説明

白金系揮発物捕集材料及び白金系揮発物捕集材料を用いた白金系揮発物捕集方法

【課題】1000℃以上の高融点材料の溶融時に使用される白金系坩堝から揮発される白金系揮発物を再揮発や散乱無く捕集回収するため方法および捕集材料を提供する。
【解決手段】網目状で通気孔3を有し、白金族成分を50%以上含む捕集材料に、白金系揮発物を含む排気ガスを通過させ、1000〜1300℃の温度で捕集材料と接触させ、捕集材料表面で白金系成分を粒状結晶の状態で固定しさらに自己拡散、焼結により固着させ捕集回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの溶融等、1000℃以上の高融点材料の溶融時に使用される白金系坩堝から揮発される白金系揮発物を捕集するための白金系揮発物捕集材料とそれを用いて白金系揮発物を捕集する白金系揮発物捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスの溶融等の高融点材料の溶融には、1500℃程度の加熱が行われ、使用時の加熱、未使用時の冷却の繰り返しによる膨張収縮に対する耐久性、溶融材料への影響の抑制作用等から、高温度下でも安定な白金坩堝、白金を主成分とした白金合金坩堝等、白金系坩堝が使用されている。
【0003】
しかし、前記溶融を行うことによって、溶融材料や白金系坩堝からの白金系揮発物が生じ、溶融室内に散乱すると共に、散乱した白金系揮発物が溶融材料中に混入したり、排気口等を通じて排出ガスと共に白金系揮発物が排出され、経時変化に伴う白金系坩堝材の減耗が生じていた。
【0004】
その為、白金系揮発物を回収するために、特許文献1では、白金系フェライト単結晶育成用坩堝の上方の坩堝より温度の低い部位に、白金又は白金合金製の吸着板を設置し、白金系フェライト単結晶育成用坩堝より揮発した白金粒子を吸着捕集することが述べられている。
【0005】
また、特許文献2では、アルミニウム酸化反応における白金を回収する手段として、パラジウムをベースとしたキャッチメントガーゼを使用して回収している。
【特許文献1】特開平02−83291
【特許文献2】特開平06−256865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、白金合金製の吸着板を加熱される坩堝の近傍に設置すると、白金合金製の吸着板そのものが加熱により揮発し、白金系揮発物を白金合金製の吸着板に吸着させたとしても、再揮発により溶融室内に散乱してしまう。
【0007】
また、白金合金製の吸着板に冷却機能を設け、白金系揮発物の捕集効果と白金合金製の吸着板の揮発を抑制することも試みられているが、白金合金製の吸着板に白金系揮発物が吸着した際に、白金系揮発物に対して急冷作用が働くことにより針状の結晶が形成され、白金合金製の吸着板に吸着する白金系揮発物の吸着面積が少なくなり、吸着力が不十分であるため、付着した白金系揮発物の堆積量が増加すると落下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、本発明者はガラスの溶融工程において、所定の温度条件等において、所定の材料を使用して排気ガス中の白金化合物を付着させ、回収する方法を見出した。
【0009】
本発明の第1の構成は、揮発した白金族成分(Pt、Rh、Pd、Ir、Os、Ru)を含む排気ガスから、耐熱性捕集材料に付着させることにより当該白金族元素を回収する方法である。
【0010】
本発明の第2の構成は、前記耐熱性捕集材料は複数の通気孔を有し、この通気孔に排気ガスを通過させることで前記捕集材料と排気ガスを接触させる前記構成1の方法である。
【0011】
本発明の第3の構成は、前記耐熱性捕集材料が白金族成分を主成分とした前記構成1及び2の方法である。
【0012】
本発明の第4の構成は、前記耐熱性捕集材料が白金族成分を50%以上含む前記構成1〜3の方法である。
【0013】
本発明の第5の構成は、前記捕集材料と排気ガスを1000〜1300℃の温度にて接触させる前記構成1〜4の方法である。
【0014】
本発明の第6の構成は、揮発した白金族成分を、前記耐熱性捕集材料表面において、粒状結晶の状態で固定することにより回収する前記構成1〜5の方法である。
【0015】
本発明の第7の構成は、前記物捕集材料に接触した白金属成分を自己拡散若しくは自己焼結することにより白金属成分揮発物を付着させて捕集する前記構成1〜6の方法である。
【0016】
本発明の第8の構成は、前記構成1〜7の方法において使用される耐熱性捕集材料であり、排気ガスと接する面が網目状であることを特徴とする前記捕集材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0018】
本発明の方法においては、例えばガラス溶融時に発生する白金族成分揮発物を、所定の捕集材料を使用して回収するため、当該捕集材料は通常高温に耐えうる耐熱性捕集材料であることが好ましい。通常、白金族成分揮発物はガラス溶融時に発生する高温ガス中に多くが混入するため、当該耐熱性捕集材料はこれら高温排気ガス中に曝されることにより、白金族成分揮発物と接触し、白金族成分が捕集材料上に吸着することとなる。
なお、本明細書中において「白金族成分」とはPt、Rh、Pd、Ir、Os、Ruからなる成分である。
【0019】
このように白金族成分揮発物は、耐熱性捕集材料と接触することにより白金族成分と反応し吸着させ、初めて回収することができるものであるから、耐熱性捕集材料は排気ガスとの接触面積が大きい構造、たとえば網目状構造、多孔質構造の様な構造が好ましい。本発明においては耐熱性捕集材料と排気ガスとが良好に接触し続け、且つ、目詰まりを起こさないために、網目状構造であることが好ましい。
【0020】
また、前記耐熱性捕集材料は耐熱性及び白金族成分との吸着性から、白金族成分を主成分とした材料からなることが好ましい。特に白金族成分を50%以上、より好ましくは55%以上、最も好ましくは60%以上含有する。
【0021】
前記耐熱性捕集材料と揮発した白金属成分を含む排気ガスとを接触させる温度は、1000℃以上であることが好ましい。これは1000℃を超えると耐熱材料中に吸着する白金族成分が針状結晶から粒状結晶形態をとるようになり、吸着材との接触面積の増加に伴い付着力も増加するからである。
【0022】
一方、接触させる温度が高すぎると捕集材料自体の揮発が生じる。従って、好ましくは1300℃以下で接触させる。
【0023】
本発明の方法においては、揮発した白金族成分を、前記耐熱性捕集材料表面において、粒状結晶の状態で固定することが好ましい。これは針状結晶の形態であると耐熱性材料と白金属成分との接触面積が小さく、付着力が弱いからである。
【0024】
本発明の方法においては、前記耐熱性捕集材料に接触した排気ガス中の白金属成分を耐熱性捕集材料内部へ自己拡散若しくは自己焼結することにより白金属成分を捕集することが好ましい。自己拡散、自己焼結のプロセスを採用することにより、白金属成分の表面への吸着よりも確実な捕集が実現される。
【0025】
なお、本明細書中において「自己拡散」とは、前記耐熱性捕集材料内部へのPt系揮発物の含浸拡散「自己焼結」とは、Pt付着物間の拡散及び焼結を意味する。
【0026】
本発明において使用される耐熱性捕集材料は、前述のとおり排気ガスと接する面が網目状であることが好ましいが、具体的には図1に例示したような網目状構造が好ましい。
【0027】
白金系揮発物捕集材料1は、少なくとも捕集ネット2と通気孔3を有し、捕集ネット2及び通気孔3は、白金系線材を複数用意し、各線材を用いてネットを形成するか、白金系板材を用意し、穴あけ加工、エッチング法等により通気孔を設けることにより形成される。
【0028】
対象の揮発物が白金を主成分とする白金系揮発物の為、白金系揮発物捕集材料1、捕集ネット2は、白金と同じ貴金属が好ましく、捕集方法として自己拡散若しくは自己焼結の現象を利用して捕集する為、拡散速度が同等な白金、パラジウム若しくはこれらを主成分とした合金が好ましい。
【0029】
白金系揮発物捕集材料の形状、大きさは、設置数量は設置箇所に応じて作製されるが、排気ガスの流れを白金系揮発物捕集材料により抑制すると、溶融室内の圧力負荷等がかかり、特に排気ガスを排出する配管の箇所に設置する場合は、圧力負荷等が増大する為、設置箇所を問わず、白金系揮発物捕集材料には、排気ガスの流れを抑制しない為の通気孔を設けておく。
【0030】
本発明の耐熱性捕集材料は冷却機構を有さないことが好ましい。これは、白金系揮発物が白金系揮発物捕集材料に接触した時に急冷されて針状結晶を形成してしまい、付着析出しただけの状態と接触面積が小さいことにより、白金系揮発物は落下してしまい捕集量が減少してしまうからである。
【0031】
また、白金系揮発物捕集材料は、1つに限らず、2つ、3つと設置数量を多くすることにより、白金系揮発物の捕集重量は増加する。
【実施例】
【0032】
(捕集試験)
直径200mm、高さ250mm、厚さ3mmの白金−酸化ジルコニウム合金坩堝を用意し、前記坩堝の中にガラス材料を入れ、ガラス溶融装置に設置した。
次に、直径50mm、厚さ2mmの通気孔を設けた白金製、パラジウム製、白金−パラジウム製の各揮発物捕集材料を作製し、ガラス溶融装置に設置した。
ガラス溶融装置の加熱温度を1500℃に調整してから100時間放置した。
(実施例1)
【0033】
白金製揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で1000℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(実施例2)
【0034】
実施例1の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着した白金製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図2に示す。
(実施例3)
【0035】
パラジウム製揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で1150℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(実施例4)
【0036】
実施例3の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着したパラジウム製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図3に示す。
(実施例5)
【0037】
白金−パラジウム製揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で1300℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(実施例6)
【0038】
実施例5の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着した白金−パラジウム製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図4に示す。
(比較例1)
【0039】
白金製揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で900℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(比較例2)
【0040】
比較例1の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着した白金製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図5に示す。
(比較例3)
【0041】
白金−パラジウム製揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で1400℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(比較例4)
【0042】
比較例3の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着した白金−パラジウム製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図6に示す。
(比較例5)
【0043】
通気孔のない平板でパラジウム製の揮発物捕集材料をガラス溶融装置の温度分布で1150℃の箇所に設置し、排気口の風量(通気性)、溶融前後の白金−酸化ジルコニウム合金坩堝の重量(揮発量)の測定、白金製揮発物捕集材料の重量(白金捕集量)の測定、白金捕集率(白金捕集量/揮発量)の算定を行った。測定、算定結果を表1に示す。
(比較例6)
【0044】
比較例5の白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が付着したパラジウム製揮発物捕集材料の表面を観察した。観察結果を図7に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1、3、5では、溶融装置の通気性は大きく変化せず、揮発量に対する捕集量、捕集率も良好な結果が得られた。
また、実施例2、4、6では、白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が粒状結晶を形成し、空隙も少なく、各白金系揮発物捕集材料に密接に付着し、捕集されていた。
【0047】
一方、比較例1では、溶融装置の通気性は大きく変化していないが、捕集量、捕集率が実施例と比較して減少した。
また、比較例2では、白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が針状結晶を形成し、空隙が多い状態で白金製揮発物捕集材料に付着し、捕集されていた。針状結晶は、白金製揮発物捕集材料を取り外す際に、振動を与えた程度で落下する付着力であった。白金ルツボ内に針状結晶が落下したものが確認された。
その為、白金製揮発物捕集材料の設置箇所の温度が低いと、捕集材料−揮発物間、揮発物−揮発物間の接触面積が減少し、捕集しにくい形状になり、付着力が低下した為、捕集率、捕集量が減少することがわかった。
【0048】
また、比較例3では、通気性は大きく変化せず、捕集量、捕集率はマイナスの値を示した。
比較例4では、白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が粒状結晶を形成し、空隙も少なく、白金−パラジウム製揮発物捕集材料に付着し、捕集されていたが、白金−パラジウム製揮発物捕集材料が大きく変形していた。
その為、白金製揮発物捕集材料の設置箇所の温度が高いと、白金−パラジウム製揮発物捕集材料の揮発、変形が生じ、白金−酸化ジルコニウム合金揮発物を付着しても、白金−パラジウム製揮発物捕集材料が再度揮発することがわかった。
【0049】
また、比較例5では、捕集量、捕集率も良好な結果であるが、溶融装置の通気性が悪化してしまった。
比較例6では、白金−酸化ジルコニウム合金揮発物が粒状結晶を形成し、空隙も少なく、実施例と同等にパラジウム製揮発物捕集材料に密接に付着し、捕集されていた。
しかし、パラジウム製揮発物捕集材料に通気孔を設けなければ、同等の捕集量、捕集率を得るのに、溶融装置の通気性が必要であることが判った。
なお、図2〜7の走査型顕微鏡写真は、日本電子株式会社製:JSM−5500LVを用いて撮影した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係る白金系揮発物捕集材料の一形態を示す模式図
【図2】実施例2の白金製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【図3】実施例4のパラジウム製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【図4】実施例6の白金−パラジウム製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【図5】比較例2の白金製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【図6】比較例4の白金−パラジウム製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【図7】比較例6のパラジウム製揮発物捕集材料の表面観察図(SEM写真)(a:500倍、b:200倍)
【符号の説明】
【0051】
1,白金系揮発物捕集材料
2,捕集ネット
3,通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発した白金族成分(Pt、Rh、Pd、Ir、Os、Ru)を含む排気ガスから、耐熱性捕集材料に付着させることにより当該白金族元素を回収する方法。
【請求項2】
前記耐熱性捕集材料は複数の通気孔を有し、この通気孔に排気ガスを通過させることで前記捕集材料と排気ガスを接触させることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記耐熱性捕集材料が白金族成分を主成分としたことを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記耐熱性捕集材料が白金族成分を50%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記捕集材料と排気ガスを1000〜1300℃の温度にて接触させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
揮発した白金族成分を、前記耐熱性捕集材料表面において、粒状結晶の状態で固定することにより回収する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記耐熱性捕集材料に接触した白金属成分を自己拡散若しくは自己焼結することにより白金属成分揮発物を付着させて捕集することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法において使用される耐熱性捕集材料であり、排気ガスと接する面が網目状であることを特徴とする前記捕集材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−19247(P2009−19247A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183738(P2007−183738)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】