説明

皮膚のストレス蓄積度の評価方法

【課題】ユーザーに負担を与えることなく、肌のストレスの蓄積度を評価し、さらに敏感肌かどうかを簡便かつ確実に評価することができる生化学的指標を用いた新規な評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】皮膚角層をテープストリッピング法などによって、非侵襲的に採取し、その中に含有されるHSP27の発現量を測定することでストレスの蓄積度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト皮膚のストレス蓄積度の評価方法並びに、敏感肌の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚は常に外界と接触しており、さまざまな刺激を受けている。その刺激の代表的なものは紫外線である。紫外線は、外見上は大きな変化を肌に与えていない場合であっても、皮膚細胞のDNAの切断やコラーゲンの変性などを誘発し、皮膚老化の原因となっている。紫外線は常に肌にストレスを与え続けている。また女性にとっては、洗顔や化粧といった日常的な行為も皮膚に刺激を与えており、これらの刺激が肌には潜在的なストレスとして蓄積される。そしてこれらの刺激(ストレス)に対する抵抗性がなんらかの原因で減少すると敏感肌として認識されることとなる。このような皮膚の外的刺激の蓄積度を本発明では皮膚のストレス蓄積度という。一方敏感肌とは、明らかな皮膚病変はないが不利、有害な反応が起こりやすい肌として捉えられている。そしてこのような敏感肌の原因としてストレスの蓄積が一定レベルに到達すると、肌の感受性が高まるとも言われている。また敏感肌は、健常肌より外的刺激に対する抵抗性が低く、容易に皮膚トラブルを生ずる肌とも言える。近年、敏感肌を意識する女性が増加する傾向にあり、化粧品等についてもより刺激の少ないものが要望されるようになってきている。
【0003】
化粧品の販売現場では美容専門家による問診を行い、肌ストレスの蓄積状況や敏感肌か否かを評価して肌に与えるストレス(刺激)の少ない化粧品を選択してきた。しかし近年通信販売など、化粧品専門家の不在な販売方法が普及し、このため、肌のストレス状態を見極め、また敏感肌のレベルを専門家でなくとも簡便に評価することが望まれてきた。これが可能となれば、美容専門家の問診によらずとも、ユーザーの肌のストレス状態や敏感肌であるかどうかを評価して、適切な化粧品を自ら選択することが可能となる。またユーザーの肌により適した化粧品やケミカルピーリング剤を簡単に選択することができ、それによって、皮膚の炎症等の肌トラブルや副作用を回避し、化粧品によるスキンケアやケミカルピーリングの施術等の有益性をより高めることができる。このため、問診によらずとも、皮膚の外的刺激暴露履歴(肌ストレスの蓄積度)を評価し、さらに敏感肌であるかどうかを客観的に判別する方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、皮膚に化粧料を塗布して、その後剥離してくる皮膚角層を回収して観察し、皮膚の敏感性を評価する方法が開示されている。しかしこの方法は、化粧品ごとにすべて検査しなければならず、またユーザーの肌ストレスの蓄積度は評価できない。
【0005】
特許文献2には、カプシノイドのような刺激性物質を皮膚に塗布して、敏感肌であるかどうかを評価するための方法が開示されている。しかしカプシノイドのような刺激性の強いものを用いる試験方法は、被験者にとっても好ましいものではない。
【0006】
特許文献3には、顔の角層のカルロプロテクチン存在量を測定して、敏感肌か否か評価する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献1、2は、ヒートショックプロテイン(HSP)27が界面活性剤であるソジウムラウリルサルフェート(SDS)による皮膚刺激に反応して皮膚で増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−295648号公報
【特許文献2】特開2005−296007号公報
【特許文献3】特許第4469762号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ingeborg L.A.Boxman, et.al.,ExperimentalDermatology 2002, 11:509-517
【非特許文献2】Ingeborg L.A.Boxman, et.al. British Journal of Dermatology, 2002, 146, 777-785.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、肌ストレスの蓄積度を評価し、敏感肌であるかどうかを客観的に評価する方法が望まれている。その評価方法は、外科的に皮膚を摘出する、皮膚に刺激を与える等のユーザーに負担を与える方法ではないことが望ましい。本発明は、ユーザーに負担を与えることなく、肌のストレスの蓄積度を評価し、さらに敏感肌かどうかを簡便かつ確実に評価することができる生化学的指標を用いた新規な評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の構成である。
(1)皮膚角層のヒートショックプロテイン(HSP)27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した正常なヒト皮膚のHSP27の発現量と対比することを特徴とする、ヒト皮膚のストレス蓄積度の評価方法。
(2)皮膚角層のHSP27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した正常なヒト皮膚のHSP27の発現量と対比することを特徴とする敏感肌の評価方法。
(3)皮膚角質層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層細胞におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を健常肌の皮膚角層におけるHSP27の発現量と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする(1)又は(2)記載の評価方法。
(4)被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を健常肌を有する人の前記評価対象部位の角層のHSP27の発現量と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする(1)又は(2)記載の評価方法。
(5)皮膚角層のヒートショックプロテイン(HSP)27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した標本集団の皮膚のHSP27の発現量分布と相対比較することを特徴とする、ヒト皮膚のストレス蓄積度の評価方法。
(6)皮膚角層のHSP27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した標本集団の皮膚のHSP27の発現量分布と相対比較することを特徴とする敏感肌の評価方法。
(7)被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を標本集団の前記評価対象部位の角層のHSP27の発現量分布と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする(5)又は(6)記載の評価方法。
(8)皮膚の角層を採取する工程がテープストリッピング法によるものである(3)、(4)又は(7)のいずれかに記載の評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の評価方法によれば、肌ストレスの蓄積度を角層におけるHSP27の発現量を測定することで評価できる。またこのHSP27存在量を指標として、簡便に肌が敏感肌であるかどうかを評価できる。さらに、本発明の評価方法は、テープストリッピング法など簡便な操作方法で評価試料を採取するため、被験者の負担が少なく、だれでも簡単に評価することが可能となる。また生化学的な試験方法であり、誰が測定しても同一の結果が得られるため、従来のような専門家の面談方式によるカウンセリングが必要なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】紫外線照射によるストレス負荷の蓄積が角層におけるHSP27の発現量の増加に反映されることを示した図である。
【図2】SDSによる低刺激のストレス負荷がヒト角層におけるHSP27の発現量の増加に反映されることを示した図である。
【図3】敏感肌であるアトピー性患者の正常皮膚と炎症皮膚の角層のHSP27の存在量を測定した図である。アトピー性患者では正常な皮膚にもストレス蓄積がされていることを確認した図である。
【図4】健常人の各種部位の皮膚中のHSP27をELISA法によって測定した結果を示す図である。ストレスに日常的に晒されている部位ほどHSP27の測定値が高い。
【図5】標本集団のHSP27発現量のヒストグラム。
【図6】肌の敏感性のアンケート結果とHSP27量との関係。
【図7】屋外活動経験のアンケート結果とHSP27量との関係。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の評価方法は、皮膚角層におけるHSP27の存在量を指標とすることを特徴としている。
HSP27とは一連のヒートショック蛋白質ファミリーの一つとして知られている分子量27KDの蛋白質で分子シャペロンとしての機能を有している。免疫ストレスにともなって皮膚での遺伝子発現が増加することが知られている。
【0015】
本発明における敏感肌とは、明らかな皮膚病変はないが不利、有害な反応が起こりやすい肌をいう。また、健常肌より外界刺激に対する抵抗性が低く、容易に皮膚トラブルを生ずる肌とも言える。一方、健常肌とは、上記のような敏感肌の性質を示さない健康で正常な肌である。敏感肌においては、経皮水分蒸散量(TEWL)が高くなる、高周波伝導度(角層水分量)が低くなる等の傾向があることが知られている。また、敏感肌では、かぶれや肌荒れが起こる場合がある。
【0016】
角層は、皮膚の一番上にある組織であり、体の外からの異物や刺激から皮膚を守る働きを有している。
【0017】
本発明における評価対象部位は、角層が入手できる部分であれば、いかなる部位をも包含しうるが、主な部位としては顔面、頚部、上腕部を挙げることができる。従来の方法に従い、これらの部位の皮膚由来の角層を得ることができる。しかし、前述のように、外科的に皮膚を摘出する等の方法は、ユーザーに負担を与えるため、テープストリッピング、擦過等の簡便に角層を得られる方法が好ましい。
【0018】
こうして用意した各試料におけるHSP27の発現量は、従来から知られている方法で測定することができる。例えば、HSP27に対する抗体との反応に基づくエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロッティング等の方法を用いることができる。
【0019】
各試料からHSP27をそれ自体既知の生化学的方法、たとえば凍結融解法、超音波破砕法、ホモジュネート法等を介して可溶性画分を調製する。抽出後、速やかに測定する。
【0020】
ストレスが蓄積された肌や敏感肌は、健常肌にくらべて角層におけるHSP27の発現量が有意に高いため、角層におけるHSP27の発現量の多寡を指標として、簡便にストレスの蓄積度又は肌が敏感肌であるかどうかを評価できる。本発明に用いる角層は、テープストリッピングといった角層の表層部分のみを角質テープで採取する簡単な方法で採取することができる。また、本発明は、皮膚に紫外線や化学物質等の刺激を与えることなくHSP27の発現量を測定できる。このため、ユーザーに負担を与えることなく、ユーザーの肌が敏感肌であるかどうかを評価することができる。特に、ユーザーの肌により適した化粧品やケミカルピーリング剤を簡単に選択することができ、それによって、皮膚の炎症等の肌トラブルや副作用を回避し、化粧品によるスキンケアや有益性をより発揮させることができる。
【0021】
本発明の評価方法は、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を健常肌の角層におけるHSP27の発現量と比較する比較工程から構成される。または、本発明の評価方法は、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を標本集団の角層におけるHSP27の発現量の分布と比較する比較工程から構成される。以下にこの評価方法について説明する。
【0022】
まず、上記のようにして測定されたHSP27の発現量を健常肌の角層におけるHSP27の発現量と比較する。また、被験者のある評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量を測定し、測定されたHSP27の発現量を、健常肌を有する人の同一評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量と比較してもよい。健常肌を有する人の角層のHSP27の発現量は、複数人の健常肌を有する人からのデータの平均値を使用することによって、より客観的な評価ができる。
または、被験者のある評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量を測定し、測定されたHSP27の発現量を、標本集団の同一評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量の分布と比較してもよい。標本集団のHSP27の発現量の分布を使用することによって、より客観的な評価ができる。
【0023】
このように比較した結果、測定されたHSP27の発現量が、健常肌のHSP27の発現量より有意に大きい場合、または、標本集団のHSP27の発現量分布と比較して、HSP27の発現量が大きいと判断される場合には、ストレスの蓄積が大きいと評価し、さらに敏感肌である可能性が高いと評価することができる。この健常肌の試料は、HSP27を測定する者から採取してもよく、HSP27を測定する者と異なる者から採取してもよい。また、この標本集団は、統計的に有効な規模で、無作為に抽出することが好ましいが、目的に応じて、例えば、性別、年齢別に標本集団を抽出することも好ましい。
【0024】
また、被験者のある評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量が、健常肌を有する人の同一評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量より有意に大きい場合、または、標本集団の同一評価対象部位の角層におけるHSP27の発現量分布と比較して、HSP27の発現量が大きいと判断される場合にも、ストレスの蓄積が大きいと評価する。またこの数値が顕著に高い場合に敏感肌を有すると評価する。
【0025】
すなわちストレス蓄積が高いと評価する場合、測定されるHSP27の発現量の程度により、ストレスの蓄積度合の程度を評価できる。測定されるHSP27の発現量が健常肌のそれ、または、標本集団の発現量分布と比較して著しく多いと判断される場合は、その肌は、敏感肌の性質を強く示し、健常肌または、標本集団の平均より外界刺激に対する抵抗性が顕著に低く、きわめて容易に皮膚トラブルを生ずる可能性が高い。また、測定されるHSP27の発現量が健常肌のそれと比較して少量だけ増加している場合、または、測定されるHSP27の発現量が標本集団のその発現量分布と比較して、平均値より少し大きいと判断される場合は、その肌は、ストレスの蓄積が標本集団の平均値よりあるが、外界刺激に対する抵抗性が低く皮膚トラブルを生ずるという敏感肌に達していないと評価できる。
【0026】
以下、具体的な実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(実験1)紫外線照射による皮膚ストレス蓄積度の試験
(1)紫外線によるストレス負荷
健康な男10名を被験者として試験を実施した。
紫外線照射装置として、Multiple Solar Ultraviolet Simulator Model 601(ソーラーライト社製)を用い、光源に150Wキセノンランプを使用した。被験者の背部皮膚に、色素沈着を誘導するような紅斑が出るように照射強度を調整し、170秒間紫外線(UVB)を照射した。なお、紫外線照射部位と非照射部位とを比較することで、紫外線によるストレス蓄積を確認した。人工紫外線照射前及び照射から5、11、17日目にテープストリッピング法(角層チェッカー:アサヒバイオメッド)により皮膚角層サンプルを採取した。
【0028】
(2)皮膚角層中タンパク抽出方法
ホモジナイズ用チューブに0.1%SDS/PBS(-)200ulを採取し、これに上記テープストリッピングした角層チェッカーを入れ、ホモジナイゼーション用ペッスルを用いて粘着面を擦ることによりテープより角層からタンパクを抽出した。
【0029】
(3)皮膚角層タンパクの定量
角層抽出液中に含まれるタンパク量はDC Protein Assay Kit (Bio-Rad製)にて定量した。
【0030】
(4)ウエスタンブロット法によるHSP27の定量
1.5μgの角層タンパクをXP PANTERA Gel(5-20%グラジェントゲル:DRC社製)を用いてSDS-PAGEによって分離後、タンパク質をPVDF膜に転写し、StartingBlock Blocking Buffer(Thermo Scientific社製)にてブロッキングを行った。1次抗体(HSP27 Polyclonal Antibody:Stressgen社製)を1000倍希釈、2次抗体(Goat anti-mouse IgG:invitrogen社製)を10000倍希釈で反応させた後、ECLplus(BD Bioscience社製)を用いて、LAS-4000mini(フジフィルム社製)で検出を行った。得られたバンドの発光強度はScience Lab 2004 Multi Gauge(フジフィルム社製)にて数値化を行った。あらかじめ遺伝子組み換えHSP27タンパク質を標準品として作成した検量線により、発光シグナルの強度をHSP27のタンパク質量として読み取って評価を行った。
【0031】
(5)結果
紫外線による刺激(ストレス)を与えた被験者の角層のHSP27量の測定結果を表1、図1にしめす。紫外線が長期間にわたって皮膚にストレスを蓄積させることを確認した。
【0032】
【表1】

【0033】
紫外線照射により皮膚に紅斑が発生し、HSP27は経日的に増加した。これは刺激が持続し、その結果ストレスが蓄積されていったものと評価した。
【実施例2】
【0034】
(実験2)ソジウムドデシルサルフエート(SDS)による低刺激のストレス蓄積試験
皮膚のHSP27を増加させることが知られている界面活性剤SDSの刺激がストレスとして蓄積されることを確認するため健常肌の男女8名を対象として以下の試験を行った。
【0035】
(1)ストレスの負荷
1日4回1時間おきに2日間、左前腕内側部を10%SDS水溶液で洗浄して肌荒れ(ストレス状態)を作成した。なお同一人の右前腕を水のみで洗浄し、対照とした。また、左前腕が、水分蒸散量が処理前と比較して上昇していることを確認後に以下の測定を開始した。
【0036】
(2)試料の採取と水分蒸散量の測定
肌荒れ処理後(0日目)、翌日、3日目、5日目、7日目、14日目に水分蒸散量を測定するとともにテープストリッピング法によって角層サンプルを採取した。なお、14日目においても水分蒸散量の測定値が、肌荒れ処理前の測定値まで戻らなかった場合は21日目、28日目まで測定を延長した。
なお、水分蒸散量の測定は、Courage&Khazaka社製テバメーターで測定した。角層は角層チェッカー(アサヒバイオメッド)により採取した。
【0037】
(3)皮膚角層中タンパク抽出方法
実験1と同様に、ホモジナイズ用チューブに0.1%SDS/PBS(-)200ulを採取し、これに上記テープストリッピングした角層チェッカーを入れ、ホモジナイゼーション用ペッスルを用いて粘着面を擦ることによりテープより角層からタンパクを抽出した。
【0038】
(4)皮膚角層タンパクの定量
角層抽出液中に含まれるタンパク量はDC Protein Assay Kit(Bio-Rad製)にて定量した。
【0039】
(5)ウエスタンブロット法によるHSP27の定量
1.5μgの角層タンパクをXP PANTERA Gel(5-20%グラジェントゲル:DRC社製)を用いてSDS-PAGEによって分離後、タンパク質をPVDF膜に転写し、StartingBlock Blocking Buffer(Thermo Scientific社製)にてブロッキングを行った。1次抗体(Hsp27 PolyclonalAntibody:Stressgen社製)を1000倍希釈、2次抗体(Goat anti-mouse IgG:invitrogen社製)を10000倍希釈で反応させた後、ECLplus(BD Bioscience社製)を用いて、LAS-4000mini(フジフィルム社製)で検出を行った。得られたバンドの発光強度はScience Lab 2004 Multi Gauge(フジフィルム社製)にて数値化を行った。あらかじめ遺伝子組み換えHSP27蛋白質を標準品として作成した検量線により、発光シグナルの強度をHSP27のタンパク質量として読み取って評価を行った。
【0040】
(6)結果
SDS洗浄による刺激(ストレス)を与えた被験者の角層、並びに対照のHSP27量の測定結果を表2、図2に示す。またあわせて水分蒸散量の変化を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
SDS洗浄による皮膚水分の蒸散は、1日目でピークに達し徐々に回復してゆくが、HSP27は14日目まで増加する。これは皮膚のストレスが蓄積されていったものと評価した。
【0043】
(実験3)アトピー性皮膚炎患者のストレス蓄積度の評価
アトピー性皮膚炎患者は、皮膚が常に外界からの刺激を受け続けており、皮膚は常にストレス状態にある。このような状態にある患者の皮膚ストレスの蓄積度を測定した。
(1)皮膚角層採取方法
アトピー性皮膚炎であると診断された女性患者4名の皮膚炎を呈している頚部皮膚より角質チェッカー(2.5cm×2.5cm:アサヒバイオメッド製)を用い、テープストリッピングを行い、角層を採取した。また皮膚炎症状を呈していない上腕部皮膚からも同様にしてサンプリングを行った。
【0044】
同様にして、健常な女性3名の頚部皮膚、上腕部皮膚からもサンプリングを行い対照とした。
【0045】
(2)皮膚角層中タンパク抽出方法
ホモジナイズ用チューブに1%SDS/PBS(-)200ulを採取し、これに上記テープストリッピングした角層チェッカーを入れ、ホモジナイゼーション用ペッスルで粘着面を擦ることによりテープ上の角層からタンパクを抽出した。
【0046】
(3)皮膚角層タンパクの定量
角層抽出液中に含まれるタンパク量はDC Protein Assay Kit(Bio-Rad製)にて定量した。
【0047】
(4)ウエスタンブロット法によるHSP27の定量
1.5μgの角層タンパクをXP PANTERA Gel(5-20%グラジェントゲル:DRC社製)を用いてSDS-PAGEによって分離後、タンパク質をPVDF膜に転写し、StartingBlock Blocking Buffer(Thermo Scientific社製)にてブロッキングを行った。1次抗体(Hsp27 Polyclonal Antibody:Stressgen社製)を1000倍希釈、2次抗体(Goat anti-mouse IgG:invitrogen社製)を10000倍希釈で反応させた後、ECLplus(BD Bioscience社製)を用いて、LAS-4000mini(フジフィルム社製)で検出を行った。得られたバンドの発光強度はScience Lab 2004 Multi Gauge(フジフィルム社製)にて数値化を行った。発光シグナルの強度をHSP27の相対量として評価を行った。
【0048】
(5)結果
アトピー性皮膚炎患者並びに健常人の皮膚角層のHSP27量の測定結果を表3、図3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3、図3から明らかなように、健常人のHSP27は角層中にはほとんど存在しないが、アトピー性皮膚炎患者の患部皮膚からは高濃度にHSP27が検出された。またアトピー性皮膚炎患者の正常皮膚からは、皮膚炎を呈している部位ほどではないが、健常人に比して高濃度にHSP27が検出された。以上の結果から、常時ストレスを受けているアトピー性皮膚炎患者の皮膚はストレスが蓄積されていることがわかる。またアトピー性皮膚炎の患部ではない皮膚も相対的にはHSP27が高いことが確認できた。以上の結果から、敏感肌の指標としてもHSP27を測定することが有用であることが確認できた。
【実施例3】
【0051】
(実験3)外界のストレスを常に受けている顔面と比較的ストレスを受けていない前腕部や臀部皮膚のHSP27を測定し、皮膚に蓄積されているストレスの程度を評価した。
【0052】
試験方法
(1)試料の採取
健常な女性8名より、頬、あご下、前腕、臀部よりテープストリッピング法によって角層サンプルを採取した。1部位より4枚採取した。
【0053】
(2)皮膚角層中タンパク抽出方法
ホモジナイズ用チューブに0.5%chapsバッファー400μlを入れ、これに上記テープストリッピングした角層チェッカーを入れ、ホモジナイゼーションによりテープより角層からタンパクを抽出した。1部位から採取した4枚をまとめて1本のチューブで抽出し、1サンプルとした。
【0054】
(3)皮膚角層タンパクの定量
角層抽出液中に含まれるタンパク量はDC Protein Assay Kit(Bio-Rad製)にて定量した。
【0055】
(4)ELISA法によるHSP27の定量
角層抽出液中に含まれるHSP27量はTotal human HSP27 DuoSet ELISA kit(R&D systems製)にて測定した。結果を単位タンパク量当たりのHSP27量として表4、図4に示した。なお表記は平均値±S.E.で示した。
【0056】
【表4】

【0057】
表4、図4の結果から明らかなように、HSP27の測定結果は日常的なストレスの高い顔面(頬)で特に高く、露出の少ない臀部では顕著に低かった。以上の結果からHSP27は皮膚の日常的なストレスを評価する指標とすることができることが明らかとなった。
【実施例4】
【0058】
(実験4)標本集団の角層のHSP27を測定し、ヒストグラムを作成した。
【0059】
試験方法
(1)試験試料の採取
無作為に選抜した女性445名を対象として、頬よりテープストリッピング法によって角層サンプルを採取した。サンプルは1部位より1枚採取した。
【0060】
(2)皮膚角層中タンパク抽出方法
ホモジナイズ用チューブにRIPAバッファー500ulを入れ、これに上記テープストリッピングした角層チェッカーを入れ、ホモジナイゼーションによりテープより角層からタンパクを抽出した(抽出液A)。更に、抽出後の角層チェッカーを、別のホモジナイズ用チューブに移し、1%SDS含有50mMトリス塩酸バッファー500μlを入れ、ホモジナイゼーションによりテープに残った角層からタンパクを抽出した(抽出液B)。抽出液AはHSP27の定量および角層タンパクの定量に用い、抽出液Bは角層タンパクの定量に用いた。
【0061】
(3)皮膚角層タンパクの定量
角層抽出液中に含まれるタンパク量はBCA protein assay(Pierce製)にて定量した。抽出液Aと抽出液Bのタンパク量の合計をtotal protein量とした。
【0062】
(4)ELISA法によるHSP27の定量
角層抽出液中に含まれるHSP27量はTotal human HSP27 DuoSet ELISA kit(R&D systems製)にて測定した。結果は単位タンパク量当たりのHSP27量にて解析した。標本集団のHSP27発現量の度数分布表を表5に、ヒストグラムを図5に示した。
【0063】
【表5】

【0064】
表5、図5に示したとおり、HSP27の発現量は、0.4pg/μg total proteinから50pg/μg total proteinを超える値までの広い範囲で分布している。平均値は15.0pg/μg total proteinであった。この度数分布と比較して、HSP27の発現量が大きいと判断する基準は、自由に設定することが可能であるが、例えば、平均値15.0pg/μg total protein 以上の値をHSP27の発現量が大きいと判断しても良いし、10.0pg/μg total proteinの累積度数が約50%なので、10.0pg/μg total protein を超える値を、HSP27の発現量が大きいと判断しても良いと考える。いずれにしても、HSP27の発現量が大きいほど、ヒト皮膚のストレス蓄積度は大きいと判断できる。
尚、実験4のHSP27の発現量は、実験3の頬部のHSP27の発現量の1/10であるが、これは、実験4のタンパク抽出方法では、HSP27を含むタンパク質を抽出した後に、1%SDS含有50mMトリス塩酸バッファーを用いて角層のタンパク質を抽出しており、実験3と比べて実験4の全タンパク質の検出量が増加したことが原因である。実験3、実験4ともにHSP27を抽出する工程には差がなく、HSP27は溶解性が高いため、当該工程で十分に抽出される。一方、実験4で追加した、SDSによる抽出方法によりタンパク質のほぼ全量を抽出することができるが、当該抽出液中のHSP27を測定することはできない。実験3と実験4の抽出工程が異なるため、実験3と実験4のデータを比較することはできないが、実験3のデータ間の比較、実験4のデータ間の比較は可能である。
【実施例5】
【0065】
(実験5)ヒト皮膚のストレス蓄積度に関するアンケート結果と、HSP27量の対比
実験4の標本集団から、無作為に189名を抽出し、ヒト皮膚のストレス蓄積度に関するアンケートを実施し、その結果とHSP27の発現量を対比した。
【0066】
(1)肌の敏感性のアンケート
被験者に、被験者の肌が、「非敏感」、「やや敏感」、「敏感」の3種類のうちのいずれであるか選択させた。
下記敏感性の10の要因を被験者に提示し、非敏感(敏感ではない)、やや敏感(やや敏感である)、敏感(敏感である)のいずれに該当するか被験者に自己判断させた。
1 化粧品を使って赤みやかゆみを感じることがある
2 清涼感の高い(スーッした)化粧品が肌にあわないことがある
3 エタノールが入った化粧品が肌にあわないことがある
4 香水や香料が入った化粧品が肌に合わないことがある
5 肌が弱いので化粧品を慎重に選んでいる
6 マッサージなど物理的な刺激によって肌の状態が悪くなることがある
7 普段の生活でも紫外線を浴びたりすると肌が赤くなったり、ヒリヒリしやすい
8 汗をかいた後にかゆみがでることがある
9 化粧品や洗剤があわずに赤みやかゆみがでる
10 化粧品の肌トラブルにより通院した経験がある
「敏感」を選択する者は、ヒト皮膚のストレス蓄積度が高く、「非敏感」を選択する者はヒト皮膚のストレス蓄積度が低いと予想した。
【0067】
(2)肌の敏感性のアンケート結果とHSP27量の関係
肌の敏感性のアンケート結果とHSP27量の関係を表6、図6に示す。
【0068】
【表6】

HSP27量10.0pg/μg total proteinを基準として、基準値より低い人はヒト皮膚のストレス蓄積度が低く、基準値より高い人はヒト皮膚のストレス蓄積度が高いと判定すると、被験者の自覚と対応する傾向にある。
【0069】
(3)屋外活動経験のアンケート
被験者に、屋外活動経験について、「あり」、「なし」のうちでいずれかを選択させた。
屋外活動として、スポーツやガーデニングを例示した。
屋外活動経験「あり」と回答するものはヒト皮膚のストレス蓄積度が高く、「なし」と回答するものはヒト皮膚のストレス蓄積度が低いと予想した。
【0070】
(3)屋外活動経験のアンケート結果とHSP27量との関係
屋外活動経験のアンケート結果とHSP27量との関係を表7、図7に示す。
【0071】
【表7】

HSP27量10〜15pg/μg total proteinのあたりを基準として、基準値より低い人はヒト皮膚のストレス蓄積度が低く、基準値より高い人はヒト皮膚のストレス蓄積度が高いと判定すると、被験者の屋外紫外線によるストレス蓄積度と対応する傾向にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚角層のヒートショックプロテイン(HSP)27の発現量をあらかじめ測定した正常なヒト皮膚のHSP27の発現量と対比することを特徴とする、ヒト皮膚のストレス蓄積度の評価方法。
【請求項2】
皮膚角層のHSP27の発現量をあらかじめ測定した正常なヒト皮膚のHSP27の発現量と対比することを特徴とする敏感肌の評価方法。
【請求項3】
皮膚角質層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層細胞におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を健常肌の皮膚角層におけるHSP27の発現量と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項4】
被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を健常肌を有する人の前記評価対象部位の角層のHSP27の発現量と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項5】
皮膚角層のヒートショックプロテイン(HSP)27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した標本集団の皮膚のHSP27の発現量分布と相対比較することを特徴とする、ヒト皮膚のストレス蓄積度の評価方法。
【請求項6】
皮膚角層のHSP27の発現量をあらかじめ又は同時に測定した標本集団の皮膚のHSP27の発現量分布と相対比較することを特徴とする敏感肌の評価方法。
【請求項7】
被験者の評価対象部位の角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるHSP27の発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたHSP27の発現量を標本集団の前記評価対象部位の角層のHSP27の発現量分布と比較する比較工程と、を備えたことを特徴とする請求項5又は6記載の評価方法。
【請求項8】
皮膚の角層を採取する工程がテープストリッピング法によるものである請求項3、4又は7のいずれかに記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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