説明

真空バルブおよびその製造方法

【課題】真空絶縁容器沿面からの二次電子放出を抑制し、真空バルブの絶縁耐力の向上を図る。
【解決手段】内面に凸凹部10を設けたセラミックスからなる真空絶縁容器1と、真空絶縁容器1の一方端開口部に封着された固定側封着金具2と、固定側封着金具2に貫通固定された固定側通電軸4と、固定側通電軸4端に固着された固定側接点5と、真空絶縁容器1の他方端開口部に封着された可動側封着金具3と、可動側封着金具3を移動自在に貫通する可動側通電軸7と、可動側通電軸7端に固着されるとともに、固定側接点5と接離する可動側接点6と、可動側通電軸7の中間部に一方端が封着されるとともに、他方端が可動側封着金具3に封着された伸縮自在のベローズ8とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスからなる真空絶縁容器内面の絶縁耐力を向上し得る真空バルブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接離自在の一対の接点を有する真空バルブには、耐熱性や絶縁耐力などに優れたセラミックスからなる筒状の真空絶縁容器が用いられている。そして、真空中の優れた絶縁耐力と耐アーク消弧性とから真空バルブの高電圧化、大容量化が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−93293号公報 (第5ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来の真空バルブにおいては、次のような問題がある。真空中においては、優れた絶縁耐力から接点間などの絶縁距離を縮小できるものの、真空絶縁容器の沿面では絶縁距離の縮小化が困難であった。真空中の沿面では、陰極が所定の電界に達すると、電子が放出され、真空絶縁容器の所定の沿面位置でトラップされる。そして、トラップされた電子が臨界に達すると二次電子が放出され、次の所定の沿面位置にトラップされる。これを繰り返して電子が陽極に達すると、絶縁破壊に到る。
【0004】
このように、真空絶縁容器の沿面においては、二次電子の放出状態により、絶縁耐力が左右される。このため、更なる高電圧化を可能とするために、二次電子の放出のし難い真空絶縁容器が望まれていた。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、二次電子放出のし難い真空絶縁容器を用い、高電圧化に対応可能な真空バルブおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の真空バルブは、内面に凸凹部を設けたセラミックスからなる筒状の真空絶縁容器と、前記真空絶縁容器の一方端開口部に封着された固定側封着金具と、前記固定側封着金具に貫通固定された固定側通電軸と、前記固定側通電軸端に固着された固定側接点と、前記真空絶縁容器の他方端開口部に封着された可動側封着金具と、前記可動側封着金具を移動自在に貫通する可動側通電軸と、前記可動側通電軸端に固着されるとともに、前記固定側接点と接離する可動側接点と、前記可動側通電軸の中間部に一方端が封着されるとともに、他方端が前記可動側封着金具に封着された伸縮自在のベローズとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、真空絶縁容器の内面にサンドブラスト処理によって微細な凸凹部を設けているので、沿面からの二次電子の放出が抑制され、絶縁耐力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
先ず、本発明の実施例1に係る真空バルブを図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る真空バルブの構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例1に係る真空絶縁容器沿面の絶縁耐力を説明する図である。
【0010】
図1に示すように、セラミックスからなる筒状の真空絶縁容器1の両端開口部には、固定側封着金具2と可動側封着金具3とが封着されている。固定側封着金具2には、固定側通電軸4が貫通固定され、真空絶縁容器1内の固定側通電軸4端に固定側接点5が固着されている。なお、真空絶縁容器1外の固定側通電軸4端には、他の電路との接続を行うネジ部4aが設けられている。
【0011】
固定側接点5と対向して可動側接点6が、可動側封着金具3の中央開口部を移動自在に貫通する可動側通電軸7端に固着されている。可動側通電軸7の中間部には、伸縮自在のベローズ8の一方端が封着され、他方端が可動側封着金具3の中央開口部に封着されている。これにより、真空絶縁容器1内の真空状態を保って、可動側通電軸7を軸方向に移動させることができる。なお、真空絶縁容器1外の可動側通電軸7端には、他の電路との接続を行うネジ部7aが設けられている。また、接点5、6を包囲するような筒状のアークシールド9が真空絶縁容器1内面中間部の突出部1aに固定されている。
【0012】
ここで、真空絶縁容器1の内面の全域には、サンドブラスト処理を施し、凸凹状の凸凹部10を設けている。一般に、熱処理によって製作された真空絶縁容器1の内面は比較的に滑らかに仕上げられている。これを例えば砂を用いたサンドブラスト処理で凸凹状としている。即ち、封着金具2、3を封着する前の真空絶縁容器1に、サンドブラスト処理を施している。凸凹部10の絶縁耐力を図2を参照して説明する。
【0013】
図2に示すように、真空絶縁容器1の表面粗さを0.19μmから27.1μmまで変化させてインパルスフラッシオーバ電圧を求めると、表面が粗くなるほど、フラッシオーバ電圧は上昇する。そして、0.19μmと6.0μmとでは約3倍の上昇がある。また、6.0μmと27.1μmとでは、印加回数によるフラッシオーバ電圧の上昇が同様の傾向を示し、飽和する傾向を示している。
【0014】
このような凸凹部10によるフラッシオーバ電圧の上昇は、ミクロ的に沿面距離が増大し、二次電子の放出が抑制されるためと考えられる。そして、6〜27μmの粗さが真空中での二次電子の放出抑制に適している。なお、粗さ30μmを超えるものでは、サンドブラスト処理のサンドの粒径を大きくしたり、長時間の処理時間を要したりする。また、比較的粗い状態のものを沿面全域に形成することは作業上からみても困難であり、好ましくない。なお、ここで、30μm以下を微細な粗さと称する。
【0015】
これにより、フラッシオーバ電圧を大きく上昇させることができるので、真空バルブの高電圧化を可能とすることができる。なお、真空絶縁容器1の内面では、接点5、6間でのアーク拡散により、金属蒸気が付着して沿面絶縁抵抗を低下させる傾向にある。しかしながら、凸凹部10により、この低下を補うことができ、信頼性を向上させることができる。
【0016】
上記実施例1の真空バルブによれば、真空絶縁容器1内面にサンドブラスト処理によって微細な凸凹部10を設けているので、二次電子の放出を抑制することができ、絶縁耐力を向上させることができる。
【0017】
上記実施例1では、凸凹部10を真空絶縁容器1全面に設けることで説明したが、少なくとも最初に二次電子が放出される封着金具2、3近傍の表面に設けても、フラッシオーバ電圧を向上させることができる。一般的に、陰極から陽極までの間では、二次電子が数〜数十回放出され絶縁破壊に到る。このため、陰極からの電子が到達し、最初に二次電子となって放出される部分の二次電子の放出を抑制すれば、絶縁耐力を向上させることができる。具体的には、封着金具2、3近傍であって、沿面距離の10%程度が最初に二次電子が放出される部分となる。ここで、最初に二次電子となって放出される部分を陰極からの電子到達領域と定義する。
【実施例2】
【0018】
次に、本発明の実施例2に係る真空バルブを図3、4を参照して説明する。図3、4は、本発明の実施例2に係る真空バルブの構成を示す要部拡大断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、真空絶縁容器の内面にガラス層を点在させたことである。図3、4において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0019】
先ず、溶解させる方法を図3を参照して説明する。
【0020】
図3に示すように、真空絶縁容器1の内面には、凸凹部10の山部や谷部に二酸化ケイ素を主成分とするガラス層11を点在させている。凸凹部10の全域にガラス層11を設けるものではない。
【0021】
この製造方法を説明する。真空絶縁容器1のサンドブラスト処理において、サンドに二酸化ケイ素を主成分とするガラスビーズを用いる。表面を凸凹状とした後、異物や塵埃を取り除き、熱処理を行う。サンドブラスト処理時には、ガラスビーズが破砕して山部や谷部などに残存する。これを融点以上で熱処理を行って溶解させ、点在するガラス層11とするものである。二酸化ケイ素にNa、Mgなどを混合させたものでは、約600℃以上の熱処理を行えばよい。
【0022】
次に、残存させる方法を図4を参照して説明する。
【0023】
図4に示すように、真空絶縁容器1の内面には、凸凹部10の谷部に二酸化ケイ素を主成分とする釉薬によるガラス層12を点在させている。凸凹部10の全域にガラス層12を設けるものではない。
【0024】
この製造方法を説明する。製作した真空絶縁容器1の内面に二酸化ケイ素を含有する釉薬処理を施し、これをサンドブラスト処理する。釉薬の全面をサンドブラスト処理で除去するものではなく、サンドが当たってない部分が山部となり、ガラス層12として残存させるものである。サンドは、砂やガラスビーズなどを用いる。
【0025】
これらにより、真空絶縁容器1内面には、ガラス層11、12がランダムに点在するので、沿面からの二次電子の放出を抑制することができる。セラミックスと二酸化ケイ素との二次電子放出係数を比較すると、二酸化ケイ素の方が格段に小さく、フラッシオーバ電圧を向上させることができる。
【0026】
上記実施例2の真空バルブによれば、実施例1による効果のほかに、セラミックスよりも二次電子放出係数の小さいガラス層11、12を点在させて設けているので、真空絶縁容器1内面の絶縁耐力を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る真空絶縁容器沿面の絶縁耐力を説明する図。
【図3】本発明の実施例2に係る真空バルブの構成を示す要部拡大断面図。
【図4】本発明の実施例2に係る真空バルブの構成を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 真空絶縁容器
1a 突出部
2 固定側封着金具
3 可動側封着金具
4 固定側通電軸
4a、7a ネジ部
5 固定側接点
6 可動側接点
7 可動側通電軸
8 ベローズ
9 アークシールド
10 凸凹部
11、12 ガラス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に凸凹部を設けたセラミックスからなる筒状の真空絶縁容器と、
前記真空絶縁容器の一方端開口部に封着された固定側封着金具と、
前記固定側封着金具に貫通固定された固定側通電軸と、
前記固定側通電軸端に固着された固定側接点と、
前記真空絶縁容器の他方端開口部に封着された可動側封着金具と、
前記可動側封着金具を移動自在に貫通する可動側通電軸と、
前記可動側通電軸端に固着されるとともに、前記固定側接点と接離する可動側接点と、
前記可動側通電軸の中間部に一方端が封着されるとともに、他方端が前記可動側封着金具に封着された伸縮自在のベローズと
を備えたことを特徴とする真空バルブ。
【請求項2】
前記凸凹部にガラス層を点在させたことを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記凸凹部を少なくとも陰極からの電子到達領域に設けていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
セラミックスからなる筒状の真空絶縁容器の内面にサンドブラスト処理を施し、
前記真空絶縁容器内に真空状態を保って接離する一対の接点を収納することを特徴とする真空バルブの製造方法。
【請求項5】
前記サンドブラスト処理を二酸化ケイ素を主成分とするガラスビーズを用いて実施し、
残存した前記ガラスビーズを熱処理して溶解させ、
前記真空絶縁容器内面にガラス層を点在させたことを特徴とする請求項4に記載の真空バルブの製造方法。
【請求項6】
前記真空絶縁容器内面に釉薬処理を施し、
前記釉薬をサンドブラスト処理で除去し、
前記真空絶縁容器内面に残存した前記釉薬によるガラス層を点在させたことを特徴とする請求項4に記載の真空バルブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−277615(P2009−277615A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130476(P2008−130476)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】