説明

発酵培地に担体として作用する固体吸着樹脂の提供によるトリシクロ化合物の生産及び抽出方法

本発明は、トリシクロ化合物、特に、FK506及び/又はFK520の発酵及び精製方法に関するもので、より詳細には、FK506及び/又はFK520生産菌株の培養段階に疎水性吸着樹脂を担体として提供して精製する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、トリシクロ化合物、特に、FK506及び/又はFK520の発酵及び精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】

本発明は、米国特許登録番号4,894,366に記述されたトリシクロ化合物、特に、FK506(タクロリムス)及びFK520(アスコマイシン)の生産増大及び精製方法に関するものである。

主にトリシクロ化合物は、微生物、特に放線菌属が生産する抗真菌活性及び免疫抑制活性を示す微生物二次代謝産物である生理活性物質である。トリシクロ化合物は、化1のような一般的な構造を有することができる。
【0003】
【化1】

【0004】
(ただし、前記化1において、R1は、ヒドロキシ基又は保護されたヒドロキシ基、R2は、水素、ヒドロキシ基又は保護されたヒドロキシ基、R3は、メチル、エチル、プロピル又はアリル基、nは1又は2、実線及び点線で二重に表示された部位は、単一結合又は二重結合を示す。)

重要なトリシクロ化合物はFK506及びFK520であり、それと類似した構造としてラパマイシンなどが知られている。特に、FK506は、1987年にKinoなどによりシクロスポリンAより優れた免疫抑制活性能力を示す物質として報告された(Hantanaka,H.,M.Iwai,T.Kino.T.Goto and M.Okuhara.1988.J.Antibiot.41:1586−1591.Kino,T.,H.Hantanaka,M.Hashimoto,M.Nishiyama,T.Goto,M.Okuhara,M.Kohsaka,H.Aoki and H.Iminaka.1987.J.Antibiot.40:1249−1255)。FK506は、ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)9993、ストレプトマイセス属ATCC55098、ストレプトマイセス属ATCC53770、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)KCC S−043などの菌株から生産されると報告されており(Muramatsu,H.,S.I.Mokhtar,M.Katsuoka and M.Ezaki.2005.Actinomyetelolgoica.19:33−39,米国特許第4,894,366号)、FK506と構造的に類似体であるFK520も、免疫抑制活性及び抗真菌活性を有し、ストレプトマイセス・ヒグロスコピカス亜属アスコマイセティカス(Streptomyces hygroscopicus subsp.ascomyceticus)ATCC14891、ストレプトマイセス・ヒグロスコピカス亜属ヤクシマエンシス (Streptomyces hygroscopicus subsp.yakusimaensis)7238及びストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)993などが生産されると報告された。

最近は、これら二つの物質の生合成遺伝子がストレプトマイセス属ATCC53770及びストレプトマイセス・ヒグロスコピカス亜属アスコマイセティカス(Streptomyces hygroscopicus subsp.ascomyceticus)ATCC14891生産菌株からクロ−ニングされており(Motamedi,H.,and A.Shafiee.1998.Eur.J.Biochem 256:528−534,Wu,K.L.Chung,W.P.Revill,L.Katz,C.D.Reeves,2000.Gene 251:81−90)、配列及び構成が類似していると報告された。FK506は、PrografTMで販売されており、FK506と類似したトリシクロ化合物であるラパマイシン、FK520及びこれらの誘導体がFK506結合たんぱく質(FK506 binding proteins;FKBPs)に結合する活性(Hamilton,G.S.and J.P.Steiner 1998.J.Med.Chem.41:5119−5143.Gold,B.G.,1999.Drug Metab.Rev.31:649−663.Scheriver,S.L.and G.R.Carbtree.1995.Harvey Lect.91:99−114)に基づいて臓器移植拒否症に対する改善、アレルギ−、神経細胞損傷/機能障害を予防又は治療するための神経親和性薬剤として開発されている(米国特許公開2005239813、米国特許公開2005070468、米国特許公開2001050419、米国特許公開2002086015)。ストレプトマイセス・クラブリゲラス(Streptomyces clavurigerus)KCTC10561BP菌株を用いてFK506の生産力に及ぼす培地又は培養方法を改善した方法(大韓民国特許第485877号)、ストレプトマイセス属MA6858菌株でFK506の生産に及ぼす栄養因子を調査したことがある(Yoon,Y.J.and C.Y.Choi.1997.J.Fermen.Bioengin.83:599−603)。一般的なトリシクロ化合物は、培養液から硅藻土とドラムフィルタを使用して菌糸体を回収し、それから対象物質をメタノ−ルなどの有機溶媒で回収し、回収された液とろ過された培養液とを混合し、合成樹脂が充填されたカラムに適用して精製するので(米国特許4894366、大韓民国特許第485877号、日本特許公開第1999−0014号)、その処理過程が非常に複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許登録番号4,894,366
【特許文献2】米国特許第4,894,366号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hantanaka,H.,M.Iwai,T.Kino.T.Goto and M.Okuhara.1988.J.Antibiot.41:1586−1591
【非特許文献2】Kino,T.,H.Hantanaka,M.Hashimoto,M.Nishiyama,T.Goto,M.Okuhara,M.Kohsaka,H.Aoki and H.Iminaka.1987.J.Antibiot.40:1249−1255
【非特許文献3】Muramatsu,H.,S.I.Mokhtar,M.Katsuoka and M.Ezaki.2005.Actinomyetelolgoica.19:33−39
【非特許文献4】Motamedi,H.,and A.Shafiee.1998.Eur.J.Biochem 256:528−534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】

FK506は、自己免疫疾患、臓器移植、新生児赤芽球症などの医学用治療剤としての使用に有用である。このような治療剤の開発には高純度の製品生産が必要である。高純度の製品生産のために、生産力の増大した菌株、発酵工程及び効率的な精製工程の確立が必要である。本発明では、FK506及びFK520をはじめとするトリシクロ化合物の生産量を増大することができ、精製工程を単純化することができる発酵方法及び精製工程を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】

本発明の一態様では、放線菌の発酵培地に疎水性であるトリシクロ化合物を吸着可能な疎水性吸着合成樹脂を担体として添加し、発酵を行うことによって可逆反応を防止し、トリシクロ化合物、特に、FK506及びFK520(化2)の生産量を増加させる発酵方法を提供するもので、さらに他の態様では、トリシクロ化合物を発酵培地に添加された樹脂から抽出し、容易に精製する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】

本発明は、疎水性トリシクロ化合物の生産及び精製過程に疎水性吸着合成樹脂を加えることによって、生産収率を著しく高めるとともに、精製過程を単純化させるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】

【図1】トリシクロ化合物であるFK506及びFK520のHPLC分析結果である。対照区は無添加試験区であり、全体は培養液全体を、上澄液は菌体が除去された溶液を、菌体は遠心分離して回収した菌体のみを対象にして測定し、HP−20添加培養区は、HP−20合成樹脂5%(V/V)が添加された発酵培養液全体を測定した。
【図2】FK506及びFK520のLC−Mass分析結果である。FK506[M+NH3+]、〜822;FK520[M−NH3+]、〜810
【図3】合成樹脂別FK506及びFK520の生産量を示したグラフである。培養培地に多様な種類の合成樹脂をそれぞれ5%(V/V)添加した。樹脂を添加した後、殺菌して6日間発酵させ、FK506及びFK520の生産量を測定した。対照区は、合成樹脂無添加区である。
【図4】樹脂添加日別FK506及びFK520の生産量を示したグラフである。樹脂(HP−20)を使用して実験した。樹脂は、培養中に別途に殺菌し、最終的に5%(V/V)になるように表示された培養日に添加した。6日間発酵して生産量を測定した。対照区は、樹脂無添加区である。
【図5】培養日別及び樹脂添加日別FK506及びFK520の生産量を比較したグラフである。−■−、樹脂無添加培養日別FK506生産量;発酵培養の間、表示された日に少量回収して生産量を測定した。−●−、樹脂添加培養日別FK506生産量;図4に記録された生産量数値をそのまま使用した。
【図6】樹脂添加量によるFK506及びFK520の生産量を示したグラフである。樹脂添加量は体積比である。対照区は、樹脂無添加試験区である。
【図7】FK506に対する放線菌の感受性試験結果である。試験放線菌は、1.ストレプトマイセス・ベネズェラエ(Streptomyces venezuelae);2.ストレプトマイセス属GT1005;3.ストレプトマイセス属ATCC55098であり、図面に表示された濃度のFK506を使用して感受性を試験した。
【図8】溶媒別FK506及びFK520の抽出量を示したグラフである。樹脂(HP−20)を添加した発酵培養試験区で樹脂のみを抽出した後、2倍の体積比の溶媒を加えて抽出・定量した。
【図9】樹脂再生によるFK506の生産量を比較したグラフである。樹脂(HP−20)の添加量は5%(V/V)である。樹脂無添加区を対照区とし、新生樹脂(New)、1回使用した樹脂(Re−1)、2回使用した樹脂(Re−2)を実施例7に記録した方法で再生して使用した。
【発明を実施するための形態】
【0011】

本発明は、放線菌の発酵培地にトリシクロ化合物の担体として提供可能な疎水性吸着合成樹脂を添加し、発酵を行って可逆反応を防止することによって、トリシクロ化合物、特に、FK506及びFK520(化2)の生産量増加をもたらす発酵方法を提供するものである。
さらに、本発明はトリシクロ化合物を発酵培地に添加された樹脂から抽出し、精製工程に適用する方法を提供するものである。
【0012】
【化2】

【0013】
(ただし、R=Cである場合はFK506で、R=Cである場合はFK520である。)

以下、本発明を詳細に説明する。

本発明の実施例に使用された菌株は、FK506及びFK520を同時に生産する菌株であるストレプトマイセス属GT1005である。しかし、本発明は、前記菌株に限定されるものでなく、トリシクロ化合物、特に、FK506生産菌株及び/又はFK520の生産菌株に適用可能である。

トリシクロ化合物は疎水性であるので、この化合物の担体になり得る疎水性吸着合成樹脂を発酵培地に添加することによって、疎水性である菌糸体にトリシクロ化合物が吸着し、これによる生産阻害現象を克服するとともに、生産増大を達成することができる。

担体として使用される疎水性吸着樹脂は、スチレン/ジビニルベンゼン重合体又は脂肪族エステルを主要成分とする合成樹脂であり、Diaion HP−20、Amberlite XAD−2、Amberlite XAD−4、Amberlite XAD−7、Amberlite XAD−7HP、Amberlite XAD−8、Amberlite XAD−16、Amberlite XAD−16 HP、Amberlite XAD−1180、Amberlite XAD−2000、Amberlite XAD−2010(非極性多方向性樹脂)などで構成されたグル−プのうち1種を選択することが望ましい。

合成樹脂の添加量は、1〜15%(V/V)まで多様であり、3〜5%(V/V)であることが望ましく、5%(V/V)であることが最も望ましい。合成樹脂を培養培地に直接添加して発酵を行う場合、3倍以上の生産収率の増大を期待することができる。

培養培地に合成樹脂を添加する時期は、培養開始日から培養終了日までであり、培養開始後3日以内(0〜72時間)であることが望ましい。これは、トリシクロ化合物の生産特性と密接な関係を有する。すなわち、樹脂無添加試験区で、FK506は、培養2日目から生産が増加し、5〜6日目に最高生産量を示した。したがって、生産量の増大のためには、合成樹脂を培養初期から添加することがより望ましい。

トリシクロ化合物、特に、FK506及びFK520は、合成樹脂が添加された後、4〜7日間培養された発酵液から回収する。生産されたほとんどのトリシクロ化合物は、担体として供与された疎水性吸着性合成樹脂に吸着されているので(90〜98%)、菌体及び培養液から合成樹脂を分離した後、合成樹脂から化合物を回収することがより望ましい。

合成樹脂は、遠心分離法又はろ過法で回収する。合成樹脂の大きさ(平均250μm)より小さい篩目の大きさ(平均250μm)を有する繊維組織又は金属で構成された網紗を使用することが望ましく、金属網紗(篩目の大きさ、60〜250μm)を使用することがより望ましい。

合成樹脂からトリシクロ化合物を溶出するための溶媒としては、メタノ−ル、エタノ−ル、アセトン、アセトニトリル、ブタノ−ル、イソプロパノ−ル、エチルアセテ−ト、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサンのうち1種を選択し、水と混合可能な溶媒であるメタノ−ル、エタノ−ル、アセトン、アセトニトリルを使用することが望ましく、アセトン及びアセトン水溶液(40〜100%)を使用することが最も望ましい。

以下、実施例を通して本発明の構成をより詳細に説明する。しかし、本発明の範囲が実施例によって制限されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって明らかである。
【実施例1】
【0014】
トリシクロ化合物生産のための発酵

トリシクロ化合物の生産のために、ストレプトマイセス属GT1005菌株の菌糸体貯蔵液を種培養培地(1%水溶性澱粉、1%グリセロ−ル、2%豆の粉、0.2%CaCO、0.05%GE−304)に接種し、27〜30℃で24時間培養した後、本培養培地{7%水溶性澱粉、0.5%豆の粉、1.7%酵母抽出物、0.1%(NHSO、0.5%コ−ンスティ−プリカ−(corn steep liquor)、0.1%CaCO、0.05%GE−304}に1〜5%接種し、27〜30℃で6日間培養した。三角フラスコ培養は、種培養と本培養のいずれにおいても30mlの培地が入った500mlフラスコを使用し、230rpmで振蕩培養した。5l培養は、本培養培地を3l使用して1.5vvmの通気度及び600rpm〜900rpmで行い、担体として添加された疎水性吸着性固形樹脂は、diaion HP−20、Amberlite XAD4、Amberlite XAD7H、Amberlite XAD16から選択して添加し、実施例によって添加時期及び量を異ならせた。
【実施例2】
【0015】
トリシクロ化合物の確認及び定量

トリシクロ化合物のうちFK506及びFK520を確認して定量した。FK506及びFK520は、標準物質としてA.G.Sientific社から購入して使用した。標準物質及び発酵産物に存在するFK506及びFK520は、LC−ESI−MS/MSで分子量を確認し(FK506、M/Z 822;FK520 M/Z 810)、必要であれば、試料と標準物質の同時注入によって同一の滞留時間(FK506、34分:FK520 33分)を確認して検証した(図1、2)。定量のためのHPLC条件は表1に示す通りであり、最終試料としては50%アセトン水溶液に溶かした試料を使用し、定量標準曲線の有効量(0.1〜1mg)を逸脱しない範囲内の量で実施した。
【0016】
【表1】

【実施例3】
【0017】
担体として供与された固体樹脂別生産量増加効果

生産されたトリシクロ化合物(FK506、FK520)は、ほとんどが菌糸体に存在する(図1)。これは、トリシクロ化合物の化学的物性が疎水性であることと関係を有すると推定される。生合成された疎水性トリシクロ化合物は、疎水性を示す放線菌の菌糸体に吸着されて蓄積される。蓄積された過量のトリシクロ化合物は、究極的に細胞の成長減少又はフィ−ドバック抑制を通してトリシクロ化合物の生産を中断又は減少させると判断された。菌糸体と類似した性質を有する疎水性固体物質を発酵培地に添加する場合、菌糸体の代わりにトリシクロ化合物の担体になり得る。すなわち、本発明者らは、疎水性固体合成樹脂を発酵培地に添加して発酵を行う場合、生産されるトリシクロ化合物が菌糸体の代わりに疎水性固体合成樹脂に吸着されると予測した。

発酵培地に添加する吸着樹脂としては、HP−20(Yiryoong Chemicals Co.,Ltd.)、Amberlite XAD−4(Rohm&Hass)、Amberlite XAD−7H(Rohm&Hass)、Amberlite XAD−16(Rohm&Hass)を使用して本培養培地内に5%(v/v)の割合で添加し、30ml培地に500mlの三角フラスコを使用して前記実施例1の方法で6日間培養した後、トリシクロ化合物、特に、FK506及びFK520の含量を実施例2の方法で調査した。

表2は、担体として供与された樹脂の種類による化合物の生産量を示したものである。
【0018】
【表2】

【0019】

その結果、表2及び図3に示すように、培養液に樹脂が添加された場合、対照区のトリシクロ化合物であるFK506及びFK520の生産量に比べて、樹脂が添加された処理区で生産量が2.5倍以上増加したことを確認することができた。FK506及びFK520のいずれにおいても類似した割合で生産量が増加する理由は、FK506とFK520の物性、構造的特性及び推定される生合成過程の調節が類似しており、二つの物質が類似した割合で増加するためであると判断される。
【実施例4】
【0020】
発酵培養時期別の固体合成樹脂の添加による生産量増大効果

固体合成樹脂の添加に適した時間を決定するために、発酵培地に発酵開始から終了1日前まで5日間、1日間隔で実施例3で選択されたHP−20樹脂を5%(v/v)の割合で培養培地に添加して発酵した後、実施例1のように6日間培養し、実施例2のようにトリシクロ化合物(FK506、FK520)の含量を調査した。

表3は、樹脂の添加日による化合物の生産量を示す。
【0021】
【表3】

【0022】

その結果、表3及び図4に示すように、培養初期から添加した試験区で最も高い生産増加を示すことが分かる。すなわち、発酵当日から2日(48時間)間に添加した試験区で約3倍増加し、3日後には増加幅が減少しはじめ、発酵満了1日前、すなわち、培養後5日目に添加した試験区では生産量の増加がほとんどない。これは、合成樹脂無添加試験区でのFK506の生産曲線に逆比例している(図5)。すなわち、生産が開始される初期段階である3日の前に樹脂を添加したときに生産量の増大効果があり、生産が完了した時点で樹脂を添加したときには増大の効果がなかった。したがって、発酵初期に合成樹脂を添加することが最も重要であった。後述する実施例5、6の樹脂添加実験区は、発酵と同時に合成樹脂を添加するために、樹脂が添加された発酵培地を調製・殺菌して種菌を接種した後、発酵を開始した。
【実施例5】
【0023】
担体として供与された固体樹脂量による化合物生産量増加効果

実施例3で使用した合成樹脂の1種であるHP20樹脂を選択し、実施例4で確認したように、発酵培地に3%、5%、7%、10%(v/v)の割合で添加した後、前記実施例1の方法で6日間培養し、前記実施例2の方法でトリシクロ化合物を抽出し、HPLCで含量を分析した。

表4は、樹脂の添加量による生産量を示す。
【0024】
【表4】

【0025】

その結果、表4及び図6から確認できるように、HP20が濃度3%、5%で添加された処理区でFK506及びFK520の生産量が最も高く示され、合成樹脂添加比率が高いほど生産量が少量減少する傾向が示された。これは、過量の樹脂の添加が菌の生育に有害な影響を与えるためであると判断された。
【実施例6】
【0026】
トリシクロ化合物の合成樹脂による生産量増大の原因

合成樹脂による化合物生産量増大の理由を具体的に説明するために、菌糸体の通過は難しく、培地の通過が容易な捕集網(Miracloth、Calbiochemt)で合成樹脂を分離し、発酵培地に含ませて実施例1のように発酵を行った。その結果、合成樹脂を分離して添加した試験区では、樹脂による生産量増大効果がなかった(表5)。
【0027】
【表5】

【0028】

このような結果は、トリシクロ化合物の合成樹脂への吸着において、菌体と合成樹脂との接触が重要な要素であることを意味し、合成樹脂による生産量増加のメカニズムは、菌糸体に吸着されたトリシクロ化合物が疎水性合成樹脂に移譲されることによって、菌糸体に吸着されているトリシクロ化合物が減少し、その結果、トリシクロ化合物の菌体に対する毒性が減少したり、フィ−ドバック阻害が解消され、生産の増加をもたらすと判断することができる。

合成樹脂によるトリシクロ化合物の生産量増大の原因をより綿密に推定するために、培養液に存在するFK506及びFK520の分布を確認した。培養に添加したHP20樹脂、菌体、培養ろ液をそれぞれ分離し、トリシクロ化合物の含量を調査した。その結果、ほとんどの化合物(95〜99%)は、HP−20樹脂に吸着して存在し、菌体及び培養液には非常に少量(1〜5%)存在した(表6)。
【0029】
【表6】

【0030】

また、過量(1mg/ml)のFK506に対して試験した放線菌株においては、耐性が示され、生育の阻害が生じなかった(図7)。これは、トリシクロ化合物が抗真菌活性を有し、抗細菌活性を有さないという報告と一致している。合成樹脂によるFK506及びFK520の増加は、自体毒性の除去による過量生産が行われないことを表す。過量のトリシクロ化合物が存在する場合にも菌の生育に影響を及ぼさない点、また、樹脂の添加によって生育速度又は細胞の重量が増加しない点から見て、トリシクロ化合物又は他の二次産物の毒性減少を通した菌の生育増加によって生産力が増大するのではないと推定される。したがって、トリシクロ化合物又は他の二次代謝産物によるトリシクロ化合物の生産調節に関与するフィ−ドバック阻害を解消することによって、生産力の向上をもたらすと判断される。結果的に、合成樹脂を添加して発酵培養することを特徴とする本発明は、菌糸体に吸着するトリシクロ化合物、特に、FK506及びFK520を添加された合成樹脂に移譲することによってフィ−ドバック阻害を除去し、生産量の増大を達成するようになる。このような本発明は、菌糸体に吸着可能なトリシクロ化合物の量が制限され、高生産菌株開発の阻害要因として作用する点を改善させ、高生産菌株に改良する一つの方法に応用される。
【実施例7】
【0031】
固体樹脂の回収及び固体樹脂からのFK506の抽出及び再使用

実施例6の結果から確認されたほとんどのトリシクロ化合物が吸着された合成樹脂のみを分離し、FK506及びFK520を抽出した後、精製工程に適用した。合成樹脂(HP20)の大きさは平均250μm以上であるので、発酵が完了した培養液(5l)から合成樹脂を回収するために、篩目の大きさ250μm以下の銅網を使用した。回収された合成樹脂は、蒸溜水で洗浄し、これを適切な大きさのカラムに充填した。トリシクロ化合物は、充填された合成樹脂から多様な有機溶媒で抽出可能であり、特に、水との混合が自由なアセトン、メタノ−ル、エタノ−ル、アセトニトリルであることが望ましい(表7)。アセトンで抽出する場合、50%以上のアセトン水溶液で回収可能であり、70〜75%のアセトン水溶液の場合、不純物含有が低く、回収率が良好であった(図8)。75%のアセトンで抽出するとき、樹脂体積の3倍の40%アセトン水溶液で樹脂を洗浄した後、3倍の体積の75%アセトン水溶液で抽出した。このときの回収率は94%以上であった(表8)。したがって、HP20樹脂が添加された発酵液は、合成樹脂を培養液と分離収去し、抽出溶媒を使用することによって抽出溶媒の使用量を減少させることができ、ほとんどのトリシクロ化合物を抽出可能であり、非常に効率的であった。

表7は、樹脂からの溶媒抽出による化合物回収度を示したものである。
【0032】
【表7】

【0033】

表8は、樹脂からのアセトン水溶液抽出による化合物の回収度を示したものである。
【0034】
【表8】

【0035】

表9は、再生樹脂の吸着能力を示したものである。
【0036】
【表9】

【0037】

また、回収した合成樹脂(HP20)を50%イソプロピルアルコ−ル+50%1N NaOH水溶液、4%NaOCl水溶液及び蒸溜水でそれぞれ4倍の体積比で順次洗浄し、再生して繰り返し使用する場合も新生樹脂の約90%の効果を奏した(図9、表9)。
【0038】
これまで本発明を実施例と添付の図面を参照しながら説明したが、本発明はこれらの実施例や図面に限定されるものではない。付属の請求項に開示される本発明の範囲や精神から逸脱することなく、多様な変形、追加、代用が通常の知識を持つ当業者によって作られうることを理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0039】

本発明は、FK506及びFK520などの疎水性トリシクロ化合物を短時間内に高い収率で製造することができ、疎水性トリシクロ化合物の効率的な生産に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリシクロ化合物生産菌株の発酵及び精製時、トリシクロ化合物生産菌株に疎水性吸着樹脂を加えて培養し、前記疎水性吸着樹脂を回収し、前記疎水性吸着樹脂からトリシクロ化合物を回収することを特徴とする、疎水性吸着樹脂を加えて生産収率及び精製効率を向上させるトリシクロ化合物生産方法。
【請求項2】
前記トリシクロ化合物は、FK506及びFK520のうち1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項3】
前記疎水性吸着樹脂は、スチレン/ジビニルベンゼン重合体及び脂肪族エステル重合体を主要成分とする樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項4】
前記疎水性吸着樹脂は、Diaion HP−20、Amberlite XAD−2、Amberlite XAD−4、Amberlite XAD−7、Amberlite XAD−7HP、Amberlite XAD−8、Amberlite XAD−16、Amberlite XAD−16HP、Amberlite XAD−1180、Amberlite XAD−2000及びAmberlite XAD−2010から選択される1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項1又は3に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項5】
前記疎水性吸着樹脂は、3〜7%(v/v)であることを特徴とする、請求項1、3及び4のうちいずれか一つの項に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項6】
前記疎水性吸着樹脂は、培養開始後3日以内に添加することを特徴とする、請求項1に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項7】
前記疎水性吸着樹脂からトリシクロ化合物を回収するにおいて、トリシクロ化合物の回収に使用される溶出液は、アセトン、メタノ−ル、エタノ−ル、アセトニトリル、エチルアセテ−ト、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンで構成されたグル−プから選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項8】
前記溶出液は、50〜100%(v/v)のアセトン水溶液であることを特徴とする、請求項7に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項9】
前記疎水性吸着樹脂は、再生して使用することを特徴とする、請求項1に記載のトリシクロ化合物生産方法。
【請求項10】
前記疎水性吸着樹脂を50%イソプロピルアルコ−ルと50%1N NaOH水溶液との混合溶媒、4%NaOCl水溶液及び蒸溜水で順次洗浄することを特徴とする、請求項9に記載のトリシクロ化合物生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−505791(P2011−505791A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519850(P2010−519850)
【出願日】平成20年5月6日(2008.5.6)
【国際出願番号】PCT/KR2008/002520
【国際公開番号】WO2009/025439
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510020538)ジェノテック カンパニー,リミテッド (3)
【Fターム(参考)】