説明

目周囲の肌色改善器具

【課題】目周囲に生じたくまやくすみ、むくみ等を低減し得る器具を提供すること。
【解決手段】被酸化性金属の酸化反応を利用して発生する、水蒸気を伴う熱を目周囲に適用する目周囲の肌色改善器具1である。該器具1は、水蒸気を伴う熱を付与し得る、面積1500〜4000mm2の水蒸気発生部6を有している。水蒸気発生部1は、使用者
の内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆うような形状を有している。更に前記器具1を使用者の目周囲に当接させた状態下で、8〜15分間にわたり当接部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満に維持し得る水蒸気発生能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目周囲に生じたくまやくすみ、むくみを低減させるために用いられる目周囲の肌色改善器具及び改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、化学エネルギーを利用した水蒸気発生部を有し、目及び目の周囲に適用される水蒸気発生体であって、該水蒸気発生体表面から放出される水蒸気温度が50℃以下に制御されていることを特徴とする目用水蒸気発生体を提案した(特許文献1参照)。この水蒸気発生体は、眼精疲労や、その他の問題を引き起こす目の乾きに効果がある。また、水蒸気温度が50℃以下に制御されているので、心地よく安全に使用することができる。
【0003】
目の機能を改善させる器具として、本出願人は、前記の水蒸気発生体の他に、視力改善治療具やマイボーム腺機能改善治療具も提案している(特許文献2及び3参照)。
【0004】
今日の情報が氾濫する社会においては、目を酷使する場面がますます増加し、それに伴い、目及び目周囲の機能改善の必要性が一層高まっている。従って、前述した各種の目の機能改善用の器具の他に、目の様々な機能改善効果を有する器具が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−5209号公報
【特許文献2】特開2002−65714号公報
【特許文献3】特開2002−78727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、目周囲の機能を改善し得る器具及び改善方法を提供することにある。特に、目周囲に生じたくまやくすみ、むくみを低減し得る器具及び改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被酸化性金属の酸化反応を利用して発生する、水蒸気を伴う熱を目周囲に適用する目周囲の肌色改善器具であって、
前記器具は、水蒸気を伴う熱を付与し得る、面積1500〜4000mm2の水蒸気発生部を有しており、
該水蒸気発生部は、使用者の内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆うような形状を有し、更に前記器具を使用者の目周囲に当接させた状態下で、8〜15分間にわたり当接部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満に維持し得る水蒸気発生能を有している目周囲の肌色改善器具を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】
また本発明は、内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆う面積1500〜4000mm2の部位に、8〜15分間にわたり該部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満に維持し得る水蒸気を伴う熱を付与する目周囲の肌色改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目周囲の広い範囲にわたって水蒸気を伴う熱を付与することによって目周囲の血行が改善され、その結果、目周囲に生じたくまやくすみ、むくみ等を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】目周囲の器官を示す説明図である。
【図2】本発明の目周囲の肌色改善器具の一実施形態を示す平面図である。
【図3】図1におけるII−II線断面図である。
【図4】図2に示す肌色改善器具の適用状態を示す模式図である。
【図5】本発明の目周囲の肌色改善器具の別の実施形態を示す平面図(図2相当図)である。
【図6】B*値に関する臨床試験の結果を示すグラフである。
【図7】L*値に関する臨床試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目周囲の肌色改善器具は、目周囲の広い範囲にわたって水蒸気を伴う熱を付与するものである。ここで言う目の周囲とは、開眼状態における眼瞼裂の外側の領域をいい、眼窩の領域を含み且つそれよりも広い領域を指す。また、熱の付与とは、肌色改善器具を直接に肌へ接触させて熱を付与すること、及び水蒸気の透過が可能な介在物を介して間接的に肌へ接触させて熱を付与することの双方を包含する。以下の説明においては、水蒸気を伴う熱を湿熱という。また湿熱との対比で、水蒸気を伴わない熱、例えば市販の使い捨てカイロから発生する熱を乾熱という。
【0012】
本発明においては、被酸化性金属の酸化反応を利用することで湿熱を発生させている。湿熱の発生部位を本発明においては水蒸気発生部という。水蒸気発生部は、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅等からなる被酸化性金属の粉末、触媒となる塩類(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩化物等)、及び水を含有している。後述するように、被酸化性金属の粉末は、これを含有する粉状混合物の形態で、又はこれを含有するシート状物の形態で、水蒸気発生部に含まれている。
【0013】
湿熱を発生させる手段には、本発明で採用している被酸化性金属の酸化反応を利用する手段の他に、電気ヒーターや超音波を利用した手段が知られている。しかし、電気ヒーターや超音波を利用した手段は装置を小型化しづらく可搬性に欠ける。また使用場面が限られる。これに対して、本発明のように被酸化性金属の酸化反応を利用すると、携帯性が良好になり、様々な使用場面において随時、簡便に、湿熱を発生させることができる。
【0014】
本発明の肌色改善器具における水蒸気発生部は、使用者の内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆うような形状を有している。更に水蒸気発生部は、その面積が1500〜4000mm2、好ましくは2000〜3000mm2となっている。肌色改善器具を使用者に適用すると、使用者の肌における水蒸気発生部の面積に対応した面積の部位に湿熱が付与される。水蒸気発生部の面積を1500mm2以上とすることで、目周囲に十分な湿熱を付与することができ、くまやくすみ、むくみ等を改善することができる。一方、面積を4000mm2以下とすることで、経済的に不利にならない範囲で十分な改善効果を得ることができる。
【0015】
上眼瞼及び下眼瞼は、図1中、A及びBで示す部位である。また内眼角は、上眼瞼Aと下眼瞼Bとの内側(鼻側)の端部であり、図1中、Cで示される部位である。外眼角は、上眼瞼Aと下眼瞼Bとの外側(耳側)の端部であり、図1中、Dで示される部位である。水蒸気発生部は、幅方向(使用者の顔の横方向)に関して、内眼角Cと、外眼角の外側20mmの位置Eとの間の領域に湿熱を付与する。一方、縦方向(使用者の顔の縦方向)に関して、水蒸気発生部は、少なくとも上眼瞼の上端部から下眼瞼の下端部までの領域に湿熱を付与する。
【0016】
使用者によって顔のサイズにはばらつきがあるものの、水蒸気発生部は、幅方向の長さが40〜80mm、特に50〜70mmであれば、使用者の顔の横方向に関して、目の周囲に確実に湿熱を付与することができる。一方、水蒸気発生部の縦方向の長さは、幅方向の長さ及び先に述べた湿熱の付与面積から決定される。具体的には、縦方向の長さが30〜70mm、特に40〜60mmであれば、使用者の顔の縦方向に関して、目の周囲に確実に湿熱を付与することができる。
【0017】
本発明の肌色改善器具における水蒸気発生部は、該器具を使用者の目周囲に当接させた状態下で、3〜15分間、好ましくは8〜15分間にわたり当接部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満、好ましくは39〜41℃に維持し得る水蒸気発生能を有している。このような水蒸気の発生能を有する肌色改善器具を目周囲に適用することで、後述する実施例において例証されるように、目周囲に生じたくまやくすみ、むくみ等が顕著に低減される。例えば図1に示されるように、目の上下の領域I、IIに生じたくまやむくみ、目尻IIIに生じたくま等が顕著に低減される。皮膚表面温度とは、接触型温度計、例えば熱電対によって測定された皮膚表面の温度をいう。なお、前記の水蒸気発生能は、使用者の目周囲に肌色改善器具を適用した場合の測定値であるが、目には肌色改善器具を適用せず、目周囲にのみ肌色改善器具を適用することは困難なので、実際の測定においては、目及び目周囲の双方に肌色改善器具を適用し、目周囲での皮膚表面温度を測定する。
【0018】
肌色改善器具が、前記の水蒸気発生能を有するためには、該器具は被酸化性金属の酸化反応による発熱に起因する最高到達温度が38℃以上であることが好ましい。また、低温やけど等を防止する観点から最高到達温度が60℃以下であることが好ましい。最高到達温度は、JIS S4100に従い測定され、最高点に到達した温度の値を言う。
【0019】
また、肌色改善器具が、前記の水蒸気発生能を有するためには、水蒸気の積算発生量をコントロールすることも好ましい。具体的には、肌色改善器具における水蒸気の積算発生量は、0.1〜30mg/10min・cm2、特に5〜10mg/10min・cm2であることが好ましい。水蒸気の積算放出量とは、肌色改善器具に含まれる被酸化性金属に酸化反応を生じさせてから10分間経過するまでに放出された水蒸気の総量をいう。水蒸気の積算放出量は次の方法で測定される。温度20℃、湿度40%RHとした容積37867.5cm3(縦25.5cmx横45.0cmx奥行き33.0cm)の密閉系内に、その内部に水蒸気が蒸散可能なように肌色改善器具を静置して化学反応を生じさせる。そして、前記密閉系内の空気の湿度を湿度計で測定し、酸化反応開始後に発生する水蒸気量を求める。そして10分間経過するまでの積算値を積算放出量とする。
【0020】
肌色改善器具における水蒸気発生能や最高到達温度、積算発生量をコントロールするためには、例えば水蒸気発生部で酸化させる被酸化性金属及び反応促進剤の量やその粒径、反応物の供給量等を適宜変えることにより反応速度を調整すればよい。また、被酸化性金属と肌との間に透湿性シートを介在させて、水蒸気発生部から放出された水蒸気の透過量を調整することにより水蒸気発生能をコントロールしてもよい。
【0021】
一般に目の周囲のくまは、(イ)真皮(dermal)タイプ、(ロ)表皮(epidermal)タイプ及び(ハ)両者の混合タイプの三種類に分類される。(イ)の真皮タイプは血行不良に由来しており、目の下が、主として赤みがかった青に見える。目を閉じると、約30秒後に色はほとんど消失する。紫外線では色は観察されない。(ロ)の表皮タイプはメラニン色素に由来しており、目の下が、茶色がかった紫に見える。目を閉じても色は消失しない。紫外線によって、紫や茶色の暗い色が観察される。(ハ)混合タイプの色は青から茶色である。目を閉じると、約30秒後に色はほとんど消失する。紫外線によって、紫や茶色の暗い色が観察される。本発明の肌色改善器具はこれらのタイプのくまの低減に有効である。特に、後述する実施例において例証されるように、真皮タイプのくまの低減に有効である。
【0022】
肌色改善器具は、水蒸気の放出可能部位が使用者の肌に対向するように使用される。本発明者らが検討したところ、湿熱によって目周囲を温めると、同温度で水蒸気発生量の少ない一般の使い捨てカイロで同部位を温めた場合に比べて(即ち乾熱で温めた場合に比べて)、目周囲の血行が促進されることが判明した。また加温をやめた後も数十分に亘り温度の上昇が持続することが判明した。この理由を本発明者らが検討したところ、湿熱は熱伝導性が高く、適用部位の皮膚表面温度のみならず、人体の深部の温度を高め得ることが判明した。血流の増加によって鬱血状態が解消され、目周囲のくまやすくみ、むくみ等が低減されると考えられる。
【0023】
蒸しタオルを目に当てて眼精疲労や目の乾きを癒すことは民間療法として対処療法的に行われていた。しかし目周囲の特定の領域に、特定の条件の湿熱を付与することによって目周囲のくまやくすみ、むくみ等が顕著に低減されることは知られておらず、本発明者らが初めて見出したものである。
【0024】
次に、本発明の肌色改善器具の好ましい実施形態を図面を参照しながら説明する。図2には本発明の肌色改善器具の一実施形態が示されている。図3は図2におけるIII−III線断面図である。本実施形態の肌色改善器具1はアイマスクの形状をしている。肌色改善器具1は、複数のシート材を貼り合わせて構成されている。肌色改善器具1の基本構成部材は、透湿性素材部2と難透湿性素材部3である。両素材部2,3は同形であり、環状の封止部4によって封止されている。これによって袋状の空間が形成される。この空間内には、被酸化性金属5が収容される。その結果、それぞれの目に対応した水蒸気発生部6が2カ所形成されている。水蒸気は、透湿性素材部2の側から放出される。難透湿性素材部3は水蒸気を通過させにくい。つまり、水蒸気は、肌色改善器具1の一方の側である、透湿性素材部2の側のみから外部へ放出される。
【0025】
透湿性素材部2としては、水蒸気は透過させるが水は透過させにくい合成紙やフィルムが用いられる。そのような素材としては、例えばポリオレフィン系素材の合成紙や微細孔を有するポリオレフィン系フィルムなどが挙げられる。ポリオレフィン系フィルムは例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどのサニタリー製品における透湿性バックシートとして良く知られたものである。なお前述した通り水蒸気は透湿性素材部2を通じて外部へ放出されることから、本実施形態の肌色改善器具1は、透湿性素材部2の側が肌と対向するように用いられる。そこで装着感を高める観点から、図3に示すように、透湿性素材部2の外面には風合いの良好なシート材料であるエアスルー不織布等の不織布2’が配されている。従って、湿熱シート1の使用時には不織布2’が身体に対向することになる。不織布2’は、透湿性素材部2や難透湿性素材部3と同形をしている。
【0026】
一方、難透湿性素材部3としては、水蒸気も水も透過させにくいフィルム、例えば微細孔を有しないポリオレフィン系フィルムやポリエステル系フィルムなどが用いられる。なお図3に示すように、難透湿素材部3の外面には、肌色改善器具1の風合いを向上させる目的で、エアスルー不織布等の不織布3’がラミネートされている。不織布3’は、透湿性素材部2や難透湿性素材部3と同形をしている。
【0027】
水蒸気発生部6は、目周囲を覆う横長の略楕円形をしている。目周囲を確実に覆う観点から水蒸気発生部6は、その長径が40〜80mm、特に50〜70mmであることが好ましく、短径が30〜70mm、特に40〜60mmであることが好ましい。このような寸法の水蒸気発生部6を有する肌色改善器具1を使用者の目に適用すると、図4に示すように、使用者の目周囲が広く水蒸気発生部6によって被覆される。
【0028】
前述の環状の封止部4とは別に、肌色改善器具1には、閉じた周縁封止部7が形成されている。周縁封止部7は、互いに同形である透湿性素材部2と難透湿性素材部3との周縁の封止に用いられる。この封止によって、肌色改善器具1の全体の形状安定性が保たれている。また周縁封止部7が閉じた形状をしていることによって、肌色改善器具1と使用者の顔との密着性が向上し、両者間に水蒸気が充満しやすくなり、肌色が一層改善されやすくなる。
【0029】
肌色改善器具1は、左右の水蒸気発生部6の中間部に、ノッチ状の逆V字形の切れ込み部Sを有している。切れ込み部Sが形成されることで、肌色改善器具1は、使用者の鼻部を避けて使用者の顔に密着するようになる。特に使用者の眼瞼部への密着性が向上する。この観点から切れ込み部Sは、略楕円形状の水蒸気発生部6の短辺長に対して0.1〜0.9、特に0.3〜0.8の切れ込み率を有することが好ましい。切れ込み率は、肌色改善器具1の左右の略楕円形状の水蒸気発生部における最下部どうしを結ぶ線から切れ込み点Pまでの距離Dを、水蒸気発生部6の短辺長で除した値で定義される。また、切れ込み部Sはその切れ込み点Pから下眼瞼側に10〜120度、特に15〜90度の角度をなしていることが好ましい。切れ込み部Sが図2に示すように曲線を描いている場合、前記の角度は、左右の略楕円形状の水蒸気発生部における最下部どうしを結ぶ線と、肌色改善器具1の輪郭線が交差する点をT、T’とした場合、T−P−T’で形成される角度として定義される。なお必要に応じ、前記の切れ込み部Sに加えて、切れ込み点Pから上方に延びる直線状のスリットを設けてもよい。このスリットによって、肌色改善器具1の顔への密着性が一層向上する。
【0030】
肌色改善器具1は、被酸化性金属が酸化反応を開始してから所望の水蒸気が発生するまでの時間、即ち立ち上がり時間が速く、且つ所望の水蒸気の発生が比較的短時間(例えば数分ないし数十分)持続することによって特徴付けられる。この観点から、肌色改善器具1の水蒸気発生部6は、そのような水蒸気発生特性を有する発熱組成物を含むことが好ましい。該発熱組成物は、被酸化性金属、反応促進剤、電解質及び水を含む粉状混合物からなることが好ましい。本実施形態においては、これらの成分の配合量を調整することによって、所望の水蒸気発生能を得ている。
【0031】
具体的には、前記の発熱組成物における被酸化性金属の量は10〜50重量%、特に20〜40重量%であることが、皮膚に適応可能な発熱温度の制御及び蒸気産生量の制御の点から好ましい。被酸化性金属としては例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の粉末や繊維が挙げられる。これらの中でも取り扱い性、安全性、製造コストの点から鉄粉が好ましく用いられる。被酸化性金属が粉末である場合その粒径は0.1〜300μmであることが、酸化反応のコントロールが良好なことから好ましい。同様の理由により、粒径が0.1〜150μmものを50重量%以上含有するものを用いることも好ましい。
【0032】
被酸化性金属は、水蒸気発生部6の面積に対して、700〜1600g/m2、特に900〜1400g/m2の量で用いられることが、十分な水蒸気発生能を得る観点から好ましい。
【0033】
反応促進剤の量は1〜20重量%、特に5〜15重量%であることが、皮膚に適応可能な発熱温度の制御及び蒸気産生量の制御の点から好ましい。反応促進剤としては、水分保持剤として作用する他に、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有しているものを用いることが好ましい。例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ等が挙げられる。これらの中でも保水能、酸素供給能、触媒能を有する点から活性炭が好ましく用いられる。反応促進剤の粒径は0.1〜500μmであることが、被酸化性金属と効果的に接触し得る点から好ましい。同様の理由により、0.1〜200μmのものを50重量%以上含有するものを用いることも好ましい。
【0034】
電解質の量は1〜15重量%、特に1〜5重量%であることが、皮膚に適応可能な発熱温度の制御及び蒸気産生量の制御の点から好ましい。電解質としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点からアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の塩化物が好ましく用いられ、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
【0035】
水の量は、30〜80重量%、特に30〜60重量%であることが、皮膚に適応可能な発熱温度の制御及び蒸気産生量の制御の点から好ましい。
【0036】
肌色改善器具1の水蒸気発生能に影響する他の大きな要因として、透湿性素材部2の透湿度(JIS Z0208、40℃、90%RH、以下透湿度というときにはこの方法で測定された値をいう)が挙げられる。詳細には、透湿性素材部2の透湿度を好ましくは1000〜10000g/m2・24hr、更に好ましくは5000〜8000g/m2・24hrとする。透湿度を1000g/m2・24hr以上とすることで、所望とする水蒸気発生能が達成される。また100000g/m2・24hr以下とすることで、所望とする温度の制御が達成できる。透湿素材部2は、複数枚のシート素材を組み合わせて透湿度を制御することが好ましい。
【0037】
水蒸気の適切な温度制御及び所望とする温度での水蒸気の発生持続時間を得る観点から、透湿性素材部2はその通気度(JIS P8117、以下通気度というときにはこの方法で測定された値をいう)が20〜1500s/100cm3であることが好ましく、30〜900s/100cm3であることが更に好ましい。透湿性素材部は、複数枚のシート素材を組み合わせて透湿度を制御することが好ましい。
【0038】
肌色改善器具1においては、環状の封止部4の内部において、透湿性素材部2と難透湿性素材部3とが、線状の接合部8によって接合されている。線状の接合部8は、水蒸気発生部6の縦方向の概ね中央部に位置しており、該発生部6の横方向に延びるように形成されている。接合部8は、その左右の端部が、環状の封止部4上に達するように延びている。それによって、水蒸気発生部6は、上部区画室6aと下部区画室6bとに区画されている。水蒸気発生部6を上下の区画室に区画することで、水蒸気発生部6に収容されている被酸化性金属が重力によって偏ることが効果的に防止される。また、肌色改善器具1の柔軟性が増して、使用者の肌に密接しやすくなる。これらの観点から、上部区画室6aと下部区画室6bとの面積比(前者/後者)は0.3〜0.99、特に0.5〜0.99であることが好ましい。
【0039】
上部区画室6a及び下部区画室6bにはそれぞれ被酸化性金属を含む粉状混合物が収容されている。この場合、上部区画室6aに収容されている被酸化性金属と、下部区画室6bに収容されている被酸化性金属との重量比(前者/後者)は、0.5〜1.0、特に0.6〜0.8であることが、皮膚に適応可能な発熱温度の制御及び蒸気産生量の制御の点から好ましい。
【0040】
図2及び図4に示すように、水蒸気発生部6を上下に区画する接合部8は下向きに凸の曲線形状になっている。この曲線形状は、閉眼状態での眼瞼縁L(図4参照)の形状に概ね倣った形状をしている。接合部8がこのような曲線形状をしていることによって、上部区画室6a及び下部区画室6bがそれぞれ上眼瞼及び下眼瞼にフィット性よく当接し、湿熱の伝達効率が一層向上する。
【0041】
本実施形態においては、水蒸気発生部6に収容される被酸化性金属は、これを含む粉状混合物の形態に代えて、該被酸化性金属を含有するシート状物の形態で用いることもできる。そのようなシート状物の一例として、被酸化性金属、反応促進剤、繊維状物、電解質及び水を含む発熱シートが挙げられる。発熱シートが空気と接触すると、該シートに含まれている被酸化性金属の酸化反応が起こり、熱が発生する。この熱によって発熱シートに含まれている水が加熱されて所定温度の水蒸気となり、透湿性シート2を通じて外部へ放出される。
【0042】
発熱シートは、被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含有する成形シートに、電解質水溶液を含有させて構成されている。本発明者らが検討したところ、これらの各種材料のうち、肌色改善器具1の水蒸気発生能に大きく影響する材料は、成形シートに含まれる被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物であることが判明した。詳細には、成形シートに含まれる被酸化性金属の量が好ましくは60〜85重量%、更に好ましくは65〜80重量%、反応促進剤の量が好ましくは5〜35重量%、更に好ましくは8〜15重量%、繊維状物の量が好ましくは5〜35重量%、更に好ましくは10〜25重量%であることが重要である。これらの材料の量が前述の範囲にあると、所望の水蒸気発生能が期待できる。なお、成形シートは好適には抄造によって得られるため、抄造工程における乾燥工程後の状態で5重量%以下の水分を含有するものである。
【0043】
被酸化性金属に対する反応促進剤及び繊維状物それぞれの重量比も肌色改善器具1の水蒸気発生能に影響する。具体的には、発熱シートにおいて、被酸化性金属に対する反応促進剤の重量比は好ましくは0.05〜0.3であり、更に好ましくは0.1〜0.25である。また被酸化性金属に対する繊維状物の重量比は好ましくは0.1〜0.5であり、更に好ましくは0.12〜0.4である。これらの範囲内であれば、所望の皮膚表面温度を38℃以上に向上させ且つ所望の蒸気発生量を得ることが容易であり、肌色改善器具1を収納したピロー袋を開封した後、目的とする温度への到達時間が短く、適度な湿熱を所定の時間にわたって提供することが容易となる。
【0044】
肌色改善器具1の水蒸気発生能に影響する他の重要な要因としては、発熱シートにおける電解質水溶液の濃度及び電解質水溶液の添加量が挙げられる。詳細には、発熱シートにおける電解質水溶液の濃度は好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは2〜10重量%である。電解質水溶液の濃度が1重量%未満であると所望とする温度が得られない場合がある。15重量%超となると顕著な効果の向上は期待できない。また電解質水溶液は、成形シート100重量部に対して好ましくは40〜80重量部、更に好ましくは50〜70重量部添加される。添加量が40重量部未満では所望とする温度の持続が達成されない場合がある。また所望とする蒸気発生量が得られない場合もある。80重量部超では、所望とする温度が得られない場合がある。
【0045】
先に述べた通り、成形シートは好ましくは抄造によって製造される。抄造により得られた成形シートは被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含むものであり、被酸化性金属を好ましくは60〜85重量%、更に好ましくは70〜80重量%含み、反応促進剤を好ましくは5〜25重量%、更に好ましくは8〜15重量%含み、繊維状物を5〜35重量%、更に好ましくは10〜25重量%含む。成形シート(つまり含水前の状態の発熱シート)はその1枚の厚みが0.1mm〜2mm、特に0.15〜1.5mmであることが、成形シートの機械的強度を維持しつつ成形シートが柔軟になり、肌色改善器具1が使用者の肌へフィットしやすくなる点から好ましい。同様の理由により成形シートは、その坪量が10〜1000g/m2であることが好ましく、50〜600g/m2であることがより好ましく、100〜500g/m2であることが更に好ましい。
【0046】
肌色改善器具1は、酸素バリア性の材料からなる包装袋内に密封されて、最終製品である肌色改善器具入り包装袋となされることが好ましい。肌色改善器具1の使用に際しては、包装袋から該肌色改善器具1を取り出すことで、該肌色改善器具1に含まれる被酸化性金属が空気中の酸素と反応し、発熱が始まると共に水蒸気が発生する。酸素バリア性の材料としては、例えばその酸素透過係数(ASTM D3985)が10cm3・mm/(m2・d・MPa)以下、特に2cm3・mm/(m2・d・MPa)以下であるようなものが好ましい。具体的にはエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0047】
肌色改善器具1は、その肌当接面である透湿性シート3の側に粘着剤を施しておき、該粘着剤によって使用者の肌に固定することができる。或いは、帯状の固定用ベルトの左右両端部を肌色改善器具1の左右両側縁部にそれぞれ取り付け、該ベルトによって肌色改善器具1を使用者の頭部に固定してもよい。
【0048】
本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、水蒸気発生部6に形成されている接合部8は、その両端部が、環状の封止部4上に達するように延びているが、これに代えて図5に示すように接合部8の両端部が環状の封止部4に達する前に終端していてもよい。このような実施形態においても、水蒸気発生部6が使用者の上眼瞼及び下眼瞼にフィット性よく密接する。
【0049】
また、被酸化性金属がシート状物の形態で水蒸気発生部に含まれている場合には、該被酸化性金属の偏りを考慮しなくてもよいので、その場合には接合部8を設けなくてもよい。
【0050】
また前記実施形態の肌色改善器具1は、アイマスクの形状をしており水蒸気発生部を2つ有しているので、両目に同時に湿熱を付与することができるものであったが、これに代えて、肌色改善器具を水蒸気発生部を1個のみ有するものとなしてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
図2及び図3に示す実施形態の肌色改善器具を以下の手順により製造した。粉状混合物は以下の組成を有するものであった。
・被酸化性金属:鉄粉、同和鉄粉鉱業(株)製、商品名「RKH」、30g
・反応促進剤:活性炭、武田薬品(株)製、商品名「カルボラフィン」)、10g
・電解質:精製塩(NaCl)、1.5g
・水、45g
・保水剤、14g
【0053】
透湿性素材部2としてポリオレフィン素材の合成紙(透湿度8000g/m2・24hr、透気度40s/100cm3)を2層用いた。難透湿性層3として線状低密度ポリエチレン製のフィルムを用いた。更に不織布2’,3’としてエアスルー不織布を用いた。これらのシート材及び前述の粉状混合物を用いて図2及び図3に示す実施形態の肌色改善器具を製造した。
【0054】
肌色改善器具における水蒸気発生部は楕円形をしており、長径は65mm、短径は50mm、面積は2448mm2であった。水蒸気発生部に含まれる被酸化性金属の総量は1144g/m2であった。上部区画室と下部区画室との面積比(前者/後者)は0.78であった。上部区画室に収容されている被酸化性金属と、下部区画室に収容されている被酸化性金属との重量比(前者/後者)は0.75であった。
【0055】
〔評価〕
得られた肌色改善器具について38人の被験者に臨床試験を行った。試験では、肌色改善器具を一日15分間で14日間連続して適用させた。被験者の内訳は、18人が真皮タイプのくまを持つ者、10人が表皮タイプのくまを持つ者、10人が混合タイプのくまを持つ者であった。
【0056】
試験終了後、目の下の部位を色差計で測定し、B*値及びL*値を測定した。また対照(ref)として頬骨の外側の部位のB*値及びL*値も測定した。B*値は鬱血状態の程度の指標となり、この値が小さいほど鬱血の程度が大きいことを意味する。L*値は皮膚の明度の指標となり、この値が大きいほど皮膚が明るくなることを意味する。これらの結果を図6(a)及び(b)並びに図7(a)及び(b)に示す。
【0057】
図6(a)は、試験を行う前の目の下の部位及び頬骨の外側の部位のB*値を示している。図6(b)は試験前及び試験後における、目の下の部位と頬骨の外側の部位のB*値の差を示している。試験後のB*値の差が小さいほど、目の下の部位の色が、頬骨の外側の部位の色に近づいたことを意味する。即ち、目の下の部位のくまが低減したことを意味する。図6(b)に示す結果から明らかなように、どのタイプのくまを持つ被験者も、肌色改善器具を適用することで、くまが低減することが判る。特に真皮タイプのくまの改善効果が高いことが判る。なお、図6(b)中、*及び#は一対のt検定における危険率Pが0.05未満であることを示し、試験結果に有意差があることを意味している。
【0058】
図7(a)は、試験を行う前の目の下の部位及び頬骨の外側の部位のL*値を示している。図7(b)は試験前及び試験後における、目の下の部位と頬骨の外側の部位のL*値の差を示している。試験後のL*値の差が小さいほど、目の下の部位の色が、頬骨の外側の部位の明るさに近づいたことを意味する。即ち、目の下の部位のくまが低減したことを意味する。図7(b)に示す結果から明らかなように、どのタイプのくまを持つ被験者も、肌色改善器具を適用することで、くまが低減することが判る。特に真皮タイプのくまの改善効果が高いことが判る。なお、図7(b)中、*は一対のt検定における危険率Pが0.05未満であることを示し、試験結果に有意差があることを意味している。
【符号の説明】
【0059】
1 目周囲の肌色改善器具
2 透湿性素材部
3 非透湿性素材部
4 環状の封止部
6 水蒸気発生部
6a 上部区画室
6b 下部区画室
8 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属の酸化反応を利用して発生する、水蒸気を伴う熱を目周囲に適用する目周囲の肌色改善器具であって、
前記器具は、水蒸気を伴う熱を付与し得る、面積1500〜4000mm2の水蒸気発
生部を有しており、
該水蒸気発生部は、使用者の内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆うような形状を有し、更に前記器具を使用者の目周囲に当接させた状態下で、8〜15分間にわたり当接部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満に維持し得る水蒸気発生能を有している目周囲の肌色改善器具。
【請求項2】
前記水蒸気発熱部が目周囲を覆う横長の略楕円形をしており、その長径が40〜80mmで、短径が30〜70mmである請求項1記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項3】
被酸化性金属が、透湿性素材と難透湿性素材とを環状の封止部によって封止することで形成された袋状の空間内に収容されて、前記水蒸気発生部が構成されており、
前記環状の封止部の内部において、前記透湿性素材と前記難透湿性素材とが、前記水蒸気発生部の横方向に延びる線状の接合部によって接合されており、
前記線状の接合部は、閉眼状態での眼瞼縁の形状に概ね倣った形状をしている請求項1又は2記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項4】
前記線状の接合部の左右の端部が、前記環状の封止部上に達するように延びており、それによって前記水蒸気発生部が上下の区画室に区画されている請求項3記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項5】
上部区画室に収容されている被酸化性金属と、下部区画室に収容されている被酸化性金属との重量比(前者/後者)が0.5〜1.0である請求項4記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項6】
左右の前記水蒸気発生部の中間部に切れ込み部を有し、該切れ込み部は、略楕円形状の該水蒸気発生部の短辺長に対して0.1〜0.9の切れ込み率を有し、且つ切れ込み点から下眼瞼側に10〜120度の角度を有している請求項1ないし5の何れかに記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項7】
前記水蒸気発熱体が、被酸化性金属の粉末を含有する粉状混合物を含む請求項1ないし6の何れかに記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項8】
前記水蒸気発熱体が、被酸化性金属の粉末を含有するシート状物を含む請求項1ないし6の何れかに記載の目周囲の肌色改善器具。
【請求項9】
内眼角から外眼角の外側20mmまでの幅にわたり且つ閉眼状態の上眼瞼及び下眼瞼を覆う面積1500〜4000mm2の部位に、8〜15分間にわたり該部位の皮膚平均温度を38℃以上45℃未満に維持し得る水蒸気を伴う熱を付与する目周囲の肌色改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−131093(P2011−131093A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83037(P2011−83037)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【分割の表示】特願2005−170053(P2005−170053)の分割
【原出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】