説明

白金族の金属をベースとする含ホウ素合金の酸化処理

白金族の少なくとも1種の金属をベースとする含ホウ素合金の鋳造品は、酸素の存在でかつ合金の融点を下回る温度での熱的エージングにより処理される。この鋳造品は、装飾品分野において通常の温度でのさらなる加工を可能にする。処理された鋳造品は、医用工学用物品にさらに加工されることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族の金属をベースとする含ホウ素合金の処理、特に装飾品分野において及び医用工学において使用するために性質を改善するための処理に関する。
【0002】
白金金属及びそれらの合金がより簡単に装飾品及び他の物品に鋳造されることができるように、融点はできるだけ低いべきである。同時に、前記材料は、その中にはめ込まれた高価な宝石を容易に紛失しないように硬いべきである。特開昭56−081646号公報には、Pt 80〜95%、Pd、Ir、Ru、Rh、Au、Ag、Cu、Ni及びCoの群からの少なくとも1種の金属1〜15%並びにB又はホウ化カルシウム 0.01〜3%からなる合金が記載されており、前記合金は、特に硬く、高温で良好な機械的な値を有し、かつ極めて流動性の溶融物に基づいて良好に鋳造されることができる。前記合金は、石をはめ込むための装飾品用材料として適している。有利な性質は、ホウ素もしくはホウ化カルシウムによるものとされる。
【0003】
特に、ホウ素約2質量%を白金ベースの合金(例えば装飾品用合金Pt95.2Ru4.8)に添加することにより、融点は約1800℃から約800℃に低下しうる。それにより、Pt合金を、金ベースの装飾品の製造に使用されるような、装飾品部門において常用の溶解炉及び鋳造装置を用いて加工することが可能になる。
【0004】
既に達成されたこれらの利点にも拘わらず、白金金属合金の性質をさらに改善することが努められている。
【0005】
意外なことに、約750℃での − すなわち融点を下回る − いわゆるエージングにより、B含量は明らかに低下されることができる。表面に生じた酸化ホウ素を何度も、温水中ですすぐことによりPt合金の表面から除去することが有利であるとわかった。前記処理は、鋳造品が装飾品としての使用のために十分な靭性を有するようになるまで続けられる。前記合金中の残りのホウ素含量により制約されて、前記鋳造品は、未処理のPt合金に比べて明らかに高められた硬さを有し、この硬さは装飾品の耐摩耗性に有利に作用する。
【0006】
前記方法のごくわずかな変更により、同様にパラジウムベースの合金からなる鋳造品が製造されることができる。
【0007】
従って、本発明は、請求項1記載の方法及び前記方法により処理された鋳造品に関する。有利な態様は、別の請求項から読み取ることができ、かつ以下の説明から明らかになる。
【0008】
前記のように、ホウ素1.5〜2.5質量%の合金化により、Pt及びその合金の融点は約800℃に低下される。この温度範囲内で、前記合金は、Au合金からなる装飾品を製造する際に一般に使われている炉中で溶融されることができ、かつそのような鋳造装置を用いて加工されることができる。鋳造した後に、鋳造品は、極めて高い硬さを有し(典型的には、約500〜600のビッカース硬さHV1である)、かつ極めて脆い − ゲートは問題なく取り壊されることができる;ギロチンシャーを用いて切断する際に前記鋳造品は粉々に砕ける;高さ1.5mからセメント床に落とした際に前記鋳造品は小さな破片へ粉々になる(Platinum Metals Review 22 (3) 78-87 (1978)も参照)。
【0009】
空気雰囲気で約750℃でのエージングにより、前記ホウ素は酸化されて前記鋳造品の外側表面で酸化ホウ素(融点450℃)の溶融した薄層になり、金属鋳造品は溶けない。ホウ素含分の減少は、例えば硬さ(とりわけビッカースによる)を求めることによるか及び/又は化学分析(好ましくはICP − inductively coupled plasma/誘導結合プラズマ)により追跡される。装飾品としての鋳造品の使用に関して、約HV1=250の硬さが達成されるまで酸化処理を継続することが有利であると判明している。これは約0.2質量%のホウ素含量に相当する。この状態で、装飾品はなお、良好に研磨されうるほど十分に高い硬さを有し、かつ良好な耐摩耗性を有する。他方では、前記材料はしかしながら、ギロチンシャーを用いて切断されうるほど十分に延性であり、かつ損傷することなく高さ1.5mからセメント床に落とすことができる。酸化処理の際に、生じた酸化ホウ素を時折、温水中ですすぐことにより取り除くことが有利であるとわかった。
【0010】
硬さを求めることに加えて、酸化処理の進展はしばしば変色に基づいて追跡されることができる。非貴金属成分を含有する前記合金は、ホウ素含量がわずかに10分の数%の範囲内に過ぎないしるしとして、しばしば着色された変色層を形成する。
【0011】
次の合金は、例えば本発明による方法により加工されることができる:
・Pt96Cu4
・Pt95.2Ru4.8
・Pt95W5
・Pt80Ir20
・Pt95Co5
・Pt95Rh5。
【0012】
類似して、パラジウム合金からなる装飾品が製造されうる。Pt−Bと比較してPd−B合金系のより高い共晶温度により制約されて、ごくわずかなプロセス適合が必要であるが、これらの適合は実験室中での単純な試験により求められることができる。Pdベースの典型的な合金は次のとおりである:
・Pd95.2Ru4.8
・Pd95(InGa)5。
【0013】
本発明は、Pt合金及びPd合金からの装飾品、時計ケース等の単純化された製造を可能にする。これらの合金が装飾品分野で通常の金属ではないにも拘わらず、本発明による方法は、白金族の別の金属、例えばイリジウム又はロジウムの合金にも応用されることができ、これらの金属についてはホウ素との1046℃及び1143℃での共晶温度が知られている[Platinum Metals Review 1 (4) 136-137 (1957)]。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ビッカース硬さの測定後の、実施例7に記載された試料を示す図。
【0015】
合金成分で示された数は、他に示されていない限り、他の明細書中と同じように、質量パーセントを意味する。
【実施例】
【0016】
実施例1
常法で予め溶融された5kgの合金PtRu4.8を、鋳込んだ後に直径10mmを有するロッドに圧延し、長さ約30mmの片へ切断した。切断した片を、引き続き酸化ジルコニウムるつぼ中でアルゴンガスシール下にゆっくりと誘導加熱し、その際に前記溶融物にホウ素粒状物3.0質量%を添加した。短時間で溶融した後に、1000℃を上回る溶融物の加熱を、ホウ素とるつぼの酸化ジルコニウムとの反応の危険を最小限に減少させるために、注意深く回避した。こうして製造された合金を水浴中へ鋳込み、粒度1〜5mmを有する粒状物にした。
【0017】
乾燥後に、粒状物120gを、例えば装飾品及び歯科用部材の製造に使用されるような常用の遠心鋳造設備の酸化ジルコニウムるつぼ中で溶融させ、かつ約1000℃で結婚指輪用の20個のブランクを有するツリーに鋳込んだ。型として、セッコウ結合された埋没材料からなり、ロストワックス法により製造された市販の鋳型を使用した。前記指輪の最大側面厚さは2.2mmであった。鋳型を壊して取り去った後に、前記合金の極度のもろさのために、力を適用することなくゲートを取り壊すことができた。ビッカースによる硬さ測定は、硬さHV1=520の結果となった。
【0018】
前記ブランクの表面をガラスビーズでのブラストにより清浄化した後に、前記ブランクをチャンバー炉中へ置き、750℃で空気雰囲気でエージングした。前記表面は、溶融した酸化ホウ素で濡れた。3時間のエージング後に、前記ブランクを前記炉から除去し、酸化ホウ素を取り除くために温水ですすいだ。引き続きすすぎを伴う前記酸化処理を、硬さがHV1=280に減少するまで全部で8回実施した。前記ブランクは、損傷することなく、高さ1.5mからセメント床に落とすことができた。ゲートの残部を磨き落とし、かつ前記指輪の表面を研磨した。
【0019】
実施例2
実施例1に類似して、市販の装飾品用合金PtCo4.8から、ホウ素3.0質量%を有する鋳造合金を溶かし、かつ粒状物に鋳造した。遠心鋳造法において腕時計のケース用の4個のブランクを鋳造した。最も厚い個所で、前記ケースは3.2mmの断面を有していた。鋳造後でHV1=560の硬さが測定された。
【0020】
前記ブランクを、実施例1に記載されたプロセスに類似して清浄化し、かつ空気雰囲気で処理し、その際に硬さ測定に加えてホウ素含量もICP分析を用いて求めた。既に10回の処理サイクル(750℃で3h酸化/温水中のすすぎ)の後に、鋳造品の表面の淡く赤みがかった変色が初めて観察され、この変色はおそらく卑金属成分であるコバルトの酸化に起因されうるものであった。さらに2回の処理サイクルの後に、HV1=240の硬さ並びに0.18質量%のホウ素の残留含量が測定された。この硬さは、前記ブランクから製造した時計ケースの良好な耐摩耗性を保証する。
【0021】
実施例3
実施例1に類似して、純白金及びホウ素3.0質量%からなる合金を溶かし、粒状化し、かつ結婚指輪用の20個のブランクを有するツリーに鋳込んだ。鋳造後でHV1=480の硬さが測定された。
【0022】
前記ブランクを、実施例1に記載されたプロセスに類似して清浄化し、空気雰囲気で処理した。12回の処理サイクル(750℃で3h酸化/温水中のすすぎ)の後に、0.08質量%のホウ素の残留含量が測定された。それゆえ前記白金は市販の"999白金"の仕様に相当する。硬さはHV1=150であり、このことは結婚指輪に十分な耐摩耗性を保証する。
【0023】
実施例4
実施例3からの粒状物から出発して、常用の真空ダイカスト法においてブローチ用の2個のブランクを鋳造した。前記ブローチは、1.5mm〜0.1mmのブリッジ幅を有する極めて微細なフィリグラン構造を有していた。前記Pt−B合金の型充填能は優れていた;鋳造欠陥は確認できなかった。同時に10mm×10mm×1.5mmの寸法を有する直方体形の小板を鋳込んだ。これらのブランク及び小板を、750℃で3時間チャンバー炉中で空気雰囲気下にエージングし、引き続き、生じた酸化ホウ素を温水中で洗い落した。このプロセスを、前記小板でHV1=140の硬さが求められるまで、全部で7回実施した。前記小板のホウ素含量は0.075質量%であった。それゆえ前記白金は市販の"999白金"の仕様に相当する。前記ブローチの清浄化及び研磨後に、ダイヤモンドをはめ込むことができた。
【0024】
実施例5
前述の実施例に類似して、ホウ素3質量%を有する純パラジウムの合金を酸化ジルコニウムるつぼ中で溶かし、かつ粒状化した。Pt−B系(790℃)と比較してPd−B合金系(1065℃)のより高い共晶温度により制約されて、しかしながらこの場合に溶融物を約1100℃に加熱しなければならなかった。より高い溶融温度にも拘わらず、前記合金は溶融るつぼとの反応によりジルコニウム60ppmを吸収したに過ぎず、このことは装飾品における使用に危険はない。
【0025】
前記粒状物から、第1実施例に類似して、結婚指輪用の20個のブランクを鋳造した。鋳型を壊して取り去った後に、前記合金の極端なもろさのために、力を適用することなくゲートを取り壊すことができた。前記鋳造品の硬さはHV1=520であった。より高い共晶温度により制約されて、ホウ素含分の減少のための熱処理は800℃で実施されることができ、その際に、生じた酸化ホウ素を同様に3時間のエージング後に温水中で洗い落した。既に5回の処理後に、硬さはHV1=130に減少した。ICP分析は、0.09質量%の残留ホウ素含量の結果となった。前記ブランクは文句なく研磨及び彫刻することができた。
【0026】
実施例6
実施例1に類似して、医療用インプラントにおいて一般に使われている2kgの合金PtIr10をホウ素3.0質量%で合金化し、粒状物に鋳込んだ。この粒状物から出発して、遠心鋳造方法において、心臓ペースメーカー中で組織刺激のために使用される、頂部電極用の100個のブランクを有するツリーを鋳造した。前記電極の頂部は、1mmの直径及び最大0.1mmの厚さを有するのに対し、前記電極の軸は0.2mmの直径及び5mmの長さを有していた。穴部及びアンダーカットを有する部分の複雑な形を文句なく写し取ることができた。実施例1に説明したように、空気雰囲気での12回のエージング後に、電極ブランクは硬さHV1=125を有し、このことはホウ素の極めて低い残留割合を示唆する。ICP分析は、0.0015質量%の残留ホウ素含量の結果となった。
【0027】
実施例7
実施例1に類似して、ホウ素2.5質量%を含有する合金Pt95Rh5からなる粒状物を溶かした。
【0028】
前記粒状物約9gを、内部直径30mmを有するグラファイト型中で水素/酸素火炎を用いて約900℃に、前記合金が数秒以内に液状になるまで、加熱した。冷却する際に、前記合金を約0.7mmの厚さを有する円板に凝固させた。
【0029】
前記円板を、700℃で3秒、チャンバー炉中で空気雰囲気下にエージングし、引き続き、生じた酸化ホウ素を温水中で洗い落とした。このプロセスを全部で5回実施した。最後に、前記円板を直径に沿って分割した。その半分を金属組織学用カット面として調製した。
【0030】
断面に沿って、内部の樹状2相構造から縁近くの領域での白金混晶の明るく輝く1相構造への微構造の明らかな相違が観察される。
【0031】
外側表面の一方の約30μmからはじまって、厚さ全体にわたって約85μmの間隔で硬さ(DIN EN ISO 6507-1によるビッカースによる微小硬さ、HV0.05)を測定した。測定された硬さの値は次のとおりであった:170、483、537、554、571、581、402、167。
【0032】
微構造の外観並びに硬さ測定は、試料の中心から両方の外部表面への明らかな勾配を示し、この勾配は表面に向かっての前記材料のホウ素含分の減損により引き起こされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族の少なくとも1種の金属をベースとする含ホウ素(ホウ素1〜3質量%を有する)合金の鋳造品を処理する方法であって、
複数の熱的エージングを、酸素の存在でかつ前記合金の融点を下回る温度で行い、前記エージングの間にそれぞれ、表面に生じた酸化ホウ素を水で処理することにより除去する
ことを特徴とする、鋳造品を処理する方法。
【請求項2】
鋳造品の靭性が各処理後に検査される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
含ホウ素合金がホウ素1.5〜2.5質量%を含有する、請求項1から2までのいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
含ホウ素合金が、ホウ素と、白金族の金属又はPt96Cu4;Pt95.2Ru4.8;Pt95W5;Pt80Ir20;Pt90Ir10、Pt95Co5;Pd95.2Ru4.8及びPd95(InGa)5からなる群から選択される合金とからなる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法により処理された、白金族の少なくとも1種の金属をベースとする含ホウ素合金の鋳造品。
【請求項6】
ビッカース硬さが内部から外部へ向かって低下する、請求項5記載の鋳造品。
【請求項7】
ビッカース硬さが内部から外部へ向かって50%より多く低下する、請求項6記載の鋳造品。
【請求項8】
微構造中の金属相の数が内部から外部へ向かって低下する、請求項5記載の鋳造品。

【図1】
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【公表番号】特表2012−520392(P2012−520392A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553317(P2011−553317)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001182
【国際公開番号】WO2010/102726
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511222294)ヘレーウス マテリアルズ テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (7)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Materials Technology GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】