説明

発情検出装置

【課題】農家が面倒な作業を行うことなく、横臥・起立行動パターンから牛の発情を正確に検出可能な低コストの発情検出装置を提供する。
【解決手段】牛床101に設置した安価な温度センサ1と、温度センサ1に接続されたコントローラ2とを備え、コントローラ2において、所定期間中に温度センサ1により所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて牛の横臥・起立行動パターンを検出し、検出した横臥・起立行動パターンに基づいて牛の発情の有無を判定することにより、何らかのセンサを牛の体に取り付ける必要をなくし、より自然な横臥・起立行動パターンに基づき牛の発情を正確に検出することができるようにするとともに、発情を検出したい牛を繋ぎ飼い牛房100に連れてくるだけで余計な作業は行わなくても済むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発情検出装置に関し、特に、牛の横臥・起立行動パターンをモニタリングして発情を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乳牛の繁殖成績が低下しており、酪農経営を悪化させる要因として全国的に問題となっている。繁殖成績を改善するためには、牛の発情を的確に発見する必要がある。ところが、発情の兆候が従来よりも微弱化しているため、発情の発見が難しくなっている。また、観察に十分な時間を当てることも困難な現状にあり、牛の発情を簡易に発見する技術が求められている。
【0003】
従来、歩数計を用いた歩数のモニタリングによる発情検出装置(例えば、特許文献1〜3参照)や、発情牛に対する他の牛の乗駕行動のモニタリングによる発情検出装置(例えば、特許文献4,5参照)が提案され、現在では市販もされている。ところが、これらの発情検出装置は、牛の行動が制限される繋ぎ飼いでは利用できないという問題があった。
【0004】
これに対し、牛の横臥状態と起立状態とをセンサによって検出し、それぞれの状態になっている時間または回数をモニタリングすることによって発情を検出するようにした装置が提案されている(例えば、特許文献6,7参照)。これは、牛の横臥・起立行動パターンが発情時とそうでない時とで変わるという性質に着目したものである。このタイプの発情検出装置であれば、繋ぎ飼いの牛に利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−22760号公報
【特許文献2】特開2003−189751号公報
【特許文献3】特開平6−141385号公報
【特許文献4】特開2004−57069号公報
【特許文献5】特開平11−332411号公報
【特許文献6】特開2006−75090号公報
【特許文献7】特表2008−538918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献6,7に記載の従来技術では、センサを牛の体に取り付ける必要がある。ところが、牛は異物を装着されると嫌がり、体を周囲の壁などにこすりつけたり、異物をしっぽで叩き落とそうとしたりして、自然な行動を示さなくなる。そのため、牛の横臥・起立行動パターンが不自然なものとなり、発情を正確に検出できないという問題があった。
【0007】
また、特許文献6,7に記載の従来技術では、発情を検出したい牛を繋ぎ飼い牛房に入れる際に、センサを牛に装着する必要があり、その作業が非常に面倒であるという問題もあった。さらに、特許文献6ではセンサとして高価なRFIDを用い、特許文献7では特殊なセンサを用いているため、設備に多くのコストかかってしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、農家がセンサを牛に取り付けるといった面倒な作業を行うことなく、横臥・起立行動パターンから牛の発情を正確に検出可能な低コストの発情検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、繋ぎ飼い牛房の床面に設置した温度センサと、温度センサに対して有線または無線で接続されたコントローラとを備え、コントローラは、所定期間中に温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて牛の横臥・起立行動パターンを検出し、検出した横臥・起立行動パターンに基づいて牛の発情の有無を判定するようにしている。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明によれば、牛床に設置された温度センサにより検出される温度に基づいて牛の発情が検出されるので、センサを牛の体に取り付ける必要がない。そのため、牛がセンサの装着を嫌がって不自然な行動をしなくなり、より自然な横臥・起立行動パターンに基づき牛の発情を正確に検出することができるようになる。
【0011】
また、センサを牛に装着する必要がないので、発情を検出したい牛を、温度センサがあらかじめ設置された繋ぎ飼い牛房に連れてくるだけで済み、作業が非常に簡単になる。さらに、使用するセンサは温度センサであって安価なので、設備にかかるコストも低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態による発情検出装置の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態による発情検出装置が備えるコントローラの機能構成例を示すブロック図である。
【図3】牛の横臥・起立行動と牛床温度の変化との関係を示す図である。
【図4】本実施形態の起立時間算出部による総起立時間の算出例を示す図である。
【図5】平常時と発情時の横臥・起立行動パターンの違いを示す図である。
【図6】発情日前後における総起立時間の変化を示す図である。
【図7】本実施形態の温度センサを保護するための構成例を示す図である。
【図8】横臥・起立の判定基準とする閾値の設定法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態による発情検出装置の構成例を示す図である。図2は、本実施形態による発情検出装置が備えるコントローラの機能構成例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の発情検出装置は、繋ぎ飼い牛房100の床面(以下、牛床101と記す)に設置した温度センサ1と、温度センサ1に対して配線3で接続されたコントローラ2とを備えている。繋ぎ飼い牛房100の大きさは、牛が1頭入る程度の大きさである。温度センサ1は、牛床101に敷設した牛床マット4のほぼ中央に設置されている。コントローラ2は、報知ランプ24を備えている。なお、ここでは温度センサ1とコントローラ2との間を有線で接続する例を示しているが、無線で接続するようにしても良い。
【0015】
図2に示すように、本実施形態のコントローラ2は、その機能構成として、行動パターン検出部21、発情判定部22および報知部23を備えている。行動パターン検出部21は、繋ぎ飼い牛房100にいる牛の横臥・起立行動パターンを検出するものであり、具体的には、温度検出部21a、横臥・起立判定部21bおよび起立時間算出部21cにより構成されている。
【0016】
行動パターン検出部21、発情判定部22および報知部23は、ハードウェア構成、DSP、ソフトウェアの何れによっても実現することが可能である。例えばソフトウェアによって実現する場合、上述の各機能構成21〜23は、実際にはコンピュータのCPUあるいはMPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。
【0017】
行動パターン検出部21の温度検出部21aは、所定期間中に温度センサ1より出力される牛床101の温度を所定インターバル毎に検出する。牛床温度を検出する対象の所定期間(以下、モニタリング時間帯という)は、毎日24時間の全てでもよいが、農家が牛の世話をしなくなる時間帯(例えば、午後7時から翌朝5時までの時間帯)とするのが好ましい。牛が農家の作業に影響されず自然に横臥・起立の行動パターンをとる可能性が高いからである。
【0018】
温度検出部21aは、例えばモニタリング時間帯を任意に設定するための機能を備えてもよい。この場合、温度検出部21aは、設定されたモニタリング時間帯になると自動的に牛床温度の検出を行い、モニタリング時間帯から外れると自動的に牛床温度の検出を停止する。決められたモニタリング時間帯のときだけ温度検出部21aを動作させることにより、コントローラ2での無駄な電力消費をなくすことができる。
【0019】
横臥・起立判定部21bは、モニタリング時間帯に温度検出部21aにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、牛床温度の上昇への変化点および下降への変化点を検出する。そして、横臥・起立判定部21bは、牛床温度の上昇への変化点を検出してから下降への変化点を検出するまでの間を牛が横臥状態にあると判定する。一方、牛床温度の下降への変化点を検出してから上昇への変化点を検出するまでの間を牛が起立状態にあると判定する。
【0020】
図3は、牛の横臥・起立行動と牛床温度の変化との関係を示す図である。図3に示すように、牛が横臥すると牛床101が牛の体温で温められて温度上昇し、牛が起立すると牛床101の温度は下降する。本実施形態では、このような傾向のある牛床温度を、牛床101に設置した温度センサ1により検出している。すなわち、牛が横臥状態のときは牛の体温により温度センサ1が温められて検出温度が上昇し、牛が起立状態のときは温度センサ1の検出温度が下降する。
【0021】
つまり、牛が横臥すると、その時点から温度センサ1(温度検出部21a)により検出される牛床温度が上昇し始める。一方、牛が起立すると、その時点から温度センサ1(温度検出部21a)により検出される牛床温度が下降を始める。これにより、横臥・起立判定部21bは、牛床温度の上昇への変化点および下降への変化点を検出することにより、牛が横臥状態にあるか起立状態にあるかを判定することができる。
【0022】
上述した温度検出部21aにおいて牛床温度を検出する時間間隔である所定インターバルは、横臥・起立判定部21bにおいて牛の横臥状態および起立状態を判定するのが容易となる時間間隔、すなわち、牛床温度の上昇への変化点および下降への変化点を検出しやすい時間間隔に設定する。時間間隔が短すぎると、外気温の変化や横臥状態にある牛の姿勢の変化などに因る牛床温度の微小な変化も検出されてしまい、ノイズが多くなってしまう。逆に、時間間隔が長すぎると、温度変化が生じ始めたタイミングを正確に捉えられなくなってしまう。したがって、牛床温度を検出する所定インターバルは、短すぎもせず長すぎもしない適当な時間間隔に設定することが好ましい。
【0023】
所定インターバルを適当な値に設定すれば、温度検出部21aにより検出される牛床温度は、概ね図3のようなカーブを描いて変化するようになる。ただし、外気温の変化や横臥状態にある牛の姿勢の変化などに因る牛床温度の微小な変化を完全に除去し切れるわけではない。すなわち、適切に設定した所定インターバル毎に検出される牛床温度でも、マクロ的には上昇しているときでもミクロ的にみると微小に下降している部分や、マクロ的には下降しているときでもミクロ的にみると微小に上昇している部分がある。それらの微小な変化点を全て横臥の開始点および起立の開始点として検出してしまうと、発情の有無を正確に判定することが難しくなってしまう。
【0024】
そこで、横臥・起立判定部21bは、牛床温度の微小な変化点を横臥・起立の開始点として検出しないようにするために、温度検出部21aにより所定インターバル毎に検出される牛床温度の変化の割合(例えば、直前の検出温度と今回の検出温度との差分)が所定の閾値以上の場合にだけ、それを横臥・起立の開始点として検出する。または、所定インターバル毎に牛床温度が検出されるたびに、現在の検出温度および過去複数回分の検出温度の平均値を算出し、その平均値が所定の閾値以上(または所定の割合以上)大きく変化した場合にだけ、それを横臥・起立の開始点として検出するようにしてもよい。さらに、所定インターバル毎に検出される牛床温度が所定回数連続して増加または減少した場合に、増加または減少を始めた時点を横臥・起立の開始点として検出するようにしてもよい。
【0025】
起立時間算出部21cは、横臥・起立判定部21bによる判定の結果に基づいて、牛が起立状態にあるときの総時間である総起立時間を算出する。図4は、起立時間算出部21cによる総起立時間の算出例を示す図である。図4に示すように、起立時間算出部21cは、午後7時から翌朝5時までのモニタリング時間帯中に横臥・起立判定部21bにより断続的に検出された起立状態にある時間を合計することによって、総起立時間を算出する。この総起立時間が、行動パターン検出部21により検出する牛の横臥・起立行動パターンに相当する。
【0026】
発情判定部22は、行動パターン検出部21により検出された牛の横臥・起立行動パターンに基づいて、牛の発情の有無を判定する。具体的には、発情判定部22は、起立時間算出部21cにより算出された総起立時間に基づいて牛の発情の有無を判定する。以下に詳しく説明するように、牛は発情すると、そうでない平常時よりも頻繁に横臥と起立とを繰り返すようになり、総起立時間が有意に長くなる。したがって、この総起立時間が平常よりも長くなったかどうかをみることにより、牛の発情の有無を判定することが可能である。
【0027】
図5は、平常時と発情時の横臥・起立行動パターンの違いを示す図であり、実際に牛床温度を測定した結果を示している。図5に示すように、発情時には、平常時よりも頻繁に横臥と起立とが繰り返され、起立時間算出部21cにより算出される総起立時間が平常時よりも有意に長くなる。図6は、発情日前後における総起立時間の変化を示す図であり、実際に測定した結果を示している。図6に示すように、発情日の前夜から早朝にかけて総起立時間が増加している。したがって、牛床温度の測定結果を利用して牛の総起立時間をモニタリングすることにより、牛の発情を事前に発見することが可能である。
【0028】
例えば、発情判定部22は、モニタリング時間帯における総起立時間が所定の閾値より長くなったときに、牛が発情していると判定する。ただ、牛にも個体差があるので、固定の閾値を用いるのではなく、総起立時間が前日比で所定割合(例えば30%)以上長くなったときに、牛が発情していると判定するようにしてもよい。なお、発情と判定する基準となる増加の割合(30%という値)を任意に設定できるようにしてもよい。
【0029】
なお、図6から分かるように、発情日当日では、その前日から比べて総起立時間が大幅に減少している。したがって、総起立時間が前日比で所定割合以上短くなったときに牛が発情していると判定することも可能である。ただし、モニタリング時間帯を午後7時から翌朝5時に設定している関係上、発情を発見できるのが発情日翌朝の5時となり、人工受精のタイミングが実際の発情日から1日遅れてしまう。よって、前日比で所定割合以上長くなったときに牛が発情していると判定する方が好ましい。
【0030】
また、ここでは牛の横臥・起立行動パターンとして、牛の起立時間に注目したが、逆に横臥時間に注目して発情の有無を判定するようにしても良い。すなわち、発情時に総起立時間が有意に長くなるということは、総横臥時間が有意に短くなるということでもある。そこで、起立時間算出部21cの代わりに横臥時間算出部を設け、モニタリング時間帯中に牛が横臥状態にあるときの総時間である総横臥時間を算出してもよい。
【0031】
この場合、発情判定部22は、総横臥時間に基づいて牛の発情の有無を判定する。例えば、発情判定部22は、モニタリング時間帯における総横臥時間が所定の閾値より短くなったときに、牛が発情していると判定する。または、発情判定部22は、総横臥時間が前日比で所定割合以上短くなったときに、牛が発情していると判定する。ただし、図5から分かるように、総起立時間の方が総横臥時間よりも短いため、総起立時間の方が、平常時と発情時との変化の割合が大きくなる。よって、総起立時間を利用した方が発情の判定を行いやすく、誤判定も少なくなる点で好ましい。
【0032】
また、図5から分かるように、発情時は平常時に比べて起立回数が多くなる。そこで、総起立時間を測定して発情の有無を判定するのではなく、総起立回数を測定して発情の有無を判定するようにしても良い。すなわち、起立時間算出部21cの代わりに起立回数測定部を設け、モニタリング時間帯中に温度検出部21aにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、牛が起立状態になった総回数である総起立回数を求める。
【0033】
この場合、発情判定部22は、総起立回数に基づいて牛の発情の有無を判定する。例えば、発情判定部22は、モニタリング時間帯における総起立回数が所定の閾値より多くなったときに、牛が発情していると判定する。または、発情判定部22は、総起立回数が前日比で所定割合以上多くなったときに、牛が発情していると判定する。なお、総起立回数とは逆に、モニタリング時間帯中に牛が横臥状態になった総回数である総横臥回数に基づいて牛の発情の有無を判定するようにしてもよい。
【0034】
報知部23は、発情判定部22により牛が発情していると判定されたときに、そのことを農家に報知する。例えば、報知部23は、報知ランプ24を点灯させることによって、牛が発情していることを農家に報知する。モニタリング時間帯が午後7時から翌朝5時に設定されているので、報知ランプ24の点灯は朝5時直後に行われる。農家は報知ランプ24が点灯しているのを見て、その日(発情日)の昼間に人工受精を行う。
【0035】
ところで、温度センサ1は牛床101に設置されるため、牛に踏み潰されてしまう危険性がある。本実施形態では、温度センサ1が牛に踏み潰されないようにするための工夫もしている。図7は、温度センサ1を保護するための構成例を示す図である。
【0036】
図7に示すように、本実施形態では、内部に所定高さの中空部11aを有する容器11と、当該中空部11aの所定高さとほぼ同じ厚みを有する牛床マット4とを備えている。容器11は、中空部11aの一方端が開放され、他方端が平板11bにより閉じられている。牛床マット4には、そのほぼ中央に切り欠き部が形成されており、当該切り欠き部に容器11が嵌合するようになっている。図7に示すように、容器11は中空部11aの開放端が下を向くように嵌合され、平板11bが牛床マット4の表面側に露出するようになっている。
【0037】
温度センサ1は、容器11が有する中空部11aの中に、容器11(具体的には、平板11bの裏面)と接するように設けられている。例えば、平板11bの裏面に温度センサ1を接着し、当該温度センサ1をシリコングリス12で封止する。温度センサ1とコントローラ2とを接続する配線3は、中空部11aの開放端から牛床マット4の裏側(地面側)を通して敷設する。
【0038】
温度センサ1により測定される牛床温度は、牛が起立状態にあるとき、外気温の影響を受けて緩やかに上昇したり、緩やかに下降したりする。このような温度上昇や温度下降を牛の体温によるものと明確に区別するためには、牛の横臥・起立による温度上昇カーブや温度下降カーブをできるだけシャープにする必要がある。このためには、容器11(平板11b)から温度センサ1までの熱伝導率を大きくし、容器11(平板11b)の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0039】
まず、容器11から温度センサ1までの熱伝導率を大きくするために、容器11(少なくとも平板11bの部分)を熱伝導率の大きい金属性の材料で構成するのがよい。また、熱伝導が分散しないようにするために、容器11の周囲にある牛床マット4は、熱伝導率の小さい非金属性の材料で構成するのがよい。さらに、平板11bは、牛に踏まれても容易に変形したり潰れたりしないようにするため、数百キロの押圧力にも耐え得る硬度を有する必要がある。例えばステンレス鋼は、熱伝導率が大きく、数百キロの押圧力にも耐え得る硬度を有する点で利用可能である。
【0040】
一方、容器11(平板11b)の熱容量を小さくするために、平板11bの面積をできるだけ小さくするのがよい。平板11bの面積を小さくしても、図1に示したように平板11bが牛床101のほぼ中央にくるように牛床マット4を敷設すれば、牛が横臥状態にあるときは必ず牛の体が平板11bに当接するようになる。平板11bを円形で形成した場合、半径が数センチもあれば牛の体は必ず平板11bに当接する。しかも、半径が数センチ程度の小さい面積で平板11bを形成できるので、熱容量も小さくすることができる。
【0041】
なお、図7に示した容器11の構成は単なる一例を示したものであって、これに限定するものではない。例えば、中空部11aの一方端が全面的に開放されている必要はなく、少なくとも配線3を通す穴が開いていれば十分である。また、牛床マット4は、1枚のマットのほぼ中央に容器11が嵌合する穴を切り欠き部として形成したものであってもよいし、切り欠き部を有する2枚のマットで容器11を左右から挟み込むように形成したものであってもよい。
【0042】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、牛床101に設置した温度センサ1と、温度センサ1に接続されたコントローラ2とを備え、コントローラ2において、所定期間中に温度センサ1により所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて牛の横臥・起立行動パターンを検出し、検出した横臥・起立行動パターンに基づいて牛の発情の有無を判定するようにしている。
【0043】
このように構成した本実施形態の発情検出装置によれば、牛床101に設置された温度センサ1により検出される牛床温度に基づいて牛の発情が検出されるので、何らかのセンサを牛の体に取り付ける必要がない。そのため、牛がセンサの装着を嫌がって不自然な行動をしなくなり、より自然な横臥・起立行動パターンに基づき牛の発情を正確に検出することができるようになる。
【0044】
また、センサを牛に装着する必要がないので、発情を検出したい牛を、温度センサ1があらかじめ設置された繋ぎ飼い牛房100に連れてくるだけで済み、農家の作業が非常に簡単になる。さらに、使用するセンサは温度センサ1であって安価なので、設備にかかるコストも低く抑えることができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、牛床温度の上昇への変化点および下降への変化点を検出して牛が横臥状態にあるか起立状態にあるかを判定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、行動パターン検出部21は、モニタリング時間帯中に温度検出部21aにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、牛床温度が所定の閾値より大きいときを牛が横臥状態にあると判定し、牛床温度が所定の閾値以下のときを牛が起立状態にあると判定するようにしてもよい。
【0046】
このようにする場合も、牛の体温に個体差があること、起立状態のときに温度センサ1により測定される牛床温度が外気温の影響を受けることを考慮して、閾値を可変とするのが好ましい。例えば、牛の体温と外気温との中間温度を閾値として動的に設定するようにしてもよい。具体的には、図8に示すように、モニタリング時間帯中に温度センサ1により測定される牛床温度のそれまでの最大値を牛の体温とみなす。また、モニタリング時間帯中に温度センサ1により測定される牛床温度のそれまでの最小値を外気温とみなす。そして、この牛の体温と外気温との中間温度を閾値として設定し、牛床温度が閾値より大きいときは横臥状態、閾値以下のときは起立状態と判定する。
【0047】
このようにすれば、個体差のある牛の体温や外気温に応じて、横臥・起立の判定基準となる閾値を動的に変更することができる。これにより、冬の寒い時期に行う場合も、夏の暑い時期に行う場合も、どの牛に対してもより正確に発情の判定を行うことが可能となる。
【0048】
なお、図8において、閾値1は、牛の体温と外気温とのちょうど真ん中の値を閾値として設定したものである。この場合、実際には牛が起立しているものの、その起立時間が短くて牛床温度が閾値1以下まで下降せず、その後の横臥によって牛床温度が上昇してしまっている部分が2ヶ所ある。この2ヶ所では、牛の起立状態を検出できず、横臥したままであると誤判定しまうことになる。このような不都合を回避するために、牛の体温と外気温との間で、できるだけ牛の体温に近い温度を閾値として設定するのが好ましい。閾値2は、牛の体温と外気温との温度差を1:3に内分する温度(外気温よりも上記温度差の3/4だけ高い温度)を閾値として設定したものである。このようにすれば、上記2ヶ所でも牛が起立していると判定することができる。
【0049】
ただ、図8からも分かる通り、牛床温度と閾値との比較により横臥・起立を判定する方法では、牛の起立時間(または横臥時間)を正確に測定することができない。よって、行動パターン検出部21にて牛の起立回数(または横臥回数)を測定し、発情判定部22にて当該起立回数(または横臥回数)に基づいて発情の有無を判定する必要がある。これに対して、上述した牛床温度の変化点を検出する方法では、牛が横臥している時間帯と起立している時間帯とを正確に検出することができる。すなわち、牛の横臥・起立行動パターンをより正確に検出できる点で、牛床温度と閾値との比較により横臥・起立の判定を行う方法よりも好ましい。
【0050】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 温度センサ
2 コントローラ
3 配線
4 牛床マット
11 容器
21 行動パターン検出部
21a 温度検出部
21b 横臥・起立判定部
21c 起立時間算出部
22 発情判定部
23 報知部
24 報知ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繋ぎ飼い牛房の床面に設置した温度センサと、
上記温度センサに対して有線または無線で接続されたコントローラとを備え、
上記コントローラは、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、上記繋ぎ飼い牛房にいる牛の横臥・起立行動パターンを検出する行動パターン検出部と、
上記行動パターン検出部により検出された牛の横臥・起立行動パターンに基づいて、牛の発情の有無を判定する発情判定部とを備えたことを特徴とする発情検出装置。
【請求項2】
上記行動パターン検出部は、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、牛が横臥状態にあるときの総時間である総横臥時間または起立状態にあるときの総時間である総起立時間を求め、
上記発情判定部は、上記行動パターン検出部により求められた総横臥時間または総起立時間に基づいて牛の発情の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の発情検出装置。
【請求項3】
上記行動パターン検出部は、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、牛が横臥状態になった総回数である総横臥回数または起立状態になった総回数である総起立回数を求め、
上記発情判定部は、上記行動パターン検出部により求められた総横臥回数または総起立回数に基づいて牛の発情の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の発情検出装置。
【請求項4】
上記行動パターン検出部は、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、上記牛床温度の上昇への変化点および下降への変化点を検出し、上記牛床温度の上昇への変化点を検出してから上記牛床温度の下降への変化点を検出するまでの間を牛が横臥状態にあると判定し、または、上記牛床温度の下降への変化点を検出してから上記牛床温度の上昇への変化点を検出するまでの間を牛が起立状態にあると判定することを特徴とする請求項2または3に記載の発情検出装置。
【請求項5】
上記行動パターン検出部は、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて、上記牛床温度が閾値より大きいときを牛が横臥状態にあると判定し、または、上記牛床温度が閾値以下のときを牛が起立状態にあると判定することを特徴とする請求項3に記載の発情検出装置。
【請求項6】
上記行動パターン検出部は、所定期間中に上記温度センサにより所定インターバル毎に検出される牛床温度に基づいて牛の体温と外気温とを推定し、当該推定した牛の体温と外気温との中間温度を上記閾値として設定するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の発情検出装置。
【請求項7】
熱伝導率の大きい金属性の容器であって、内部に所定高さの中空部を有する容器と、
上記所定高さと略同じ厚みを有し、上記容器が嵌合する切り欠き部が形成されて成る非金属性の牛床マットとを更に備え、
上記温度センサは、上記容器が有する上記中空部の中に上記容器と接するように設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の発情検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−45284(P2011−45284A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196029(P2009−196029)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)