説明

皮膚切除具

【解決手段】円環状の刃先縁6を有する刃筒部5を柄1の先端部に設けている。刃筒部5内に押出体9を軸線方向Cへ移動可能に挿通している。押出体9の先端部に設けた押接部12は、刃先縁6から内側へ離間する後退位置と、その後退位置から刃先縁6側へ移動した前進位置Fとを取り得る。その前進位置Fで押出体9の押接部12が刃先縁6から外側へ突出する。押出体9を後退位置と前進位置Fとの間で移動させることができ、その後退位置及び前進位置Fをそれぞれ保持することができる。
【効果】押出体9を前進位置Fで保持した状態で、その押接部12に付着したままの採取片を容易に取り出すことができる。前進位置Fで刃先縁6から突出する押接部12により、刃先縁6に物が直接当たりにくくなってその刃先縁6の損傷を防止し、刃先縁6を保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査等のために皮膚の一部を切除する皮膚切除具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1においては、図3(a)、図3(b)及び図3(c)の状態を経て、刃筒1内で採取刃3の両採取端縁19に採取片Eを保持した後、図3(d)に示すように、操作体7を押出体5とともに圧縮コイルばね6の弾性力に抗して押し下げると、押出体5の押接部5aは、刃筒1の採取口部11から突出し、採取片Eを両採取端縁19から離して採取口部11の外側へ押し出す。
【特許文献1】特開2000−126196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記操作体7を不用意に離すと、圧縮コイルばね6の弾性力により押出体5が刃筒1の採取口部11から没入して図3(c)の状態に戻るため、採取片Eが押出体5の押接部5aから離れずにその押接部5aに付着したままであると、その採取片Eが刃筒1の採取口部11内に戻ってしまうおそれがあった。そのため、再度、操作体7を押出体5とともに圧縮コイルばね6の弾性力に抗して強制的に押し下げる必要があった。従って、操作体7を強制的に押し下げた状態を維持したまま、押出体5の押接部5aに付着したままの採取片Eを取り出さねばならず、採取片Eの採取が面倒であった。
【0004】
この発明は、押出体付きの皮膚切除具において採取片の採取を容易にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
後記実施形態の図面(図1〜3に示す第1実施形態、図4〜5に示す第2実施形態、図6に示す第2実施形態の別例)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明にかかる皮膚切除具は、第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応し、下記のように構成されている。
【0006】
この皮膚切除具においては、環状の刃先縁(6)を有する刃筒部(5)を柄(1)の先端部に設けるとともに、この刃筒部(5)内に押出体(9)を軸線方向(C)へ移動可能に挿通し、この押出体(9)の先端部に設けた押接部(12)が刃筒部(5)の刃先縁(6)から内側へ離間する後退位置(B)と、その後退位置(B)から刃筒部(5)の刃先縁(6)側へ移動した前進位置(F)とを取り得るようにした。この皮膚切除具は、この押出体(9)を後退位置(B)と前進位置(F)との間で移動させる操作手段(10,11)のほかに、この押出体(9)の前進位置(F)を保持する前進位置保持手段(21,22,26a)(30,3a)(11,34a)を備えている。
【0007】
請求項1の発明では、採取片(SE)が押出体(9)の押接部(12)から離れずにその押接部(12)に付着したままの状態であっても、押出体(9)が前進位置(F)で保持されるので、その押接部(12)に付着したままの採取片(SE)を容易に取り出すことができる。
【0008】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記押出体(9)の押接部(12)はその前進位置(F)で前記刃筒部(5)の刃先縁(6)から外側へ突出する。請求項2の発明では、前進位置(F)で刃先縁(6)から突出する押接部(12)に対し物が刃先縁(6)よりも先に当たり易くなり、刃先縁(6)に物が直接当たりにくくなってその刃先縁(6)の損傷を防止し、刃先縁(6)を保護することができるとともに、押接部(12)に付着したままの採取片(SE)をより一層容易に取り出すことができる。ちなみに、第10の発明にかかる隙間(G)が小さいほど、刃先縁(6)に物が直接当たりにくくなってその刃先縁(6)の損傷をより一層防止することができる。
【0009】
請求項1または請求項2の発明を前提とする請求項3の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記操作手段は、前記柄(1)の内側で前記押出体(9)とともに移動し得る可動体(10)と、この柄(1)から外側へ露出する操作体(11)とを備え、この操作体(11)によりこの可動体(10)を押出体(9)とともに移動させ得る。請求項3の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【0010】
請求項3の発明を前提とする請求項4の発明(第1実施形態に対応)において、前記操作手段は、押出体(9)を前進位置(F)から後退位置(B)へ移動させるように可動体(10)を付勢する弾性体(16)を備え、この弾性体(16)の弾性力に抗してこの可動体(10)を移動させて押出体(9)を後退位置(B)から前進位置(F)へ移動させる。請求項4の発明では、押出体(9)の移動操作が行い易くなる。
【0011】
請求項3または請求項4の発明を前提とする請求項5の発明(第1実施形態と第2実施形態の別例とに対応)で、前記前進位置保持手段においては、前記押出体(9)が前進位置(F)から後退位置(B)へ移動するのを規制するように可動体(10)の移動経路上で互いに当接し得る係止部(21,26a)(11,34a)を可動体(10)と柄(1)とに設けるとともに、この柄(1)の係止部(26a)(34a)に対する可動体(10)の係止部(21)(11)の当接を不能にする係止解除部(22)(11)を可動体(10)に設けた。請求項5の発明では、簡単な構造の前進位置保持手段となる。
【0012】
請求項3の発明を前提とする請求項6の発明(第2実施形態に対応)で、前記前進位置保持手段においては、前記押出体(9)が前進位置(F)から後退位置(B)へ移動するのを規制するように柄(1)に対する可動体(10)の接触移動抵抗力を与える圧接部(30,3a)を可動体(10)と柄(1)とに設け、この可動体(10)の接触移動抵抗力に抗して可動体(10)を移動させる。請求項6の発明では、簡単な構造の前進位置保持手段となる。
【0013】
請求項1から請求項6のうちいずれかの請求項の発明を前提とする請求項7の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記押出体(9)の後退位置(B)を保持する後退位置保持手段(21,22,27a)(11,33a)を備えた。請求項7の発明では、押出体(9)の移動操作が行い易くなる。
【0014】
請求項7の発明を前提とする請求項8の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記押出体(9)及び可動体(10)は、柄(1)の基端部側に設けられた開口(7)から挿通され、前記後退位置保持手段においては、この押出体(9)及び可動体(10)が柄(1)の開口(7)から外側へ抜け出さないように可動体(10)の移動経路上で互いに当接し得る係止部(21,27a)(11,33a)を可動体(10)と柄(1)とに設けるとともに、この柄(1)の係止部(27a)(33a)に対する可動体(10)の係止部(21)(11)の当接を不能にする係止解除部(22)(11)を可動体(10)に設けた。請求項8の発明では、簡単な構造の後退位置保持手段となる。
【0015】
請求項5または請求項8の発明を前提とする請求項9の発明(第1実施形態に対応)において、前記可動体(10)の係止部(21)及び係止解除部(22)は、この可動体(10)に設けた弾性体(20)に設けられ、この弾性体(20)により可動体(10)の係止部(21)が柄(1)の係止部(26a,27a)に対し当接し得るように付勢され、この弾性体(20)の弾性力に抗して可動体(10)の係止解除部(22)を操作して柄(1)の係止部(26a,27a)に対する可動体(10)の係止部(21)の当接を不能にする。請求項9の発明では、押出体(9)の移動操作が行い易くなる。
【0016】
請求項1から請求項9のうちいずれかの請求項の発明を前提とする第10の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)においては、刃先縁(6)を含む刃筒部(5)の内周部(5a)と押出体(9)の押接部(12)の外周部(12a)とを互いに対向させた状態でその内周部(5a)と外周部(12a)との間に隙間(G)を持たせている。第10の発明では、この隙間(G)により、刃筒部(5)に対し押出体(9)を円滑に移動させることができる。
【0017】
請求項5または請求項8または請求項9の発明を前提とする第11の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記柄(1)には案内孔(25)(31)を設け、前記可動体(10)の係止部はこの案内孔(25)(31)に係入した係止突部(21)(11)であり、前記柄(1)の係止部はこの案内孔(25)(31)でこの係止突部(21)(11)が当接する内周縁部(26a,27a)(33a,34a)であり、前記可動体(10)の係止解除部はこの案内孔(25)(31)から柄(1)の外側へ露出する操作突部(22)(11)である。第11の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【0018】
請求項3の発明を前提とする第12の発明(第1実施形態と第2実施形態及びその別例とに対応)において、前記押出体(9)と可動体(10)と操作体(11)とは互いに相対移動しないように一体的に設けられている。第12の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【0019】
第12の発明を前提とする第13の発明は、第1実施形態に対応し、下記のように構成されている。
前記可動体(10)は、前記押出体(9)から一体的に延びるばね支持部(13)と、このばね支持部(13)と前記操作体(11)とを一体的につなぐ連結部(14)とを備えている。この操作体(11)は、柄(1)の基端部側に設けられた開口(7)から外側へ露出している。この可動体(10)のばね支持部(13)には、押出体(9)を前進位置(F)から後退位置(B)へ移動させるように可動体(10)を付勢するばね(16)を柄(1)との間で支持し、このばね(16)の弾性力に抗してこの可動体(10)を移動させて押出体(9)を後退位置(B)から前進位置(F)へ移動させる。第13の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【0020】
第13の発明を前提とする第14の発明は、第1実施形態に対応し、下記のように構成されている。
前記可動体(10)の連結部(14)にはばね(20)を設けている。請求項5または請求項8の発明に記載した可動体(10)の係止部(21)及び係止解除部(22)は、このばね(20)に設けられ、このばね(20)により可動体(10)の係止部(21)が柄(1)の係止部(26a,27a)に対し当接し得るように付勢され、このばね(20)の弾性力に抗して可動体(10)の係止解除部(22)を操作して柄(1)の係止部(26a,27a)に対する可動体(10)の係止部(21)の当接を不能にする。第14の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【0021】
第14の発明を前提とする第15の発明(第1実施形態に対応)において、前記連結部(14)のばねは、片持ち梁状の板ばね(20)であって、前記可動体(10)のばね支持部(13)側を固定端とし、前記操作体(11)側を自由端としている。第15の発明では、簡単な構造の操作手段となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、押出体(9)付きの皮膚切除具において採取片(SE)の採取を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明の第1実施形態に係る皮膚切除具について図1〜3を参照して説明する。
柄1においては、プラスチックからなる柄本体2が上半筒部3と下半筒部4とを備え、この下半筒部4の先端部に、金属からなる刃筒部5が挿着されてその先端部から突出し、その刃筒部5の先端部には円環状の刃先縁6が形成されている。なお、この刃先縁6については、円周全体で連続する円環でなくてもよく、刃筒部5の軸線方向Cでスリットによる割れがあってもよい。この柄本体2の上半筒部3の基端部側で開放された開口7から押出部材8が柄本体2内に挿入されている。この押出部材8は、プラスチックにより一体に成形され、押出体9と可動体10(操作手段)と操作体11(操作手段)とからなる。
【0024】
前記押出体9は、細長い棒状をなし、先端部に円柱状の押接部12を有し、前記柄本体2の下半筒部4内に挿通されている。この押出体9の押接部12は刃筒部5内に挿通され、図3(c)に示すように刃先縁6を含む刃筒部5の内周部5aと押出体9の押接部12の外周部12aとを互いに対向させた状態でその内周部5aと外周部12aとの間に僅かな隙間Gを持たせている。前記可動体10は、前記柄本体2の上半筒部3内に挿通され、この押出体9につながれたばね支持部13と、このばね支持部13と前記操作体11とをつなぐ連結部14とを備えている。この操作体11は、柄本体2の上半筒部3の開口7から外側へ露出している。この隙間Gについては、0.01mm〜5mm、特に0.03mm〜1mmに設定することが好ましい。
【0025】
前記可動体10のばね支持部13においては、前記押出体9の基端部から一体に延びる軸部15の外周に圧縮コイルばね16(弾性体)が巻装され、前記可動体10の連結部14との境界部に形成された段差部17にこの圧縮コイルばね16の一端部が支持されているとともに、柄本体2で上半筒部3と下半筒部4との間の境界部に形成された段差部18にこの圧縮コイルばね16の他端部が支持されている。
【0026】
前記可動体10の連結部14においては、前記ばね支持部13の軸部15と操作体11とを一体に連結する架橋部19のほかに、ばね支持部13側の固定端と操作体11側の自由端とを有する片持ち梁状の板ばね20(弾性体)がこの架橋部19と並んで形成されている。この板ばね20においては、自由端側に係止突部21が形成され、自由端と固定端との間の中間部に操作突部22が形成されている。この板ばね20については、架橋部19の先端側と基端側とにつながる両持ち梁状のものであってもよい。この可動体10の操作突部22に代えて、柄本体2の上半筒部3にこの板ばね20を押す操作突部(図示せず)を設けてもよい。
【0027】
前記柄本体2の上半筒部3は、前記可動体10のばね支持部13を囲う把持筒部23と、前記可動体10の連結部14を囲う操作筒部24とに区分されている。この上半筒部3の操作筒部24には前記連結部14の板ばね20に面する案内孔25が形成されている。この案内孔25内には先端側長孔26と基端側長孔27とに分ける区画部28が形成されている。前記板ばね20上の係止突部21はこの先端側長孔26と基端側長孔27とのうちいずれかのものに係入されて操作筒部24の外側へ突出し、前記板ばね20上の操作突部22はこの先端側長孔26に係入されて操作筒部24の外側へ突出している。
【0028】
図1(a)(b)に示す押出体9の没入状態Pにおいては、圧縮コイルばね16の弾性力により押出部材8の全体が柄本体2の基端側へ付勢されるため、板ばね20上の操作突部22(後退位置保持手段の係止解除部)が先端側長孔26に沿って基端側へ移動するとともに、板ばね20上の係止突部21(後退位置保持手段の係止部)が基端側長孔27に係入されてその内周縁部27aの基端部(後退位置保持手段の係止部)に可動体10の移動経路上で当接し、操作体11が柄本体2の上半筒部3の開口7から突出する。その没入状態Pで、押出体9の押接部12は、刃筒部5の軸線方向Cに沿って移動し、刃筒部5の刃先縁6から内側へ没入して離間する後退位置Bで保持される。
【0029】
この没入状態Pで操作体11を押すと、押出部材8の全体が圧縮コイルばね16の弾性力に抗して柄本体2の先端側へ移動し、図2(a)(b)に示す突出状態Qとなって、板ばね20上の操作突部22(前進位置保持手段の係止解除部)が先端側長孔26に沿って先端側へ移動するとともに、板ばね20上の係止突部21(前進位置保持手段の係止部)が板ばね20の弾性力により基端側長孔27から区画部28を乗り越えた後に先端側長孔26に係入されてその内周縁部26aの基端部(前進位置保持手段の係止部)に可動体10の移動経路上で当接する。その突出状態Qで押出体9の押接部12は、刃筒部5の軸線方向Cに沿って移動し、刃筒部5の刃先縁6から外側へ突出する前進位置Fで保持される。
【0030】
この突出状態Qで板ばね20上の操作突部22を押すと、板ばね20上の係止突部21が先端側長孔26の内周縁部26aの基端部から外れてその先端側長孔26から区画部28を乗り越えた後に基端側長孔27に係入され、前記没入状態Pに戻る。
【0031】
この皮膚切除具を使用する場合、前記押出体9の没入状態Pで刃筒部5の刃先縁6を図3(a)に示すように皮膚Sに当てがって回転させた後に図3(b)に示すように皮膚Sから離すと、皮膚Sの採取片SEが刃筒部5内に残ることがある。そのため、図3(c)に示すように押出体9を前記突出状態Qにすると、刃筒部5内に残った採取片SEがこの押出体9の押接部12により刃筒部5内から押し出され、この押接部12から採取片SEを採取することができる。前記刃筒部5の内径D5は0.4mm〜50mmに設定することができるが、その内径D5が例えば5mm以下のように小さい場合には、採取片SEが刃筒部5内に残り易くなるために押出体9が有効に機能する。
【0032】
ちなみに、前記刃筒部5の内径D5を1.0mm、前記押接部12の外径D12を0.9mm、没入状態Pにある皮膚切除具の全長LPを107.3mm、突出状態Qにある皮膚切除具の全長LQを99.8mm、刃先縁6からの押接部12の突出距離MQを1.7mm、刃先縁6からの押接部12の没入距離MPを7.5mm、柄本体2の上半筒部3の外径D3を9.5mmにそれぞれ設定している。この没入距離MPについては、1mm〜(D5×10)mmまたは1mm〜50mmに設定することが好ましい。この突出距離MQについては、0.5mm〜(D5×2.5)mmまたは0.5mm〜20mmに設定することが好ましい。なお、前記刃筒部5を断面楕円環状や断面長方形環状などにした場合、上記D5はその刃筒部5の内面間の最大幅を意味する。これらの数値については用途などに応じて適宜変更することができる。
【0033】
前述したように、係止突部21と操作突部22とはそれぞれ別々に板ばね20に形成されているが、この操作突部22を省略してこの係止突部21でその操作突部を兼用してもよい。また、前記押出部材8においては、押出体9と可動体10と操作体11とがプラスチックにより一体に成形されているが、プラスチックにより一体に成形された可動体10及び操作体11とは別に押出体9を金属により成形して可動体10と一体的に連動させるようにしてもよい。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態に係る皮膚切除具について第1実施形態との相違点を中心に図4〜5を参照して説明する。この第2実施形態では、第1実施形態の可動体10及び操作体11を下記のように変更している。
【0035】
可動体10においては、押出体9の基端部から延びる軸部29の両側に片持ち梁状の板ばね30(弾性体である圧接部)が並んで形成されてこの板ばね30の先端部30aが柄本体2の上半筒部3の内周面3aに圧接されている。柄本体2の上半筒部3は先端側の把持筒部23と基端側の操作筒部24とに区分され、その操作筒部24にはこの可動体10に面する案内孔31が形成されている。この案内孔31は、刃筒部5の軸線方向Cへ延びる長孔32と、この長孔32の基端部で周方向へ延びる係止凹部33とを有している。操作体11は、前記可動体10の軸部29に突設され、この案内孔31の外側へ露出している。
【0036】
図4(a)及び図5(a)に示す押出体9の没入状態Pにおいては、操作体11(後退位置保持手段の係止部及び係止解除部)が案内孔31の係止凹部33に係入されてその内周縁部33a(後退位置保持手段の係止部)に可動体10の移動経路上で当接し、押出体9の押接部12が刃筒部5の刃先縁6から内側へ没入して離間する後退位置Bで保持される。この没入状態Pで操作体11を周方向へ回動させて案内孔31の係止凹部33から外した後に図4(b)に示すように案内孔31の長孔32に沿って先端側へ移動させると、押出部材8の全体が上半筒部3の内周面3aに対する押出体9の板ばね30の接触移動抵抗力に抗して移動し、図4(c)及び図5(b)に示すように操作体11が長孔32の内周端縁32aの先端部に当接して停止する突出状態Qとなる。その突出状態Qでは、上半筒部3の内周面3a(前進位置保持手段である圧接部)に対する押出体9の板ばね30(前進位置保持手段)の接触移動抵抗力により、押出体9の押接部12が刃筒部5の刃先縁6から外側へ突出する前進位置Fで保持される。この突出状態Qで操作体11を案内孔31の長孔32に沿って基端側へ移動させて案内孔31の係止凹部33に係入すると、前記没入状態Pに戻る。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態の別例に係る皮膚切除具について第2実施形態との相違点を中心に図6を参照して説明する。
案内孔31は、長孔32の基端部にある係止凹部33のほかに、長孔32の先端部で周方向へ延びる係止凹部34を有している。操作体11(前進位置保持手段の係止部及び係止解除部)が案内孔31の係止凹部34に係入されてその内周縁部34a(前進位置保持手段の係止部)に可動体10の移動経路上で当接すると、突出状態Qとなり、押出体9の押接部12が刃筒部5の刃先縁6から外側へ突出する前進位置Fで保持される。この突出状態Qで操作体11を周方向へ回動させて案内孔31の係止凹部34から外した後に案内孔31の長孔32に沿って基端側へ移動させると、前記没入状態Pに戻すことができる。
【0038】
前述した第1実施形態と第2実施形態及びその別例とにおいて、刃筒部5の刃先縁6の形態については、図7(a)に示すように刃筒部5の軸線方向Cに対し直交する想定平面H上に形成されているが、図7(b)に示すようにその想定平面Hに対し傾斜させたり、図7(c)に示すように波形状に形成したり、刃付け面6aを外周ばかりでなく内周に形成したりしてもよい(例えば特公平4−80694号公報参照)。
【0039】
ちなみに、請求項1中「押出体9の押接部12が後退位置Bから刃筒部5の刃先縁6側へ移動した前進位置Fを取る」との記載において「前進位置F」とは、図7(a)に示す刃先縁6の場合、前述したように、押接部12の先端面35が、刃先縁6を含む前記想定平面Hから外側へ突出した突出位置FQと、その想定平面H上にある基準位置FOと、その想定平面Hよりも内側に没入した没入位置FPとを意味する。押接部12の先端面35が突出位置FQや基準位置FOにあれば、採取片SEを取り出し易いが、その先端面35を没入位置FPにすることも可能である。その場合、想定平面Hに対する没入位置FPの没入距離Nについては、押接部12の先端面35に付着した採取片SEを容易に取り出すことができるようにその採取片SEの厚み程度の距離が好ましい。特に、採取片SEの厚みよりも若干小さい距離にすると、採取片SEが刃先縁6の外側へ若干突出するので、より一層好ましい。図7(b)に示す刃先縁6の場合の想定平面Hは傾斜する刃先縁6上の部分のうち最も外側の部分を通る面であり、図7(c)に示す刃先縁6の場合の想定平面Hは波形状をなす刃先縁6上の部分のうち最も外側の部分を通る面である。
【0040】
前記第1実施形態、第2実施形態及び第2実施形態の別例にかかる皮膚切除具において、その外面の全体または一部の色彩については、血液の色に類似する赤色系と異なる例えば緑色などを採用して、血液が外面に付着した際に血液の色と外面の色とを区別したり外面の色を血液の色と誤認しないようにすることが好ましい。
【0041】
図示しないが、操作体を柄に対し回動させると、操作体と押出体との間の雌雄ねじ機構により、押出体が刃筒部の軸線方向へ移動するようにしてもよい。また、皮膚切除具については、人体の皮膚の採取ばかりではなく、人体の臓器組織の採取や人体の眼球の角膜の採取、さらには動物の組織の採取にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は第1実施形態にかかる皮膚切除具において押出体の没入状態を示す正面図であり、(b)は同じく側面側から見た断面図である。
【図2】(a)は第1実施形態にかかる皮膚切除具において押出体の突出状態を示す正面図であり、(b)は同じく側面側から見た断面図である。
【図3】(a)(b)(c)は第1実施形態にかかる皮膚切除具により皮膚を切除する過程を示す部分拡大断面図である。
【図4】(a)は第2実施形態にかかる皮膚切除具において押出体の没入状態を示す正面図であり、(b)は同じく押出体の没入状態と押出体の突出状態との間の途中状態を示す正面図であり、(c)は同じく押出体の突出状態を示す正面図である。
【図5】(a)は図4(a)に示す没入状態を正面側から見た断面図であり、(b)は図4(c)に示す突出状態を正面側から見た断面図である。
【図6】(a)は第2実施形態の別例にかかる皮膚切除具において押出体の没入状態を示す正面図であり、(b)は同じく押出体の没入状態と押出体の突出状態との間の途中状態を示す正面図であり、(c)は同じく押出体の突出状態を示す正面図である。
【図7】(a)は第1実施形態、第2実施形態及び第2実施形態の別例にかかる皮膚切除具において刃筒部の刃先縁を示す部分拡大断面図であり、(b)(c)は刃筒部の刃先縁の別例を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…柄、3a…柄の内周面(前進位置保持手段である圧接部)、5…刃筒部、6…刃先縁、7…柄の開口、9…押出体、10…可動体(操作手段)、11…操作体(操作手段、後退位置保持手段である係止部及び係止解除部、前進位置保持手段である係止部及び係止解除部)、12…押接部、16…圧縮コイルばね(弾性体)、20…板ばね(弾性体)、21…係止突部(前進位置保持手段及び後退位置保持手段である係止部)、22…操作突部(前進位置保持手段及び後退位置保持手段である係止解除部)、26a…案内孔の内周縁部(前進位置保持手段)、27a…案内孔の内周縁部(後退位置保持手段)、30…圧接部(前進位置保持手段)、33a…案内孔の内周縁部(後退位置保持手段)、34a…案内孔の内周縁部(前進位置保持手段)、C…刃筒部の軸線方向、F…前進位置、B…後退位置、SE…採取片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の刃先縁を有する刃筒部を柄の先端部に設けるとともに、この刃筒部内に押出体を軸線方向へ移動可能に挿通し、この押出体の先端部に設けた押接部が刃筒部の刃先縁から内側へ離間する後退位置と、その後退位置から刃筒部の刃先縁側へ移動した前進位置とを取り得るようにした皮膚切除具において、この押出体を後退位置と前進位置との間で移動させる操作手段のほかに、この押出体の前進位置を保持する前進位置保持手段を備えたことを特徴とする皮膚切除具。
【請求項2】
前記押出体の押接部はその前進位置で前記刃筒部の刃先縁から外側へ突出することを特徴とする請求項1に記載の皮膚切除具。
【請求項3】
前記操作手段は、前記柄の内側で前記押出体とともに移動し得る可動体と、この柄から外側へ露出する操作体とを備え、この操作体によりこの可動体を押出体とともに移動させ得ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の皮膚切除具。
【請求項4】
前記操作手段は、押出体を前進位置から後退位置へ移動させるように可動体を付勢する弾性体を備え、この弾性体の弾性力に抗してこの可動体を移動させて押出体を後退位置から前進位置へ移動させることを特徴とする請求項3に記載の皮膚切除具。
【請求項5】
前記前進位置保持手段においては、前記押出体が前進位置から後退位置へ移動するのを規制するように可動体の移動経路上で互いに当接し得る係止部を可動体と柄とに設けるとともに、この柄の係止部に対する可動体の係止部の当接を不能にする係止解除部を可動体に設けたことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の皮膚切除具。
【請求項6】
前記前進位置保持手段においては、前記押出体が前進位置から後退位置へ移動するのを規制するように柄に対する可動体の接触移動抵抗力を与える圧接部を可動体と柄とに設け、この可動体の接触移動抵抗力に抗して可動体を移動させることを特徴とする請求項3に記載の皮膚切除具。
【請求項7】
前記押出体の後退位置を保持する後退位置保持手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれかの請求項に記載の皮膚切除具。
【請求項8】
前記押出体及び可動体は、柄の基端部側に設けられた開口から挿通され、前記後退位置保持手段においては、この押出体及び可動体が柄の開口から外側へ抜け出さないように可動体の移動経路上で互いに当接し得る係止部を可動体と柄とに設けるとともに、この柄の係止部に対する可動体の係止部の当接を不能にする係止解除部を可動体に設けたことを特徴とする請求項7に記載の皮膚切除具。
【請求項9】
前記可動体の係止部及び係止解除部は、この可動体に設けた弾性体に設けられ、この弾性体により可動体の係止部が柄の係止部に対し当接し得るように付勢され、この弾性体の弾性力に抗して可動体の係止解除部を操作して柄の係止部に対する可動体の係止部の当接を不能にすることを特徴とする請求項5または請求項8に記載の皮膚切除具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−149860(P2006−149860A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347474(P2004−347474)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000001454)株式会社貝印刃物開発センター (123)