説明

盗難防止装置及び盗難防止方法

【課題】盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る盗難防止装置及び盗難防止方法を提供する。
【解決手段】センサ部38におけるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各変位量を1つに纏めた二乗和平方根たるRSS値rを算出し、この時系列に連続した所定個数のRSS値rの平均値である移動平均値avを用いて盗難であるか否かを判定するようにしたことから、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43が、自動二輪車3a,3bの前後方向FRや左右方向LR、上下方向UDとずれていても、自動二輪車3a,3bの盗難の判定を行うことができる。よって、自動二輪車3a,3bに対してセンサ部38の検出方向を気にせずに所望の箇所に設置でき、かくして盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る盗難防止装置1を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は盗難防止装置及び盗難防止方法に関し、例えば自動二輪車に用いられる盗難防止装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車に使用されている盗難防止装置としては、自動二輪車の複数方向における加速度を検出する加速度検出手段と、この加速度検出手段により検出される加速度に基づいて、車両の盗難に伴う異常の有無を判定する判定手段とを備えた車両盗難防止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両盗難防止装置は、1つの加速度検出手段からの出力を基に車両たる自動二輪車の複数の状態を検知でき、装置全体を小型化し、かつコスト低減を図りつつ、高い盗難防止機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3622723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる構成からなる車両盗難防止装置において盗難の判定に必要十分な検知能力を得るためには、例えば直交する2軸方向の加速度を検出する加速度検出手段を用いた場合、当該加速度検出手段の2軸方向と、自動二輪車の前後左右を示す2軸方向とが正確に一致するように設置する必要があり、容易に設置し難いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたもので、盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る盗難防止装置及び盗難防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明において、請求項1記載の発明では、自動二輪車に設けられ、複数の方向の加速度の変化を検出するセンサ部と、前記センサ部における前記複数の方向での各前記加速度の変化量を二乗和平方根した計測値を順次算出し、時系列に所定個数連続した前記計測値の平均を示す移動平均値を算出する算出部と、前記自動二輪車の盗難時に想定される状態を基に予め設定された閾値と、前記移動平均値とに基づいて、盗難防止手段を動作させるか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項2記載の発明では、前記センサ部は、予め設定された時間間隔で前記複数の方向の加速度の変化を検出することを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項3記載の発明では、前記自動二輪車はサイドスタンドとセンタースタンドのうち少なくともいずれか1つを備え、前記判定部は、前記閾値を基に、盗難時に発生する前記自動二輪車の角度変化又は振動を認識することを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項4記載の発明では、前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とが、前記自動二輪車の角度変化と、前記自動二輪車の振動とに分けてそれぞれ個別に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項5記載の発明では、前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とのうち少なくともいずれかの数値を変更可能な設定変更部を備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項6記載の発明では、自動二輪車に設けられたセンサ部によって、複数の方向の加速度の変化を検出する検出ステップと、前記センサ部における前記複数の方向での各前記加速度の変化量を二乗和平方根した計測値を順次算出し、時系列に所定個数連続した前記計測値の平均を示す移動平均値を、算出部によって算出する算出ステップと、前記自動二輪車の盗難時に想定される状態を基に予め設定された閾値と、前記移動平均値とに基づいて、盗難防止手段を動作させるか否かを判定部によって判定する判定ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項7記載の発明では、前記検出ステップは、予め設定された時間間隔で前記複数の方向の加速度の変化を検出することを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項8記載の発明では、前記センサ部がサイドスタンドとセンタースタンドのうち少なくともいずれか1つを備えた前記自動二輪車に設けられており、前記判定ステップは、前記閾値を基に、盗難時に発生する前記自動二輪車の角度変化又は振動を認識する認識ステップを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項9記載の発明では、前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とが、前記自動二輪車の角度変化と、前記自動二輪車の振動とに分けてそれぞれ個別に設定する設定ステップを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項10記載の発明では、前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とのうち少なくともいずれかの数値を、設定変更部により変更する変更ステップを備える
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載及び請求項6記載の発明によれば、センサ部における複数の方向の加速度を基に1つ纏めた移動平均値を用いることから、センサ部が自動二輪車の前後方向や左右方向、上下方向とずれていても、自動二輪車の盗難の判定を行うことができる。よって、自動二輪車に対してセンサ部を所望の箇所に設置でき、かくして盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る盗難防止装置を提供できる。
【0017】
請求項2記載及び請求項7記載の発明によれば、センサ部において複数の方向の加速度の変化を常時検出していないので、その分だけ消費電力を低減できる。
【0018】
請求項3記載及び請求項8記載の発明によれば、サイドスタンドとセンタースタンドのうち少なくともいずれか1つを備えた自動二輪車で発生する角度変化又は振動を基に、盗難の判定を行うことができる。
【0019】
請求項4記載及び請求項9記載の発明によれば、盗難時に生じる自動二輪車の角度変化及び振動に対して、盗難防止手段を動作させるか否かを判定の調整をそれぞれ個別に行うことができる。
【0020】
請求項5記載及び請求項10記載の発明によれば、自動二輪車の盗難時に想定される各状態を参考に、移動平均値の算出に用いる計測値の個数及び又は閾値を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】サイドスタンドを備えた自動二輪車の全体構成を示す概略図である。
【図2】センタースタンドを備えた自動二輪車の全体構成を示す概略図である。
【図3】サイドスタンドフローSSの各状態を示す概略図である。
【図4】センタースタンドフローCSの各状態を示す概略図である。
【図5】盗難防止装置の回路構成を示すブロック図である。
【図6】センサ部の構成を示す概略図である。
【図7】判定処理手順を示すフローチャートである。
【図8】X軸データ、Y軸データ、Z軸データ、RSS値、移動平均値及び閾値の関係を示すタイミングチャートである。
【図9】他の実施の形態による盗難防止装置の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面に基づいて、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0023】
(1)本発明の盗難防止装置が設定される自動二輪車について
図1及び図2において、1は本発明による盗難防止装置を示し、図1は、サイドスタンド2を用いた自動二輪車3aに盗難防止装置1を設置した場合を示し、図1との対応部分に同一符号を付して示す図2は、センタースタンド4を用いた自動二輪車3bに盗難防止装置1を設置した場合を示している。ここでは、先ず初めにこの盗難防止装置1が設置される各自動二輪車3a,3bが、駐車時に盗難される際に、当該自動二輪車3a,3bがどのような状態になるかについて簡単に説明する。
【0024】
(1−1)サイドスタンドを用いた自動二輪車
図1に示すように、自動二輪車3aには、ほぼL状からなるサイドスタンド2が、車体5aの一側部下方に設けられている。実際上、このサイドスタンド2は、車体5aの一側部下方に根元部が回動自在に枢着されており、長手方向が車体下方に向けて起立し地面に対して略垂直になった状態(以下、これをサイドスタンド起立状態と呼ぶ)と、長手方向が車体5aの前後方向FRに沿って配置され地面に対して略水平になった状態(以下、これをサイドスタンド格納状態と呼ぶ)とになり得る。
【0025】
この場合、サイドスタンド2は、自動二輪車3aの駐車時に、サイドスタンド起立状態とされ、先端部が地面に当てられることで、車体5aの左右方向LRのうちサイドスタンド2を設けた一側方向へ車体5aを所定角度に傾けた状態で支持し得る(以下、この状態をサイドスタンド状態と呼ぶ)。なお、この自動二輪車3aでは、サイドスタンド起立状態にあるサイドスタンド2が根元部を中心に車体後方へ回動されることにより、サイドスタンド格納状態となり、サイドスタンド2の先端部が地面に当たることなく容易に移動させ得るようになされている。
【0026】
このようなサイドスタンド2を用いた自動二輪車3aにおいては、駐車時に盗難される際、一般的に、図3に示すサイドスタンドフローSSのような状態となり得る。実際上、サイドスタンドフローSSに示すように、自動二輪車3aは、先ず初めに車体が傾いたサイドスタンド状態から第三者によって車体5aが正立される(ステップSS1−1)。
【0027】
次いで、自動二輪車3aは、この状態のまま第三者により車体5aが押されると共に、押し歩き時に当該車体5aが左右方向LRに傾けられて旋回され(ステップS2−1)、所定の場所まで運ばれる。また、自動二輪車3aは、第三者による車体5aの押し歩き時に、地面の起伏により車体5aが傾くこともある(ステップS2−2)。さらに、自動二輪車3aがトラックの荷台等に積み込まれたり、或いはフロントタイヤ7を浮かせた状態で移動されるときには、例えば前後方向FRや上下方向UD等に車体5aが傾いた状態となる(ステップS2−3)。
【0028】
そして、この盗難防止装置1では、サイドスタンド2を備えた自動二輪車3aにおいて、サイドスタンドフローSSの各状態における車体5aの角度変化の傾向を基に、後述する閾値が予め設定され、当該閾値を基準にサイドスタンドフローSSの各状態となったか否かを判定し、自動二輪車3aの盗難を推測することになる。
【0029】
(1−2)センタースタンドを用いた自動二輪車
次にセンタースタンド4を用いた自動二輪車3bについて説明する。図2に示すように、自動二輪車3bには、Π状からなり、対向する脚部5の先端部間が根元部間よりも幅広に形成されたセンタースタンド4が、車体5bの中央下部に設けられている。
【0030】
実際上、このセンタースタンド4は、脚部5間にある中間部(図示せず)が車体5bのほぼ中央下部に回動自在に枢着されており、脚部5の長手方向が車体下方に向けて起立して地面に対し略垂直になった状態(以下、これをセンタースタンド起立状態と呼ぶ)と、脚部5の長手方向が車体5bの前後方向FRに沿って配置され地面に対し略水平になった状態(以下、これをセンタースタンド格納状態と呼ぶ)とになり得る。
【0031】
この場合、センタースタンド4は、自動二輪車3bの駐車時に、各脚部5の先端部が地面に当てられてセンタースタンド起立状態とされることで、脚部5によりリヤタイヤ8を浮かせて車体5bを略垂直に起立させた状態で支持し得る(以下、この状態をセンタースタンド状態と呼ぶ)。なお、この自動二輪車3bでは、センタースタンド起立状態にあるセンタースタンド4が中間部を中心に車体後方へ回動されることにより、センタースタンド格納状態となりリヤタイヤ8が地面に接地し、センタースタンド4の先端部が地面に当たることなく容易に移動させ得るようになされている。
【0032】
このようなセンタースタンド4を用いた自動二輪車3bにおいては、駐車時に盗難される際、一般的に、図4に示すセンタースタンドフローCSのような状態となり得る。実際上、センタースタンドフローCSに示すように、自動二輪車3bは、先ず初めにセンタースタンド状態にあるセンタースタンド4が第三者によって後方へ回動されることにより、センタースタンド状態が解除されてセンタースタンド格納状態となる。このとき自動二輪車3bは、センタースタンド4が車体5bの下部に衝突することにより、格納衝撃が車体5bに伝わり車体5bが振動する(ステップCS1−1)。
【0033】
また、このとき自動二輪車3bは、センタースタンド4により車体5bが支持されることで空中に浮いていたリヤタイヤ8が、センタースタンド格納状態となることで地面に衝突し、この衝撃も車体5bに伝わり車体5bが振動する(ステップCS1−2)。さらに、この自動二輪車3bは、センタースタンド格納状態にする際、空中に浮いていたリヤタイヤ8が接地することで、車体5bに対し前後方向FR等に傾きが生じる(ステップCS1−3)。
【0034】
次いで、自動二輪車3bは、上述のサイドスタンド2を用いた自動二輪車3aと同様に、この状態のまま第三者により車体5bが押されると共に、押し歩き時に当該車体5bが左右方向LRに傾けられて旋回され(ステップS2−1)、所定の場所まで運ばれる。また、自動二輪車3bは、第三者による車体5bの押し歩き時に、地面の起伏により車体5bが傾くこともある(ステップS2−2)。さらに、自動二輪車3bがトラックの荷台等に積み込まれたり、或いはフロントタイヤ7を浮かせた状態で移動されるときには、例えば前後方向FRや上下方向UD等に車体5bが傾いた状態となる(ステップS2−3)。
【0035】
そして、この盗難防止装置1では、センタースタンド4を備えた自動二輪車3bにおいて、センタースタンドフローCSにおけるステップCS1−1、CS1−2、S2−1〜S2−2の各状態における車体5aの角度変化の傾向と、センタースタンドフローCSにおけるステップCS1−3の状態における車体5aの振動の傾向とを基に、後述する閾値が予め設定され、当該閾値を基準にセンタースタンドフローCSの各状態となったか否かを判定し、自動二輪車3aの盗難を推測することになる。
【0036】
(2)盗難防止装置について
次に本発明による盗難防止装置1の構成について以下説明する。図5に示すように、盗難防止装置1は、当該盗難防止装置1を統括的に制御するCPU(Central Processing Unit)31に対して、スピーカ32と、判定部33と、操作部34と、算出部35と、RAM(Random Access Memory)36と、A/D変換部37と、センサ部38とが接続されており、当該センサ部38が信号処理部39を介してA/D変換部37に接続された構成を有する。なお、この盗難防止装置1では、例えば出力電圧及び基準電圧が3V、センサ部38の出力が500mV、サンプリング周波数100Hz、A/D変換部37が量子化10bitで0.00586mGを1ADCとしてデジタル変換し、信号処理部39に1kHzのローパスフィルタを備えたシステム構成を有する。
【0037】
(2−1)データ記録処理
ここでセンサ部38は、図6に示すように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸からなる3軸方向に対する各加速度を検出し得るようになされている。この実施の形態の場合、センサ部38は、例えばX軸方向の加速度を検出するX軸検出部41と、Y軸方向の加速度を検出するY軸検出部42と、Z軸方向の加速度を検出するZ軸検出部43とを有している。これらX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43は、自動二輪車3a,3bの駐車時に盗難防止装置1の電源がオンされると、CPU31からの検出命令に基づいてそれぞれ各軸方向の加速度を検出し得るように配置されている。
【0038】
ここではX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43が同一構成でなることから、例えばX軸検出部41について着目してその構成を簡単に説明する。この場合、X軸検出部41は、2つの固定基板51,52間に可動基板53が配置されており、X軸方向に加わる慣性力により当該可動基板53が固定基板51,52間を振動し得るようになされている。X軸検出部41は、自動二輪車3a,3bの駐車時、温度ドリフト(周囲温度の変化によって出力値が変化してしまう現象)等を考慮して設定された条件にて、盗難防止装置1の電源がオンされると、この駐車時に固定基板51,52間で静止している可動基板53の位置を基準値として設定し得る。
【0039】
X軸検出部41は、駐車状態の自動二輪車3a,3bが第三者により動かされると、これに応じて固定基板51,52及び可動基板53間の隙間の幅が変化し、これにより生じる固定基板51,52及び可動基板53間の静電容量の変化を電圧変化として検出し得る。
【0040】
このように、盗難防止装置1では、データ記録処理を実行することにより、X軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43において基準値からの電圧変化をそれぞれ検出し、これら電圧変化をアナログ信号で得、これをA/D(アナログデジタル)変換し、その結果得られたデジタル信号をRAM36に格納し得るようになされている。実際上、この実施の形態の場合、センサ部38は、図5に示したように、CPU31から供給されるサンプリング情報を基に、例えばX軸検出部41の電圧変化を所定のサンプリング周波数(100Hz)で間欠的に検出したアナログのX軸検出信号を生成して、当該X軸検出信号を信号処理部39に送出する。
【0041】
信号処理部39は、X軸検出部41から受け取ったX軸検出信号に対し、信号増幅処理や、ローパスフィルタによるフィルタ処理、補正処理等の所定の信号処理を施した後、これをX軸加速度信号としてA/D変換部37に送出する。A/D変換部37は、X軸加速度信号を量子化(10bit)してデジタル信号に変換したX軸変化量△Xを生成し、これをX軸データXDとしてRAM36に格納し得るようになされている。
【0042】
センサ部38は、同様にしてY軸検出部42及びZ軸検出部43でも、自動二輪車3a,3bの駐車時、温度ドリフト等を考慮して設定された条件にて、電源がオンされると、自動二輪車3a,3bの駐車状態を基準として、Y軸検出部42及びZ軸検出部43の各基準値を「0」に設定し得る。
【0043】
センサ部38は、データ記録処理を実行することにより、CPU31から供給されるサンプリング情報を基に、Y軸検出部42及びZ軸検出部43でも各電圧変化を所定のサンプリング周波数(100Hz)で間欠的に検出したアナログのY軸検出信号及びZ軸検出信号を生成し、これらを信号処理部39を介してA/D変換部37に送出する。
【0044】
A/D変換部37は、Y軸加速度信号を量子化(10bit)してデジタル信号に変換したY軸変化量△Yを生成し、これをY軸データYDとしてRAMに格納し得るとともに、同じくZ軸加速度信号を量子化(10bit)してデジタル信号に変換したZ軸変化量△Zを生成し、これをZ軸データZDとしてRAM36に格納し得るようになされている。
【0045】
また、かかる構成にこれに加えて盗難防止装置1では、自動二輪車3a,3bの駐車時、上述したデータ記録処理と同時に判定処理を実行することにより、X軸データXD、Y軸データYD及びZ軸データZDを1つに纏めた移動平均値(後述する)を算出し、駐車中の自動二輪車3a,3bが第三者により動かされたか否かを、移動平均値を基に判定し得るようになされている。
【0046】
(2−2)判定処理
次に、この判定処理の一例について、図5に示した盗難防止装置1の回路図と、図7に示すフローチャートとを用いて説明する。CPU31は、自動二輪車3a,3bが駐車状態のときに電源がオンされると、ルーチンRT2の開始ステップから入って判定処理を開始してステップSP21に移る。ステップSP21においてCPU31は、算出部35によってX軸データXD、Y軸データYD及びZ軸データZDに基づいてRSS(Root Sum Square 二乗和平方根)値rを算出させる。実際上、CPU31は、同じタイミングで生成されたX軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△Zを読み出し、次の式1に示すように、計測値として、これらX軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△Zを二乗和平方根し1つに纏めたRSS値rを算出部35で算出させる(数1中、X軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△Zについて単に△X、△Y及び△Zと表す)。
【0047】
【数1】

【0048】
次にステップSP22においてCPU31は、所定の数(所定個数、例えば5つ)のRSS値rが算出されたか否かを判定する。ここで肯定結果が得られると、このことは判定処理の開始から所定時間が経過し、連続する所定数のRSS値rが算出されていることを表しており、このときCPU31は次のステップSP23に移り、後述する移動平均値avを算出する。
【0049】
ステップSP23でCPU31は、例えば所定数として「5」が設定されている場合、最新のRSS値(以下、これを最新RSS値と呼ぶ)rを含め、当該最新RSS値rから連続する過去の4つのRSS値rを読み出し、これら5つのRSS値rを全て加算した加算値を当該所定数の「5」で除算することにより移動平均値avを算出する。このようにしてCPUは、最新RSS値rと、当該最新RSS値rから時系列に連続した過去の複数のRSS値rとからなる所定数のRSS値rを平均化した移動平均値avを算出し得るようになされている。
【0050】
ここで図8は、信号処理部39で1kHzのローパスフィルタを通し、サンプリング周波数100HzのX軸加速度信号、Y軸加速度信号及びZ軸加速度信号を量子化(10bit)したX軸データXD、Y軸データYD及びZ軸データZDと、これらから算出されたRSS値r及び移動平均値avとの関係を示したグラフである。
【0051】
ステップSP24においてCPU31は、上述したステップSP23で算出した移動平均値avが、判定部33に予め設定された所定の閾値以上であるか否か(移動平均値av≧閾値)を当該判定部33によって判定させる。ここで、判定部33に設定される閾値は、上述したサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの各状態を参考に設定されており、これらサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの各状態を、移動平均値avを基に検知し得る数値に設定されている。
【0052】
すなわち、ステップSP24において肯定結果が得られると、このことは移動平均値avが閾値以上の値であること、すなわちサイドスタンドフローSS又はセンタースタンドフローCSの状態に自動二輪車3a,3bがあることを表しており、このときCPU31は次のステップSP25に移る。ステップSP25においてCPU31は、スピーカ32からアラーム音を出力し、次のステップSP26に移り上述した判定処理を終了する。これに対してステップSP24で否定結果が得られると、このことは移動平均値avが閾値以下の値であること、すなわちサイドスタンドフローSS又はセンタースタンドフローCSの状態に自動二輪車3a,3bがないことを表しており、このときCPU31は再びステップSP21に戻り上述した処理を繰り返す。
【0053】
このようにCPU31は、ステップSP24において肯定結果が得られるまで、ステップSP21〜ステップSP24を繰り返すことにより、移動平均値avが閾値以上になるまで新たなRSS値rを算出させ、最新RSS値rと、当該最新RSS値rから時系列に連続した過去の複数のRSS値rとからなる所定数のRSS値rを平均化した移動平均値avを算出させ得るようになされている。
【0054】
(3)動作及び効果
以上の構成において、盗難防止装置1では、自動二輪車3a,3bの駐車時、温度ドリフトを考慮して設定された条件にて、電源がオンされると、データ記録処理を実行し、自動二輪車3a,3bの駐車状態を基準として、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43の各基準値を「0」に設定し、自動二輪車3a,3bの角度変化や振動を各基準値からの変化量で表し、量子化されたX軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△Zを、所定間隔で間欠的に生成する。
【0055】
また、盗難防止装置1では、データ記録処理と同時に判定処理を実行し、同じタイミングで生成されたX軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△Zを1つに纏めた二乗和平方根のRSS値rを算出し、このRSS値rの算出数が予め設定された所定数に達すると、最新RSS値rを含め連続する過去の複数のRSS値rでなる所定数のRSS値rから、これらRSS値rの平均値を示す移動平均値avを算出する。
【0056】
盗難防止装置1では、この移動平均値avが予め設定された閾値以上であるか否かを判定部33で判定し、当該移動平均値avが閾値以上のときに自動二輪車3a,3bがサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態にあると推測し、スピーカ32からアラーム音を出力することにより警報を行い、第三者をアラーム音によって威嚇することができる。
【0057】
このように盗難防止装置1では、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43からの検知結果を基に、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各変位量を1つに纏めたRSS値rを算出し、連続する所定数のRSS値rから算出した移動平均値avを基に盗難の判定を行うようにしたことにより、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43を、自動二輪車3a,3bの前後方向FRや左右方向LR、上下方向UDに対して正確に一致させなくとも、盗難の判定を行うことができる。
【0058】
従ってこの盗難防止装置1では、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43を、自動二輪車3a,3bの前後方向FRや左右方向LR、上下方向UDに対し正確に一致させる手間を省くことができ、かくして盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る。
【0059】
また、この盗難防止装置1では、センサ部38においてX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の加速度の変化量を所定のサンプリング周波数で間欠的に検出し、その結果得られたX軸検出信号、Y軸検出信号及びZ軸検出信号を量子化したX軸変化量△X、Y軸変化量△Y及びZ軸変化量△ZからRSS値を算出するようにしたことにより、センサ部38においてX軸検出信号、Y軸検出信号及びZ軸検出信号を常時検出する場合に比して、消費電力を低減させることができる。
【0060】
以上の構成によれば、センサ部38からの複数の方向の加速度を1つに纏めたRSS値(計測値)を、算出部35によって順次算出し、自動二輪車3a,3bの盗難時に想定される状態を基に予め設定された閾値と、時系列に連続した複数のRSS値の変化傾向を示した移動平均値avとに基づいて、スピーカ32からアラーム音を出力させるか否かを判定するようにした。
【0061】
このように本発明では、センサ部38におけるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各変位量を1つに纏めた移動平均値avを用いることから、センサ部38のX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43が、自動二輪車3a,3bの前後方向FRや左右方向LR、上下方向UDとずれていても、自動二輪車3a,3bの盗難の判定を行うことができる。よって、自動二輪車3a,3bに対してセンサ部38の検出方向を気にせずに所望の箇所に設置でき、かくして盗難の判定に必要十分な検知能力を得つつ、従来よりも容易に設置し得る盗難防止装置1を提供できる。
【0062】
(4)他の実施の形態
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。図5の対応部分に同一符号を付して示す図9において、71は本発明による他の実施の形態による盗難防止装置を示し、上述した実施の形態とは操作部34が設けられている点で相違している。この場合、盗難防止装置71は、図7に示したステップSP22における所定数と、ステップSP24における閾値とを、操作部34によって任意の数値に設定可能に構成されている。
【0063】
この場合、設定変更部としての操作部34は、移動平均値avの算出時における連続するRSS値rの加算個数を決定するための所定数の数値が入力されることにより、算出部35に設定されている当該所定数を任意の数値に変更させ、最新RSS値rから時系列に連続した過去の複数のRSS値rまでの平均化の程度を調整し得るようになされている。
【0064】
また、操作部34は、新たな閾値が入力されることにより、判定部33に設定された閾値を任意の数値に変更させ、自動二輪車3a,3bがサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態にあると推測する基準を、閾値を変更することで調整し得るようになされている。
【0065】
以上の構成において、盗難防止装置71では、移動平均値avを算出する際のRSS値rの所定数(所定個数)や、盗難を判定する基準となる閾値の数値を、操作部34によりそれぞれ自由に変更可能としたことにより、自動二輪車3a,3bの盗難時に想定されるサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの各状態を参考に、移動平均値avの算出時の所定数や閾値を調整でき、これらサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化と振動を容易に検知させ、盗難の判定をさせることができる。
【0066】
また、その他の実施の形態としては、例えばサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化と、自動二輪車3a,3bの振動との2種類に対して、それぞれ個別に所定数を設定しておき、これら所定数を利用して2つの移動平均値avをそれぞれ算出するようにしてもよい。
【0067】
この場合、判定部33には、サイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化と、自動二輪車3bの振動とに応じてそれぞれ別々に角度閾値及び振動閾値が設定され得る。
【0068】
これにより盗難防止装置1,71では、サイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化を検知するために設定された一方の移動平均値avが、角度閾値以上になったとき、サイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態における自動二輪車3a,3bの角度変化が発生したと推測し、スピーカ32からアラーム音を出力し得る。
【0069】
また、盗難防止装置1,71では、センタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3bの振動を検知するために設定された他方の移動平均値avが、振動閾値以上になったとき、センタースタンドフローCSの状態における自動二輪車3a,3bの振動が発生したと推測し、スピーカ32からアラーム音を出力し得る。
【0070】
かくして、盗難防止装置1,71では、サイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化及び振動に対して、スピーカ32からアラーム音を出力させるか否かの判定の調整をそれぞれ個別に行うことができ、かくして盗難判定の感度調整を行うことができる。
【0071】
因みに、上述したサイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態で生じる自動二輪車3a,3bの角度変化と、自動二輪車3bの振動とに応じてそれぞれ別々に設定された所定数や、角度閾値、振動閾値は、操作部34によってそれぞれ任意の数値に設定変更可能に構成するようにしてもよく、この場合、移動平均値avの算出時の2つの所定数や角度閾値、振動閾値を、自動二輪車3a,3bの車種や、サイドスタンドフローSS及びセンタースタンドフローCSの状態における自動二輪車3a,3bの角度変化及び振動に応じて個別に調整することができ、各種状況に合わせて盗難の判定をさせることができる。
【0072】
また、上述した実施の形態においては、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸からなる3軸方向に対応してそれぞれX軸検出部41、Y軸検出部42及びZ軸検出部43を個別に設けたセンサ部38を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、X軸、Y軸及びZ軸からなる3軸方向の加速度を1つの検知部により検出するセンサ部を適用してもよい。また、センサ部としては、ピエゾ抵抗効果を利用したピエゾ抵抗型のセンサ部や、圧電効果(圧電素子表面に発生する電荷量)を利用した圧電型のセンサ部等この他種々のセンサ部を適用してもよい。
【0073】
さらに、上述した実施の形態においては、盗難防止手段として、アラーム音を出力することにより警報を行うスピーカ32を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、所定の管理装置に無線通信により通報を行う通信部や、電源部から自動二輪車3a,3bへの電力の供給を遮断する電力遮断部等この他種々の盗難防止手段を適用してもよい。
【0074】
さらに、上述した実施の形態においては、サイドスタンド2を用いた自動二輪車3aと、センタースタンド4を用いた自動二輪車3bとについて適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、サイドスタンド2及びセンタースタンド4の両方を備えた自動二輪車に適用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 盗難防止装置
3a,3b 自動二輪車
32 スピーカ(盗難防止手段)
33 判定部
34 操作部(設定変更部)
35 算出部
38 センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車に設けられ、複数の方向の加速度の変化を検出するセンサ部と、
前記センサ部における前記複数の方向での各前記加速度の変化量を二乗和平方根した計測値を順次算出し、時系列に所定個数連続した前記計測値の平均を示す移動平均値を算出する算出部と、
前記自動二輪車の盗難時に想定される状態を基に予め設定された閾値と、前記移動平均値とに基づいて、盗難防止手段を動作させるか否かを判定する判定部と
を備えることを特徴とする盗難防止装置。
【請求項2】
前記センサ部は、予め設定された時間間隔で前記複数の方向の加速度の変化を検出する
ことを特徴とする請求項1記載の盗難防止装置。
【請求項3】
前記自動二輪車はサイドスタンドとセンタースタンドのうち少なくともいずれか1つを備え、
前記判定部は、前記閾値を基に、盗難時に発生する前記自動二輪車の角度変化又は振動を認識する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の盗難防止装置。
【請求項4】
前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とが、前記自動二輪車の角度変化と、前記自動二輪車の振動とに分けてそれぞれ個別に設定されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の盗難防止装置。
【請求項5】
前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とのうち少なくともいずれかの数値を変更可能な設定変更部を備える
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の盗難防止装置。
【請求項6】
自動二輪車に設けられたセンサ部によって、複数の方向の加速度の変化を検出する検出ステップと、
前記センサ部における前記複数の方向での各前記加速度の変化量を二乗和平方根した計測値を順次算出し、時系列に所定個数連続した前記計測値の平均を示す移動平均値を、算出部によって算出する算出ステップと、
前記自動二輪車の盗難時に想定される状態を基に予め設定された閾値と、前記移動平均値とに基づいて、盗難防止手段を動作させるか否かを判定部によって判定する判定ステップと
を備えることを特徴とする盗難防止方法。
【請求項7】
前記検出ステップは、予め設定された時間間隔で前記複数の方向の加速度の変化を検出する
ことを特徴とする請求項6記載の盗難防止方法。
【請求項8】
前記センサ部がサイドスタンドとセンタースタンドのうち少なくともいずれか1つを備えた前記自動二輪車に設けられており、
前記判定ステップは、前記閾値を基に、盗難時に発生する前記自動二輪車の角度変化又は振動を認識する認識ステップを備える
ことを特徴とする請求項6又は7記載の盗難防止方法。
【請求項9】
前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とが、前記自動二輪車の角度変化と、前記自動二輪車の振動とに分けてそれぞれ個別に設定する設定ステップを備える
ことを特徴とする請求項6〜8のうちいずれか1項記載の盗難防止方法。
【請求項10】
前記移動平均値を算出する際に用いる前記計測値の個数と、前記閾値とのうち少なくともいずれかの数値を、設定変更部により変更する変更ステップを備える
ことを特徴とする請求項6〜9のうちいずれか1項記載の盗難防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−37332(P2011−37332A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184600(P2009−184600)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(390005430)株式会社ホンダアクセス (205)