説明

相対変位測定方法

【目的】 相対変位を高精度で測定する方法の提供にある。
【構成】 互いに平行配置した2個の物体1,2の片方にのみ回折格子Gを設け、一方の側から回折格子Gに向かって互いに可干渉で周波数と偏光状態が異なる複数個の波動I1 ,I2 からなる電磁波Iを入射させ、回折格子Gで回折させて得た回折波R(1) と、回折格子Gで回折させた後に物体の内で回折格子を有さない物体2の面で反射させた回折波D(1,0)と、物体の内で回折格子を有さない物体2の面で反射させた後に回折格子Gで回折させた回折波D(0,1) と、回折格子Gで回折させた後に物体の内で回折格子を有さない物体2の面で反射させ、さらに回折格子Gで回折させた回折波D(-1,2)の内、少なくとも2つの回折波とを含む合成波を検出器4で取り出し、この合成波の強度のうなりの位相から2個の物体間1,2の距離sを測定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、相対変位測定方法に関し、特に複数個の物体の相対変位を当該物体上に作製した回折格子による波動の回折・干渉の現象を用いて高精度に測定する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図1および図2に示す従来の相対変位測定方法は、X線リソグラフィのマスクとウェーハの距離測定などに用いられている方法である。図1の方法では、平行に配置された2つの物体1,2に電磁波Iを入射させ、反射波の強度を検出器4で測定する。図2の方法では2つの物体1,2の内の1つに回折格子Gを設けて回折波の強度を検出器4で測定することにより、半透鏡を不要にしている。
【0003】これらの従来方法では、反射波または回折波の強度が、2物体間の距離sと共に周期的に変化することを利用してsを測定する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、反射波または回折波の検出強度は多くの因子の影響を受けるために、事実上、予測不可能である。このため、上記のような従来方法で距離sを測定するには、実際に物体を変位させて強度変化を観測し、強度が極大あるいは極小になるsの値を予め決定しておく必要があった。また、強度測定は、光源や途中の光学系,検出器などの特性のわずかな変化の影響を被り易いために、達成できる精度が限られていることも欠点であった。
【0005】そこで、本発明の目的は、上述の欠点を除去して、相対変位を高精度で測定する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために、本発明は、互いに平行配置した2個の物体の片方にのみ回折格子を設け、一方の側から前記回折格子に向かって互いに可干渉で周波数と偏光状態が異なる複数個の波動からなる電磁波を入射させ、前記回折格子で回折させて得た回折波と、前記回折格子で回折させた後に前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させた回折波と、前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させた後に前記回折格子で回折させた回折波と、前記回折格子で回折させた後に前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させ、さらに前記回折格子で回折させた回折波との内、少なくとも2つの回折波を含む合成波を取り出し、該合成波の強度のうなりの位相から前記2個の物体間の距離を測定することを特徴とする。
【0007】また、本発明はその一形態として、前記偏光状態が異なる複数個の波動が、異なる方向に直線偏光した電磁波であることを特徴とする。
【0008】本発明の構成を採ることにより、極めて簡単な構成で回折格子以外に光学部品を必要とすることなく、高精度なヘテロダイン測定を実現できる。
【0009】ここで、回折波とは、単に1つの回折格子で回折された波動のみではなく、(1) 第1の物体上に設けた回折格子で回折され、さらに第2の物体で反射された波動、(2) 第1の物体上に設けた回折格子で回折され、さらに第2の物体上に設けた回折格子で回折された波動、(3) 第2の物体で反射され、さらに第1の物体上に設けた回折格子で回折された波動、などをも含め、少なくとも1つの回折格子を設けた複数個の物体に波動を入射させたときに、回折格子による回折を少なくとも1回経て特定の方向に出射される波動を総称する用語としても用いている。
【0010】
【作用】本発明は、次に述べる原理に基づく。第1の物体上の回折格子で回折され、第2の物体で反射されるかまたはその物体上に設けた回折格子で回折された波動および第2の物体で反射された後に第1の物体上の回折格子で回折された波動は、2つの物体の相対位置に応じて位相が変化している。そのため、回折波の位相を測定することにより、2物体間の相対変位を測定できる。
【0011】従来の方法は、回折波の強度が2物体の相対変位により変化することに基づいていた。しかし、回折波の強度は、測定すべき相対変位以外に種々の要因により影響を被り易い。例えば、2つの回折格子の重合状態,2つの回折格子どうしの見込み角,検出器からの回折格子の見込み角,入射波の強度等の要因である。これに対して、回折波の位相は基本的に波動の通過距離で定まる量であり、上記のような強度変動要因の影響を被り難い。従って、位相の測定により本質的に高精度で外部擾乱に対して安定な相対変位測定が行える。また、これと同じ理由により、測定条件が緩和され、測定可能な範囲を拡大できる。さらに、周波数が数十GHz 以下ならば、波動の位相を1゜以上の精度で測定することは容易であり、この理由によっても強度測定よりも高精度化が図れる。
【0012】測定に用いる波動の周波数が数十GHz を越えると、位相の高精度測定が困難になる。この場合には測定に用いる波動としてある波動と、その波動とは周波数がわずかに異なり互いに可干渉な波動とを用意し、両者を干渉させてうなりを生じさせ、そのうなりの位相を測定すればよい。このような2周波数の波動のうなりを用いるヘテロダイン測定は回折格子を用いた相対変位測定に対して特に有効である。回折格子への2つの波動の入射方法を工夫することにより、他に構成部品を必要とすることなく、うなり信号を得ることができるからである。このような構成をとると、うなり信号の位相は回折格子と検出器の距離にほとんど依存しなくなる。その結果、測定系の調整が著しく容易になり、また、外部擾乱に対する安定性も向上する。
【0013】測定に用いる周波数の異った2つの波動が偏光状態を異にする電磁波である場合、回折格子による回折効率や物体での反射率が偏光状態によって異なることを利用して、波動の入射方法を著しく簡単化できる。この場合には、2つの電磁波を全く分離することなく同一光束として入射させるのみで、測定に必要なうなり信号を得ることができる。但し、この時、適当な偏光子を用いて検出器への入射波の偏光状態を制限した方がより大きなうなり信号が得られる。この方法では、ヘテロダイン測定を形成する2つの波動が全く同一の経路を進行するため、うなり信号の位相は波源と回折格子の距離および回折格子と検出器の距離にほとんど依存しない。そのため、測定系の調整は格段に容易となり、外部擾乱への安定性も飛躍的に向上し、信頼性が増す。
【0014】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0015】図3は、本発明の方法を回折格子面に垂直な方向の相対変位の測定に適用した実施例を示す。図3に示す様に、互いに平行に配置した2物体の内、1つの物体上に回折格子Gを形成し、これに垂直に電磁波Iを入射させる。この時、回折波Dは回折格子Gの上面で反射回折された波と回折格子Gで回折された後に物体2で反射された波および物体2で反射後に回折格子Gで回折された波の合成波となる。
【0016】従来の方法ではDの強度を測定して物体 1−2 間距離Sを測定していた。そのため、Sの値を特定するためにはSを変化させてDの強度を変化させてみる必要があり、また、入射波強度の変動を受け易いこととも相俟って、測定精度はλ/20(λはIの波長) に限られていた。
【0017】この図3の例に、本発明の方法を適用して精度を向上させることは容易である。入射波Iとして周波数と偏光状態の異った2成分 I1と I2 を持つ電磁波を用い、回折波Dのうなり成分の位相を測定すればよい。このような電磁波は、例えばゼーマンレーザを用いると簡単に得られる。ここで、検出器4の前に適当な方向の偏光子21を挿入した方が強いうなりが得られる。ここで、入射波として用いる偏光状態が異なる複数個の波動が、異なる方向に直線偏光した電磁波である方が、2物体間の距離sの変化によるうなりの位相の変化がより顕著になる。その理由は、本発明は回折格子の回折効率や物体表面での反射率が偏光状態で異なることを利用するが、一般にこのような変化は直線偏光の偏光方向を変えたときに最も大きくなるからである。このような異なる方向に直線偏光した互いに可干渉で周波数の異なる電磁波は、例えば横ゼーマンレーザにより容易に得られる。
【0018】この様な測定でSを測定できるのは次の理由による。Dは経路の異なる回折波の合成波である。この各回折成分ごとに、振幅回折効率の偏光状態依存性が異なる。物体 1−2 間を往復した電磁波は、Sに応じた位相遅れを生じている。この位相遅れ量も、各回折成分ごとに異なる。そのため、Dを構成する I1 および I2 起源の成分の位相遅れのS依存性が異なることとなり、うなりの位相がSに応じて変化する。
【0019】本発明の方法により、うなりの位相を1゜程度の精度で測定すると、Sの測定精度を容易にλ/100以上にすることができる。
【0020】
【発明の効果】以上詳述した様に、本発明は回折格子による波動の回折効果を用いた種々の相対変位測定法に適用して、その特性を著しく改善できる。また、以上の実施例では、2物体間の相対変位測定の例についてのみ述べたが、本発明の方法を組み合わせて、3個以上の物体の相対変位測定に拡張するのは容易である。従って、本発明は高精度な相対変位測定を必要とする産業分野で広範な応用が可能であり、特に電子デバイス製造産業で多用されているリソグラフィ工程での露光用マスクと半導体ウェーハの相対変位測定へ適用してきわめて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来例の構成を示す配置構成図である。
【図2】従来例の他の構成を示す配置構成図である。
【図3】本発明の一実施例の構成を示す配置構成図である。
【符号の説明】
1,2 物体
4 検出器
21 偏光子
G 回折格子
D 回折波
I,I1 ,I2 入射波
R(i) 回折格子でi次に反射回折された波動
D(i),D(i,j) 回折格子でi次の回折を受け、物体2で反射された後に再び回折格子でj次に回折された波動
θ 回折角
s 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに平行配置した2個の物体の片方にのみ回折格子を設け、一方の側から前記回折格子に向かって互いに可干渉で周波数と偏光状態が異なる複数個の波動からなる電磁波を入射させ、前記回折格子で回折させて得た回折波と、前記回折格子で回折させた後に前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させた回折波と、前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させた後に前記回折格子で回折させた回折波と、前記回折格子で回折させた後に前記物体の内で回折格子を有さない物体の面で反射させ、さらに前記回折格子で回折させた回折波との内、少なくとも2つの回折波を含む合成波を取り出し、該合成波の強度のうなりの位相から前記2個の物体間の距離を測定することを特徴とする相対変位測定方法。
【請求項2】 前記偏光状態が異なる複数個の波動が、異なる方向に直線偏光した電磁波であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の相対変位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平5−133720
【公開日】平成5年(1993)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−119735
【分割の表示】特願昭61−15368の分割
【出願日】昭和61年(1986)1月27日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長