説明

発光ダイオードおよびその製造方法

【目的】 窓層の抵抗を低くし、結晶成長中の活性層へのp型不純物の拡散を抑え、高輝度で信頼性に優れた発光ダイオードおよびその製造方法を提供する。
【構成】 窓層6aの正孔濃度を、活性層に近い1μmのみ正孔濃度p=1×1018cm-3とし、残り6μmはp=3×1018cm-3とする。すなわち窓層6aの内、活性層に近い領域のZn濃度を低くすることにより、活性層へのZnの拡散を抑え、活性層中の非発光中心の発生を防ぐことができる。活性層から離れた領域のZn濃度を高くすることにより、窓層6a中の抵抗を低くできる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、化合物半導体を材料とする発光ダイオード(以下「LED」という)およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】可視光LEDは、 III−V族化合物半導体のヒ化ガリウム・アルミニウム(GaAlAs)、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化・リン化ガリウム(GaAsP)を用い、赤から、緑色の発光色を持つものが実用化されている。これらはパイロットランプ、数字表示器などの屋内用途だけではなく、GaAlAsを用いた赤、GaPを用いた緑色LEDの高輝度化により、屋外情報板、信号灯、ハイマウントストップランプ等、屋外での用途を拡大している。しかしさらに用途を拡大するためには、緑色LEDのさらなる高輝度化、及び橙、黄色LEDの高輝度化が不可欠である。この要求を満たす材料として、リン化インジウム・ガリウム・アルミニウム(InGaAlP)がある。
【0003】InGaAlPは、安価で、高品質な結晶基板が得られるGaAsと格子整合が可能であり、GaAs基板上にエピタキシャル成長することにより得られる。さらにGaAsとの格子整合条件下で組成を変えることで、バンドギャップを1.9〜2.35eVとすることができる。このうち、1.9〜2.3eVが直接遷移型であり、これは波長で、650(赤色)〜540(緑色)nmに相当する。これらの性質は高輝度LEDを作製する場合に重要な条件、つまり、(1) 結晶欠陥が少ないこと、(2) 活性層が直接遷移型のバンド構造を持つこと、(3) 活性層を活性層よりバンドギャップが大きな層ではさむ、いわゆるダブルヘテロ(DH)構造が形成可能なこと、を満足している。
【0004】InGaAlPのエピタキシャル成長は、GaAlAs、GaP、GaAsPの結晶成長に用いられる液相成長(LPE)法,クロライド気相成長(CVPE)法などの熱平衡状態下での結晶成長法では困難であり、非熱平衡状態下での結晶成長法である有機金属気相成長(MOVPE)法,分子線エピタキシー(MBE)法により行われる。最近、この中でも特にMOVPE法が用いられている。またp型結晶を成長するために、p型不純物として、Zn、Mg、Be等が用いられている。
【0005】図5は第1の従来例の発光ダイオードのチップ断面構造図である。この発光ダイオードは、発光波長620nmのInGaAlP橙色LEDであり、結晶成長には、減圧MOVPE法を用いる。In,Ga,Al,p型不純物のZnの原料は、それぞれ有機金属のトリメチルインジウム(TMI),トリエチルガリウム(TEG),トリメチルアルミニウム(TMA),ジメチル亜鉛(DMZ)を用い、リン,ヒ素,n型不純物のSe原料は、それぞれ水素化物のフォスフィン(PH3 ),アルシン(AsH3 ),セレン化水素(H2 Se)を用いる。成長温度は700℃、成長圧力は60Torrで一定とする。また各層の成長速度は、2μm/hourである。
【0006】n−GaAs基板1(電子濃度n=2×1018cm-3、厚さ350μm)上にまず、n−GaAsバッファ層2(n=1×1018cm-3)を0.5μm成長後、n−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層3(n=1×1018cm-3)を1.0μm、アンドープIn0.5 (Ga0.8 Al0.2 0.5 P活性層4を0.5μm、p−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層5(正孔濃度p=5×1017cm-3)を1.0μm成長する。これら各層の組成は、GaAs基板1と格子整合し、且つ、発光領域となる活性層4は発光波長が620nmとなるように、またクラッド層3,5は、活性層4よりもバンドギャップが大きくなるようにする。このように、活性層4を活性層4よりバンドギャップの大きなクラッド層3,5で挟む構造をDH構造といい、クラッド層3,5から活性層4に注入されたキャリアを閉じ込める役割を果たす。これにより、活性層4内の注入キャリア密度が増し、再結合確率が増大する結果、発光効率が大幅に向上する。
【0007】このDH構造に続いて、p−Ga0.3 Al0.7 As窓層6(p=3×1018cm-3)を7μm成長する。窓層6は活性層4内で発生した光を外部に取り出すため、発光波長に対して透明である。またp側電極7からの電流が、活性層4に到達するまでにチップ全体に広がるために、Znを高濃度にドーピングして比抵抗を下げ、また厚く成長する。さらにその上にp−GaAsコンタクト層8(p=5×1018cm-3)を0.5μm成長する。その後、コンタクト層8上に直径140μmの円形のp側電極7を、またGaAs基板1の裏面にはn側電極9を全面に真空蒸着法により形成する。さらに、p−GaAsコンタクト層8をp側電極7の下以外をウェットエッチングにより除去した後、一辺が300μmの正方形のチップに切り出す。
【0008】以上の方法により作製したLEDチップを、ステム上に銀(Ag)ペーストにより固定し、金(Au)線を接続する。これに順方向に電圧を印加し、通電することにより発光させる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の構成では、DH構造の採用、窓層6の厚膜化、Znの高濃度ドーピングにもかかわらず、順方向電流20mAの時、約70ミリルーメン(mlm)と満足すべき輝度が得られない。また、室温下、順方向電流50mAで通電試験を実施したところ、200時間後に初期の輝度の約30%にまで劣化し、信頼性的にも不十分である。これは結晶成長中に、窓層6に高濃度にドーピングされたZnが活性層4にまで多量に熱拡散するためであり、活性層4に拡散したZnは、活性層4中に非発光中心などの結晶欠陥を作る。これは内部量子効率を低下させ、高輝度が得られない原因となる。さらに通電試験中に上記結晶欠陥が原因となって転位が増殖し、輝度が劣化する原因となる。
【0010】また、結晶成長中の活性層4へのZnの拡散を抑えるために、他の従来例として、窓層6のキャリア濃度のみを変更し、1×1018cm-3と低くした結果、順方向電流20mAの輝度の値は約80mlmであり、あまり向上しなかった。しかし、上記通電試験において、1000時間まで輝度の劣化は認められなくなった。これは窓層6のZnの濃度を下げたため、結晶成長中の活性層4へのZnの拡散が抑えられた反面、窓層6の抵抗が高くなり、p側電極7からの電流が活性層4に到達するまでに充分広がらず、光の外部取り出し効率が低下するためである。
【0011】この発明は、このような課題を解決するものであり、窓層の抵抗を低くし、結晶成長中の活性層へのp型不純物の拡散を抑え、高輝度で、信頼性に優れた発光ダイオードおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発光ダイオードは、窓層の活性層に近い部分のp型不純物濃度を低くし、窓層の活性層から遠い部分のp型不純物濃度を高くしたことを特徴とする。請求項2記載の発光ダイオードの製造方法は、窓層を成長する際に、窓層の活性層に近い部分の成長温度より遠い部分の成長温度を低くすることを特徴とする。
【0013】
【作用】請求項1記載の構成によれば、窓層の活性層に近い部分のp型不純物濃度を低くしたことにより、活性層へのp型不純物の拡散を抑え、活性層中の非発光中心の発生を防ぐことができる。さらに窓層の活性層から遠い部分のp型不純物濃度を高くしたことにより、窓層中の抵抗を低くできる。その結果、高輝度で、信頼性に優れたLEDを実現することができる。
【0014】請求項2記載の製造方法によれば、p型不純物の結晶中への取り込み効率は、成長温度が低いほど高いため、窓層を成長する際に、窓層の活性層に近い部分の成長温度より遠い部分の成長温度を低くすることにより、p型不純物の原料供給量が同じでも活性層から近い部分よりも遠い部分のp型不純物濃度を高くでき、さらに、窓層成長途中に成長温度を下げることで、p型不純物の活性層への拡散を抑えることができ、活性層中の非発光中心の発生を防ぐことができる。その結果、高輝度で、信頼性に優れたLEDを製造できる。
【0015】
【実施例】以下、この発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
〔第1の実施例;請求項1に対応〕図1はこの発明の第1の実施例の発光ダイオードのチップ断面構造図である。図1において、1はn−GaAs基板、2はn−GaAsバッファ層、3はn−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層、4はアンドープIn0.5 (Ga0.8 Al0.2 0.5 P活性層、5はp−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層、6aはp−Ga0.3 Al0.7 As窓層、7はp側電極、8はp−GaAsコンタクト層、9はn側電極である。
【0016】この発光ダイオードは、発光波長620nmのInGaAlP橙色LEDであり、p−Ga0.3 Al0.7 As窓層6aの正孔濃度が、図5に示す従来例のp−Ga0.3 Al0.7 As窓層6の正孔濃度と異なる他は従来例と同様である。この従来例との相違点である正孔濃度分布を図2に示す。すなわち、この発光ダイオードは、窓層6aの成長中にジメチル亜鉛(DMZ)の供給量を変化させ、窓層6aの正孔濃度を、活性層4に近い1μmのみ正孔濃度p=1×1018cm-3とし、残り6μmはp=3×1018cm-3としている。なお、他の結晶成長方法および成長条件は従来例と同じである。
【0017】この実施例によれば、順方向電流20mAにおける輝度は約150mlmであった。この値は従来例の場合の約2倍であり、大幅に輝度が向上した。また室温下、順方向電流50mAで通電試験を実施したところ、1000時間で初期の輝度の約90%の値を示した。このように、窓層6aの内、活性層4に近い領域のZn濃度を低くすることにより、活性層4へのZnの拡散を抑え、活性層4中の非発光中心の発生を防ぐことができる。さらに活性層4から離れた領域のZn濃度を高くすることにより、窓層6a中の抵抗を低くできる。その結果、高輝度で、信頼性に優れたLEDを実現することができる。
【0018】〔第2の実施例;請求項1に対応〕つぎに第2の実施例の発光ダイオードについて述べる。第2の実施例の発光ダイオードは、第1の実施例におけるp−Ga0.3 Al0.7 As窓層6aの正孔濃度分布のみが異なり、その他の構成は第1の実施例と同様であり、断面構造図は省略し、p−Ga0.3 Al0.7 As窓層の正孔濃度分布を図3に示す。
【0019】すなわち、この第2の実施例の発光ダイオードは、p−Ga0.3 Al0.7 As窓層の成長中にDMZの供給量を連続的に変化させ、正孔濃度をp=5×1017cm-3からp=5×1018cm-3まで、活性層からの距離に比例して変化させている。なお、第1の実施例同様、他の結晶成長方法および成長条件は従来例と同じである。
【0020】この第2の実施例によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる。
〔第3の実施例;請求項2に対応〕この発明の第3の実施例の発光ダイオードの製造方法について説明する。なお、この実施例における発光ダイオードの断面構造図として、第1の実施例で用いた図1を用いることにする。
【0021】この実施例では、n−GaAs基板1へのn−GaAsバッファ層2,n−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層3,アンドープIn0.5 (Ga0.8 Al0.2 0.5 P活性層4,p−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層5,p側電極7,p−GaAsコンタクト層8およびn側電極9の形成方法については従来例と同様であり、p−Ga0.3 Al0.7 As窓層6aの形成方法に特徴がある。以下、従来例と異なる点について図4を用いて説明する。
【0022】図4はこの実施例における結晶成長中の成長温度の変化を示す。結晶成長方法及び成長条件は、従来例とほぼ同じであるが、成長温度700℃でDMZを供給しながら正孔濃度p=1×1018cm-3として窓層6aの成長を開始し、30分後に成長温度をそれまでの700℃から650℃に変更する。なお、DMZの供給量は一定であり、成長速度は従来例同様、2μm/hourである。成長温度650℃のZnのGa0 .3Al0.7 As中への取り込み効率は、成長温度700℃の約3倍であることから、窓層6a中の正孔濃度分布は図2とほぼ同じになる。
【0023】この実施例によれば、順方向電流20mAにおける輝度は約150mlmであり、第1,第2の実施例と同じ値であった。また室温下、順方向電流50mAで通電試験を実施したところ、1000時間でも劣化は見られず、第1,第2の実施例よりも優れた結果が得られた。すなわちこの実施例によれば、Zn原料供給量が同じでも、Znの結晶中への取り込み効率は成長温度が低いほど高いため、成長温度を低くすることにより、結晶中のZn濃度を高めることができる。従って、窓層6aの内、活性層4から離れた領域の成長温度を、活性層4から近い領域の成長温度に比べて低くすることにより、同じZn原料供給量で活性層4から近い領域よりも離れた領域のZn濃度を高くでき、さらに、窓層6a成長途中に成長温度を下げることで、Znの活性層4への拡散をより抑えることができ、活性層4中の非発光中心の発生を防ぐことができる。その結果、高輝度で、より信頼性にも優れたLEDを実現できる。
【0024】なお上記実施例では、活性層にIn0.5 (Ga0.8 Al0.2 0.5 Pを用いたが、他の組成またはIn0.5 Ga0.5 Pの場合にも適応可能である。また、窓層にGa0.3 Al0.7 Asを用いたが、他の組成またはInGaAlPを用いても適応可能である。また、p型不純物としてZnを用いたが、他の不純物を用いた場合にも適応可能である。さらに、MOVPE成長法を用いたが、他の成長法にも適応可能であることは言うまでもない。
【0025】
【発明の効果】請求項1記載の発光ダイオードは、窓層の活性層に近い部分のp型不純物濃度を低くしたことにより、活性層へのp型不純物の拡散を抑え、活性層中の非発光中心の発生を防ぐことができる。さらに窓層の活性層から遠い部分のp型不純物濃度を高くしたことにより、窓層中の抵抗を低くできる。その結果、高輝度で、信頼性に優れたLEDを実現することができる。
【0026】請求項2記載の発光ダイオードの製造方法は、p型不純物の結晶中への取り込み効率は、成長温度が低いほど高いため、窓層を成長する際に、窓層の活性層に近い部分の成長温度より遠い部分の成長温度を低くすることにより、p型不純物の原料供給量が同じでも活性層から近い部分よりも遠い部分のp型不純物濃度を高くでき、さらに、窓層成長途中に成長温度を下げることで、p型不純物の活性層への拡散を抑えることができ、活性層中の非発光中心の発生を防ぐことができる。その結果、高輝度で、信頼性に優れたLEDを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施例の発光ダイオードのチップ断面構造図である。
【図2】この発明の第1の実施例における正孔濃度分布を示す図である。
【図3】この発明の第2の実施例における正孔濃度分布を示す図である。
【図4】この発明の第3の実施例の発光ダイオードの製造方法における結晶成長中の成長温度の変化を示す図である。
【図5】従来の発光ダイオードのチップ断面構造図である。
【符号の説明】
1 n−GaAs基板
3 n−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層
4 アンドープIn0.5 (Ga0.8 Al0.2 0.5 P活性層
5 p−In0.5 (Ga0.3 Al0.7 0.5 Pクラッド層
6a p−Ga0.3 Al0.7 As窓層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 n型半導体基板上に、n型リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなるn型クラッド層,リン化インジウム・ガリウムまたはリン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなる活性層,p型リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなるp型クラッド層を順次成長し、前記p型クラッド層上に、リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムまたはヒ化ガリウム・アルミニウムからなる窓層を成長した発光ダイオードであって、前記窓層の前記活性層に近い部分のp型不純物濃度を低くし、前記窓層の前記活性層から遠い部分のp型不純物濃度を高くしたことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】 n型半導体基板上に、n型リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなるn型クラッド層,リン化インジウム・ガリウムまたはリン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなる活性層,p型リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムからなるp型クラッド層を順次成長する工程と、前記p型クラッド層上に、リン化インジウム・ガリウム・アルミニウムまたはヒ化ガリウム・アルミニウムからなる窓層を成長する工程とを含む発光ダイオードの製造方法であって、前記窓層を成長する際に、前記窓層の前記活性層に近い部分の成長温度より遠い部分の成長温度を低くすることを特徴とする発光ダイオードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−335619
【公開日】平成5年(1993)12月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−136945
【出願日】平成4年(1992)5月28日
【出願人】(000005843)松下電子工業株式会社 (43)