皮膜評価装置
【課題】本発明は、従来にない作用効果を発揮する画期的な皮膜評価装置を提供することを目的とする。
【解決手段】金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5と、この噴射部5に供給される所定量の前記噴射材4を収納する噴射材収納部6と、前記噴射部5から噴射された前記噴射材4を回収し前記噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7とを具備し、この噴射材回収部7で回収された前記噴射材4は噴射材送出手段10により前記噴射材収納部6へ送出されるように構成されており、また、前記被験体1に対する所定量の前記噴射材4の噴射を繰り返し行なえるように構成されたものである。
【解決手段】金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5と、この噴射部5に供給される所定量の前記噴射材4を収納する噴射材収納部6と、前記噴射部5から噴射された前記噴射材4を回収し前記噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7とを具備し、この噴射材回収部7で回収された前記噴射材4は噴射材送出手段10により前記噴射材収納部6へ送出されるように構成されており、また、前記被験体1に対する所定量の前記噴射材4の噴射を繰り返し行なえるように構成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製品や合成樹脂製品において、表面強度の向上、耐磨耗性の向上若しくは耐食性の向上などの表面改質の為、例えば、部品の表面にメッキ、コーティング、拡散浸透、蒸着若しくは溶射などの方法により皮膜を設ける技術が提案されている。
【0003】
ところで、この皮膜は、元々強度の向上等の目的で設けられているものである為、擦ったり腐食させたりして、実際の膜厚,強度若しくは磨耗性などの機械的特性や耐食性など化学的な特性を評価することは困難である。
【0004】
例えば、この皮膜の特性を評価(測定)する方法としてブラスト・エロージョン法が提案されている。
【0005】
このブラスト・エロージョン法は、被験体に砥粒を圧搾空気と共に吹き付けて該被験体の単位時間当たりの重量減量を測定するもので、この重量減量を皮膜のかさ比重で除して体積減量を求めた際、この単位時間と体積減量とが直線グラフで表される比例関係となり、この直線の勾配(エロージョン特性といわれる)が、引っ張り強さ、伸び、硬さ若しくは破壊靱性値と良好な対応関係を示す為、前記重量減量の測定により、評価が難しい皮膜の評価を短時間で簡単に行なうことができるというメリットがある。
【0006】
しかし、このブラスト・エロージョン法では、砥粒が飛散し易い為、扱える砥粒は数百μm以上の径のものとなり、蒸着やスパッタリング法などで形成された数十μm以下の薄い皮膜の特性を評価することができないという問題点がある。
【0007】
更に、ブラスト・エロージョン法に使用する装置は、砥粒や被験体の削り粒が空中に飛散して舞い易い為、該砥粒などが噴射室の外に漏れないように該噴射室の気密性を高めなければならず、また、砥粒などを集めるための集塵フィルタやサイクロンなどの装置を取り付ける必要も生じ、装置全体が大型且つ複雑で高コストになってしまうという問題点がある。
【0008】
また、噴射材を噴射した後も砥粒がしばらく舞い続ける為、噴射材の噴射後に噴射室を開放して被験体を取り出そうとすると砥粒が外に飛散してしまう恐れがある。従って、噴射材の噴射後に被験体を取り出す場合、噴射室内に舞っている砥粒が完全に除去されるまで待たなければならない為、一回の測定に長時間を要するという問題点もある。
【0009】
また、圧搾空気中に砥粒を混入させる方法では砥粒が被験体に衝突する衝撃力は湿度によって左右され、しかも湿度が高いほど誤差が大きくなる為、測定誤差を小さくするために噴射室内を毎回一定の湿度に設定しなければならず、極めて試験操作が煩雑で厄介であるという問題点もある。
【0010】
そこで、本出願人は前述した問題点を解消する特許第3356415号に開示される皮膜評価装置(以下、従来例)を提案している。
【0011】
この従来例は、液体に砥粒が混入されてなる噴射材を圧搾空気と共に高速で噴射して被験体の表面に衝突させることで該被験体を減量する構造のものであり、砥粒が空中に散乱したりする恐れがなく、数十μm以下の小さな砥粒でも使用することができ、数十μm以下の薄い皮膜であっても該皮膜を少しずつ減量して特性を評価することができ、そして更に、液体に砥粒が混入された噴射材と圧搾空気とを一緒に被験体に噴射すると、短時間で被験体の皮膜を減量させることができ、湿気などの影響も受けないため制御し易く、測定誤差が少なくて再現性も良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3356415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、従来例は、被験体の減量と該減量に要した時間との因果関係を測定して該披験体の表面に形成されている皮膜の特性や、該皮膜と母材との密着性や接着強度等の界面特性を評価するものであるが、これは被験体に噴射される噴射材の濃度が常に一定であることが前提であり、この噴射材の濃度を一定に維持することは技術上極めて困難であり、実際の評価に際して精度が落ちてしまう(評価にばらつきが生じてしまう)のが現状である。
【0014】
本出願人は、前述した皮膜評価装置について更なる研究開発を進め、その結果、従来にない作用効果を発揮する画期的な皮膜評価装置を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0016】
金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5と、この噴射部5に供給される所定量の前記噴射材4を収納する噴射材収納部6と、前記噴射部5から噴射された前記噴射材4を回収し前記噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7とを具備し、この噴射材回収部7で回収された前記噴射材4は噴射材送出手段10により前記噴射材収納部6へ送出されるように構成されており、また、前記被験体1に対する所定量の前記噴射材4の噴射を繰り返し行なえるように構成されていることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0017】
また、請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5における前記噴射材4を噴射するノズル8の開口形状を1mm以下×1mm以下の方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0018】
また、請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5における前記噴射材4を噴射するノズル8の開口形状を1mm×1mmの正方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射材4に含まれる砥粒3として平均粒径5μm以下の砥粒3が採用されていることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0020】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5は噴射材供給手段11を介して前記噴射材収納部6から前記噴射材4が供給される構成であり、この噴射材供給手段11は前記噴射材収納部6内を加圧することで前記噴射材4を排出して前記噴射部5へ供給する構成であることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上述のように構成したから、従来にない皮膜の評価方法が可能となり、即ち、時間という間接量を評価に持ち込む従来例と異なり、砥粒という直接量を評価の対象とすることで、精度が飛躍的に向上し、よって、皮膜評価の標準化にも寄与することが期待されるなど、従来にない作用効果を発揮する画期的な皮膜評価装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例に係る要部の説明断面図である。
【図2】本実施例に係る要部の説明図である。
【図3】本実施例に係る要部の説明図である。
【図4】本実施例の概略動作説明図である。
【図5】本実施例の概略動作説明図である。
【図6】本実施例の概略動作説明図である。
【図7】本実施例の概略動作説明図である。
【図8】本実施例に係る要部の説明図である。
【図9】本実施例を使用して行なう皮膜評価試験における式である。
【図10】本実施例の皮膜評価試験の結果を示すグラフである。
【図11】本実施例の皮膜評価試験の結果を示すグラフである。
【図12】グロー放電発光分光分析(GD−OES)による皮膜の測定方法の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0024】
噴射材収納部6に収納される所定量の噴射材4は噴射部5へ供給され、この噴射材4は噴射部5から圧搾空気とともに高速で噴射されて被験体1の表面に衝突し、被験体1の表面の皮膜が減量される。また、噴射部5から噴射された噴射材4は噴射材回収部7で回収され、その後、この噴射材回収部7で回収された噴射材4は噴射材送出手段10により噴射材収納部6へ送出され、この噴射材収納部6へ送出された噴射材4は噴射部5へ供給されて再び皮膜の減量に使用される。
【0025】
以上のように、本発明は被験体1に対する所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なうことができ、このことから従来にない新しい基準を用いての皮膜評価が可能となり、よって、皮膜の高精度な評価が行なえることになる。
【0026】
具体的には、所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なえる構成としたから、前述した従来例のように、被験体1に対して噴射材4を噴射する時間、即ち、間接量を持ち込まず、被験体1に対して衝突させる噴射材4に混入される砥粒3の量という直接量を対象とした評価の為、それだけ高精度な評価が行なえることになる。
【0027】
つまり、従来例のように、所定時間中に被験体1に対して噴射される噴射材4の濃度が一定であることを前提とした評価ではなく、正確に特定できる噴射材4(砥粒3)の量による評価であるから、それだけ正確な評価が行えることになる。
【0028】
本出願人は実際にこの評価方法により繰り返し評価を行なったところ、評価の精度にばらつきが生じることは無いことを確認した。
【0029】
また、本発明は、所定量の噴射材4を再利用できる構成とすることで、砥粒3などを無駄にしない効率的な作業が行なえ、コストの低減化を達成することができ、しかも、装置のコンパクト化を達成することができる。
【0030】
また、請求項3記載の発明においては、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く(例えば3mm×3mmの開口部を持つ従来のノズルの場合には、評価のための単位面積の部位の特定は必須となる。)、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【実施例】
【0031】
本発明の具体的な一実施例について図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面に形成されている皮膜の特性を測定する皮膜評価装置であって、被験体1を固定する固定機構12と、この固定機構12に固定された被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5とを具備しているものである。
【0033】
砥粒3は、平均粒径が5μm以下(実際には平均粒径1.2μm)のアルミナからなる砥粒3が採用されている。また、最大粒径が1μm以下の砥粒3を採用して厚さ数μm以下の薄い皮膜でも再現性良く減量できるように構成しても良い。
【0034】
また、この砥粒3は、アルミナに限らず、合成樹脂,金属,セラミックス,ガラスなどの微粒子を採用しても良い。この砥粒3は、皮膜や被験体1の母材の種類によって適宜選択すると良い。例えば、皮膜や母材が軟らかい素材である場合には、硬い砥粒を使用すると前記減量が早く進行して誤差が大きくなる為、合成樹脂などの軟らかい素材の砥粒を採用し、皮膜がダイヤモンドコーティングなどの硬い素材である場合には、軟らかい砥粒では減量に時間がかかり過ぎる為、アルミナなどの硬い素材の砥粒を採用すると良い。
【0035】
また、この砥粒3を水2に分散させてスラリーとし、噴射材4を構成している。また、水以外に目的に応じて、例えば、アルカリなどの水溶液を使用したり、アルコール類などの溶剤を使用したりしても良い。
【0036】
噴射部5は、図1に図示したように噴射材4を噴射するノズル8と、該ノズル8から噴射材4を圧搾空気と共に噴射するためのミキシングチャンバー13とから構成されている。
【0037】
ノズル8は、図2,3に図示したように装置本体の設置台14上面に設けられた処理室15内に配されており、このノズル8における開口部8aの開口形状は1mm×1mmの正方形状に設定されている。
【0038】
従って、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く(例えば3mm×3mmの開口部を持つ従来のノズルの場合には、評価のための単位面積の部位の特定は必須となる。)、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【0039】
尚、ノズル8の開口形状を1mm以下×1mm以下(例えば0.5mm×0.5mm)の方形状(正方形状や長方形状)としても良く、ノズル形状も所定径を有する円形状としても良い。
【0040】
また、ミキシングチャンバー13は、図1に図示したように処理室15の上部に設けられており、圧搾空気供給源(図示省略)から延設される圧搾空気供給管16Aと、噴射材収納部6から延設され噴射材供給手段11に係る噴射材供給管11Aとが接続されている。
【0041】
従って、このミキシングチャンバー13においては、圧搾空気供給源から供給される圧搾空気と噴射材収納部6から供給される噴射材4が混合されてノズル8から噴射されることになる。
【0042】
噴射材収納部6は、図1に図示したように設置台14下面にケース状体を垂設して構成されており、所定量の噴射材4を収納するように構成されている。
【0043】
また、噴射材収納部6には噴射部5へ噴射材4を供給する噴射材供給手段11が設けられている。
【0044】
この噴射材供給手段11は、図1に図示したように前述した圧搾空気供給源から延設される圧搾空気供給管11Bの端部と、噴射材供給管11Aの端部を噴射材収納部6内に配して構成されている。
【0045】
即ち、噴射材供給手段11は、圧搾空気供給管11Bから噴射材収納部6内に圧搾空気を供給して該噴射材収納部6内が加圧され、この噴射材収納部6内の噴射材4は噴射材供給管11Aから排出されて噴射部5(ミキシングチャンバー13)に供給されることになる。この圧搾空気の加圧手段を利用することで、略100%の噴射材4の供給を実現している。
【0046】
また、噴射材収納部6には、撹拌機構9が設けられている。
【0047】
この撹拌機構9は、図1に図示したように設置台14上面に設けたモーター部9aから垂設される回動軸9bの先端に撹拌羽9cを設けて構成されている。
【0048】
従って、噴射材収納部6内に溜まった噴射材4を撹拌し、噴射材4を構成する水2と砥粒3とを均一且つ一定の濃度配分となる分散状態に保つように構成されている。
【0049】
また、噴射部5で噴射された噴射材4は噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7で回収される。
【0050】
この噴射材回収部7は、図1に図示したように設置台14下面にケース状体を垂設して構成されており、所定量の噴射材4を収納するように構成されている。
【0051】
また、噴射材回収部7には噴射材収納部6へ噴射材4を送出する噴射材送出手段10が設けられている。
【0052】
この噴射材送出手段10は、図1に図示したように前述した圧搾空気供給源から延設される圧搾空気供給管10Aの端部と、先端部が噴射材収納部6に配される噴射材送出管10Bの端部を噴射材回収部7内に配して構成されている。
【0053】
従って、噴射材送出手段10は、圧搾空気供給管10Aから噴射材回収部7内に圧搾空気を供給して該噴射材回収部7内が加圧され、この噴射材回収部7内の噴射材4は噴射材送出管10Bから排出されて噴射材収納部6に送出されることになる。前述した噴射材供給手段11と同様、この圧搾空気の加圧手段を利用することで、略100%の噴射材4の送出を実現している。
【0054】
尚、噴射材送出手段10としては、手で移し変える所謂手動による送出手段や、噴射材収納部6と噴射材回収部7を上下に配して上から下へと圧力を加えることで噴射材4を移動させる送出手段など適宜採用し得るものである。
【0055】
また、噴射材回収部7には、前述した噴射材収納部6と同様、撹拌機構9が設けられている。
【0056】
この撹拌機構9は、図1に図示したように設置台14に設けたモーター部9aから垂設される回動軸9bの先端に撹拌羽9cを設けて構成されている。
【0057】
従って、噴射材回収部7内に溜まった噴射材4を撹拌し、噴射材4を構成する水2と砥粒3とを均一且つ一定の濃度配分となる分散状態に保つように構成されている。
【0058】
固定機構12には載置部12aが設けられており、該載置部12aで前記被験体1を載置固定するように構成されている。
【0059】
また、固定機構12には回動機構17が設けられている。この回動機構17は、載置部12aの端部に該載置部12aを回動自在とする回動軸17aを設け、装置本体に設けた回動装置(図示省略)や、装置本体の適所に設けた回動ノブ(図示省略)を操作することにより該回動軸17aを回動せしめた際、噴射部5から噴射される噴射材4に対して該噴射材4に面する被験体1表面の角度を変化させることができるように構成されている。
【0060】
尚、回動機構17は、載置部12aを回動する回動軸17aと、該載置部12aに載置固定される被験体1の被験面とが略一直線上になるように構成し、被験体1を回動させても該被験体1に噴射される噴射材4の噴射移動距離が変わらないように設定しても良い。
【0061】
また、回動軸17aは処理室15に対して離反する方向に移動自在に設けられており、載置部12aは、処理室15と該処理室15の脇に設けられる後述する計測部19に係る計測室19aとの間を往復移動するように構成されている。尚、処理室15と計測室19aとの間には図示省略の開閉式仕切り壁(シャッター)が設けられている。
【0062】
計測部19は、図1に図示したように計測室19aの上部に被験体1の表面の状況を計測する計測装置19bを配設して構成されており、本実施例では、計測装置19bとして被験体1表面の加工深さを計測する光学式センサーが採用されている。
【0063】
この計測装置19bの対向位置に載置部12aに配設された被験体1を位置させ、被験体1の表面は計測される。本実施例では、計測装置19bにパソコンを繋いでデータ通信を行い測定値をその都度グラフ上にプロットさせることにより自動的に皮膜特性グラフが得られるように構成されている。
【0064】
尚、計測装置19aに係るセンサーとしては光学式センサーに限らず、電磁式、超音波式の非接触変位計や、触針式変位計、電磁式の膜厚計などでも良く、また、センサーの代わりにCCD等の画像素子を用いて多層膜などの表面状態観察を行なうようにしても良いなど、本実施例の特性を発揮する計測手段や計測方法であれば適宜採用し得るものである。
【0065】
また、この計測装置19bに1軸式の駆動機構を付与することで被験体1表面の粗さ計測が可能となり、更に、計測装置19bにXY方向の駆動機構を取り付けることで被験体1表面のXY多点計測を行い、視覚化ソフトウエアで処理することによって被験体1表面の3次元形状を知ることができ、皮膜毎に皮膜素地との硬度差などを視覚的に知ることもできる。
【0066】
尚、図8に図示したように噴射部5と計測部19とで得られたデータは、装置本体内に設けたデータ処理部20で処理され、このデータ処理部20で処理された結果は装置本体に設けた結果表示出力部21で出力される。
【0067】
符号22は本実施例に係る皮膜評価装置を操作する操作部である。
【0068】
以下、本実施例に係る皮膜評価装置を用いた皮膜の評価方法について説明する。
【0069】
被験体1を予め所定形状(固定機構12に着脱できる形状)に加工し、この被験体1の皮膜の表面形状を測定しておいた後、固定機構12に被験体1を固定する。一方、噴射材収納部6内に噴射材4として所定量の水2及び砥粒3を入れる。この砥粒3の量は評価する材料や内容によって適宜設定する。
【0070】
続いて、スタートボタンを操作して試験を開始する。
【0071】
噴射材収納部6に収納される所定量の噴射材4は噴射材供給手段11を介して噴射部5へ供給され、噴射部5(ノズル8)から圧搾空気とともに噴射材4を高速で噴射して被験体1の表面に衝突させると、被験体1の表面に形成されている皮膜が減量される(図4,5,6参照)。
【0072】
試験中においては、噴射部5から被験体1に向けて噴射材4と圧搾空気とが一緒に噴射され、被験体1の表面(皮膜若しくは母材)が水2と砥粒3と圧搾空気との相乗効果によって少しずつ摩耗され、減量される。また、この際、噴射材4は噴射部5から噴射されて被験体1の表面に衝突し、皮膜若しくは母材の一部を削り取って噴射材回収部7に落下する。尚、噴射材4を構成する水2と砥粒3とは、噴射材収納部6及び噴射材回収部7双方の内部において撹拌機構9により撹拌されて砥粒3が沈殿しないように保たれ均一且つ所定の比率濃度に保たれる。
【0073】
また、この噴射材4は噴射材回収部7に設けられた噴射材送出手段10により噴射材収納部6に送出され(図7参照)、この噴射材収納部6へ送出された噴射材4は噴射材送出手段10を介して噴射部5へ供給されて再び皮膜の減量に使用される。
【0074】
噴射部5にて被験体1に対して所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行い噴射材4の噴射が終了したら、計測部19にて被験体1を計測する。尚、この噴射部5における噴射材4の噴射と計測部19における被験体1の計測を繰り返し行なっても良い(図8中二点鎖線参照)。
【0075】
具体的には、この計測部19における被験体1の測定は、被験体1の皮膜の表面形状を測定して最大摩耗深さを測定し、単位面積(1mm2)に投射された砥粒3の量と摩耗深さの関係をグラフ化することができ、被験体1の減量(被験体1の摩耗深さ量)と該減量に要した(この摩耗深さ量を摩耗させるに要した)砥粒3の量との因果関係を測定する評価方法(図9の式で表される摩耗率を求める評価方法)が可能となる。また、被験体1の表面形状なども評価すると良い。
【0076】
実際に母材の表面に皮膜が形成された被験体1に対して皮膜評価を行なった場合の一例を示す。
【0077】
図10に示すグラフ(縦軸を皮膜摩耗深さ、横軸を砥粒3の投射量としたグラフ)では、皮膜表面(横軸0の位置)から深さ位置P1にかけては一定の緩い角度での上り勾配となり、この深さ位置P1から更に深い深さ位置P2にかけては急激な角度の上り勾配となり、この深さ位置P2から更に深い深さ位置P3となる皮膜内面にかけては緩い角度での上り勾配となった。
【0078】
また、図11に示すグラフ(縦軸を摩耗率、横軸は皮膜深さとしたグラフ)では、皮膜外面から約半分の深さ位置P1にかけては緩やかな上り勾配となり、この深さ位置P1から更に深い深さ位置P2にかけては急な上り勾配となり、この深さ位置P2から更に深い深さ位置P3となる皮膜内面にかけては急な下り勾配となった。
【0079】
この図10及び図11に示すグラフから、いずれも共通して皮膜表面から深さ位置P1までは摩耗しにくい層であり、深さ位置P1から深さ位置P2にかけて摩耗し易い層であり、深さ位置P2から深さ位置P3にかけて摩耗しにくい層であることが分かる。
【0080】
つまり、このことから、ナノレベルの皮膜から数μmという極めて薄い皮膜の層内においても摩耗しにくい層と摩耗し易い層とがあり、どの深さの層においてどの位の摩耗率であるかが判断できることが明らかとなった。
【0081】
また、図10及び図11に示す深さ位置P4は母材との界面であるが、摩耗しにくいか摩耗し易いかが判断できることにより、皮膜と母材との密着性などを判断することができる(母材との界面における摩耗率が低いと皮膜と母材との密着性が高い。)。
【0082】
つまり、被験体1の表面皮膜と母材との密着性や接着強度等の界面特性を評価することができ、また、この表面皮膜が多層皮膜である場合には、多層皮膜の該膜同士の密着性や接着強度等の界面特性を評価することができ、また、被験体1の表面皮膜(多層皮膜や傾斜皮膜)における皮膜特性の変化を連続的に評価することができる。
【0083】
このように、本実施例によれば、表面からの深さによって摩耗率(機械的特性)が異なる皮膜の特性や皮膜と母材との界面特性が明らかになることが確認された。
【0084】
また、本実施例を利用した応用的な評価方法として、図12に示すグロー放電発光分光分析(GD−OES)による皮膜の測定(皮膜の組成を測定する方法)と組み合わせることもでき、即ち、皮膜の深さ位置によって異なる組成特性(組成の分布)と、本実施例により分かる摩耗率(機械的特性)とを合わせて評価することができるなど、様々な角度から皮膜の評価が行なえることになる。
【0085】
また、本実施例の皮膜評価は、実際の市場における広い範囲での適用が期待される。
【0086】
具体的には、例えば、刃物などのように外面側から内面側まで硬質であることが要求される皮膜や、メガネレンズなどのように外面側が硬質であれば内面側は軟質でも良いとされる皮膜など、皮膜が施される製品に対して最適な皮膜か否かが評価できることになる。
【0087】
また、この実験結果は極めて再現性に秀れていることも確認されており、予めデータを集めておけば、未知の皮膜であっても簡単に特性を評価して分析,特定を行えることになる(例えば皮膜をしたことによる母材への影響を調べたり、皮膜の厚さを調べたりすることができる。)。
【0088】
尚、回動機構によって被験体1の表面に対する噴射材4の投射角度を変化させて試験を行うことにより、各被験体1の皮膜ごとの特徴的な特性(角度依存性)も簡単且つ明確に判断できることが確認された。即ち、このようなサンプルデータを多数集めることにより、皮膜ごとの機械的特性や化学的特性の判定を試験データの比較によって簡単に行え、また、素材不明の皮膜でも本実施例により簡単に材質を特定したりできることになる。
【0089】
本実施例は上述のように構成したから、被験体1に対する所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なうことができ、このことから従来にない皮膜の評価方法が可能となり、即ち、時間という間接量を評価に持ち込む従来例と異なり、砥粒という直接量を評価の対象とすることで、精度が飛躍的に向上し、よって、皮膜評価の標準化にも寄与することが期待されることになる。
【0090】
また、本実施例は、極めて簡易な操作手順で極めて薄い皮膜でも簡単に皮膜特性を評価することができ、また、測定誤差が小さくて再現性にも秀れた極めて実用性に秀れることになる。
【0091】
また、本実施例は、所定量の噴射材4を再利用できる構成とすることで、砥粒3などを無駄にしない効率的な作業が行なえ、コストの低減化を達成することができ、しかも、装置のコンパクト化を達成することができる。
【0092】
また、本実施例は、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【0093】
また、本実施例は、被験体1に対して所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なえることにより、極めて硬質の被験体1(DLC)であっても該被験体1より軟質の砥粒3(アルミナ)により摩耗させて評価することが出来る。
【0094】
また、本実施例は、噴射された噴射材4は被験体1の表面に衝突した後速やかに落下するため微粒子の砥粒3や摩耗粉が空中に長時間散乱したりせず、従来のエロージョン試験機のように噴射する噴射室内の密閉性を高めたり、砥粒3を回収する集塵フィルタやサイクロンなどの装置を取り付ける必要がなく、装置の小型化が容易となる実用性に秀れたものとなる。
【0095】
また、本実施例は、噴射材収納部6及び噴射材回収部7には撹拌機構9が設けられているから、噴射材4中の砥粒は均一に分散され、常に一定の砥粒濃度で噴射部5に噴射材4が送流されて砥粒濃度のむらによる誤差がなく、しかも噴射部5のノズル8や噴射材供給手段11や噴射材送出手段10を詰まらせにくいより一層実用性に秀れたものとなる。
【0096】
また、本実施例は、固定機構12には回動機構が設けられているから、噴射する噴射材4に対する被験体1の表面の角度を色々と変えて試験を行うことにより皮膜の特性をより一層正確に把握することができるより一層実用性に秀れたものとなる。
【0097】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、例えば金属製品や合成樹脂製品において、表面強度の向上、耐磨耗性の向上若しくは耐食性の向上などの表面改質の為、該製品の表面にメッキ、コーティング、拡散浸透、蒸着若しくは溶射などの方法により設けた皮膜を評価する際に有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 被験体
2 液体
3 砥粒
4 噴射材
5 噴射部
6 噴射材収納部
7 噴射材回収部
8 ノズル
10 噴射材送出手段
11 噴射材供給手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製品や合成樹脂製品において、表面強度の向上、耐磨耗性の向上若しくは耐食性の向上などの表面改質の為、例えば、部品の表面にメッキ、コーティング、拡散浸透、蒸着若しくは溶射などの方法により皮膜を設ける技術が提案されている。
【0003】
ところで、この皮膜は、元々強度の向上等の目的で設けられているものである為、擦ったり腐食させたりして、実際の膜厚,強度若しくは磨耗性などの機械的特性や耐食性など化学的な特性を評価することは困難である。
【0004】
例えば、この皮膜の特性を評価(測定)する方法としてブラスト・エロージョン法が提案されている。
【0005】
このブラスト・エロージョン法は、被験体に砥粒を圧搾空気と共に吹き付けて該被験体の単位時間当たりの重量減量を測定するもので、この重量減量を皮膜のかさ比重で除して体積減量を求めた際、この単位時間と体積減量とが直線グラフで表される比例関係となり、この直線の勾配(エロージョン特性といわれる)が、引っ張り強さ、伸び、硬さ若しくは破壊靱性値と良好な対応関係を示す為、前記重量減量の測定により、評価が難しい皮膜の評価を短時間で簡単に行なうことができるというメリットがある。
【0006】
しかし、このブラスト・エロージョン法では、砥粒が飛散し易い為、扱える砥粒は数百μm以上の径のものとなり、蒸着やスパッタリング法などで形成された数十μm以下の薄い皮膜の特性を評価することができないという問題点がある。
【0007】
更に、ブラスト・エロージョン法に使用する装置は、砥粒や被験体の削り粒が空中に飛散して舞い易い為、該砥粒などが噴射室の外に漏れないように該噴射室の気密性を高めなければならず、また、砥粒などを集めるための集塵フィルタやサイクロンなどの装置を取り付ける必要も生じ、装置全体が大型且つ複雑で高コストになってしまうという問題点がある。
【0008】
また、噴射材を噴射した後も砥粒がしばらく舞い続ける為、噴射材の噴射後に噴射室を開放して被験体を取り出そうとすると砥粒が外に飛散してしまう恐れがある。従って、噴射材の噴射後に被験体を取り出す場合、噴射室内に舞っている砥粒が完全に除去されるまで待たなければならない為、一回の測定に長時間を要するという問題点もある。
【0009】
また、圧搾空気中に砥粒を混入させる方法では砥粒が被験体に衝突する衝撃力は湿度によって左右され、しかも湿度が高いほど誤差が大きくなる為、測定誤差を小さくするために噴射室内を毎回一定の湿度に設定しなければならず、極めて試験操作が煩雑で厄介であるという問題点もある。
【0010】
そこで、本出願人は前述した問題点を解消する特許第3356415号に開示される皮膜評価装置(以下、従来例)を提案している。
【0011】
この従来例は、液体に砥粒が混入されてなる噴射材を圧搾空気と共に高速で噴射して被験体の表面に衝突させることで該被験体を減量する構造のものであり、砥粒が空中に散乱したりする恐れがなく、数十μm以下の小さな砥粒でも使用することができ、数十μm以下の薄い皮膜であっても該皮膜を少しずつ減量して特性を評価することができ、そして更に、液体に砥粒が混入された噴射材と圧搾空気とを一緒に被験体に噴射すると、短時間で被験体の皮膜を減量させることができ、湿気などの影響も受けないため制御し易く、測定誤差が少なくて再現性も良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3356415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、従来例は、被験体の減量と該減量に要した時間との因果関係を測定して該披験体の表面に形成されている皮膜の特性や、該皮膜と母材との密着性や接着強度等の界面特性を評価するものであるが、これは被験体に噴射される噴射材の濃度が常に一定であることが前提であり、この噴射材の濃度を一定に維持することは技術上極めて困難であり、実際の評価に際して精度が落ちてしまう(評価にばらつきが生じてしまう)のが現状である。
【0014】
本出願人は、前述した皮膜評価装置について更なる研究開発を進め、その結果、従来にない作用効果を発揮する画期的な皮膜評価装置を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0016】
金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5と、この噴射部5に供給される所定量の前記噴射材4を収納する噴射材収納部6と、前記噴射部5から噴射された前記噴射材4を回収し前記噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7とを具備し、この噴射材回収部7で回収された前記噴射材4は噴射材送出手段10により前記噴射材収納部6へ送出されるように構成されており、また、前記被験体1に対する所定量の前記噴射材4の噴射を繰り返し行なえるように構成されていることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0017】
また、請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5における前記噴射材4を噴射するノズル8の開口形状を1mm以下×1mm以下の方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0018】
また、請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5における前記噴射材4を噴射するノズル8の開口形状を1mm×1mmの正方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射材4に含まれる砥粒3として平均粒径5μm以下の砥粒3が採用されていることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【0020】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射部5は噴射材供給手段11を介して前記噴射材収納部6から前記噴射材4が供給される構成であり、この噴射材供給手段11は前記噴射材収納部6内を加圧することで前記噴射材4を排出して前記噴射部5へ供給する構成であることを特徴とする皮膜評価装置に係るものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上述のように構成したから、従来にない皮膜の評価方法が可能となり、即ち、時間という間接量を評価に持ち込む従来例と異なり、砥粒という直接量を評価の対象とすることで、精度が飛躍的に向上し、よって、皮膜評価の標準化にも寄与することが期待されるなど、従来にない作用効果を発揮する画期的な皮膜評価装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例に係る要部の説明断面図である。
【図2】本実施例に係る要部の説明図である。
【図3】本実施例に係る要部の説明図である。
【図4】本実施例の概略動作説明図である。
【図5】本実施例の概略動作説明図である。
【図6】本実施例の概略動作説明図である。
【図7】本実施例の概略動作説明図である。
【図8】本実施例に係る要部の説明図である。
【図9】本実施例を使用して行なう皮膜評価試験における式である。
【図10】本実施例の皮膜評価試験の結果を示すグラフである。
【図11】本実施例の皮膜評価試験の結果を示すグラフである。
【図12】グロー放電発光分光分析(GD−OES)による皮膜の測定方法の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0024】
噴射材収納部6に収納される所定量の噴射材4は噴射部5へ供給され、この噴射材4は噴射部5から圧搾空気とともに高速で噴射されて被験体1の表面に衝突し、被験体1の表面の皮膜が減量される。また、噴射部5から噴射された噴射材4は噴射材回収部7で回収され、その後、この噴射材回収部7で回収された噴射材4は噴射材送出手段10により噴射材収納部6へ送出され、この噴射材収納部6へ送出された噴射材4は噴射部5へ供給されて再び皮膜の減量に使用される。
【0025】
以上のように、本発明は被験体1に対する所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なうことができ、このことから従来にない新しい基準を用いての皮膜評価が可能となり、よって、皮膜の高精度な評価が行なえることになる。
【0026】
具体的には、所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なえる構成としたから、前述した従来例のように、被験体1に対して噴射材4を噴射する時間、即ち、間接量を持ち込まず、被験体1に対して衝突させる噴射材4に混入される砥粒3の量という直接量を対象とした評価の為、それだけ高精度な評価が行なえることになる。
【0027】
つまり、従来例のように、所定時間中に被験体1に対して噴射される噴射材4の濃度が一定であることを前提とした評価ではなく、正確に特定できる噴射材4(砥粒3)の量による評価であるから、それだけ正確な評価が行えることになる。
【0028】
本出願人は実際にこの評価方法により繰り返し評価を行なったところ、評価の精度にばらつきが生じることは無いことを確認した。
【0029】
また、本発明は、所定量の噴射材4を再利用できる構成とすることで、砥粒3などを無駄にしない効率的な作業が行なえ、コストの低減化を達成することができ、しかも、装置のコンパクト化を達成することができる。
【0030】
また、請求項3記載の発明においては、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く(例えば3mm×3mmの開口部を持つ従来のノズルの場合には、評価のための単位面積の部位の特定は必須となる。)、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【実施例】
【0031】
本発明の具体的な一実施例について図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、金属材や合成樹脂材などの被験体1の表面に形成されている皮膜の特性を測定する皮膜評価装置であって、被験体1を固定する固定機構12と、この固定機構12に固定された被験体1に液体2に砥粒3が混入された噴射材4を圧搾空気と共に噴射して該被験体1を減量させる噴射部5とを具備しているものである。
【0033】
砥粒3は、平均粒径が5μm以下(実際には平均粒径1.2μm)のアルミナからなる砥粒3が採用されている。また、最大粒径が1μm以下の砥粒3を採用して厚さ数μm以下の薄い皮膜でも再現性良く減量できるように構成しても良い。
【0034】
また、この砥粒3は、アルミナに限らず、合成樹脂,金属,セラミックス,ガラスなどの微粒子を採用しても良い。この砥粒3は、皮膜や被験体1の母材の種類によって適宜選択すると良い。例えば、皮膜や母材が軟らかい素材である場合には、硬い砥粒を使用すると前記減量が早く進行して誤差が大きくなる為、合成樹脂などの軟らかい素材の砥粒を採用し、皮膜がダイヤモンドコーティングなどの硬い素材である場合には、軟らかい砥粒では減量に時間がかかり過ぎる為、アルミナなどの硬い素材の砥粒を採用すると良い。
【0035】
また、この砥粒3を水2に分散させてスラリーとし、噴射材4を構成している。また、水以外に目的に応じて、例えば、アルカリなどの水溶液を使用したり、アルコール類などの溶剤を使用したりしても良い。
【0036】
噴射部5は、図1に図示したように噴射材4を噴射するノズル8と、該ノズル8から噴射材4を圧搾空気と共に噴射するためのミキシングチャンバー13とから構成されている。
【0037】
ノズル8は、図2,3に図示したように装置本体の設置台14上面に設けられた処理室15内に配されており、このノズル8における開口部8aの開口形状は1mm×1mmの正方形状に設定されている。
【0038】
従って、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く(例えば3mm×3mmの開口部を持つ従来のノズルの場合には、評価のための単位面積の部位の特定は必須となる。)、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【0039】
尚、ノズル8の開口形状を1mm以下×1mm以下(例えば0.5mm×0.5mm)の方形状(正方形状や長方形状)としても良く、ノズル形状も所定径を有する円形状としても良い。
【0040】
また、ミキシングチャンバー13は、図1に図示したように処理室15の上部に設けられており、圧搾空気供給源(図示省略)から延設される圧搾空気供給管16Aと、噴射材収納部6から延設され噴射材供給手段11に係る噴射材供給管11Aとが接続されている。
【0041】
従って、このミキシングチャンバー13においては、圧搾空気供給源から供給される圧搾空気と噴射材収納部6から供給される噴射材4が混合されてノズル8から噴射されることになる。
【0042】
噴射材収納部6は、図1に図示したように設置台14下面にケース状体を垂設して構成されており、所定量の噴射材4を収納するように構成されている。
【0043】
また、噴射材収納部6には噴射部5へ噴射材4を供給する噴射材供給手段11が設けられている。
【0044】
この噴射材供給手段11は、図1に図示したように前述した圧搾空気供給源から延設される圧搾空気供給管11Bの端部と、噴射材供給管11Aの端部を噴射材収納部6内に配して構成されている。
【0045】
即ち、噴射材供給手段11は、圧搾空気供給管11Bから噴射材収納部6内に圧搾空気を供給して該噴射材収納部6内が加圧され、この噴射材収納部6内の噴射材4は噴射材供給管11Aから排出されて噴射部5(ミキシングチャンバー13)に供給されることになる。この圧搾空気の加圧手段を利用することで、略100%の噴射材4の供給を実現している。
【0046】
また、噴射材収納部6には、撹拌機構9が設けられている。
【0047】
この撹拌機構9は、図1に図示したように設置台14上面に設けたモーター部9aから垂設される回動軸9bの先端に撹拌羽9cを設けて構成されている。
【0048】
従って、噴射材収納部6内に溜まった噴射材4を撹拌し、噴射材4を構成する水2と砥粒3とを均一且つ一定の濃度配分となる分散状態に保つように構成されている。
【0049】
また、噴射部5で噴射された噴射材4は噴射材収納部6と別個の噴射材回収部7で回収される。
【0050】
この噴射材回収部7は、図1に図示したように設置台14下面にケース状体を垂設して構成されており、所定量の噴射材4を収納するように構成されている。
【0051】
また、噴射材回収部7には噴射材収納部6へ噴射材4を送出する噴射材送出手段10が設けられている。
【0052】
この噴射材送出手段10は、図1に図示したように前述した圧搾空気供給源から延設される圧搾空気供給管10Aの端部と、先端部が噴射材収納部6に配される噴射材送出管10Bの端部を噴射材回収部7内に配して構成されている。
【0053】
従って、噴射材送出手段10は、圧搾空気供給管10Aから噴射材回収部7内に圧搾空気を供給して該噴射材回収部7内が加圧され、この噴射材回収部7内の噴射材4は噴射材送出管10Bから排出されて噴射材収納部6に送出されることになる。前述した噴射材供給手段11と同様、この圧搾空気の加圧手段を利用することで、略100%の噴射材4の送出を実現している。
【0054】
尚、噴射材送出手段10としては、手で移し変える所謂手動による送出手段や、噴射材収納部6と噴射材回収部7を上下に配して上から下へと圧力を加えることで噴射材4を移動させる送出手段など適宜採用し得るものである。
【0055】
また、噴射材回収部7には、前述した噴射材収納部6と同様、撹拌機構9が設けられている。
【0056】
この撹拌機構9は、図1に図示したように設置台14に設けたモーター部9aから垂設される回動軸9bの先端に撹拌羽9cを設けて構成されている。
【0057】
従って、噴射材回収部7内に溜まった噴射材4を撹拌し、噴射材4を構成する水2と砥粒3とを均一且つ一定の濃度配分となる分散状態に保つように構成されている。
【0058】
固定機構12には載置部12aが設けられており、該載置部12aで前記被験体1を載置固定するように構成されている。
【0059】
また、固定機構12には回動機構17が設けられている。この回動機構17は、載置部12aの端部に該載置部12aを回動自在とする回動軸17aを設け、装置本体に設けた回動装置(図示省略)や、装置本体の適所に設けた回動ノブ(図示省略)を操作することにより該回動軸17aを回動せしめた際、噴射部5から噴射される噴射材4に対して該噴射材4に面する被験体1表面の角度を変化させることができるように構成されている。
【0060】
尚、回動機構17は、載置部12aを回動する回動軸17aと、該載置部12aに載置固定される被験体1の被験面とが略一直線上になるように構成し、被験体1を回動させても該被験体1に噴射される噴射材4の噴射移動距離が変わらないように設定しても良い。
【0061】
また、回動軸17aは処理室15に対して離反する方向に移動自在に設けられており、載置部12aは、処理室15と該処理室15の脇に設けられる後述する計測部19に係る計測室19aとの間を往復移動するように構成されている。尚、処理室15と計測室19aとの間には図示省略の開閉式仕切り壁(シャッター)が設けられている。
【0062】
計測部19は、図1に図示したように計測室19aの上部に被験体1の表面の状況を計測する計測装置19bを配設して構成されており、本実施例では、計測装置19bとして被験体1表面の加工深さを計測する光学式センサーが採用されている。
【0063】
この計測装置19bの対向位置に載置部12aに配設された被験体1を位置させ、被験体1の表面は計測される。本実施例では、計測装置19bにパソコンを繋いでデータ通信を行い測定値をその都度グラフ上にプロットさせることにより自動的に皮膜特性グラフが得られるように構成されている。
【0064】
尚、計測装置19aに係るセンサーとしては光学式センサーに限らず、電磁式、超音波式の非接触変位計や、触針式変位計、電磁式の膜厚計などでも良く、また、センサーの代わりにCCD等の画像素子を用いて多層膜などの表面状態観察を行なうようにしても良いなど、本実施例の特性を発揮する計測手段や計測方法であれば適宜採用し得るものである。
【0065】
また、この計測装置19bに1軸式の駆動機構を付与することで被験体1表面の粗さ計測が可能となり、更に、計測装置19bにXY方向の駆動機構を取り付けることで被験体1表面のXY多点計測を行い、視覚化ソフトウエアで処理することによって被験体1表面の3次元形状を知ることができ、皮膜毎に皮膜素地との硬度差などを視覚的に知ることもできる。
【0066】
尚、図8に図示したように噴射部5と計測部19とで得られたデータは、装置本体内に設けたデータ処理部20で処理され、このデータ処理部20で処理された結果は装置本体に設けた結果表示出力部21で出力される。
【0067】
符号22は本実施例に係る皮膜評価装置を操作する操作部である。
【0068】
以下、本実施例に係る皮膜評価装置を用いた皮膜の評価方法について説明する。
【0069】
被験体1を予め所定形状(固定機構12に着脱できる形状)に加工し、この被験体1の皮膜の表面形状を測定しておいた後、固定機構12に被験体1を固定する。一方、噴射材収納部6内に噴射材4として所定量の水2及び砥粒3を入れる。この砥粒3の量は評価する材料や内容によって適宜設定する。
【0070】
続いて、スタートボタンを操作して試験を開始する。
【0071】
噴射材収納部6に収納される所定量の噴射材4は噴射材供給手段11を介して噴射部5へ供給され、噴射部5(ノズル8)から圧搾空気とともに噴射材4を高速で噴射して被験体1の表面に衝突させると、被験体1の表面に形成されている皮膜が減量される(図4,5,6参照)。
【0072】
試験中においては、噴射部5から被験体1に向けて噴射材4と圧搾空気とが一緒に噴射され、被験体1の表面(皮膜若しくは母材)が水2と砥粒3と圧搾空気との相乗効果によって少しずつ摩耗され、減量される。また、この際、噴射材4は噴射部5から噴射されて被験体1の表面に衝突し、皮膜若しくは母材の一部を削り取って噴射材回収部7に落下する。尚、噴射材4を構成する水2と砥粒3とは、噴射材収納部6及び噴射材回収部7双方の内部において撹拌機構9により撹拌されて砥粒3が沈殿しないように保たれ均一且つ所定の比率濃度に保たれる。
【0073】
また、この噴射材4は噴射材回収部7に設けられた噴射材送出手段10により噴射材収納部6に送出され(図7参照)、この噴射材収納部6へ送出された噴射材4は噴射材送出手段10を介して噴射部5へ供給されて再び皮膜の減量に使用される。
【0074】
噴射部5にて被験体1に対して所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行い噴射材4の噴射が終了したら、計測部19にて被験体1を計測する。尚、この噴射部5における噴射材4の噴射と計測部19における被験体1の計測を繰り返し行なっても良い(図8中二点鎖線参照)。
【0075】
具体的には、この計測部19における被験体1の測定は、被験体1の皮膜の表面形状を測定して最大摩耗深さを測定し、単位面積(1mm2)に投射された砥粒3の量と摩耗深さの関係をグラフ化することができ、被験体1の減量(被験体1の摩耗深さ量)と該減量に要した(この摩耗深さ量を摩耗させるに要した)砥粒3の量との因果関係を測定する評価方法(図9の式で表される摩耗率を求める評価方法)が可能となる。また、被験体1の表面形状なども評価すると良い。
【0076】
実際に母材の表面に皮膜が形成された被験体1に対して皮膜評価を行なった場合の一例を示す。
【0077】
図10に示すグラフ(縦軸を皮膜摩耗深さ、横軸を砥粒3の投射量としたグラフ)では、皮膜表面(横軸0の位置)から深さ位置P1にかけては一定の緩い角度での上り勾配となり、この深さ位置P1から更に深い深さ位置P2にかけては急激な角度の上り勾配となり、この深さ位置P2から更に深い深さ位置P3となる皮膜内面にかけては緩い角度での上り勾配となった。
【0078】
また、図11に示すグラフ(縦軸を摩耗率、横軸は皮膜深さとしたグラフ)では、皮膜外面から約半分の深さ位置P1にかけては緩やかな上り勾配となり、この深さ位置P1から更に深い深さ位置P2にかけては急な上り勾配となり、この深さ位置P2から更に深い深さ位置P3となる皮膜内面にかけては急な下り勾配となった。
【0079】
この図10及び図11に示すグラフから、いずれも共通して皮膜表面から深さ位置P1までは摩耗しにくい層であり、深さ位置P1から深さ位置P2にかけて摩耗し易い層であり、深さ位置P2から深さ位置P3にかけて摩耗しにくい層であることが分かる。
【0080】
つまり、このことから、ナノレベルの皮膜から数μmという極めて薄い皮膜の層内においても摩耗しにくい層と摩耗し易い層とがあり、どの深さの層においてどの位の摩耗率であるかが判断できることが明らかとなった。
【0081】
また、図10及び図11に示す深さ位置P4は母材との界面であるが、摩耗しにくいか摩耗し易いかが判断できることにより、皮膜と母材との密着性などを判断することができる(母材との界面における摩耗率が低いと皮膜と母材との密着性が高い。)。
【0082】
つまり、被験体1の表面皮膜と母材との密着性や接着強度等の界面特性を評価することができ、また、この表面皮膜が多層皮膜である場合には、多層皮膜の該膜同士の密着性や接着強度等の界面特性を評価することができ、また、被験体1の表面皮膜(多層皮膜や傾斜皮膜)における皮膜特性の変化を連続的に評価することができる。
【0083】
このように、本実施例によれば、表面からの深さによって摩耗率(機械的特性)が異なる皮膜の特性や皮膜と母材との界面特性が明らかになることが確認された。
【0084】
また、本実施例を利用した応用的な評価方法として、図12に示すグロー放電発光分光分析(GD−OES)による皮膜の測定(皮膜の組成を測定する方法)と組み合わせることもでき、即ち、皮膜の深さ位置によって異なる組成特性(組成の分布)と、本実施例により分かる摩耗率(機械的特性)とを合わせて評価することができるなど、様々な角度から皮膜の評価が行なえることになる。
【0085】
また、本実施例の皮膜評価は、実際の市場における広い範囲での適用が期待される。
【0086】
具体的には、例えば、刃物などのように外面側から内面側まで硬質であることが要求される皮膜や、メガネレンズなどのように外面側が硬質であれば内面側は軟質でも良いとされる皮膜など、皮膜が施される製品に対して最適な皮膜か否かが評価できることになる。
【0087】
また、この実験結果は極めて再現性に秀れていることも確認されており、予めデータを集めておけば、未知の皮膜であっても簡単に特性を評価して分析,特定を行えることになる(例えば皮膜をしたことによる母材への影響を調べたり、皮膜の厚さを調べたりすることができる。)。
【0088】
尚、回動機構によって被験体1の表面に対する噴射材4の投射角度を変化させて試験を行うことにより、各被験体1の皮膜ごとの特徴的な特性(角度依存性)も簡単且つ明確に判断できることが確認された。即ち、このようなサンプルデータを多数集めることにより、皮膜ごとの機械的特性や化学的特性の判定を試験データの比較によって簡単に行え、また、素材不明の皮膜でも本実施例により簡単に材質を特定したりできることになる。
【0089】
本実施例は上述のように構成したから、被験体1に対する所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なうことができ、このことから従来にない皮膜の評価方法が可能となり、即ち、時間という間接量を評価に持ち込む従来例と異なり、砥粒という直接量を評価の対象とすることで、精度が飛躍的に向上し、よって、皮膜評価の標準化にも寄与することが期待されることになる。
【0090】
また、本実施例は、極めて簡易な操作手順で極めて薄い皮膜でも簡単に皮膜特性を評価することができ、また、測定誤差が小さくて再現性にも秀れた極めて実用性に秀れることになる。
【0091】
また、本実施例は、所定量の噴射材4を再利用できる構成とすることで、砥粒3などを無駄にしない効率的な作業が行なえ、コストの低減化を達成することができ、しかも、装置のコンパクト化を達成することができる。
【0092】
また、本実施例は、所定量の噴射材4(砥粒3)を被験体1の単位面積に衝突させることになるから、摩耗範囲を絞り込んでの評価をしなくても良く、また、被験体1に対する長時間の噴射が可能となり且つ小さな被験体1に対する評価が確実に行え、しかも、何ら大掛かりな動力は必要なく消費エネルギーの少ない動力で済むためコスト面(製造コスト及びランニングコスト)に秀れることになり、そして更に、装置自体のコンパクト化を達成することができることにもなる。
【0093】
また、本実施例は、被験体1に対して所定量の噴射材4の噴射を繰り返し行なえることにより、極めて硬質の被験体1(DLC)であっても該被験体1より軟質の砥粒3(アルミナ)により摩耗させて評価することが出来る。
【0094】
また、本実施例は、噴射された噴射材4は被験体1の表面に衝突した後速やかに落下するため微粒子の砥粒3や摩耗粉が空中に長時間散乱したりせず、従来のエロージョン試験機のように噴射する噴射室内の密閉性を高めたり、砥粒3を回収する集塵フィルタやサイクロンなどの装置を取り付ける必要がなく、装置の小型化が容易となる実用性に秀れたものとなる。
【0095】
また、本実施例は、噴射材収納部6及び噴射材回収部7には撹拌機構9が設けられているから、噴射材4中の砥粒は均一に分散され、常に一定の砥粒濃度で噴射部5に噴射材4が送流されて砥粒濃度のむらによる誤差がなく、しかも噴射部5のノズル8や噴射材供給手段11や噴射材送出手段10を詰まらせにくいより一層実用性に秀れたものとなる。
【0096】
また、本実施例は、固定機構12には回動機構が設けられているから、噴射する噴射材4に対する被験体1の表面の角度を色々と変えて試験を行うことにより皮膜の特性をより一層正確に把握することができるより一層実用性に秀れたものとなる。
【0097】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、例えば金属製品や合成樹脂製品において、表面強度の向上、耐磨耗性の向上若しくは耐食性の向上などの表面改質の為、該製品の表面にメッキ、コーティング、拡散浸透、蒸着若しくは溶射などの方法により設けた皮膜を評価する際に有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 被験体
2 液体
3 砥粒
4 噴射材
5 噴射部
6 噴射材収納部
7 噴射材回収部
8 ノズル
10 噴射材送出手段
11 噴射材供給手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材や合成樹脂材などの被験体の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体に液体に砥粒が混入された噴射材を圧搾空気と共に噴射して該被験体を減量させる噴射部と、この噴射部に供給される所定量の前記噴射材を収納する噴射材収納部と、前記噴射部から噴射された前記噴射材を回収し前記噴射材収納部と別個の噴射材回収部とを具備し、この噴射材回収部で回収された前記噴射材は噴射材送出手段により前記噴射材収納部へ送出されるように構成されており、また、前記被験体に対する所定量の前記噴射材の噴射を繰り返し行なえるように構成されていることを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部における前記噴射材を噴射するノズルの開口形状を1mm以下×1mm以下の方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項3】
請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部における前記噴射材を噴射するノズルの開口形状を1mm×1mmの正方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射材に含まれる砥粒として平均粒径5μm以下の砥粒が採用されていることを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射部は噴射材供給手段を介して前記噴射材収納部から前記噴射材が供給される構成であり、この噴射材供給手段は前記噴射材収納部内を加圧することで前記噴射材を排出して前記噴射部へ供給する構成であることを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項1】
金属材や合成樹脂材などの被験体の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価装置であって、前記被験体に液体に砥粒が混入された噴射材を圧搾空気と共に噴射して該被験体を減量させる噴射部と、この噴射部に供給される所定量の前記噴射材を収納する噴射材収納部と、前記噴射部から噴射された前記噴射材を回収し前記噴射材収納部と別個の噴射材回収部とを具備し、この噴射材回収部で回収された前記噴射材は噴射材送出手段により前記噴射材収納部へ送出されるように構成されており、また、前記被験体に対する所定量の前記噴射材の噴射を繰り返し行なえるように構成されていることを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部における前記噴射材を噴射するノズルの開口形状を1mm以下×1mm以下の方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項3】
請求項1記載の皮膜評価装置において、前記噴射部における前記噴射材を噴射するノズルの開口形状を1mm×1mmの正方形状としたことを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射材に含まれる砥粒として平均粒径5μm以下の砥粒が採用されていることを特徴とする皮膜評価装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の皮膜評価装置において、前記噴射部は噴射材供給手段を介して前記噴射材収納部から前記噴射材が供給される構成であり、この噴射材供給手段は前記噴射材収納部内を加圧することで前記噴射材を排出して前記噴射部へ供給する構成であることを特徴とする皮膜評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−237071(P2010−237071A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86075(P2009−86075)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591205732)マコー株式会社 (12)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591205732)マコー株式会社 (12)
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