説明

発電所の積算制御装置

【課題】 発電所における最大出力などの上限値をより厳格に管理しつつ、運用効率を向上させる。
【解決手段】 積算周期ごとに発電電力の瞬時値の積算値を積算電力量として求める電力量積算部と、積算電力量の目標値である第1積算目標値を算出する第1目標値算出部と、発電電力の瞬時値から所定の目標値である第1瞬時目標値を減算して第1差分を求める第1減算部と、積算電力量から第1積算目標値を減算して第2差分を求める第2減算部と、第1,2差分に基づいて、現在の積算周期の最後において積算電力量が第1積算目標値と一致するように発電設備を制御するための制御信号を出力する第1判定部と、を有し、第1目標値算出部は、現在の積算周期の最後において第2差分が正の場合には、現在の積算周期の最後において第1積算目標値から第2差分以上の値を減算した値を次の積算周期の最後における第1積算目標値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所の積算制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所においては、発電機やその他の発電設備からの入力信号に基づいて、発電電力などを制御する自動制御装置が用いられている。また、特に水力発電所においては、例えば図14に示すように、発電電力Pだけでなく取水量Qも計測され、自動制御装置5は、これらに基づいて発電設備を制御するための制御信号S5を出力している。
例えば、特許文献1では、起動停止時にのみ必要とする入力信号/制御信号のための入/出力部をそれぞれ一基分の共用入/出力部とすることによって、コンパクトで経済性が向上した水力発電所の自動制御装置が開示されている。また、例えば、特許文献2では、流量計を用いて取水量を計測するのではなく、静落差をパラメータとして発電電力と取水量(使用水量)との関係を示すPQカーブを用いて取水量を算出して、制御を行う水力発電所自動運転制御装置が開示されている。
このようにして、発電電力や取水量などの入力信号に基づいて発電設備の自動制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−93994号公報
【特許文献2】特開昭61−182472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような自動制御装置では、最大出力や許可取水量を超過しないよう、装置の不感帯を考慮して、これらの上限値から例えば5%ないし10%をカットした目標値での運用を行っている。しかしながら、このような運用は非効率であり、特に水力発電所においては、溢水(事故)電力の割合が増加することとなる。
また、自動制御装置は、発電電力や取水量の瞬時値を用いて制御を行っているため、装置の不感帯などの要因によって、発電電力(取水量)の1時間平均値や1日平均値が最大出力(許可取水量)を若干超過してしまう可能性がある。しかしながら、より厳格に上限値以下に制御するために目標値をさらにカットすれば、発電所の運用効率がさらに低下することとなる。そのため、自動制御装置を備えた発電所の制御システムにおいて、厳格な上限値の管理と運用効率の向上とはトレードオフの関係となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述した課題を解決する主たる本発明は、発電機を含む発電設備からの入力信号に基づいて前記発電設備を制御する発電所の自動制御装置とともに用いられる積算制御装置であって、所定の積算周期ごとに前記発電機の発電電力の瞬時値を積算して、現在の積算周期における現時点までの積算値を積算電力量として求める電力量積算部と、前記積算電力量の目標値である第1の積算目標値を算出する第1の目標値算出部と、前記発電電力の瞬時値から、前記発電電力の瞬時値の所定の目標値である第1の瞬時目標値を減算して第1の差分を求める第1の減算部と、前記積算電力量から前記第1の積算目標値を減算して第2の差分を求める第2の減算部と、前記第1および第2の差分に基づいて、現在の積算周期の最後において前記積算電力量が前記第1の積算目標値と一致するように前記発電設備を制御するための制御信号を出力する第1の判定部と、を有し、前記第1の目標値算出部は、現在の積算周期の最後において前記第2の差分が0以下の場合には、現在の積算周期における第1の積算目標値を次の積算周期における第1の積算目標値として算出し、現在の積算周期の最後において前記第2の差分が正の場合には、現在の積算周期の最後において第1の積算目標値から前記第2の差分以上の値を減算した値が次の積算周期の最後における第1の積算目標値となるように、次の積算周期の第1の積算目標値を算出することを特徴とする発電所の積算制御装置である。
【0006】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発電所における最大出力などの上限値をより厳格に管理しつつ、運用効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態における積算制御装置のうち、電力量ブロックの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における積算制御装置を備えた水力発電所の制御システム全体の構成の概略を示すブロック図である。
【図3】現在の積算周期の最後における差分ΔPI(T)が0以下の場合の目標値算出部12の動作を説明する図である。
【図4】現在の積算周期の最後における差分ΔPI(T)が正の場合の目標値算出部12の動作を説明する図である。
【図5】差分ΔPが閾値Pth(>0)以上となった場合の判定部15の動作を説明する図である。
【図6】予測差分値ΔPIprが正となった場合の判定部15の動作を説明する図である。
【図7】予測差分値ΔPIprが閾値PIth(<0)以下となった場合の判定部15の動作を説明する図である。
【図8】本発明の一実施形態における積算制御装置のうち、取水量ブロックの構成を示すブロック図である。
【図9】現在の積算周期の最後における差分ΔQI(T)が0以下の場合の目標値算出部22の動作を説明する図である。
【図10】現在の積算周期の最後における差分ΔQI(T)が正の場合の目標値算出部22の動作を説明する図である。
【図11】差分ΔQが閾値Qth(>0)以上となった場合の判定部25の動作を説明する図である。
【図12】予測差分値ΔQIprが正となった場合の判定部25の動作を説明する図である。
【図13】予測差分値ΔQIprが閾値QIth(<0)以下となった場合の判定部25の動作を説明する図である。
【図14】自動制御装置を備えた一般的な水力発電所の制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
===発電所の制御システム全体の構成の概略===
以下、図2を参照して、本発明の一実施形態における積算制御装置を備えた発電所の制御システム全体の構成の概略について説明する。本実施形態においては、特に水力発電所の制御システムについて説明する。
図2に示されている制御システムは、(水車)発電機9、その制御機構91、送電線92、電力計93、および流量計94などを含む発電設備を制御するためのシステムであり、自動制御装置5とともに積算制御装置1を含んで構成されている。当該制御システムは、図14に示した一般的な水力発電所の制御システムにおける既設の設備に対して、積算制御装置1が追加されている。
【0011】
電力計93は、発電機9の発電電力の瞬時値Pを計測するように、発電機9に接続された送電線92に設置されている。また、流量計94は、取水口における河川からの取水量や発電に使用する使用水量(以下、取水量と総称する)の瞬時値Qを計測するように設置されている。
【0012】
発電電力(瞬時値)Pおよび取水量(瞬時値)Qは、いずれも自動制御装置5および積算制御装置1に入力されている。また、自動制御装置5から出力される制御信号S5、および積算制御装置1から出力される制御信号S1は、いずれも発電機9の制御機構91に入力されている。さらに、自動制御装置5から積算制御装置1には、流入量Qiが入力され、積算制御装置1から自動制御装置5には、ロック信号LKが入力されている。
【0013】
積算制御装置1は、電力量ブロック10および取水量ブロック20と、これらのブロック共用の時計部30および出力部40とを含んで構成されている。なお、電力量ブロック10および取水量ブロック20の構成についての詳細な説明は後述する。
【0014】
===発電所の制御システム全体の動作の概略===
以下、発電所の制御システム全体の動作の概略について説明する。
電力計93は、発電電力(瞬時値)Pを計測して出力する。また、流量計94は、取水量(瞬時値)Qを計測して出力する。
自動制御装置5は、発電電力(瞬時値)Pおよび取水量(瞬時値)Qに基づいて制御信号S5を出力する。また、積算制御装置1は、発電電力(瞬時値)P、取水量(瞬時値)Q、および流入量Qiに基づいて制御信号S1およびロック信号LKを出力する。そして、発電機9の制御機構91は、制御信号S5およびS1に応じて制御される。したがって、自動制御装置5および積算制御装置1は、協働して発電機9の制御機構91を制御し、その結果、発電電力(瞬時値)Pおよび取水量(瞬時値)Qなどが制御される。なお、積算制御装置1から自動制御装置5にロック信号LKが入力されている間は、自動制御装置1による制御が停止し、発電機9の制御機構91は、積算制御装置1のみによって制御される。
【0015】
===電力量ブロックの構成===
以下、図1を参照して、本発明の一実施形態における積算制御装置のうち、電力量ブロックの構成について説明する。
電力量ブロック10は、電力量積算部11、目標値算出部12、減算部13、14、および判定部15を含んで構成されている。また、時計部30から電力量ブロック10には、現在時刻CTが入力されており、当該現在時刻CTは、電力量積算部11、目標値算出部12、および判定部15で用いられる。
【0016】
電力量積算部11には、発電電力(瞬時値)Pが入力され、電力量積算部11からは、発電電力(瞬時値)Pおよび積算電力量PI(t)が出力されている。また、(第1の)減算部13には、発電電力(瞬時値)Pおよび(第1の)瞬時目標値Ptgが入力され、減算部13からは、(第1の)差分ΔPが出力されている。
【0017】
(第1の)目標値算出部12には、(第1の)積算目標値PItg(t)の初期値PI0(t)および(第2の)差分ΔPI(t)が入力され、目標値算出部12からは、積算目標値PItg(t)が出力されている。また、(第2の)減算部14には、積算電力量PI(t)および積算目標値PItg(t)が入力され、減算部14からは、差分ΔPI(t)が出力されている。
【0018】
(第1の)判定部15には、積算電力量PI(t)、流入量Qi、および差分ΔP、ΔPI(t)が入力され、判定部15からは、制御信号S1pおよびロック信号LKpが出力されている。これらの信号は、取水量ブロック20から出力される制御信号S1qおよびロック信号LKqとともに出力部40に入力され、出力部40からは、制御信号S1およびロック信号LKが出力されている。
【0019】
===電力量ブロックの動作===
以下、図3ないし図7を適宜参照して、本実施形態における積算制御装置の電力量ブロックの動作について説明する。なお、以下の説明においては、一例として、所定の積算周期を毎時0分(毎正時)からの1時間(60分)とし、当該積算周期内のある時点をt(0≦t≦T=60)と表すこととする。また、当該積算周期の第n周期の最後の時点をt=Tと表すこととする。
【0020】
電力量積算部11は、所定の積算周期(1時間)ごとに発電電力(瞬時値)Pを積算して、現在の積算周期における現時点tまでの積算値を積算電力量PI(t)として求める。したがって、積算電力量PI(t)は、毎時0分(t=0)にリセットされ、その積算周期の最後(t=T)まで積算される。また、減算部13は、発電電力(瞬時値)Pから、その所定の目標値である瞬時目標値Ptgを減算して、差分ΔP=P−Ptgを求める。
【0021】
なお、電力量積算部11は、電力計93から入力される発電電力(瞬時値)Pを適宜変換する。例えば、電力計93の出力が2進化10進数(BCD:Binary-Coded Decimal)である場合には、必要に応じて2進数に変換して出力する。また、電力量積算部11は、電力量計のパルス出力をカウントすることによって積算電力量PI(t)を求める構成としてもよい。
【0022】
目標値算出部12は、積算電力量PI(t)の目標値である積算目標値PItg(t)を算出する。また、減算部14は、積算電力量PI(t)から積算目標値PItg(t)を減算して、差分ΔPI(t)=PI(t)−PItg(t)を求める。そして、目標値算出部12は、差分ΔPI(t)に基づいて、積算周期ごとに(毎時0分に)積算目標値PItg(t)を更新する。なお、最初の積算周期においては、初期値PI0(t)が積算目標値PItg(t)として用いられる。
【0023】
ここで、図3および図4を参照して、積算目標値PItg(t)の算出(更新)方法について説明する。なお、図3および図4においては、現在の積算周期を第n周期とし、次の積算周期を第(n+1)周期としている。
【0024】
図3は、t=Tの時点(現在の積算周期の最後)において、実線で示される積算電力量PI(t)が長破線で示される積算目標値PItg(t)以下となった場合、すなわち、ΔPI(T)=PI(T)−PItg(T)≦0の場合を示している。この場合、目標値算出部12は、積算目標値PItg(t)を更新せず、現在の積算周期における積算目標値PItg(t)をそのまま次の積算周期における積算目標値PItg(t)として算出する。したがって、t=Tn+1の時点(次の積算周期の最後)における積算目標値PItg(Tn+1)は、t=Tの時点における積算目標値PItg(T)に等しく、次の積算周期における積算目標値PItg(t)は、
PItg(t)=PItg(Tn+1)×(t/T)
=PItg(T)×(t/T)
となる。
【0025】
一方、図4は、t=Tの時点において、積算電力量PI(t)が積算目標値PItg(t)を超えた場合、すなわち、ΔPI(T)>0の場合を示している。この場合、目標値算出部12は、まず、t=Tの時点において積算目標値PItg(t)から差分ΔPI(t)を減算した値、すなわち、PItg(T)−ΔPI(T)をt=Tn+1の時点における積算目標値PItg(Tn+1)として算出する。そして、次の積算周期における積算目標値PItg(t)は、
PItg(t)=[PItg(T)−ΔPI(T)]×(t/T)
と算出することができる。
【0026】
このようにして、目標値算出部12は、現在の積算周期における1時間分の積算電力量PI(T)がその積算目標値PItg(T)を超えた場合に、当該超過分だけ次の積算周期における1時間分の積算電力量PI(Tn+1)を減少させる。したがって、積算制御装置1(電力量ブロック10)は、例えば発電電力の1日平均値が最大出力以下となるように積算目標値PItg(t)を自動的に調整することができる。そのため、自動制御装置5において一律に目標値をカットする必要がなく、最大出力をより厳格に管理しつつ、効率的な運用を行うことができる。なお、次の積算周期における1時間分の積算電力量PI(Tn+1)を超過分以上に減少させることによって、より最大出力を超過しない安全サイドに補正してもよい。
【0027】
判定部15は、差分ΔPおよびΔPI(t)に基づいて、現在の積算周期の最後において積算電力量PI(t)が積算目標値PItg(t)と一致するように、制御信号S1pおよびロック信号LKpを出力する。そして、当該制御信号S1pおよびロック信号LKpは、出力部40からそれぞれ制御信号S1およびロック信号LKとして出力され、発電機9の制御機構91が制御される。
【0028】
ここで、図5ないし図7を参照して、判定部15のより具体的な動作の一例について説明する。
図5は、t=t1の時点において、発電電力(瞬時値)Pが瞬時目標値Ptgと所定の正の(第1)閾値Pthとの和以上となった場合、すなわち、ΔP=P−Ptg≧Pthの場合を示している。この場合、判定部15は、t=Tの時点(現在の積算周期の最後)において積算電力量PI(t)が積算目標値PItg(t)と一致するように、すなわち、PI(T)=PItg(T)となるように、制御信号S1pとして、発電機9の発電電力を減少させる下げ指令を出力する。図5においては、
PI(t2)+P×(T−t2)=PItg(T)
となるt=t2の時点まで下げ指令が出力されている。
【0029】
図6は、t=t3の時点において、t=Tの時点における差分ΔPI(T)の予測値である(第1の)予測差分値ΔPIprが正となった場合を示している。ここで、予測差分値ΔPIprは、t=t3の時点における差分ΔPI(t3)に基づいて、
ΔPIpr=ΔPI(t3)×(T/t3)
と算出することができる。この場合、判定部15は、ロック信号LKpを出力して自動制御装置1による制御を停止させるとともに、図5の場合と同様に、PI(T)=PItg(T)となるように下げ指令を出力する。したがって、発電機9は、t=t3の時点以降、次の積算周期まで出力一定運転となる。
【0030】
一方、図7は、t=t3の時点において、予測差分値ΔPIprが所定の負の(第2)閾値PIth以下となった場合を示している。この場合、判定部15は、PI(T)=PItg(T)となるように、制御信号S1pとして、発電機9の発電電力を増加させる上げ指令を出力する。なお、上げ指令を出力する場合、判定部15は、取水が可能な範囲で、すなわち、流入量Qiが上げ指令による取水量を上回る範囲で上げ指令を出力することとなる。
【0031】
このようにして、判定部15は、現在の積算周期における1時間分の積算電力量PI(T)がその積算目標値PItg(T)と一致するように、制御信号S1pおよびロック信号LKpを出力して発電機9の発電電力を増減させる。したがって、積算制御装置1(電力量ブロック10)は、例えば発電電力の1時間平均値が最大出力以下となるように発電機9の制御機構91を制御することができる。そのため、自動制御装置5と協働して、またはロック信号LKpを出力して単独で、最大出力をより厳格に管理しつつ、効率的な運用を行うことができる。なお、水力系の応答遅れを考慮して、各制御周期において所定のt=Tthの時点を超えた場合には、図6および図7に示したような差分ΔPI(t)に基づく制御を行わない構成としてもよい。
【0032】
===取水量ブロックの構成===
以下、図8を参照して、本発明の一実施形態における積算制御装置のうち、取水量ブロックの構成について説明する。
取水量ブロック20は、取水量積算部21、目標値算出部22、減算部23、24、および判定部25を含んで構成されている。また、時計部30から取水量ブロック20には、現在時刻CTが入力されており、当該現在時刻CTは、取水量積算部21、目標値算出部22、および判定部25で用いられる。
【0033】
取水量積算部21には、取水量(瞬時値)Qが入力され、取水量積算部21からは、取水量(瞬時値)Qおよび積算取水量QI(t)が出力されている。また、(第3の)減算部23には、取水量(瞬時値)Qおよび(第2の)瞬時目標値Qtgが入力され、減算部23からは、(第3の)差分ΔQが出力されている。
【0034】
(第2の)目標値算出部22には、(第2の)積算目標値QItg(t)の初期値QI0(t)および(第4の)差分ΔQI(t)が入力され、目標値算出部22からは、積算目標値QItg(t)が出力されている。また、(第4の)減算部24には、積算取水量QI(t)および積算目標値QItg(t)が入力され、減算部24からは、差分ΔQI(t)が出力されている。
【0035】
(第2の)判定部25には、積算取水量QI(t)、流入量Qi、および差分ΔQ、ΔQI(t)が入力され、判定部25からは、制御信号S1qおよびロック信号LKqが出力されている。これらの信号は、電力量ブロック10から出力される制御信号S1pおよびロック信号LKpとともに出力部40に入力され、出力部40からは、制御信号S1およびロック信号LKが出力されている。
【0036】
===取水量ブロックの動作===
以下、図9ないし図13を適宜参照して、本実施形態における積算制御装置の取水量ブロックの動作について説明する。
取水量積算部21は、所定の積算周期(1時間)ごとに取水量(瞬時値)Qを積算して、現在の積算周期における現時点tまでの積算値を積算取水量QI(t)として求める。したがって、積算取水量QI(t)は、積算電力量PI(t)と同様に、毎時0分(t=0)にリセットされ、その積算周期の最後(t=T)まで積算される。また、減算部23は、取水量(瞬時値)Qから、その所定の目標値である瞬時目標値Qtgを減算して、差分ΔQ=Q−Qtgを求める。
【0037】
なお、取水量積算部21は、流量計93から入力される取水量(瞬時値)Qを適宜変換する。また、取水量積算部21は、特許文献2の水力発電所自動運転制御装置と同様に、静落差をパラメータとして発電電力と取水量との関係を示すPQカーブを用いて取水量を算出し、算出した取水量を積算して積算取水量QI(t)を求める構成としてもよい。さらに、流量計94に代えて流速計を用いて取水量を計測してもよく、水位計によって計測された水路水位を取水量に換算して使用してもよい。
【0038】
目標値算出部22は、積算取水量QI(t)の目標値である積算目標値QItg(t)を算出する。また、減算部24は、積算取水量QI(t)から積算目標値QItg(t)を減算して、差分ΔQI(t)=QI(t)−QItg(t)を求める。そして、目標値算出部22は、差分ΔQI(t)に基づいて、積算周期ごとに(毎時0分に)積算目標値QItg(t)を更新する。なお、最初の積算周期においては、初期値QI0(t)が積算目標値QItg(t)として用いられる。
【0039】
ここで、図9および図10を参照して、積算目標値QItg(t)の算出(更新)方法について説明する。なお、図9および図10においては、図3および図4と同様に、現在の積算周期を第n周期とし、次の積算周期を第(n+1)周期としている。
【0040】
図9は、t=Tの時点(現在の積算周期の最後)において、実線で示される積算取水量QI(t)が長破線で示される積算目標値QItg(t)以下となった場合、すなわち、ΔQI(T)=QI(T)−QItg(T)≦0の場合を示している。この場合、目標値算出部22は、積算目標値QItg(t)を更新せず、現在の積算周期における積算目標値QItg(t)をそのまま次の積算周期における積算目標値QItg(t)として算出する。したがって、t=Tn+1の時点(次の積算周期の最後)における積算目標値QItg(Tn+1)は、t=Tの時点における積算目標値QItg(T)に等しく、次の積算周期における積算目標値QItg(t)は、
QItg(t)=QItg(Tn+1)×(t/T)
=QItg(T)×(t/T)
となる。
【0041】
一方、図10は、t=Tの時点において、積算取水量QI(t)が積算目標値QItg(t)を超えた場合、すなわち、ΔQI(T)>0の場合を示している。この場合、目標値算出部22は、まず、t=Tの時点において積算目標値QItg(t)から差分ΔQI(t)を減算した値、すなわち、QItg(T)−ΔQI(T)をt=Tn+1の時点における積算目標値QItg(Tn+1)として算出する。そして、次の積算周期における積算目標値QItg(t)は、
QItg(t)=[QItg(T)−ΔQI(T)]×(t/T)
と算出することができる。
【0042】
このようにして、目標値算出部22は、現在の積算周期における1時間分の積算取水量QI(T)がその積算目標値QItg(T)を超えた場合に、当該超過分だけ次の積算周期における1時間分の積算取水量QI(Tn+1)を減少させる。したがって、積算制御装置1(取水量ブロック20)は、例えば取水量の1日平均値が許可取水量以下となるように積算目標値QItg(t)を自動的に調整することができる。そのため、自動制御装置5において一律に目標値をカットする必要がなく、許可取水量をより厳格に管理しつつ、効率的な運用を行うことができる。なお、次の積算周期における1時間分の積算取水量QI(Tn+1)を超過分以上に減少させることによって、より許可取水量を超過しない安全サイドに補正してもよい。
【0043】
判定部25は、差分ΔQおよびΔQI(t)に基づいて、現在の積算周期の最後において積算取水量QI(t)が積算目標値QItg(t)と一致するように、制御信号S1qおよびロック信号LKqを出力する。そして、当該制御信号S1qおよびロック信号LKqは、出力部40からそれぞれ制御信号S1およびロック信号LKとして出力され、発電機9の制御機構91が制御される。
【0044】
ここで、図11ないし図13を参照して、判定部25のより具体的な動作の一例について説明する。
図11は、t=t1の時点において、取水量(瞬時値)Qが瞬時目標値Qtgと所定の正の(第3)閾値Qthとの和以上となった場合、すなわち、ΔQ=Q−Qtg≧Qthの場合を示している。この場合、判定部25は、t=Tの時点(現在の積算周期の最後)において積算取水量QI(t)が積算目標値QItg(t)と一致するように、すなわち、QI(T)=QItg(T)となるように、制御信号S1qとして、当該水力発電所の取水量を減少させる下げ指令を出力する。図11においては、
QI(t2)+Q×(T−t2)=QItg(T)
となるt=t2の時点まで下げ指令が出力されている。
【0045】
図12は、t=t3の時点において、t=Tの時点における差分ΔQI(T)の予測値である(第2の)予測差分値ΔQIprが正となった場合を示している。ここで、予測差分値ΔQIprは、t=t3の時点における差分ΔQI(t3)に基づいて、
ΔQIpr=ΔQI(t3)×(T/t3)
と算出することができる。この場合、判定部25は、ロック信号LKqを出力して自動制御装置1による制御を停止させるとともに、図11の場合と同様に、QI(T)=QItg(T)となるように下げ指令を出力する。したがって、発電機9は、t=t3の時点以降、次の積算周期まで出力一定運転となる。
【0046】
一方、図13は、t=t3の時点において、予測差分値ΔQIprが所定の負の(第4)閾値QIth以下となった場合を示している。この場合、判定部25は、QI(T)=QItg(T)となるように、制御信号S1qとして、当該水力発電所の取水量を増加させる上げ指令を出力する。なお、上げ指令を出力する場合、判定部25は、取水が可能な範囲で、すなわち、流入量Qiが上げ指令による取水量を上回る範囲で上げ指令を出力することとなる。
【0047】
このようにして、判定部25は、現在の積算周期における1時間分の積算取水量QI(T)がその積算目標値QItg(T)と一致するように、制御信号S1qおよびロック信号LKqを出力して当該水力発電所の取水量を増減させる。したがって、積算制御装置1(取水量ブロック20)は、例えば取水量の1時間平均値が許可取水量以下となるように発電機9の制御機構91を制御することができる。そのため、自動制御装置5と協働して、またはロック信号LKqを出力して単独で、許可取水量をより厳格に管理しつつ、効率的な運用を行うことができる。なお、水力系の応答遅れを考慮して、各制御周期において所定のt=Tthの時点を超えた場合には、図12および図13に示したような差分ΔQI(t)に基づく制御を行わない構成としてもよい。
【0048】
前述したように、自動制御装置5とともに用いられる発電所の積算制御装置1(電力量ブロック10)において、積算電力量PI(t)から(第1の)積算目標値PItg(t)を減算して(第2の)差分ΔPI(t)を求め、現在の積算周期の最後(t=T)における差分ΔPI(T)≦0の場合には、積算目標値PItg(t)を更新せず、差分ΔPI(T)>0の場合には、積算目標値PItg(T)から少なくとも差分ΔPI(T)以上の値を減算した値を次の積算周期の最後(t=Tn+1)における積算目標値PItg(Tn+1)として算出することによって、現在の積算周期における1周期(例えば1時間)分の積算電力量PI(T)がその積算目標値PItg(T)を超えた場合に、当該超過分だけ次の積算周期における1周期分の積算電力量PI(Tn+1)を減少させることができる。そのため、自動制御装置5において一律に目標値をカットする必要がなく、発電所における最大出力をより厳格に管理しつつ、運用効率を向上させることができる。
【0049】
また、発電電力(瞬時値)Pから(第1の)瞬時目標値Ptgを減算して(第1の)差分ΔPを求め、差分ΔPが(第1)閾値Pth(>0)以上となった場合に、下げ指令を出力することによって、発電電力を減少させて現在の積算周期における1周期分の積算電力量PI(T)=PItg(T)となるように、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0050】
また、差分ΔPI(t)に基づいて(第1の)予測差分値ΔPIprを算出し、予測差分値ΔPIprが正となった場合に、ロック信号LKpとともに下げ指令を出力することによって、発電電力を減少させてPI(T)=PItg(T)となるように、自動制御装置1による制御を停止させて出力一定運転で、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0051】
また、予測差分値ΔPIprが(第2)閾値PIth(<0)以下となった場合に、上げ指令を出力することによって、発電電力を増加させてPI(T)=PItg(T)となるように、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0052】
また、特に水力発電所の積算制御装置1(取水量ブロック20)において、積算取水量QI(t)から(第2の)積算目標値QItg(t)を減算して(第4の)差分ΔQI(t)を求め、現在の積算周期の最後(t=T)における差分ΔQI(T)≦0の場合には、積算目標値QItg(t)を更新せず、差分ΔQI(T)>0の場合には、積算目標値QItg(T)から少なくとも差分ΔQI(T)以上の値を減算した値を次の積算周期の最後(t=Tn+1)における積算目標値QItg(Tn+1)として算出することによって、現在の積算周期における1周期(例えば1時間)分の積算取水量QI(T)がその積算目標値QItg(T)を超えた場合に、当該超過分だけ次の積算周期における1周期分の積算取水量QI(Tn+1)を減少させることができる。そのため、自動制御装置5において一律に目標値をカットする必要がなく、水力発電所における許可取水量をより厳格に管理しつつ、運用効率を向上させることができる。
【0053】
また、取水量(瞬時値)Qから(第2の)瞬時目標値Qtgを減算して(第3の)差分ΔQを求め、差分ΔQが(第3)閾値Qth(>0)以上となった場合に、下げ指令を出力することによって、取水量を減少させて現在の積算周期における1周期分の積算取水量QI(T)=QItg(T)となるように、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0054】
また、差分ΔQI(t)に基づいて(第2の)予測差分値ΔQIprを算出し、予測差分値ΔQIprが正となった場合に、ロック信号LKqとともに下げ指令を出力することによって、取水量を減少させてQI(T)=QItg(T)となるように、自動制御装置1による制御を停止させて出力一定運転で、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0055】
また、予測差分値ΔQIprが(第4)閾値QIth(<0)以下となった場合に、上げ指令を出力することによって、取水量を増加させてQI(T)=QItg(T)となるように、発電機9の制御機構91を制御することができる。
【0056】
また、静落差をパラメータとして発電電力と取水量との関係を示すPQカーブを用いて取水量を算出することによって、流量計、流速計、水位計などを設置しなくても、算出した取水量を積算して積算取水量QI(t)を求めることができる。
【0057】
なお、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0058】
上記実施形態では、特に水力発電所の制御システムについて説明したが、これに限定されるものではない。積算制御装置1は、水力発電所以外の発電所にも用いることができ、その場合には、取水量ブロック20を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 積算制御装置
5 自動制御装置
9 (水車)発電機
10 電力量ブロック
11 電力量積算部
12 目標値算出部
13、14 減算部
15 判定部
20 取水量ブロック
21 取水量積算部
22 目標値算出部
23、24 減算部
25 判定部
30 時計部
40 出力部
91 制御機構
92 送電線
93 電力計
94 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機を含む発電設備からの入力信号に基づいて前記発電設備を制御する発電所の自動制御装置とともに用いられる積算制御装置であって、
所定の積算周期ごとに前記発電機の発電電力の瞬時値を積算して、現在の積算周期における現時点までの積算値を積算電力量として求める電力量積算部と、
前記積算電力量の目標値である第1の積算目標値を算出する第1の目標値算出部と、
前記発電電力の瞬時値から、前記発電電力の瞬時値の所定の目標値である第1の瞬時目標値を減算して第1の差分を求める第1の減算部と、
前記積算電力量から前記第1の積算目標値を減算して第2の差分を求める第2の減算部と、
前記第1および第2の差分に基づいて、現在の積算周期の最後において前記積算電力量が前記第1の積算目標値と一致するように前記発電設備を制御するための制御信号を出力する第1の判定部と、
を有し、
前記第1の目標値算出部は、
現在の積算周期の最後において前記第2の差分が0以下の場合には、現在の積算周期における第1の積算目標値を次の積算周期における第1の積算目標値として算出し、
現在の積算周期の最後において前記第2の差分が正の場合には、現在の積算周期の最後において第1の積算目標値から前記第2の差分以上の値を減算した値が次の積算周期の最後における第1の積算目標値となるように、次の積算周期の第1の積算目標値を算出することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第1の判定部は、前記第1の差分が所定の正の第1閾値以上となった場合に、現在の積算周期の最後において前記積算電力量が前記第1の積算目標値と一致するように、前記発電電力を減少させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第1の判定部は、
現時点における第2の差分に基づいて、現在の積算周期の最後における第2の差分の予測値である第1の予測差分値を算出し、
前記第1の予測差分値が正となった場合には、前記自動制御装置による前記発電設備の制御を停止させるためのロック信号を出力するとともに、現在の積算周期の最後において前記積算電力量が前記第1の積算目標値と一致するように、前記発電電力を減少させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第1の判定部は、
前記第1の予測差分値が所定の負の第2閾値以下となった場合には、現在の積算周期の最後において前記積算電力量が前記第1の積算目標値と一致するように、前記発電電力を増加させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項5】
前記発電所が水力発電所である請求項1ないし請求項4の何れかに記載の積算制御装置であって、
前記所定の積算周期ごとに前記水力発電所の取水量の瞬時値を積算して、現在の積算周期における現時点までの積算値を積算取水量として求める取水量積算部と、
前記積算取水量の目標値である第2の積算目標値を算出する第2の目標値算出部と、
前記取水量の瞬時値から、前記取水量の瞬時値の所定の目標値である第2の瞬時目標値を減算して第3の差分を求める第3の減算部と、
前記積算取水量から前記第2の積算目標値を減算して第4の差分を求める第4の減算部と、
前記第3および第4の差分に基づいて、現在の積算周期の最後において前記積算取水量が前記第2の積算目標値と一致するように前記発電設備を制御するための制御信号を出力する第2の判定部と、
をさらに有し、
前記第2の目標値算出部は、
現在の積算周期の最後において前記第4の差分が0以下の場合には、現在の積算周期における第2の積算目標値を次の積算周期における第2の積算目標値として算出し、
現在の積算周期の最後において前記第4の差分が正の場合には、現在の積算周期の最後において第2の積算目標値から前記第4の差分以上の値を減算した値が次の積算周期の最後における第2の積算目標値となるように、次の積算周期の第2の積算目標値を算出することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第2の判定部は、前記第3の差分が所定の正の第3閾値以上となった場合に、現在の積算周期の最後において前記積算取水量が前記第2の積算目標値と一致するように、前記取水量を減少させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第2の判定部は、
現時点における第4の差分に基づいて、現在の積算周期の最後における第4の差分の予測値である第2の予測差分値を算出し、
前記第2の予測差分値が正となった場合には、前記自動制御装置による前記発電設備の制御を停止させるためのロック信号を出力するとともに、現在の積算周期の最後において前記積算取水量が前記第2の積算目標値と一致するように、前記取水量を減少させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発電所の積算制御装置であって、
前記第2の判定部は、
前記第2の予測差分値が所定の負の第4閾値以下となった場合には、現在の積算周期の最後において前記積算取水量が前記第2の積算目標値と一致するように、前記取水量を増加させる制御信号を出力することを特徴とする発電所の積算制御装置。
【請求項9】
請求項5ないし請求項8の何れかに記載の積算制御装置であって、
前記取水量積算部は、前記発電電力の瞬時値に基づいて前記取水量の瞬時値を算出して積算することを特徴とする発電所の積算制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−81291(P2013−81291A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219456(P2011−219456)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】