説明

相補性ペプチド人工抗体

抗原タンパク質の標的部位に対する相補性ペプチドを設計合成して、標的部位への結合性を確認し、抗原タンパク質を検出する人工抗体ペプチドを提供する。 本発明の人工抗体ペプチドは、標的部位のペプチドのアミノ酸配列に対応する相補性ペプチドを自動設計する設計プログラムのMIMETICなどを活用して、創成した相補性ペプチドが標的部位へ特異的に結合することを確認して人工抗体ペプチドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タンパク質に結合性を持つ相補性ペプチドを設計する技術を用いて、相補性ペプチドを抗体に代わる人工抗体として、標的とするタンパク質の検出方法及び解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相補性ペプチドをGenetic Algorithm(遺伝子進化的手法)で活用する評価指標の一つは、疎水性値である。ペプチドの各位置のアミノ酸について、その前後のアミノ酸(前後のアミノ酸を5個ずつもしくは数個ずつ、末端アミノ酸の場合には0個)を加えて、疎水性値の平均値を算出し、その疎水性値が逆の値になっていることで評価する。+3.0であれば、−3.0をそのアミノ酸の位置での疎水性評価を満点とする。 第二の評価指標は、対応する位置のアミノ酸側鎖の容積(bulkiness)の対応性である。対応するアミノ酸同士のα炭素(アミノ酸の側鎖が結合している基部の炭素原子)が5オングストローム近くに相互に接近することを阻害しない側鎖容積になっていることを評価し、容積阻害を起こさない場合を満点とし、阻害の程度により減点評価する。 第三の評価指標は、ペプチド骨格のバックボーン並列性(Backbone alignment)の一致度を評価指標として、評価点をつける。標的ペプチドに対して同一アミノ酸数からなる任意に設計したペプチドを定めた数(例えば300種)だけ候補ペプチドライブラリーとして発生させ、それらについて標的ペプチドに対する相補性を評価してその評価値をコンピュータメモリーに記録する。 定めた数(例えば300個)の評価ペプチドライブラリーを得た段階で、その内で、評価点の高い上位2種類のペプチドを選び、それらのペプチドのアミノ酸配列をスクランブルして別の配列に変えたり、アミノ酸の置換も任意に行い別の候補ペプチドを設計し、次世代のペプチドライブラリーを作成する。各ペプチドについて、標的ペプチドに対する相補性を評価してその評価値をコンピュータメモリーに記録し、その、上位2種類のペプチドを選び出し、次次世代のペプチドライブラリーを上記と同様な手法で作成する。これを連続して繰り返し、理想的には満点値のペプチドが得られるまで繰り返しを連続して行う。 それぞれのペプチドを評価した記録を得点の高いものからソートして並べて一覧表を作り、上位のもの(例えば上位300のペプチド)を記録として残し一覧表にする。このコンピュータープログラムソフトをMIMETICと呼んでいる。満点あるいはそれに近いペプチドを合成して、標的ペプチドを持つタンパク質に対する結合清を評価し、高い結合性を持つペプチドを人工抗体ペプチドとして採用する。
【0003】
マウスやウサギに抗原を免疫し、抗体を産生した動物の血清などを抗血清として用い、血清から抗体を精製することもできる。抗原を免疫したマウスなどの動物の脾細胞などのリンパ球をミエローマ細胞株と融合させてハイブリドーマを作成し、目的の抗体を産生するハイブリドーマをクローニングして、モノクローナル抗体を産生させることもできる。しかし、抗体の作成には動物が抗原の目的のエピトープを認識して抗体産生をしてくれる幸運を期待しなければならない。免疫動物に対して抗原性がないエピトープに対して反応性を持つ抗体を作成するには、ファージディスプレイ法を用いるが、極めて煩雑な手法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗原タンパク質の標的ペプチド部分に反応性を持つと期待できる相補性ペプチドをMIMETICなどのコンピュータプログラムを用いて設計する。設計したペプチドを合成して標的タンパク質に対して特異的結合性を持つことを確かめることにより、人工抗体ペプチドとしての活用を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、抗原タンパク質の標的ペプチド部分のアミノ酸配列に対して相補性を持つペプチドをMIMETICなどのコンピュータプログラムを用いて設計する。上記で作製したペプチドを標的蛋白質と反応させ、標的蛋白質に対する特異的結合性を調べ、特異的に高い結合性を示したペプチドを人工抗体ペプチドとする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、任意の蛋白質分子の標的とする部位のアミノ酸配列に結合する相補性ペプチドを作成して、これを人工抗体ペプチドとして抗原タンパク質の検出に用いる。相補性ペプチドの設計には設計プログラムソフトであるMIMETICを用いることができる。したがって、目標として選んだタンパク質の任意の部位に反応する人工抗体ペプチドを自由に設計できるので、動物を免疫するなどの煩雑な抗体作成の手法を必要としない。抗体などが用意されていない新規なタンパク質に対する人工抗体ペプチドが速やかに作成できるので、新規なタンパク質などの検出法の構築に対応できる。 動物に免疫して抗体を作成する際には、動物種間で共通の部位に対しては抗体産生を期待することが難しい。これに対し、本発明の人工抗体ペプチドは動物種間で共通の部位に対しても反応性を持つペプチドを創生できるので、抗原タンパク質の検出法を容易に構築できる。特に、2個以上の抗体を用いるELISA法やプロテインアレイ法などの検出系を構築する際には、標的分子の離れた部位に対する人工抗体ペプチドを設計創生できる本発明は極めて有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(実施例1) エイズの病原ウイルスであるHuman immunodeficiency virus-1(HIV-1)の逆転写酵素(reverse transcriptase:以下RTと略す)の各部位のペプチドに対する相補的ペプチドを本発明の解析プログラム(MIMETIC)によって自動設計した結果、それぞれ、表1に示したペプチドを設計することが出来た。 設計したペプチドの合成はABiMED社製ペプチド合成機(AMS 422 Multiple Poptide Synthesizer)を用て、9-Fluorenylmethoxycarbonyl (Fmoc) アミノ酸を順次結合させる通常の固相法で行った。合成したペプチドを型の如く切りだすとともに、残基のブロックをはずした。得られたペプチドはエーテルで沈殿させて回収し、エーテルを乾燥除去して逆相HPLCで精製した。 HIV-1 を感染させたPLB細胞(株化したヒトリンパ球細胞株)の培養上清を65%と15%の蔗糖液を重ねた超遠心機用試験管の上層部の上に載せて26,500 回転で1時間の超遠心でHIV-1粒子を回収した。ウイルスのRNAはグアニジンイソチオシアネート法(Chomezynski, P. & Sacchi, N. RNA isolation from cultured cells. Analytical Biochemistry, 162: 156 159, 1987) により抽出し、これを 5 mM Tris buffer (pH7.5) に溶解して用いた。 Total RNA 試料に含まれる全長のウイルスゲノムRNAの量は、型のごとくリボヌクレアーゼプロテクション法(Kaye, J.F., et al. Cis-acting sequences involved in human immunodeficiency virus type 1 RNA packaging. J. Virol. 69: 6588 6592, 1995 及び Huang, Y., et al. The role of nucleocapsid and U5 stem/A rich loop sequences in tRNA (3Lys) genomic placement and initiation of reverse transcriptation in human immunodeficiency virus type 1. J. Virol. 72: 3907-3915, 1997) で定量した。そのウイルスゲノムRNAは細胞内でtRNALys3 を結合しており、RT活性の測定に供することができる。約5000万分子のウイルスゲノムRNAを20 ul のRT buffer (50 mM Tris-HCl, pH 7.5, 60 mM KCl, 3 mM MgCl2, 10 mM DTT) 中で、50 ng HIV-RT、10 単位RNase及びdNTP's(デオキシ核酸)と37度Cで15分間反応させた。先頭の6個の塩基配列はCTGCTAとなる。tRNALys3 は5マイクロキューりーの32P-dCTPで1塩基のばし、6塩基延ばすために、0.2 mM dCTP, 0.2 mM dTTP, 5uCi 32P-dGTP及び0.05 mM ddATP を反応させた。延長されたプライマーはエタノールで沈殿させて回収したあと、7 M urea を含む6% ポリアクリルアミドゲルで電気泳動をして延長したプライマーをオートラジオグラフィーにより検出して解析した。 このRTの反応系にRT活性に対する作用を調べる被検ペプチドを添加して、RTによって付加される塩基配列の有無と多寡を検定した。その結果、TLMA2993、PSTW1594 及びESLA2340の3種のペプチドが20 マイクロモル 程度で50% のRT活性を抑制した。残りの7種のペプチドには抑制活性を認めなかったが、設計したペプチドの30% が抑制活性を持ち、これは極めて高い確率で目的の活性を持つペプチドを設計できたことになる。その結果は表1にまとめた。表1は、HIV-1 の逆転写酵素(reverse transcriptase: RT) の活性に関わると考えられる種々の部位のアミノ酸配列とそれらに対してMIMETIC で自動設計したペプチドのアミノ酸配列である。10種のペプチドの内、3種のペプチドがRT 活性を抑制した。
【0008】
【表1】

逆転写酵素の活性をおさえることが確認できたESLA2340とTLMA2933とを用い、これらの相補性ペプチドを人工抗体ペプチドとしてHIV逆転写酵素(HIV-RT)の検出を以下のごとく行った。 ESLA2340 を96穴プレートにコートしておき、これにHIV-RTの希釈液を添加して4度Cに一晩清置した後、プレートを洗浄し、これにビオチン標識したTLMA2993を添加して室温で1時間放置した。プレートを再び洗浄した後、ペルオキシダーゼを標識したアビジンを添加して1時間室温にて反応させた。プレートを洗浄して、未反応のアビジンを除去したあと、ペルオキシダーゼの発色試薬を添加して室温にて発色反応を型のごとく行った。HIV-RTの濃度に応じて発色が認められ、人工ペプチド抗体をサンドイッチELISA法に活用できることが示された。(実施例2) プロカルボキシペプチダーゼR(Pro-carboxypeptidase R:以降ProCPRと略す)は、アミノ末端から92番目のアルギニンまでがトロンビンやプラスミン等のトリプシン様の酵素で切除されて活性型のカルボキシペプチダーゼR(carboxypeptidase R:以下CPRと略す) となる。このProCPRのアミノ末端から87番目のアミノ酸から30個、24個、20個、15個あるいは11個からなるアミノ酸配列に対する相補的ペプチドを本発明の解析プログラム(MIMETIC) によって自動設計を実施し、それぞれ表2に示したペプチドを設計することが出来た。それらの相補的ペプチドの内から、20個及び15個のアミノ酸からなるペプチド(表2の(注1)および(注2)のペプチド)についてProCPRのT/TM による活性化反応に及ぼす作用を解析した。 設計したペプチドの合成はABiMED社製ペプチド合成機(AMS 422 Multiple Poptide Synthesizer)を用て、9-Fluorenylmethoxycarbonyl (Fmoc) アミノ酸を順次結合させる通常の固相法で行った。合成したペプチドを型の如く切りだすとともに、残基のブロックをはずした。得られたペプチドはエーテルで沈殿させて回収し、エーテルを乾燥除去して逆相HPLCで精製した。 精製した20個および15個から成るペプチドをProCPR と室温で10分間反応させたあと、トロンビン・トロンボモジュリン複合体(Thrombin/thrombomodulin complex: 以降T/TM と略す)を作用させ、CPRの基質であるHippuril-L-arginine を加えて37℃で45分間反応させた後、遊離した馬尿酸を既報の
方法(Komura, H. et al. Effect of anticoagulants in colorimetric assay for basic carboxypeptidases. Microbiol. Immunol. 46: 115-117, 2002)に準じて測定した。 20マーのペプチドと15マーのペプチドを添加しておいた場合には、それぞれ1μM のペプチドでT/TM によるProCPR のCPRへの活性化が抑制された。この様に、調べた2種類のペプチドが両方ともターゲットのProCPRに対して抑制効果を発揮したので、我々がMIMETICと呼ぶ相補的ペプチド設計プログラムソフトの効率の良さを示していると考えられる。ProCPRはエラスターゼやトリプシンなどによっても活性化されるが、これらのペプチドはT/TMによる活性化だけを抑制し、エラスターゼやトリプシンによる活性化は阻害しなかった。設計したProCPRに対する相補的ペプチドを表2に纏めた。 表2は、ProCPRの87番目のアミノ酸以降の11、15、20、24 及び30個のアミノ酸配列に対してMIMETIC で自動設計されたmimetic peptidesである。86番目のアスパラギンには糖鎖が付加されていると考えられるので、それを除いた87番目のアミノ酸以降のペプチドを標的とした。92番目のアルギニンのカルボキシル基側がトロンビンによる切断場所であるので、それをまたぐ形でMimetic peptidesの設計を試みた。そのうち、15個と20個のアミノ酸からなる2種類のペプチドを選んでトロンビン・トロンボモジュリン複合体によるProCPRの活性化作用に対する作用を調べたところ、両方とも1μMで阻害効果を発揮した。
【0009】
【表2】

ProCPRの活性化を抑制することが確認できた20アミノ酸からなるVGGRRTRARRVLLLVLTETH(以下VGGと略す)は表面プラズモン共鳴解析装置(Biacore)でProCPRに結合反応を示すことが確認できた。 VGGをプレートにコートして洗浄後、ProCPRを含むヒト血漿を希釈して加え、室温にて1時間反応させた。プレートを洗浄して、余分な血漿を除去した後、ビオチンを標識したProCPRに対するモノクロナール抗体である10G1を添加して1時間室温で反応させた。プレート洗浄して余分な10G1抗体を除去した後、ペルオキシダーゼを標識したアビジンを添加して反応させた。未反応のアビジンを洗浄、除去した後、ペルオキシダーゼ発色試薬を添加して形のごとくペルオキシダーゼの酵素反応の強さに応じた発色を行わせ、プレートリーダーで測定を行った。ProPCRを含む血漿の濃度に応じて発色が認められたので、プレートにコートしたVGGが人工ペプチド抗体として用いることができることを確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質に結合作用を持つ相補性ペプチドを人工抗体とする抗原の検出方法。
【請求項2】
酵素、放射性同位元素、ビオチン、アビジンなどで標識したことを特徴とする請求項1に記載の標的タンパク質に結合することを特徴とする相補性ペプチド。
【請求項3】
請求項1および2に記載の同一抗原に対する2種類あるいはそれ以上の種類の相補性ペプチドを用いて、一方の相補性ペプチドを固層化し、それに反応する抗原、または、それに反応する他の相補性ペプチドを酵素、放射性同位元素あるいはビオチンなどで標識したことを特徴とする相補性ペプチドを含有するキット。
【請求項4】
抗原を認識する相補性ペプチドと天然抗体を含有することを特徴とする請求項3に記載のキット。

【国際公開番号】WO2005/040799
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514931(P2005−514931)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015140
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(593186459)
【出願人】(502282571)