説明

発電装置、発電装置の制御方法、電子機器、および移動手段

【課題】 圧電材料の圧電効果を利用した小型の発電装置において、効率的に高い電圧を発生させることが可能な技術を提供する。
【解決手段】 変形方向を切り換えて変形する変形部材104と、前記変形部材104に設けられた圧電素子(108、109a、109b)と、機械式接点を有し、前記変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチ130a、130bと、前記圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターLと、前記共振回路に設けられたスイッチSWと、前記変位検出スイッチの導通状態又は非導通状態に基づいて、前記共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とする制御手段112と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電気エネルギーとして取り出す発電装置、その制御方法、この発電装置を含む電子機器、および移動手段等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこのような性質を利用して、片持ち梁を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
例えば、先端に錘を設けると共に圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。また、圧電素子で正の電荷が発生している間だけ接点が閉じるようにすることで、ダイオードでの電圧損失を発生させずに直流電流が得られるようにした技術も提案されている(特許文献2)。これら技術を用いれば、発電装置を小型化することができるので、例えば小型の電子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【特許文献2】特開2005−312269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている従来の技術では、得られる電圧が、圧電材料の電気分極によって生じる電圧までに限られるという問題があった。このため、ほとんどの場合は、別に昇圧回路が必要となり、発電装置を十分に小型化することが難しいという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、圧電材料の圧電効果を利用した小型の発電装置において、効率的に高い電圧を発生させることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、発電装置であって、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、機械式接点を有し、前記変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチと、前記圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、前記共振回路に設けられたスイッチと、前記変位検出スイッチの導通状態又は非導通状態に基づいて、前記共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える。
【0008】
本発明によれば、圧電素子が変形部材に設けられているので、変形部材が変形することにより、圧電素子も変形する。その結果、圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生する。なお、電荷の発生量は、圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。また、圧電素子はインダクターと共に共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、スイッチでの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通状態とする。圧電素子は変形部材と共に変形し、変形量が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、圧電素子で発生した電荷が最も多くなった時に、圧電素子がインダクターに接続されて共振回路を形成する。すると、圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込む。そして、圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダクターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、圧電素子の反対側の端子に流れ込む。この期間(すなわち、圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダクターを介して反対側の端子から再び圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従って、圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダクターを接続する前に圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、圧電素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によって発生した新たな電荷が積み増されるようにして圧電素子内に電荷が蓄積される。また、圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧回路を別途用意しなくても、圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じる電圧よりも高い電圧を発生させることができる。更に、こうして圧電素子内に効率よく電荷を蓄積するためには、圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成することが重要となる。ここで、本発明に係る発電装置は、変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチを備えている。変位検出スイッチは機械式接点を有している。そのため、例えば変形部材の機械式接点への接触で導通状態、非導通状態を切り換えることができる。そして、例えば変形部材の変形による変位が所定の大きさ以上の場合に、機械式接点のボタンが押されて変位検出スイッチが導通状態になるようにすることもできる。つまり、本発明に係る発電装置は直接的に変形部材の変位を検出することが可能である。このとき、変形部材の変位の方向の切り換わりを把握するために、例えば電流の変化を演算処理で求めること等を要しない。そのため、回路規模が増大することを抑えることができる。そして、制御手段は、圧電素子の変形方向の切り換わり(例えば、変位検出スイッチの導通状態が対応)から所定期間だけ共振回路に設けられたスイッチを導通状態とすることで、圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。よって、圧電効果を利用した小型の発電装置において、効率的に高い電圧を発生させることが可能である。
【0009】
(2)この発電装置において、前記変位検出スイッチは、弾性部材を含んでもよい。
【0010】
本発明によれば、変位検出スイッチは変形部材の変位の方向の切り換わりを把握できるだけでなく、例えば外力により変形部材が過度に変形した場合に、弾性部材によって衝突時の衝撃を緩和させることが可能となる。例えば機械式接点のボタンが押されて導通状態になる変位検出スイッチが、ボタンを押し戻すように作用する弾性部材を含んでいるとする。このとき、変形部材が過度に変形した場合には、弾性部材が緩衝材として作用し、衝突時の衝撃を緩和させるので発電装置を保護することができる。
【0011】
(3)この発電装置において、変位検出スイッチは、前記変形部材の一つの面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換えてもよい。
【0012】
本発明によれば、例えば変位検出スイッチは変形部材の一つの面に対向して設置される。変位検出スイッチは1つでもよい。そして、変位検出スイッチと対向する面が変位検出スイッチのボタンに接触した場合に、変位検出スイッチが導通状態となってもよい。このとき、変位検出スイッチが導通状態となるタイミングは、圧電素子の変形方向が切り換わるタイミングを示す。
【0013】
ここで、1つの変位検出スイッチが導通状態となるタイミングからは、変形部材の振動の1周期を把握できる。そして、例えばタイミング演算部が、変位検出スイッチが導通状態となる間隔の1/2を演算で求めることで半周期毎のタイミングを得ることもできる。このとき、変形部材の一つの面の変位だけを検出すればよいので、変位検出スイッチは1つだけでもよく、発電装置をより小型化することができる。
【0014】
(4)この発電装置において、前記変位検出スイッチは、複数であって、前記変位検出スイッチの1つである第1の変位検出スイッチは、前記変形部材の1つの面である第1の面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換え、前記第1の変位検出スイッチとは異なる第2の変位検出スイッチは、前記第1の面とは異なる面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換えてもよい。
【0015】
本発明によれば、変位検出スイッチは複数であり、第1の変位検出スイッチと第2の変位検出スイッチとを含む。そして、第1の変位検出スイッチは変形部材の一つの面(第1の面)の変位を検出し、第2の変位検出スイッチは第1の面とは異なる面の変位を検出する。このとき、第1、第2の変位検出スイッチが導通状態となるタイミングによって、変形部材の振動の半周期を把握できる。このとき、例えば前記のタイミング演算部のように周期を演算する回路が不要になり、演算に要する消費電力を低減することができる。
【0016】
(5)この発電装置において、前記変位検出スイッチは、前記変形部材に設けられていてもよい。
【0017】
本発明によれば、変位検出スイッチも変形部材に設けられて製造されるので、製造工程を単純化することが可能となる。例えば、筐体に変位検出スイッチを設ける場合には、発電装置全体を組み立ててから変位検出スイッチの取り付け作業を行う必要がある。本発明では、変形部材という部品の製造段階で変位検出スイッチの取り付けが可能であるため、製造工程を単純化することができる。
【0018】
(6)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、機械式接点を有し、前記変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチと、前記圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、前記変位検出スイッチが導通状態であるか否かを判断するステップと、前記変位検出スイッチが導通状態の場合に、前記共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とするステップと、を含む。
【0019】
本発明によれば、発電装置の制御方法として、変位検出スイッチが導通状態であるか否かを判断するステップと、変位検出スイッチが導通状態の場合に共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とするステップとを含む。まず、変位検出スイッチが導通状態であるか否かによって、直接的かつ正確に変形部材の変位の極値のタイミングを知ることができる。そして、共振回路に設けられたスイッチを導通状態にするステップでは、このような変位の極値を表す正確なタイミングを用いることができる。このとき、圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。よって、圧電効果を利用した小型の発電装置において、効率的に高い電圧を発生させることが可能な制御方法を実現できる。
【0020】
(7)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器である。
【0021】
(8)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段である。
【0022】
これらの発明は、前記の発電装置を電池の代わりに組み込んだ例えばリモコン等の小型電子機器、又は前記の発電装置を搭載した例えば車両や電車等の移動手段である。この電子機器は、例えば持ち運ばれるとき、又は使用されるときに、振動が伴うことで発電が可能である。この電子機器では、電池交換といった作業も不要である。また、この移動手段(例えば車両や電車等)は、その移動に伴う振動により発電し、例えば移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図3】本実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図4】本実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図5】変位を検出することによってスイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。
【図6】スイッチSWのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図7】変位検出スイッチの説明図である。
【図8】第1変形例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図9】第1変形例のタイミング演算部の説明図である。
【図10】第2変形例の弾性部材を含む変位検出スイッチの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.実施例:
A−1.発電装置の構造:
A−2.発電装置の動作:
A−3.発電装置の動作原理:
A−4.スイッチの切換タイミング:
A−5.変位検出スイッチ:
B.第1変形例:
C.第2変形例:
D.その他:
【0025】
A.実施例 :
A−1.発電装置の構造 :
図1は、本実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されている。本実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁104が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっており、支持端102は発電装置100内に固定されるのが望ましい。また、梁104の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電部材108が取り付けられており、圧電部材108の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極109a、第2電極109bがそれぞれ設けられている。圧電部材108、第1電極109a、第2電極109bとで圧電素子を構成している。なお、図1(a)に示した例では、梁104の上面側に圧電部材108が設けられているが、梁104の下面側に圧電部材108を設けても良く、あるいは梁104の上面側および下面側の両方に圧電部材108を設けても良い。また、圧電部材108は梁104の変形によって変形するから、梁104が本発明の「変形部材」に相当する。
【0026】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられているので、振動などが加わると、図中に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104の表面に取り付けられた圧電部材108には、圧縮力および引張力が交互に作用する。すると、圧電部材108は圧電効果によって正負の電荷を発生し、その電荷が第1電極109a、および第2電極109bに現れる。また、錘106は必須ではないが、梁104の先端側と基端側とで重量のバランスが非均衡であることが望ましい。なぜなら、重量のバランスが非均衡であることで、たとえば、1つの振動により梁104の変位が反復しやすくなるためである。
【0027】
変位検出スイッチ130a、130bは、発電装置100内に固定されており、変形部材である梁104の変位を検出する。すなわち、振動によって梁104が所定の大きさ以上に上向きに反った場合(梁104の上面側が凹となった場合)に、変位検出スイッチ130aのボタン132aが押される。そのため、変位検出スイッチ130aは、梁104の上向きの変位を検出できる。一方、振動によって梁104が所定の大きさ以上に下向きに反った場合(梁104の下面側が凹となった場合)に、変位検出スイッチ130bのボタン132bが押される。そのため、変位検出スイッチ130bは、梁104の下向きの変位を検出できる。
【0028】
本実施例では、機械式接点を有する変位検出スイッチ130a、130bが、それぞれ梁104の圧電部材108が設けられた面(上面であって、第1の面に対応)、上面の裏側である錘106が設けられた面(下面)と対向して設置されている。
【0029】
ここで、変位検出スイッチ130a、130bは、正確な変位検出のために梁104の先端側の変位を測定することが好ましい。振動などが加わると、梁104の先端側の方が、基端側に比べて大きく振動するからである。
【0030】
なお、変位検出スイッチ130a、130bは、例えばそれぞれ本発明の第1の変位検出スイッチ、第2の変位検出スイッチに対応するが、対応関係は逆であってもよい。変位検出スイッチ130a、130bは、梁104の変位の大きさが所定の大きさ以上の場合に導通状態となるように、発電装置100の筐体(図外)等に固定されてもよい。また、梁104の表面に変位検出スイッチ130a、130bが固定されており、例えば発電装置100の筐体に触れることでボタンが押されて導通状態となってもよい。
【0031】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電部材108は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーC0として表すことができる。この圧電部材108に対して並列にインダクターLが接続されて、圧電部材108の容量成分(コンデンサーC0)と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をON/OFFするためのスイッチSWが、インダクターLに対して直列に接続されている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112(制御手段に対応)によって制御されている。また、圧電部材108に設けられた第1電極109aおよび第2電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流を蓄えておくコンデンサー(蓄電素子C1)が接続されている。
【0032】
ここで、制御回路112は、変位検出スイッチ130a(第1の変位検出スイッチに対応)、変位検出スイッチ130b(第2の変位検出スイッチに対応)から導通状態であるか否かを示す信号を受け取ることで、後述するように、梁104の変位の方向の切り換わり(すなわち、圧電素子の変形方向の切り換わり)を把握できる。そして、変位検出スイッチ130a、130bからの信号に基づいて、正確にスイッチSWをONするタイミングを決定するので、昇圧効果を高めることが可能である。
【0033】
A−2.発電装置の動作 :
図2は、本実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図2(a)には、梁104の振動に伴う、梁104の先端の変位が示されている。なお、プラスの変位(u)は、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104の下面側が凹となった状態)を表している。また、図2(b)には、梁104の変形に伴って、圧電部材108が発生する電流の様子と、その結果として圧電部材108の内部に生じる起電力とが示されている。なお、図2(b)では、圧電部材108に電荷が発生する様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、また、圧電部材108に生じる起電力は、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差Vpzt として表されている。
【0034】
図2(a)および図2(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、圧電部材108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正方向の電位差Vpzt が、C1の電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電部材108は負方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。すなわち、図1のスイッチSWをOFFにしたままでも、図2(b)中に斜線を付して示した部分については、蓄電素子C1に電荷を蓄えることができる。
【0035】
本実施例の発電装置100では、図2(c)に示すタイミングで、スイッチSWをONにする。すると、図2(d)に示すように、圧電部材108を含む圧電素子の端子間(以下、圧電部材108の端子間と表す)の電圧波形が、スイッチSWをONにしたときにシフトしたかのような現象が発生する。すなわち、例えば、図2(d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電部材108の起電力に対応する細い破線で示した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧電部材108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。また、図2(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図2(d)中に斜線を付して示した部分)では、圧電部材108で発生した電荷を蓄電素子C1に蓄えておくことができる。なお、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れる結果、圧電部材108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その結果、第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧波形は、図2(d)に太い実線で示した波形となる。
【0036】
図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図2(d)に示したように、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを比較すれば明らかなように、本実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイッチSWをONにすることで、効率よく、蓄電素子C1に電荷を蓄えることが可能となる。
【0037】
また、蓄電素子C1に電荷が蓄えられて、蓄電素子C1の端子間電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。例えば、図2(d)中の期間B(蓄電素子C1に電荷が蓄えられていない状態)と、図2(d)中の期間H(蓄電素子C1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図2(d)中の期間Cと期間Iとを比較すると、蓄電素子C1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させたことによって、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧を、蓄電素子C1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0038】
A−3.発電装置の動作原理 :
図3は、本実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。また、図4は、本実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。図3では、圧電部材108の変形に合わせてスイッチSWをONにしたときのC0の電荷の動きが、概念的に示されている。図3(a)は、圧電部材108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹となるように)変形した状態を表している。圧電部材108が上向きに変形すると、電流源からは正方向の電流が流れ、C0に電荷が蓄積され、Vgen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電部材108の変形が大きくなるほど増加する。そして、圧電部材108の変形が最大となったタイミング(電荷量が最も多くなったタイミング。図3(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0039】
図3(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。C0には電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、インダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導作用)がある。スイッチSWをONにしたときは、電荷が流れることによって磁束が増加しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたりの変化量)に比例する。図3(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、スイッチSWをONにしても、圧電部材108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0040】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」となるので、図3(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、この磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図3(e)参照)。その結果、この起電力によってC0から電荷を引き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が発生しなければ、圧電部材108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電部材108の下面側に正電荷が分布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図3(f)には、圧電部材108の変形によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0041】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生じる。すなわち、圧電部材108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。その結果、圧電部材108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図3(b)に示した状態)となる。こうして圧電部材108の上面側に戻った正電荷は、再び、図3(b)〜図3(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0042】
このように、C0に電荷が蓄えられた状態でスイッチSWをONにした後、その状態を保っておくと、圧電部材108とインダクターLとの間で電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は、いわゆるLC共振回路の共振周期Tとなるから、圧電部材108に含まれるコンデンサーC0(容量成分)の大きさ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をLとすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONにした直後(図3(c)に示した状態)から、図3(f)に示した状態となるまでの時間は、T/2となる。
【0043】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図4(a)に示すようにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電部材108(正確には梁104)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図3(a)では、圧電部材108を上向きに変形させたが、図4(a)では下向きに変形させているので、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCoに電荷が蓄積する。また、図3(a)〜図3(f)を用いて前述したように、圧電部材108(正確には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電部材108の下面側には正電荷が分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新たな正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図4(b)には、スイッチSWをOFFにした状態で圧電部材108(正確には梁104)を変形させることによって、圧電部材108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0044】
そして、この状態からスイッチSWをONにすると、圧電部材108の下面側に蓄積された正電荷がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するので(図4(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)に起電力が発生し(図4(e)参照)、この起電力によって電流が流れ続けて、最終的には、圧電部材108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図4(f)参照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチSWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電部材108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、圧電部材108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0045】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させて電荷を発生させた後、圧電部材108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期だけ共振回路を形成することで、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させる。その後、圧電部材108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電部材108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電部材108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電部材108をインダクターLに接続して、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させた後、圧電部材108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電部材108を繰り返し変形させる度に、圧電部材108に蓄積された電荷を増加させることができる。
【0046】
なお、LC共振回路の共振により、少なくとも、VgenがスイッチSWをONにする時の極性と反対の極性となった時にスイッチSWをOFFすれば、Vgenが昇圧していく。前述の説明(および以下の説明)では便宜上“T/2(共振周期の半分)”としているが、これに限定されるものではなく、LC共振回路の共振周期Tに対して、スイッチSWをONする所定期間を、少なくとも、(n+1/4)Tより長く(n+3/4)Tよりも短い時間(nは0以上の任意の整数)に設定すれば、Vgenを効率よく昇圧させることができる。
【0047】
図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにする度に圧電部材108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じる。すなわち、例えば図2(d)中に示した期間Aでは、圧電部材108(正確には梁104)の変形に従って、第1電極109aおよび第2電極109bの間に電圧が発生するが、第1電極109aおよび第2電極109bは全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は、全波整流回路120に接続された蓄電素子C1に流れ込む。その結果、梁104の変形が最大になった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電部材108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電部材108内での正負の電荷の配置が入れ代わる。なお、図3および図4を用いて前述したメカニズムから明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電部材108のコンデンサーと、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0048】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間には、圧電効果による電圧波形が現れる。すなわち、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの極性が入れ代わった状態から、圧電部材108に変形による電圧変化が発生することになる。その結果、図2(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電部材108に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は蓄電素子C1に流れ込むので、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間だけスイッチSWをONにすると、圧電部材108に残っていた正負の電荷の配置が入れ代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電部材108には圧電効果による電圧波形が現れる。このため、図2(d)中に示した期間Cにおいても、梁104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0049】
また、図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。このため、圧電部材108の圧電効果によって第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差よりも高い電圧を、蓄電素子C1に蓄えることができるという大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生じる。
【0050】
先ず、図2(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、C1が充電されていない場合は、圧電部材108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路120の2Vfを超えると、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れ込むので、圧電部材108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、こうして蓄電素子C1に電荷を蓄えるに従って蓄電素子C1の端子間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、蓄電素子C1の端子間電圧がVC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電部材108から電荷が流れ込むようになる。このため、圧電部材108の端子間の電圧がクリップされる値が、蓄電素子C1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0051】
加えて、図3および図4を用いて前述したように、圧電部材108から電荷を流出させない限り、圧電部材108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電部材108内の電荷は増えて行き、それに伴って、圧電部材108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0052】
A−4.スイッチの切換タイミング :
以上に説明したように、本実施例の発電装置100では、圧電部材108(正確には梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わるときに、共振周期の半分の時間だけ圧電部材108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。
【0053】
梁104の変形方向が切り換わるタイミングは、梁104の変位が極大値、極小値(以下、極大値と極小値をまとめて極値とする)をとるタイミングである。そこで、機械式接点を含む変位検出スイッチを用いて、梁104の変位の大きさが所定の大きさ以上の場合に変位検出スイッチが導通状態となる構成とすれば、梁104の変形方向が切り換わるタイミングを容易に得ることができる。
【0054】
ここで、変位検出スイッチに代えて、例えば非接触型のセンサーを用いて梁104の先端部の変位を常に検出する方法もあり得る。しかし、常に梁104の変位を検出すると、センサーを動作させるために電力を消費するので発電量が低下してしまう。また、梁104の変位の大きさは例えば発電装置100の外力によって変化するが、梁104が小さな振動を行っている場合でも、センサーを動作させて演算処理を実行する必要がある。このとき、発電量よりもセンサーによる電力消費の方が大きくなるおそれがある。
【0055】
本実施例の発電装置100では、梁104の変位の大きさが所定の大きさ以上の場合に変位検出スイッチが導通状態となり、制御手段は導通状態を確認して初めて、共振回路のスイッチSWのON/OFFを制御する。そのため、共振回路のスイッチSWを制御する場合、電力消費量の方が発電量を上回るようなこともなく、効率的な発電装置100を実現できる。
【0056】
図5は、変位検出スイッチ130a、130bが振動する梁104の変位を検出することによって、スイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。図5(a)には、梁104の変位が示されている。また、図5(b)、図5(c)には、その変位の大きさが所定の大きさ以上の場合にONになる変位検出スイッチ130a、130bのON/OFFの状態がそれぞれ示されている。この例では、所定の大きさとは、梁104の振動における振幅よりもわずかに小さい値であるとする。
【0057】
図3および図4を用いて前述したように、梁104の変位が極値に達したタイミングでスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、変位検出スイッチ130a、130bは、発電装置100内の適切な位置に配置されており、梁104の先端部がそれぞれの変位検出スイッチのボタンを押すことでONになる。この例では、図5(a)と図5(b)に示すように、梁104の変位が上向きで所定の大きさ以上の場合に、変位検出スイッチ130aがONになる。そして、図5(a)と図5(c)に示すように、梁104の変位が下向きで所定の大きさ以上の場合に、変位検出スイッチ130bがONになる。
【0058】
そして、図5(d)に示すように、制御回路112は変位検出スイッチ130a、130bのON/OFFを示す信号を受け取り、変位検出スイッチ130a、130bの一方がONになるタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0059】
このとき、梁104は外力によって振動するため、その振動の変位の大きさ(振幅)は様々である。しかし、本実施例では、変位検出スイッチ130a、130bは所定の大きさ以上の振幅を持つ振動でなければONとならない。そのため、共振回路のスイッチSWを制御する場合、電力消費量の方が発電量を上回るようなこともなく、効率的な発電装置100を実現できる。
【0060】
図6は、スイッチSWのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。この処理は、例えば制御回路112に内蔵された図示しないCPUによって実行される。なお、図6ではスイッチ(SW)制御処理と記載しているが、これは「スイッチ」を変位検出スイッチと誤解することを防止するためであり、以下では単にスイッチ制御処理と記す。
【0061】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112のCPUは、変位検出スイッチ130a、130bがON(導通状態に対応)であるか否かを判断する(ステップS101)。例えば、制御回路112のCPUは、変位検出スイッチ130aのON/OFFに対応して、ハイレベル/ローレベルとなるデジタル信号を受け取ってもよい。なお、変位検出スイッチ130bについても同様である。ここで、ハイレベルとは例えばVDDといった高電位であり、ローレベルとは例えばGNDといった低電位である。ここで、前述のように変位検出スイッチ130a、130bの一方がONであることは、梁104の変位がピーク(極値)であることを意味する。
【0062】
制御回路112のCPUは、梁104の変位のピークを検出したら(S101:yes)、共振回路(圧電部材108のコンデンサーC0とインダクターLとによって構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そして、圧電部材108のコンデンサーC0とインダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。なお、梁104の変位のピークを検出しなかった場合は(S101:no)、変位検出スイッチ130a、130bの一方がONになるまで待つ。
【0063】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS106:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS108)。その後、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0064】
以上のようにして共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに合わせて容易に適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装置100を用いて効率よく発電することが可能となる。
【0065】
A−5.変位検出スイッチ :
本実施例では、変位検出スイッチ130a、130bはそれぞれ押されるとONになるボタン132a、132bを備える機械式スイッチ(機械式接点を含むスイッチ)である。すなわち、接触式の接点を含むスイッチである。本実施例では、ボタンが押されるとONになるが、OFFに変化するノーマリーオン型のスイッチでもよい。本発明の変位検出スイッチは、機械式接点を含むスイッチであれば特定の種類に限られない。
【0066】
図7は、本実施例の変位検出スイッチの説明図である。図7(a)〜図7(c)は、図1(a)の発電装置100を梁104の長手方向に沿って切断した断面図に対応する。ただし、圧電部材108、第1電極109a、第2電極109b、錘106の表記は省略している。なお、図1(a)〜図6と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
【0067】
図7(a)は変位検出スイッチ130a、130bが共にOFFである場合を表す。梁104が振動していない場合や、梁104の変位の大きさが所定の大きさ未満でありボタン132a、132bを押さない場合には、変位検出スイッチ130a、130bは共にOFFである。この状態は、例えば図5(b)、図5(c)で変位検出スイッチ130a、130bが共にOFFである状態に対応する。
【0068】
この例では、変位検出スイッチ130a、130bは図示されない発電装置100の筐体に、梁104側にボタン132a、132bが向くように設置されている。そして、梁104の振動(例えば固有振動数での振動)の極値において変位検出スイッチ130a、130bがONとなるように、梁104からの距離が調整されている。つまり、前述の「所定の大きさ」は、変位検出スイッチ130a、130bの設置位置で調整することが可能である。また、例えばボタン132a、132bの軸の長さが調整可能であってもよい。このとき、梁104からの距離の微調整が可能である。
【0069】
図7(b)、図7(c)は、それぞれ変位検出スイッチ130a、130bがONになった状態を示す図である。梁104が、それぞれ上向き、下向きに所定の大きさ以上に反っており、それぞれボタン132a、132bが押し下げられている。例えば、図7(b)の状態は、図5(b)で変位検出スイッチ130aがONである状態に対応する。また、図7(c)の状態は、図5(c)で変位検出スイッチ130bがONである状態に対応する。梁104が大きく振動する場合には、図7(b)、図7(a)、図7(c)、図7(a)、図7(b)、図7(a)…のように変位検出スイッチ130a、130bのON/OFFが変化する。
【0070】
なお、本実施例では、変位検出スイッチ130a、130bは図示されない発電装置100の筐体に設置されている。しかし、逆に変位検出スイッチ130a、130bは梁104に設置されており、梁104の振動に伴い、図示されない筐体がボタン132a、132bを押し下げてもよい。このとき、発電装置全体を組み立てなくても、部品である梁104の製造段階で変位検出スイッチの取り付けが可能になるため、製造工程を単純化することができる。
【0071】
以上のように、本実施例の発電装置は、変位検出スイッチのON/OFFによって直接的に変形部材の変位を検出することが可能である。このとき、変形部材の変位の方向の切り換わりを把握するために、例えば電流の変化を演算処理で求めること等を要しない。そのため、回路規模が増大することを抑えることができる。そして、制御手段は、例えば変位検出スイッチがONに切り換わるタイミングから所定期間(例えば共振周期の半分)だけ共振回路に設けられたスイッチを導通状態とすることで、圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。よって、圧電効果を利用した小型の発電装置において、効率的に高い電圧を発生させることが可能である。
【0072】
B.第1変形例 :
上述した実施例には種々の変形例が存在している。以下では、第1変形例について図8〜図9を参照して説明する。
【0073】
上述した実施例の発電装置では、変形部材の異なる面の変位に応じてON/OFF(導通状態/非導通状態)を切り換える2つの変位検出スイッチを含んでいた。そのため、変形部材の変位の方向が切り換わるタイミングで2つの変位検出スイッチの一方がONになり、共振回路に設けられたスイッチを導通状態とするタイミングを容易に得られた。言い換えると、変形部材の振動の半周期ごとのピークを2つの変位検出スイッチがONするタイミングから把握可能であった。
【0074】
しかし、変位検出スイッチのサイズによっては、変形部材の変位方向が切り換わるタイミングを求める演算用の回路が増加しても、一方の変位検出スイッチを削減した方が発電装置全体を小型化できる場合がある。以下では、1つの変位検出スイッチだけを含む第1変形例について説明する。尚、前述の実施例と同様な構成については、変形例においても同じ番号を付すものとして、詳細な説明は省略する。
【0075】
図8は、第1変形例の発電装置100aを示した説明図である。図8(a)には、発電装置100aの機械的な構造が示されており、前述の実施例における図1(a)に対応する。図8(b)には電気的な構造が示されており、前述の実施例における図1(b)に対応する。
【0076】
図8のように、発電装置100aは1つの変位検出スイッチ130aだけを含む。本変形例での変位検出スイッチ130aは、前述の実施例の変位検出スイッチ130aと同じであり、振動によって梁104が所定の大きさ以上に上向きに反った場合(梁104の上面側が凹となった場合)に、変位検出スイッチ130aのボタン132aが押される。よって、図8(b)の制御回路112aは、変形部材の振動の1周期ごとのピークしか把握できない。つまり、制御回路112aは、例えば図5(b)の変化だけを把握することが可能であり、図5(c)のような下向きのピークのタイミングを受け取ることはできない。しかし、高効率の発電装置を実現するために、制御回路112aは、図5(d)のように半周期ごとのピークで正確にスイッチSWをONする必要がある。
【0077】
そこで、本変形例では図8(b)のように、制御回路112aが演算によって半周期ごとのピークに対応するタイミングを生成するタイミング演算部113を含むことで、高効率の発電装置を実現する。本変形例では、制御回路112aは、変位検出スイッチ130aが導通状態であるか否か(ON/OFF)を示す信号を受け取ることで、梁104の上向きの変位が下向きへと切り換わるタイミングを把握できる。しかし、梁104の下向きの変位が上向きへと切り換わるタイミングは得られない。そこで、タイミング演算部113で演算を行って、梁104の下向きのピークに対応するタイミングを生成する。
【0078】
図9は、本変形例のタイミング演算部113の説明図である。図9(a)、図9(b)、図9(d)はそれぞれ、図5(a)、図5(b)、図5(d)と同じであり、説明を省略する。本変形例では、タイミング演算部113は図9(c)のようなタイミングでパルス信号を発生させることによって、図9(d)のように半周期ごとのピークでスイッチSWをONすることを可能にする。
【0079】
タイミング演算部113は、変位検出スイッチ130aがONになったときから、次にONになるまでの時間を記憶する。この時間間隔をP、P、P…とする。図9(c)ではPだけが示されているが、P、Pについても同様に取得されているものとする。ここで、P、P、P…は変形部材の振動の1周期を表す。そして、タイミング演算部113は、変位検出スイッチ130aがONになったときから、直前に取得された時間間隔の半分(図9(c)のP/2やP/2)だけ経過したときにパルス信号を発生させる。このパルス信号の発生タイミングは、変位検出スイッチ130aがONになったときから変形部材の振動の半周期が経過したタイミングである。つまり、実施例における変位検出スイッチ130bがONになるタイミングに相当する(図5(c)参照)。図9(d)に示すように、制御回路112は変位検出スイッチ130aがONになるタイミングおよびタイミング演算部113がパルス信号を発生させるタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。本変形例では、上述した実施例と同様に効率的な発電を行いつつ、変位検出スイッチを1つにすることで、発電装置をさらに小型化できる可能性がある。
【0080】
C.第2変形例 :
以下では、第2変形例について図10を参照して説明する。上述した実施例の発電装置では、例えば外力により変形部材が過度に変形した場合に、強い衝撃が変位検出スイッチを介して発電装置の筺体等に伝わり、部分的な破壊や変形を発生させる可能性があった。本変形例では、変位検出スイッチが含む弾性部材によって衝突時の衝撃を緩和させるので、発電装置を破壊や変形等から守ることが可能になる。尚、前述の実施例、第1変形例と同様な構成については、本変形例においても同じ番号を付すものとして、詳細な説明は省略する。
【0081】
図10は、本変形例の弾性部材を含む変位検出スイッチの説明図である。図10(a)、図10(b)、図10(c)は、前述の実施例の図7(a)、図7(b)、図7(c)にそれぞれ対応する。つまり、図10(a)は変位検出スイッチ140a、140bが共にOFFである場合を表す。図10(b)、図10(c)は、それぞれ変位検出スイッチ140a、140bがONになった状態を示す図である。
【0082】
ここで、変位検出スイッチ140a、140bは、それぞれボタン142a、142bを備えるが、前述の実施例とは異なり、さらに弾性部材144a、144bをそれぞれ含む。この例では弾性部材144a、144bはバネであるが、バネに限らず衝突時の衝撃を緩和させる部材であればよい。
【0083】
図10(b)では、梁104が上向きに所定の大きさ以上に反っており、ボタン142aが押し下げられて、変位検出スイッチ140aがONになっている。このとき、弾性部材144a(バネ)が縮んでおり、図10(b)の矢印のように力が働く。この力によって、梁104が過度に変形した場合にも、衝突時の衝撃を緩和させることができる。図10(c)では、梁104が下向きに所定の大きさ以上に反っており、ボタン142bが押し下げられて、変位検出スイッチ140bがONになっている。このときにも、図10(c)の矢印の力によって、衝突時の衝撃を緩和させることができる。
【0084】
以上のように、本変形例では、変位検出スイッチ140a、140bが含む弾性部材144a、144bによって衝突時の衝撃を緩和させるので、発電装置を破壊や変形等から守ることができる。
【0085】
D.その他:
以上、本実施例および第1〜第2変形例(以下、単に変形例とする)について説明したが、本発明はこれらの実施例、変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0086】
例えば、上述した実施例、変形例では、圧電部材108が片持ち梁構造の梁104に取り付けられているものとして説明した。しかし、圧電部材108が取り付けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部材であっても構わない。例えば、薄膜の表面に圧電部材108を取り付けても良いし、弦巻バネの側面に圧電部材108を取り付けても構わない。
【0087】
そして、超小型で低消費電力の変位検出スイッチ130a、変位検出スイッチ130bが利用可能な場合、電池の代わりにリモコン等の小型電子機器に組み込む、といった応用が可能である。このとき、使用時に前回の発電で蓄電素子C1に蓄えたエネルギーを優先的に変位検出スイッチ130a、変位検出スイッチ130bに供給するような制御が行われてもよい。
【0088】
なお、本発明の発電装置は小型化が可能であるが、設置する対象は電子機器に限らない。例えば、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで、移動に伴う振動により発電し、移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することもできる。
【0089】
このとき、あらゆる振動に対応するために、梁104の長さや錘106の重さが異なる複数の発電装置100を移動手段に組み込んでもよい。このとき、複数の発電装置100が共通の支持端102に固定されている発電ユニットとして構成されていてもよい。
【0090】
また、本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、例えば、橋梁や建築物あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。
【0091】
さらに、特定の機器等に設置されるのではなく、本発明の発電装置が例えばボタン電池、乾電池と同じ形状であって、電子機器一般で使用されてもよい。このとき、振動によって蓄電素子への充電が可能であるため、電力が喪失した災害時でも電池として使用可能である。このとき、一次電池より寿命が長いため、ライフサイクルの観点で環境負荷低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0092】
100…発電装置、102…支持端、104…梁、106…錘、108…圧電部材、109a…第1電極、109b…第2電極、112…制御回路、113…タイミング演算部、120…全波整流回路、130a,130b…変位検出スイッチ、132a,132b…ボタン、144a,144b…弾性部材、150…MEMSスイッチ、L…インダクター、C1…蓄電素子、D1〜D4…ダイオード、SW…スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた圧電素子と、
機械式接点を有し、前記変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチと、
前記圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、
前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記変位検出スイッチの導通状態又は非導通状態に基づいて、前記共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とする制御手段と、を備える発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置において、
前記変位検出スイッチは、
弾性部材を含む発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記変位検出スイッチは、
前記変形部材の一つの面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える発電装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記変位検出スイッチは、
複数であって、
前記変位検出スイッチの1つである第1の変位検出スイッチは、前記変形部材の1つの面である第1の面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換え、
前記第1の変位検出スイッチとは異なる第2の変位検出スイッチは、前記第1の面とは異なる面の変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位検出スイッチは、
前記変形部材に設けられている発電装置。
【請求項6】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、機械式接点を有し、前記変形部材の変形による変位に応じて導通状態、非導通状態を切り換える変位検出スイッチと、前記圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、
前記変位検出スイッチが導通状態であるか否かを判断するステップと、
前記変位検出スイッチが導通状態の場合に、前記共振回路に設けられたスイッチを所定期間導通状態とするステップと、を含む発電装置の制御方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−81277(P2013−81277A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219033(P2011−219033)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)