説明

発熱具

【課題】不織布に形成した印刷部による模様や文字等が立体的に見える発熱具を提供すること。
【解決手段】発熱具10は、使用時に使用者の身体側を向く身体側シート21と、使用時に外側を向く外側シート22とを有する包材内20に、被酸化性金属を含有する発熱部30が配されたものである。外側シート22及び/又は該身体側シート21は、その外面の少なくとも一部に、接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布からなる。該不織布として、坪量が25〜60g/m2であり、不織布密度が0.01〜0.04g/cm3であり、かつKESに従い測定された圧縮荷重−圧縮歪み曲線の直線性であるLC値が0.4〜0.8であるものを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体等の加温に用いられる発熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
身体等の加温に用いられる発熱具は、その表面が、肌触りを良好にするなどの目的で、不織布等の風合いの良好な繊維材料から構成されている。また、発熱具には、加飾等の目的で印刷が施されることもある。不織布等の繊維材料のシートに印刷を施すことに関し、例えば特許文献1には、多孔質フィルムと通気性基材とを通気性接着層を介し接着してなり、多孔質フィルムと通気性基材の一方又は両方の接着面側に印刷層を有する積層多孔基材が提案されている。
【0003】
また、疎水性合成繊維からなる不織布であって、該不織布が異形断面形状の繊維を含み、かつ少なくとも一面の不織布の縦方向と横方向の平均表面粗さ(Ra)が12μm以下である、印刷性に優れたカイロ包材用不織布も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−42021号公報
【特許文献2】特開2004−24748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の積層多孔基材を用いた使捨てカイロでは、印刷層が接着されているため、水蒸気や擦れ等にて脱落や呆けを生じにくい反面、印刷工程後に接着工程が必要となる等、製造面やコスト面で検討の余地がある。
【0006】
一方、特許文献2の不織布は、異型断面でかつ平滑性の高い繊維を用いることによって、不織布表面の繊維層の凹凸が少なくなり、鮮明な印刷画像が得やすいという利点がある反面、不織布表面上に印刷の層が1層形成される傾向が強く、その印刷画像は鮮明ではあっても立体感に乏しい平面的なものとなってしまう。また、不織布表面上の印刷の層が擦れによって脱落してしまうことも懸念される。また、不織布自体が有する良好な風合いが損なわれやすい。
【0007】
したがって、本発明の課題は、上述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、使用時に使用者の身体側を向く身体側シートと、使用時に外側を向く外側シートとを有する包材内に、被酸化性金属を含有する発熱部が配された発熱具であって、
該外側シート及び/又は該身体側シートはその少なくとも一部に、接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布からなり、
該不織布の坪量が25〜60g/m2であり、不織布密度が0.01〜0.04g/cm3であり、かつKESに従い測定された圧縮荷重−圧縮歪み曲線の直線性であるLC値が0.4〜0.8である発熱具を提供することにより、前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発熱具によれば、印刷に用いたインクが、不織布の厚み方向の深部にまで分散配置されるので、不織布に形成した印刷部による模様や文字等が非常に立体的に見えるという視覚的に有利な効果が奏される。また、不織布自体が有する良好な風合いが損なわれにくく、インクの脱落も起こりにくい。更に、被酸化性金属を含有する発熱部が発熱するために必要な酸素の透過や、香料成分・蒸気の通過が印刷により妨げられることがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)及び図1(b)は、本発明の発熱具に用いられる不織布に印刷を施す状態を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の発熱具の一実施形態を示す断面図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、本発明の発熱具に用いられる、印刷部が形成された実施例1の発熱具の一部及び比較例1の発熱具の一部の写真である。
【図4】図4(a)及び図4(b)は、図4(c)に示す本発明の温熱具に用いられる印刷部が形成された不織布の拡大写真の要部を拡大して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発熱具は、包材内に発熱部が配された構造を有している。包材は閉じた袋状をしており、内部に発熱部を収容する空間を有している。包材は偏平な形状をしており、その一方の面側に、発熱具の使用時に使用者の身体側を向く身体側シートを有している。また、他方の面側に、発熱具の使用時に外側を向く外側シートを有している。
【0012】
包材における外側シート及び/又は身体側シートは不織布から構成されている。これらの不織布は、その少なくとも一部に、接触印刷によって形成された印刷部を有している。印刷部は、印刷用のインクが、不織布の構成繊維に付着してなるインク付着部位の集合体から構成されている。なお、ここで言う、外側シート及び/又は身体側シートとは、好ましくは、発熱具の最外面のシートのことを言う。本発明の発熱具は、外側シート及び/又は身体側シートを構成する不織布における、このインク付着部位のインクの分布状態に特徴の一つを有する。
【0013】
詳細には、インク付着部位においてインクは、不織布表面上にのみ存在するだけでなく、該不織布の深さ方向にも分布している。インク付着部位がこのような分布状態になっていると、不織布自体が有する良好な風合いが損なわれにくく、インクの脱落も起こりにくく、更に、酸素や香料成分や蒸気の通過が印刷により妨げられることがないだけでなく、印刷部のインクの色と、背景となる鉄粉等の被酸化性金属を含有する発熱部の黒色系の色とのコントラストによって、印刷部を構成する模様や文字等が非常に立体的に見えるという有利な効果が奏される。
【0014】
従来は、特許文献1や特許文献2に記載のように、不織布への直接印刷では「印刷層が脱落しやすくて使用期間中その印刷内容を維持することが困難なこと、印刷内容が鮮明に見えにくいこと、通気性に悪影響して発熱の温度や持続時間を低下させることなどの問題点がある」か、或いは「不織布の表面の繊維層の凹凸、繊維の円形断面の影響によって印刷性が劣り、鮮明な印字や輪郭が得られない」と認識されていた。そこで、印刷の鮮明性を追及すべく、むしろ不織布表面の繊維層の凹凸を少なくして、不織布の表面上にのみ印刷層を形成させることが一般的であった。つまり、該不織布の凹凸に対して深さ方向にインク付着部位のインクの分布を敢えて広げようとはしていなかった。ところが、本発明では、逆転の発想で、この凹凸を利用して敢えて該不織布の凹凸に対して深さ方向にインクを分布させるべく、使用する不織布の物性等に注目した。
【0015】
すなわち、印刷部を構成する模様や文字等が非常に立体的に見えるという有利な効果を顕著なものとする等の観点から、不織布の坪量及び不織布密度が低く、且つ、圧縮初期のつぶれやすさが良好な不織布を用いることが非常に好ましいことが、本発明者らの検討の結果判明した。不織布の圧縮初期のつぶれやすさは、KES(Kawabata Evaluation System)に従い測定された圧縮荷重−圧縮歪み曲線の直線性であるLC値を尺度とすることが適切である。KESにおいて、LC値は、圧縮仕事量WCを、ToとTm間の圧縮変形量と圧縮荷重Pにより得られる三角形の面積で除して計算される無次元数である。LC値は、その値が小さいほど、圧縮初期のつぶれやすさが良好であることを意味する。
【0016】
LC値の測定は、カトーテック社製のKES‐G5「ハンディ圧縮試験機」(商品名)のハンディ圧縮計測プログラムを用いて測定される。具体的な測定条件は次のとおりである。すなわち、試料:布・フィルム、SENS:2、力計の種類:1kg、SPEED RANGE:0.02cm/sec、DEF感度:20、加圧面積:2cm2、測定荷重:5.0に設定することで最大圧縮荷重50gf/cm2、標準温湿度条件(23℃/50%RH)にておこなう。
【0017】
本発明の発熱具における接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布は、上述のLC値が、0.4〜0.8である。好ましくは0.5〜0.7である。
【0018】
また、本発明の発熱具における包材の外側シート及び/又は身体側シートとして用いられる不織布は、その不織布密度が0.01〜0.04g/cm3である。好ましくは0.015〜0.03g/cm3である。これに対して、発熱具に従来一般的に用いられてきたニードルパンチ不織布は、その製造方法に起因して繊維の詰まりの程度が高く、すなわち、不織布密度が0.07〜0.11g/cm3と高く、インクが三次元的に分散せず、不織布の表面に印刷層を1層作ってしまい、接触印刷により該不織布の凹凸に対して深さ方向にインク付着部位を分布させることが困難である。
【0019】
印刷部を構成する模様や文字等が非常に立体的に見えるという有利な効果を一層顕著なものとする観点からは、不織布の坪量がある程度低く設定されている。不織布の坪量が低いことは、該不織布が透けやすいことを意味する。後述するように、本発明の発熱具は、包材の内部に、黒色系の材料である鉄粉等の被酸化性金属を含有する発熱部を収容していることから、本発明で用いている不織布が透けて見えやすいことは、その下側に位置する発熱部の黒色系の色が適度に見えやすいことを意味する。その結果、背景となる黒色系の色と、印刷部の色とのコントラストによって、印刷部を構成する模様や文字等が一層立体的に見えやすくなる。この観点から不織布の坪量は、25〜60g/m2である。特に27〜45g/m2であることが好ましい。これに対して、発熱具に従来一般的に用いられてきたニードルパンチ不織布では、前述のとおり、インクが三次元的に分散しないだけでなく、坪量が高いので背景が透けて見えず、立体感が得られづらい。不織布の坪量は、所定の面積に切り出した不織布の質量を測定し、その値を切り出した面積で除すことで算出される。
【0020】
本発明の温熱具における包材の外側シート及び/又は身体側シートに形成された印刷部は、これを微視的に見ると、インク付着部位が、例えば図4(c)に示す本発明の温熱具に用いられる印刷部が形成された不織布の拡大写真の要部である図4(a)に示すように、繊維どうしの交点や、融着交点や、その近傍にインク溜まりとして存在していたり、図4(b)に示すように、繊維どうしの微小間隙部を埋めるようにインク溜まりが形成されている。つまり印刷部を構成する印刷用のインクは、不織布の構成繊維の表面全体に均一に付着しているわけではない。インク付着部位がこのような状態で存在していることによって、不織布をその外面から見たときに、不織布の厚み方向に沿って、インク付着部位どうしが重なりにくくなり、インク付着部位の視認性が良好になり、印刷部を構成する模様や文字等が一層立体的に見えやすくなる。これらの結果、本発明の発熱具で用いている不織布は、印刷部を構成する模様や文字等が一層立体的に見えやすくなる。
【0021】
更に、インク付着部位が上述のように形成されていることによって、不織布における繊維の自由度が損なわれにくく、不織布の快適な風合いが維持されやすいという利点もある。その上、繊維どうしの交点は2本以上の複数の繊維によって形成されることから、不織布の外面側であっても印刷用インクが直接的に使用者に触れることが少なくなり、その結果、インク落ちが生じ難い。また、特に、融着交点付近は、繊維の可動性が低いことから、インク落ちが一層生じ難い。このように、本発明の場合、繊維の融着交点どうしが適度に近接しているので、繊維の自由度が小さく、融着交点近傍にインク付着部位が存在しやすくなり、且つ、このインクにより微小間隙部を埋めるようにインク溜まりが形成され安定することになり、殊更好ましい。
【0022】
先に述べたLC値を満たす不織布は、例えば不織布の製造方法や、不織布の構成繊維を適切に選択することで得ることができる。不織布の製造方法に関しては、低坪量及び低密度でかつ圧縮初期のつぶれやすさが良好な不織布を製造できる方法を採用することが好ましい。そのような製造方法としては、例えばエアスルー法、エアレイド法等が挙げられるが、これらの方法に限定されない。エアスルー法においては、ステープルファイバを原料として用い、これをカード機に供給して繊維の絡み合いによるウエブを形成し、該ウエブに貫通方式で熱風を吹き付けて、構成繊維の交点を熱融着させる。エアレイド法においては、短繊維を空気流に搬送させ、捕集コンベア上に堆積させることでエアレイドウエブを形成し、該ウエブの構成繊維間を熱や接着剤によって結合する。エアレイドで用いる繊維の長さはエアスルー法より短く、不織布構造が剛直になりやすいため、同じ熱風による製法の後に後処理として、金属、ゴム、コットン等のロールによる圧縮処理により、不織布の柔軟化を施す。また、前述の後処理による不織布強度低下を抑えるため、繊維交点における融着にラテックスバインダーを使用することが好ましい。
【0023】
不織布の構成繊維としては、例えば各種の熱可塑性樹脂から構成される単独の又は複合の熱融着性繊維を用いることが好ましい。この場合、繊維の太さは、上述のLC値を容易に満たすようにする観点から、1.5〜5.5dtex、特に2〜4.4dtexに設定することが好ましい。また、該熱融着性繊維として、高融点樹脂からなる第1樹脂成分と、低融点樹脂からなる第2樹脂成分とを含み、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維を用いることも好ましい。
【0024】
不織布の構成繊維の具体例としては、単一樹脂の繊維として、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリアミド6や、ポリアミド66等のポリアミド繊維、ポリ乳酸系繊維等の疎水性単一合成繊維が挙げられる。多成分系の複合繊維としては、芯鞘構造繊維における鞘側の低融点成分としてポリエチレン樹脂を用い、芯側にポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド6や、ポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂等の疎水性複合合成繊維を用いた芯鞘構造繊維が挙げられる。
【0025】
不織布は、上述した繊維を一種含む単独繊維から構成されていてもよく、あるいは二種以上の繊維をブレンドしたものであってもよいが、融着交点の形成の点から芯鞘構造繊維を40〜100質量%用いる事が好ましく、不織布の嵩高さの点から芯成分または単独繊維としてのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂又はポリ乳酸樹脂等の樹脂量が、不織布において20〜60質量%である事が好ましい。また、上述した繊維を一種以上含む繊維層を複数層重ねて一体化したものであってもよい。更に不織布には、熱融着性繊維以外の繊維として、パルプやレーヨン等の天然系繊維を、融着形成を阻害しない程度(例えば不織布の30質量%まで)含めてもよい。
【0026】
不織布の厚みは、該不織布の坪量及び不織布密度が先に述べた範囲内であることを条件として、0.5〜5.0mm、特に0.8〜4.0mmであることが好ましい。これによって、不織布を十分に嵩高にすることが可能になり、且つ、不織布を通してその下側に位置する発熱部の黒色系の色が適度に見えやすく、その結果、印刷部を構成する模様や文字等が一層立体的に見えやすくなる。不織布の厚みは、先に述べた(株)キーエンス製のマイクロスコープVHX−1000またはKES‐G5「ハンディ圧縮試験機」を用い、荷重0.5gf/cm2の条件に測定される。
【0027】
一般的に、不織布へ直接印刷を施すことには多数の課題がある。そこで従来は、背景技術の項で述べた従来の不織布のように、不織布の表面の平滑性と高い繊維密度を利用して、密集した状態の繊維表面にインクを固定していた。
これに対して、本発明の発熱具に用いられる不織布には、図1(a)に示すように、接触印刷を採用し、図1(b)に示すように印刷時に不織布を厚み方向に圧縮して一時的な高密度状態を作り出し、その状態下にインクを施している。この状態においては、繊維交点の融着によって作り出される繊維間の隙間以外に、厚み的に異なっている繊維も介在して小さな繊維間の隙間を多く作り出せる。このことに起因して、インクは繊維上及びこの繊維隙間のうち比較的小さな部分を埋めるように付着する。不織布は、繊維交点が融着した繊維によるネットワーク構造を形成していることから上述のLC値を有しているので、低密度状態から高密度状態への変形が容易であり、印刷工程を通して安定した高密度状態を形成する。その後の圧縮状態の開放によって、不織布は略元の繊維構造に戻る。その場合、一時的に作り出された繊維間の隙間では、隙間の消失によって、付着したインクのうち、繊維表面に固定できない量が繊維交点に移動し、インク濃度の高い部分を作り出す。このようにして、インク付着部位が、不織布の外面にのみ存在するだけでなく、該不織布の深さ方向にも分布するようになる。
【0028】
LC値からは、圧縮における圧縮初期のつぶれやすさ(追従性)が評価でき、不織布がつぶれにくく高密度状態が安定するLC値は0.4以上であり、高密度状態が作り出しやすいLC値は0.8以下となっている。また、LC値がこの数値内であることは、不織布のネットワーク構造が均一的に作り出されていることが分かる等、印刷における総合的な値となっている。一方、同様にKES−G5を用いたKESによる評価からは、圧縮仕事量であるWC値や圧縮レジリエンスであるRC値を得ることができ、接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布のWC値が0.8 〜 2gf・cm/cm2であり、RC値が50〜80%であると、印刷工程における部分的な適応性に優れている。印刷時の加圧によってもインキが不織布を通り抜けてしまわない程度の厚みが得られるのは、前記不織布のWC値が好ましくは0.8gf・cm/cm2以上であり、高密度状態が安定かつ容易に得られる前記不織布のWC値は2gf・cm/cm2以下である。インキの(分散による)固定が良好となる前記不織布のRC値は50%以上であり、高密度状態が安定する前記不織布のRC値は80%以下である。WC値はより好ましくは、1〜1.5gf・cm/cm2であり、RC値はより好ましくは、55〜65%である。
【0029】
印刷部は単色のインクから構成されていてもよく、あるいは多色のインクから構成されていてもよい。インクが単色及び多色のいずれの場合であっても、一のインクに注目した場合、そのインクが濃淡印刷されていてもよい。上述した不織布の圧縮及びその解放によるインクの移動を好適なものとするためには、使用する印刷インクとしては、例えば水性や油性等の媒体系インク、紫外線硬化型等の硬化型インクなどを用いることができる。また、着色材を含まないクリアインクを着色インク適用前に不織布へ貼着し、繊維の隙間埋めや繊維隙間をより狭くした後に、着色インクの塗布を実施して、インクの固定性を一層向上させることもできる。また、ドット状にインクを点着するスクリーン印刷では、ドットの大きさや位置を制御することで、複数種のインクを塗布することができるので、マルチ印刷に対応することができる。更に、繊維表面に、インクと異なる性質を発現する界面活性剤や油剤を付与し、インクの移動性を制御するようにしてもよい(例えば、油性インクに対して親水性活性剤を繊維表面に付着させて、界面活性剤量によってインクの移動性を制御する等)。
【0030】
上述の各種のインクを用いた接触印刷法としては、例えば凸版印刷、平版印刷、孔版印刷等を採用することができる。これらの印刷法を行う場合には、接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布のLC値が上述の範囲内であることを条件として、該不織布における印刷部形成のための不織布へ加えられる圧力(印刷圧力)が、不織布の厚みを30〜60%、特に40〜50%圧縮する条件下に印刷部が形成されるようにすることが、上述した不織布の圧縮及びその解放によるインクの移動を好適なものとする観点から好ましい。印刷部の形成に接触印刷法を用いることで、上述のような本発明特有のインクの局在が生じるのであって、インクジェット印刷法やスプレー印刷法等の、インクが空間中を飛翔して印刷媒体に付着する方式の非接触印刷法は、前述のような本発明で特徴とするところの、圧縮状態の開放で一時的に作り出された繊維間の隙間の消失によって生じるインクの局在を形成することはできない。
【0031】
本発明の発熱具における包材のうち、使用時に外面を向く外側シートは、これまでに述べてきた不織布のみから構成されていてもよく、あるいは該不織布の内面(発熱部側を向く面)に一又は二以上の他のシートが積層された積層シートから構成されていてもよい。かかる他のシートとしては、水蒸気の透過は可能であるが水の透過を妨げる材料である多孔性シート(透湿性シート)等が挙げられる。一方、包材のうち、使用時に使用者の身体側を向く身体側シートも、これまでに述べてきた不織布のみから構成されていてもよく、あるいは、これまでに述べてきた不織布を一部に用い、その他は最外面が風合いの良好なシートである別の不織布から構成されていても良い。身体側シートも、不織布のみから構成されていてもよく、あるいは該不織布の内面(発熱部側を向く面)に一又は二以上の他のシートが積層された積層シートから構成されていてもよい。かかる他のシートとしては、上述した多孔性シートのほか、水蒸気及び水の透過を妨げる材料である非透湿性シートを用いることもできる。ただし、不織布の内面に他のシートを積層するにあたって、該不織布を通してその下側に位置する発熱部の黒色系の色が適度に見えやすい状態とするため、好ましくは不織布と他のシートとの間に接着層は介在させない。
【0032】
包材内に収容される発熱部は、鉄粉等の被酸化性金属を含有する発熱組成物から構成されている。発熱部としては、例えば被酸化性金属及び反応促進剤等を含有する成形シートに、電解質及び水を含有する電解液を注入して構成された発熱シートを用いることができる。また、発熱部としては、例えば被酸化性金属、反応促進剤、電解質及び水を含んで構成されている発熱粉体を用いることもできる。
【0033】
発熱部は、少なくとも一部に透湿性を有するシートに包まれていてもよい。こうすることで、発熱部に含まれている粉体成分が、包材を通じて外部に漏れ出すことが効果的に防止されるだけでなく、背景となる鉄粉等の被酸化性金属を含有する発熱部の黒色系の色の強さを調節することが可能となる。好ましい黒色系の色の強さは、発熱体の表面の色を色差計(ミノルタ社、CR−300)を用いて測定したハンターLabの表色系がL=60〜99, a=−0.5〜0.5, b=−5.0〜5.0である。
【0034】
図2には、本発明の発熱具の一実施形態の断面図が示されている。この発熱具10は扁平なものであり、包材20と、該包材20内に密封収容された発熱部30とを備えている。包材20は、発熱具10の外形をなすものであり、扁平な形状をしている。包材20は、発熱具10の使用時に使用者の身体側を向く身体側シート21と、使用時に外側を向く外側シート22とを有している。身体側シート21と外側シート22とは同形をしており、両シート21,22の周縁部23が所定の手段によって密封接合されている。この場合、外側シート22には、上述のとおり印刷部(図示せず)が形成されている。
発熱部30は、少なくとも一部に透湿性を有するシート31において被覆されている。発熱部30に含まれる被酸化性金属を、該シート31における透湿性を有する部位を通じて透過してきた酸素と接触することによって、酸化発熱を生じる。
【0035】
図2に示す実施形態の発熱具10においては、発熱部30の周縁部30aと、包材20における周縁部23の接合部位の内側部23aとの間に隙間が生じている。この隙間の部位には発熱部30が存在していないので、外側シート22に印刷が施されていない場合には、温熱具30を外側シート22の側から見ると、その部位の色が、発熱部30が存在している部位の色に比べて薄く見えることがある(鉄粉等が含まれていないので)。これに対して、本発明においては、外側シート22に立体的に見える印刷が施されており、そのような薄く見えることが効果的に防止される。
【0036】
以上、詳述したとおり、本発明の発熱具の包材における外側シート及び/又は身体側シートとして用いられる不織布は、従来技術と異なり、不織布自体が本来的に有する柔軟で良好な風合いが印刷後であっても維持される。また、インク付着部位が不織布の厚み方向に分散しているので、該インク付着部位によって不織布の通気性が阻害されることもない。その結果、発熱具の発熱温度が印刷部のインク濃度に依存せずに安定している。また、発熱具に、香料成分や他の有効成分を配した場合であっても、印刷部による影響を受けない。また更に、発熱部から発生する蒸気を外部へ放出することが印刷部によって阻害されることもなく、インクの脱落も起こりにくい。
【0037】
以上、本発明をその好ましい形態に基づき説明したが、本発明は前記の実施形態に制限されない。例えば上述した発熱具は、多量の水蒸気の発生を伴う蒸気発熱具及び多量の水蒸気の発生を伴わない乾熱の発熱具の双方として用いることができる。また、上述した発熱具に、これを身体の各部に首尾良く取り付けるための取り付け部(例えば耳掛け部)を設けてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0039】
〔実施例1〕
以下の手順によって発熱具の一形態である蒸気温熱シートを製造した。
【0040】
<成形シートの作製>
<原料組成物配合>
・被酸化性金属:鉄粉、同和鉱業株式会社製、商品名「RKH」:84%
・繊維状物:パルプ繊維(フレッチャー チャレンジ カナダ社、商品名 NBKP「Mackenzi(CSF200mlに調整)」):8%
・活性炭:平均粒径45μm、(日本エンバイロケミカル株式会社、商品名「カルボラフィン」)8%
前記原料組成物の固形分(被酸化性金属、繊維状物及び活性炭の合計)100部に対し、カチオン系凝集剤であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)、商品名「WS4020」)0.7部及びアニオン系凝集剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)、商品名「HE1500F」0.18部を添加した。更に、水(工業用水)を、固形分濃度が12%となるまで添加しスラリーを得た。
<抄造条件>
前記スラリーを用い、これを抄紙ヘッドの直前で0.3%に水希釈し、傾斜型短網抄紙機によって、ライン速度15m/分にて抄紙して湿潤状態の成形シートを作製した。
<乾燥条件>
成形シートをフェルトで挟持して加圧脱水し、そのまま140℃の加熱ロール間に通し、含水率が5%以下になるまで乾燥した。乾燥後の坪量は450g/m2、厚さは0.45mmであった。このようにして得られた成形シートの組成を熱重量測定装置(セイコーインスツルメンツ社、TG/DTA6200)を用いて測定した結果、鉄84%、活性炭8%、パルプ8%であった。
【0041】
<保水性シートの作製>
化学パルプを原料として用い、湿式抄造法によって坪量35g/m2の保水性シートを得た。保水性シートの大きさは、発熱シートの大きさと同じとした。
【0042】
<発熱体の作製>
通気度約3000秒/100ccの炭酸カルシウムを含む延伸された多孔質のポリエチレン透湿性フィルムを第1の通気シートとし、坪量35g/m2の紙に坪量35g/m2のポリエチレンをラミネートしたフィルムを第2の通気シートとして作製した袋状のシート中に、前記第1の通気シート、成形シート、保水性シート、第2の通気シートの順番で積層したもの100部に対し濃度5%の43部の塩水を添加し、前記第1の通気シート及び第2の通気シートの周囲を密封し袋状のシートとすることで発熱体を得た。発熱体の第2の通気シート側の表面の色を色差計(ミノルタ社製、CR−300)を用いて測定したところ、ハンターLabの表色系で、L=97.5,A=0.05,b=2.17であった。
【0043】
<不織布の印刷>
ポリエチレンテレフタレートを芯とし、ポリエチレンを鞘とする芯鞘型複合繊維を原料とする、エアスルー不織布に、フレキソ印刷方式(樹脂凸版印刷)で、油性フレキソインキを用いて印刷を施した。このとき、インキ塗工量は乾燥重量として約1g/m2であり、印刷による圧縮度は45%であり、図3(a)に示す印刷を施した、坪量が30g/m2、不織布密度が0.024g/cm3、LC値が0.5、WC値が1.25gf・cm/cm2、RC値が58%である不織布を得た。この印刷を施した不織布を前記発熱体の上に、印刷面が上側になるように置き、観察したところ、印刷模様が非常に立体的に見えた。
【0044】
<発熱具の作製>
身体側面のシートとして、PET繊維とPP繊維の複合繊維を原料とした坪量100g/m2のニードルパンチ不織布を用いた。外側面のシートとして、前記印刷を施したエアスルー不織布を用いた。身体側面側に前記発熱体の第1の通気シートの側が位置するように、身体側面のニードルパンチ不織布及び外側面のエアスルー不織布の間に前記発熱体を配した。このとき、エアスルー不織布の印刷面が、外側となるように配置した。
前記身体側面の不織布と外側面の不織布を外周で接着し、収容体を製造した。収容体の左右両側部には、ポリプロピレン不織布からなる耳掛け部を取り付けた。このようにし発熱具を得た。
前記発熱具を、印刷を施した外側面側より観察すると、前記発熱体の黒色系の下地とのコントラストから、印刷の模様が、立体的かつ鮮明に見えた。
【0045】
〔実施例2〕
実施例1において、エアスルー不織布の印刷面が内側となるように配置した以外は、実施例1と同様にして、発熱具を得た。この発熱具は、実施例1の発熱具と同様に印刷の模様が、立体的かつ鮮明に見えた。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1において、外側面シートとしてエアスルー不織布は用いず、PP繊維を原料としたニードルパンチ不織布を用いて、図3(b)に示す印刷を施した不織布を得たこと以外は、実施例1と同様にして、発熱具を得た。前記印刷を施したニードルパンチ不織布(坪量が100g/m2、不織布密度が0.073g/cm3、LC値が0.55、WC値が0.75gf・cm/cm2、RC値が45%)を、実施例1と同様に観察したところ、印刷模様の見え方は、平面的であった。
【符号の説明】
【0047】
10 発熱具
20 包材
21 身体側シート
22 外側シート
23 周縁部
30 発熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に使用者の身体側を向く身体側シートと、使用時に外側を向く外側シートとを有する包材内に、被酸化性金属を含有する発熱部が配された発熱具であって、
該外側シート及び/又は該身体側シートはその少なくとも一部に、接触印刷によって形成された印刷部を有する不織布からなり、
該不織布の坪量が25〜60g/m2であり、不織布密度が0.01〜0.04g/cm3であり、かつKESに従い測定された圧縮荷重−圧縮歪み曲線の直線性であるLC値が0.4〜0.8である発熱具。
【請求項2】
前記不織布がエアスルー法不織布である請求項1記載の発熱具。
【請求項3】
前記不織布のKESに従い測定された圧縮レジリエンスであるRC値が50〜80%である請求項1又は2記載の発熱具。
【請求項4】
前記不織布のKESに従い測定された圧縮仕事量であるWC値が0.8〜2gf・cm/cm2である請求項1〜3の何れか一項に記載の発熱具。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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