説明

白紋羽罹病樹の治療方法

【課題】化学薬品を用いることなく罹病した果樹の有害菌を死滅させる治療方法を提供する。
【解決手段】給湯機1から任意に設定される温度で供給される温水を、圧力を任意に設定される注入ポンプ9により土壌内に潅注し、罹病した果樹の周囲の土壌を病菌の死滅温度に上昇させることで病菌を死滅させる。また、土壌温度を任意の圧力で潅注し、任意の温度に保持させるため病菌の付着した枝根部を十分に加温でき、特に土壌温度を検知しながら出湯温度を制御し、土壌温度を33.7度以上に保持させる事で病菌の死滅と、枝根繊維の破壊を抑える。更に、潅注器13の先端の噴射穴より噴射する高圧温水により土壌を切り開きながら土壌内に潅注させるため固い土壌でも容易に潅注器13の差込ができ作業が短時間で実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学薬液を用いることなく罹病した樹木の有害菌を死滅させる果樹園における白紋羽罹病樹の治療方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、白紋羽罹病樹の治療方法として汚染土壌を広範囲で除去し、新たな土壌を入れる土壌の更新や有効な薬剤を土壌に混入させ有害菌を死滅させる手段を採用していた。汚染土壌を更新する手段では枝根に残る有害菌を完全に除去できないため経年と共に有害菌が増殖してくることから恒久的な対策とならない問題があった。また、薬剤の使用では自然界に化学物質を多量に投入されることによる環境負荷が懸念されており薬剤に頼らない治療方法の確立が望まれている。
【0003】
このような一般的に実施されている方法では、抜本的な解決とならず例えば新たな試みとして特許文献1に見られる技術が提起されている。
【特許文献1】特公昭48−34870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1の土壌消毒方法によっては、次のような問題が提起される。
土壌中に蒸気を噴射させ土壌の所定範囲を60度に維持させる手段を実施した場合では、周知のように病菌が樹木の枝根に繁殖するために枝根部を高温の蒸気に曝す必要があり、このため枝根の繊維質が破壊され菌を死滅させると共に回復の可能性を持つ果樹をあえて枯死させる危険が高くなった。このため土壌の温度管理が難しく菌の繁殖状態と枝根の活力を見極めた適切な処理が必要であり、誤った判定をすると早い時間で樹木を枯死させる結果となりこれらの問題を解消する対応が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明では給湯機から任意に設定される温度で供給される温水を、圧力を任意に設定される注入ポンプにより土壌内に潅注して安全に白紋羽病菌を死滅させる白紋羽罹病樹の治療方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の治療方法によれば罹病した果樹の周囲の土壌を病菌の死滅温度に上昇させることで病菌を死滅させるもので設定温度になるように温水を土壌内に注入させて治療できることから、作業が簡便であり化学農薬を使用しないことで環境汚染や作物の育成に影響を及ぼすことがなく安全性も高いものとなる。
また、土壌温度を任意の圧力で潅注し、任意の温度に保持させるため病菌の付着した枝根部を十分に加温できる効果を有し、特に土壌温度を検知しながら出湯温度を制御し、土壌温度を33.7度以上に保持させる事で病菌の死滅と、枝根繊維の破壊を抑えることが可能である。
更に、潅注器の先端の噴射穴より噴射する高圧温水により土壌を切り開きながら土壌内に潅注させるため固い土壌でも容易に潅注器の差込ができ作業が短時間で実施できる。
尚、土壌温度は33.7度以上とするものであるが、前述したように樹木の根の繊維質の破壊を防止するために可能な限り48度以下の低い温度粋で使用することで果樹などの樹木の生育への影響を無くすことができる。
【実施例】
【0007】
本発明の給湯機1は温水を貯える缶体2と缶体2を加熱するバーナ3を有し、サーモセンサー4とコントローラー5により温度を設定し、所定温度に保持させる。6は缶体2への給水管、7は缶体2からの出湯管、8は排水栓で長期間にわたり使用しない場合などに缶体内の水を排出させる。9は注入ポンプで給湯機1から供給される温水を加圧して土壌内に供給するために用いられ、吐出圧力はバルブ10により任意に調整される。11は台車で缶体2、注入ポンプ9他を載置し車輪12により移動できる。また、台車11は必要に応じて図示していないエンジンにより駆動力を与えることも容易に構成できる。
【0008】
13は注入ポンプ9に接続される潅注器で可撓性を持つホース14により連結され、注入ポンプ9からの温水を土壌内に注入させる。また、図2に示す潅注器13の構成としては中空パイプPの先端を円錐形状として先端に下向きの噴射口15aを開け、周面に適宜間隔を持って横方向への温水の広がりを促進する噴射口15bを複数個設けて土壌内への温水の拡散を容易にしている。16は移動自在に中空パイプPを通して必要に応じてネジ17により中空パイプPに固定されるストーッパー鍔で中空パイプPの土壌内への挿入深さを調節すると共に該パイプPの土壌への差込み時に土壌が固い場合の足をかけるステップとして使用される。18は取っ手である。
【0009】
19は中空パイプPの周面に刻んだ目盛りであり土壌内への差込時に深さを測定して温水の注入位置を調整できる。20は前記のホース14を接続するカプラーで開閉弁21を備えている。また、前記のホース14は台車11に取り付けられたホースリール22により不使用時に巻き取り保管するようにされる。23は分岐栓で通常は1個の潅注器を接続するが必要に応じて分岐栓を中継させ、同時に複数の潅注器から温水を土壌内に注入させて広範囲の処理を行わせることができる。
このときの温水の注入は比較的弱い圧力で潅注器から滴下させ、徐々に土壌内に浸透させて所定温度に長時間かけて上昇させる。尚、作業中は放熱による土壌の温度低下を抑えるために保温シートなどで作業場所を覆う事で土壌温度を短時間で上昇させる事が好ましい。
【0010】
25は温度センサーで土壌中に挿入される測温パイプ26内に組み込まれ土壌中の温度を検知してバーナ3のコントローラ5に燃焼制御信号を送り、バーナの燃焼を制御して土壌温度変化を設定値になるように制御するものである。
また、この燃焼制御による温度コントロールは通常の出湯温度を直接制御したい場合はサーモセンサー4の信号により行い、土壌温度に比例した出湯制御を行う場合は温度センサー25により温度を制御するようにセンサー27とセンサー4を図示していないスイッチ28により切り替えるようにしている。
【0011】
このような治療方法によれば圃場の罹病した樹木の周辺に装置を移動させて枝根の伸長範囲の土壌中に潅注器を挿し込み噴射穴から温水を噴水させる。このときの温水温度は外気温、土壌温度により異なるが例えば50度〜65度であり、1平方メートルあたり100から200リットルの温水を10〜20kg/平方センチメートルの圧力で土壌中に供給する。そしてこの温水は順次土壌中に浸透し放熱されながら温度が低下し土壌温度が加温と放熱のバランスの取れた33.7度以上で48度以下の温度で飽和し土壌温度を所定時間保持する。
【0012】
実験結果を示す表に示されるように、図4では温湯による菌の再分離率を見ると40度では5分で白紋羽病菌は再分離されないことが確認できた。次に図5において土壌温度による再分離率を見ると白紋羽病菌を土壌に埋没し土壌温度の変化毎に観察すると湿度65パーセントの土壌で30.0度では8時間置いても96.7パーセントとほとんど実効が無かった。次に33.7度の温度に3時間置いた場合100.0パーセントの再分離率で菌糸の伸長度は70パーセントと若干の実効が認められ、土壌温度33.7度で5時間置くと再分離率は33.3パーセントで菌糸の伸長度は6.7パーセントと激減し同温度で8時間置くと再分離率・伸長度とも0パーセントとなり有効と判定される。また、温度による樹木への影響は図6の実験結果のとおり48度に4時間曝すと軽度の葉枯れ・落葉が観察されたが許容範囲内であり無視できると判定されることから48度以下に土壌温度を抑えれば良いと立証された。
【0013】
この実験によれば果樹の樹齢により異なるが白紋羽病菌は地表から浅い、酸素が十分に供給される土壌に繁殖するため、本実施例による給湯機1から任意に設定される温度で供給される温水を、圧力を任意に設定される注入ポンプ9により土壌内に潅注して白紋羽病菌を死滅させる手段及び注入される加温液体は50〜65度の温水を1平方メートル当たり100〜200リットルの温水を10〜20kg/平方センチメートルの圧力で潅注して土壌温度を菌糸の再分離しない下限の33.7度以上でかつ果樹への影響を事実上無視できる48度以下に保持させるようにした手段によれば白紋羽菌の死滅による治療効果は容易に期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の手段を実施するための構成を示す説明図
【図2】注入装置部の一実施例図
【図3】注入装置部の他の一実施例図
【図4】白紋羽菌の温度による再分離率を測定したデータ
【図5】白紋羽菌の土中温度による再分離率を測定したデータ
【図6】土中温度による果樹へ影響を示すデータ
【符号の説明】
【0015】
1 給湯機
2 缶体
3 バーナ
4 サーモセンサー
7 出湯管
9 注入ポンプ
13 潅注器
14 ホース
15a 15b 噴射穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給湯機から任意に設定される温度で供給される温水を、圧力を任意に設定される注入ポンプにより土壌内に潅注して根部に付着した白紋羽病菌を死滅させる白紋羽罹病樹の治療方法。
【請求項2】
給湯機から供給される温水は、土壌温度を33.7度以上で48度以下になるように土壌に注入される給湯温度を制御することを特徴とする請求項1項に記載の白紋羽罹病樹の治療方法。
【請求項3】
土壌内に注入される加温液体は温水を1平方メートル当たり100〜200リットルの温水を10〜20kg/平方センチメートルの圧力で潅注して土壌温度を33.7度以上で48度以下に保持させるようにした白紋羽罹病樹の治療方法。
【請求項4】
給湯機から任意に設定される温度で供給される温水は、先端に下向きの噴射口を開けた潅注器からの噴射圧力により土壌を切り開きながら土壌内の所定温度にまで注入されることを特徴とする請求項1項に記載の白紋羽罹病樹の治療方法。
【請求項5】
給湯機から任意に設定される温度で供給される温水を、分岐した複数の給湯管に分流させ給湯管の地面側から土壌内に向けて滴下させ土壌温度を33.7度以上で48度以下になるようにしてなる請求項1項に記載の白紋羽罹病樹の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−129996(P2007−129996A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328851(P2005−328851)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000103138)エムケー精工株式会社 (174)
【出願人】(391001619)長野県 (64)