説明

真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法

【課題】皮膜欠陥が少なく、真空特性および耐食性に優れた真空機器向け表面処理アルミニウム材を提供することを目的とする。
【解決手段】無孔質陽極酸化皮膜を形成する工程の前処理としてアルミニウム材を陽極とし、電解液のpHが3以下、かつ、電解液の液温が50℃以上の酸性電解液中で、直流電流を通じ電解処理する。電解処理条件は、電流密度2〜100A/dm、かつ処理時間5〜100秒が好ましく、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも一種の酸を含む電解液を使用することが好ましい。上記前処理によってアルミニウム材表面の金属間化合物が除去され、その後の無孔質陽極酸化皮膜処理の工程で、欠陥の少ない無孔質陽極酸化皮膜が得られ、アルミニウム材の耐食性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分子線エピタキシー装置、ドライエッチング装置、CVD装置、イオンプレーティング装置、プラズマCVD装置、スパッタリング装置のような真空機器用として好適な真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法に関するものであり、特に、加熱を受ける熱CVDのガス拡散板やチャンバー、バルブ類などに好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
CVDなどの真空機器では、機器を構成する材料からガス放出があると真空特性を害するため、比較的ガス放出が少なく、部材の軽量化を図ることができるアルミニウム材料が広く利用されている。しかし、アルミニウム材料は真空機器中に導入される反応ガスなどにより腐食する問題があるため、一般には、陽極酸化皮膜、特に無孔質陽極酸化皮膜(バリヤー型陽極酸化皮膜)を形成することにより耐食性を向上させている。該陽極酸化皮膜は、アルミニウム材料を電解質溶液中で電解処理することでアルミニウム材料表面に形成される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3152960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近では、半導体製造装置などにおいて、ICの集積度が高まり、部材から発生する異物の低減に対する要求が益々高まっている。前記背景技術で示されている無孔質陽極酸化皮膜は、一般的な陽極酸化皮膜に対し格段に耐食性に優れているものである。しかし、無孔質陽極酸化皮膜を形成する際にも、電解により皮膜欠陥(皮膜の膨れ、局部的な破壊点)が形成される場合があり、前記した高度な要求がなされる環境では、耐食性が十分でないという問題が生じている。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、無孔質陽極酸化皮膜の欠陥を極力排除し、よって、真空特性及び耐食性に優れた真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法のうち、第1の本発明は、アルミニウム材の表面に、無孔質陽極酸化皮膜を形成する真空機器用表面処理アルミニウム材の製造方法において、前記無孔質陽極酸化皮膜を形成する工程の前処理として、前記アルミニウム材を陽極として、pH3以下、液温50℃以上の酸性電解液中で、直流電解処理を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明における電解処理では、請求項記載の条件にてアルミニウム材料を電解処理することで、該アルミニウム材料の表面に存在する金属間化合物を溶解除去することができる。そのため、その後の無孔質陽極酸化皮膜処理工程では、欠陥が効果的に極めて少ない無孔質陽極酸化皮膜が得られ、アルミニウム材の耐食性を大きく向上することができる。
【0008】
以下に、本発明における製造条件を説明する。
pH:3以下
電解処理に用いる酸性電解液は、金属間化合物を効果的に除去するためにpH3以下とする。pHが3を超えると金属間化合物の除去作用が低下してしまう。なお、本発明としては、pHの下限を特に定めるものではない。同様の理由で、pH1以下とするのが一層望ましい。
【0009】
液温:50℃以上
電解処理に用いる酸性電解液の液温は50℃以上とする。液温が50℃未満では金属間化合物の溶解が不十分となる。なお、本発明としては、液温の上限を特に定めるものではない。但し、液温が90℃を超えると、電解液の蒸発が激しくなり、液組成が変化し処理条件が不安定となる。したがって、90℃以下とするのが望ましい。同様の理由で液温の下限を60℃、上限を80℃とするのが一層望ましい。
【0010】
電流密度:2A/dm以上、100A/dm以下
上記電解処理の電流密度は2A/dm未満であると、金属間化合物の溶解作用が低下してしまうので、電流密度は2A/dm以上とするのが望ましい。また、電流密度が100A/dmを超えると、多孔質な陽極酸化皮膜の形成や、アルミニウム水酸化物の堆積等によるアルミニウム材料表面の汚染が生じる場合があるので、電流密度は100A/dm以下とするのが望ましい。なお、同様の理由で、電流密度の下限は5A/dm、上限は80A/dmとするのが一層望ましい。
【0011】
電解時間:5秒以上、100秒以下
上記電解処理における電解時間は5秒未満であると、電解時間が短すぎて金属間化合物の溶解作用が不十分となるので、5秒以上とするのが望ましい。一方、電解時間が100秒を超えると、アルミニウム材料の表面が粗面化したり、多孔質の酸化皮膜が形成される場合があるので、100秒以下が望ましい。
【0012】
上記電解に用いる酸性電解液としては、本発明は特定のものに限定されるものではないが、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも一種の酸を好適に用いることができ、これらを混合したものであってもよい。これらの酸性溶液を使用した直流電解によって、前記した金属間化合物を効果的に除去することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法によれば、無孔質陽極酸化皮膜を形成する工程の前処理として、前記アルミニウム材を陽極として、pH3以下、液温50℃以上の酸性電解液中で、直流電解処理を行うので、アルミニウム材表面の金属間化合物が除去され、その後の無孔質陽極酸化皮膜処理の工程で、欠陥の少ない無孔質陽極酸化皮膜が得られ、アルミニウム材の耐食性を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
基材となるアルミニウム材には、JIS5000系、6000系のアルミニウム合金を用いることができる。ただし、本発明としては基材となるアルミニウム材が特定の成分系に限定されるものではない。
該材料には必要に応じて均質化処理を施し、さらに熱間圧延、冷間圧延等の加工を施す。また、材料を連続鋳造圧延することも可能である。本発明としてはこれら一連の工程が特に限定されるものではない。該アルミニウム材には、洗浄、切削処理などを施した後、本発明における前処理を施した後に無孔質陽極酸化皮膜を生成する。
【0015】
上記前処理では、好適には硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも一種の酸を電解液とし、前処理を行うアルミニウム材を陽極とする。前記電解液は、pH3以下、液温50℃以上に調整して直流電解処理を行う。該直流電解は、電流密度2〜100A/dm、電解時間5〜100秒で行うのが望ましい。
【0016】
次いで行う無孔質陽極酸化皮膜の生成には、ホウ酸又はホウ酸アンモニウムを電解質として含む水溶液を用いるのが好ましい。これらの電解質を用いた皮膜生成では、孔が極めて形成されにくいためであり、また、厚い膜形成に適している。電解に際しては、溶液濃度は1〜30質量%が望ましい。また、電解温度は50℃以上が耐クラック性から好ましく、皮膜の真空特性から上限は95℃(酸化膜が水和反応を開始)が好ましい。
なお、本発明においては、これら一連の電解液に限定するものではない
【0017】
ここで、無孔質陽極酸化皮膜とは、皮膜が均一に形成された部位の断面観察において、皮膜表面からアルミニウム素地に向けて、規則的に形成される孔(通常開口部は5〜30nmで皮膜厚さに対して60%以上の深さを有する)が存在しないか、5%(表面から見た孔の総面積の比率)以下の無孔質な皮膜である。有孔率がゼロ%の無孔質な皮膜は、有孔率が数%の皮膜に対して、格段に耐食性に優れるので、より好ましい。
【実施例1】
【0018】
以下に、本発明の実施例を説明する。
基材として、JIS5052アルミニウム合金からなる100mm長×100mm幅×7.0mm厚みの板材を用意し、厚み方向の両面の各1.0mmをフライスで切削加工した。次いで、アセトンで拭き取り、油分を除去した。
次いで、中性から弱アルカリ性の脱脂剤による脱脂、又は、有機溶剤による油分除去を行った。さらに、5%苛性ソーダ、50℃で1分間のエッチング処理し、10%硝酸、室温で3分間の中和処理を行った。
【0019】
上記処理を行った試料に対し、表1に示す条件で前処理に関する電解処理を行った。その後、流水で3分間の水洗を行った。
上記の処理をした試料を表1に示す無孔質陽極酸化処理の電解液に浸漬し、対極をカーボンとして電解を行った。電解を終了した試料は、10分間水洗し120℃で乾燥した。得られた試料について、以下の条件で耐食性の評価を行った。
【0020】
耐食性評価
代用試験として、塩水中でのアノード分極試験を行った。3.5%の塩水中に浸漬し、上記の無孔質陽極酸化皮膜を形成させたアルミニウム材料(100mm長×100mm幅)を正極とし、負極にはカーボン板を用い、10Vの電圧を24時間付与した後、水洗及び乾燥し表面観察した。
表面に生成された腐食ピットが皆無の試料は◎、1〜2個の試料は○、3〜5個の試料は△、6個以上の試料は×として判定を行った。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示したように、無孔質陽極酸化皮膜を形成する工程の前処理として、本発明の電解処理を行った試料(実施例1〜7)では、優れた耐食性が得られた。一方、本願発明の条件を満たしていない比較例1・2は、耐食性が実施例に対し劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材の表面に、無孔質陽極酸化皮膜を形成する真空機器用表面処理アルミニウム材の製造方法において、
前記無孔質陽極酸化皮膜を形成する工程の前処理として、前記アルミニウム材を陽極として、pH3以下、液温50℃以上の酸性電解液中で、直流電解処理を行うことを特徴とする真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項2】
前記電解処理は、電流密度が2〜100A/dm、かつ、電解時間が5〜100秒であることを特徴とする請求項1記載の真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項3】
前記酸性電解液は、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも一種の酸を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の真空機器向け表面処理アルミニウム材の製造方法。

【公開番号】特開2011−122219(P2011−122219A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281980(P2009−281980)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)