説明

発光装置

【課題】演色性を向上させることが可能な冷陰極電界放出型の発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置は、冷陰極電子放出源を有するカソード電極と、冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の蛍光体により混成された発光体層16を有するアノード電極15と、を真空容器内に備える。各種類の蛍光体は、各励起光の混光によって白色光を生成する関係を有し、発光体層16の表面上にそれぞれが分散されている。発光体層16は、シアン色に励起発光するシアン色蛍光体粒子17と、赤色に励起発光する赤色蛍光体粒子18とで混成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極電子放出源から電界放出された電子によって蛍光体を励起発光させることにより白色光を出力する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱電球や蛍光灯といった従来の発光装置に対し、真空中で冷陰極電子放出源から電界放出された電子を高速で蛍光体(発光体)に衝突させることにより、蛍光体を励起発光させる冷陰極電界放出型の発光装置が開発されており、電界放出型照明ランプ(Field Emission Lamp:FEL)や電界放出型表示装置(Field Emission Display:FED)としての用途が見込まれている。
【0003】
これらの発光装置のうち、FEDの製造工程では、一般に、ピクセルサイズ等に応じたミクロンオーダーの各種マイクロプロセスが多用される。例えば、FEDの製造工程では、スパッタリング法やCVD法など半導体チップなどに用いられる周知のマイクロプロセスにより、ガラスやセラミック類等の絶縁性基板上に陰極(カソード電極)が形成される。また、絶縁性基板上に直接に、または絶縁性基板表面に形成された配線層に接続して柱状溶融材を形成し、この柱状溶融材に、直径10〜100μmの開口部が複数開口された板厚30〜60μmの金属薄板を固定することにより、ゲート電極が形成される。
【0004】
その一方で、ランプ用光源等に用途を特化させるFELでは、カソード電極等に対してFEDのようなミクロンオーダーの微細加工を施す必要がなく、ゲート電極に開口される開口部についても直径がミリメートルオーダーの比較的大径のもので足りる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従って、FELの製造では、設備に多大な費用等が必要なマイクロプロセスを排除し、大気中のプロセスのみで大量生産可能な部品を組み合わせて目的の各機能部品を製造することにより、大幅なコストダウンを期待できる。例えば、カソード電極及びゲート電極を、板厚が0.数mm程度の金属板を基材とする個別の機能部品でそれぞれ構成し、これらを真空容器内に組み付けることにより、FELを安価に製造することが考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−339012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記FELでは、電子線により励起発光する第一蛍光体の青色光と第二蛍光体の黄色光、及び該青色光により励起発光する第二蛍光体の黄色光との混色によって白色光を得ている。
【0008】
しかし、青色光と黄色光との混色によって得られる白色光は、600〜700nm領域の赤色成分が不足するため、演色性が乏しい。このため、例えば室内照明用として上記FELを使用すると、人の皮膚の色の再現性が悪くなり、太陽光下で見る場合との相違が大きく違和感を与えることになる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、演色性を向上させることが可能な冷陰極電界放出型の発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様の発光装置は、冷陰極電子放出源を有するカソード電極と、冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の蛍光体により混成された発光体層を有するアノード電極と、を真空容器内に備える。各種類の蛍光体は、各発光の混成によって白色光を生成する関係を有し、発光体層の表面上にそれぞれが分散されている。発光体層は、電子線によりシアン色に励起発光する第一の蛍光体と、赤色に励起発光する第二の蛍光体とで混成されている。なお、第二の蛍光体として、第一の蛍光体のシアン色光によって励起されて赤色に発光する蛍光体を用いてもよい。また、発光体層は、黄色に励起発光する第三の蛍光体と上記第一及び第二の蛍光体とで混成されてもよく、さらに、第三の蛍光体として、第一の蛍光体のシアン色光によって励起されて黄色に発光する蛍光体を用いてもよい。
【0011】
上記発光装置では、第一の蛍光体に電子が衝突することによりシアン色光が発光され、第二の蛍光体に電子が衝突することにより赤色光が発光され、シアン色光と赤色光とが混色されて複合白色出力光が得られる。
【0012】
なお、発光体層に、黄色に励起発光する第三の蛍光体をさらに加えることにより、シアン色光と赤色光と黄色光とが混色されて、より演色性の高い白色出力光を得ることができる。また、第二の蛍光体として、第一の蛍光体のシアン色光によって励起されて赤色に発光する蛍光体を用いた場合には、赤色をより効率的に発光させることができ、第三の蛍光体として、第一の蛍光体のシアン色光によって励起されて黄色に発光する蛍光体を用いた場合には、黄色をより効率的に発光させることができる。
【0013】
また、本発明の第2の態様の発光装置は、冷陰極電子放出源を有するカソード電極と、発光体層を有するアノード電極と、を真空容器内に備える。発光体層は、冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光して第一スペクトル領域のシアン色の一次光を放射する特性を有する第一蛍光体層と、第一蛍光体層から放射される一次光によって第二スペクトル領域の赤色の二次光を放射する特性を有する第二蛍光体層と、第一蛍光体層から放射される一次光によって第三スペクトル領域の三次光(例えば黄色光)を放射する特性を有する第三蛍光体層とから構成される。一次光と二次光と三次光とが「加法混色の原理」に従って混成されることにより白色発光する。
【0014】
上記発光装置では、第一蛍光層に電子が衝突することによりシアン色光(一次光)が発光され、第1蛍光体層から放射される一次光によって第二蛍光体層及び第三蛍光体層から赤色光(二次光)及び三次光が発光され、シアン色光と赤色光と三次光(例えば黄色光)が混色されて複合白色出力光が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の利点は、発光装置が色に関してバランスの良い複合白色出力光を提供できることである。
【0016】
すなわち、発生する白色光に赤色成分が含まれるため、色バランスの良いことが要求される用途で望みの色温度の白色光を実現することができる。例えば、人の皮膚の色の再現性が向上するため、室内照明用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、特にFEDに使用された際に高い照度を得ることができるシアン色蛍光体の開発に誠意努力した結果、ZnS(硫化亜鉛)にAg(銀)とZn(亜鉛)とを共賦活する(ZnSを母体としてAgとZnを共賦活剤とする)、あるいはZnSにCu(銅)、Al(アルミニウム)とZn(亜鉛)とを共賦活する(ZnSを母体としてAl、Cu及びZnを共賦活剤とする)ことが有効であることを見出した。従って、上記緑に近い青(シアン)色蛍光体に電子を衝突させることにより、一般の青色蛍光体に比べて高い照度で励起発光させることが可能となる。
【0018】
さらには、ZnSにAg及びZnを賦活する場合、ZnSに対するAgの濃度は0.001〜0.05mol%、好ましくはAgの濃度は0.015mol%程度で、Znの濃度は0.0025〜0.05mol%、好ましくはZnの濃度は0.03mol%である。
【0019】
また、ZnSにCu、AlとZnとを共賦活する場合、Cuの濃度は0.001〜0.03mol%、Alの濃度は0.001〜0.03mol%、Znの濃度は0.001〜0.05mol%、であることが好ましいことを見出した。
【0020】
これら蛍光体は、電子によって励起発光させた場合、やや緑がかった青(シアン)色で発光する。すなわち、純粋な青色の波長帯域(410〜465nm)よりもやや長波長帯域(440〜530nm)で発光すると共に、輝度が青色に比べて160%程度まで改善されることを知見した。なお、青色蛍光体(ZnS:Ag)とシアン色蛍光体(ZnS:Cu,Al,Zn)のカソードルミネッセンススペクトルの比較結果の一例を図4に示す。
【0021】
次に、本発明に係るシアン色蛍光体を備えた発光装置の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1は本発明に係るシアン色蛍光体を用いた第1実施形態の発光装置の基本構成図、図2は発光体層を拡大して示す模式図である。なお、図2では、シアン色蛍光体粒子17と赤色蛍光体粒子18とを区別するためにシアン色蛍光体粒子17を赤色蛍光体粒子18よりも大きく示しているが、両者の大小関係はこれに限定されるものではない。
【0023】
図1に示すように、本実施形態における発光装置1は、例えば、平面状の電界放出型白色照明ランプとして用いられる発光装置であり、ガラス基板2,3が所定間隔で対向配置された真空容器4内に、カソード電極5、ゲート電極10、アノード電極15が基底面側から投光面側に向かって順に配置された基本構成を有している。
【0024】
カソード電極5は、基底面となるガラス基板2上に形成された導電材からなり、例えば、アルミニウムやニッケル等の金属を蒸着やスパッタ法等によって堆積したり、銀ペースト材を塗布して乾燥・焼成する等して形成される。このカソード電極5の表面には、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、スピント型マイクロコーン、金属酸化物ウィスカー等のエミッタ材料が膜状に塗布され、冷陰極電子放出源6が形成されている。
【0025】
本形態においては、冷陰極電子放出源6は、所定の領域毎にパターン化され、パターン化された領域(電子放出領域)の周囲に、カソード電極5を覆うカソードマスク7が配置されている。
【0026】
ゲート電極10は、冷陰極電子放出源6から放出された電子を通過させる開口部11を有する平板部材で構成されている。具体的には、ゲート電極10は、例えば、ニッケル材、ステンレス材、アンバー材等の導電性金属板に、冷陰極電子放出源6のパターン領域に対応する複数の開口部11が、単純な機械加工等によって形成されて要部が構成されている。ゲート電極10の開口部11は、例えば、ランド状に形成された冷陰極電子放出源6のパターン領域と同じか若干大きく形成された円孔として形成されている。これにより、冷陰極電子放出源6から放出される略全ての電子を通過させて発光に寄与する有効電子とすることができ、ゲート電極10での電力損失を低減し、無損失ゲートの実現を可能としている。
【0027】
アノード電極15は、投光面となるガラス基板3の裏面側に配置された透明導電膜(例えば、ITO膜)からなり、ゲート電極10(カソード電極5)に対向する面に、冷陰極電子放出源6から放出された電子によって励起発光される発光体層16が形成されている。
【0028】
発光体層16は、励起発光する光の波長帯域が異なる複数種類の蛍光体によって混成され、これら各蛍光体からの励起光の混光によって白色光を生成する。発光体層16は、シアン色光に励起発光するシアン色蛍光体と、このシアン色光と補色関係にある赤色光に励起発光する赤色蛍光体とで混成されている。本実施形態では、シアン色蛍光体として、ZnSにAgとZnとを共賦活した蛍光体、又はZnSにZn、CuとAlとを共賦活した蛍光体のうち、少なくとも一つが用いられている。赤色蛍光体には、硫化カルシウム(CaS)を含む(Ca、Sr)S系の赤色蛍光体が用いられ、この赤色蛍光体は、電子による励起発光により、主として波長帯域が580〜720nmのブロードで赤色光を高い発光効率で発光する。なお、赤色蛍光体としては、前記硫化物系蛍光体の他に、例えば、特開2002−36355号や特開2003−336059号に開示されるサイアロン系蛍光体や、特開2003−96446号に開示されるセリウムイオンを賦活したランタン窒化ケイ素蛍光体、などの他の窒化物系蛍光体を用いてもよい。
【0029】
図2に示すように、発光体層16は、具体的には、シアン色蛍光体が結晶化されてなるシアン色蛍光体粒子17と、赤色蛍光体が結晶化されてなる赤色蛍光体粒子18との混合によって形成されている。この発光体層16の表面上には、各蛍光体粒子17,18が分散されており、これら蛍光体粒子17,18は、真空容器4内において、冷陰極電子放出源6から放出される電子にそれぞれ直接的に曝されるようになっている。
【0030】
なお、発光体層16は、さらに分散材料を含んでいてもよい。この場合、発光体層16に対する分散材料の割合は、5〜25重量%であることが好ましい。
【0031】
このような発光体層16は、例えば、赤色蛍光体溶液とシアン色蛍光体溶液とをスクリーン印刷等によってアノード電極15上に順次塗布し、アニール等の熱工程を経て各蛍光体を結晶化させることにより形成される。その際、各蛍光体溶液の濃度や塗布量、熱工程の条件等を適値に設定し、各蛍光体粒子17,18を所定の粗さでアノード電極15上に配置することにより、両蛍光体粒子17,18を発光体層16の表面上に分散させることができる。
【0032】
そして、例えば、シアン色蛍光体粒子17は、冷陰極電子放出源6から電界放出された電子に直接的に曝されることによって電子励起され、シアン色光GBを発光する。同様に、赤色蛍光体粒子18は、冷陰極電子放出源6から電界放出される電子に直接的に曝されることによって電子励起され、赤色光Rを発光する。これらシアン色光GBと赤色光Rはガラス基板3の投光面側で混色され、これにより、発光装置1は高輝度の白色光Wを効率よく発生する。
【0033】
すなわち、発光体層16の表面上にシアン色蛍光体粒子17及び赤色蛍光体粒子18を分散させたことにより、各蛍光体粒子17,18を電子に直接的に曝すことができ、例えばシアン色蛍光体粒子17と赤色蛍光体粒子18とを個別の層状に重畳させて発光体層を形成した場合等に比べ、シアン色光GB及び赤色光Rの両方を電子励起によって効率よく発光させることができる。
【0034】
本実施形態によれば、さらに赤色蛍光体粒子18は、近隣のシアン色蛍光体粒子17で発光されるシアン色光GBによっても励起され、赤色光Rを発光することができる。この場合、赤蛍光体粒子18は、電子線のみならず、シアン色光GBによっても励起発光するので、電子励起されたシアン色光GBの一部が発光体層16を通過する際に赤色蛍光体粒子18によって遮られた場合においても、当該シアン色光GBを有効利用して赤色光Rの輝度向上を図ることができ、これらシアン色光GBと赤色光Rとの加法混色によって白色光Wが得られている。つまりは、電子線励起によって発光する赤色系蛍光体の赤色光Rにより、シアン色蛍光体がシアン色光GBに励起発光することはないので、そのことを配慮した蛍光体粒子17,18の配置が蛍光体層16の中では必要不可欠である。
【0035】
以上のことにより、青色と黄色との補色関係から白色発光を実現する場合に比べて、不足する赤色領域の赤色成分が白色発光に加味されるため、演色性が向上、適宜所望の色温度の白色発光を実現できる。さらには、上記に黄色の蛍光体(例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系の黄色蛍光体)を加えて発光層を構成してもよい。このことにより、シアン色、赤色、黄色の混色により広い色温度をもった白色発光が可能になり、一般用室内照明としてはほぼ理想的な太陽光に近い人の皮膚の色を再現性することができる。
【0036】
次に、本発明の発光装置の第2実施形態について、図面を参照して説明する。図3は本発明に係るシアン色蛍光体を用いた第2実施形態の発光装置の発光体層を拡大して示す模式図である。なお、本実施形態と上記第1実施形態とは、発光体層16の構成が相違するものであり、他の共通する構成については、その詳細な説明を省略する。また、図3では、シアン色蛍光体粒子17と赤色蛍光体粒子18と黄色蛍光体粒子19とを区別するために蛍光体粒子17,18,19の大きさを相違させているが、三者の大小関係はこれに限定されるものではない。また、第一蛍光体層20、第二蛍光体層21及び第三蛍光体層22の厚さをほぼ等しく図示しているが、各層の厚さについてもこれに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態の発光体層16は、第一蛍光体層20と第二蛍光体層21と第三蛍光体層22とを備える。各蛍光体層20,21,22は、それぞれが単一種類の蛍光体粒子を含む薄膜であり、アノード電極15上を第二蛍光体層21が覆い、その表面上に第三蛍光体層22が積層され、さらにその表面上に第一蛍光体層20が積層されている。すなわち、第一蛍光体層20が最も冷陰極電子放出源側に位置し、第二蛍光体層21が最も反冷陰極電子放出源側に位置し、第三蛍光体層22が第一蛍光体層20と第二蛍光体層21の間に位置する。なお、第二蛍光体層21と第三蛍光体層22の積層順は任意であり、第三蛍光体層22を最も反冷陰極電子放出源側に配置し、第二蛍光体層21を第一蛍光体層20と第三蛍光体層22の間に配置してもよい。
【0038】
第一蛍光体層20は、シアン色蛍光体粒子17を含み、冷陰極電子放出源6から電界放出された電子により励起発光して、第一スペクトル領域(波長帯域:420〜630nm)のシアン色の一次光を放射する。第二蛍光体層21は、赤色蛍光体粒子18を含み、第一蛍光体層20から放射される一次光によって赤色蛍光体粒子18が励起され、第二スペクトル領域(波長帯域:580〜720nm)の赤色の二次光を放射する。第三蛍光体層22は、黄色蛍光体粒子(例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系の黄色蛍光体粒子)19を含み、第一蛍光体層20から放射される一次光によって黄色蛍光体粒子19が励起され、第三スペクトル領域(波長帯域:500〜650nm)の黄色の三次光を放射する。そして、これら一次光と二次光と三次光とが「加法混色の原理」に従って混成されることにより白色発光する。なお、一次光と二次光と三次光との混成による複合出力光の平均演色評価数が80よりも大きくなるように、発光体層16を構成することが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、第一蛍光層20に電子が衝突することによりシアン色光(一次光)が発光され、第1蛍光体層20から放射される一次光によって第二蛍光体層21及び第三蛍光体層22から赤色光(二次光)及び黄色光(三次光)が発光され、シアン色光と赤色光と黄色光が混色されて複合白色出力光が得られるので、上記第1実施形態と同様に、赤色領域の赤色成分が白色発光に加味され、演色性が向上、適宜所望の色温度の白色発光を実現できる。
【0040】
なお、上記各実施形態では、シアン色蛍光体と赤色蛍光体、あるいはシアン色、赤色と黄色を用いて発光体層を形成した一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、色度図から判断して、電子線励起によって発光する青色、緑色、赤色の3色の混色によって白色を実現すればよい。しかし、それだけでは蛍光体の励起が効果的ではなく、白色としての発光輝度が不足することから、さらには電子線励起して発光する各々の色によって、さらには第二と第三の蛍光体、もしくは第二や第三の蛍光体が励起発光するスペクトル(フォトルミネッセンス)との組み合わせによって、色温度が選べる最適な照明用途の白色照明を実現する。
【実施例】
【0041】
実施例として、本特許のシアン色蛍光体および赤色蛍光体の合成法を以下に示すが、これら蛍光体の合成法は特に限定しない。
【0042】
〔実施例1〕
原料について
原料となる硫化亜鉛粉末を石英ボートに充填後、炭化ケイ素炉体中央部に静置して、炉内雰囲気を調整後、所定の温度及び時間で熱処理を行った。硫化亜鉛は、二次粒子径として2〜3μmの大きさをもつ結晶性の高いものと低いものを扱った。また、硫化亜鉛の酸化を防ぐため、炉内は窒素雰囲気(流量:100ml/分)とし、580℃〜1080℃で、2.5時間の熱処理を行った。
【0043】
原料としての硫化亜鉛の結晶相は、一部高温安定型の六方晶系のものが含まれたが、粉末X線回折法により、主として低温安定型の立方晶系のものであることを確認しておいた。しかし、結晶性の違いにかかわらず580℃を超える温度では、粉末X線回折のピークはシャープになり、980℃で、徐々に六方晶系の比率が増大する傾向を示した。また、相転移温度の1020℃以上では、六方晶系のものだけになることがわかった。
【0044】
表1に原料の違いによる比表面積の違いを示す。
【0045】
[表1]
熱処理温度 比表面積(m2/g)
高結晶性試料 低結晶性試料
処理前 13.1 32.2
580℃ 2.8 7.9
680℃ 1.3 5.6
780℃ 0.9 1.7
880℃ 0.7 0.8
980℃ 0.6 0.7
1080℃ 0.2 0.2
【0046】
1020℃を超えると、粒子径は急激に大きくなり、10μm程度に達した。概して、立方晶相に六方晶相が混在することは、色純度を悪くする、或いは粒度分布のバラツキが大きくなる、蛍光体の輝度が低下するなどの問題のあることが指摘されている。
賦活について
硫酸銅(CuSO・5HO)を用いて、硫化亜鉛(ZnS)にCuが所定の割合になるよう秤量、エタノールと共に湿式混合を行った。また、炉内は酸化防止と温度上昇に伴う硫黄成分の減少を考慮し、二硫化炭素の分解に伴う硫黄ガス雰囲気とした。焼成温度としては、880℃〜980℃(立方晶→六方晶の転移温度以下)において、2.5時間の熱処理を行った。
【0047】
拡散反射スペクトルの結果から、980℃焼成から得られた蛍光体では、340nm付近に吸収端が見出された。これは、立方晶相のバンドギャップ3.7eVに相当するものであることが確認できた。蛍光スペクトルの測定より、これら蛍光体では、370nmの励起で、530nm付近に緑色発光が観測できることがわかった。Cu2+濃度を0.005mol%〜0.05mol%へと変化させた結果、0.015mol%付近で輝度は極大値を示した。このことから>0.015mol%では「濃度消光」が生じているものと考えられる。緑色発光するZnSでの発光中心は、Zn2+と置換したCuとS2−の空位とで形成されるものと考えられる。
【0048】
従って、シアン色蛍光体においてAl3+イオンを共賦活することは、Cuの安定性に寄与する。結果的には、Al3+は約0.02mol%が最適濃度であることがわかった。これを超えるとオージェ効果により濃度消光を起していることが確認できた。
【0049】
〔実施例2〕
硫化亜鉛の結晶性の向上及び粒成長、さらには六方晶相の成長を抑制する目的で、融剤(フラックス)を用いた。フラックスとして、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩などを数〜10%(最適値は約1mol%)硫化亜鉛原料もしくは、例えば実施例2で得た蛍光体などに加えた。これを、所定比秤量した後、エタノールと共に湿式混合し、乾燥させたものを調整した。炉内は酸化防止のため窒素雰囲気とし、680〜1080℃で2.5時間の熱処理を行った。フラックスとして次の化合物を用いた。
【0050】
NaCl,NaBr,KCl、KBr、KI,LiCl,MgCl,CaCl、SrCl,BaCl,NaCO,KCO,NaSO,ZnCl,AlCl,CuCl,CuSO,Cu(CHCO,AgClの19種類である。
【0051】
結果的に、融点が熱処理温度より高い硫化物を作るアルカリ土類金属を含むBaClやSrClなどに蛍光体の粒成長が顕著であった。また、アルカリ金属を含むNaCl,NaBr,KCl、KBr、KI,LiClと、NaCO,KCO,NaSOとを比較すると、いずれを用いても蛍光体の粒成長は認められるが、塩化物に比べると他の塩では、分散性が悪く粒子が一部焼結・凝集し易い傾向を示した。上記のフラックスは、フラックスの機能である粒成長の点から言えば問題ないが、いずれも六方晶相の成長を抑制する効果は確認できなかった。
【0052】
一方、CuCl,CuSO,Cu(CHCOについては、処理温度を1080℃に上げても、六方晶相の生成はなかった。同じくAgClについてもほぼ同じ効果を得た。従って、これらは、フラックス(多少フラックスの効果は期待できるが)というより、発行中心の賦活方法として最適であることがわかった。
【0053】
従って、本発明で作製する蛍光体の賦活は、賦活元素を含む塩とアルカリ土類金属を含むフラックスとの組み合わせによって行い、賦活条件(焼成温度、時間、量など)の精密制御を行うことで完成した。
【0054】
〔実施例3〕
赤色蛍光体であるCaS:Eu2+あるいは(Ca,Sr)S:Eu2+については、実施例1や実施例2と同様に、あらかじめ母結晶となるCaSあるいは(Ca,Sr)Sを、アルカリ土類金属酸化物または炭酸塩の硫化による方法、ないしは硫酸塩の還元による方法により作製した。
【0055】
次いで、この母結晶原料に2価のEuイオンを含む化合物、例えばEuSを0.1〜0.4mol%加え、これをアルミナボートに充填する。次いで、アルミナ反応管内にこのボートを配置し、アルゴン+H(4%)ガスを導入して、850〜1150℃で2.0時間の熱処理を行った。さらには、フラックスとしてKClなどのアルカリを含む塩を加えて、粒成長させることにより、3〜10μmの蛍光体粒子を作製した。このカソードルミネッセンススペクトルの結果を青色蛍光体のそれと併せて図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1実施形態の発光装置の基本構成図である。
【図2】第1実施形態の発光体層を拡大して示す模式図である。
【図3】第2実施形態の発光体層を拡大して示す模式図である。
【図4】青色蛍光体(ZnS:Ag)とシアン色蛍光体(ZnS:Cu,Al,Zn)のカソードルミネッセンススペクトルの比較を示す図である。
【図5】青色蛍光体と赤色蛍光体(CaS:Eu)のカソードルミネッセンスの結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 … 発光装置
2,3 … ガラス基板
4 … 真空容器
5 … カソード電極
6 … 冷陰極電子放出源
7 … カソードマスク
10 … ゲート電極
11 … 開口部
15 … アノード電極
16 … 発光体層
17 … シアン色蛍光体粒子
18 … 赤色蛍光体粒子
19 … 黄色蛍光体粒子
20 … 第一蛍光体層
21 … 第二蛍光体層
23 … 第三蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極電子放出源を有するカソード電極と、
前記冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の蛍光体により混成された発光体層を有するアノード電極と、を真空容器内に備え、
前記各種類の蛍光体は、各励起光の混光によって白色光を生成する関係を有し、前記発光体層の表面上にそれぞれが分散されているとともに、
前記発光体層は、シアン色に励起発光する第一の蛍光体と、赤色に励起発光する第二の蛍光体とで混成されている
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置であって、
前記第一の蛍光体は、ZnSにAgとZnとを共賦活して成るシアン色蛍光体である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1に記載の発光装置であって、
前記第一の蛍光体は、ZnSにZn、Cu及びAlを共賦活して成るシアン色蛍光体である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の発光装置であって、
前記第二の蛍光体は、CaSにEu2+を含む赤色蛍光体である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の発光装置であって、
前記第二の蛍光体は、(Ca、Sr)SにEu2+を含む赤色蛍光体である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の発光装置であって、
前記発光体層は、前記第一の蛍光体と、前記第二の蛍光体と、第三の発光体とで混成され、
前記第三の蛍光体は、黄色に励起発光するCe3+賦活イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を含む黄色蛍光体である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の発光装置であって、
少なくとも何れか1種類の前記蛍光体は、他の種類の前記蛍光体からの励起光によっても励起発光する特性を有する
ことを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の発光装置であって、
前記発光体層が、さらに分散材料を含み、
前記分散材料が前記発光体層の5〜25重量%を占める
ことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
冷陰極電子放出源を有するカソード電極と、
発光体層を有するアノード電極と、を真空容器内に備え、
前記発光体層は、前記冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光して第一スペクトル領域のシアン色の一次光を放射する特性を有する第一蛍光体層と、前記第一蛍光体層から放射される一次光によって第二スペクトル領域の赤色の二次光を放射する特性を有する第二蛍光体層と、前記第一蛍光体層から放射される一次光によって第三スペクトル領域の三次光を放射する特性を有する第三蛍光体層とから構成され、
前記一次光と前記二次光と前記三次光とが「加法混色の原理」に従って混成されることにより白色発光する
ことを特徴とする発光装置。
【請求項10】
請求項9に記載の発光装置であって、
前記一次光と前記二次光と前記三次光との混成による複合出力光が80よりも大きい平均演色評価数を有する
ことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−252520(P2009−252520A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98701(P2008−98701)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】