説明

皮下投与型ガングリオシド系ワクチン組成物

本発明は、ガングリオシドと髄膜炎菌(N.meningitidis)外膜タンパク質組成物(OMPC)を合体させて、非常に小さなサイズのプロテオリポソーム(VSSP)を形成している、皮下投与を目的としたワクチン組成物に関する。本発明の組成物は、追加のアジュバントを必要としない。前記組成物は、ガングリオシド、特にN−AcGM3/VSSP及びN−GcGM3/VSSPによる免疫治療を可能にするものであり、注射部位での刺激性がより弱く、患者にとってそれほど不快にならずにより楽に使用できるために有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追加のアジュバントなしで自己免疫疾患、感染性疾患、及び腫瘍の免疫治療に有用な、ガングリオシド含有皮下投与用ワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、自己免疫疾患及び癌の免疫治療として使用する意図が知られており、たとえば、米国特許第4,965,198号は、このような疾患の予防及び治療でのガングリオシドGM2の使用を開示している。出願特許EP−A−661061及び米国特許第6,149,921号では、免疫原と免疫アジュバントとにある、ガングリオシドに対する抗体応答を刺激し、又は増大させるためのワクチン組成物が開示されている。
【0003】
開示されている免疫原は、N−アセチルGM3ガングリオシド及びN−グリコリルGM3ガングリオシド(以下では、(N−AcGM3)及び(N−GcGM3))が髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来の外膜タンパク質複合体(OMP)と結合して構成されるVSSP(very small size proteoliposomes(非常に小さなサイズのプロテオリポソーム))である。
【0004】
このような免疫原は、以下では、N−AcGM3/VSSP及びN−GcGM3/VSSPと呼ぶが、これらは、非常にサイズが小さく、実際に電子顕微鏡で見ることができず、水溶性であり、浮動能力が高まっている。
【0005】
EP−A−661061及び米国特許第6,149,921号に記載されているワクチン組成物では、非常によく知られているフロイント完全アジュバントなどのアジュバントの利用が必要であった。
【0006】
出願特許WO−A−02145746では、(A)免疫原性の弱い1種又は複数の抗原、(B)ガングリオシド、主としてN−AcGM3/VSSP及びN−GcGM3/VSSPが組み込まれているVSSP、及び(C)結局のところ1種又は複数のアジュバントを含有するワクチン組成物が記載されている。
【0007】
Melanoma Research、2001年、第11巻、219〜227ページに発表されているCarr A.らの論文では、N−AcGM3ガングリオシド含有ワクチンの、黒色腫B16を有するマウスでの抗腫瘍活性が記載されている。
【0008】
この論文では、免疫アジュバント、特に完全フロイントアジュバント又は不完全フロイント様アジュバントのMontanide ISA51の存在の影響も研究されている。ワクチンは筋肉内投与され、明らかになった結果は、フロイント又はMontanide ISA51のいずれかのアジュバントを加えたN−AcGM3/VSSPで免疫感作したマウスが、8週間目にIgM及びIgGの各抗N−AcGM3応答を示したことである(表1)。対照的に、アジュバントなしのN−AcGM3/VSSPワクチンは、何の免疫原性応答も示さなかった(223ページ、右欄)。
【0009】
したがって、従来技術は、ガングリオシドと結合させたVSSPを含有するワクチンには、アジュバント、主としてフロイント(完全若しくは不完全)又はMontanide ISA51を配合すべきであると教示している。
【0010】
しかし、そのようなアジュバント、特にフロイント完全アジュバントは、非経口投与されると、注射部位の慢性の炎症、結果としての肉芽腫、組織の無菌膿瘍若しくは潰瘍性壊死などのある種の不都合な副作用を引き起こすことは非常によく知られている。Montanide ISA51はより刺激が弱いが、これも若干の炎症性障害を引き起こし得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
自己免疫疾患、感染性疾患、及び腫瘍疾患の免疫治療で適用することを考慮に入れると、注射部位での刺激がより弱く、患者にとってそれほど不都合にならないより使用しやすい新しいガングリオシドワクチン組成物を手にすることは非常に望ましいはずである。
【0012】
本発明の著者らは、VSSPを配合したガングリオシド系ワクチンは、皮下投与するとアジュバントなしで使用することができ、一方、関連のある免疫特性は存在したままであることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、免疫アジュバントを含有せず、皮下投与される、VSSPに含まれる新規なワクチン組成物、好ましくはN−AcGM3/VSSP及びN−GcGM3/VSSPである。
【0014】
本発明の目的はまた、免疫アジュバントを含有しないガングリオシドワクチン組成物、好ましくはNAcGM3/VSSP及びN−GcGM3/VSSPの皮下投与にある、その免疫応答を強化する必要のある患者の治療方法である。
【0015】
本発明の目的はまた、ガングリオシドとは別の他の抗原性成分、又は他の免疫アジュバントを含有せず、皮下投与がなされる、N−AcGM3/VSSP及び/又はNGcGM3/VSSPの各ワクチン組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の目的であるワクチン組成物は、追加の免疫アジュバントなしで、皮下投与によって免疫応答を刺激することのできる、1種又は複数のガングリオシドを溶解又は水に分散させ、それを髄膜炎菌のOMPに含めたもの(VSSP)にある。
【0017】
VSSPは、共有結合を必要とせずに、髄膜炎菌の外膜タンパク質複合体と疎水結合した非常に安定なガングリオシドである。このようなガングリオシド−タンパク質系は、EP−A−661061及び米国特許第6,149,921号の特許だけでなく、別の刊行物、たとえば、Estevezら、Vaccine、1999年、第18巻(1〜2):190〜197ページでも詳述されている。こうした文献には、そのような系を得るための手順も記載されている。
【0018】
VSSPに含まれるガングリオシドの中では、本発明によれば、N−AcGM3及びN−GcGM3が好ましく、N−AcGM3が特に好ましい。
【0019】
両方の結合型ガングリオシドの免疫原性、並びに抗癌剤及び獲得免疫の刺激剤としてのその適用についての詳細な記述は、上述の文献及び総説論文:Bitton R.ら、Oncology Reports(2002年)、第9巻、267〜276ページ、並びに最近の対話(communication)及び学会、たとえば、2002年12月9日にハバナで開催された第6回ラテンアメリカ免疫学会、Saurez G.らの対話「進行性乳癌患者におけるガングリオシド癌ワクチンN−アセチル−GM3/VSSP/Montanide/SA51の第I期臨床治験(Phase I clinical trial of the ganglioside cancer vaccine N−Acetil−GM3/VSSP/Montanide ISA51 in advanced breast cancer patients)」の中に見ることができる。
【0020】
ガングリオシド以外の抗原性成分を含有しないワクチン組成物は、本発明の好ましい対象であり、特有の免疫原性成分N−AcGM3(N−AcGM3/VSSP)及び/又はNGcGM3(N−GcGM3/VSSP)として含有するものが特に好ましく、NAcGM3/VSSPのみを含有するものが特に好ましい。
【0021】
本発明が対象とするワクチン組成物は、VSSPの溶液又は水性分散液であり、非経口用途向けの医薬中に通常使用される、ポリエチレングリコールなどでよい、非毒性非刺激性の、水と適合性のある他の溶媒を最終的に含有していてよい。
【0022】
溶液又は水性分散液中の結合型ガングリオシドの濃度は、決定的なものでなく、0.03%〜3%(w/v)、好ましくは0.04%〜2.5%(w/v)の間の範囲でよい。本発明で言及しているワクチンのための皮下投与量の範囲は、50μg〜2.4mgの間、好ましくは200μg〜2mgの間である。
【0023】
すなわち本発明の対象であるワクチン組成物の本質的な特性は、追加の免疫アジュバントなしで皮下投与されるように設計されていることである。
【0024】
免疫アジュバントは、ワクチン製剤中に頻繁に使用されている。そうしたアジュバントは、次の異なる方法で免疫作用を与えていた。すなわち、
−注射部位に抗原の付着層を作って、抗原を系統的な形で解放又は放出する。
−マクロファージによって捕らえられやすい油性の微小液滴を形成させて、抗原が脾臓及びリンパ節に到達するのを助ける。
−免疫応答に関与する細胞を直接又は間接的に活性化する。
−最もよく知られている免疫アジュバントは、フロイントの完全及び不完全アジュバント、Montanide ISA、Ribiアジュバント、Hunter’s TiterMax、アルミニウム塩、Gerbuアジュバント、QS−21などである。
【0025】
驚くべきことに、また予想外に、本発明の著者らは、ガングリオシド/VSSPワクチンを皮下投与すると、アジュバントを完全に省けることを見出した。このことは、従来技術にかかわらず、筋肉内投与をほとんど完全に除外した。
【0026】
したがって、本発明は、局所的にアジュバントの使用に由来する、言及した炎症性の問題に関係する場合にはほとんどすべて、申し分のない利点となる。これは、効力があり、患者への刺激がより弱い、ガングリオシドによるワクチン接種の簡単な方法である。
【0027】
以下の実施例に比較実験の詳細を含めて、免疫アジュバントを含有しないワクチン組成物の免疫効力を実証する。
【実施例1】
【0028】
米国特許第6,149,921号特許の実施例3に記載の手順を使用して、2.4mg/mLのN−AcGM3/VSSPを含有する水性ワクチン組成物を調製した(緩衝液Tris−HCl)。一分割量のこの免疫原組成物に、同体積のMontanide ISA51アジュバントを加えた(Seppic Paris、フランス)。同時に、別の分割量に、同体積の緩衝液Tris−HClを加えた。次の2種のワクチン組成物を得た。
A:1.2mg/mLのN−AcGM3/VSSPを含有する水溶液
B:1.2mg/mLのN−AcGM3/VSSPを含有するW/O乳濁液
【0029】
体重が18〜20gの50匹のC57BL6雌性マウスを選び、それぞれ10匹の動物からなる5つの実験群を編制した。
【0030】
第1群(対照)の動物には、0、14、28、及び42日目に、0.1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を筋肉内接種した。
【0031】
第2群の動物には、0、14、28、及び42日目に、0.1mLのワクチン組成物B(120μgのN−AcGM3/VSSP)を筋肉内接種した。
【0032】
第3群(対照)の動物には、0、14、28、及び42日目に、0.1mLのPBSを皮下接種した。
【0033】
第4群の動物には、0、14、28、及び42日目に、0.1mLのワクチン組成物B(120μgのN−AcGM3/VSSP)を皮下接種した。
【0034】
第5群の動物には、0、14、28、及び42日目に、0.1mLのワクチン組成物A(120μgのN−AcGM3/VSSP)を皮下接種した。
【0035】
63日目に、すべての群のマウスの皮下に5×10細胞の黒色腫MB16F10を植え付けた(0.2mL)。
【0036】
動物は0日目から個別に扱い、次のパラメーター、すなわち腫瘍体積、生存度、及び経過期間を週2回測定した。得られた結果は以下のとおりである。
【0037】
腫瘍体積:
図1に、各実験群の腫瘍成長動力学を示す。Mann−Whitney(両側)U検定を使用して、群の対に統計学的有意性があるかどうか、個別に扱った動物の腫瘍植付け後33日目の腫瘍体積値を評価した。
【0038】
この統計学的方法は、生物学的事象に関連したデータの自然のばらつきがあるこの種の実験の評価に特に相応しい。
【0039】
p値は、サンプルから算出した実際の値に関連した確率を表し、帰無仮説を確認する統計量(stadigraph)及び実際のデータによって算出されたα値(有意性)の近似を規定できるようにする(p>0.05)。
【0040】
結果を図1及び表1に示す。
【0041】
【表1】


a: 第2群対第1群の比較の結果としてのp値
b: 第4群対第3群の比較の結果としてのp値
c: 第5群対第3群の比較の結果としてのp値
【0042】
図1及び表1から、本発明の対象である組成物を皮下にワクチン接種した第5群のマウスが、他の実験群及び対応する対象と比べて腫瘍体積の有意な増大を示していることがわかる。
【0043】
生存度
このパラメーターは、MB16と同程度に致死的な腫瘍に対して、ワクチン接種が、免疫感作した動物の寿命を延長する能力を評価するものである。このパラメーターは、未処理動物の生存度と比較した日数で測定される。たとえば、有意性では、Log−Rank検定を使用している。
【0044】
得られた値を図2及び表2に示す。表2において、基準群Xという句は、各欄と比較される群を意味する。
【0045】
【表2】

【0046】
これらの結果は、本発明の対象の製剤を皮下にワクチン接種した第5群に含めたマウスが、腫瘍接種後最も長い生存を示したことが実証するものであった。
【0047】
経過期間
経過期間は、接種した瞬間から測定した、各動物の腫瘍がはっきりとわかるようになるのにかかる期間を個々に評価するパラメーターである。表3に結果を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
実験を終えた時点で腫瘍ができていなかったマウスについては、経過期間を60日間とみなした。
【0050】
経過期間が延長される影響は、癌に対するワクチンにおいて有意差を得るのに非常に望ましいパラメーターであることは明らかであり、表3で観察される結果によれば、本発明の対象であるVSSP組成物を皮下にワクチン接種した第5群の動物が、より関連性のある陽性の結果を示した。
【0051】
腫瘍の退縮
第4及び第5群では、アジュバントを含む又は含まない皮下ワクチン接種に対応して、腫瘍退縮のある動物が観察された。第4群の動物では、接種19日目には腫瘍が測定可能であり、事実上35日まで成長がないままであり、陰性であることがわかった。第5群のマウスでは、接種26日目に触診によって腫瘍の存在が示され、29日目に陰性であると報告された。
【0052】
全体としての評価
実験結果は、本発明の対象のワクチン組成物は、PBSで処理した対象群と比べて有意に生存期間及び経過期間を延長すると同時に腫瘍成長速度を減速させたことが示された。
【0053】
一方、アジュバントMontanide ISA51を含有するワクチン組成物の投与は、筋肉内投与したときに限り防御を示し、皮下投与したときには完全に効力がなかった。
【0054】
要約すれば、本発明が対象とするワクチン組成物の皮下投与は、Montanide型のアジュバントを含有するワクチン組成物の筋肉内ワクチン接種で得られた結果よりも優れた結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】異なるワクチン処置を施し、悪性腫瘍を接種した5つの群の動物における腫瘍体積の拡大を示すグラフである。
【図2】5つの群の実験動物における生存パラメーターの評価を可能にするグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VSSPに含まれる1種又は複数のガングリオシドの溶液又は水性分散液を含有し、任意の追加の免疫アジュバントなしで皮下投与によって免疫応答を刺激することのできるワクチン組成物。
【請求項2】
VSSPに含まれるガングリオシドがN−AcGM3及びN−GcGM3から選択される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
VSSPに含まれるガングリオシドがN−AcGM3である、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
ガングリオシド以外の抗原を含有しない、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
特有の免疫成分としてN−AcGM3/VSSP及び/又はN−GcGM3/VSSPを含有する、請求項2及び4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
特有の成分としてN−AcGM3/VSSPを含有する、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
請求項1から6までに記載のワクチン組成物の皮下投与を含む、免疫応答の強化を必要としている患者の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519186(P2006−519186A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501455(P2006−501455)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/CU2004/000003
【国際公開番号】WO2004/075811
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(500185689)
【Fターム(参考)】