説明

発電装置、電子機器および移動手段

【課題】圧電効果を利用して、小型化が可能で効率の良い発電装置を提供する。
【解決手段】第1の圧電素子および第2の圧電素子を設けた変形部材を繰り返し変形させ、変形方向が切り換わるときに第1の圧電素子をインダクターに接続し、第1の圧電素子とインダクターとによる共振回路の共振周期の半分が経過するとインダクターを切り離す。インダクターを接続する度に、第1の圧電素子内での正負の電荷の配置が共振によって瞬間的に反転し、その状態から第1の圧電素子が逆方向に変形することで、圧電効果による電荷が第1の圧電素子内に蓄えられる。また、第1の圧電素子の変形方向が切り換わるときには、第2の圧電素子が発生する電圧が極値をとるから、第2の圧電素子の電圧が極値となったときに第1の圧電素子をインダクターと接続すれば、第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ素子などの圧電材料が外力によって変形したときに発生する電荷を電
気エネルギーとして取り出す発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの圧
電材料は、外力を受けて変形すると、材料内部に電気分極が誘起されて表面に正負の電荷
が現れる。このような現象は、いわゆる圧電効果と呼ばれている。圧電材料が有するこの
ような性質を利用して、片持ち梁を振動させて圧電材料に繰り返し加重を作用させ、圧電
材料の表面に生じた電荷を電気として取り出す発電方法が提案されている。
【0003】
たとえば、先端に錘を設けるとともに圧電材料の薄板を貼り付けた金属製の片持ち梁を
振動させ、振動に伴って圧電材料に交互に生じる正負の電荷を取り出すことによって交流
電流を発生させる。そして、この交流電流をダイオードによって整流した後、コンデンサ
ーに蓄えておき、電力として取り出す技術が提案されている(特許文献1)。また、圧電
素子で正の電荷が発生している間だけ接点が閉じるようにすることで、ダイオードでの電
圧損失を発生させずに直流電流が得られるようにした技術も提案されている(特許文献2
)。これら技術を用いれば、発電装置を小型化することができるので、たとえば小型の電
子部品に電池の代わりに組み込むなどの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107752号公報
【特許文献2】特開2005−312269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている従来の技術では、得られる電圧が、圧電材料の電気分極によっ
て生じる電圧までに限られるという問題があった。このため、圧電材料から電気を取り出
す発電回路とは別に昇圧回路が必要となることが多く、発電装置を十分に小型化すること
が難しいという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
圧電材料の圧電効果を利用した発電装置を大型化させることなく、高い電圧を発生させる
ことが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の発電装置は次の構成を採用
した。すなわち、
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、
前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出することによって、前記スイッチを所定期間導
通状態とする制御手段と
を備えることを要旨とする。
【0008】
このような本発明の発電装置では、第1の圧電素子および第2の圧電素子が変形部材に
設けられているので、変形部材が変形することにより、第1の圧電素子および第2の圧電
素子も変形する。その結果、これら圧電素子には、圧電効果によって正負の電荷が発生す
る。また、電荷の発生量は、圧電素子の変形量が大きくなるほど多くなる。また、第1の
圧電素子はインダクターとともに共振回路を構成しており、その共振回路にはスイッチが
設けられている。そして、スイッチでの導通を切断した状態で変形部材の変形を開始して
、変形量が極値となったとき(すなわち変形方向が切り換わるとき)に、スイッチを導通
状態とする。第1の圧電素子(および第2の圧電素子)は変形部材と共に変形し、変形量
が大きくなるほど多くの電荷を発生させるから、第1の圧電素子(および第2の圧電素子
)で発生した電荷が最も多くなった時に、第1の圧電素子がインダクターに接続されて共
振回路を形成する。すると、第1の圧電素子に発生していた電荷がインダクターに流れ込
む。そして、第1の圧電素子およびインダクターは共振回路を構成しているから、インダ
クターに流れ込んだ電流はオーバーシュートして、第1の圧電素子の反対側の端子に流れ
込む。この期間(すなわち、第1の圧電素子の一方の端子から流れ出した電荷が、インダ
クターを介して反対側の端子から再び第1の圧電素子内に流れ込むまでの期間)は、第1
の圧電素子およびインダクターによって形成される共振回路の共振周期の半分となる。従
って、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッチを接続して共振回路を形
成し、その後、共振周期の半分の時間が経過したときにスイッチを切断すれば、インダク
ターを接続する前に第1の圧電素子内に発生していた正負の電荷の配置を逆転させること
ができる。そして、その状態から、今度は逆方向に変形部材を変形させれば、第1の圧電
素子が逆方向に変形するため、正負の電荷の配置が逆転した状態から更に圧電効果によっ
て発生した新たな電荷が積み増されるようにして第1の圧電素子内に電荷が蓄積される。
また、第1の圧電素子内に電荷が蓄積されるに従って発生する電圧も増加するので、昇圧
回路を別途用意しなくても、第1の圧電素子を構成する圧電材料の電気分極によって生じ
る電圧よりも高い電圧を発生させることができる。更に、こうして第1の圧電素子内に効
率よく電荷を蓄積するためには、第1の圧電素子の変形方向が切り換わったときにスイッ
チを接続して共振回路を形成することが重要となる。ここで、変形部材には第1の圧電素
子および第2の圧電素子が設けられているので、第1の圧電素子の変形方向が切り換わる
ときには、第2の圧電素子の変形方向も切り換わる。そして、第2の圧電素子も変形量が
大きくなるほど高い電圧を発生させるから、第2の圧電素子の変形方向が切り換わるとこ
ろでは、第2の圧電素子の発生する電圧が極値である。このことから、第2の圧電素子に
生じた電圧を検出して、その電圧が極値となった時点から所定期間だけスイッチを導通状
態とすれば、第1の圧電素子内に効率よく電荷を蓄積することが可能となる。
【0009】
また、上述した本発明の発電装置においては、第1の圧電素子と第2の圧電素子とを、
変形部材の異なる面に設けることとしてもよい。
【0010】
仮に、第1の圧電素子および第2の圧電素子を、変形部材の同じ面に設けたとすると、
第2の圧電素子が存在する分だけ第1の圧電素子の設置面積が狭くなる。そして、変形量
が同じであれば、圧電素子の設置面積が大きくなるほど発電能力は高くなる。従って、第
1の圧電素子と第2の圧電素子とを、変形部材の異なる面に設けることとしておけば、第
1の圧電素子の設置面積を大きくすることができるので、発電装置の発電能力を高くする
ことができる。
【0011】
あるいは、上述した本発明の発電装置においては、第1の圧電素子と第2の圧電素子と
を、変形部材の同じ面に設けることとしてもよい。
【0012】
第1の圧電素子および第2の圧電素子が、変形部材の同じ面に設けられていれば、第1
の圧電素子および第2の圧電素子を一度に(同じ工程で)変形部材に設けることができる
。このため、生産性良く発電装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図2】第1実施例の発電装置の動作を示した説明図である。
【図3】第1実施例の発電装置の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図である。
【図4】第1実施例の発電装置の動作原理の後半部分を概念的に示した説明図である。
【図5】制御用の圧電素子の電圧を検出することによってスイッチSWを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。
【図6】制御用の圧電素子の起電力を検出してスイッチのON/OFFを切り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。
【図7】第2実施例の発電装置の構造を示した説明図である。
【図8】発電用の圧電素子と2つの制御用の圧電素子とが設けられた第1変形例を示した説明図である。
【図9】発電用の圧電素子および制御用の圧電素子が梁の同じ面に設けられた第2変形例を示した説明図である。
【図10】発電用の圧電素子および制御用の圧電素子が梁の同じ面に設けられた第2変形例の他の態様を示した説明図である。
【図11】発電用の圧電素子と同じ面に複数の制御用の圧電素子が設けられた第3変形例を示した説明図である。
【図12】発電用の圧電素子と同じ面に複数の制御用の圧電素子が設けられた第3変形例の他の態様を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.第1実施例の発電装置の構造:
A−2.第1実施例の発電装置の動作:
A−3.第1実施例の発電装置の動作原理:
A−4.第1実施例のスイッチの切換タイミング:
B.第2実施例:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0015】
A.第1実施例 :
A−1.第1実施例の発電装置の構造 :
図1は、第1実施例の発電装置100の構造を示した説明図である。図1(a)には、
発電装置100の機械的な構造が示されており、図1(b)には電気的な構造が示されて
いる。第1実施例の発電装置100の機械的な構造は、先端に錘106が設けられた梁1
04が、基端側で支持端102に固定された片持ち梁構造となっている。また、梁104
の表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料によって形成された圧電素
子108および圧電素子110が取り付けられており、圧電素子108の表面には、金属
薄膜によって形成された上部電極109a、下部電極109bが設けられている。また、
圧電素子110についても同様に、金属薄膜によって形成された上部電極111a、下部
電極111bが設けられている。図1(a)に示す例では、圧電素子108と圧電素子1
10とは同じ形状を有しているが、必ずしも同じ形状でなくてもよい。例えば、圧電素子
108が梁104に対して設置可能な最大の長さと幅であれば、圧電素子108の発電量
は大きくなる。一方、圧電素子110が設置可能な最小の幅(梁104の短手方向への長
さ)であれば、圧電素子110による梁104の変位抵抗が低減するため、発電効率が良
くなる。尚、圧電素子108および圧電素子110は梁104の変形によって変形するか
ら、梁104が本発明の「変形部材」に相当する。
【0016】
梁104は、基端側が支持端102に固定されており、先端側には錘106が設けられ
ているので、振動が加わったり、あるいは、発電装置100が移動することにより、図中
に白抜きの矢印で示したように、梁104の先端が大きく振動する。その結果、梁104
の表面に取り付けられた圧電素子108および圧電素子110には、圧縮力および引張力
が交互に作用する。すると、それぞれの圧電素子108,110は圧電効果によって正負
の電荷を発生し、その電荷が上部電極109a,111a、および下部電極109b、1
11bに現れる。
【0017】
図1(b)には、本実施例の発電装置100の回路図が例示されている。圧電素子10
8は、電気的には、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCgとして表すことができる。
同様に圧電素子110も、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCsとして表すことがで
きる。このうち圧電素子108に対しては、並列にインダクターLが接続されて、圧電素
子108の容量成分と共に電気的な共振回路を形成している。そして、この共振回路をO
N/OFFするためのスイッチSWが、共振回路内に(インダクターLに対して直列に)
設けられている。スイッチSWのON/OFFは、制御回路112(制御手段に相当)に
よって制御されている。また、圧電素子108に設けられた上部電極109aおよび下部
電極109bは、4つのダイオードD1〜D4から構成される全波整流回路120に接続
されている。更に、全波整流回路120には、電気負荷を駆動するために、整流後の電流
を蓄えておくコンデンサー(出力用コンデンサーC1)が接続されている。
【0018】
一方、圧電素子110はスイッチSWを制御するために設けられており、圧電素子11
0に設けられた上部電極111aおよび下部電極111bは、制御回路112に接続され
ている。従って、以下では、圧電素子108を「発電用の圧電素子」と称し、圧電素子1
10を「制御用の圧電素子」と称することがあるものとする。尚、圧電素子108が本発
明の「第1の圧電素子」に対応し、圧電素子110が本発明の「第2の圧電素子」に対応
する。
【0019】
A−2.第1実施例の発電装置の動作 :
図2は、第1実施例の発電装置100の動作を示した説明図である。図2(a)には、
梁104の振動に伴って、梁104の先端の変位uが変化する様子が示されている。尚、
プラスの変位uは、梁104が上向きに反った状態(梁104の上面側が凹となった状態
)を表しており、マイナスの変位(−u)は、梁104が下向きに反った状態(梁104
の下面側が凹となった状態)を表している。また、図2(b)には、梁104の変形に伴
って、圧電素子108が発生する電流の様子と、その結果として圧電素子108の内部に
生じる起電力とが示されている。尚、図2(b)では、圧電素子108に電荷が発生する
様子は、単位時間あたりに発生する電荷量(すなわち、電流Ipzt )として表され、圧電
素子108に生じる起電力は、上部電極109aと下部電極109bとの間に生じる電位
差Vpzt として表されている。
【0020】
尚、図1を用いて前述したように、梁104には圧電素子110も設けられており、梁
104が変形すると、圧電素子110も圧電素子108と同様に変形する。従って、圧電
素子110の内部にも、圧電素子108と全く同様に、図2(b)に示す電流Ipzt およ
び電位差Vpzt が発生する。
【0021】
図2(a)および図2(b)に示されるように、梁104の変位が増加している間は、
圧電素子108は正方向の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がプラス値)、これに
伴って上部電極109aおよび下部電極109bの電位差Vpzt は正方向へ増加する。正
方向の電位差Vpzt が、C1の電圧VC1と全波整流回路120を構成しているダイオー
ドの順方向降下電圧Vfの2倍との和、すなわち、VC1+2Vfよりも大きくなれば、
それ以降に発生した電荷は直流電流として取り出して、出力用コンデンサーC1に蓄えて
おくことができる。また、梁104の変位が減少している間は、圧電素子108は負方向
の電流を発生させ(すなわち、電流Ipzt がマイナス値)、これに伴って上部電極109
aおよび下部電極109bの電位差Vpzt は負方向へ増加する。負方向の電位差Vpzt が
、VC1と全波整流回路120の2Vfの和よりも大きくなれば、発生した電荷は直流電
流として取り出して、出力用コンデンサーC1に蓄えておくことができる。すなわち、図
1のスイッチSWをOFFにしたままでも、図2(b)中に斜線を付して示した部分につ
いては、出力用コンデンサーC1に電荷を蓄えることができる。
【0022】
第1実施例の発電装置100では、図2(c)に示すタイミングで、スイッチSWをO
Nにする。すると、図2(d)に示すように、圧電素子108の端子間の電圧波形が、ス
イッチSWをONにした瞬間にシフトしたかのような現象が発生する。たとえば、図2(
d)中に「B」と表示した期間Bでは、圧電素子108の起電力に対応する細い破線で示
した電圧波形Vpzt がマイナス方向にシフトしたような、太い破線で示した電圧波形が圧
電素子108の端子間に現れる。このような現象が発生する理由については後述する。ま
た、図2(d)中に「C」と表示した期間Cでは、圧電素子108の起電力に対応する電
圧波形Vpzt がプラス方向にシフトしたような、太い破線の電圧波形が現れる。以降の期
間D、期間E、期間Fなどについても同様に、圧電素子108の起電力に対応する電圧波
形Vpzt がプラス方向あるいはマイナス方向にシフトし、太い破線の電圧波形が現れる。
そして、シフトした電圧波形が、VC1と2Vfとの和を超えた部分(図2(d)中に斜
線を付して示した部分)では、圧電素子108で発生した電荷を出力用コンデンサーC1
に蓄えておくことができる。尚、圧電素子108から出力用コンデンサーC1に電荷が流
れる結果、圧電素子108の端子間の電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップさ
れる。言い換えると、圧電素子108の端子間の電圧が、VC1と2Vfとの和の電圧に
保持される。その結果、上部電極109aおよび下部電極109bの間の電圧波形は、図
2(d)に太い実線で示した波形となる。
【0023】
図2(b)に示したスイッチSWをOFFにしたままの場合と、図2(d)に示したよ
うに、梁104の変形方向が切り換わるタイミングでスイッチSWをONにした場合とを
比較すれば明らかなように、第1実施例の発電装置100では、適切なタイミングでスイ
ッチSWをONにすることで、効率よく、出力用コンデンサーC1に電荷を蓄えることが
可能となる。そこで、第1実施例の発電装置100は、スイッチSWを適切なタイミング
でONにするために、制御用の圧電素子110を設けておき、圧電素子110の電圧を検
出してスイッチSWを制御している。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0024】
また、出力用コンデンサーC1に電荷が蓄えられて、出力用コンデンサーC1の端子間
電圧が増加すると、それに従って電圧波形のシフト量も大きくなる。たとえば、図2(d
)中の期間B(出力用コンデンサーC1に電荷が蓄えられていない状態)と、図2(d)
中の期間H(出力用コンデンサーC1に少し電荷が蓄えられた状態)とを比較すると、期
間Hの方が電圧波形のシフト量が大きくなっている。同様に、図2(d)中の期間Cと期
間Iとを比較すると、出力用コンデンサーC1に蓄えられた電荷が増えている期間Iの方
が、電圧波形のシフト量が大きくなっている。このような現象が発生する理由については
後述するが、この結果、本実施例の発電装置100では、圧電素子108を変形させたこ
とによって、上部電極109aと下部電極109bとの間に生じる電圧Vpzt 以上の電圧
を、出力用コンデンサーC1に蓄えることも可能となる。その結果、特別な昇圧回路を設
ける必要がなくなり、小型で高効率の発電装置を得ることが可能となる。
【0025】
A−3.第1実施例の発電装置の動作原理 :
図3は、第1実施例の発電装置100の動作原理の前半部分を概念的に示した説明図で
ある。また、図4は、第1実施例の発電装置100の動作原理の後半部分を概念的に示し
た説明図である。図3および図4では、圧電素子108の変形に合わせてスイッチSWを
ONにしたときのCg(圧電素子108の容量成分)内での電荷の動きが、概念的に示さ
れている。図3(a)は、圧電素子108(正確には梁104)が上向きに(上面側が凹
となるように)変形した状態を表している。圧電素子108が上向きに変形すると、電流
源からは正方向の電流が流れ、Cg(圧電素子108の容量成分)に電荷が蓄積され、V
gen は正方向の電圧が発生する。電圧値は、圧電素子108の変形量が大きくなるほど増
加する。そして、圧電素子108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値とな
ったタイミング(図3(b)参照)で、スイッチSWをONにする。
【0026】
図3(c)には、スイッチSWをONにした直後の状態が示されている。Cg(圧電素
子108の容量成分)には電荷が蓄えられているから、この電荷がインダクターLに流れ
ようとする。インダクターLに電流が流れると磁束が生じる(磁束が増加する)が、イン
ダクターLには、自らを貫く磁束の変化を妨げる方向に逆起電力が生じる性質(自己誘導
作用)がある。スイッチSWをONにした瞬間は、電荷が流れることによって磁束が増加
しようとするから、この磁束の増加を妨げる方向(換言すれば、電荷の流れを妨げる方向
)に逆起電力が発生する。また、逆起電力の大きさは、磁束の変化速度(単位時間あたり
の変化量)に比例する。図3(c)には、このようにしてインダクターLに生じる逆起電
力が、斜線を付した矢印によって表されている。このような逆起電力が発生するため、ス
イッチSWをONにしても、圧電素子108の電荷は少しずつしか流れ出さない。すなわ
ち、インダクターLを流れる電流は少しずつしか増加しない。
【0027】
その後、インダクターLを流れる電流がピークになると、磁束の変化速度が「0」とな
るので、図3(d)に示したように逆起電力が「0」となる。そして、今度は電流が減少
し始める。すると、インダクターLを貫く磁束が減少するので、インダクターLには、こ
の磁束の減少を妨げる方向(電流を流そうとする方向)の起電力が発生する(図3(e)
参照)。その結果、この起電力によってCg(圧電素子108の容量成分)から電荷を引
き抜きながら、インダクターLを電流が流れ続ける。そして、電荷の移動の途中で損失が
発生しなければ、圧電素子108の変形によって生じた全ての電荷が移動して、ちょうど
正負の電荷が置き換わったような状態(すなわち、圧電素子108の下面側に正電荷が分
布し、上面側に負電荷が分布した状態)となる。図3(f)には、圧電素子108の変形
によって生じた正負の電荷が全て移動した状態が表されている。
【0028】
仮に、このままスイッチSWをONにしておくと、今度は上述した内容と逆の現象が生
じる。すなわち、圧電素子108の下面側の正電荷がインダクターLに流れようとして、
このときインダクターLには、電荷の流れを妨げる方向の逆起電力が発生する。その後、
インダクターLを流れる電流がピークに達した後、減少に転じると、今度は電流の減少を
妨げる方向(電流を流し続けようとする方向)の起電力がインダクターLに発生する。そ
の結果、圧電素子108の下面側にあった全ての正電荷が上面側に移動した状態(図3(
b)に示した状態)となる。こうして圧電素子108の上面側に戻った正電荷は、再び、
図3(b)〜図3(f)を用いて前述したようにして、下面側に移動する。
【0029】
このように、Cg(圧電素子108の容量成分)に電荷が蓄えられた状態でスイッチS
WをONにした後、その状態を保っておくと、圧電素子108とインダクターLとの間で
電流の向きが交互に反転する一種の共振現象が発生する。そして、この共振現象の周期は
、いわゆるLC共振回路の周期Tとなるから、Cg(圧電素子108の容量成分)の大き
さ(キャパシタンス)をC、インダクターLの誘導成分の大きさ(インダクタンス)をL
とすると、T=2π(LC)0.5によって与えられる。従って、スイッチSWをONに
した直後(図3(c)に示した状態)から、図3(f)に示した状態となるまでの時間は
、T/2となる。
【0030】
そこで、スイッチSWをONにしてからT/2が経過した時点で、図4(a)に示すよ
うにスイッチSWをOFFにする。そしてこの状態から、圧電素子108(正確には梁1
04)を今度は下向きに(下面側が凹となるように)変形させる。前述した図3(a)で
は、圧電素子108を上向きに変形させたが、図4(a)では下向きに変形させているの
で、電流源から負方向の電流が流れ、Vgen が負方向へ大きくなるようにCgに電荷が蓄
積する。また、図3(a)〜図3(f)を用いて前述したように、圧電素子108(正確
には梁104)を下向きに変形させる前の段階で、圧電素子108の下面側には正電荷が
分布し、上面側には負電荷が分布しているから、これらの電荷に加えて、下面側には新た
な正電荷が蓄積され、上面側には新たな負電荷が蓄積されることになる。図4(b)には
、スイッチSWをOFFにした状態で圧電素子108(正確には梁104)を変形させる
ことによって、圧電素子108に新たな電荷が蓄積された状態が示されている。
【0031】
そして、圧電素子108の変形量が極値となったタイミング(電荷量が極値となったタ
イミング)でスイッチSWをONにすると、圧電素子108の下面側に蓄積された正電荷
がインダクターLに流れようとする。このときインダクターLには逆起電力が発生するの
で(図4(c)参照)、電流は少しずつ流れ始めるが、やがてピークに達して、その後は
減少に転じる。すると、インダクターLには、電流の減少を妨げる方向(電流を流し続け
ようとする方向)に起電力が発生し(図4(e)参照)、この起電力によって電流が流れ
続けて、最終的には、圧電素子108の下面側に分布していた全ての正電荷が上面側に移
動し、上面側に分布していた全ての負電荷が下面側に移動した状態となる(図4(f)参
照)。また、下面側の全ての正電荷が上面側に移動し、上面側の全ての負電荷が下面側に
移動する時間は、LC共振回路の半周期に相当する時間T/2となる。そこで、スイッチ
SWをONにした後、時間T/2が経過したらスイッチSWをOFFにして、今度は圧電
素子108(正確には梁104)を上向きに(上面側が凹となるように)変形させれば、
圧電素子108内に更に正負の電荷を蓄積することができる。
【0032】
以上に説明したように本実施例の発電装置100では、圧電素子108を変形させて電
荷を発生させた後、圧電素子108をインダクターLに接続して、共振周期の半分の周期
だけ共振回路を形成することで、圧電素子108内での正負の電荷の分布を反転させる。
その後、圧電素子108を今度は逆方向に変形させて新たな電荷を発生させる。圧電素子
108内での正負の電荷の分布は反転されているから、新たに発生させた電荷は圧電素子
108に蓄積されることになる。その後、再び、共振周期の半分の周期だけ圧電素子10
8をインダクターLに接続して、圧電素子108内での正負の電荷の分布を反転させた後
、圧電素子108を逆方向に変形させる。このような動作を繰り返すことで、圧電素子1
08を繰り返し変形させる度に、圧電素子108に蓄積された電荷を増加させることがで
きる。
【0033】
図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、スイッチSWをONにす
る度に圧電素子108の端子間の電圧波形がシフトする現象が生じるが、この現象は、以
上のようなメカニズムによって発生する。すなわち、たとえば図2(d)中に示した期間
Aでは、圧電素子108(正確には梁104)の変形に従って、上部電極109aおよび
下部電極109bの間に電圧が発生するが、上部電極109aおよび下部電極109bは
全波整流回路120に接続されているので、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の
電荷は、全波整流回路120に接続された出力用コンデンサーC1に流れ込む。その結果
、梁104の変形量が極値となった時点でスイッチSWをONにすると、その時に圧電素
子108内に残っていた正負の電荷がインダクターLを介して移動して、圧電素子108
内での正負の電荷の配置が入れ代わる。尚、図3および図4を用いて前述したメカニズム
から明らかなように、スイッチSWをONにしておく期間は、圧電素子108の容量成分
と、インダクターLとによって構成される共振回路の共振周期の半分の時間となる。
【0034】
そして、正負の電荷の配置が入れ代わった状態から梁104を逆方向に変形させると、
圧電素子108の上部電極109aおよび下部電極109bの間には、圧電効果による電
圧波形が現れる。すなわち、圧電素子108の上部電極109aおよび下部電極109b
の極性が入れ代わった状態から、圧電素子108に変形による電圧変化が発生することに
なる。その結果、図2(d)中に示した期間Bでは、梁104の変形によって圧電素子1
08に生じる電圧波形をシフトさせたような、電圧波形が現れることになる。もっとも、
前述したように、VC1と2Vfとの和の電圧を超えた部分の電荷は出力用コンデンサー
C1に流れ込むので、圧電素子108の上部電極109aおよび下部電極109bの間の
電圧は、VC1と2Vfとの和の電圧でクリップされる。その後、共振周期の半分の時間
だけスイッチSWをONにすると、圧電素子108に残っていた正負の電荷の配置が入れ
代わる。そして、その状態から梁104が変形することによって、圧電素子108には圧
電効果による電圧波形が現れる。このため、図2(d)中に示した期間Cにおいても、梁
104の変形による電圧波形をシフトさせたような電圧波形が現れることになる。
【0035】
また、図2を用いて前述したように本実施例の発電装置100では、梁104が変形を
繰り返しているうちに、電圧波形のシフト量が次第に大きくなるという現象も発生する。
このため、圧電素子108の圧電効果によって上部電極109aと下部電極109bとの
間に生じる電位差よりも高い電圧を、出力用コンデンサーC1に蓄えることができるとい
う大きな効果を得ることができる。このような現象は、次のようなメカニズムによって生
じる。
【0036】
先ず、図2(d)中の期間Aあるいは期間Bに示したように、出力用コンデンサーC1
が充電されていない場合は、圧電素子108の端子間で発生する電圧が、全波整流回路1
20の2Vfを超えると、圧電素子108から出力用コンデンサーC1に電荷が流れ込む
ので、圧電素子108の端子間に現れる電圧は、2Vfでクリップされている。しかし、
こうして出力用コンデンサーC1に電荷を蓄えるに従って出力用コンデンサーC1の端子
間の電圧が増加していく。すると、それ以降は、出力用コンデンサーC1の端子間電圧が
VC1と2Vfとの和よりも高い電圧になって始めて、圧電素子108から電荷が流れ込
むようになる。このため、圧電素子108の端子間の電圧がクリップされる値が、出力用
コンデンサーC1に電荷が蓄えられるに従って次第に上昇していく。
【0037】
加えて、図3および図4を用いて前述したように、圧電素子108から電荷を流出させ
ない限り、圧電素子108(正確には梁104)を変形させる度に、圧電素子108内の
電荷は増加し、圧電素子108の端子間の電圧は大きくなる。このため、本実施例の発電
装置100によれば、特別な昇圧回路を設けなくても、電気負荷の駆動に必要な電圧まで
自然に昇圧させた状態で、発電することが可能となる。
【0038】
A−4.第1実施例のスイッチの切換タイミング :
以上に説明したように、第1実施例の発電装置100では、圧電素子108(正確には
梁104)に繰り返し変形を加えて、変形方向が切り換わる瞬間に、共振周期の半分の時
間だけ圧電素子108をインダクターLに接続することで、効率が良く、加えて昇圧回路
が不要なために容易に小型化することができるという優れた特徴を得ることができる。も
っとも、梁104の変形方向が切り換わる瞬間にスイッチSWをONにすることは、それ
ほど容易なことではない。たとえば、梁104の変形方向が切り換わる瞬間は、梁104
の変位の大きさが最大と考えれば、機械的な接点を用いて、梁104が最大変位となった
瞬間にONとなるように構成することも可能である。しかし、接点の調整がずれると効率
が大きく低下することになる。そこで、第1実施例の発電装置100では、発電用の圧電
素子108だけでなく、制御用の圧電素子110も設けておき、圧電素子110で発生す
る電圧を検出することで、スイッチSWを制御している。
【0039】
図5は、制御用の圧電素子110で発生する電圧を検出することによって、スイッチS
Wを適切なタイミングで制御可能な理由を示す説明図である。図5(a)には、梁104
の変位が示されている。また、図5(b)には、梁104の振動に伴って、圧電素子11
0に生じる起電力Vpzt が変化する様子が示されている。
【0040】
図3および図4を用いて前述したように、梁104の変位uが極値に達したタイミング
でスイッチSWをONにした場合に、最も効率よく発電することができる。そして、図5
(a)と図5(b)とを比較すれば明らかなように、梁104の変位uが極値となるのは
、圧電素子110の起電力Vpzt が極値となるタイミングと一致する。これは、次のよう
な理由による。先ず、圧電素子108は変形によって電荷が発生しても、その電荷がイン
ダクターLによって引き抜かれたり、出力用コンデンサーC1に電荷が流れたりする影響
で、圧電素子108の起電力Vpzt は梁104の変位と完全には同じにならない。これに
対して、圧電素子110は、インダクターLや出力用コンデンサーC1と接続していない
ため、電荷の増減が圧電素子110の起電力Vpzt の変化に直接反映される。このため、
圧電素子110の起電力Vpzt が極値となるタイミングは、梁104の変位uが極値とな
るタイミングと一致するのである。
【0041】
そこで、図5(b)に矢印で示したように、圧電素子110の起電力Vpzt が極値とな
るタイミングを検出して、そのタイミングから、前述した共振周期の半分の時間(T/2
)だけスイッチSWをONにしてやれば、効率よく発電することが可能となる。
【0042】
図6は、制御用の圧電素子110の起電力を検出してスイッチSWのON/OFFを切
り換えるスイッチ制御処理を示したフローチャートである。この処理は、制御回路112
に内蔵されたCPUによって実行される。
【0043】
スイッチ制御処理を開始すると、制御回路112のCPUは、制御用の圧電素子110
の上部電極111aおよび下部電極111bの間での電圧を検出して、電圧値がピークに
達したか否か(すなわち、電圧値が極値に達したか否か)を判断する(ステップS100
)。電圧値がピークに達したか否かは、電圧波形の微分を行って微分値の符号が変わった
ら、電圧値がピークに達したと判断することができる。
【0044】
あるいは、梁104の変位の振幅はほぼ一定と考えられるから、制御用の圧電素子11
0で発生する電圧もほぼ等しいと考えられる。従って、最大電圧値Vmaxおよび最小電
圧値Vminを記憶しておき、圧電素子110で発生する電圧を、最大電圧値Vmaxお
よび最小電圧値Vminと比較する。そして、圧電素子110の発生電圧が最大電圧値V
maxを超えた場合、あるいは最小電圧値Vminを下回った場合に、電圧値がピークに
達したものと判断してもよい。尚、梁104も完全に同じ振幅で変形するとは限らないか
ら、圧電素子110で発生する電圧の振幅も、完全に同じになるとは限らない。しかしこ
のような場合でも、最大電圧値Vmaxを少しだけ低めの値に設定し、Vminを少しだ
け高めの値に設定しておけば、梁104の振幅に僅かなばらつきが存在していても、電圧
値がピークに達したことを十分な精度で検出することが可能となる。
【0045】
以上のようにして、制御用の圧電素子110で発生した電圧値のピークを検出したら(
S100:yes)、共振回路(圧電素子108の容量成分CgとインダクターLとによ
って構成される共振回路)のスイッチSWをONにした後(ステップS102)、制御回
路112に内蔵された図示しない計時タイマーをスタートする(ステップS104)。そ
して、圧電素子108の容量成分CgとインダクターLとによって構成される共振回路の
共振周期の1/2の時間が、経過したか否かを判断する(ステップS106)。尚、制御
用の圧電素子110で発生した電圧値のピークを検出しなかった場合は(S100:no
)、制御用の圧電素子110で発生した電圧値のピークを検出するまで待機する。
【0046】
その結果、共振周期の1/2の時間が経過していないと判断した場合は(ステップS1
06:no)、そのまま同様な判断を繰り返すことによって、共振周期の1/2の時間が
経過するまで待機状態となる。そして、共振周期の1/2の時間が経過したと判断したら
(ステップS106:yes)、共振回路のスイッチSWをOFFにする(ステップS1
08)。その後、スイッチ制御処理の先頭に戻って、上述した一連の処理を繰り返す。
【0047】
以上のようにして共振回路のスイッチSWのON/OFFを行えば、梁104の動きに
合わせて適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすることができるので、発電装
置100を用いて効率よく発電することが可能となる。
【0048】
B.第2実施例 :
以上に説明した第1実施例の発電装置100では、制御用の圧電素子110が1つだけ
設けられているものとして説明した。しかし、制御用の圧電素子110は必ずしも1つだ
けである必要はなく、複数の制御用の圧電素子を設けても良い。以下では、このような第
2実施例について説明する。尚、第1実施例と同様な構成については、第2実施例におい
ても同じ番号を符番するものとして、詳細な説明は省略する。
【0049】
図7は、制御用の圧電素子を複数備えた第2実施例の発電装置100を示した説明図で
ある。図7(a)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図7(b)は、梁10
4の他方の面から見た平面図である。図7(a)には、梁104の一方の面に設けられた
発電用の圧電素子108が示されており、図7(b)には、梁104の他方の面に設けら
れた2つの制御用の圧電素子(圧電素子110および圧電素子114)が示されている。
図7(a)と図7(b)とを比較すれば明らかなように、制御用の圧電素子110,11
4は、圧電素子の長さ(梁104の長手方向への長さ)は発電用の圧電素子108と同じ
であるが、圧電素子の幅(梁104の短手方向への長さ)は、発電用の圧電素子108の
半分よりも更に狭くなっている。そして、2つの制御用の圧電素子110,114は、梁
104の幅の両側に寄せた位置に設けられている。尚、圧電素子114についても、圧電
素子108や圧電素子110と同様に、金属薄膜によって形成された上部電極115a、
下部電極115bが設けられている。
【0050】
また、発電用の圧電素子108が梁104に対して、設置可能な最大の長さと幅であれ
ば、発電用の圧電素子108の発電量は大きくなり、制御用の圧電素子110,114が
設置可能な最小の幅(梁104の短手方向への長さ)であれば、制御用の圧電素子110
,114による梁104の変位抵抗が低減するため、発電効率が良い。
【0051】
そして、2つの制御用の圧電素子110,114を、梁104の幅の両側に寄せた位置
に設けられていることにより、梁104が上下左右で異なる変位を生じるときでも、制御
用の圧電素子110,114は適切なタイミングでスイッチSWをON/OFFすること
ができるので、発電装置100を様々なところで使用することができる。
【0052】
また、図7(c)には、2つの制御用の圧電素子110,114を備える第2実施例の
発電装置100の回路図が示されている。1つめの制御用の圧電素子110は、電流源と
、電荷を蓄えるコンデンサーCs1とを組み合わせたものして表され、2つめの制御用の
圧電素子114は、電流源と、電荷を蓄えるコンデンサーCs2とを組み合わせたものと
して表されている。また、1つめの制御用の圧電素子110の上部電極111aおよび下
部電極111bは、制御回路112に接続されており、2つめの制御用の圧電素子114
の上部電極115aおよび下部電極115bも、制御回路112に接続されている。
【0053】
そして、制御回路112では、上部電極111aおよび下部電極111bの組、あるい
は上部電極115aおよび下部電極115bの組の何れか一方を選択して、選択した方の
圧電素子110あるいは圧電素子114の電圧値を検出してスイッチSWを制御する。た
とえば、発電装置100の設置時に、圧電素子110の電圧値を検出して発電した場合と
、圧電素子114の電圧値を検出して発電した場合とで発電量を計測しておく。そして、
制御回路112に設けたスイッチなどを用いて、発電量の多い方を選択しておく。こうし
て圧電素子110または圧電素子114の一方を予め選択しておけば、図6を用いて前述
したスイッチ制御処理を行うことによって、スイッチSWのON/OFFを制御すること
ができる。
【0054】
2つの圧電素子110および圧電素子114は、大まかには同じような電圧波形を発生
させるが、梁104の構造や、製造ばらつきなどの要因で、電圧波形や、電圧振幅の大き
さに若干の違いが生じ得る。そして電圧波形に違いが生じれば、発電量に違いが生じる可
能性があり、また、電圧振幅の大きさに違いが生じれば、大きな電圧振幅が得られる方(
センサーとしての感度の高い方)を用いた方が、より適切なタイミングでスイッチSWを
制御できる可能性がある。そこで、圧電素子110の電圧値を検出して発電した場合と、
圧電素子114の電圧値を検出して発電した場合とで発電量を予め計測しておき、発電量
の多い方を選択することで、より効率よく発電することが可能となる。
【0055】
尚、以上の説明では、圧電素子110側の端子の組(上部電極111aおよび下部電極
111b)、あるいは圧電素子114側の端子の組(上部電極115aおよび下部電極1
15b)の何れか一方を選択して、スイッチSWの制御に使用するものとして説明した。
しかし、上部電極111aと上部電極115aとを接続し、下部電極111bと下部電極
115bとを接続して、上部電極側と下部電極側との電位差(電圧値)を検出して、スイ
ッチSWを制御するようにしてもよい。スイッチSWの制御にあたっては、図6を用いて
前述したスイッチ制御処理を適用することができる。
【0056】
梁104の構造や、発電装置100が設置される環境などの影響で、梁104を捻るよ
うな変形が発生することが起こり得る。そして、梁104に捻りが発生すると、圧電素子
110や圧電素子114が発生する電圧波形の位相がシフトすることが起こり得る。しか
し、図7(b)に示したように、圧電素子110および圧電素子114を、梁104の両
幅に寄せて設けておけば、梁104の撓みに対する捻りの影響が逆になる。従って、上部
電極111aと上部電極115aとを接続し、下部電極111bと下部電極115bとを
接続すれば、梁104の捻りが圧電素子110および圧電素子114に与える影響を打ち
消すことができる。その結果、たとえ梁104に捻りが生じた場合でも、捻りの影響を受
けることなく適切なタイミングでスイッチSWを制御することができるので、効率よく発
電することが可能となる。
【0057】
C.変形例 :
上述した第1実施例あるは第2実施例には種々の変形例が存在している。以下では、こ
れらの変形例について簡単に説明する。
【0058】
C−1.第1変形例 :
上述した第2実施例では、2つの制御用の圧電素子110,114が、発電用の圧電素
子108と同じ長さを有しており、それら制御用の圧電素子110,114が、梁104
の幅の両端に寄せた位置に設けられているものとして説明した。しかし、発電用の圧電素
子108の長さの半分よりも短い2つの圧電素子110,114を、梁104の中央の位
置に、長手方向に向けて一列に並べて設けるようにしてもよい。
【0059】
図8は、第1変形例の発電装置100の梁104に、発電用の圧電素子108と、2つ
の制御用の圧電素子110,114とが設けられている様子を示した説明図である。図8
(a)は、梁104の一方の面から見た平面図である。図8(b)は、梁104の他方の
面から見た平面図である。図8(a)には、発電用の圧電素子108が設けられている様
子が示されており、図8(b)には、2つの制御用の圧電素子110,114が設けられ
ている様子が示されている。
【0060】
梁104の構造や、発電装置100が設置される環境によっては、梁104が波打つよ
うに変形する場合が起こり得る。すると、梁104が撓んだ場合の変形が大きくなる箇所
と、小さくなる箇所とが、梁104の長手方向に沿って発生する。従って、図8(b)に
示すように、短い2つの圧電素子110,114を、梁104の中央に長手方向に沿って
一列に設けておき、十分な振幅の電圧波形を発生する圧電素子を選択すれば、たとえ梁1
04が波打つような変形が発生した場合でも、適切なタイミングでスイッチSWを制御す
ることが可能となる。
【0061】
また、上部電極111aと上部電極115aとを接続し、下部電極111bと下部電極
115bとを接続すれば、梁104が波打つように変形したことによる影響を打ち消すこ
とができる。その結果、たとえ梁104が波打つように変形した場合でも、その影響を受
けることなく適切なタイミングでスイッチSWを制御することができる。
【0062】
尚、図8には、制御用の圧電素子としては、圧電素子110および圧電素子114の2
つの圧電素子が設けられているものとして説明したが、3つ以上の圧電素子を設けるよう
にしても良い。
【0063】
C−2.第2変形例 :
上述した各種の実施例、あるいは第1変形例では、制御用の圧電素子110(および圧
電素子114)が、発電用の圧電素子108とは異なる面に設けられているものとして説
明した。しかし、制御用の圧電素子110を、発電用の圧電素子108と同じ面に設ける
ようにしてもよい。
【0064】
図9は、第2変形例の発電装置100の梁104の同じ面に、発電用の圧電素子108
および制御用の圧電素子110が設けられている様子を示した説明図である。図9に示し
た例では、発電用の圧電素子108と、制御用の圧電素子110とが、梁104の同じ面
に設けられている。また、制御用の圧電素子110は、圧電素子108と同じ長さを有す
るが幅は狭くなっている。このように、発電用の圧電素子108に対して、ほぼ同じ長さ
を有する制御用の圧電素子110を、圧電素子108と平行に設けておけば、圧電素子1
08と圧電素子110とはほぼ同じ変形をする。従って、圧電素子108の変位が極値と
なったタイミングを精度良く検出して、適切なタイミングでスイッチSWを制御すること
が可能となる。
【0065】
もちろん、発電用の圧電素子108と、制御用の圧電素子110とを梁104の同じ面
に設けた場合、制御用の圧電素子110の分だけ、発電用の圧電素子108の大きさ(面
積)が小さくなる。その結果、前述した各種の実施例あるいは第1変形例のように、発電
用の圧電素子108と制御用の圧電素子110とを異なる面に設けた場合に比べて、発電
能力が低下する。しかし図9に示したように、制御用の圧電素子110は幅が狭いので、
発電用の圧電素子108の面積の減少を比較的小さな値に抑制することができ、発電能力
の低下も比較的小さくすることができる。
【0066】
その一方で、図9に示した第2変形例のように、発電用の圧電素子108と制御用の圧
電素子110とを同じ面に設けておけば、圧電素子108および圧電素子110を同じ工
程で設けることができる。これに対して、前述した各種実施例や第1変形例のように、発
電用の圧電素子108と制御用の圧電素子110とを異なる面に設けた場合には、圧電素
子108を設ける工程と、圧電素子110を設ける工程とを別の工程にしなければならな
い。従って、第2変形例のように発電用の圧電素子108と制御用の圧電素子110とを
同じ面に設けることで、発電装置100の製造工程を単純化することが可能となる。逆に
言えば、前述した各種の実施例や第1変形例のように、発電用の圧電素子108と制御用
の圧電素子110とを別の面に設けた場合、発電装置100の製造工程は複雑となるが、
発電用の圧電素子108の面積を大きくすることができるので、発電能力を高くすること
が可能となる。
【0067】
以上では、制御用の圧電素子110が、発電用の圧電素子108とほぼ同じ長さを有す
るが、幅は圧電素子108よりも狭いものとして説明した。しかし、発電用の圧電素子1
08と幅がほぼ同じで、長さが短い制御用の圧電素子110を使用し、それら圧電素子1
08および圧電素子110を梁104の同じ面に設けることとしても良い。
【0068】
図10は、発電用の圧電素子108および制御用の圧電素子110が、梁104の同じ
面に設けられた第2変形例の他の態様を示した説明図である。梁104のような、いわゆ
る片持ち梁では、先端から支持端102に近付くに従って曲げモーメントが大きくなり、
それに伴って、単位長さ当りの梁104の変形量も大きくなる。従って、制御用の圧電素
子110を支持端102の近くに設けることでセンサーとしての感度が高くなり、その分
だけ、制御用の圧電素子110の幅を狭くすることができる。その結果、発電用の圧電素
子108の面積を広くすることができるので、発電用の圧電素子108と制御用の圧電素
子110とを同じ面に設けたことによる発電能力の低下を抑制することが可能となる。
【0069】
C−3.第3変形例 :
上述した第2変形例では、発電用の圧電素子108と制御用の圧電素子110とが、梁
104の同じ面に設けられており、制御用の圧電素子110は、1つしか設けられていな
いものとして説明した。しかし、発電用の圧電素子108と制御用の圧電素子110とが
、梁104の同じ面に設けられている場合でも、複数の制御用の圧電素子を設けるように
してもよい。
【0070】
図11は、発電用の圧電素子108と同じ面に複数の制御用の圧電素子110,114
が設けられた第3変形例を示した説明図である。図示した例では、発電用の圧電素子10
8よりも幅が狭く、長さについても発電用の圧電素子108の半分以下の短い制御用の圧
電素子110,114が一列に並べて、圧電素子108に対して平行に設けられている。
【0071】
前述したように、梁104の構造や発電装置100が設置される環境によっては、梁1
04が波打つように変形する場合が起こり得る。すると、梁104が撓んだ場合の変形が
大きくなる箇所と、小さくなる箇所とが、梁104の長手方向に沿って発生する。従って
、制御用の圧電素子110,114が設けられた位置によっては、十分な感度(検出する
電圧値)が得られない場合が起こり得る。そこで、図11に示すように、短い2つの圧電
素子110,114を、梁104の長手方向に沿って一列に設けておき、十分な感度が得
られる圧電素子を選択すれば、たとえ梁104が波打つような変形が発生した場合でも、
適切なタイミングでスイッチSWを制御することが可能となる。もちろん、制御用の圧電
素子としては、圧電素子110および圧電素子114の2つに限らず、3つ以上の圧電素
子を設けるようにしても構わない。
【0072】
また、圧電素子110の上部電極111aと圧電素子114の上部電極115aとを接
続し、圧電素子110の下部電極111bと圧電素子114の下部電極115bとを接続
して、上部電極側と下部電極側との電位差を検出してやれば、梁104が波打つように変
形したことによる影響を打ち消すことができる。その結果、たとえ梁104が波打つよう
に変形した場合でも、その影響を受けることなく適切なタイミングでスイッチSWを制御
することができる。
【0073】
尚、図11に示した第3変形例では、2つの短い制御用の圧電素子110,114が、
梁104の長手方向に一列に並んで設けられているものとして説明した。従って、2つの
短い制御用の圧電素子110,114は、発電用の圧電素子108に対しては一方の側に
設けられていることになる。これに対して、発電用の圧電素子108の両側に、発電用の
圧電素子108とほぼ同じ長さで、幅の狭い制御用の圧電素子110,114を設けるこ
ととしてもよい。
【0074】
図12は、発電用の圧電素子108と同じ面に複数の制御用の圧電素子110,114
が設けられた第3変形例の他の態様を示した説明図である。前述したように、梁104の
構造や発電装置100が設置される環境などの影響で、梁104を捻るような変形が発生
することが起こり得る。そして、梁104に捻りが発生すると、圧電素子110や圧電素
子114が発生する電圧波形の位相がシフトして、適切なタイミングでスイッチSWを切
り換えることができなくなることが起こり得る。しかし、図12に示したように、発電用
の圧電素子108の両側に、幅の狭い圧電素子110および圧電素子114を設けておき
、それぞれの圧電素子110,114の電圧値を用いてスイッチSWを制御した時の発電
量を計測して、発電量が多い方の圧電素子110,114を選択しておく。こうすれば、
たとえ梁104に捻りが生ずるような場合でも、発電能力の低下を少なくすることができ
る。
【0075】
また、図12に示したように、発電用の圧電素子108の両側に、幅の狭い圧電素子1
10および圧電素子114を設けておけば、梁104の撓みに対する捻りの影響が逆にな
る。従って、圧電素子110の上部電極111aと圧電素子114の上部電極115aと
を接続し、圧電素子110の下部電極111bと圧電素子114の下部電極115bとを
接続すれば、梁104の捻りが圧電素子110および圧電素子114に与える影響を打ち
消すことができる。その結果、たとえ梁104に捻りが生じた場合でも、捻りの影響を受
けることなく適切なタイミングでスイッチSWを制御することができるので、効率よく発
電することが可能となる。
【0076】
以上、各種の実施例あるいは各種の変形例について説明したが、本発明はこれら実施例
あるいは変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様
で実施することが可能である。
【0077】
たとえば、上述した実施例では、圧電素子108が片持ち梁構造の梁104に取り付け
られているものとして説明した。しかし、圧電素子108や圧電素子110などが取り付
けられる部材は、振動などによって容易に繰り返し変形する部材であれば、どのような部
材であっても構わない。たとえば、薄膜の表面に圧電素子108や圧電素子110などを
取り付けても良い。
【0078】
また、本発明の発電装置は振動や移動に応じて発電するため、たとえば、橋梁や建築物
あるいは地すべり想定箇所などに発電装置を設置すれば地震などの災害時に発電し、電子
機器などのネットワーク手段に必要時(災害時)だけ電源供給することもできる。
【0079】
尚、電子機器に限らず、車両や電車などの移動手段に本発明の発電装置を用いることで
、移動に伴う振動により発電し、移動手段に効率良く電力供給することもできる。
【符号の説明】
【0080】
100…発電装置、 102…支持端、 104…梁、
106…錘、 108…圧電素子、 109a…上部電極、
109b…下部電極、 110…圧電素子、 111a…上部電極、
111b…下部電極、 112…制御回路、 114…圧電素子、
115a…上部電極、 115b…下部電極、 120…全波整流回路、
L…インダクター、 C1…出力用コンデンサー、
D1〜D4…ダイオード、 SW…スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形方向を切り換えて変形する変形部材と、
前記変形部材に設けられた第1の圧電素子と、
前記変形部材に設けられた第2の圧電素子と、
前記第1の圧電素子を含む共振回路を構成するインダクターと、
前記共振回路に設けられたスイッチと、
前記第2の圧電素子に生じた電圧を検出することによって、前記スイッチを所定期間導
通状態とする制御手段と
を備える発電装置。
【請求項2】
前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子とは、前記変形部材の異なる面に設けられて
いる請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子とは、前記変形部材の同じ面に設けられてい
る請求項1に記載の発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−110143(P2012−110143A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257568(P2010−257568)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【特許番号】特許第4835889号(P4835889)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)