説明

発泡体の検査方法

【課題】 本発明の目的は、発泡体の内部欠陥を非破壊で検出する検査方法を提供することである。非破壊検査の方法として一般に超音波が用いられるが、フィルム層と空気層から成り立っている発泡体は、フィルム層と空気層の界面で超音波が反射されるため、超音波は透過できず有効な検査方法がなかった。
【解決手段】 バースト波超音波もしくはチャープ波超音波は発泡体を透過するので、非破壊検査の超音波として使用することにより、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡体の内部欠陥を非破壊で検出する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡体製品の内部には、製造過程で空隙が発生したり、ビーズ法による型内発泡法により成形された発泡体ではビーズ同士が融着していない融着不良と呼ばれる欠陥が発生する場合がある。 これら製品内部に発生している欠陥は、製品を割って検査しないと発見が困難であるため、客先で発泡体を使用する際に初めて発見されることになる。
【0003】
この問題に対して、発泡体製造メーカーの工場では、抜き取り検査、すなわち、適当な時間間隔で製品を抜き取り、それら製品を割って製品内部の欠陥をチェックする検査が行われており、欠陥品があれば、欠陥が発生しないように製造工程の条件調整を行っている。
検査に用いた製品は、製品として通用しないために廃棄され、その費用の発生が問題である。
また、製品検査の頻度を上げられないので、きめ細かな工程管理が難しい。そのため、製造工程の条件は、余裕を持った安全サイドに設定されることになる。その結果、過剰な加熱、過剰な冷却、過剰な成型時間で製造することになり、生産性の低下、エネルギー効率の低下を招くことになる。
従って、発泡体を生産する工場では、製品を破壊せず、内部欠陥を検査する装置が必要とされてきた。
【0004】
発泡体の内部欠陥を検査する方法としては、軟X線を用いる装置が考えられるが、高価であり、放射線被爆に対する対策も必要となるので、発泡体の製造工場への導入は困難である。また、ビーズ法による型内発泡成型法で発生する融着不良は、喩え成形体の内部の画像が見えたとしてもビーズ同士が融着しているのか接しているだけなのか識別できないため、軟X線は有効ではない。
【0005】
そこで、超音波探傷器の応用も試みられているが、従来の超音波探傷器に用いられてきた超音波はパルス波であり、パルス波超音波の大半は、発泡体の基材と空隙の界面において反射され、成形体の内部に透過しないため、内部欠陥の検出は困難であった。
これに対して、特許文献1に記載されているように、特殊な条件下では、超音波が成形体の内部に透過する場合がある。ただし、測定対象が表皮を有する発泡体に限られ、かつ、超音波を発信、受信するプローブを密着させるなど、特殊な測定条件に限られ、実用性の低いものであった。
【0006】
従って、発泡体の内部欠陥を非破壊で検出する適当な検査方法はなく、その開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−187024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、発泡体の内部欠陥を比較的安価でかつ安全に検出できる検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に関して鋭意検討した結果、比較的周波数の低いバースト波超音波やチャープ波超音波を用い発泡体サンプルを透過する超音波の透過率を検出することにより、発泡体内部の欠陥を検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] 発泡体の内部欠陥を非破壊で検出する検査方法であって、
発泡体に向けてバースト波超音波もしくはチャープ波超音波を発信し、発泡体を透過した該超音波を受信して、透過した該超音波の強度の減衰率から発泡体の内部欠陥を検出することを特徴とする、発泡体の非破壊検査方法、
[2] 超音波の発信および受信探触子が、検査対象の発泡体に対し非接触であることを特徴とする、[1]記載の発泡体の非破壊検査方法、
[3] バースト波超音波もしくはチャープ波超音波の周波数が、16kHz〜200kHzのいずれかであることを特徴とする、[1]または[2]記載の発泡体の非破壊検査方法、
[4] バースト波超音波もしくはチャープ波超音波の周波数が、30kHz〜150kHzのいずれかであることを特徴とする、[1]または[2]記載の発泡体の非破壊検査方法、
[5] 発泡体が、熱可塑性樹脂を基材樹脂とするビーズ法による型内発泡成型法により成型された発泡体であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の発泡体の非破壊検査方法、および
[6] 発泡体の内部欠陥が、原料発泡ビーズの融着不良であることを特徴とする、[5]記載の発泡体の非破壊検査方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非破壊検査法のように、バースト波超音波もしくはチャープ波超音波を発泡体に向けて発信し、発泡体を透過した超音波を受信することにより、得られる透過した超音波の強度の減衰率から、発泡体の内部欠陥を検出することができる。
【0012】
本発明の非破壊検査により、従来困難であった発泡体の内部欠陥を、比較的安価でかつ安全に検出できる、非破壊検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施態様に係る検査装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施態様に係る、探触子の配置を示す図である。
【図3】本発明の別の実施態様に係る、探触子の配置を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係る融着率と透過波のエコー高さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発泡体の非破壊検査法は、バースト波超音波もしくはチャープ波超音波を発泡体に向けて発信し、発泡体を透過した超音波を受信することにより、得られる透過した超音波の強度の減衰率から、発泡体の内部欠陥を検出することを特徴とする発泡体の非破壊検査方法である。
【0015】
バースト波超音波やチャープ波超音波とは、超音波の一種であり、バースト波とは同じ周波数のパルス波を複数回繰り返すものであり、チャープ波はパルス波の周波数を変化させる(すなわち、変調させる)ものであり、例えば、特開2009−276319号公報に記載されている。
【0016】
バースト波超音波もしくはチャープ波超音波を非破壊検査方法に応用すると、SN比に優れる特徴があるため、一般の超音波では困難であった発泡体を透過させることが可能になる。
一般に、受信探触子から得られる信号には、ノイズが含まれる。信号(Signal)とノイズ(Noise)の比はSN比と表現される。ここで、SN比が低いと、意味のある信号がノイズに埋もれてしまい測定できないことを意味している。
【0017】
すなわち、発信探触子から発せられた超音波は、発泡体を通過することにより減衰するが、限度を超えて微弱な信号になるとノイズと区別できなくなり、測定ができなくなる。ノイズは、不規則に発生する電気信号であるが、一般に計測に用いられる超音波信号はパルス信号(すなわち一回限りの波)であり、超音波信号が微弱になると、多数回発生させて、それらの平均をとってもSN比を改善することは困難になる。
バースト波超音波やチャープ波超音波と呼ばれる信号は、規則的に繰り返す波全体が対象であるため、入力と出力の間での規則的に変動する波全体の相関をとる演算をすることにより、不規則なノイズを排除することが容易となる。そのため、バースト波超音波やチャープ波超音波では、SN比が向上し、すなわち、超音波信号が透過しやすくなることになる。
【0018】
バースト波超音波やチャープ波超音波は、上述のように、測定対象の発泡体を透過させることができるため、発泡体を透過させた際の減衰率を評価することにより、内部の欠陥を検出することが可能になる。
【0019】
すなわち、発泡体内部に欠陥がない場合、発泡体を構成する気泡の壁は相互に結合しており自由に振動することを制限されている。この場合、超音波は、壁の表面で大半が反射されるため、ほとんど透過できない。したがって、減衰率が大きくなる。
一方、大きな空洞がある場合やビーズ型内発泡成形法においてビーズ相互が融着していない場合、バースト波超音波やチャープ波超音波は、空洞部分が共振することにより振動が減衰されることが少なくなるため、透過しやすくなる。
【0020】
本発明の発泡体の非破壊検査法においては、発泡体を透過したバースト波超音波やチャープ波超音波の減衰率と融着率との関係を予め測定し、検量線を作成する。次いで、検査対象である発泡体を透過する超音波の減衰率を測定して、検量線を参照することにより、融着率を非破壊で検出することができる。
【0021】
ここで、本発明の発泡体の非破壊検査法においては、発泡体を透過した超音波を「エコー」と呼び、該エコー波形の強さを「エコー高さ」と呼ぶ。
そして、超音波の減衰率が小なければ、エコー高さは高くなり、減衰率が大きければ、エコー高さは低くなる。そのため、エコー高さは、超音波の減衰率を反映した指標として測定される。そこで、本発明の発泡体の非破壊検査法においては、エコー高さと融着率の関係に関する検量線を用いる。得られた検量線により、測定されたエコー高さから融着率を推算することができる。
【0022】
本発明の発泡体の非破壊検査法においては、バースト波やチャープ波の超音波は、図1に示すように、超音波発信・受信装置(「パルサ・レシーバ」とも呼ばれる)2において電気信号として発せられ、発信探触子3から超音波となって発信される。また、発泡体を透過した超音波は、受信探触子4にて受信した後、電気信号に変換され、プリアンプ5で増幅され、超音波発信・受信装置2に入力し、必要な信号処理を施されて、エコー波(すなわち、成型体サンプルを透過した受信波)が表示装置6に表示される。
【0023】
本発明の検査方法において精度よくエコー波形を得るためには、検査に用いられる超音波の周波数としては、16〜200KHzの範囲内のいずれかの周波数が好ましく、30〜150KHzの範囲内のいずれかの周波数がより好ましい。
【0024】
一般に、超音波が発泡体内部を透過する場合、超音波の周波数が高いと、大半が発泡体の気泡の壁面で散乱され、発泡体内部を透過しない。そのため、超音波の周波数は低く設定すべきである。
一方、欠陥を検出するためには、当該欠陥の寸法に対して、超音波の波長を同程度または、それ以下にする必要がある。これは、測定対象物より波長が長くなると、超音波の散乱や回折現象が無視できなくなり、精度よくエコー波形を得ることが困難になるためである。
【0025】
ところで、超音波の波長λと周波数f、音速vとの間には (1)式の関係がある。
λ=v/f (1)
15℃の空気中における音速vは340(m/秒)であるため、(1)式に代入して計算すると、周波数と波長の関係は、表1に示すとおりである。
【0026】
【表1】

【0027】
超音波の周波数が200KHzを超えると、波長が短くなるので、1.7mm程度の細かい欠陥も検出できるが、超音波自体が発泡体内部を透過しにくくなる傾向がある。また、超音波の周波数を16KHz未満に下げると、超音波は透過しやすくなるが 波長は長くなるので、20mm以下の細かい欠陥は見落とす可能性がでてくる。
【0028】
発泡体の基材樹脂や気泡形状にも影響されるが、透過性と解像度の両者を満足する条件として、超音波の周波数としては、30〜150KHzの範囲内のいずれかが最も発泡体の欠陥検出に適している。
【0029】
一般に、パルス波超音波を用いた非破壊検査では、探触子を検査対象に密着させたり、水やゲル状物質を介在させ、検査対象物体と探触子との間の空気を排除する必要がある。このことは、空気と検査対象物体との間の密度差が大きいと、両者の界面で超音波が反射され透過しないためである。
【0030】
これに対して、バースト波超音波やチャープ波超音波であれば、空気中から検査対象に向けて発せられたものであっても、ある程度透過できる。従って、バースト波超音波やチャープ波超音波を用いる場合には、水やゲルなどの媒体を用いたり、探触子を検査対象に密着させる必要がなく、すなわち、非接触での検査が可能となる。
よって、本発明の発泡体の非破壊検査法は、検査設備の構造が簡単になり、操作が迅速になるなど、極めて有利な方法である。
【0031】
本発明の検査方法では、図2に示すとおり、検査対象サンプルに対して、直接接触させない状態で、検査対象サンプル1の一方面に発信探触子3を、反対側に受信探触子4を配置する。そして、サンプルの表面に沿って発信探触子および受信探触子を移動させながら、各点の超音波透過率を測定する。
得られた透過率データは、データ処理用コンピュータに入力され、異常値(すなわち、融着率が限度を超えて低いことを示す透過率)があれば、警報を発するなどして不良品を発見することができる。また、検査した面の透過率を等高線や色分けにより表示することにより、サンプルの融着率の分布を表示し、成形条件の調整や金型の異常、フィーダ(樹脂を金型内に供給する器具)の不具合を監視することも可能である。
従って、本発明の検査方法は、工程管理上も有効な検査方法である。
【0032】
本発明の検査方法では、図3に示すように、検査対象サンプル1に対して、発信探触子3を斜めの位置に配置、超音波を斜めに発信し、サンプル内部を透過して、同じ面側の離れた位置へ戻ってきた透過波を受信探触子4で受信することも可能である。
この方法によれば、離れて配置された発信探触子3と受信探触子4の間に位置する部分を一度に検査できるので、検査対象の製品寸法が大きい場合、短時間で欠陥の有無を検査することができる。
本発明の検査方法では、さらに、検査対象の特性によっては、探触子を検査対象に接触させることにより、測定精度を向上させることもできる。
【0033】
本発明での検査の対象は、発泡体である。好ましくは、熱可塑性樹脂によるビーズ法による型内発泡成型法により成型された発泡体である。
【0034】
ビーズ法による型内発泡成型法とは、予め成型体の最終発泡倍率程度まで発泡させた樹脂ビーズを金型内に充填し、蒸気で過熱することにより発泡させると共に、ビーズ相互を融着させ発泡成型体を得る成型方法である。型内成形法においては、発泡圧により、ビーズ間の空隙が埋められると同時に、温度が上昇したビーズ同士が加圧され、融着させる。
【0035】
その際の問題点は、ビーズ間の隙間は埋められ一体化しているように見えても、接しているだけで融着していない場合である。
このような場合、ユーザーで発泡成型体を切削加工した際や、使用中に力が加わった場合、ビーズがばらけて、そこで初めて融着不良の欠陥が顕在化する。製造過程で検査する場合は、発泡成形体を割ってみないと、融着不良の欠陥が存在するか否かは判らない。
【0036】
本発明の検査方法によれば、このような融着不良の欠陥を非破壊で検出でき、製品全数の検査も可能であり、きわめて有用な検査方法である。
【0037】
本発明の検査方法において、ビーズ法による型内発泡成形体に、バースト波やチャープ波の超音波を透過させる場合、ビーズ相互が融着していれば、超音波は透過しにくく、得られたエコー高さが低くなる。これに対して、ビーズ相互の融着が悪いと、超音波は透過しやすくなり、得られるエコー高さは高くなる。
また、超音波を透過させる場合、発泡体内部に空隙あると、同じく透過しやすくなり、得られるエコー高さが高くなり、空隙による欠陥を検出することができる。
【実施例】
【0038】
発泡体の検査方法にかかる実施形態例である検査装置および測定条件について、図1を用いて説明する。
【0039】
検査対象の発泡体サンプル1は、肉厚(厚さ60mm)の板状サンプルであって、サンプル1を挟んで対向する位置に、それぞれ50mmの間隔を開けて、発信探触子3(ジャパンプローブ株式会社製、0.05K50×50A)と、反対側に受信探触子4(ジャパンプローブ株式会社製、0.05K50×50A)を配置する。
超音波発信・受信装置2(ジャパンプローブ株式会社製、JPR−IC)で生成された周波数47KHz、5波繰り返しのバースト波超音波信号を、発信探触子3から超音波としてサンプル1に当て、サンプル1を透過した超音波を受信探触子4で受信し、プリアンプ5(ジャパンプローブ株式会社製、PR−60A)で増幅して、超音波発信・受信装置2(ジャパンプローブ株式会社製、JPR−IC)に入力し、信号処理を施し、受信波形(すなわち、エコー波)を表示装置6(ノートパソコン、OS:Windows(登録商標) XP)に表示し、エコー高さを読み取る。
用いた発泡体サンプル1は、ビーズ法による型内発泡成型法により成型された発泡ポリプロピレン成形体(高さ295mm×幅393mm×厚さ60mm、発泡倍率は45倍)であり、融着率0%、20%、60%、100%の4水準の発泡体を用意した。
測定においては、発泡体サンプルの厚さ方向を透過するように、バースト波超音波を透過させた。
【0040】
4水準のサンプルにおけるエコー高さを、表示装置より読み取り、透過波のエコー高さを記録した。図4には、融着率0%の場合のエコー高さを100%とし、融着率とエコー高さの関係を図示し(図中、▲)、検量線とした。
別途、同じ形状および発泡倍率で、融着率が0%、30%、70%、100%の発泡ポリプロピレン成形体に関して、同様の操作を行い、得られたエコー高さ(図中、●)をプロットしたところ、図4に示すように、検量線にほぼ一致した。
【符号の説明】
【0041】
1 発泡体サンプル
2 超音波発信・受信装置
3 発信探触子
4 受信探触子
5 プリアンプ
6 表示装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体の内部欠陥を非破壊で検出する検査方法であって、
発泡体に向けてバースト波超音波もしくはチャープ波超音波を発信し、発泡体を透過した該超音波を受信して、透過した該超音波の強度の減衰率から発泡体の内部欠陥を検出することを特徴とする、発泡体の非破壊検査方法。
【請求項2】
超音波の発信探触子および受信探触子が、検査対象の発泡体に対し非接触であることを特徴とする、請求項1記載の発泡体の非破壊検査方法。
【請求項3】
バースト波超音波もしくはチャープ波超音波の周波数が、16kHz〜200kHzのいずれかであるあることを特徴とする、請求項1または2記載の発泡体の非破壊検査方法。
【請求項4】
バースト波超音波もしくはチャープ波超音波の周波数が、30kHz〜150kHzのいずれかであるあることを特徴とする、請求項1または2記載の発泡体の非破壊検査方法。
【請求項5】
発泡体が、熱可塑性樹脂を基材樹脂とするビーズ法による型内発泡成型法により成型されてなる発泡体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の発泡体の非破壊検査方法。
【請求項6】
発泡体の内部欠陥が、原料発泡ビーズの融着不良であることを特徴とする、請求項5記載の発泡体の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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