発電装置、発電装置の制御方法、電子機器、および移動手段
【課題】 変形部材を内蔵した圧電材料の圧電効果を利用する発電装置において、効率的に高い電圧を発生させて、かつ変形部材の過度に振れを抑制しつつも小型化が可能な技術を提供する。
【解決手段】 変形方向を切り換えて変形する変形部材104と、前記変形部材に設けられた圧電素子(108、109a、109b)と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサー130と、前記圧電素子の一対の電極間(109a、109b)に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターLと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチSWと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段112と、を備える。
【解決手段】 変形方向を切り換えて変形する変形部材104と、前記変形部材に設けられた圧電素子(108、109a、109b)と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサー130と、前記圧電素子の一対の電極間(109a、109b)に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターLと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチSWと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段112と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電気エネルギーとして取り出す発電装置、その制御方法、この発電装置を含む電子機器、および移動手段等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこのような性質を利用して、片持ち梁などの変形部材を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
例えば、先端に錘を設けると共に圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。また、圧電素子で正の電荷が発生している間だけ接点が閉じるようにすることで、ダイオードでの電圧損失を発生させずに直流電流が得られるようにした技術も提案されている(特許文献2)。これら技術を用いれば、発電装置を小型化できる可能性があるので、例えば小型の電子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【特許文献2】特開2005−312269号公報
【特許文献3】特開2003−218418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような技術を用いた発電装置では、片持ち梁に想定以上の力がかかることによって、片持ち梁が過度に振れた場合に、該片持ち梁が周辺の部材に衝突して破損する虞がある。このことを防止するために、片持ち梁を収容する筐体の内壁に弾性体を設けて、片持ち梁が筐体の内壁に衝突した際の衝撃を緩和する技術が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、特許文献3で提案されている技術では、弾性体を設けるスペースを確保する必要があることから、発電装置を十分に小型化することが難しいという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、変形部材を内蔵した圧電材料の圧電効果を利用する発電装置において、変形部材の過度の振れを抑制しつつも小型化が可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段と、を備える。
【0009】
(2)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変形量が前記所定の大きさに達しない期間では、前記変形部材の変形方向が切り換わるときに前記スイッチを接続した後、前記共振回路の共振周期の半周期に相当する時間が経過すると前記スイッチを切断してもよい。
【0010】
これらの発明の発電装置では、圧電素子が変形部材に設けられているので、変形部材が変形することにより、圧電素子も変形する。その結果、圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生する。変形部材とともに圧電素子が繰り返し変形すると、正負の電荷も繰り返し発生し、該電荷を電流として取り出すことによって発電が行われる。また、変形量が所定の大きさ以上になると、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とする。こうすると、圧電素子は一対の電極間を短絡させた状態では変形し難い性質を持つことから、圧電素子の変形が抑制される。これによって、圧電素子が設けられた変形部材が過度に変形することも抑制することができるので、衝突時の衝撃を緩和させるための部材を設ける必要がなく、発電装置を小型化することが可能となる。
【0011】
ここで、これらの発明の発電装置は、変形部材の変形量を検出し、変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーを備えている。変位センサーからの変形量情報に基づいて、スイッチ制御手段は変形部材の変形量を把握することができる。そのため、確実に、変形部材が過度に変形することを抑制することができる。
【0012】
また、圧電素子の電荷の発生量は、圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。これらの発明の発電装置では、圧電素子はインダクターと共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、例えばスイッチでの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通状態とすることができる。圧電素子は変形部材と共に変形し、変形量が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、圧電素子で発生した電荷が最も多くなった時に、圧電素子がインダクターに接続されて共振回路を形成する。すると、圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込む。そして、圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダクターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、圧電素子の反対側の端子に流れ込む。この期間(すなわち、圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダクターを介して反対側の端子から再び圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従って、圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダクターを接続する前に圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、圧電素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によって発生した新たな電荷が積み増されるようにして圧電素子内に電荷が蓄積される。また、圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧回路を別途用意しなくても、圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じる電圧よりも高い電圧を発生させることができる。
【0013】
ここで、これらの発明の発電装置は、変形量情報として例えば変形部材の変形による変位を把握できる。変位センサーが検出した正確な変位に基づいて、スイッチ制御手段は変形部材の変位の方向の切り換わり(すなわち圧電素子の変形方向の切り換わり)を把握することができる。そして、スイッチ制御手段は、圧電素子の変形方向の切り換わりから所定期間だけスイッチを導通状態とすることで、圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。
【0014】
前述したように、スイッチは圧電素子の変形量を抑制するタイミングでも接続される。すなわち、変形量情報に基づいてスイッチの接続タイミングを制御することによって、圧電素子の変形量を抑制することに加えて、上述のように高い電圧を発生させることが可能となる。
【0015】
(3)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、前記変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。
【0016】
(4)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、前記変位を2階微分して加速度を求め、前記加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。
【0017】
これらの発明によれば、スイッチ制御手段は、変位センサーから変形量情報として変形部材の変形による変位を受け取る。変位センサーは、変形部材の変形を直接的に(すなわち、回路における電圧や電流の変化から変換して求めるのでなく)検出できるので、生成される変形量情報は正確である。変位は、例えば変形部材に力が作用していない状態をゼロとして、一方(例えば上方)に変形した場合を正の値で、他方(例えば下方)に変形した場合を負の値で表してもよい。
【0018】
そして、スイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、変形部材の変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。このとき、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とし、圧電素子の変形を抑制することができる。そのため、衝突時の衝撃を緩和させるための部材を設ける必要がなく、発電装置を小型化することが可能となる。
【0019】
また、スイッチ制御手段は、変位を2階微分して加速度を求め、加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。このとき、加速度の大きさから、変形部材が過度に振れた状態を検出又は予測することができる。そして、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とし、圧電素子の変形を抑制することができる。なお、スイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上という条件、および加速度の大きさが所定の閾値以上という条件の少なくとも一方が満たされた場合に、圧電素子の一対の電極間を短絡状態としてもよい。
【0020】
(5)この発電装置において、前記変位センサーは、渦電流式であってもよい。
【0021】
(6)この発電装置において、前記変位センサーは、光学式であってもよい。
(7)この発電装置において、前記変位センサーは、超音波式であってもよい。
(8)この発電装置において、前記変位センサーは、静電容量式であってもよい。
【0022】
これらの発明によれば、変位センサーとして特定の方式を選択することで、検出精度を高めることができる。変位センサーとしては、圧電素子の変形を妨げない非接触型のセンサーを使用することができる。そして、非接触型のセンサーには光学式、超音波式、渦電流式、静電容量式などの種類がある。このうち、渦電流式のセンサーは高周波磁界を生じる検出コイルを含む。そして、検出物体が近づくと検出物体に渦電流(電磁誘導による誘導電流)が流れるので、検出コイルのインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化に基づいて変位を測定できる。一方、光学式のセンサーは発光素子と光位置検出素子を含む。そして、発光素子から検出物体に光(例えばレーザー光)を照射する。対象物体からの表面反射光は受光レンズを通って光位置検出素子の上にスポットをつくる。このスポットの位置の変化に基づいて変位を測定できる。渦電流式および光学式のセンサーは、その他の方式に比べて応答周波数が高い。そのため、渦電流式および光学式のセンサーを変位センサーとして用いることで、正確に圧電素子の変形方向の切り換わりのタイミングを捉えることができる。
【0023】
そして、変位センサーは超音波式、静電容量式であってもよい。超音波式の変位センサーは、超音波を発信して対象物で反射する超音波波を受信する。送受信間の時間に基づいて比較的簡単な計算で正確に距離を求めることができる。また、静電容量式の変位センサーは、静電容量の変化に基づいて変位を測定するので、微小な変位の測定が可能である。
【0024】
(9)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、前記変形量情報を取得するステップと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するステップと、を含む。
【0025】
本発明によれば、発電装置の制御方法として、変位センサーから変形量情報を取得するステップと、変形量情報に基づいて圧電素子の一対の電極間を短絡状態とするようにスイッチを制御するステップとを含む。まず、変形量情報として、変位センサーが検出した直接的で正確な変形部材の変位の情報を取得することが可能である。そのため、誤差が少ない正確な変形量情報を得ることができる。そして、スイッチを制御するステップでは、このような正確な変形量情報に基づいて、確実に、変形部材が過度に変形することを抑制することができる。
【0026】
(10)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器である。
【0027】
(11)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段である。
【0028】
これらの発明は、前記の発電装置を電池の代わりに組み込んだ例えばリモコン等の小型電子機器、又は前記の発電装置を搭載した例えば車両や電車等の移動手段である。この電子機器は、例えば持ち運ばれるとき、又は使用されるときに、振動が伴うことで発電が可能である。この電子機器では、電池交換といった作業も不要である。また、この移動手段(例えば車両や電車等)は、その移動に伴う振動により発電し、例えば移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図3】本実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図4】本実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図5】変位を検出することによってスイッチを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。
【図6】梁に振動を与えた場合の梁の変位を示す説明図である。
【図7】検出された変位が所定値以上になった場合に短絡させることによって、圧電素子の変形が抑制される様子を示す説明図である。
【図8】検出された変位に基づいてスイッチのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図9】渦電流式のセンサーの説明図である。
【図10】光学式のセンサーの説明図である。
【図11】第1変形例の発電装置の圧電素子の配置を示した説明図である。
【図12】第1変形例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図13】第2変形例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図14】第3変形例で加速度を求めることによってスイッチを適切なタイミングで制御できる理由を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.実施例:
A−1.発電装置の構造:
A−2.発電装置の動作:
A−3.発電装置の動作原理:
A−4.スイッチの切換タイミング:
A−5.変位センサー:
B.第1変形例:
C.第2変形例:
D.第3変形例:
E.その他:
【0031】
A.実施例 :
A−1.発電装置の構造 :
図1は、本実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されている。本実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁104が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっており、支持端102は発電装置100内に固定されるのが望ましい。また、梁104の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電部材108が取り付けられており、圧電部材108の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極109a、第2電極109bがそれぞれ設けられている。圧電部材108、第1電極109a、第2電極109bとで圧電素子を構成している。なお、図1(a)に示した例では、梁104の上面側に圧電部材108が設けられているが、梁104の下面側に圧電部材108を設けても良く、あるいは梁104の上面側および下面側の両方に圧電部材108を設けても良い。また、圧電部材108は梁104の変形によって変形するから、梁104が本発明の「変形部材」に相当する。
【0032】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられているので、振動などが加わると、図中に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104の表面に取り付けられた圧電部材108には、圧縮力および引張力が交互に作用する。すると、圧電部材108は圧電効果によって正負の電荷を発生し、その電荷が第1電極109a、および第2電極109bに現れる。また、錘106は必須ではないが、梁104の先端側と基端側とで重量のバランスが非均衡であることが望ましい。なぜなら、重量のバランスが非均衡であることで、たとえば、1つの振動により梁104の変位が反復しやすくなるためである。
【0033】
変位センサー130は、発電装置100内に固定されており、変形部材である梁104の変位を測定する。変位センサー130は、本実施例のように、圧電部材108の変形を妨げない非接触型のセンサーであることが好ましい。なお、非接触型のセンサーについての詳細な説明は後述する。
【0034】
本実施例では、非接触型のセンサーである変位センサー130が、梁104の圧電部材108が設けられた面(上面)と対向して設置されている。そして、梁104の上面の測定位置と変位センサー130との間の距離132を測定する。
【0035】
変位センサー130は、正確な変位検出のために梁104の先端側の変位を測定することが好ましい。振動などが加わると、梁104の先端側の方が、基端側に比べて大きく振動するからである。一方で、梁104の上面のうち圧電部材108が取り付けられた部分と、その他の部分とでは、振動に差が生じる可能性がある。すると、圧電部材108の変形を把握するためには、圧電部材108が取り付けられた部分の変位を測定することが好ましい。そこで、本実施例の変位センサー130は、梁104の上面に対向して設置され、圧電部材108が取り付けられた部分のうち梁104の先端側にあたる部分との距離132を測定する。
【0036】
なお、変位センサー130は、梁104の下面に対向して設置されてもよい。しかし、この場合、梁104の先端側を測定しようとすると、厚みのある錘106が変位センサー130と梁104の下面との間に入ったり、入らなかったりすることで正確な測定が妨げられるおそれがある。そのため、変位センサー130を梁104の下面に対向して設置した場合、梁104の先端部分を避けて測定しなければならない可能性が生じてしまう。よって、変位センサー130は、梁104の上面に対向して設置されることが好ましい。
【0037】
また、梁104の上面の測定位置を変位センサー130にて距離132を測定するとして説明したが、変位が測定できるものを梁104に設置し、設置したものを測定しても良く、発電装置100の設置状況や変位センサーによっては、梁104の側面などでも良いい。
【0038】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電部材108は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCgとして表すことができる。この圧電部材108に対して並列にインダクターLが接続されて、圧電部材108の容量成分(コンデンサーCg)と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をON/OFFするためのスイッチSWが、インダクターLに対して直列に接続されている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112(スイッチ制御手段に対応)によって制御されている。また、圧電部材108に設けられた第1電極109aおよび第2電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流を蓄えておくコンデンサー(蓄電素子C1)が接続されている。
【0039】
ここで、制御回路112は変位センサー130からの梁104の変位の情報に基づいてスイッチをONするタイミングを決定する。そのため、後述するように、変形量の大きさや圧電素子の変形方向の切り換わりのタイミングを正確に捉えることができ、変形部材の過度な変形を防止する効果や昇圧効果を高めることが可能である。
【0040】
A−2.発電装置の動作 :
図2は、本実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図2(a)には、梁104の振動に伴う、梁104の先端の変位が示されている。なお、プラスの変位(u)は、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104の下面側が凹となった状態)を表している。また、図2(b)には、梁104の変形に伴って、圧電部材108が発生する電流の様子と、その結果として圧電部材108の内部に生じる起電力とが示されている。なお、図2(b)では、圧電部材108に電荷が発生する様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、また、圧電部材108に生じる起電力は、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差Vpzt として表されている。
【0041】
図2(a)および図2(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、圧電部材108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正方向の電位差Vpzt が、C1の電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電部材108は負方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。すなわち、図1のスイッチSWをOFFにしたままでも、図2(b)中に斜線を付して示した部分については、蓄電素子C1に電荷を蓄えることができる。
【0042】
本実施例の発電装置100では、図2(c)に示すタイミングで、スイッチSWをONにする。すると、図2(d)に示すように、圧電部材108を含む圧電素子の端子間(以下、圧電部材108の端子間と表す)の電圧波形が、スイッチSWをONにしたときにシフトしたかのような現象が発生する。すなわち、例えば、図2(d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電部材108の起電力に対応する細い破線で示した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧電部材108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。また、図2(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図2(d)中に斜線を付して示した部分)では、圧電部材108で発生した電荷を蓄電素子C1に蓄えておくことができる。なお、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れる結果、圧電部材108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その結果、第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧波形は、図2(d)に太い実線で示した波形となる。
【0043】
図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図2(d)に示したように、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを比較すれば明らかなように、本実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイッチSWをONにすることで、効率よく、蓄電素子C1に電荷を蓄えることが可能となる。
【0044】
また、蓄電素子C1に電荷が蓄えられて、蓄電素子C1の端子間電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。例えば、図2(d)中の期間B(蓄電素子C1に電荷が蓄えられていない状態)と、図2(d)中の期間H(蓄電素子C1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図2(d)中の期間Cと期間Iとを比較すると、蓄電素子C1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させたことによって、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧を、蓄電素子C1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0045】
A−3.発電装置の動作原理 :
図3は、本実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。また、図4は、本実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。図3および図4では、圧電部材108の変形に合わせてスイッチSWをONにしたときのコンデンサーCg(圧電部材108の容量成分)の電荷の動きが、概念的に示されている。図3(a)は、圧電部材108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹となるように)変形した状態を表している。圧電部材108が上向きに変形すると、電流源からは正方向の電流が流れ、Cgに電荷が蓄積され、Vgen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電部材108の変形が大きくなるほど増加する。そして、圧電部材108の変形が最大となったタイミング(電荷量が最も多くなったタイミング。図3(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0046】
図3(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。Cgには電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、インダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導作用)がある。スイッチSWをONにしたときは、電荷が流れることによって磁束が増加しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたりの変化量)に比例する。図3(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、スイッチSWをONにしても、圧電部材108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0047】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」となるので、図3(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、この磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図3(e)参照)。その結果、この起電力によってCgから電荷を引き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が発生しなければ、圧電部材108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電部材108の下面側に正電荷が分布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図3(f)には、圧電部材108の変形によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0048】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生じる。すなわち、圧電部材108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。その結果、圧電部材108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図3(b)に示した状態)となる。こうして圧電部材108の上面側に戻った正電荷は、再び、図3(b)〜図3(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0049】
このように、Cgに電荷が蓄えられた状態でスイッチSWをONにした後、その状態を保っておくと、圧電部材108とインダクターLとの間で電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は、いわゆるLC共振回路の共振周期Tとなるから、圧電部材108に含まれるコンデンサーCg(容量成分)の大きさ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をLとすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONにした直後(図3(c)に示した状態)から、図3(f)に示した状態となるまでの時間は、T/2となる。
【0050】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図4(a)に示すようにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電部材108(正確には梁104)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図3(a)では、圧電部材108を上向きに変形させたが、図4(a)では下向きに変形させているので、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCgに電荷が蓄積する。また、図3(a)〜図3(f)を用いて前述したように、圧電部材108(正確には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電部材108の下面側には正電荷が分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新たな正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図4(b)には、スイッチSWをOFFにした状態で圧電部材108(正確には梁104)を変形させることによって、圧電部材108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0051】
そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング)でスイッチSWをONにすると、圧電部材108の下面側に蓄積された正電荷がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するので(図4(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)に起電力が発生し(図4(e)参照)、この起電力によって電流が流れ続けて、最終的には、圧電部材108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図4(f)参照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチSWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電部材108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、圧電部材108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0052】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させて電荷を発生させた後、圧電部材108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期だけ共振回路を形成することで、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させる。その後、圧電部材108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電部材108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電部材108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電部材108をインダクターLに接続して、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させた後、圧電部材108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電部材108を繰り返し変形させる度に、圧電部材108に蓄積された電荷を増加させることができる。
【0053】
なお、LC共振回路の共振により、少なくとも、VgenがスイッチSWをONにする時の極性と反対の極性となった時にスイッチSWをOFFすれば、Vgenが昇圧していく。前述の説明(および以下の説明)では便宜上“T/2(共振周期の半分)”としているが、これに限定されるものではなく、LC共振回路の共振周期Tに対して、スイッチSWをONする所定期間を、少なくとも、(n+1/4)Tより長く(n+3/4)Tよりも短い時間(nは0以上の任意の整数)に設定すれば、Vgenを効率よく昇圧させることができる。
【0054】
図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにする度に圧電部材108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じる。すなわち、例えば図2(d)中に示した期間Aでは、圧電部材108(正確には梁104)の変形に従って、第1電極109aおよび第2電極109bの間に電圧が発生するが、第1電極109aおよび第2電極109bは全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は、全波整流回路120に接続された蓄電素子C1に流れ込む。その結果、梁104の変形が最大になった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電部材108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電部材108内での正負の電荷の配置が入れ代わる。なお、図3および図4を用いて前述したメカニズムから明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電部材108のコンデンサーと、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0055】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間には、圧電効果による電圧波形が現れる。すなわち、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの極性が入れ代わった状態から、圧電部材108に変形による電圧変化が発生することになる。その結果、図2(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電部材108に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は蓄電素子C1に流れ込むので、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間だけスイッチSWをONにすると、圧電部材108に残っていた正負の電荷の配置が入れ代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電部材108には圧電効果による電圧波形が現れる。このため、図2(d)中に示した期間Cにおいても、梁104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0056】
また、図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。このため、圧電部材108の圧電効果によって第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差よりも高い電圧を、蓄電素子C1に蓄えることができるという大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生じる。
【0057】
先ず、図2(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、C1が充電されていない場合は、圧電部材108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路120の2Vfを超えると、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れ込むので、圧電部材108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、こうして蓄電素子C1に電荷を蓄えるに従って蓄電素子C1の端子間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、蓄電素子C1の端子間電圧がVC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電部材108から電荷が流れ込むようになる。このため、圧電部材108の端子間の電圧がクリップされる値が、蓄電素子C1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0058】
加えて、図3および図4を用いて前述したように、圧電部材108から電荷を流出させない限り、圧電部材108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電部材108内の電荷は増えて行き、それに伴って、圧電部材108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0059】
A−4.スイッチの切換タイミング :
以上に説明したように、本実施例の発電装置100では、圧電部材108(正確には梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わるときに、共振周期の半分の時間だけ圧電部材108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。もっとも、梁104の変形方向が切り換わるときにスイッチSWをONにすることは、それほど容易なことではない。例えば、梁104の変形方向が切り換わるときは、梁104の変位の大きさが最大となるときであるから、機械的な接点を用いて、梁104が最大変位となったときにONとなるように構成することも可能である。しかし、接点の調整がずれると、効率が大きく低下することになる。そこで、本実施例の発電装置100は、図1(b)に示したように、非接触型のセンサーである変位センサー130が振動する梁104の変位を検出することで、スイッチSWを制御している。
【0060】
図5は、変位センサー130が振動する梁104の変位を検出することによって、スイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。図5(a)には、梁104の変位が示されている。また、図5(b)には、その変位を表す関数fを時間で微分した関数f´が示されている。ここで、変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるものとする。このとき、微分値は、具体的にはサンプリングタイミングnの変位f(n)と1つ前のサンプリングタイミングの変位f(n−1)との差分値が対応する。
【0061】
図3および図4を用いて前述したように、梁104の変位が極値に達したタイミングでスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、図5(a)と図5(b)とを比較すれば明らかなように、梁104の変位が極値となるのは、微分値がゼロとなるタイミングである。実際には、変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるので、微分値の符号が変化するタイミングとすればよい。
【0062】
そこで、図5(b)に示すように、制御回路112は符号が+から−に変化するタイミング、又は−から+に変化するタイミングを検出し、そのタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0063】
このとき、梁104は外力によって振動するため、その振動の変位の大きさ(振幅)は様々である。しかし、本実施例では、非接触型の変位センサー130を用いて梁104の変位を検出し、制御回路112は変形量情報に基づいて、その微分値から変位が極値となるタイミングを正確に求めることができる。つまり、振幅によらず梁104の変位が極値となるタイミングを正確に得られる。
【0064】
また、制御回路112は符号の反転だけを検出すればよいので、回路規模は小型化が図られる。具体的には、サンプリングタイミングが2つ前までの変位f(n)、f(n−1)、f(n−2)を取得して、これらの比較を行うだけで判定が可能である。
【0065】
以上では、上述のタイミングでスイッチSWをONにすると効率よく発電可能であることについて説明した。本実施例の発電装置100では、上述したタイミング以外にも以下に説明するタイミングでスイッチSWをONにすることによって、梁104の変形量を抑制することが可能である。
【0066】
図6は、梁104に振動を与えた場合の梁104の変位を示す説明図である。梁104(変形部材に対応)の変形量は、例えば梁104の先端の速度を変形量情報として得て、速度と時間から演算で求めることもできる。しかし、本実施形態では、変位センサー130から、振動に伴い変化する梁104の変位を変形量情報として得ることができる。例えば、梁104の変位の「大きさ」が本発明の変形部材の変形量に相当する。
【0067】
図6の実線はスイッチSWがOFFの場合の梁104(および圧電部材108)の変位を示しており、破線はスイッチSWがONの場合、すなわち圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとが短絡状態である場合の梁104(および圧電部材108)の変位を示している。尚、図6のスイッチSWがOFFの場合(実線)とスイッチSWがONの場合(破線)とでは、互いに同じ力が梁104に加えられている。図6の破線と実線とを比較すれば明らかなように、スイッチSWをOFFにした場合よりも、スイッチSWをONにして第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にした場合の方が、梁104(および圧電部材108)の変形は抑制される。
【0068】
図7は、変位センサー130からの変形量情報(梁104の変形による変位)に基づいて、梁104の変位の「大きさ」が閾値以上になった場合に短絡させることによって、圧電部材108(および梁104)の変形が抑制される様子を示す説明図である。
【0069】
図7(a)には、振動に伴う梁104の変位が示されている。図7(a)に示すように、タイミングtlで閾値u0に到達している。そして、図7(b)に示すように、タイミングtlでスイッチSWをONにして発電用の圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にすることよって、圧電部材108(および梁104)が変形することを抑制する。すなわち、スイッチSWをONにしなければ図7(a)に破線で示すように大きく変形していたところを、スイッチSWをONにして圧電部材108(および梁104)の変形を実線で示す程度まで抑制している。
【0070】
以上のように、梁104の変形量を制御することができるので、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止できる。その結果、該衝突の衝撃を緩衝するための緩衝部材を配置する必要がなくなり、発電装置100を小型化することが可能となる。
【0071】
図8は、スイッチSWのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。この処理は、例えば制御回路112に内蔵されたCPUによって実行される。このとき、CPUはスイッチ制御手段に相当する。
【0072】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112のCPUは、変位センサー130から梁104の変位を表す変形量情報を取得する(ステップS100)。そして、変形量情報に基づいて、梁104の変位がピーク(極値)に達したか否かを判断する(ステップS101)。前記のように、梁104の変位がピークに達したか否かは、微分値の符号が変わることで判断できる。
【0073】
以上のようにして、梁104の変位のピークを検出したら(S101:yes)、共振回路(圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そして、圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。
【0074】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS106:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS108)。
【0075】
以上のステップS100〜S108の処理を行うことによって共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに合わせて容易に適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装置100を用いて効率よく発電することが可能となる。共振回路のスイッチSWをOFFにしたら(ステップS108)、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0076】
ステップS101の処理で梁104の変位のピークを検出しなかった場合は(ステップS101:no)、次に、梁104の変位の大きさが閾値以上か否かを判断する(ステップS110)。その結果、梁104の変位の大きさが閾値以上である場合は(ステップS110:yes)、第1電極109aと第2電極109bとを短絡させて梁104の変形を抑制するべく、SWをONにする(ステップS112)。その後、制御回路112に内蔵された計時タイマーをスタートする(S114)。そして、設定時間が経過したか否かを判断する(ステップS116)。ここで、設定時間は、梁104の変形を抑制させるために第1電極109aと第2電極109bとを短絡させる時間である。該設定時間の長さとしては、例えば、梁104の振動周期の1/2程度の梁104の変形を十分に抑制することの可能な時間が設定される。
【0077】
ステップS116の判断処理で、設定時間が経過していないと判断した場合は(ステップS116:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、設定時間が経過するまで待機状態となる。そして、設定時間が結果したと判断したら(ステップS116:yes)、スイッチSWをOFFにする(ステップS118)。スイッチSWをOFFにしたら、あるいは、梁104の変位の大きさが閾値に達していなければ(ステップS110:no)、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0078】
以上のステップS110〜S118の処理を行うことによって、梁104の変形量が所定の大きさ以上になった場合に、第1電極109aと第2電極109bとを設定時間だけ短絡させて梁104が想定以上に変形することを抑制することができる。その結果、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止でき、該衝突の衝撃を緩衝するための緩衝部材を配置する必要がなくなるので、発電装置100を小型化することが可能となる。
【0079】
また、1つのスイッチSWをONにするタイミングを制御することによって、効率よく発電させることが可能となり(ステップS100〜S108)、なおかつ、梁104の変形量を抑制することが可能である(ステップS110〜S118)。すなわち、効率よく発電させるために設けられたスイッチSWを、梁104の変形量を抑制するためにも用いているので、発電装置100を構成する部材点数の増加を抑えることが可能となる。
【0080】
A−5.変位センサー :
本実施例では、変位センサー130としては非接触型のセンサーを使用する。非接触であるため、圧電素子の変形を妨げることなく、振幅が様々である梁104の振動のピークを制御回路112に適切に判断させることができる。
【0081】
ここで、非接触型のセンサーには光学式、超音波式、渦電流式、静電容量式などの種類がある。いずれの方式の非接触型のセンサーによっても、梁104の変位を測定することは可能である。しかし、応答周波数の高い渦電流式と光学式を用いることで、検出精度を高めることができる。例えば、超音波式や静電容量式のセンサーでは、応答周波数は数十Hz程度であるが、渦電流式や光学式のセンサーでは応答周波数が数kHz〜数十kHzであるものが存在する。
【0082】
図9(a)〜図9(b)は、渦電流式の変位センサーの説明図である。図9(a)には変位センサーのヘッドHaと、検出物体Taが記載されている。検出物体TaはヘッドHaに対して近づいたり遠ざかったりする。
【0083】
渦電流式のセンサーは、ヘッドHaに含まれる検出コイルに例えば数MHzの高周波信号を供給する。すると検出コイルから図9(a)のように高周波磁界が生じる。そして、金属である検出物体Taが近づくと、金属の表面に渦電流Iaが発生する。このとき、渦電流Iaの大きさは、ヘッドHa(検出コイル)と検出物体Taとの距離により変化する。
【0084】
図9(b)はヘッドHaの検出コイルの等価回路を示すものである。検出コイルの等価回路は、図9(b)のように抵抗(その抵抗値はRc)とインダクター(そのインダクタンスはLc)とを含み、高周波信号が供給されている。ここで、ヘッドHaと検出物体Taとの距離をxとする。このとき、抵抗値RcはRc=R0+ΔR(x)、インダクタンスLcはLc=L0+ΔL(x)と表すことができる。
【0085】
ここで、R0、L0はそれぞれxが無限大のときの抵抗値Rc、インダクタンスLcの値である。検出物体TaとヘッドHaとの距離xが近くなると、渦電流Iaが生じることでΔR(x)とΔL(x)とは非ゼロの値になる。渦電流Iaは検出物体Taの周囲の磁界の変化を打ち消す磁界を生じるように流れるので、ΔR(x)とΔL(x)は距離xに応じて変化する。すると、ヘッドHaの検出コイルのインピーダンスZcも距離xに応じて変化することになる。
【0086】
渦電流式の変位センサーは、この検出コイルのインピーダンスZcの変化に基づいて距離xを求めることができる。つまり、検出物体Taの変位を求めることができる。
【0087】
図10は、光学式の変位センサーの説明図である。図10には変位センサーのヘッドHbと、検出物体Tbが記載されている。検出物体TbはヘッドHbに対して近づいたり遠ざかったりする。ヘッドHbは、発光素子Hb1と光位置検出素子Hb2を含む。そして、発光素子Hb1から検出物体Tbに光Li(例えばレーザー光)を照射する。対象物体からの表面反射光Lrは受光レンズHb3を通って光位置検出素子Hb2の上にスポットSpをつくる。光学式の変位センサーは、スポットSpの位置の変化に基づいて検出物体Tbの変位を測定できる。
【0088】
ここで、渦電流式の変位センサーは金属の表面に生じる渦電流を利用するものである。よって、検出物体(本実施例では梁104)は金属等の導体に限られる。従って、本実施例の梁104が金属であるか金属コーティングされているならば、変位センサー130として渦電流式のセンサーを使用することができる。そうでない場合には、変位センサー130として光学式のセンサーを使用してもよい。
【0089】
なお、超音波式の変位センサーは、センサヘッドから超音波を発信し、対象物(ここでは梁104)で反射してくる超音波を受信する。そして、超音波の発信から受信までの時間を計測して、梁104との距離(すなわち、梁104の変位)を測定する。梁104との距離LSは、超音波の発信から受信までの時間をTS、音速をCSとして、LS=TS*CS/2で求められる。比較的簡単な計算で、正確に距離LSを求めることができる。また、静電容量式の変位センサーは、電極間の距離に逆比例して静電容量が変化することを利用して変位を測定する。そのため、微小な変位の測定が可能である。
【0090】
B.第1変形例 :
上述した実施例には種々の変形例が存在している。以下では、第1変形例について簡単に説明する。
【0091】
上述した実施例の発電装置100では、1つの発電用の圧電部材108が設けられているものとして説明した。しかし、これらの圧電部材108は必ずしも1つだけである必要はなく、複数を設けても良い。以下では、このような第1変形例について説明する。尚、上述の実施例と同様な構成については、変形例においても同じ番号を付すものとして、詳細な説明は省略する。
【0092】
図11は、発電用の圧電素子および変位センサーを複数備えた第1変形例の発電装置100Aを示した説明図である。図11のように、梁104の一方の面に2つの発電用の圧電素子(圧電部材108および圧電部材116)が設けられている。圧電部材108については前述の実施例と同じである。そして、圧電部材116の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極117a、第2電極117bがそれぞれ設けられている。圧電部材116、第1電極117a、第2電極117bとで圧電素子を構成している。
【0093】
また、図11のように、非接触型のセンサーである変位センサー130Aおよび変位センサー130Bが、梁104の圧電部材108および圧電部材116が設けられた面(上面)と対向して設置されている。そして、変位センサー130A、変位センサー130Bは、それぞれ梁104の上面の測定位置との距離132A、132Bを測定する。図11の例では、変位センサー130A、変位センサー130Bの測定位置は、それぞれ梁104の圧電部材108、圧電部材116が取り付けられた部分である。
【0094】
ここで、図11の例では、発電用の圧電部材108、圧電部材116は、梁104の一方の面に、梁104の長手方向に並べて設けられているが、このような配置に限るものではない。例えば、梁104の長手方向に並べて設けられてもよい。また、圧電部材108、圧電部材116がそれぞれ梁104の異なった面に設けられてもよい。このとき、変位センサーは1つであって、一方の圧電部材との距離だけを測定してもよい。
【0095】
図12は、2つの発電用の圧電部材108、116および2つの変位センサー130A、130Bを備える第1変形例の発電装置100Aの電気的な構造を示した説明図である。インダクターL1、スイッチSW1、変位センサー130Aは上述の実施例のインダクターL、スイッチSW、変位センサー130に対応する。図12と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して第1変形例の発電装置100Aは、発電用の圧電部材116や、インダクターL2、スイッチSW2、全波整流回路121、変位センサー130B等が追加されている。これらの追加された構成は、上述の実施例で説明した発電用の圧電部材108や、インダクターL、スイッチSW、全波整流回路120、変位センサー130等と同様に動作する。
【0096】
すなわち、変位センサー130Aの変形量情報に基づく変位のピークを検出したら共振周期の1/2の時間が経過するまでスイッチSW1をONにすることによって、発電用の圧電部材108に生じた電荷が効率よく蓄電素子C1に蓄えられる。同様に、変位センサー130Bの変形量情報に基づく変位のピークを検出したら共振周期の1/2の時間が経過するまでスイッチSW2をONにすることによって、発電用の圧電部材116に生じた電荷も蓄電素子C1に蓄えられる。
【0097】
また、変位センサー130Aの変形量情報に基づく変位の大きさが閾値以上になってから設定時間が経過するまでスイッチSW1をONにすることによって、発電用の圧電部材108の変形を抑制したのと同様に、変位センサー130Bの変形量情報に基づく変位の大きさが閾値以上になってから設定時間が経過するまでスイッチSW2をONにすることによって、発電用の圧電部材116の変形を抑制する。圧電部材108,116の変形をそれぞれ抑制することによって、圧電部材108,116が設けられている梁104の別々の部分の変形をそれぞれ抑制することができる。このように、梁104の別々の部分の変形をそれぞれ抑制するので、梁104の別々の部分のうち一方の部分だけに過度の変形が発生したとしても該一方の部分だけの変形を抑制して、他方の部分は変形を抑制せずに電力を発生させることが可能となる。従って、梁104の多様な変形に応じて過度の変形を抑制しながら効率よく発電することが可能となる。
【0098】
C.第2変形例 :
次に、第2変形例について簡単に説明する。
【0099】
図13は、第2変形例の発電装置100Bの電気的な構造を示した説明図である。図13と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して第2変形例の発電装置100Bは、インダクターLが接続されていない。すなわち、第2変形例の発電装置100B内には上述の実施例のようなLC共振回路は構成されない。これにより、制御回路112に内蔵されたCPUによって実行されるLC共振回路を利用するための制御処理(図8のS101〜S108)を省略することができる。
【0100】
もちろん、第2変形例の発電装置100Bは、上述した実施例の発電装置100のようにLC共振回路を利用しないので、実施例の発電装置100ほどは効果的に電荷を蓄積することを望めないものの、梁104の変形量が所定値以上になったときにSWをONにする処理(図8のS100およびS110〜S118)を行うことによって、梁104の変形を抑制できる。以上のように、第2変形例の発電装置100Bは、部材点数(インダクターL)やCPUの処理負荷(LC共振回路を利用するための制御処理)の増大化を抑えた上で、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止できる。
【0101】
D.第3変形例 :
次に、第3変形例について簡単に説明する。
【0102】
図14は、第3変形例で加速度を求めることによってスイッチを適切なタイミングで制御して、梁104の変形を抑制できる理由を説明する図である。上述した実施例では、梁104の変位の「大きさ」を求めた。そしてスイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になるとして第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にして圧電部材108の変形を抑制した。
【0103】
第3変形例では、梁104の変位(変形量情報)から変形による梁104の加速度を求めて、加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になると判断する。このとき、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になった状態を検出するだけでなく、その予測をすることができる。
【0104】
図14(a)には、梁104の変位が示されている。また、図14(b)には、その変位を表す関数fを時間で2階微分した関数f´´が示されている。関数f´´は加速度を表す関数である。強い外力が与えられなければ、関数fおよび関数f´´は、図14(a)、図14(b)の実線のように変化する。
【0105】
しかし、タイミングt0において、上方への強い外力が与えられたとする。このとき、梁104の変位は下方の閾値の−u0以下になっていない。しかし、上方への加速度は点線のように大きくなり、加速度の閾値a0を超える。すると、梁104の変位は次の極大値で変位の閾値u0を超えることが当然に予測される(タイミングt1)。このとき、第3変形例のスイッチ制御手段は、加速度が閾値a0を超えたタイミングt0でスイッチSWをONにして、発電用の圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にする。そして、予測されるタイミングt1での過度な圧電部材108の変形を、予防的に抑制することが可能になる。
【0106】
ここで、例えば変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるものとする。このとき、2階微分で得られる加速度は、具体的にはサンプリングタイミングnの変位f(n)とそれぞれ1つ前、2つ前のサンプリングタイミングの変位f(n−1)、f(n−2)を用いて、例えばf(n)−2f(n−1)+f(n−2)で得られる。つまり、複雑な計算を要することもない。
【0107】
なお、図14では図示を省略しているが、変位の大きさが所定の閾値u0以上の場合には(例えば図14(a)のf(t1)の点線の変位)、対応する加速度の大きさも閾値a0以上になる。つまり、予測だけでなく、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になった状態も検出できる。
【0108】
E.その他 :
以上、実施例あるいは変形例について説明したが、本発明はこれら実施例あるいは変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0109】
例えば、上述した実施例では、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにすることによって、効率よく蓄電素子C1に電荷を蓄えるものとして説明した。しかし、これに限らず、図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの状態で蓄電素子C1に電荷を蓄える構成でもよい。すなわち、圧電部材108で発生した電荷を何らかの形で蓄えることができればどのような構成でもよい。
【0110】
また、上述した実施例では、圧電部材108が片持ち梁構造の梁104に取り付けられているものとして説明した。しかし、圧電部材108が取り付けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部材であっても構わない。例えば、薄膜の表面に圧電部材108を取り付けても良いし、弦巻バネの側面に圧電部材108を取り付けても構わない。
【0111】
そして、超小型で低消費電力の変位センサー130が利用可能な場合、電池の代わりにリモコン等の小型電子機器に組み込む、といった応用が可能である。このとき、使用時に前回の発電で蓄電素子C1に蓄えたエネルギーを優先的に変位センサー130に供給するような制御が行われてもよい。
【0112】
なお、本発明の発電装置は小型化が可能であるが、設置する対象は電子機器に限らない。例えば、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで、移動に伴う振動により発電し、移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することもできる。
【0113】
このとき、あらゆる振動に対応するために、梁104の長さや錘106の重さが異なる複数の発電装置100を移動手段に組み込んでもよい。このとき、複数の発電装置100が共通の支持端102に固定されている発電ユニットとして構成されていてもよい。
【0114】
また、本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、例えば、橋梁や建築物あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。
【0115】
さらに、特定の機器等に設置されるのではなく、本発明の発電装置が例えばボタン電池、乾電池と同じ形状であって、電子機器一般で使用されてもよい。このとき、振動によって蓄電素子への充電が可能であるため、電力が喪失した災害時でも電池として使用可能である。このとき、一次電池より寿命が長いため、ライフサイクルの観点で環境負荷低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0116】
100,100A,100B…発電装置、102…支持端、104…梁、106…錘、108,116…圧電部材、109a,117a…第1電極、109b,117b…第2電極、112…制御回路、120,121…全波整流回路、130,130A,130B…変位センサー、L,L1,L2…インダクター、C1…蓄電素子、D1〜D4…ダイオード、SW,SW1,SW2…スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電気エネルギーとして取り出す発電装置、その制御方法、この発電装置を含む電子機器、および移動手段等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこのような性質を利用して、片持ち梁などの変形部材を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
例えば、先端に錘を設けると共に圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。また、圧電素子で正の電荷が発生している間だけ接点が閉じるようにすることで、ダイオードでの電圧損失を発生させずに直流電流が得られるようにした技術も提案されている(特許文献2)。これら技術を用いれば、発電装置を小型化できる可能性があるので、例えば小型の電子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【特許文献2】特開2005−312269号公報
【特許文献3】特開2003−218418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような技術を用いた発電装置では、片持ち梁に想定以上の力がかかることによって、片持ち梁が過度に振れた場合に、該片持ち梁が周辺の部材に衝突して破損する虞がある。このことを防止するために、片持ち梁を収容する筐体の内壁に弾性体を設けて、片持ち梁が筐体の内壁に衝突した際の衝撃を緩和する技術が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、特許文献3で提案されている技術では、弾性体を設けるスペースを確保する必要があることから、発電装置を十分に小型化することが難しいという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、変形部材を内蔵した圧電材料の圧電効果を利用する発電装置において、変形部材の過度の振れを抑制しつつも小型化が可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段と、を備える。
【0009】
(2)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変形量が前記所定の大きさに達しない期間では、前記変形部材の変形方向が切り換わるときに前記スイッチを接続した後、前記共振回路の共振周期の半周期に相当する時間が経過すると前記スイッチを切断してもよい。
【0010】
これらの発明の発電装置では、圧電素子が変形部材に設けられているので、変形部材が変形することにより、圧電素子も変形する。その結果、圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生する。変形部材とともに圧電素子が繰り返し変形すると、正負の電荷も繰り返し発生し、該電荷を電流として取り出すことによって発電が行われる。また、変形量が所定の大きさ以上になると、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とする。こうすると、圧電素子は一対の電極間を短絡させた状態では変形し難い性質を持つことから、圧電素子の変形が抑制される。これによって、圧電素子が設けられた変形部材が過度に変形することも抑制することができるので、衝突時の衝撃を緩和させるための部材を設ける必要がなく、発電装置を小型化することが可能となる。
【0011】
ここで、これらの発明の発電装置は、変形部材の変形量を検出し、変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーを備えている。変位センサーからの変形量情報に基づいて、スイッチ制御手段は変形部材の変形量を把握することができる。そのため、確実に、変形部材が過度に変形することを抑制することができる。
【0012】
また、圧電素子の電荷の発生量は、圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。これらの発明の発電装置では、圧電素子はインダクターと共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが設けられている。そして、例えばスイッチでの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通状態とすることができる。圧電素子は変形部材と共に変形し、変形量が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、圧電素子で発生した電荷が最も多くなった時に、圧電素子がインダクターに接続されて共振回路を形成する。すると、圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込む。そして、圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダクターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、圧電素子の反対側の端子に流れ込む。この期間(すなわち、圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダクターを介して反対側の端子から再び圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従って、圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダクターを接続する前に圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させることができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、圧電素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によって発生した新たな電荷が積み増されるようにして圧電素子内に電荷が蓄積される。また、圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧回路を別途用意しなくても、圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じる電圧よりも高い電圧を発生させることができる。
【0013】
ここで、これらの発明の発電装置は、変形量情報として例えば変形部材の変形による変位を把握できる。変位センサーが検出した正確な変位に基づいて、スイッチ制御手段は変形部材の変位の方向の切り換わり(すなわち圧電素子の変形方向の切り換わり)を把握することができる。そして、スイッチ制御手段は、圧電素子の変形方向の切り換わりから所定期間だけスイッチを導通状態とすることで、圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。
【0014】
前述したように、スイッチは圧電素子の変形量を抑制するタイミングでも接続される。すなわち、変形量情報に基づいてスイッチの接続タイミングを制御することによって、圧電素子の変形量を抑制することに加えて、上述のように高い電圧を発生させることが可能となる。
【0015】
(3)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、前記変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。
【0016】
(4)この発電装置において、前記スイッチ制御手段は、前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、前記変位を2階微分して加速度を求め、前記加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。
【0017】
これらの発明によれば、スイッチ制御手段は、変位センサーから変形量情報として変形部材の変形による変位を受け取る。変位センサーは、変形部材の変形を直接的に(すなわち、回路における電圧や電流の変化から変換して求めるのでなく)検出できるので、生成される変形量情報は正確である。変位は、例えば変形部材に力が作用していない状態をゼロとして、一方(例えば上方)に変形した場合を正の値で、他方(例えば下方)に変形した場合を負の値で表してもよい。
【0018】
そして、スイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、変形部材の変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。このとき、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とし、圧電素子の変形を抑制することができる。そのため、衝突時の衝撃を緩和させるための部材を設ける必要がなく、発電装置を小型化することが可能となる。
【0019】
また、スイッチ制御手段は、変位を2階微分して加速度を求め、加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、変形量が所定の大きさ以上であると判断してもよい。このとき、加速度の大きさから、変形部材が過度に振れた状態を検出又は予測することができる。そして、圧電素子の一対の電極間を短絡状態とし、圧電素子の変形を抑制することができる。なお、スイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上という条件、および加速度の大きさが所定の閾値以上という条件の少なくとも一方が満たされた場合に、圧電素子の一対の電極間を短絡状態としてもよい。
【0020】
(5)この発電装置において、前記変位センサーは、渦電流式であってもよい。
【0021】
(6)この発電装置において、前記変位センサーは、光学式であってもよい。
(7)この発電装置において、前記変位センサーは、超音波式であってもよい。
(8)この発電装置において、前記変位センサーは、静電容量式であってもよい。
【0022】
これらの発明によれば、変位センサーとして特定の方式を選択することで、検出精度を高めることができる。変位センサーとしては、圧電素子の変形を妨げない非接触型のセンサーを使用することができる。そして、非接触型のセンサーには光学式、超音波式、渦電流式、静電容量式などの種類がある。このうち、渦電流式のセンサーは高周波磁界を生じる検出コイルを含む。そして、検出物体が近づくと検出物体に渦電流(電磁誘導による誘導電流)が流れるので、検出コイルのインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化に基づいて変位を測定できる。一方、光学式のセンサーは発光素子と光位置検出素子を含む。そして、発光素子から検出物体に光(例えばレーザー光)を照射する。対象物体からの表面反射光は受光レンズを通って光位置検出素子の上にスポットをつくる。このスポットの位置の変化に基づいて変位を測定できる。渦電流式および光学式のセンサーは、その他の方式に比べて応答周波数が高い。そのため、渦電流式および光学式のセンサーを変位センサーとして用いることで、正確に圧電素子の変形方向の切り換わりのタイミングを捉えることができる。
【0023】
そして、変位センサーは超音波式、静電容量式であってもよい。超音波式の変位センサーは、超音波を発信して対象物で反射する超音波波を受信する。送受信間の時間に基づいて比較的簡単な計算で正確に距離を求めることができる。また、静電容量式の変位センサーは、静電容量の変化に基づいて変位を測定するので、微小な変位の測定が可能である。
【0024】
(9)本発明は、変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、前記変形量情報を取得するステップと、前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するステップと、を含む。
【0025】
本発明によれば、発電装置の制御方法として、変位センサーから変形量情報を取得するステップと、変形量情報に基づいて圧電素子の一対の電極間を短絡状態とするようにスイッチを制御するステップとを含む。まず、変形量情報として、変位センサーが検出した直接的で正確な変形部材の変位の情報を取得することが可能である。そのため、誤差が少ない正確な変形量情報を得ることができる。そして、スイッチを制御するステップでは、このような正確な変形量情報に基づいて、確実に、変形部材が過度に変形することを抑制することができる。
【0026】
(10)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器である。
【0027】
(11)本発明は、前記のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段である。
【0028】
これらの発明は、前記の発電装置を電池の代わりに組み込んだ例えばリモコン等の小型電子機器、又は前記の発電装置を搭載した例えば車両や電車等の移動手段である。この電子機器は、例えば持ち運ばれるとき、又は使用されるときに、振動が伴うことで発電が可能である。この電子機器では、電池交換といった作業も不要である。また、この移動手段(例えば車両や電車等)は、その移動に伴う振動により発電し、例えば移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】本実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図3】本実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図4】本実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図5】変位を検出することによってスイッチを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。
【図6】梁に振動を与えた場合の梁の変位を示す説明図である。
【図7】検出された変位が所定値以上になった場合に短絡させることによって、圧電素子の変形が抑制される様子を示す説明図である。
【図8】検出された変位に基づいてスイッチのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図9】渦電流式のセンサーの説明図である。
【図10】光学式のセンサーの説明図である。
【図11】第1変形例の発電装置の圧電素子の配置を示した説明図である。
【図12】第1変形例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図13】第2変形例の発電装置の電気的な構造を示した説明図である。
【図14】第3変形例で加速度を求めることによってスイッチを適切なタイミングで制御できる理由を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.実施例:
A−1.発電装置の構造:
A−2.発電装置の動作:
A−3.発電装置の動作原理:
A−4.スイッチの切換タイミング:
A−5.変位センサー:
B.第1変形例:
C.第2変形例:
D.第3変形例:
E.その他:
【0031】
A.実施例 :
A−1.発電装置の構造 :
図1は、本実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されている。本実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁104が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっており、支持端102は発電装置100内に固定されるのが望ましい。また、梁104の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電部材108が取り付けられており、圧電部材108の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極109a、第2電極109bがそれぞれ設けられている。圧電部材108、第1電極109a、第2電極109bとで圧電素子を構成している。なお、図1(a)に示した例では、梁104の上面側に圧電部材108が設けられているが、梁104の下面側に圧電部材108を設けても良く、あるいは梁104の上面側および下面側の両方に圧電部材108を設けても良い。また、圧電部材108は梁104の変形によって変形するから、梁104が本発明の「変形部材」に相当する。
【0032】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられているので、振動などが加わると、図中に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104の表面に取り付けられた圧電部材108には、圧縮力および引張力が交互に作用する。すると、圧電部材108は圧電効果によって正負の電荷を発生し、その電荷が第1電極109a、および第2電極109bに現れる。また、錘106は必須ではないが、梁104の先端側と基端側とで重量のバランスが非均衡であることが望ましい。なぜなら、重量のバランスが非均衡であることで、たとえば、1つの振動により梁104の変位が反復しやすくなるためである。
【0033】
変位センサー130は、発電装置100内に固定されており、変形部材である梁104の変位を測定する。変位センサー130は、本実施例のように、圧電部材108の変形を妨げない非接触型のセンサーであることが好ましい。なお、非接触型のセンサーについての詳細な説明は後述する。
【0034】
本実施例では、非接触型のセンサーである変位センサー130が、梁104の圧電部材108が設けられた面(上面)と対向して設置されている。そして、梁104の上面の測定位置と変位センサー130との間の距離132を測定する。
【0035】
変位センサー130は、正確な変位検出のために梁104の先端側の変位を測定することが好ましい。振動などが加わると、梁104の先端側の方が、基端側に比べて大きく振動するからである。一方で、梁104の上面のうち圧電部材108が取り付けられた部分と、その他の部分とでは、振動に差が生じる可能性がある。すると、圧電部材108の変形を把握するためには、圧電部材108が取り付けられた部分の変位を測定することが好ましい。そこで、本実施例の変位センサー130は、梁104の上面に対向して設置され、圧電部材108が取り付けられた部分のうち梁104の先端側にあたる部分との距離132を測定する。
【0036】
なお、変位センサー130は、梁104の下面に対向して設置されてもよい。しかし、この場合、梁104の先端側を測定しようとすると、厚みのある錘106が変位センサー130と梁104の下面との間に入ったり、入らなかったりすることで正確な測定が妨げられるおそれがある。そのため、変位センサー130を梁104の下面に対向して設置した場合、梁104の先端部分を避けて測定しなければならない可能性が生じてしまう。よって、変位センサー130は、梁104の上面に対向して設置されることが好ましい。
【0037】
また、梁104の上面の測定位置を変位センサー130にて距離132を測定するとして説明したが、変位が測定できるものを梁104に設置し、設置したものを測定しても良く、発電装置100の設置状況や変位センサーによっては、梁104の側面などでも良いい。
【0038】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電部材108は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCgとして表すことができる。この圧電部材108に対して並列にインダクターLが接続されて、圧電部材108の容量成分(コンデンサーCg)と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をON/OFFするためのスイッチSWが、インダクターLに対して直列に接続されている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112(スイッチ制御手段に対応)によって制御されている。また、圧電部材108に設けられた第1電極109aおよび第2電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流を蓄えておくコンデンサー(蓄電素子C1)が接続されている。
【0039】
ここで、制御回路112は変位センサー130からの梁104の変位の情報に基づいてスイッチをONするタイミングを決定する。そのため、後述するように、変形量の大きさや圧電素子の変形方向の切り換わりのタイミングを正確に捉えることができ、変形部材の過度な変形を防止する効果や昇圧効果を高めることが可能である。
【0040】
A−2.発電装置の動作 :
図2は、本実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図2(a)には、梁104の振動に伴う、梁104の先端の変位が示されている。なお、プラスの変位(u)は、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104の下面側が凹となった状態)を表している。また、図2(b)には、梁104の変形に伴って、圧電部材108が発生する電流の様子と、その結果として圧電部材108の内部に生じる起電力とが示されている。なお、図2(b)では、圧電部材108に電荷が発生する様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、また、圧電部材108に生じる起電力は、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差Vpzt として表されている。
【0041】
図2(a)および図2(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、圧電部材108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正方向の電位差Vpzt が、C1の電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオードの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電部材108は負方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って第1電極109aおよび第2電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電流として取り出して、蓄電素子C1に蓄えておくことができる。すなわち、図1のスイッチSWをOFFにしたままでも、図2(b)中に斜線を付して示した部分については、蓄電素子C1に電荷を蓄えることができる。
【0042】
本実施例の発電装置100では、図2(c)に示すタイミングで、スイッチSWをONにする。すると、図2(d)に示すように、圧電部材108を含む圧電素子の端子間(以下、圧電部材108の端子間と表す)の電圧波形が、スイッチSWをONにしたときにシフトしたかのような現象が発生する。すなわち、例えば、図2(d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電部材108の起電力に対応する細い破線で示した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧電部材108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。また、図2(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電部材108の起電力に対応する電圧波形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図2(d)中に斜線を付して示した部分)では、圧電部材108で発生した電荷を蓄電素子C1に蓄えておくことができる。なお、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れる結果、圧電部材108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その結果、第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧波形は、図2(d)に太い実線で示した波形となる。
【0043】
図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図2(d)に示したように、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを比較すれば明らかなように、本実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイッチSWをONにすることで、効率よく、蓄電素子C1に電荷を蓄えることが可能となる。
【0044】
また、蓄電素子C1に電荷が蓄えられて、蓄電素子C1の端子間電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。例えば、図2(d)中の期間B(蓄電素子C1に電荷が蓄えられていない状態)と、図2(d)中の期間H(蓄電素子C1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図2(d)中の期間Cと期間Iとを比較すると、蓄電素子C1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させたことによって、第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧を、蓄電素子C1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0045】
A−3.発電装置の動作原理 :
図3は、本実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。また、図4は、本実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。図3および図4では、圧電部材108の変形に合わせてスイッチSWをONにしたときのコンデンサーCg(圧電部材108の容量成分)の電荷の動きが、概念的に示されている。図3(a)は、圧電部材108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹となるように)変形した状態を表している。圧電部材108が上向きに変形すると、電流源からは正方向の電流が流れ、Cgに電荷が蓄積され、Vgen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電部材108の変形が大きくなるほど増加する。そして、圧電部材108の変形が最大となったタイミング(電荷量が最も多くなったタイミング。図3(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0046】
図3(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。Cgには電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、インダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導作用)がある。スイッチSWをONにしたときは、電荷が流れることによって磁束が増加しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたりの変化量)に比例する。図3(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、スイッチSWをONにしても、圧電部材108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0047】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」となるので、図3(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、この磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図3(e)参照)。その結果、この起電力によってCgから電荷を引き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が発生しなければ、圧電部材108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電部材108の下面側に正電荷が分布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図3(f)には、圧電部材108の変形によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0048】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生じる。すなわち、圧電部材108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。その結果、圧電部材108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図3(b)に示した状態)となる。こうして圧電部材108の上面側に戻った正電荷は、再び、図3(b)〜図3(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0049】
このように、Cgに電荷が蓄えられた状態でスイッチSWをONにした後、その状態を保っておくと、圧電部材108とインダクターLとの間で電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は、いわゆるLC共振回路の共振周期Tとなるから、圧電部材108に含まれるコンデンサーCg(容量成分)の大きさ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をLとすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONにした直後(図3(c)に示した状態)から、図3(f)に示した状態となるまでの時間は、T/2となる。
【0050】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図4(a)に示すようにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電部材108(正確には梁104)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図3(a)では、圧電部材108を上向きに変形させたが、図4(a)では下向きに変形させているので、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCgに電荷が蓄積する。また、図3(a)〜図3(f)を用いて前述したように、圧電部材108(正確には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電部材108の下面側には正電荷が分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新たな正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図4(b)には、スイッチSWをOFFにした状態で圧電部材108(正確には梁104)を変形させることによって、圧電部材108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0051】
そして、圧電部材108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタイミング)でスイッチSWをONにすると、圧電部材108の下面側に蓄積された正電荷がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するので(図4(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)に起電力が発生し(図4(e)参照)、この起電力によって電流が流れ続けて、最終的には、圧電部材108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図4(f)参照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチSWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電部材108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、圧電部材108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0052】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電部材108を変形させて電荷を発生させた後、圧電部材108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期だけ共振回路を形成することで、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させる。その後、圧電部材108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電部材108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電部材108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電部材108をインダクターLに接続して、圧電部材108内での正負の電荷の分布を反転させた後、圧電部材108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電部材108を繰り返し変形させる度に、圧電部材108に蓄積された電荷を増加させることができる。
【0053】
なお、LC共振回路の共振により、少なくとも、VgenがスイッチSWをONにする時の極性と反対の極性となった時にスイッチSWをOFFすれば、Vgenが昇圧していく。前述の説明(および以下の説明)では便宜上“T/2(共振周期の半分)”としているが、これに限定されるものではなく、LC共振回路の共振周期Tに対して、スイッチSWをONする所定期間を、少なくとも、(n+1/4)Tより長く(n+3/4)Tよりも短い時間(nは0以上の任意の整数)に設定すれば、Vgenを効率よく昇圧させることができる。
【0054】
図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにする度に圧電部材108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じる。すなわち、例えば図2(d)中に示した期間Aでは、圧電部材108(正確には梁104)の変形に従って、第1電極109aおよび第2電極109bの間に電圧が発生するが、第1電極109aおよび第2電極109bは全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は、全波整流回路120に接続された蓄電素子C1に流れ込む。その結果、梁104の変形が最大になった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電部材108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電部材108内での正負の電荷の配置が入れ代わる。なお、図3および図4を用いて前述したメカニズムから明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電部材108のコンデンサーと、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0055】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間には、圧電効果による電圧波形が現れる。すなわち、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの極性が入れ代わった状態から、圧電部材108に変形による電圧変化が発生することになる。その結果、図2(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電部材108に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は蓄電素子C1に流れ込むので、圧電部材108の第1電極109aおよび第2電極109bの間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間だけスイッチSWをONにすると、圧電部材108に残っていた正負の電荷の配置が入れ代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電部材108には圧電効果による電圧波形が現れる。このため、図2(d)中に示した期間Cにおいても、梁104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0056】
また、図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。このため、圧電部材108の圧電効果によって第1電極109aと第2電極109bとの間に生じる電位差よりも高い電圧を、蓄電素子C1に蓄えることができるという大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生じる。
【0057】
先ず、図2(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、C1が充電されていない場合は、圧電部材108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路120の2Vfを超えると、圧電部材108から蓄電素子C1に電荷が流れ込むので、圧電部材108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、こうして蓄電素子C1に電荷を蓄えるに従って蓄電素子C1の端子間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、蓄電素子C1の端子間電圧がVC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電部材108から電荷が流れ込むようになる。このため、圧電部材108の端子間の電圧がクリップされる値が、蓄電素子C1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0058】
加えて、図3および図4を用いて前述したように、圧電部材108から電荷を流出させない限り、圧電部材108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電部材108内の電荷は増えて行き、それに伴って、圧電部材108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0059】
A−4.スイッチの切換タイミング :
以上に説明したように、本実施例の発電装置100では、圧電部材108(正確には梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わるときに、共振周期の半分の時間だけ圧電部材108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。もっとも、梁104の変形方向が切り換わるときにスイッチSWをONにすることは、それほど容易なことではない。例えば、梁104の変形方向が切り換わるときは、梁104の変位の大きさが最大となるときであるから、機械的な接点を用いて、梁104が最大変位となったときにONとなるように構成することも可能である。しかし、接点の調整がずれると、効率が大きく低下することになる。そこで、本実施例の発電装置100は、図1(b)に示したように、非接触型のセンサーである変位センサー130が振動する梁104の変位を検出することで、スイッチSWを制御している。
【0060】
図5は、変位センサー130が振動する梁104の変位を検出することによって、スイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。図5(a)には、梁104の変位が示されている。また、図5(b)には、その変位を表す関数fを時間で微分した関数f´が示されている。ここで、変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるものとする。このとき、微分値は、具体的にはサンプリングタイミングnの変位f(n)と1つ前のサンプリングタイミングの変位f(n−1)との差分値が対応する。
【0061】
図3および図4を用いて前述したように、梁104の変位が極値に達したタイミングでスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、図5(a)と図5(b)とを比較すれば明らかなように、梁104の変位が極値となるのは、微分値がゼロとなるタイミングである。実際には、変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるので、微分値の符号が変化するタイミングとすればよい。
【0062】
そこで、図5(b)に示すように、制御回路112は符号が+から−に変化するタイミング、又は−から+に変化するタイミングを検出し、そのタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0063】
このとき、梁104は外力によって振動するため、その振動の変位の大きさ(振幅)は様々である。しかし、本実施例では、非接触型の変位センサー130を用いて梁104の変位を検出し、制御回路112は変形量情報に基づいて、その微分値から変位が極値となるタイミングを正確に求めることができる。つまり、振幅によらず梁104の変位が極値となるタイミングを正確に得られる。
【0064】
また、制御回路112は符号の反転だけを検出すればよいので、回路規模は小型化が図られる。具体的には、サンプリングタイミングが2つ前までの変位f(n)、f(n−1)、f(n−2)を取得して、これらの比較を行うだけで判定が可能である。
【0065】
以上では、上述のタイミングでスイッチSWをONにすると効率よく発電可能であることについて説明した。本実施例の発電装置100では、上述したタイミング以外にも以下に説明するタイミングでスイッチSWをONにすることによって、梁104の変形量を抑制することが可能である。
【0066】
図6は、梁104に振動を与えた場合の梁104の変位を示す説明図である。梁104(変形部材に対応)の変形量は、例えば梁104の先端の速度を変形量情報として得て、速度と時間から演算で求めることもできる。しかし、本実施形態では、変位センサー130から、振動に伴い変化する梁104の変位を変形量情報として得ることができる。例えば、梁104の変位の「大きさ」が本発明の変形部材の変形量に相当する。
【0067】
図6の実線はスイッチSWがOFFの場合の梁104(および圧電部材108)の変位を示しており、破線はスイッチSWがONの場合、すなわち圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとが短絡状態である場合の梁104(および圧電部材108)の変位を示している。尚、図6のスイッチSWがOFFの場合(実線)とスイッチSWがONの場合(破線)とでは、互いに同じ力が梁104に加えられている。図6の破線と実線とを比較すれば明らかなように、スイッチSWをOFFにした場合よりも、スイッチSWをONにして第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にした場合の方が、梁104(および圧電部材108)の変形は抑制される。
【0068】
図7は、変位センサー130からの変形量情報(梁104の変形による変位)に基づいて、梁104の変位の「大きさ」が閾値以上になった場合に短絡させることによって、圧電部材108(および梁104)の変形が抑制される様子を示す説明図である。
【0069】
図7(a)には、振動に伴う梁104の変位が示されている。図7(a)に示すように、タイミングtlで閾値u0に到達している。そして、図7(b)に示すように、タイミングtlでスイッチSWをONにして発電用の圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にすることよって、圧電部材108(および梁104)が変形することを抑制する。すなわち、スイッチSWをONにしなければ図7(a)に破線で示すように大きく変形していたところを、スイッチSWをONにして圧電部材108(および梁104)の変形を実線で示す程度まで抑制している。
【0070】
以上のように、梁104の変形量を制御することができるので、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止できる。その結果、該衝突の衝撃を緩衝するための緩衝部材を配置する必要がなくなり、発電装置100を小型化することが可能となる。
【0071】
図8は、スイッチSWのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。この処理は、例えば制御回路112に内蔵されたCPUによって実行される。このとき、CPUはスイッチ制御手段に相当する。
【0072】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112のCPUは、変位センサー130から梁104の変位を表す変形量情報を取得する(ステップS100)。そして、変形量情報に基づいて、梁104の変位がピーク(極値)に達したか否かを判断する(ステップS101)。前記のように、梁104の変位がピークに達したか否かは、微分値の符号が変わることで判断できる。
【0073】
以上のようにして、梁104の変位のピークを検出したら(S101:yes)、共振回路(圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そして、圧電部材108のコンデンサーCgとインダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。
【0074】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS106:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS108)。
【0075】
以上のステップS100〜S108の処理を行うことによって共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに合わせて容易に適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装置100を用いて効率よく発電することが可能となる。共振回路のスイッチSWをOFFにしたら(ステップS108)、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0076】
ステップS101の処理で梁104の変位のピークを検出しなかった場合は(ステップS101:no)、次に、梁104の変位の大きさが閾値以上か否かを判断する(ステップS110)。その結果、梁104の変位の大きさが閾値以上である場合は(ステップS110:yes)、第1電極109aと第2電極109bとを短絡させて梁104の変形を抑制するべく、SWをONにする(ステップS112)。その後、制御回路112に内蔵された計時タイマーをスタートする(S114)。そして、設定時間が経過したか否かを判断する(ステップS116)。ここで、設定時間は、梁104の変形を抑制させるために第1電極109aと第2電極109bとを短絡させる時間である。該設定時間の長さとしては、例えば、梁104の振動周期の1/2程度の梁104の変形を十分に抑制することの可能な時間が設定される。
【0077】
ステップS116の判断処理で、設定時間が経過していないと判断した場合は(ステップS116:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、設定時間が経過するまで待機状態となる。そして、設定時間が結果したと判断したら(ステップS116:yes)、スイッチSWをOFFにする(ステップS118)。スイッチSWをOFFにしたら、あるいは、梁104の変位の大きさが閾値に達していなければ(ステップS110:no)、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0078】
以上のステップS110〜S118の処理を行うことによって、梁104の変形量が所定の大きさ以上になった場合に、第1電極109aと第2電極109bとを設定時間だけ短絡させて梁104が想定以上に変形することを抑制することができる。その結果、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止でき、該衝突の衝撃を緩衝するための緩衝部材を配置する必要がなくなるので、発電装置100を小型化することが可能となる。
【0079】
また、1つのスイッチSWをONにするタイミングを制御することによって、効率よく発電させることが可能となり(ステップS100〜S108)、なおかつ、梁104の変形量を抑制することが可能である(ステップS110〜S118)。すなわち、効率よく発電させるために設けられたスイッチSWを、梁104の変形量を抑制するためにも用いているので、発電装置100を構成する部材点数の増加を抑えることが可能となる。
【0080】
A−5.変位センサー :
本実施例では、変位センサー130としては非接触型のセンサーを使用する。非接触であるため、圧電素子の変形を妨げることなく、振幅が様々である梁104の振動のピークを制御回路112に適切に判断させることができる。
【0081】
ここで、非接触型のセンサーには光学式、超音波式、渦電流式、静電容量式などの種類がある。いずれの方式の非接触型のセンサーによっても、梁104の変位を測定することは可能である。しかし、応答周波数の高い渦電流式と光学式を用いることで、検出精度を高めることができる。例えば、超音波式や静電容量式のセンサーでは、応答周波数は数十Hz程度であるが、渦電流式や光学式のセンサーでは応答周波数が数kHz〜数十kHzであるものが存在する。
【0082】
図9(a)〜図9(b)は、渦電流式の変位センサーの説明図である。図9(a)には変位センサーのヘッドHaと、検出物体Taが記載されている。検出物体TaはヘッドHaに対して近づいたり遠ざかったりする。
【0083】
渦電流式のセンサーは、ヘッドHaに含まれる検出コイルに例えば数MHzの高周波信号を供給する。すると検出コイルから図9(a)のように高周波磁界が生じる。そして、金属である検出物体Taが近づくと、金属の表面に渦電流Iaが発生する。このとき、渦電流Iaの大きさは、ヘッドHa(検出コイル)と検出物体Taとの距離により変化する。
【0084】
図9(b)はヘッドHaの検出コイルの等価回路を示すものである。検出コイルの等価回路は、図9(b)のように抵抗(その抵抗値はRc)とインダクター(そのインダクタンスはLc)とを含み、高周波信号が供給されている。ここで、ヘッドHaと検出物体Taとの距離をxとする。このとき、抵抗値RcはRc=R0+ΔR(x)、インダクタンスLcはLc=L0+ΔL(x)と表すことができる。
【0085】
ここで、R0、L0はそれぞれxが無限大のときの抵抗値Rc、インダクタンスLcの値である。検出物体TaとヘッドHaとの距離xが近くなると、渦電流Iaが生じることでΔR(x)とΔL(x)とは非ゼロの値になる。渦電流Iaは検出物体Taの周囲の磁界の変化を打ち消す磁界を生じるように流れるので、ΔR(x)とΔL(x)は距離xに応じて変化する。すると、ヘッドHaの検出コイルのインピーダンスZcも距離xに応じて変化することになる。
【0086】
渦電流式の変位センサーは、この検出コイルのインピーダンスZcの変化に基づいて距離xを求めることができる。つまり、検出物体Taの変位を求めることができる。
【0087】
図10は、光学式の変位センサーの説明図である。図10には変位センサーのヘッドHbと、検出物体Tbが記載されている。検出物体TbはヘッドHbに対して近づいたり遠ざかったりする。ヘッドHbは、発光素子Hb1と光位置検出素子Hb2を含む。そして、発光素子Hb1から検出物体Tbに光Li(例えばレーザー光)を照射する。対象物体からの表面反射光Lrは受光レンズHb3を通って光位置検出素子Hb2の上にスポットSpをつくる。光学式の変位センサーは、スポットSpの位置の変化に基づいて検出物体Tbの変位を測定できる。
【0088】
ここで、渦電流式の変位センサーは金属の表面に生じる渦電流を利用するものである。よって、検出物体(本実施例では梁104)は金属等の導体に限られる。従って、本実施例の梁104が金属であるか金属コーティングされているならば、変位センサー130として渦電流式のセンサーを使用することができる。そうでない場合には、変位センサー130として光学式のセンサーを使用してもよい。
【0089】
なお、超音波式の変位センサーは、センサヘッドから超音波を発信し、対象物(ここでは梁104)で反射してくる超音波を受信する。そして、超音波の発信から受信までの時間を計測して、梁104との距離(すなわち、梁104の変位)を測定する。梁104との距離LSは、超音波の発信から受信までの時間をTS、音速をCSとして、LS=TS*CS/2で求められる。比較的簡単な計算で、正確に距離LSを求めることができる。また、静電容量式の変位センサーは、電極間の距離に逆比例して静電容量が変化することを利用して変位を測定する。そのため、微小な変位の測定が可能である。
【0090】
B.第1変形例 :
上述した実施例には種々の変形例が存在している。以下では、第1変形例について簡単に説明する。
【0091】
上述した実施例の発電装置100では、1つの発電用の圧電部材108が設けられているものとして説明した。しかし、これらの圧電部材108は必ずしも1つだけである必要はなく、複数を設けても良い。以下では、このような第1変形例について説明する。尚、上述の実施例と同様な構成については、変形例においても同じ番号を付すものとして、詳細な説明は省略する。
【0092】
図11は、発電用の圧電素子および変位センサーを複数備えた第1変形例の発電装置100Aを示した説明図である。図11のように、梁104の一方の面に2つの発電用の圧電素子(圧電部材108および圧電部材116)が設けられている。圧電部材108については前述の実施例と同じである。そして、圧電部材116の表面には、表側と裏側とに、金属薄膜によって形成された第1電極117a、第2電極117bがそれぞれ設けられている。圧電部材116、第1電極117a、第2電極117bとで圧電素子を構成している。
【0093】
また、図11のように、非接触型のセンサーである変位センサー130Aおよび変位センサー130Bが、梁104の圧電部材108および圧電部材116が設けられた面(上面)と対向して設置されている。そして、変位センサー130A、変位センサー130Bは、それぞれ梁104の上面の測定位置との距離132A、132Bを測定する。図11の例では、変位センサー130A、変位センサー130Bの測定位置は、それぞれ梁104の圧電部材108、圧電部材116が取り付けられた部分である。
【0094】
ここで、図11の例では、発電用の圧電部材108、圧電部材116は、梁104の一方の面に、梁104の長手方向に並べて設けられているが、このような配置に限るものではない。例えば、梁104の長手方向に並べて設けられてもよい。また、圧電部材108、圧電部材116がそれぞれ梁104の異なった面に設けられてもよい。このとき、変位センサーは1つであって、一方の圧電部材との距離だけを測定してもよい。
【0095】
図12は、2つの発電用の圧電部材108、116および2つの変位センサー130A、130Bを備える第1変形例の発電装置100Aの電気的な構造を示した説明図である。インダクターL1、スイッチSW1、変位センサー130Aは上述の実施例のインダクターL、スイッチSW、変位センサー130に対応する。図12と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して第1変形例の発電装置100Aは、発電用の圧電部材116や、インダクターL2、スイッチSW2、全波整流回路121、変位センサー130B等が追加されている。これらの追加された構成は、上述の実施例で説明した発電用の圧電部材108や、インダクターL、スイッチSW、全波整流回路120、変位センサー130等と同様に動作する。
【0096】
すなわち、変位センサー130Aの変形量情報に基づく変位のピークを検出したら共振周期の1/2の時間が経過するまでスイッチSW1をONにすることによって、発電用の圧電部材108に生じた電荷が効率よく蓄電素子C1に蓄えられる。同様に、変位センサー130Bの変形量情報に基づく変位のピークを検出したら共振周期の1/2の時間が経過するまでスイッチSW2をONにすることによって、発電用の圧電部材116に生じた電荷も蓄電素子C1に蓄えられる。
【0097】
また、変位センサー130Aの変形量情報に基づく変位の大きさが閾値以上になってから設定時間が経過するまでスイッチSW1をONにすることによって、発電用の圧電部材108の変形を抑制したのと同様に、変位センサー130Bの変形量情報に基づく変位の大きさが閾値以上になってから設定時間が経過するまでスイッチSW2をONにすることによって、発電用の圧電部材116の変形を抑制する。圧電部材108,116の変形をそれぞれ抑制することによって、圧電部材108,116が設けられている梁104の別々の部分の変形をそれぞれ抑制することができる。このように、梁104の別々の部分の変形をそれぞれ抑制するので、梁104の別々の部分のうち一方の部分だけに過度の変形が発生したとしても該一方の部分だけの変形を抑制して、他方の部分は変形を抑制せずに電力を発生させることが可能となる。従って、梁104の多様な変形に応じて過度の変形を抑制しながら効率よく発電することが可能となる。
【0098】
C.第2変形例 :
次に、第2変形例について簡単に説明する。
【0099】
図13は、第2変形例の発電装置100Bの電気的な構造を示した説明図である。図13と図1(b)とを比較すると明らかなように、上述の実施例に対して第2変形例の発電装置100Bは、インダクターLが接続されていない。すなわち、第2変形例の発電装置100B内には上述の実施例のようなLC共振回路は構成されない。これにより、制御回路112に内蔵されたCPUによって実行されるLC共振回路を利用するための制御処理(図8のS101〜S108)を省略することができる。
【0100】
もちろん、第2変形例の発電装置100Bは、上述した実施例の発電装置100のようにLC共振回路を利用しないので、実施例の発電装置100ほどは効果的に電荷を蓄積することを望めないものの、梁104の変形量が所定値以上になったときにSWをONにする処理(図8のS100およびS110〜S118)を行うことによって、梁104の変形を抑制できる。以上のように、第2変形例の発電装置100Bは、部材点数(インダクターL)やCPUの処理負荷(LC共振回路を利用するための制御処理)の増大化を抑えた上で、梁104の周辺に配置されている部材や筐体に梁104が衝突することを防止できる。
【0101】
D.第3変形例 :
次に、第3変形例について簡単に説明する。
【0102】
図14は、第3変形例で加速度を求めることによってスイッチを適切なタイミングで制御して、梁104の変形を抑制できる理由を説明する図である。上述した実施例では、梁104の変位の「大きさ」を求めた。そしてスイッチ制御手段は、変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になるとして第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にして圧電部材108の変形を抑制した。
【0103】
第3変形例では、梁104の変位(変形量情報)から変形による梁104の加速度を求めて、加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になると判断する。このとき、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になった状態を検出するだけでなく、その予測をすることができる。
【0104】
図14(a)には、梁104の変位が示されている。また、図14(b)には、その変位を表す関数fを時間で2階微分した関数f´´が示されている。関数f´´は加速度を表す関数である。強い外力が与えられなければ、関数fおよび関数f´´は、図14(a)、図14(b)の実線のように変化する。
【0105】
しかし、タイミングt0において、上方への強い外力が与えられたとする。このとき、梁104の変位は下方の閾値の−u0以下になっていない。しかし、上方への加速度は点線のように大きくなり、加速度の閾値a0を超える。すると、梁104の変位は次の極大値で変位の閾値u0を超えることが当然に予測される(タイミングt1)。このとき、第3変形例のスイッチ制御手段は、加速度が閾値a0を超えたタイミングt0でスイッチSWをONにして、発電用の圧電部材108の第1電極109aと第2電極109bとを短絡状態にする。そして、予測されるタイミングt1での過度な圧電部材108の変形を、予防的に抑制することが可能になる。
【0106】
ここで、例えば変位センサー130からの変形量情報は離散的に得られるものとする。このとき、2階微分で得られる加速度は、具体的にはサンプリングタイミングnの変位f(n)とそれぞれ1つ前、2つ前のサンプリングタイミングの変位f(n−1)、f(n−2)を用いて、例えばf(n)−2f(n−1)+f(n−2)で得られる。つまり、複雑な計算を要することもない。
【0107】
なお、図14では図示を省略しているが、変位の大きさが所定の閾値u0以上の場合には(例えば図14(a)のf(t1)の点線の変位)、対応する加速度の大きさも閾値a0以上になる。つまり、予測だけでなく、圧電部材108の変形量が所定の大きさ以上になった状態も検出できる。
【0108】
E.その他 :
以上、実施例あるいは変形例について説明したが、本発明はこれら実施例あるいは変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0109】
例えば、上述した実施例では、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにすることによって、効率よく蓄電素子C1に電荷を蓄えるものとして説明した。しかし、これに限らず、図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの状態で蓄電素子C1に電荷を蓄える構成でもよい。すなわち、圧電部材108で発生した電荷を何らかの形で蓄えることができればどのような構成でもよい。
【0110】
また、上述した実施例では、圧電部材108が片持ち梁構造の梁104に取り付けられているものとして説明した。しかし、圧電部材108が取り付けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部材であっても構わない。例えば、薄膜の表面に圧電部材108を取り付けても良いし、弦巻バネの側面に圧電部材108を取り付けても構わない。
【0111】
そして、超小型で低消費電力の変位センサー130が利用可能な場合、電池の代わりにリモコン等の小型電子機器に組み込む、といった応用が可能である。このとき、使用時に前回の発電で蓄電素子C1に蓄えたエネルギーを優先的に変位センサー130に供給するような制御が行われてもよい。
【0112】
なお、本発明の発電装置は小型化が可能であるが、設置する対象は電子機器に限らない。例えば、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで、移動に伴う振動により発電し、移動手段に備わる機器に効率良く電力供給することもできる。
【0113】
このとき、あらゆる振動に対応するために、梁104の長さや錘106の重さが異なる複数の発電装置100を移動手段に組み込んでもよい。このとき、複数の発電装置100が共通の支持端102に固定されている発電ユニットとして構成されていてもよい。
【0114】
また、本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、例えば、橋梁や建築物あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。
【0115】
さらに、特定の機器等に設置されるのではなく、本発明の発電装置が例えばボタン電池、乾電池と同じ形状であって、電子機器一般で使用されてもよい。このとき、振動によって蓄電素子への充電が可能であるため、電力が喪失した災害時でも電池として使用可能である。このとき、一次電池より寿命が長いため、ライフサイクルの観点で環境負荷低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0116】
100,100A,100B…発電装置、102…支持端、104…梁、106…錘、108,116…圧電部材、109a,117a…第1電極、109b,117b…第2電極、112…制御回路、120,121…全波整流回路、130,130A,130B…変位センサー、L,L1,L2…インダクター、C1…蓄電素子、D1〜D4…ダイオード、SW,SW1,SW2…スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた圧電素子と、
前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、
前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、
前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段と、を備える発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変形量が前記所定の大きさに達しない期間では、前記変形部材の変形方向が切り換わるときに前記スイッチを接続した後、前記共振回路の共振周期の半周期に相当する時間が経過すると前記スイッチを切断する、発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、
前記変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断する、発電装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、
前記変位を2階微分して加速度を求め、
前記加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断する、発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
渦電流式である発電装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
光学式である発電装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
超音波式である発電装置。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
静電容量式である発電装置 。
【請求項9】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、
前記変形量情報を取得するステップと、
前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するステップと、を含む発電装置の制御方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段。
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた圧電素子と、
前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、
前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、
前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するスイッチ制御手段と、を備える発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変形量が前記所定の大きさに達しない期間では、前記変形部材の変形方向が切り換わるときに前記スイッチを接続した後、前記共振回路の共振周期の半周期に相当する時間が経過すると前記スイッチを切断する、発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、
前記変位の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断する、発電装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発電装置において、
前記スイッチ制御手段は、
前記変位センサーから前記変形量情報として前記変形部材の変形による変位を受け取り、
前記変位を2階微分して加速度を求め、
前記加速度の大きさが所定の閾値以上の場合に、前記変形量が所定の大きさ以上であると判断する、発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
渦電流式である発電装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
光学式である発電装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
超音波式である発電装置。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発電装置において、
前記変位センサーは、
静電容量式である発電装置 。
【請求項9】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、前記変形部材に設けられた圧電素子と、前記変形部材の変形量を検出し、前記変形量に関する情報である変形量情報を出力する変位センサーと、前記圧電素子の一対の電極間に設けられ、前記圧電素子の容量成分と共振回路を構成するインダクターと、前記インダクターと直列に前記共振回路に設けられたスイッチと、を備える発電装置の制御方法であって、
前記変形量情報を取得するステップと、
前記変形量が所定の大きさ以上になると、前記一対の電極間を所定期間短絡状態とするように前記スイッチを制御するステップと、を含む発電装置の制御方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の発電装置を含む電子機器。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれかに記載の発電装置を含む移動手段。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−81278(P2013−81278A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219034(P2011−219034)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
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