の偏光度を測定し、その測定値に基づきビタミンCを定量する方法(例えば、特許文献2参照)などが報告されている。しかしながら、これらの定量法には、前処理等の操作が煩雑である、定量に多くの時間を要する、及び/又は精度に劣るなどの問題点が依然として存在する。
【0005】
さらに近年、ビタミンCと老化の関係が注目されているだけでなく、ビタミンCの高濃度投与ががん治療に効果的であることが報告されている。例えば、がん治療に関しては2005年に発表された「Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells(薬理学的濃度のアスコルビン酸はがん細胞を選択的に殺す)」という論文が注目されており、高濃度のビタミンCを点滴することががん治療に有効であるという結果が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、生体内でのビタミンCの正確な挙動についてははっきりと解明されていないという現状があり、バイオイメージング技術などを利用して、その生体内機能を解明することが強く期待されている。しかしながら、上記のいずれの方法を用いても、ビタミンCのバイオイメージングへの応用は不可能である。
【0006】
バイオイメージングへの応用可能性のある方法として、発光によるビタミンCの検出法及び定量法が挙げられ、例えば、ダンシル基、ピリル基のような蛍光発色団とニトロキシドラジカルからなるデュアル分子を蛍光プローブとして用いる方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、かかる蛍光プローブは、励起光・蛍光ともに生体組織透過性の低い波長領域(650nm以下)であるため、蛍光バイオイメージングへの応用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4073963号
【特許文献2】特開平11−326207号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Qi chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (38), 13604-13609 (2005)
【非特許文献2】E. Lozinsky et al., J. Biochem. Biophys. Methods 38, 29-42 (1999)
【非特許文献3】K. Ishii et al., The Porphirin Handbook; ed by K. Kadish, R. M. Smith and R. Guilard, Academic Press, Volume 16, 1-42 (2003)
【非特許文献4】H. Miwa, K. Ishii et al., Chem. Eur. J. 10, 4422-4435 (2004)
【非特許文献5】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 109 (26), 5781-5787 (2005)
【非特許文献6】K. Ishii et al., J. Porphyrins Phthalocyanines 3, 439-443 (1999)
【非特許文献7】K. Ishii et al., J. Am. Chem. Soc. 123 (4), 702-708 (2001)
【非特許文献8】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 105 (28), 6794-6799 (2001)
【非特許文献9】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 108 (16), 3276-3280 (2004)
【非特許文献10】K. Ishii et al., Free Radical Biology & Medicine 38, 920-927 (2005)
【非特許文献11】石井和之、生産研究 60巻2号(2008)、160−163頁
【非特許文献12】Yang Liu et al., Chem. Lett. 38, 588-589 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、これまでにポルフィリン又はフタロシアニンの光物理的性質について報告してきた(例えば、非特許文献3〜5参照)。その中で、ニトロキシドラジカルにフタロシアニンの蛍光を強く消光する働きがあることを明らかにした(例えば、非特許文献6〜9参照)。一方、ニトロキシドラジカルは、ビタミンC(やその他の少数の反応活性物質)と反応して不対電子を失う(ラジカルではなくなる)ことも知られている。本発明者らはこれらの点に注目し、ビタミンCとの反応による発光強度増大から、ビタミンC濃度を定量・検出できるのではないかと考え検討した結果、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の目的は、従来法の問題点を克服しうる、新規なビタミンCの検出法及び定量法を提供すること、特に、研究目的の生体内(細胞中など)でのビタミンCの挙動を解明しうるバイオイメージングへの応用が可能な、発光によるビタミンCの検出法及び定量法を提供することである。本発明の目的はまた、かかる方法において有用な蛍光プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、以下1〜13に挙げるような、ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれらを用いる発光によるビタミンCの検出法及び定量法を提供するものである。
【0012】
1.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ。
2.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式I:
【0013】
【化1】
【0014】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、上記1に記載の蛍光プローブ。
3.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式II:
【0015】
【化2】
【0016】
〔式中、
X、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4であり;
Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、上記1又は2に記載の蛍光プローブ。
4.Mが、周期表第2族、又は第12〜15族の元素から選択される原子であり、1又は2個の軸配位子Lが存在する、上記2又は3に記載の蛍光プローブ。
5.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式III:
【0017】
【化3】
【0018】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルであり、他方は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である〕
で表される錯体である、上記1〜4のいずれかに記載の蛍光プローブ。
6.Xが、Nである、上記2〜5のいずれかに記載の蛍光プローブ。
7.L、L1又はL2、あるいはR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8におけるニトロキシドラジカルが、下記式IV:
【0019】
【化4】
【0020】
〔式中、
Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成し、;
Zは、単結合、又はスペーサーである〕
である、上記2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
8.ニトロキシドラジカルが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である、上記1〜7のいずれかに記載の蛍光プローブ。
9.環原子と一緒になって形成されるニトロキシドラジカルを含む環が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)又は2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)である、上記2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
10.上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤。
11.試料中のビタミンCを検出する方法であって、
(1)励起光の照射下、上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は上記10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び
(2)発光をモニターする工程、を含む方法。
12.試料中のビタミンCを定量する方法であって、
(1)励起光の照射下、上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は上記10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;
(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び
(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程、を含む方法。
13.生体内のビタミンCを検出する方法であって、
(1)上記10に記載のリポソーム製剤を、被験動物(ヒトを除く)に投与する工程;及び
(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のビタミンCを定量する方法の基本的な操作は、試料と蛍光プローブとを接触させ、発光強度時間変化を測定するだけという簡単なものであり(錯体濃度すら正確に調整する必要はない)、且つ精度良く定量することができる。発光強度時間変化で定量しているので、試料は溶液であっても懸濁液であってもよい。したがって、HPLC法に必要な機器調整や試料前処理、インドフェノール法の滴定など煩雑な操作は必要ない。
【0022】
特に、本発明の生体内のビタミンCを検出する方法では、(1)リポソームに取り込まれたニトロキシドラジカルを有するフタロシアニンが細胞内に到達すること(例えば、非特許文献10〜11参照)、(2)蛍光プローブ(還元体)の励起光・蛍光の波長は、生体組織透過性の高い領域(>650nm)にあること、(3)ニトロキシドラジカルの還元により、十分な発光強度の増大が確認されたことなどから、バイオ蛍光イメージングへの応用が期待できる。すなわち、蛍光顕微鏡で発光増大時間変化を追うことによって、生体内ビタミンC濃度分布を知ることができ、さらにはビタミンCの生体内の働きを知るためのツールとしての利用が期待される。また、リポソーム製剤とすることにより、ビタミンC以外の反応活性物質(鉄二価イオン、スーパーオキサイドなど)によって発光強度に影響が及ばないことから選択性の面で有利と期待される。
【0023】
例えば、最近、下記:
【化5】
【0024】
で示されるニトロキシドラジカルを有する化合物を水溶性蛍光プローブとして細胞に投与すると、細胞に取り込まれた後、細胞内還元物質との酸化還元反応によって速やかに蛍光プローブのニトロキシドラジカルが還元され、発光強度増強が観測されることが報告された(例えば、非特許文献12参照)。一方、下記実施例5及び6に明らかにしたように、本発明の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤は、細胞に取り込まれた後も、細胞内還元物質による影響をほとんど受けずに、高濃度ビタミンCを投与した場合にのみ発光強度増大が観測された。したがって、本発明の蛍光プローブを含有するリポソームはin vivoにおいてもビタミンCの検出及び定量への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】製造例1で得られた錯体であり、本発明の代表的な例R1及びR2である。
【図2】本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法の反応模式図である。
【図3】実施例1のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図4】実施例1のビタミンC定量実験で得られた、反応速度定数とビタミンC濃度の間の相関を示したグラフである。
【図5】実施例2のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図6】実施例4のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図7】実施例4で得られた、ビタミンCの添加前後のR2リポソーム溶液の発光スペクトルである。
【図8】実施例4のビタミンC定量実験で得られた、反応速度定数とビタミンC濃度の間の相関を示したグラフである。
【図9】実施例5の細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験で得られた、R2リポソームの添加後、(a)はビタミンCを添加しない細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像であり(R2リポソーム添加後24時間)、(b)はビタミンCを添加した細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像である(ビタミンC添加後240分)。
【図10】実施例5の細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験で得られた、ビタミンC添加後の細胞内R2リポソームの発光強度時間変化を示したグラフである。
【図11】実施例6におけるR2リポソームと過酸化水素との反応実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図12】実施例7のデヒドロアスコルビン酸の細胞内還元のリアルタイム観察実験で得られた、デヒドロアスコルビン酸の添加後、(a)は2分後、(b)は180分後の細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンは、その化学構造の一部に(例えば、軸配位子として、ポルフィリン又はフタロシアニン環への縮合環として、あるいはポルフィリン又はフタロシアニン環上の置換基として)ニトロキシドラジカルを含むポルフィリン又はフタロシアニンを意味する。本発明において「ポルフィリン」及び「フタロシアニン」という用語は、各々「ポルフィリン又はその誘導体」及び「フタロシアニン又はその誘導体」を意味する。したがって、本発明の「ポルフィリン」及び「フタロシアニン」いう用語は、ポルフィリン及びフタロシアニンと共に、ナフタロシアニン、5,10,15,20−テトラアザポルフィリン、サブフタロシアニン、スーパーフタロシアニンのような類縁体、及びそれらの置換誘導体を含む。本発明の化合物は、ニトロキシドラジカルの不対電子を失う(ラジカルではなくなる)と、生体組織透過性の高い領域(>650nm)での発光強度の増大を示す。
【0027】
本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンは、好ましくは、下記式I:
【0028】
【化6】
【0029】
で表される化合物であり、より好ましくは、下記式II:
【0030】
【化7】
【0031】
で表される化合物である。式I又はIIにおいて、Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)を意味する。Xは、好ましくはNである。
【0032】
式I又はIIにおいて、Mは、H2(すなわち、メタルフリー)であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子、例えば、Mg、Al、Si、Sc、Ti、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、La、Ce、Lu、Hf、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Th又はUから選択される原子である。好ましくは、Mは、周期表第2族、又は第12〜15族の元素、例えばMg、Al、Si、Zn、Ga、Ge、Cd、In又はSnから選択される原子である。
【0033】
より好ましくは、Mが周期表第14族の元素から選択される原子であり、特に好ましくは、MがSiであり、2個の軸配位子Lが存在する化合物、すなわち、下記式III:
【0034】
【化8】
【0035】
で表される錯体である。式IIIにおいて、Xは、式I又はIIと同義であるが、好ましくはNである。すなわち、ニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体が特に好ましい。
【0036】
式I又はIIにおいて、ニトロキシドラジカルは、Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、軸配位子Lとして存在していてもよく、あるいは式Iにおいて、ポルフィリン又はフタロシアニン環上の置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8として存在してもよい。また式IIIの化合物において、軸配位子L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルである。そのような軸配位子又は置換基としてのニトロキシドラジカルは、>N−O・を含む基であればよいが、好ましくは、下記式IV:
【0037】
【化9】
【0038】
で表されるものである。式IVにおいて、Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成する。ニトロキシドラジカルは、好ましくは、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である。
【0039】
【化10】
(式中、Rは、C1-18−アルキル基などを意味する)
【0040】
式IVにおいて、Zは、単結合であるか、又は−O−、−(CH2)1-18−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NH−、−NHCO−若しくは−CONH−又はそれらの組み合わせなどの錯体中心原子M又はポルフィリン又はフタロシアニン環へのスペーサーである。
【0041】
別の態様として、式I又はIIにおいて、ニトロキシドラジカルは、ポルフィリン又はフタロシアニン環への縮合環として存在してもよい。すなわち、式Iにおいて、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び/又はR7とR8が、「それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい」とは、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び/又はR7とR8が、それらが結合する炭素原子と一緒になって形成した芳香環若しくは含窒素ヘテロ環において、さらに該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になって、>N−O・基を含む5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成することを意味する。好ましい環は、前記のTEMPO、PROXYL、DOXYL又はNNで示されるような5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環である。特に好ましくは、TEMPO又はPROXYLである。
【0042】
同様に、式IIにおいて、「nが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい」とは、各Ra、Rb、Rc及び/又はRdが、その2個の隣接する環原子と一緒になって、>N−O・基を含む5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成することを意味する。好ましい環は、前記のTEMPO、PROXYL、DOXYL又はNNで示されるような5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環である。特に好ましくは、TEMPO又はPROXYLである。そのような式IIの化合物の例としては、以下:
【0043】
【化11】
【0044】
(式中、Mは、前記と同義である)が挙げられる。かかる化合物は、例えば、Anthony G. M. Barrett, et al., Tetrahedron 63 (24), 5244-5250 (2007) に記載の方法に従って、調製することができる。
【0045】
本発明の式Iにおいて、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい。
【0046】
上記「R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって芳香環又は含窒素ヘテロ環を形成し」とは、R1及びR2が、それらが結合するピロール環部分の2個の炭素原子と一緒になって、芳香環、例えば、ベンゼン又はナフタレン環を形成するか、あるいは含窒素ヘテロ環、例えば、ピリジン又はピラジン環のような、少なくとも1個、好ましくは1又は2個の窒素原子を含む、5〜6員の飽和、部分不飽和又は不飽和環を形成することを意味する。「R3及びR4」、「R5及びR6」、「R7及びR8」についての同様の記載も前記と同義である。
【0047】
本発明の式IIの化合物は、本発明の式Iにおいて、R1及びR2、R3及びR4、R5及びR6、並びにR7及びR8が、各々それらが結合する炭素原子と一緒になってベンゼン環を形成したものに相当する。したがって、式IIにおいて、Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である。
【0048】
本発明の式IIIの錯体は、さらに本発明の式IIにおいて、Mが、少なくとも一方がニトロキシドラジカルである軸配位子L1及びL2を有するSi(ケイ素)であるものに相当する。したがって、式IIIにおいて、Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり、nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である。
【0049】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、他に記載のない限り、「ハロゲン原子」という用語は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。好ましくは、塩素である。
【0050】
同様に、他に記載のない限り「C1-18−アルキル基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐鎖状飽和炭化水素基を意味する。例としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルが挙げられる。好ましくは、C1-8−アルキル基が挙げられる。
【0051】
同様に、他に記載のない限り「C1-18−アルコキシ基」という用語は、酸素原子を介して結合する前記「C1-18−アルキル基」、すなわちC1-18−アルキル−O−基を意味する。例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、オクタデシルオキシなどが挙げられる。好ましくは、C1-8−アルコキシ基が挙げられる。
【0052】
同様に、他に記載のない限り「トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基」という用語において、かかる基に存在する3個の「C1-18−アルキル」部分は、同一であっても異なっていてよく、前記「C1-18−アルキル基」から選択される。そのようなトリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基の例としては、トリメチルシリルオキシ、トリエチルシリルオキシ、トリ−iso−プロピルシリルオキシ、トリ−n−ヘキシルシリルオキシ、デシル−ジメチルシリルオキシ、ジメチル−オクタデシルシリルオキシなどが挙げられる。
【0053】
同様に、他に記載のない限り「−S(O)0-2−C1-18−アルキル」という用語は、−S−C1-18−アルキル、−S(O)−C1-18−アルキル及び−S(O)2−C1-18−アルキルを含むことを意味する。好ましくは、−S−C1-8−アルキル、−S(O)−C1-8−アルキル及び−S(O)2−C1-8−アルキル、例えば、メチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。さらに「−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル」という用語は、オキシエチレン(OCH2CH2)単位が1〜8である、エチレングリコール基を意味する。好ましくは、−(OCH2CH2)2-4O−C1-6−アルキル、例えば3,6,9−トリオキサデシルオキシなどが挙げられる。
【0054】
同様に、他に記載のない限り「アリール基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数6〜14の芳香族単環及び多環式炭化水素の一価の基を意味する。例としては、フェニル、ナフタチル、アントリル、フェナントリルなどが挙げられる。「アリール基」は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基及びフェニル基から選択される1つ以上の置換基により置換されていてもよい。好ましいアリール基としては、フェニル又はナフチルが挙げられる。
【0055】
同様に、他に記載のない限り「含窒素ヘテロシクリル基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、少なくとも1個、好ましくは1又は2個の窒素原子を含む、5〜6員の飽和、部分不飽和又は不飽和環の一価の基を意味する。例としては、ピロリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニルなどが挙げられる。「含窒素ヘテロシクリル基」は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基及びフェニル基から選択される1つ以上の置換基により置換されていてもよく、あるいは少なくとも1個の窒素原子へのプロトン又はC1-8−アルキル基の付加によりオニウムを形成してもよい。好ましい含窒素ヘテロシクリル基としては、ピリジル、ピラジニル又はまたはそのオニウム化合物(例えば、N−メチルピリジニウミル)が挙げられる。
【0056】
本発明の蛍光プローブとして用いられるニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンの代表的な例を、以下の表1に示す。
【0057】
【化12】
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の代表的な例として表1に挙げたフタロシアニナトケイ素錯体R1〜R6は、上記の非特許文献6〜9に記載の方法、又は下記の実施例に記載した手順に従って製造することができる。また、当業者であれば、これらの方法と技術常識に準じて、本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特に式I、II又はIIIに包含される化合物を製造することができる。
【0060】
本発明のリポソーム製剤は、かかるニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、脂質二重層からなる閉鎖小胞(リポソーム)に取り込まれたものを意味する。例えば、本発明のリポソーム製剤は、本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、卵黄または大豆由来の天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質などのリン脂質から形成される単膜または多重膜リポソームに取り込まれたものである。微粒子状であっても、微粒子を含む溶液又は懸濁液であってもよい。リポソーム製剤は、当業者に公知の方法、又は下記の実施例に記載した手順に従い、適宜製造すればよい。例えば、活性成分以外の助剤、例えば糖類(ラクトース、マンニトール等)、中性脂質(コレステロール、トリグリセライド等)、荷電脂質(ホスファチジン酸、ステアリルアミン等)を加えることもでき、公知の方法に従いリポソームの膜修飾を行い、所望の性質を付与することもできる。
【0061】
本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法は、(1)波長650nm以上の励起光の照射下、本発明の蛍光プローブ又はリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び(2)発光をモニターする工程、を含む。ここで試料は、ビタミンCを含有する(とされる)検体を、水、緩衝液、又はメタノールのようなビタミンCを溶解しうる有機溶媒、あるいはそれらの混合物を用いて適切な濃度の溶液又は懸濁液として調製するか、あるいは検体が液体の場合は、そのまま又は適切な前処理に付して調製すればよい。
【0062】
本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法は、本発明の蛍光プローブ、すなわちニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、ビタミンCと接触し、ニトロキシドラジカルが還元され、不対電子を失った環元体に変換されることにより(すなわち、ニトロキシドラジカルによる蛍光消光作用の消失により)起こる発光強度の増大をモニターする(図2の反応模式図を参照)。本発明の特徴の一つは、発光強度の増大が、生体組織透過性の高い領域(>650nm)で起こることである(例えば、図7参照)。したがって、通常、励起光は、波長650nm以上、好適には還元体の励起極大波長付近に設定し、発光もまた、還元体の蛍光極大波長付近に設定してモニターすればよい。
【0063】
本発明のビタミンCの定量法はさらに(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程を含む。本発明者らは、発光強度の時間変化から算出される反応速度定数と、ビタミンC濃度との間に相関関係があることを見出した(下記実施例1〜4参照)。なおビタミンCは2電子還元剤であるが、1電子目の還元が律速段階であるので、例えばメタノール中での1個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブとビタミンCとの反応は、二次反応(擬一次反応)、2個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブとビタミンCとの反応は、逐次反応と解することができる。また1又は2個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブを含有するリポソーム製剤を用いた場合では、いずれも二次反応(擬一次反応)と解することができることを本発明者らは確認している。したがって、当業者であれば、得られた発光強度の時間変化を適切な反応速度式を用いて解析することにより、速度定数を適宜算出することができる。このように、本発明のビタミンCの定量法は、発光強度の時間変化の解析から速度定数を算出し、検量線を用いて濃度を求めることができるという、非常に簡便なものである。
【0064】
さらに本発明のビタミンCの検出法又は定量法は、生体内のビタミンCを検出する方法へ応用することが可能である。本発明の生体内のビタミンCを検出する方法は、(1)本発明のリポソーム製剤を、被験動物に投与する工程;及び(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程を含む。本発明者らは、リポソームに取り込まれたニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体が、細胞内に到達すること、且つ生体内の酸化還元による影響が少ないことを既に報告している(例えば、非特許文献10〜11参照)。一方、本明細書において、かかるリポソーム製剤がビタミンCと反応し、生体組織透過性の高い領域で発光強度増大を示すことを確認した。したがって、本発明の蛍光プローブ又はリポソーム製剤は、ビタミンCのバイオ蛍光イメージングへの応用が十分に期待できる。
【実施例】
【0065】
製造例1:錯体R1及びR2(図1あるいは表1参照)の製造
ジヒドロキシ(テトラ−tert−ブチルフタロシアニナト)ケイ素(SiPc(OH)2)(R0:上記表1参照)は、Macromolecules, 11 (1), 186-191 (1978)の方法に従って入手できる。SiPc(OH)2(50mg)及び2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール−1−オキシル(430mg、Cat.-No. 176141、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、4−ヒドロキシ−TEMPOという)をトルエン中、塩化カルシウム(2g)の存在下に48時間加熱還流した。得られた混合物を冷却後、塩基性アルミナ及びゲルろ過クロマトグラフィー(Bio-Beads SX-1、Bio-Radより購入)による精製後、錯体R1及びR2をそれぞれ40%及び15%の収率で得た。
【0066】
R1の元素分析(C57H66N9O3Si):
計算値 C,71.82; H,6.98; N,13.22%
実測値 C,70.84; H,7.08; N,12.44%
R2の元素分析(C66H82N10O4Si):
計算値 C,71.56; H,7.48; N,12.65%
実測値 C,70.98; H,7.05; N,12.51%
【0067】
製造例2:錯体R3(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−ヒドロキシ−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ〔以下、3−ヒドロキシ−PROXYLという;E. G. Rozantsev et. al., Tetrahedron 21, 491 (1965) に記載の方法に従って、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(Cat.-No. C5151、Sigma-Aldrich Co.より購入)から調製した〕を用い、還流時間を24時間とした以外は、製造例1と同様にして、錯体R3を37%の収率で得た。
【0068】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.0 (28.0), 651.0 (3.76), 612.0 (4.41), 360.0 (8.90);
FAB mass m/e 938 (M+);
元素分析(C56H64N9O3Si):
計算値 C,71.61; H,6.87; N,13.42%
実測値 C,70.893; H,6.633; N,12.766%
【0069】
製造例3:錯体R4(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−ヒドロキシ−PROXYLを用い、還流時間を42時間とした以外は、製造例1と同様にして、錯体R4を19%の収率で得た。
【0070】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 682.5 (26.0), 651.5 (3.45), 613.5 (4.19), 359.5 (8.69);
ESI-TOF m/e 1079 (M+);
元素分析(C64H78N10O4Si):
計算値 C,71.21; H,7.28; N,12.98%
実測値 C,70.459; H,7.402; N,12.783%
【0071】
製造例4:錯体R5(表1参照)の製造
SiPc(OH)2及び4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(Cat.-No. 382000、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、4−カルボキシ−TEMPOという)をピリジン中、24時間加熱還流した。得られた混合物を冷却後、中性アルミナ及びゲルろ過クロマトグラフィー(Bio-Beads SX-1又はSX-8、Bio-Radより購入)による精製後、錯体R5を9%の収率で得た。
【0072】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.5 (24.2), 656.0 (3.33), 616.5 (3.72), 362.5 (7.64);
FAB mass m/e 980 (M+);
元素分析(C58H66N9O4Si):
計算値 C,70.99; H,6.78; N,12.85%
実測値 C,71.997; H,7.133; N,11.955%
【0073】
製造例5:錯体R6(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(Cat.-No. 253324、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、3−カルボキシ−PROXYLという)を用いた以外は、製造例4と同様にして、錯体R6を15%の収率で得た。
【0074】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.0 (23.6), 653.0 (3.61), 616.5 (3.77), 362.0 (7.75);
FAB mass m/e 966 (M+);
元素分析(C57H64N9O4Si):
計算値 C,70.78; H,6.67; N,13.03%
実測値 C,70.622; H,6.503; N,12.251%
【0075】
実施例1:錯体R1を用いたビタミンC定量実験(メタノール溶液中)
〔実験手順〕
(1)製造例1で得られた錯体R1の、5.6×10-6Mメタノール溶液を調製した。
(2)ビタミンCの、64mM、16mM、8mM、4mMメタノール溶液を調製した。
(3)ガラスセルに上記(1)で得られた溶液1.8mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、680nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られたビタミンCメタノール溶液0.2mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
(5)不均一な拡散の寄与を考慮し、ビタミンCを加えてから300秒後以降のデータを解析に用いた。
【0076】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図3に示す。ビタミンCの添加後300秒以降のデータを用いて擬一次反応で解析し、反応速度定数を得た。この反応速度定数とビタミンC濃度の間に比例関係があることを確認した(図4)。これによって、この方法でビタミンCの定量が精度良く行えることが示された。
【0077】
実施例2:錯体R1を用いたビタミンC定量実験(リポソーム水溶液中)
〔実験手順〕
(1)吸収スペクトルを用いて、製造例1で得られた錯体R1 0.15mg(1.58×10-7mol)を定量した。
(2)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)20.9mg(2.86×10-5mol)をクロロホルム3.6mlに溶かした。
(3)R1をナスフラスコにいれTHF180μlを加えた。さらに上記(2)で得られたリポソームのクロロホルム溶液を加え、エバポレータで溶媒を除去した。
(4)乾燥した固体にPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))2.0mlとグラスビーズ0.5gを加え、ボルテックスミキサーにかけ、その後50℃で1時間超音波処理を行った。
(5)放冷後、遠心分離を行い(3500r.p.m、10分、4000r.p.m、10分室温)、目的物である上澄み溶液を得た。
(6)ビタミンCの、64mM、32mM、16mM、8mM、4mM、2mMPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(7)ガラスセルにピーク波長の吸収がAbs=0.5程度になるようPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で希釈した上記(5)の溶液1.35mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(8)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、690nmの発光をモニターしながら、上記(6)で得られたビタミンCのPBS溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0078】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図5に示す。メタノール溶液中と同様、発光強度の指数関数的増大を観測することに成功した。
【0079】
実施例3:錯体R2を用いたビタミンC定量実験(メタノール溶液中)
〔実験手順〕
(1)製造例1で得られた錯体R2の、5×10-6Mメタノール溶液を調製した。
(2)ビタミンCの、64mMメタノール溶液を調製した。
(3)ガラスセルに上記(1)で得られた溶液1.35mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、686nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られたビタミンCメタノール溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0080】
〔実験結果〕
約6300%の発光強度増大を観測した。
【0081】
実施例4:錯体R2を用いたビタミンC定量実験(リポソーム水溶液中)
〔実験手順〕
(1)吸収スペクトルを用いて、製造例1で得られた錯体R2 0.175mg(1.58×10-7mol)を定量した。
(2)DPPC20.9mg(2.86×10-5mol)をクロロホルム3.6mlに溶かした。
(3)R2をナスフラスコにいれTHF180μlを加えた。さらに上記(2)で得られたリポソームのクロロホルム溶液を加え、エバポレータで溶媒を除去した。
(4)乾燥した固体にPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))2mlとグラスビーズ0.5gを加え、ボルテックスミキサーにかけ、その後50℃で1時間超音波処理を行った。
(5)放冷後、遠心分離を行い(3500r.p.m、10分、室温)、目的物である上澄み溶液を得た。
(6)ビタミンCの、128mM、64mM、16mM、8mM、4mM、2mMPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(7)ピーク波長の吸収がAbs=1.4程度になるよう、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で希釈した上記(5)の溶液1.35mlとマイクロ攪拌子をガラスセルに入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(8)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、686nm(12.8mMでは700nm)の発光をモニターしながら、上記(6)で得られたビタミンCのPBS溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0082】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図6に示す。ビタミンC濃度と発光強度の間に相関が認められた。また、発光強度500%増とバイオイメージングに十分と思われる発光強度変化が観測された(図7)。さらに発光強度時間変化は擬一次反応でフィッティングすることができ、低濃度領域ではビタミンC濃度と反応速度定数の間に相関が見られた(図8)。これらのことから研究目的の細胞中でのビタミンC蛍光バイオイメージングへの応用が期待できる。
【0083】
実施例5:細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)で調製した錯体R2のリポソーム(以下、「R2リポソーム」という)の溶液をDMFで10倍希釈し、吸収スペクトルの吸光度から光増感剤(錯体R2)のリポソームへの取り込み量を算出し濃度計算を行い、濃度調整を行った。
(2)6cmシャーレに、5mlずつヒト子宮頸癌由来細胞(HeLa細胞[JCRB9004]、2×104cells/cm2、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入)を播種し、インキュベーター内で24時間培養した。2×10−6Mになるように調整したR2リポソームPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液をシャーレに添加し、20時間培養した。
(3)培地を除去し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で2回洗浄してから培地(Eagle’s minimal essential medium 500mlに、MEM non essential Amino Acids solution 5ml、抗生物質5ml、HEPES 1M 10ml、FBS(fetal bovine serum、ウシ胎児血清)50mlを加えた)5mlを加え、そこに濃度が12.8mMになるように調整したビタミンCのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を0.55ml加えた。
(4)Leica社製カットフィルタ:Y5を用い、定期的にLeica 社製DM IRB蛍光顕微鏡、Leica社製DFC350FX CCDカメラを用いて発光の様子を観察し(励起光:590−650nm、モニター波長:664−734nm)、画像を記録した。
(5)得られた蛍光顕微鏡画像について、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて発光強度時間変化の解析を行った。
【0084】
〔実験結果〕
R2リポソームの添加後、ビタミンCを添加しない細胞系を上記と同様に観察したが、24時間経過後も発光はほとんど観察されなかった(図9a)。一方、ビタミンCを添加した細胞系では、添加後発光の様子に大きな変化が見られ、240分後でも強い発光が確認された(図9b)。画像処理ソフトウェアを用いて解析した発光強度時間変化を図10に示す。本実験により、再現性のある指数関数な発光強度時間変化を見出し、細胞におけるビタミンCバイオイメージングに成功した。画像解析による細胞内発光強度時間変化の定量的なデータを介して、生体におけるビタミンCの細胞取り込み速度や、ニトロキシドラジカルのビタミンCによる細胞内還元速度が決定され、それによりビタミンCの生体内機能解明につながることが期待される。
【0085】
実施例6:R2リポソームと過酸化水素との反応性実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)に従い、R2リポソームの溶液を調製した。
(2)過酸化水素の、1MPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(3)PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で10倍希釈した上記(1)の溶液1.5mlとマイクロ攪拌子をガラスセルに入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、695nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られた過酸化水素のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液0.015mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
(5)対照として、過酸化水素のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液に代えて、ビタミンCのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を用い、上記(4)の手順を繰り返した。
【0086】
〔実験結果〕
本実験は、血清タンパク質であるアルブミン存在下におけるビタミンC副産物として知られる過酸化水素が、本発明の蛍光プローブに与える影響について調べるために行った。なお、本実験においてR2リポソームに添加した10mM 過酸化水素溶液は、2mMのアスコルビン酸がFBS存在下で発生させる過酸化水素の67倍量に相当する。得られた発光強度時間変化を図11に示す。本実験により過酸化水素には本発明の蛍光プローブと反応性が無いことが示された。これによって、本発明の蛍光プローブとビタミンCの反応は、その副産物(過酸化水素)によって影響を受けない、すなわち本発明の方法により、ビタミンCのみをターゲットとした蛍光バイオイメージングが可能であることが示された。
【0087】
実施例7:デヒドロアスコルビン酸の細胞内還元のリアルタイム観察実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)で調製したR2リポソームをDMFで10倍希釈し、吸収スペクトルの吸光度から光増感剤(錯体R2)のリポソームへの取り込み量を算出し濃度計算を行い、濃度調整を行った。
(2)6cmシャーレに、5mlずつHeLa細胞(2×104cells/cm2、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入)を播種し、インキュベーター内で24時間培養した。2×10-6Mになるように調整したR2リポソームのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液をシャーレに添加し、20時間培養した。
(3)培地を除去し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で2回洗浄してから培地(Eagle's minimal essential medium 500mlに、MEM non essential Amino Acids solution 5ml、抗生物質5ml、HEPES 1M 10ml、FBS(fetal bovine serum、ウシ胎児血清)5mlを加え、そこに濃度が12.8mMになるように調整したデヒドロアスコルビン酸のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を0.55ml加えた。
(4)Leica社製カットフィルタ:Y5を用い、定期的に蛍光顕微鏡で発光の様子を観察し(励起光:590−650nm、モニター波長:664−734nm)、画像を記録した。
【0088】
〔実験結果〕
デヒドロアスコルビン酸はビタミンC(アスコルビン酸)の酸化体であり、細胞内に取り込まれると速やかに還元されてビタミンCに変化することが知られている。本実験では、本発明の蛍光プローブによる蛍光バイオイメージング技術を応用してデヒドロアスコルビン酸の細胞内還元の様子をリアルタイムで観察できるかを調べるために行った。デヒドロアスコルビン酸添加後2分及び180分の細胞系の蛍光顕微鏡画像を、それぞれ図12(a)及び図12(b)に示す。デヒドロアスコルビン酸添加後に細胞内蛍光プローブの発光が増大する様子が観測された(図12(a)から図12(b)への変化)。これによって、デヒドロアスコルビン酸細胞内還元の様子をリアルタイム観察することに成功した。また、ビタミンCと同様に画像解析によって発光強度時間変化を定量的に解析することで、デヒドロアスコルビン酸の細胞内取り込み速度や細胞内還元速度の決定が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
上記の結果より、(1)リポソーム水溶液中及びメタノール溶液中においてビタミンCの添加後に蛍光強度が増大すること、(2)本発明の蛍光プローブ(錯体)の反応速度とビタミンC濃度に比例関係があること、(3)本発明の蛍光プローブ(錯体)の蛍光増大の速度がESRによるスピン消失速度と一致することを見出した。これによって、我々は、親水・疎水両溶媒中でビタミンCの新たな定量法を開発することに成功した。
【0090】
また本方法は既存法に対して、(1)励起光・蛍光ともに生体組織透過性が高い領域(>650nm)に観測されること、(2)生体膜モデルであるリポソーム水溶液中で発光が増大したことから、生体内への応用が期待できること、(3)リポソーム水溶液中で、例えば錯体R2で、最大500%増という蛍光顕微鏡などで追うのに十分な発光強度増大比を有すること、(4)メタノール中の錯体R1で約150%増、R2で約6300%増と高い発光強度増大比を有すること、(5)さらに、R1のTEMPOラジカルを、R0に対する蛍光量子収率比がさらに高いことが知られているPROXYLラジカルに代えることによってさらに高い発光強度比を出すこと、あるいは軸配位子のヒドロキシ基をトリアルキルシロキシ基とすることで会合の影響を無くし、発光強度を増大させることなどの簡便な化学的修飾により発光強度の調節が容易に達成できること、(6)リポソームに取り込まれたフタロシアニナトケイ素錯体(すなわち、本発明のリポソーム製剤)が細胞内に到達し、かつ再現性のある逐次反応的な発光強度時間変化が確認されていること、(7)本発明のリポソーム製剤が細胞内における様々な還元物質の影響受けず、ビタミンCを特異的に検出及び定量できること、(8)既存の蛍光プローブよりも反応速度が遅いので、がん治療に要求される薬理学的濃度(0.3−20mM)の定量にも適する(0.4mM−6.4mMまで確認済み)などが優れており、これまで不可能だったビタミンCの蛍光バイオイメージングの実現と、それによるビタミンCの生体内機能解明などが期待される。
【0091】
したがって、本発明の方法は、ビタミンCの検出及び定量に有用である。特に本発明の方法は、これまで不可能だった生体内におけるビタミンCの検出、すなわち研究目的の生体内(細胞中など)でのビタミンCの蛍光バイオイメージングの実現が期待され、ビタミンCの生体内機能解明を飛躍的に進めることが出来る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いたビタミンCの検出法及び定量法に関する。具体的に本発明は、ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特にニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体からなる蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれを用いた生体内外におけるビタミンCの検出法及び定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンC(アスコルビン酸)は、水溶性ビタミンの一種であり、広く植物界に分布するが、とくに果物類、緑黄色野菜類などに多く含まれていることが知られている。ビタミンCは、生体内において重要な役割を果たしており、その例として(1)アミノ酸生合成への利用、(2)副腎からのホルモン分泌、(3)脂肪酸をミトコンドリアに運ぶための担体であるL−カルニチンの合成などが挙げられる。また、結合組織でコラーゲンを生成する際に必要とされるため、ビタミンC不足により壊血病の症状(歯のぐらつき・血管の脆弱化・皮膚からの出血・怪我の回復や免疫機能の低下・軽度の貧血など)を呈するようになる。
【0003】
ヒトはビタミンCを体内で合成することができないため、必要量をすべて食品などを通じて外部から摂取しなければならない。さらにビタミンCは強力な抗酸化活性を有することが知られている。したがって、抗酸化ビタミンとして、又は食品添加物である酸化防止剤として、加工・健康食品などへの添加が広く行なわれている。
【0004】
食品又は生体由来試料中のビタミンCの検出法及び定量法としては、例えば、HPLC法、ヒドラジン比色法及びインドフェノール法などが従来から用いられている。その他、アスコルビン酸酸化酵素の存在下、還元型アスコルビン酸と酸素から酸化型アスコルビン酸と過酸化水素を生成する反応と、生成した過酸化水素と色源体とをパーオキシダーゼの存在下に反応させて色素を生成する反応とを同一反応系で行わせ、生成する色素を定量することによって試料中のアスコルビン酸を定量する方法(例えば、特許文献1参照)や、ビタミンCを含む試料にo−フェニレンジアミンを加え、この試料に偏光性をもたせた励起光を照射し、これにより生じる蛍光の偏光度を測定し、その測定値に基づきビタミンCを定量する方法(例えば、特許文献2参照)などが報告されている。しかしながら、これらの定量法には、前処理等の操作が煩雑である、定量に多くの時間を要する、及び/又は精度に劣るなどの問題点が依然として存在する。
【0005】
さらに近年、ビタミンCと老化の関係が注目されているだけでなく、ビタミンCの高濃度投与ががん治療に効果的であることが報告されている。例えば、がん治療に関しては2005年に発表された「Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells(薬理学的濃度のアスコルビン酸はがん細胞を選択的に殺す)」という論文が注目されており、高濃度のビタミンCを点滴することががん治療に有効であるという結果が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、生体内でのビタミンCの正確な挙動についてははっきりと解明されていないという現状があり、バイオイメージング技術などを利用して、その生体内機能を解明することが強く期待されている。しかしながら、上記のいずれの方法を用いても、ビタミンCのバイオイメージングへの応用は不可能である。
【0006】
バイオイメージングへの応用可能性のある方法として、発光によるビタミンCの検出法及び定量法が挙げられ、例えば、ダンシル基、ピリル基のような蛍光発色団とニトロキシドラジカルからなるデュアル分子を蛍光プローブとして用いる方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、かかる蛍光プローブは、励起光・蛍光ともに生体組織透過性の低い波長領域(650nm以下)であるため、蛍光バイオイメージングへの応用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4073963号
【特許文献2】特開平11−326207号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Qi chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (38), 13604-13609 (2005)
【非特許文献2】E. Lozinsky et al., J. Biochem. Biophys. Methods 38, 29-42 (1999)
【非特許文献3】K. Ishii et al., The Porphirin Handbook; ed by K. Kadish, R. M. Smith and R. Guilard, Academic Press, Volume 16, 1-42 (2003)
【非特許文献4】H. Miwa, K. Ishii et al., Chem. Eur. J. 10, 4422-4435 (2004)
【非特許文献5】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 109 (26), 5781-5787 (2005)
【非特許文献6】K. Ishii et al., J. Porphyrins Phthalocyanines 3, 439-443 (1999)
【非特許文献7】K. Ishii et al., J. Am. Chem. Soc. 123 (4), 702-708 (2001)
【非特許文献8】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 105 (28), 6794-6799 (2001)
【非特許文献9】K. Ishii et al., J. Phys. Chem. A 108 (16), 3276-3280 (2004)
【非特許文献10】K. Ishii et al., Free Radical Biology & Medicine 38, 920-927 (2005)
【非特許文献11】石井和之、生産研究 60巻2号(2008)、160−163頁
【非特許文献12】Yang Liu et al., Chem. Lett. 38, 588-589 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、これまでにポルフィリン又はフタロシアニンの光物理的性質について報告してきた(例えば、非特許文献3〜5参照)。その中で、ニトロキシドラジカルにフタロシアニンの蛍光を強く消光する働きがあることを明らかにした(例えば、非特許文献6〜9参照)。一方、ニトロキシドラジカルは、ビタミンC(やその他の少数の反応活性物質)と反応して不対電子を失う(ラジカルではなくなる)ことも知られている。本発明者らはこれらの点に注目し、ビタミンCとの反応による発光強度増大から、ビタミンC濃度を定量・検出できるのではないかと考え検討した結果、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の目的は、従来法の問題点を克服しうる、新規なビタミンCの検出法及び定量法を提供すること、特に、研究目的の生体内(細胞中など)でのビタミンCの挙動を解明しうるバイオイメージングへの応用が可能な、発光によるビタミンCの検出法及び定量法を提供することである。本発明の目的はまた、かかる方法において有用な蛍光プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、以下1〜13に挙げるような、ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ及びそれを含有するリポソーム製剤、並びにそれらを用いる発光によるビタミンCの検出法及び定量法を提供するものである。
【0012】
1.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ。
2.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式I:
【0013】
【化1】
【0014】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、上記1に記載の蛍光プローブ。
3.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式II:
【0015】
【化2】
【0016】
〔式中、
X、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4であり;
Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、上記1又は2に記載の蛍光プローブ。
4.Mが、周期表第2族、又は第12〜15族の元素から選択される原子であり、1又は2個の軸配位子Lが存在する、上記2又は3に記載の蛍光プローブ。
5.ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式III:
【0017】
【化3】
【0018】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルであり、他方は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である〕
で表される錯体である、上記1〜4のいずれかに記載の蛍光プローブ。
6.Xが、Nである、上記2〜5のいずれかに記載の蛍光プローブ。
7.L、L1又はL2、あるいはR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8におけるニトロキシドラジカルが、下記式IV:
【0019】
【化4】
【0020】
〔式中、
Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成し、;
Zは、単結合、又はスペーサーである〕
である、上記2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
8.ニトロキシドラジカルが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である、上記1〜7のいずれかに記載の蛍光プローブ。
9.環原子と一緒になって形成されるニトロキシドラジカルを含む環が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)又は2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)である、上記2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
10.上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤。
11.試料中のビタミンCを検出する方法であって、
(1)励起光の照射下、上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は上記10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び
(2)発光をモニターする工程、を含む方法。
12.試料中のビタミンCを定量する方法であって、
(1)励起光の照射下、上記1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は上記10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;
(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び
(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程、を含む方法。
13.生体内のビタミンCを検出する方法であって、
(1)上記10に記載のリポソーム製剤を、被験動物(ヒトを除く)に投与する工程;及び
(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のビタミンCを定量する方法の基本的な操作は、試料と蛍光プローブとを接触させ、発光強度時間変化を測定するだけという簡単なものであり(錯体濃度すら正確に調整する必要はない)、且つ精度良く定量することができる。発光強度時間変化で定量しているので、試料は溶液であっても懸濁液であってもよい。したがって、HPLC法に必要な機器調整や試料前処理、インドフェノール法の滴定など煩雑な操作は必要ない。
【0022】
特に、本発明の生体内のビタミンCを検出する方法では、(1)リポソームに取り込まれたニトロキシドラジカルを有するフタロシアニンが細胞内に到達すること(例えば、非特許文献10〜11参照)、(2)蛍光プローブ(還元体)の励起光・蛍光の波長は、生体組織透過性の高い領域(>650nm)にあること、(3)ニトロキシドラジカルの還元により、十分な発光強度の増大が確認されたことなどから、バイオ蛍光イメージングへの応用が期待できる。すなわち、蛍光顕微鏡で発光増大時間変化を追うことによって、生体内ビタミンC濃度分布を知ることができ、さらにはビタミンCの生体内の働きを知るためのツールとしての利用が期待される。また、リポソーム製剤とすることにより、ビタミンC以外の反応活性物質(鉄二価イオン、スーパーオキサイドなど)によって発光強度に影響が及ばないことから選択性の面で有利と期待される。
【0023】
例えば、最近、下記:
【化5】
【0024】
で示されるニトロキシドラジカルを有する化合物を水溶性蛍光プローブとして細胞に投与すると、細胞に取り込まれた後、細胞内還元物質との酸化還元反応によって速やかに蛍光プローブのニトロキシドラジカルが還元され、発光強度増強が観測されることが報告された(例えば、非特許文献12参照)。一方、下記実施例5及び6に明らかにしたように、本発明の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤は、細胞に取り込まれた後も、細胞内還元物質による影響をほとんど受けずに、高濃度ビタミンCを投与した場合にのみ発光強度増大が観測された。したがって、本発明の蛍光プローブを含有するリポソームはin vivoにおいてもビタミンCの検出及び定量への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】製造例1で得られた錯体であり、本発明の代表的な例R1及びR2である。
【図2】本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法の反応模式図である。
【図3】実施例1のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図4】実施例1のビタミンC定量実験で得られた、反応速度定数とビタミンC濃度の間の相関を示したグラフである。
【図5】実施例2のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図6】実施例4のビタミンC定量実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図7】実施例4で得られた、ビタミンCの添加前後のR2リポソーム溶液の発光スペクトルである。
【図8】実施例4のビタミンC定量実験で得られた、反応速度定数とビタミンC濃度の間の相関を示したグラフである。
【図9】実施例5の細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験で得られた、R2リポソームの添加後、(a)はビタミンCを添加しない細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像であり(R2リポソーム添加後24時間)、(b)はビタミンCを添加した細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像である(ビタミンC添加後240分)。
【図10】実施例5の細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験で得られた、ビタミンC添加後の細胞内R2リポソームの発光強度時間変化を示したグラフである。
【図11】実施例6におけるR2リポソームと過酸化水素との反応実験で得られた、発光強度時間変化を示したグラフである。
【図12】実施例7のデヒドロアスコルビン酸の細胞内還元のリアルタイム観察実験で得られた、デヒドロアスコルビン酸の添加後、(a)は2分後、(b)は180分後の細胞系における発光の様子を示す顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンは、その化学構造の一部に(例えば、軸配位子として、ポルフィリン又はフタロシアニン環への縮合環として、あるいはポルフィリン又はフタロシアニン環上の置換基として)ニトロキシドラジカルを含むポルフィリン又はフタロシアニンを意味する。本発明において「ポルフィリン」及び「フタロシアニン」という用語は、各々「ポルフィリン又はその誘導体」及び「フタロシアニン又はその誘導体」を意味する。したがって、本発明の「ポルフィリン」及び「フタロシアニン」いう用語は、ポルフィリン及びフタロシアニンと共に、ナフタロシアニン、5,10,15,20−テトラアザポルフィリン、サブフタロシアニン、スーパーフタロシアニンのような類縁体、及びそれらの置換誘導体を含む。本発明の化合物は、ニトロキシドラジカルの不対電子を失う(ラジカルではなくなる)と、生体組織透過性の高い領域(>650nm)での発光強度の増大を示す。
【0027】
本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンは、好ましくは、下記式I:
【0028】
【化6】
【0029】
で表される化合物であり、より好ましくは、下記式II:
【0030】
【化7】
【0031】
で表される化合物である。式I又はIIにおいて、Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)を意味する。Xは、好ましくはNである。
【0032】
式I又はIIにおいて、Mは、H2(すなわち、メタルフリー)であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子、例えば、Mg、Al、Si、Sc、Ti、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、La、Ce、Lu、Hf、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Th又はUから選択される原子である。好ましくは、Mは、周期表第2族、又は第12〜15族の元素、例えばMg、Al、Si、Zn、Ga、Ge、Cd、In又はSnから選択される原子である。
【0033】
より好ましくは、Mが周期表第14族の元素から選択される原子であり、特に好ましくは、MがSiであり、2個の軸配位子Lが存在する化合物、すなわち、下記式III:
【0034】
【化8】
【0035】
で表される錯体である。式IIIにおいて、Xは、式I又はIIと同義であるが、好ましくはNである。すなわち、ニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体が特に好ましい。
【0036】
式I又はIIにおいて、ニトロキシドラジカルは、Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、軸配位子Lとして存在していてもよく、あるいは式Iにおいて、ポルフィリン又はフタロシアニン環上の置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8として存在してもよい。また式IIIの化合物において、軸配位子L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルである。そのような軸配位子又は置換基としてのニトロキシドラジカルは、>N−O・を含む基であればよいが、好ましくは、下記式IV:
【0037】
【化9】
【0038】
で表されるものである。式IVにおいて、Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成する。ニトロキシドラジカルは、好ましくは、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である。
【0039】
【化10】
(式中、Rは、C1-18−アルキル基などを意味する)
【0040】
式IVにおいて、Zは、単結合であるか、又は−O−、−(CH2)1-18−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NH−、−NHCO−若しくは−CONH−又はそれらの組み合わせなどの錯体中心原子M又はポルフィリン又はフタロシアニン環へのスペーサーである。
【0041】
別の態様として、式I又はIIにおいて、ニトロキシドラジカルは、ポルフィリン又はフタロシアニン環への縮合環として存在してもよい。すなわち、式Iにおいて、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び/又はR7とR8が、「それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい」とは、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び/又はR7とR8が、それらが結合する炭素原子と一緒になって形成した芳香環若しくは含窒素ヘテロ環において、さらに該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になって、>N−O・基を含む5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成することを意味する。好ましい環は、前記のTEMPO、PROXYL、DOXYL又はNNで示されるような5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環である。特に好ましくは、TEMPO又はPROXYLである。
【0042】
同様に、式IIにおいて、「nが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい」とは、各Ra、Rb、Rc及び/又はRdが、その2個の隣接する環原子と一緒になって、>N−O・基を含む5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・基に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成することを意味する。好ましい環は、前記のTEMPO、PROXYL、DOXYL又はNNで示されるような5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環である。特に好ましくは、TEMPO又はPROXYLである。そのような式IIの化合物の例としては、以下:
【0043】
【化11】
【0044】
(式中、Mは、前記と同義である)が挙げられる。かかる化合物は、例えば、Anthony G. M. Barrett, et al., Tetrahedron 63 (24), 5244-5250 (2007) に記載の方法に従って、調製することができる。
【0045】
本発明の式Iにおいて、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよい。
【0046】
上記「R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって芳香環又は含窒素ヘテロ環を形成し」とは、R1及びR2が、それらが結合するピロール環部分の2個の炭素原子と一緒になって、芳香環、例えば、ベンゼン又はナフタレン環を形成するか、あるいは含窒素ヘテロ環、例えば、ピリジン又はピラジン環のような、少なくとも1個、好ましくは1又は2個の窒素原子を含む、5〜6員の飽和、部分不飽和又は不飽和環を形成することを意味する。「R3及びR4」、「R5及びR6」、「R7及びR8」についての同様の記載も前記と同義である。
【0047】
本発明の式IIの化合物は、本発明の式Iにおいて、R1及びR2、R3及びR4、R5及びR6、並びにR7及びR8が、各々それらが結合する炭素原子と一緒になってベンゼン環を形成したものに相当する。したがって、式IIにおいて、Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である。
【0048】
本発明の式IIIの錯体は、さらに本発明の式IIにおいて、Mが、少なくとも一方がニトロキシドラジカルである軸配位子L1及びL2を有するSi(ケイ素)であるものに相当する。したがって、式IIIにおいて、Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり、nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である。
【0049】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、他に記載のない限り、「ハロゲン原子」という用語は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。好ましくは、塩素である。
【0050】
同様に、他に記載のない限り「C1-18−アルキル基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐鎖状飽和炭化水素基を意味する。例としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルが挙げられる。好ましくは、C1-8−アルキル基が挙げられる。
【0051】
同様に、他に記載のない限り「C1-18−アルコキシ基」という用語は、酸素原子を介して結合する前記「C1-18−アルキル基」、すなわちC1-18−アルキル−O−基を意味する。例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、オクタデシルオキシなどが挙げられる。好ましくは、C1-8−アルコキシ基が挙げられる。
【0052】
同様に、他に記載のない限り「トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基」という用語において、かかる基に存在する3個の「C1-18−アルキル」部分は、同一であっても異なっていてよく、前記「C1-18−アルキル基」から選択される。そのようなトリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基の例としては、トリメチルシリルオキシ、トリエチルシリルオキシ、トリ−iso−プロピルシリルオキシ、トリ−n−ヘキシルシリルオキシ、デシル−ジメチルシリルオキシ、ジメチル−オクタデシルシリルオキシなどが挙げられる。
【0053】
同様に、他に記載のない限り「−S(O)0-2−C1-18−アルキル」という用語は、−S−C1-18−アルキル、−S(O)−C1-18−アルキル及び−S(O)2−C1-18−アルキルを含むことを意味する。好ましくは、−S−C1-8−アルキル、−S(O)−C1-8−アルキル及び−S(O)2−C1-8−アルキル、例えば、メチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。さらに「−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル」という用語は、オキシエチレン(OCH2CH2)単位が1〜8である、エチレングリコール基を意味する。好ましくは、−(OCH2CH2)2-4O−C1-6−アルキル、例えば3,6,9−トリオキサデシルオキシなどが挙げられる。
【0054】
同様に、他に記載のない限り「アリール基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数6〜14の芳香族単環及び多環式炭化水素の一価の基を意味する。例としては、フェニル、ナフタチル、アントリル、フェナントリルなどが挙げられる。「アリール基」は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基及びフェニル基から選択される1つ以上の置換基により置換されていてもよい。好ましいアリール基としては、フェニル又はナフチルが挙げられる。
【0055】
同様に、他に記載のない限り「含窒素ヘテロシクリル基」という用語は、単独で、又は他の用語との組み合わせにおいて、少なくとも1個、好ましくは1又は2個の窒素原子を含む、5〜6員の飽和、部分不飽和又は不飽和環の一価の基を意味する。例としては、ピロリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニルなどが挙げられる。「含窒素ヘテロシクリル基」は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基及びフェニル基から選択される1つ以上の置換基により置換されていてもよく、あるいは少なくとも1個の窒素原子へのプロトン又はC1-8−アルキル基の付加によりオニウムを形成してもよい。好ましい含窒素ヘテロシクリル基としては、ピリジル、ピラジニル又はまたはそのオニウム化合物(例えば、N−メチルピリジニウミル)が挙げられる。
【0056】
本発明の蛍光プローブとして用いられるニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンの代表的な例を、以下の表1に示す。
【0057】
【化12】
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の代表的な例として表1に挙げたフタロシアニナトケイ素錯体R1〜R6は、上記の非特許文献6〜9に記載の方法、又は下記の実施例に記載した手順に従って製造することができる。また、当業者であれば、これらの方法と技術常識に準じて、本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニン、特に式I、II又はIIIに包含される化合物を製造することができる。
【0060】
本発明のリポソーム製剤は、かかるニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、脂質二重層からなる閉鎖小胞(リポソーム)に取り込まれたものを意味する。例えば、本発明のリポソーム製剤は、本発明のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、卵黄または大豆由来の天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質などのリン脂質から形成される単膜または多重膜リポソームに取り込まれたものである。微粒子状であっても、微粒子を含む溶液又は懸濁液であってもよい。リポソーム製剤は、当業者に公知の方法、又は下記の実施例に記載した手順に従い、適宜製造すればよい。例えば、活性成分以外の助剤、例えば糖類(ラクトース、マンニトール等)、中性脂質(コレステロール、トリグリセライド等)、荷電脂質(ホスファチジン酸、ステアリルアミン等)を加えることもでき、公知の方法に従いリポソームの膜修飾を行い、所望の性質を付与することもできる。
【0061】
本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法は、(1)波長650nm以上の励起光の照射下、本発明の蛍光プローブ又はリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び(2)発光をモニターする工程、を含む。ここで試料は、ビタミンCを含有する(とされる)検体を、水、緩衝液、又はメタノールのようなビタミンCを溶解しうる有機溶媒、あるいはそれらの混合物を用いて適切な濃度の溶液又は懸濁液として調製するか、あるいは検体が液体の場合は、そのまま又は適切な前処理に付して調製すればよい。
【0062】
本発明の発光によるビタミンCの検出法及び定量法は、本発明の蛍光プローブ、すなわちニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、ビタミンCと接触し、ニトロキシドラジカルが還元され、不対電子を失った環元体に変換されることにより(すなわち、ニトロキシドラジカルによる蛍光消光作用の消失により)起こる発光強度の増大をモニターする(図2の反応模式図を参照)。本発明の特徴の一つは、発光強度の増大が、生体組織透過性の高い領域(>650nm)で起こることである(例えば、図7参照)。したがって、通常、励起光は、波長650nm以上、好適には還元体の励起極大波長付近に設定し、発光もまた、還元体の蛍光極大波長付近に設定してモニターすればよい。
【0063】
本発明のビタミンCの定量法はさらに(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程を含む。本発明者らは、発光強度の時間変化から算出される反応速度定数と、ビタミンC濃度との間に相関関係があることを見出した(下記実施例1〜4参照)。なおビタミンCは2電子還元剤であるが、1電子目の還元が律速段階であるので、例えばメタノール中での1個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブとビタミンCとの反応は、二次反応(擬一次反応)、2個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブとビタミンCとの反応は、逐次反応と解することができる。また1又は2個のニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなる蛍光プローブを含有するリポソーム製剤を用いた場合では、いずれも二次反応(擬一次反応)と解することができることを本発明者らは確認している。したがって、当業者であれば、得られた発光強度の時間変化を適切な反応速度式を用いて解析することにより、速度定数を適宜算出することができる。このように、本発明のビタミンCの定量法は、発光強度の時間変化の解析から速度定数を算出し、検量線を用いて濃度を求めることができるという、非常に簡便なものである。
【0064】
さらに本発明のビタミンCの検出法又は定量法は、生体内のビタミンCを検出する方法へ応用することが可能である。本発明の生体内のビタミンCを検出する方法は、(1)本発明のリポソーム製剤を、被験動物に投与する工程;及び(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程を含む。本発明者らは、リポソームに取り込まれたニトロキシドラジカルを軸配位子として有するフタロシアニナトケイ素錯体が、細胞内に到達すること、且つ生体内の酸化還元による影響が少ないことを既に報告している(例えば、非特許文献10〜11参照)。一方、本明細書において、かかるリポソーム製剤がビタミンCと反応し、生体組織透過性の高い領域で発光強度増大を示すことを確認した。したがって、本発明の蛍光プローブ又はリポソーム製剤は、ビタミンCのバイオ蛍光イメージングへの応用が十分に期待できる。
【実施例】
【0065】
製造例1:錯体R1及びR2(図1あるいは表1参照)の製造
ジヒドロキシ(テトラ−tert−ブチルフタロシアニナト)ケイ素(SiPc(OH)2)(R0:上記表1参照)は、Macromolecules, 11 (1), 186-191 (1978)の方法に従って入手できる。SiPc(OH)2(50mg)及び2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール−1−オキシル(430mg、Cat.-No. 176141、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、4−ヒドロキシ−TEMPOという)をトルエン中、塩化カルシウム(2g)の存在下に48時間加熱還流した。得られた混合物を冷却後、塩基性アルミナ及びゲルろ過クロマトグラフィー(Bio-Beads SX-1、Bio-Radより購入)による精製後、錯体R1及びR2をそれぞれ40%及び15%の収率で得た。
【0066】
R1の元素分析(C57H66N9O3Si):
計算値 C,71.82; H,6.98; N,13.22%
実測値 C,70.84; H,7.08; N,12.44%
R2の元素分析(C66H82N10O4Si):
計算値 C,71.56; H,7.48; N,12.65%
実測値 C,70.98; H,7.05; N,12.51%
【0067】
製造例2:錯体R3(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−ヒドロキシ−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ〔以下、3−ヒドロキシ−PROXYLという;E. G. Rozantsev et. al., Tetrahedron 21, 491 (1965) に記載の方法に従って、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(Cat.-No. C5151、Sigma-Aldrich Co.より購入)から調製した〕を用い、還流時間を24時間とした以外は、製造例1と同様にして、錯体R3を37%の収率で得た。
【0068】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.0 (28.0), 651.0 (3.76), 612.0 (4.41), 360.0 (8.90);
FAB mass m/e 938 (M+);
元素分析(C56H64N9O3Si):
計算値 C,71.61; H,6.87; N,13.42%
実測値 C,70.893; H,6.633; N,12.766%
【0069】
製造例3:錯体R4(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−ヒドロキシ−PROXYLを用い、還流時間を42時間とした以外は、製造例1と同様にして、錯体R4を19%の収率で得た。
【0070】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 682.5 (26.0), 651.5 (3.45), 613.5 (4.19), 359.5 (8.69);
ESI-TOF m/e 1079 (M+);
元素分析(C64H78N10O4Si):
計算値 C,71.21; H,7.28; N,12.98%
実測値 C,70.459; H,7.402; N,12.783%
【0071】
製造例4:錯体R5(表1参照)の製造
SiPc(OH)2及び4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(Cat.-No. 382000、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、4−カルボキシ−TEMPOという)をピリジン中、24時間加熱還流した。得られた混合物を冷却後、中性アルミナ及びゲルろ過クロマトグラフィー(Bio-Beads SX-1又はSX-8、Bio-Radより購入)による精製後、錯体R5を9%の収率で得た。
【0072】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.5 (24.2), 656.0 (3.33), 616.5 (3.72), 362.5 (7.64);
FAB mass m/e 980 (M+);
元素分析(C58H66N9O4Si):
計算値 C,70.99; H,6.78; N,12.85%
実測値 C,71.997; H,7.133; N,11.955%
【0073】
製造例5:錯体R6(表1参照)の製造
4−ヒドロキシ−TEMPOに代えて、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(Cat.-No. 253324、Sigma-Aldrich Co.より購入;以下、3−カルボキシ−PROXYLという)を用いた以外は、製造例4と同様にして、錯体R6を15%の収率で得た。
【0074】
UV-vis (λ/nm(ε/104)) 685.0 (23.6), 653.0 (3.61), 616.5 (3.77), 362.0 (7.75);
FAB mass m/e 966 (M+);
元素分析(C57H64N9O4Si):
計算値 C,70.78; H,6.67; N,13.03%
実測値 C,70.622; H,6.503; N,12.251%
【0075】
実施例1:錯体R1を用いたビタミンC定量実験(メタノール溶液中)
〔実験手順〕
(1)製造例1で得られた錯体R1の、5.6×10-6Mメタノール溶液を調製した。
(2)ビタミンCの、64mM、16mM、8mM、4mMメタノール溶液を調製した。
(3)ガラスセルに上記(1)で得られた溶液1.8mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、680nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られたビタミンCメタノール溶液0.2mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
(5)不均一な拡散の寄与を考慮し、ビタミンCを加えてから300秒後以降のデータを解析に用いた。
【0076】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図3に示す。ビタミンCの添加後300秒以降のデータを用いて擬一次反応で解析し、反応速度定数を得た。この反応速度定数とビタミンC濃度の間に比例関係があることを確認した(図4)。これによって、この方法でビタミンCの定量が精度良く行えることが示された。
【0077】
実施例2:錯体R1を用いたビタミンC定量実験(リポソーム水溶液中)
〔実験手順〕
(1)吸収スペクトルを用いて、製造例1で得られた錯体R1 0.15mg(1.58×10-7mol)を定量した。
(2)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)20.9mg(2.86×10-5mol)をクロロホルム3.6mlに溶かした。
(3)R1をナスフラスコにいれTHF180μlを加えた。さらに上記(2)で得られたリポソームのクロロホルム溶液を加え、エバポレータで溶媒を除去した。
(4)乾燥した固体にPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))2.0mlとグラスビーズ0.5gを加え、ボルテックスミキサーにかけ、その後50℃で1時間超音波処理を行った。
(5)放冷後、遠心分離を行い(3500r.p.m、10分、4000r.p.m、10分室温)、目的物である上澄み溶液を得た。
(6)ビタミンCの、64mM、32mM、16mM、8mM、4mM、2mMPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(7)ガラスセルにピーク波長の吸収がAbs=0.5程度になるようPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で希釈した上記(5)の溶液1.35mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(8)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、690nmの発光をモニターしながら、上記(6)で得られたビタミンCのPBS溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0078】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図5に示す。メタノール溶液中と同様、発光強度の指数関数的増大を観測することに成功した。
【0079】
実施例3:錯体R2を用いたビタミンC定量実験(メタノール溶液中)
〔実験手順〕
(1)製造例1で得られた錯体R2の、5×10-6Mメタノール溶液を調製した。
(2)ビタミンCの、64mMメタノール溶液を調製した。
(3)ガラスセルに上記(1)で得られた溶液1.35mlとマイクロ攪拌子を入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、686nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られたビタミンCメタノール溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0080】
〔実験結果〕
約6300%の発光強度増大を観測した。
【0081】
実施例4:錯体R2を用いたビタミンC定量実験(リポソーム水溶液中)
〔実験手順〕
(1)吸収スペクトルを用いて、製造例1で得られた錯体R2 0.175mg(1.58×10-7mol)を定量した。
(2)DPPC20.9mg(2.86×10-5mol)をクロロホルム3.6mlに溶かした。
(3)R2をナスフラスコにいれTHF180μlを加えた。さらに上記(2)で得られたリポソームのクロロホルム溶液を加え、エバポレータで溶媒を除去した。
(4)乾燥した固体にPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))2mlとグラスビーズ0.5gを加え、ボルテックスミキサーにかけ、その後50℃で1時間超音波処理を行った。
(5)放冷後、遠心分離を行い(3500r.p.m、10分、室温)、目的物である上澄み溶液を得た。
(6)ビタミンCの、128mM、64mM、16mM、8mM、4mM、2mMPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(7)ピーク波長の吸収がAbs=1.4程度になるよう、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で希釈した上記(5)の溶液1.35mlとマイクロ攪拌子をガラスセルに入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(8)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、686nm(12.8mMでは700nm)の発光をモニターしながら、上記(6)で得られたビタミンCのPBS溶液0.15mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
【0082】
〔実験結果〕
得られた発光強度時間変化を図6に示す。ビタミンC濃度と発光強度の間に相関が認められた。また、発光強度500%増とバイオイメージングに十分と思われる発光強度変化が観測された(図7)。さらに発光強度時間変化は擬一次反応でフィッティングすることができ、低濃度領域ではビタミンC濃度と反応速度定数の間に相関が見られた(図8)。これらのことから研究目的の細胞中でのビタミンC蛍光バイオイメージングへの応用が期待できる。
【0083】
実施例5:細胞におけるビタミンCバイオイメージング実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)で調製した錯体R2のリポソーム(以下、「R2リポソーム」という)の溶液をDMFで10倍希釈し、吸収スペクトルの吸光度から光増感剤(錯体R2)のリポソームへの取り込み量を算出し濃度計算を行い、濃度調整を行った。
(2)6cmシャーレに、5mlずつヒト子宮頸癌由来細胞(HeLa細胞[JCRB9004]、2×104cells/cm2、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入)を播種し、インキュベーター内で24時間培養した。2×10−6Mになるように調整したR2リポソームPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液をシャーレに添加し、20時間培養した。
(3)培地を除去し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で2回洗浄してから培地(Eagle’s minimal essential medium 500mlに、MEM non essential Amino Acids solution 5ml、抗生物質5ml、HEPES 1M 10ml、FBS(fetal bovine serum、ウシ胎児血清)50mlを加えた)5mlを加え、そこに濃度が12.8mMになるように調整したビタミンCのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を0.55ml加えた。
(4)Leica社製カットフィルタ:Y5を用い、定期的にLeica 社製DM IRB蛍光顕微鏡、Leica社製DFC350FX CCDカメラを用いて発光の様子を観察し(励起光:590−650nm、モニター波長:664−734nm)、画像を記録した。
(5)得られた蛍光顕微鏡画像について、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて発光強度時間変化の解析を行った。
【0084】
〔実験結果〕
R2リポソームの添加後、ビタミンCを添加しない細胞系を上記と同様に観察したが、24時間経過後も発光はほとんど観察されなかった(図9a)。一方、ビタミンCを添加した細胞系では、添加後発光の様子に大きな変化が見られ、240分後でも強い発光が確認された(図9b)。画像処理ソフトウェアを用いて解析した発光強度時間変化を図10に示す。本実験により、再現性のある指数関数な発光強度時間変化を見出し、細胞におけるビタミンCバイオイメージングに成功した。画像解析による細胞内発光強度時間変化の定量的なデータを介して、生体におけるビタミンCの細胞取り込み速度や、ニトロキシドラジカルのビタミンCによる細胞内還元速度が決定され、それによりビタミンCの生体内機能解明につながることが期待される。
【0085】
実施例6:R2リポソームと過酸化水素との反応性実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)に従い、R2リポソームの溶液を調製した。
(2)過酸化水素の、1MPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を調製した。
(3)PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で10倍希釈した上記(1)の溶液1.5mlとマイクロ攪拌子をガラスセルに入れてスターラー(1000r.p.m)で攪拌した。
(4)攪拌したまま、励起光としてヤマキ社製ダイオードレーザー(LDX−2615−650−TO3、波長650nm)を照射し、日本分光社製分光器(CT−25TP)と浜松ホトニクス社製光電子増倍管(R928)を用いて、695nmの発光をモニターしながら、上記(2)で得られた過酸化水素のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液0.015mlを加え、発光強度時間変化を測定した。このとき、光ファイバーがマイクロ攪拌子の乱反射を捉えないように角度や位置関係を調節した。
(5)対照として、過酸化水素のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液に代えて、ビタミンCのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を用い、上記(4)の手順を繰り返した。
【0086】
〔実験結果〕
本実験は、血清タンパク質であるアルブミン存在下におけるビタミンC副産物として知られる過酸化水素が、本発明の蛍光プローブに与える影響について調べるために行った。なお、本実験においてR2リポソームに添加した10mM 過酸化水素溶液は、2mMのアスコルビン酸がFBS存在下で発生させる過酸化水素の67倍量に相当する。得られた発光強度時間変化を図11に示す。本実験により過酸化水素には本発明の蛍光プローブと反応性が無いことが示された。これによって、本発明の蛍光プローブとビタミンCの反応は、その副産物(過酸化水素)によって影響を受けない、すなわち本発明の方法により、ビタミンCのみをターゲットとした蛍光バイオイメージングが可能であることが示された。
【0087】
実施例7:デヒドロアスコルビン酸の細胞内還元のリアルタイム観察実験
〔実験手順〕
(1)上記実施例4の手順(1)〜(5)で調製したR2リポソームをDMFで10倍希釈し、吸収スペクトルの吸光度から光増感剤(錯体R2)のリポソームへの取り込み量を算出し濃度計算を行い、濃度調整を行った。
(2)6cmシャーレに、5mlずつHeLa細胞(2×104cells/cm2、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入)を播種し、インキュベーター内で24時間培養した。2×10-6Mになるように調整したR2リポソームのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液をシャーレに添加し、20時間培養した。
(3)培地を除去し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))で2回洗浄してから培地(Eagle's minimal essential medium 500mlに、MEM non essential Amino Acids solution 5ml、抗生物質5ml、HEPES 1M 10ml、FBS(fetal bovine serum、ウシ胎児血清)5mlを加え、そこに濃度が12.8mMになるように調整したデヒドロアスコルビン酸のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、D-PBS(-))溶液を0.55ml加えた。
(4)Leica社製カットフィルタ:Y5を用い、定期的に蛍光顕微鏡で発光の様子を観察し(励起光:590−650nm、モニター波長:664−734nm)、画像を記録した。
【0088】
〔実験結果〕
デヒドロアスコルビン酸はビタミンC(アスコルビン酸)の酸化体であり、細胞内に取り込まれると速やかに還元されてビタミンCに変化することが知られている。本実験では、本発明の蛍光プローブによる蛍光バイオイメージング技術を応用してデヒドロアスコルビン酸の細胞内還元の様子をリアルタイムで観察できるかを調べるために行った。デヒドロアスコルビン酸添加後2分及び180分の細胞系の蛍光顕微鏡画像を、それぞれ図12(a)及び図12(b)に示す。デヒドロアスコルビン酸添加後に細胞内蛍光プローブの発光が増大する様子が観測された(図12(a)から図12(b)への変化)。これによって、デヒドロアスコルビン酸細胞内還元の様子をリアルタイム観察することに成功した。また、ビタミンCと同様に画像解析によって発光強度時間変化を定量的に解析することで、デヒドロアスコルビン酸の細胞内取り込み速度や細胞内還元速度の決定が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
上記の結果より、(1)リポソーム水溶液中及びメタノール溶液中においてビタミンCの添加後に蛍光強度が増大すること、(2)本発明の蛍光プローブ(錯体)の反応速度とビタミンC濃度に比例関係があること、(3)本発明の蛍光プローブ(錯体)の蛍光増大の速度がESRによるスピン消失速度と一致することを見出した。これによって、我々は、親水・疎水両溶媒中でビタミンCの新たな定量法を開発することに成功した。
【0090】
また本方法は既存法に対して、(1)励起光・蛍光ともに生体組織透過性が高い領域(>650nm)に観測されること、(2)生体膜モデルであるリポソーム水溶液中で発光が増大したことから、生体内への応用が期待できること、(3)リポソーム水溶液中で、例えば錯体R2で、最大500%増という蛍光顕微鏡などで追うのに十分な発光強度増大比を有すること、(4)メタノール中の錯体R1で約150%増、R2で約6300%増と高い発光強度増大比を有すること、(5)さらに、R1のTEMPOラジカルを、R0に対する蛍光量子収率比がさらに高いことが知られているPROXYLラジカルに代えることによってさらに高い発光強度比を出すこと、あるいは軸配位子のヒドロキシ基をトリアルキルシロキシ基とすることで会合の影響を無くし、発光強度を増大させることなどの簡便な化学的修飾により発光強度の調節が容易に達成できること、(6)リポソームに取り込まれたフタロシアニナトケイ素錯体(すなわち、本発明のリポソーム製剤)が細胞内に到達し、かつ再現性のある逐次反応的な発光強度時間変化が確認されていること、(7)本発明のリポソーム製剤が細胞内における様々な還元物質の影響受けず、ビタミンCを特異的に検出及び定量できること、(8)既存の蛍光プローブよりも反応速度が遅いので、がん治療に要求される薬理学的濃度(0.3−20mM)の定量にも適する(0.4mM−6.4mMまで確認済み)などが優れており、これまで不可能だったビタミンCの蛍光バイオイメージングの実現と、それによるビタミンCの生体内機能解明などが期待される。
【0091】
したがって、本発明の方法は、ビタミンCの検出及び定量に有用である。特に本発明の方法は、これまで不可能だった生体内におけるビタミンCの検出、すなわち研究目的の生体内(細胞中など)でのビタミンCの蛍光バイオイメージングの実現が期待され、ビタミンCの生体内機能解明を飛躍的に進めることが出来る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ。
【請求項2】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式I:
【化13】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、請求項1に記載の蛍光プローブ。
【請求項3】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式II:
【化14】
〔式中、
X、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4であり;
Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、請求項1又は2に記載の蛍光プローブ。
【請求項4】
Mが、周期表第2族、又は第12〜15族の元素から選択される原子であり、1又は2個の軸配位子Lが存在する、請求項2又は3に記載の蛍光プローブ。
【請求項5】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式III:
【化15】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルであり、他方は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である〕
で表される錯体である、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項6】
Xが、Nである、請求項2〜5のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項7】
L、L1又はL2、あるいはR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8におけるニトロキシドラジカルが、下記式IV:
【化16】
〔式中、
Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成し、;
Zは、単結合、又はスペーサーである〕
である、請求項2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項8】
ニトロキシドラジカルが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項9】
環原子と一緒になって形成されるニトロキシドラジカルを含む環が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)又は2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)である、請求項2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤。
【請求項11】
試料中のビタミンCを検出する方法であって、
(1)励起光の照射下、請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は請求項10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び
(2)発光をモニターする工程、を含む方法。
【請求項12】
試料中のビタミンCを定量する方法であって、
(1)励起光の照射下、請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は請求項10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;
(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び
(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程、を含む方法。
【請求項13】
生体内のビタミンCを検出する方法であって、
(1)請求項10に記載のリポソーム製剤を、被験動物(ヒトを除く)に投与する工程;及び
(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程、を含む方法。
【請求項1】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンからなるレドックス応答性蛍光プローブ。
【請求項2】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式I:
【化13】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、アリール基、含窒素ヘテロシクリル基、又はニトロキシドラジカルであるか、あるいは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R3及びR4は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、
R5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよく、又は
R7及びR8は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香環若しくは含窒素ヘテロ環を形成し、該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環は、非置換であるか、又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基及び含窒素ヘテロシクリル基から選択される1つ以上の置換基により置換されているか、又は該芳香環若しくは含窒素ヘテロ環の2個の隣接する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、請求項1に記載の蛍光プローブ。
【請求項3】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式II:
【化14】
〔式中、
X、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
Mは、H2であるか、あるいは周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子であり;
Mが周期表第2〜4族、又は第8〜15族の元素から選択される原子である場合、1又は2個の軸配位子Lが存在していてもよく、ここでLは、独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4であり;
Ra、Rb、Rc及びRdは、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であるか、あるいはnが2である場合、2個の隣接する各Ra、Rb、Rc及びRdは、それらが結合する環原子と一緒になってニトロキシドラジカルを含む環を形成してもよいが;
但し、化合物には少なくとも1個のニトロキシドラジカルが存在する〕
で表される化合物である、請求項1又は2に記載の蛍光プローブ。
【請求項4】
Mが、周期表第2族、又は第12〜15族の元素から選択される原子であり、1又は2個の軸配位子Lが存在する、請求項2又は3に記載の蛍光プローブ。
【請求項5】
ニトロキシドラジカルを有するポルフィリン又はフタロシアニンが、下記式III:
【化15】
〔式中、
Xは、N又はCR′(ここで、R′は、水素原子、C1-18−アルキル基、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基である)であり;
L1及びL2の一方は、ニトロキシドラジカルであり、他方は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、トリ(C1-18−アルキル)シリルオキシ基又はニトロキシドラジカルであり;
Ra′、Rb′、Rc′及びRd′は、互いに独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、C1-18−アルキル基、C1-18−アルコキシ基、−S(O)0-2−C1-18−アルキル、−(OCH2CH2)1-8O−C1-6−アルキル、アリール基又は含窒素ヘテロシクリル基であり;
nは、互いに独立して、0、1、2、3又は4である〕
で表される錯体である、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項6】
Xが、Nである、請求項2〜5のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項7】
L、L1又はL2、あるいはR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7又はR8におけるニトロキシドラジカルが、下記式IV:
【化16】
〔式中、
Yは、Nと一緒になって、5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環(ここで、>N−O・に隣接する2つの原子は、第三級炭素原子であり、そして含窒素ヘテロ環は、追加のN若しくはO原子を含んでいてもよい)を形成し、;
Zは、単結合、又はスペーサーである〕
である、請求項2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項8】
ニトロキシドラジカルが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)、4,4−ジメチル−3−オキサゾリジニルオキシ(DOXYL)又はニトロニルニトロキシド(NN)から選択される5〜6員の飽和若しくは部分不飽和の含窒素ヘテロ環構造を含む基である、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項9】
環原子と一緒になって形成されるニトロキシドラジカルを含む環が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)又は2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシ(PROXYL)である、請求項2〜6のいずれかに記載の蛍光プローブ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブを含有するリポソーム製剤。
【請求項11】
試料中のビタミンCを検出する方法であって、
(1)励起光の照射下、請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は請求項10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;及び
(2)発光をモニターする工程、を含む方法。
【請求項12】
試料中のビタミンCを定量する方法であって、
(1)励起光の照射下、請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光プローブ又は請求項10に記載のリポソーム製剤と、試料とを接触させる工程;
(2)発光をモニターし、発光強度の時間変化を測定する工程;及び
(3)試料中のビタミンCの濃度を決定する工程、を含む方法。
【請求項13】
生体内のビタミンCを検出する方法であって、
(1)請求項10に記載のリポソーム製剤を、被験動物(ヒトを除く)に投与する工程;及び
(2)波長650nm以上の励起光を被験動物に照射し、発光をモニターする工程、を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−241794(P2010−241794A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37544(P2010−37544)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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