説明

発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置

【課題】ステータを効率的冷却すると共に、ステータ表面に結露を発生させることのない発熱体冷却方法を提供する。
【解決手段】ステータMを密閉室11内に収納し、真空ポンプ12により、目標冷却温度(50℃)より所定温度低い第1温度(30℃)における水の飽和蒸気圧に密閉室11内を調整する第1工程と、ステータMの表面温度をモニタしながら、ステータMに噴霧ノズル15によりミストを噴霧する第2工程と、ステータMの表面温度が目標冷却温度(50℃)に到達したときに、噴霧ノズル15によるミストの噴霧を停止する第3工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱状態にある発熱体を冷却する発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車用モータのステータの製造工程において、ステータコアに導線を巻回した後、樹脂により全体をモールドすることにより、ステータを製造することが行われている。その場合に、モールド直後では、ステータの温度は、150℃程度である。これを50℃以下に冷却する必要がある。次工程にステータを移動するときに、作業者等の安全を考慮しているためである。
従来、送風冷却を行っていたが、その方法では、ステータが50℃以下となるのに、20分以上の時間がかかり問題であった。
一方、冷却効率を上げる方法として、微細な水滴であるミストを発熱体に噴霧して、その気化熱を利用する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、吸込みファン等の気流によりミストを駆動形部品に付着させ、気化熱を奪うことにより、効率的に冷却を行う方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004-264103号公報
【特許文献2】特開平07-243742号公報
【特許文献3】特開2006-046974号公報
【特許文献4】特開2008-004310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、次のような問題があった。
すなわち、余分なミストを与えた場合に、発熱体であるステータの表面(外部金属端子等)に結露や濡れが残り、それにより錆が発生する恐れがあった。
【0005】
この発明は上記問題点を解決するためのものであって、発熱体を効率的冷却すると共に、発熱体表面に結露を発生させることのない発熱体冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置は、次のような構成を有している。
(1)発熱体を密閉空間に収納し、調圧ポンプにより、目標冷却温度より所定温度低い第1温度における水の飽和蒸気圧に密閉空間を調整する第1工程と、発熱体の表面温度をモニタしながら、発熱体に噴霧ノズルによりミストを噴霧する第2工程と、発熱体の表面温度が目標冷却温度に到達したときに、噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止する第3工程と、を有する。
(2)(1)に記載する発熱体冷却方法において、前記目標冷却温度と前記第1温度との中間にある第2温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止することを特徴とする。
【0007】
(3)発熱体を収納する密閉空間と、目的冷却温度より所定温度低い第1温度における水の飽和蒸気圧に密閉空間を調整する調圧ポンプと、発熱体の表面温度を検出する温度計と、発熱体にミストを噴霧する噴霧ノズルと、温度計が検出した温度が、目標冷却温度に到達したときに、噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止する制御手段と、を有する。
(4)(3)に記載する発熱体冷却装置において、前記制御装置が、前記目標冷却温度と前記第1温度との中間にある第2温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する本発明の発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置の作用・効果について説明する。
(1)発熱体であるステータを密閉空間に収納する。ステータは、モールド成形された直後であり、約150℃である。第1工程においては、調圧ポンプ(真空ポンプ、エジェクタ等)により、目標冷却温度(例えば、50℃)より所定温度低い第1温度(例えば、20度低い30℃)における水の飽和蒸気圧に密閉空間を調整する。
次に、第2工程においては、熱電対、サーモメータ等の温度計によりステータの表面温度をモニタしながら、ステータ表面に噴霧ノズルからミストを噴霧する。ステータの表面に接触したミストは、密閉空間が30℃における水の飽和蒸気圧に調整されているため、瞬間的に加熱され蒸発する。ミストが蒸発するときに、ステータから気化熱を奪うため、ステータが冷却される。
次に、第3工程においては、ステータの表面温度が目標冷却温度に到達したときに、噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止する。
以上の方法によれば、密閉空間内は、常に30℃における水の飽和蒸気圧に調整されているので、ステータの表面温度が50℃近くまで冷却された状態になっても、ミストは、加熱されることにより、気化して水蒸気となるため、ステータの表面に結露や濡れが発生することがない。
【0009】
(2)(1)に記載する発熱体冷却方法において、目標冷却温度(例えば、50℃)と第1温度(例えば、20度低い30℃)との中間にある第2温度(例えば、40℃)に到達したときに、噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止している。(1)の方法では、ステータの表面温度は50℃になっているが、内部の温度は未だ、50℃より高い温度である。その状態でミストの噴霧を停止すると、停止した後内部の熱が表面に伝熱されることにより、表面温度が高くなるため、ステータの表面温度が目標温度である50℃よりも上昇する恐れがある。
そこで、ステータの表面温度が第2温度である40℃になるまで、ミストを噴霧することにより、ミストの噴霧を停止した後、内部の熱が表面に伝熱されても、ステータの表面温度を50℃以下とすることができる。
この場合においても、密閉空間内は、常に30℃における水の飽和蒸気圧に調整されているので、ステータの表面温度が40℃近くまで冷却された状態になっても、ミストは、加熱されることにより、気化して水蒸気となるため、ステータの表面に結露や濡れが発生することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明における発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置を具体化した一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に、発熱体冷却装置の全体構成を示す。密閉空間を形成する密閉室11内に、発熱体であるステータMを搬入して置く。発熱体Mの表面には、表面温度を測定するための熱電対14が取り付けられている。密閉室11の上部には、複数(本実施例では、7本)の噴霧ノズル15が付設されている。噴霧ノズル15の裏側には、ファン17が付設されている。ファン17は、噴霧ノズル15で発生したミストをステータMに送風する役割を果たしている。
複数の噴霧ノズル15は、ステータMの表面に万遍なくミストを噴霧できる方向ように配置されている。噴霧ノズル15及びファン17は、ミストを発生させるミスト制御装置13に接続している。ファン17は、噴霧ノズル15と連動して動くようにしている。密閉室11は、調圧ポンプである真空ポンプ12に接続している。真空ポンプ12により、密閉室11内の気圧が制御される。
熱電対14、ミスト制御装置13、及び真空ポンプ12は、制御装置16に電気的に接続している。
【0011】
図2に、発熱体冷却方法の第1工程を示す。ステータは、約150℃の表面温度を有する状態でロボットにより、密閉室11内に置かれる。密閉室11を密閉した後、制御装置16は、真空ポンプ12により、密閉空間から空気を吸引する。
図8に水の飽和蒸気圧のデータを示す。横軸が温度(℃)であり、縦軸が飽和蒸気圧(kPa)である。大気圧(101kPa)では、水沸点は、100℃であるが、真空(5kPa)では、約32℃である。
第1工程においては、図4に示すように、真空ポンプ12により、目標冷却温度である50℃より所定温度、本実施例では20度、低い第1温度(本実施例では、30℃)における水の飽和蒸気圧(約4kPa)に密閉室11内を調整する。
4、5kPa程度の真空は大気圧に近い低真空なので、真空ポンプ12により、速やかに実現できる。
【0012】
次に、発熱体冷却方法の第2工程を図3に示す。第2工程においては、熱電対14によりステータMの表面温度をモニタしながら、ステータの表面に噴霧ノズル15からミストを噴霧する。ミストの水粒子径は、本実施例では、10〜30μmとしている。水量は、35リットル/時間としている。また、噴霧のタイミングは、連続噴霧としている。本実施例では、ステータMの表面にミストを連続的に噴霧しているが、冷却条件によっては、ミストを間欠的に噴霧しても良い。
ステータMの表面に接触したミストは、密閉空間が30℃における飽和蒸気圧(約4kPa)に調整されているため、瞬間的に加熱され蒸発する。すなわち、密閉室11内は、約4kPaの気圧に維持されているので、乾燥状態にあるため、加熱されると瞬間的に蒸発するのである。
そして、ミストが蒸発するときに、ステータから気化熱を奪うため、ステータが冷却される。図5に、ステータMの温度変化を矢印で示している。
【0013】
次に、第3工程においては、図5に示すように、ステータMの表面温度が目標冷却温度50℃より10度低い40℃に到達したときに、制御装置16は、噴霧ノズル15によるミストの噴霧を停止する。
目標温度である50℃より、10度低い温度までステータMの表面を冷却しているのは、ミストの噴霧を停止した後も、ステータMの内部に残留している熱がステータMの表面まで伝熱されるため、ステータMの表面温度が上昇するが、ミストを停止していると、冷却がほとんどできないため、ステータMの表面温度が50℃を超えてしまう。40℃まで冷却した後で、ミストを停止した場合には、ステータM内部の熱が伝熱されても、ステータMの表面温度が50℃を超えることがない。また、図6に示すように、ミストの噴霧を停止する40℃と、密閉室11内の気圧を30℃の飽和蒸気圧に維持することより、30℃と40℃の間が、結露防止のための結露防止安全域を構成している。また、40℃と50℃の間が、潜熱での再上昇を含めた目標冷却温度域を構成している。
【0014】
本実施例による実験の結果を図7に示す。横軸が時間(単位秒)経過を示し、縦軸がステータMの表面温度を示す。ステータMの表面の複数個所で温度変化を測定した実験結果を示す。最も高い温度の箇所においても、300秒で、40℃以下まで温度が低下している。
実験の結果によれば、150℃のステータMを、50℃まで冷却するのに、従来約20分かかっていたのが、本実施例によれば、約5分(300秒)に短縮することができた。
【0015】
以上詳細に説明したように、本実施例の発熱体冷却方法、及び発熱体冷却装置によれば、ステータMを密閉室11に収納し、真空ポンプ12により、目標冷却温度である50℃より所定温度である20度低い第1温度である30℃における水の飽和蒸気圧に密閉室11を調整する第1工程と、ステータMの表面温度をモニタしながら、ステータMに噴霧ノズル15によりミストを噴霧する第2工程と、ステータMの表面温度が目標冷却温度50℃に到達したときに、噴霧ノズル15によるミストの噴霧を停止する第3工程と、を有するので、密閉室11内は、常に30℃における水の飽和蒸気圧(約4kPa)に調整されているので、ステータの表面温度が50℃近くまで冷却された状態になっても、ミストは、加熱されることにより、気化して水蒸気となるため、ステータの表面に結露や濡れが発生することがない。
【0016】
また、目標冷却温度である50℃と、第1温度である30℃との中間にある第2温度である40℃に到達したときに、噴霧ノズル15によるミストの噴霧を停止しているので、ミストの噴霧を停止した後、ステータMの内部の熱が表面に伝熱されても、ステータMの表面温度を50℃以下とすることができる。
この場合においても、密閉室11内は、常に30℃における水の飽和蒸気圧(約4kPa)に調整されているので、ステータの表面温度が40℃近くまで冷却された状態になっても、ミストは、加熱されることにより、気化して水蒸気となるため、ステータの表面に結露や濡れが発生することがない。
【0017】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
例えば、本実施例では、温度計として熱電対14を使用しているが、ステータMから放射される熱をサーモメータにより測定しても良い。
また、本実施例では、ミストを連続的に噴霧しているが、ミストを間欠的に噴霧しても良い。それにより、ステータMの表面温度に、結露が発生しないことを確認しながら、ステータMを冷却することができる。すなわち、ステータMの表面の冷却が急激すぎて、ステータMの内部の熱が表面に伝熱されるのが遅い場合にも対応可能である。ただし、本実施例の場合には、間欠制御は不要であった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例である発熱体冷却装置の構成を示す図である。
【図2】発熱体冷却方法の第1工程を示す図である。
【図3】発熱体冷却方法の第2工程を示す図である。
【図4】ステータMの目標冷却温度と水の飽和蒸気圧との関係を示す図である。
【図5】ステータMの温度変化を示す図である。
【図6】ステータMの結露防止安全域を示す図である。
【図7】実験結果を示す図である。
【図8】水の飽和蒸気圧を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
11 密閉室
12 真空ポンプ
13 ミスト制御装置
14 熱電対
15 噴霧ノズル
16 制御装置
17 ファン
M ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を密閉空間に収納し、調圧ポンプにより、目標冷却温度より所定温度低い第1温度における水の飽和蒸気圧に前記密閉空間を調整する第1工程と、
前記発熱体の表面温度をモニタしながら、前記発熱体に噴霧ノズルによりミストを噴霧する第2工程と、
前記発熱体の表面温度が前記目標冷却温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止する第3工程と、
を有することを特徴とする発熱体冷却方法。
【請求項2】
請求項1に記載する発熱体冷却方法において、
前記目標冷却温度と前記第1温度との中間にある第2温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止することを特徴とする発熱体冷却方法。
【請求項3】
発熱体を収納する密閉空間と、
目的冷却温度より所定温度低い第1温度における水の飽和蒸気圧に前記密閉空間を調整する調圧ポンプと、
発熱体の表面温度を検出する温度計と、
発熱体にミストを噴霧する噴霧ノズルと、
前記温度計が検出した温度が、前記目標冷却温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止する制御手段と、
を有することを特徴とする発熱体冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載する発熱体冷却装置において、
前記制御装置が、前記目標冷却温度と前記第1温度との中間にある第2温度に到達したときに、前記噴霧ノズルによるミストの噴霧を停止することを特徴とする発熱体冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133578(P2010−133578A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307817(P2008−307817)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】