説明

直動発電機

【課題】磁束の漏洩がなく、小型で振動の少ない直動発電機を提供する。
【解決手段】円柱状の中心ヨーク部2と、中心ヨーク部2の軸方向両端にそれぞれ配置され同一極性の磁極が互いに軸方向反対に向けられた永久磁石3と、中心ヨーク部2から径方向に間隙4を隔てて中心ヨーク部2の外周を囲むと共に軸方向中央に軸方向の間隙5を有する内層ヨーク部6と、内層ヨーク部6の外周に巻かれたコイル7と、コイル7の外周を囲む外層ヨーク部8と、永久磁石3の磁極と内層ヨーク部6の軸方向端と外層ヨーク部8の軸方向端とを繋ぐ両端の端部ヨーク9と、中心ヨーク部2と内層ヨーク部6との間隙内に軸方向運動自在に配置された磁路切替ヨーク10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束の漏洩がなく、小型で振動の少ない直動発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
発電の原動力には、火力、水力、原子力、熱、風力、潮力などがある。従来の発電機は、これらの原動力から作り出した直線運動を回転運動に変換する運動変換機構を備えている。従来の発電機は、運動変換機構を備えることで大きさが巨大化すると共に、直線運動を回転運動に変換する際の変換損失や機械的接触による摩擦損失のため発電効率が低下する。
【0003】
上記問題を解決するために直線運動のひとつである往復運動を電力に変換する直動発電機が提案されている。直動発電機は、運動変換機構を備えないので小型化が可能であると共に、運動変換の際の変換損失や摩擦損失がないため発電効率が向上する。従来の発電機では振動運動を回転運動に変換することが困難であることから、往復運動中にストローク変動が発生するフリーピストン型スターリングエンジンや、潮力、振動力を発電に利用する直動発電機は、高効率が期待される。
【0004】
図4に示されるように、従来の直動発電機41は、円柱状の内側ヨーク42とその内側ヨーク42と同軸に配置され内側ヨーク42の外側を覆う円筒状の外側ヨーク43とを備える。内側ヨーク42には軸方向に磁極を向けた永久磁石44が組み込まれており、一方、外側ヨーク43には周方向に巻かれたコイル45が設けられて、コイル45の内側は外側ヨーク43の内側壁46で覆われ、コイル45の外側は外側ヨーク43の外側壁47で覆われている。内側ヨーク42と外側ヨーク43は、相対的に軸方向に運動できる。図示したものは、内側ヨーク42が軸方向に往復運動するようになっている。
【0005】
発電原理は、内側ヨーク42と外側ヨーク43が相対的に軸方向に運動するとき、コイル45に交わる磁束の磁束密度が変化して起電力が発生するというものである。
【0006】
内側ヨーク42には、内側ヨーク42と外側ヨーク43との間にあるエアギャップを磁束が通過することによる磁束密度の低下を防ぐために、外側ヨーク43に向けて隆起した突起48が形成されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−262234号公報
【特許文献2】特開2004−88884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の直動発電機41の動作を図5により説明する。
【0009】
図5(b)では、内側ヨーク42が内側ヨーク42の往復運動範囲の中間に位置している状態(中立位置と呼ぶ)を示している。このとき、内側ヨーク42の上部(又は下部)にある永久磁石44による磁路は、内側ヨーク42の上部突起(又は下部突起)、外側ヨーク43の内側壁46、内側ヨーク42の中央部突起48を通る短い閉磁路を形成する。
【0010】
図5(a)のように、内側ヨーク42が内側ヨーク42の往復運動範囲の上部に位置している状態(上位置と呼ぶ)では、内側ヨーク42の上部にある永久磁石44による磁路は、中立位置のときとあまり変わらないが、空間を通る距離が長い。一方、内側ヨーク42の下部にある永久磁石44による磁路は、内側ヨーク42の下部突起、外側ヨーク43の外側壁47、外側ヨーク43の内側壁46、内側ヨーク42の中央部突起48を通る長い閉磁路を形成する。この長い閉磁路は図示した断面においてコイル45を取り囲んでいる。よって、コイル45に交わる磁束が発生する。
【0011】
図5(c)のように、内側ヨーク42が内側ヨーク42の往復運動範囲の下部に位置している状態(下位置と呼ぶ)では、内側ヨーク42の上部にある永久磁石44による磁路は、内側ヨーク42の上部突起、外側ヨーク43の外側壁47、外側ヨーク43の内側壁46、内側ヨーク42の中央部突起48を通る長い閉磁路を形成する。このときもコイル45に交わる磁束が発生するが、磁束の方向が上位置と下位置とでは逆方向である。
【0012】
以上のように、内側ヨーク42が往復運動すると、コイル45に交わる磁束が交互に逆方向に発生するので、大きな磁束密度変動が発生して発電が行われる。
【0013】
ところが、発電に関与しない閉磁路に着目すると、上位置においては、内側ヨーク42の上部にある永久磁石44による短い閉磁路が空間を長く通るので、外部に漏れやすい。下位置においても、内側ヨーク42の下部にある永久磁石44による短い閉磁路が空間を長く通るので、外部に漏れやすい。外部に漏れた磁束は、直動発電機41の近隣に配置されている他の機器(例えば、磁気センサ)に影響を与える。磁束の漏洩を防ぐには、直動発電機41を磁気シールドで囲む必要がある。
【0014】
また、直動発電機41は、外側ヨーク43よりも内側ヨーク42が軸方向に長い。このため、直動発電機41の体積が大きくなる。
【0015】
また、直動発電機41は、可動質量が大きいため、直動発電機41に振動が発生する。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、磁束の漏洩がなく、小型で振動の少ない直動発電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、円柱状の中心ヨーク部と、該中心ヨーク部の軸方向両端にそれぞれ配置され同一極性の磁極が互いに軸方向反対に向けられた永久磁石と、上記中心ヨーク部から径方向に間隙を隔てて上記中心ヨーク部の外周を囲むと共に軸方向中央に軸方向の間隙を有する内層ヨーク部と、該内層ヨーク部の外周に巻かれたコイルと、該コイルの外周を囲む外層ヨーク部と、上記永久磁石の磁極と上記内層ヨーク部の軸方向端と上記外層ヨーク部の軸方向端とを繋ぐ両端の端部ヨークと、上記中心ヨーク部と上記内層ヨーク部との間隙内に軸方向運動自在に配置された磁路切替ヨークとを備えたものである。
【0018】
上記磁路切替ヨークは、上記内層ヨーク部の軸方向間隙よりも軸方向端側まで運動可能であってもよい。
【0019】
上記磁路切替ヨークの軸方向長さは、上記内層ヨーク部の軸方向間隙の長さと上記磁路切替ヨークの運動可能距離との和の1/2以上であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0021】
(1)磁束の漏洩をなくすることができる。
【0022】
(2)小型化できる。
【0023】
(3)振動が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1に示されるように、本発明に係る直動発電機1は、円柱状の中心ヨーク部2と、中心ヨーク部2の軸方向両端にそれぞれ配置され同一極性の磁極が互いに軸方向反対に向けられた永久磁石3と、中心ヨーク部2から径方向に間隙4を隔てて中心ヨーク部2の外周を囲むと共に軸方向中央に軸方向の間隙5を有する内層ヨーク部6と、内層ヨーク部6の外周に巻かれたコイル7と、コイル7の外周を囲む外層ヨーク部8と、永久磁石3の磁極と内層ヨーク部6の軸方向端と外層ヨーク部8の軸方向端とを繋ぐ両端の端部ヨーク9と、中心ヨーク部2と内層ヨーク部6との間隙内に軸方向運動自在に配置された磁路切替ヨーク10とを備えたものである。
【0026】
直動発電機1は、磁路切替ヨーク10のみ可動であり、他の部材は全て一体化され、固定構造物に固定されている。直動発電機1は、磁路切替ヨーク10の往復運動の軸である上下軸cを中心にして回転対称に形成されている。
【0027】
中心ヨーク部2は、直動発電機1の中心に位置する。中心ヨーク部2の上端にはN極を上に向け中心ヨーク部2と外径の同じ円盤状の永久磁石3が配置されている。中心ヨーク部2の下端にはN極を下に向け中心ヨーク部2と外径の同じ円盤状の永久磁石3が配置されている。
【0028】
内層ヨーク部6は、中心ヨーク部2の外径より所定寸法大きい内径を有する。これにより、径方向の間隙4が周方向に連続的に形成されている。また、内層ヨーク部6の上下軸c方向中央には、上下軸c方向に長さdの間隙5が周方向に連続的に形成されている。
【0029】
コイル7は、上下軸cを中心にして内層ヨーク部6の外周に巻かれている。
【0030】
外層ヨーク部8は、コイル7の外周を上下軸c方向に切れ目なく囲むよう円筒状に形成されている。
【0031】
端部ヨーク9は、中心ヨーク部2両端の永久磁石3のN極と内層ヨーク部6の両端と外層ヨーク部8の両端とを繋いで、磁路切替ヨーク10以外の全ての部材を一体化している。
【0032】
磁路切替ヨーク10は、中心ヨーク部2の外周及び内層ヨーク部6の内周に対してそれぞれ微小な間隙を有し、上下軸c方向に長さWで、中心ヨーク部2を囲む円筒状(環状)に形成されている。磁路切替ヨーク10は、中心ヨーク部2と内層ヨーク部6との径方向の間隙4内を、上下軸c方向に上下それぞれストロークs/2ずつ運動できるようになっている。磁路切替ヨーク10の長さWは、(間隙5の長さd+ストロークs)/2以上が望ましい。
【0033】
次に、直動発電機1の動作を説明する。
【0034】
図2(b)に示されるように、磁路切替ヨーク10が磁路切替ヨーク10の往復運動範囲の中間に位置している状態(中立位置)のとき、磁路切替ヨーク10は、中心ヨーク部2に近接して臨んでいると共に、間隙5の上下均等な長さずつ、内層ヨーク部6に近接して臨んでいる。
【0035】
このとき、中心ヨーク部2の上部の永久磁石3による磁路は、上部の端部ヨーク9、間隙5より上部の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る閉磁路を形成し、下部の永久磁石3による磁路は、下部の端部ヨーク9、間隙5より下部の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る閉磁路を形成する。これらの磁路は、発電に関与しない。
【0036】
図2(a)のように、磁路切替ヨーク10が磁路切替ヨーク10の往復運動範囲の上部に位置している状態(上位置)になると、磁路切替ヨーク10が全長にわたり、間隙5より上部の内層ヨーク部6に近接して臨む。
【0037】
このとき、上部の永久磁石3による磁路は、上部の端部ヨーク9、間隙5より上部の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る短い閉磁路を形成する。一方、下部の永久磁石3による磁路は、下部の端部ヨーク9、外層ヨーク部8、上部の端部ヨーク9、間隙5より上部の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る長い閉磁路を形成する。
【0038】
下部の永久磁石3による長い閉磁路が図示した断面においてコイル7を取り囲んで、コイル7に交わる磁束が発生し、この磁路が発電に関与する。一方、発電に関与しない上部の永久磁石3による閉磁路は、全く空間に出ることなく、ヨーク内に閉じ込められる。
【0039】
図2(c)のように、磁路切替ヨーク10が磁路切替ヨーク10の往復運動範囲の下部に位置している状態(下位置)になると、磁路切替ヨーク10が全長にわたり、間隙5より下部の内層ヨーク部6に近接して臨む。
【0040】
このとき、上部の永久磁石3による磁路は、上部の端部ヨーク9、外層ヨーク部8、下部の端部ヨーク9、間隙5より下部の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る長い閉磁路を形成する。一方、下部の永久磁石3による磁路は、下部の端部ヨーク9、間隙5より下の内層ヨーク部6、磁路切替ヨーク10、中心ヨーク部2を通る短い閉磁路を形成する。
【0041】
上部の永久磁石3による長い閉磁路が図示した断面においてコイル7を取り囲んで、コイル7に交わる磁束が発生し、この磁路が発電に関与する。一方、発電に関与しない下部の永久磁石3による閉磁路は、全く空間に出ることなく、ヨーク内に閉じ込められる。
【0042】
以上のように、磁路切替ヨーク10が往復運動すると、磁路切替ヨーク10が磁路を切り替えるスイッチとなり、コイル7に交わる磁束が交互に逆方向に発生するので、大きな磁束密度変動が発生して発電が行われる。
【0043】
既に述べたように、従来の直動発電機41では、発電に関与していない閉磁路が空間を長く通るので、外部に漏れやすい。これに対して、本発明の直動発電機1は、発電に関与していない閉磁路が全く空間に出ることなく、ヨーク内に閉じ込められる。よって、直動発電機1の近隣に配置されている他の機器(例えば、磁気センサ)に磁気的な影響を与えることがない。磁束の漏洩がないので、直動発電機1を磁気シールドで囲む必要もない。
【0044】
また、従来の直動発電機41では、永久磁石44を含む内側ヨーク42が往復運動するため、可動質量が大きい。これに対して、本発明の直動発電機1は、磁路切替ヨーク10以外の全てのヨーク、コイル7、永久磁石3が固定であり、磁路切替ヨーク10が往復運動するだけなので、可動質量が小さい。本発明における可動質量は従来の1/2以下にすることができる。
【0045】
本発明の直動発電機1は、可動質量が小さいため、従来に比べて極めて小さい駆動力で発電することが可能である。これにより、同じ発電力を得るための直動発電機1全体を従来よりも小型化し、体積を小さくすることができる。
【0046】
本発明の直動発電機1は、可動質量が小さいため、従来に比べて直動発電機1の振動を低減することができる。
【0047】
本発明の直動発電機1は、可動質量が小さいため、可動質量に対抗させるカウンターマスを減少させることができる。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
【0049】
図3に示されるように、本発明の直動発電機31は、直動発電機1の磁路切替ヨーク10の一端に、複数本のシャフト11を取り付け、端部ヨーク9に貫通穴12を形成し、この貫通穴12にシャフト11を通して端部ヨーク9の外にシャフト11を伸ばしたものである。これにより、内部の間隙4内に収容された磁路切替ヨーク10を外部から支持することができる。さらに、直動発電機31は、端部ヨーク9の外部のシャフト11をスライドシャフト13に連結し、スライドシャフト13をスライドガイド14により摺動往復移動可能に保持させてある。
【0050】
スライドシャフト13がスライドガイド14に対する往復運動範囲の中間に位置しているとき、直動発電機31が中立位置を取る。スライドシャフト13を外力によって加振すると、磁路切替ヨーク10が往復移動されて発電が行われる。
【0051】
なお、上記実施形態では、上部の永久磁石3のN極を上に向け下部の永久磁石3のN極を下に向けたが、上部の永久磁石3のS極を上に向け下部の永久磁石3のS極を下に向けてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、磁路切替ヨーク10の往復運動方向が上下方向となる姿勢に直動発電機1を配置したが、往復運動方向が他の方向となる姿勢であっても、本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態を示す直動発電機の断面図である。
【図2】(a)は図1の直動発電機の上位置における断面図、(b)は図1の直動発電機の中立位置における断面図、(c)は図1の直動発電機の下位置における断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す直動発電機の断面図である。
【図4】従来の直動発電機の断面図である。
【図5】(a)は図4の直動発電機の上位置における断面図、(b)は図4の直動発電機の中立位置における断面図、(c)は図4の直動発電機の下位置における断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 直動発電機
2 中心ヨーク部
3 永久磁石
4 間隙
5 間隙
6 内層ヨーク部
7 コイル
8 外層ヨーク部
9 端部ヨーク
10 磁路切替ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の中心ヨーク部と、
該中心ヨーク部の軸方向両端にそれぞれ配置され同一極性の磁極が互いに軸方向反対に向けられた永久磁石と、
上記中心ヨーク部から径方向に間隙を隔てて上記中心ヨーク部の外周を囲むと共に軸方向中央に軸方向の間隙を有する内層ヨーク部と、
該内層ヨーク部の外周に巻かれたコイルと、
該コイルの外周を囲む外層ヨーク部と、
上記永久磁石の磁極と上記内層ヨーク部の軸方向端と上記外層ヨーク部の軸方向端とを繋ぐ両端の端部ヨークと、
上記中心ヨーク部と上記内層ヨーク部との間隙内に軸方向運動自在に配置された磁路切替ヨークとを備えたことを特徴とする直動発電機。
【請求項2】
上記磁路切替ヨークは、上記内層ヨーク部の軸方向間隙よりも軸方向端側まで運動可能であることを特徴とする請求項1記載の直動発電機。
【請求項3】
上記磁路切替ヨークの軸方向長さは、上記内層ヨーク部の軸方向間隙の長さと上記磁路切替ヨークの運動可能距離との和の1/2以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の直動発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115034(P2010−115034A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286281(P2008−286281)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)