説明

皮膚化粧料及び皮膚外用剤

【目的】 安定で且つ副作用がなく安全な、皮膚の老化防止,肌荒れ改善等に有効な皮膚化粧料、及び抗炎症剤,創傷治療剤等として有用な皮膚外用剤を得る。
【構成】 α-ヒドロキシ酢酸を、真皮線維芽細胞増殖促進剤として配合し、化粧水,乳液,クリーム等の形態の皮膚化粧料、叉は水溶液,乳剤,クリーム,軟膏等の形態の皮膚外用剤とする。α-ヒドロキシ酢酸は、微量で繊維芽細胞増殖作用を示し、製剤中で安定であり、且つ皮膚刺激等の副作用を生じない。化粧料,外用剤製剤中への配合量は、0.00001〜10.0000重量%程度が適当である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、真皮線維芽細胞の増殖促進作用により、皮膚の老化防止,肌荒れ改善等に有効な皮膚化粧料、及び抗炎症剤,創傷治療剤等として有用な皮膚外用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、皮膚化粧料や皮膚外用剤の分野において、皮膚細胞自体を賦活し、皮膚の機能そのものを活性化して、皮膚症状の改善や抗炎症効果叉は創傷治療効果を生ぜしめる研究が多くなされている。従来、かかる皮膚賦活剤として、ホルモン類,ビタミン類,γ-オリザノール,サポニン等の生薬抽出物,胎盤抽出物,植物レクチン,キノコ抽出物、さらには動物由来タンパク質といった種々の物質が使用されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、以上述べたような皮膚賦活剤においては、副作用の問題から使用に際し制限を受けたり、作用・効果が十分でなく、かなり大量を配合しなければならなかったり、といった問題点があった。また、植物や動物由来物質においては特に品質の管理が困難で、安定な皮膚賦活剤の提供を受けることが難しく、さらに皮膚化粧料や皮膚外用剤に配合した場合に、活性が失われやすいという問題もあった。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、我々は微量で十分な皮膚細胞賦活効果を有する物質の検索を行った。その結果、in vitro系でα-ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)が、0.00001〜0.0001Mといったごく微量で、真皮の線維芽細胞の増殖を有意に促進する作用を有することを見い出した。
【0005】α-ヒドロキシ酢酸の線維芽細胞の増殖に及ぼす作用を図1に示した。図1中、α-ヒドロキシ酢酸の各濃度における線維芽細胞の増殖を増殖指数で示している。増殖指数は、α-ヒドロキシ酢酸を添加した試料における細胞数を対照の細胞数で除したものである。本実験における陽性コントロールは1.608であった。
【0006】図1より明らかなように、α-ヒドロキシ酢酸を0.00001M及び0.0001M添加した試料において、増殖指数が3.25及び3.18と危険率1%において有意な増殖促進が認められた。また、α-ヒドロキシ酢酸の作用には示適濃度があり、0.00001〜0.0001Mにおいて顕著な細胞増殖促進を示すが、0.001M以上の添加では有意な増殖促進は認められなかった。
【0007】そこで、我々はこのα-ヒドロキシ酢酸を皮膚化粧料及び皮膚外用剤に配合することを検討した。
【0008】
【作用】α-ヒドロキシ酢酸は、水溶液等の状態として皮膚化粧料及び皮膚外用剤に添加する。皮膚化粧料としては、化粧水,乳液,クリーム等の形態とすることができる。皮膚外用剤としても、水溶液,乳剤,クリーム,軟膏等とすることができる。
【0009】α-ヒドロキシ酢酸の配合量は、上記した細胞増殖に対する示適濃度から、化粧料叉は外用剤として用いた場合の有効濃度を勘案して、0.00001〜10.0000重量%程度が適当であると考えられる。あまり多量に配合しても、上記したように細胞増殖効果が得られないばかりか、かえって皮膚刺激性等が出現し、好ましくないからである。
【0010】
【実施例】さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0011】実施例1として、皮膚用化粧水の処方を表1に示す。表1中、(1)〜(7)の成分を(9)に混合,溶解して均一とし、(8)を添加混合した後(9)で全量を100重量%とする。
【表1】


【0012】実施例2として、皮膚用乳液の処方を表2に示す。表2中、(1)〜(5)の油相成分を混合,溶解して均一とし、75℃に加熱する。一方、(6),(7),(9),(10),(13)の水相成分を混合,溶解して75℃に加熱する。次いで、上記の水相成分に油相成分を添加して予備乳化し、これに(8)を加えた後ホモミキサーにて均一に乳化する。その後冷却し、(10)を加えてpHを調整し、50℃にて(12)を添加,混合する。
【表2】


【0013】実施例3として、皮膚用クリームの処方を表3に示す。表3中、(1)〜(7)の油相成分を混合,溶解して均一とし、75℃に加熱する。一方、(8),(9),(10)の水相成分を混合,溶解して75℃に加熱する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して予備乳化した後、ホモミキサーにて均一に乳化する。その後冷却し、50℃にて(11)を添加,混合する。
【表3】


【0014】実施例4として、O/W型乳剤性軟膏タイプの皮膚外用剤の処方を表4に示す。表4中、(1)〜(4)の油相成分を混合,溶解して均一とし、75℃に加熱する。一方、(5),(6),(7),(10)の水相成分を混合,溶解して75℃に加熱する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して乳化し、冷却後、50℃にて(8),(9)を添加,混合する。
【表4】


【0015】
【発明の効果】本発明の効果を示すため、上記の各実施例について以下の試験を行った。各実施例において、α-ヒドロキシ酢酸を除いて精製水にて全量を100重量%としたものを比較例とした。
【0016】(1)肌荒れの改善効果 実施例1〜3,及び比較例1〜3を、それぞれ肌荒れ症状を有するパネラー20名に1月間使用させ、肌荒れ症状の改善について評価させた。評価は、「改善」,「やや改善」,「変化なし」,「やや悪化」,「悪化」の5段階で行わせた。結果を、各評価を行ったパネラー数にて表5に示した。
【表5】


【0017】表5より明らかなように、実施例1では、ほとんどのパネラーが肌荒れ症状はやや改善されたと答えており、肌荒れ症状が改善されなかったと答えたパネラーはいなかった。これに対して比較例1では、半数が変化なしと答え、残り半数はむしろ悪化したと答えていた。実施例2及び3では、ほとんどのパネラーが改善されたと答え、比較例を使用させたパネラーが症状の変化を認めないのと対照的であった。
【0018】(2)皮膚の老化防止効果 実施例1〜3,及び比較例1〜3を、それぞれ皮膚の衰えが気になる50〜60才代のパネラー20名に1月間使用させ、皮膚の老化症状の改善について評価させた。皮膚の老化症状としては、しわの防止,皮膚のはり,皮膚のきめを挙げ、前者については「有効」,「やや有効」,「無効」、後二者については「良好」,「やや良好」,「変化なし」の3段階で評価させた。結果は、各評価を行ったパネラー数にて表6に示した。
【表6】


【0019】表6において、実施例1では3割のパネラーがしわ防止に有効と評価し、無効と答えたパネラーはいなかった。皮膚のはりについてはほとんどが良好と答え、皮膚のきめについても2/3弱のパネラーが有効と評価していた。これに対し、比較例1では皮膚のはりについて1/4のパネラーがやや良好と答えたものの、ほとんどのパネラーは良い評価をしていない。実施例2及び3では、しわ防止については6割〜6割強のパネラーが有効と評価し、皮膚のはりについてもほぼ8割のパネラーが良好とし、皮膚のきめについては9割のパネラーが良好と答えていた。無効或いは変化なしとしたパネラーはいなかった。これに対し、比較例2及び3では、有効或いは良好と評価したパネラーはいずれの評価項目についても0で、1〜3割のパネラーがやや有効或いはやや良好と評価したのみであった。
【0020】(3)創傷治療効果及び抗炎症作用 実施例4及び比較例4について、人工的に創傷叉は炎症を生じさせたマウス各5匹を用い、各試料を創傷部位叉は炎症部位に0.5gずつ1日2回7日間塗布した。7日目に創傷叉は炎症部位の状態を観察し、創傷の治癒については「完全治癒」,「ほぼ治癒」,「治癒が不完全」の3段階で、抗炎症作用については「有効」,「やや有効」,「無効」の3段階で評価した。結果は、各評価をしたマウスの数にて表7に示した。
【表7】


【0021】表7より、実施例4では、ほとんどのマウスにおいて創傷の完全治癒が認められ、また抗炎症作用についても全例で有効と評価された。これに対し、比較例4では、全例において創傷の治癒は不完全で、抗炎症作用については、ほとんどのマウスにおいてかなりの改善を示していたが、実施例4のように十分なものではなかった。
【0022】以上のように、本発明の実施例である皮膚化粧料においては、従来の比較例に比べ、優れた肌荒れ症状の改善や皮膚の老化防止効果を有しており、また、本発明の実施例である皮膚外用剤においても、従来の比較例に比べ優れた創傷治療効果と抗炎症作用を有していた。
【0023】さらに、本発明において有効成分として配合するα-ヒドロキシ酢酸は、種々の形態の皮膚化粧料や皮膚外用剤において安定であり、また、非常に活性が高いため、微量を配合すれば良く、皮膚刺激等の好ましくない影響や副作用が生じることはなかった。
【0024】従って、本発明により、皮膚症状の改善,皮膚の老化防止,創傷治療効果,抗炎症効果等に優れた皮膚化粧料及び皮膚外用剤を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】α-ヒドロキシ酢酸の線維芽細胞の増殖に及ぼす影響を、濃度依存的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 α-ヒドロキシ酢酸を、真皮線維芽細胞増殖剤として配合することを特徴とする、皮膚化粧料及び皮膚外用剤。

【図1】
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【公開番号】特開平5−112422
【公開日】平成5年(1993)5月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−301090
【出願日】平成3年(1991)10月21日
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)