説明

眼用レンズ用ケア用品及び樹脂基材の親水化方法

【課題】本発明の目的は、酵素反応を利用した疎水性樹脂基材、特に眼用レンズ、の表面親水化方法、その親水化のための処理液、及び親水化処理された眼用レンズを提供することである。
【解決手段】本発明は、
ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体、およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品、並びに
補酵素およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の存在下、樹脂基材表面上でヒドロキシカルボン酸を重合することを特徴とする樹脂基材の親水化方法、及び同方法により親水化された眼用レンズ
を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性樹脂基材の表面親水化方法、その親水化のための処理液(特に、眼用レンズ用ケア用品)、及び親水化処理された眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物によって製造可能なバイオプラスチックとして3−ヒドロキシ酪酸重合体などが知られている(特許文献1〜4)。このバイオプラスチックは親水性であることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-145311号公報
【特許文献2】特開平5-276934号公報
【特許文献3】特開平5-64592号公報
【特許文献4】国際公開 WO2006/025375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸素透過性ハードコンタクトレンズやシリコーンハイドロゲルレンズの一番の問題は、装用時の不快感、水濡れ性の悪さである。プラズマ処理等の化学的・物理的表面改質が行われているが、いずれもレンズ使用中の耐久性に問題があった。また、コンタクトレンズ表面へのコーティング技術として、人工合成物、天然物(セルロース、PVAなど)を点眼、塗布、補涙液で固着、1次表面吸着させて、表面の親水化を付与させるという技術も開発されているが、既にレンズ表面に涙液成分である脂質成分が付着している場合、レンズ材質との相互作用が弱められ、効果が低減すると言う問題があった。
【0005】
一方、微生物由来の酵素を利用すれば、3−ヒドロキシ酪酸などのモノマー化合物を樹脂基材表面で重合することが可能となることが期待される。この酵素反応は穏やかな条件で行うことができるので、眼用レンズなどの機能性を付与された樹脂基材表面の親水化処理に適することが予想される。
【0006】
そこで本発明の目的は、酵素反応を利用した疎水性樹脂基材、特に眼用レンズ、の表面親水化方法、その親水化のための処理液、及び親水化処理された眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下のものを提供する。
[1]
ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体、およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
【0008】
[2]
該ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体がヒドロキシアルカン酸と補酵素Aとの複合体である[1]の眼用レンズ用ケア用品。
【0009】
[3]
補酵素およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の存在下、樹脂基材表面上でヒドロキシカルボン酸を重合することを特徴とする樹脂基材の親水化方法。
【0010】
[4]
前記補酵素と前記ヒドロキシカルボン酸とが複合体を形成している[3]の方法。
[5]
さらに多価アルコールの存在下、前記重合が行われる[3]又は[4]の方法。
【0011】
[6]
該樹脂基材が眼用レンズである[3]〜[5]のいずれかの方法。
[7]
[6]の方法により親水化された眼用レンズ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵素を利用した穏やかな反応条件で樹脂基材表面を親水化することができる。この親水化は樹脂基材表面にヒドロキシカルボン酸の重合体を成長させることによって達成される。
【0013】
本発明の眼用レンズ用ケア用品を用いた場合では、親水化処理は、例えば、レンズの洗浄、保存のケアのプロセス(終日装用)において達成されるもので、1次吸着したモノマー成分(ヒドロキシカルボン酸)がポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素及び補酵素(例えば、補酵素A(コエンザイムA))の働きでレンズ表面において重合し、ケア用品の成分の一部が停止反応として働き、全体としてレンズ表面に保湿成分(ポリヒドロキシカルボン酸)が吸着する。また、この親水化処理は反復処理が可能である。
【0014】
より例示的には、コンタクトレンズ(CL)ケア用品に添加したヒドロキシアルカン酸などをレンズに1次吸着させ、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素及び補酵素(例えば、コエンザイムA)の働きにより樹脂基材、特にプラスチックレンズ表面で重合させて親水性のポリマー膜、皮膜を形成させることができる。重合したポリエステルは疎水面をレンズ側、親水面を水溶液側に成長し、全体としてレンズ表面の親水性を発現すると共に涙液中に含まれる脂質が吸着することを防ぐコーティングとしても機能する。更に、CLケア用品に含まれる成分、ポロキサマー成分のポリエチレングリコール(PEG)鎖等の高分子増粘剤が重合の停止反応として働き、結果としてポリエステル鎖末端にポロキサマー等のポリマーのグラフト化が促進され、親水性が増す。本発明によれば、生体・細胞内で起きている現象をCLケア用品を利用して実施し、CLの親水化を行うことができる。
【0015】
本発明の眼用レンズ用ケア用品によれば、例えば、眼用レンズを外し、そのレンズをケア用品で洗浄した後、ケースに入れてケア用品に浸漬した状態で保存し、翌日装用する一般的なケアシステムにおいて、レンズに付着した脂質は洗浄、特にこすり洗いにより容易に除去され、一晩保存液に浸漬している間にPHA重合体の付着によりレンズの親水化がなされ、翌朝には洗浄され且つ親水化されたレンズが装用できる。しかも、レンズに付着した重合体は涙液中に含まれる脂質が吸着することを防ぐコーティングとしても機能する。即ち、本発明によれば、レンズ装用→レンズを外して洗浄(脂質除去)→保存(この時点でPHA重合によりコーティング)→レンズ装用というサイクルで、毎日清潔で良好な装用感のレンズを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Nile Red観察の結果を示す図である。A:50 mM Tris-HCl (pH7.5)に浸漬(比較例1)、B:50 mM Tris-HCl (pH7.5)中でPHA重合(実施例1)。
【図2】原子間力顕微鏡(AFM)観察結果の内の高さ像を示す図である。図中、50 mM Tris-HClに浸漬(比較例1)とPHA重合(実施例1)とを比較する。
【図3】AFM観察結果の内の位相像と誤差信号を示す図である。図中、50 mM Tris-HClに浸漬(比較例1)とPHA重合(実施例1)とを比較する。
【図4】実施例で使用したPHA重合酵素の調製方法を説明するための図である。
【図5】実施例で使用したPHA重合酵素のアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一態様によれば、補酵素およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の存在下、樹脂基材表面上でヒドロキシカルボン酸を重合することを特徴とする樹脂基材の親水化方法が提供される。
【0018】
[ヒドロキシカルボン酸]
ヒドロキシカルボン酸は、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基と少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物であり、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素によって重合可能であれば特に限定されない。これらヒドロキシル基とカルボキシル基との間で分子間エステル形成反応が起こり、ポリエステル重合体が形成される。
【0019】
ヒドロキシカルボン酸の例としては、ヒドロキシアルカン酸、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンで置換されたヒドロキシアルカン酸、ヒドロキシル基及びカルボキシル基含有芳香族化合物、ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸などが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸の炭素数は3〜18であることが好ましく、3〜14であることがより好ましく、さらに本発明の親水性付与効果をより効果的に発現する上では、より短鎖の炭素数3〜8であることが好ましい。
【0020】
酵素下で反応が確認されているポリエステル形成用脂質成分として、以下の58種類のヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
1 3-ヒドロキシプロピオン酸
2 3-ヒドロキシブタン酸
3 3-ヒドロキシペンタン酸
4 3-ヒドロキシヘキサン酸
5 3-ヒドロキシヘプタン酸
6 3-ヒドロキシオクタン酸
7 3-ヒドロキシノナン酸
8 3-ヒドロキシデカン酸
9 3-ヒドロキシ-4-シクロヘキシルブタン酸
10 3-ヒドロキシドデカン酸
11 3-ヒドロキシテトラドデカン酸
12 3-ヒドロキシ-2-ブタン酸
13 3-ヒドロキシ-4-ペンタン酸
14 3-ヒドロキシ-4-ヘキサン酸
15 3-ヒドロキシ-5-ヘキサン酸
16 3-ヒドロキシ-6-オクタン酸
17 3-ヒドロキシ-7-オクタン酸
18 3-ヒドロキシ-8-ノナン酸
19 3-ヒドロキシ-9-デカン酸
20 3-ヒドロキシ-5-ドデカン酸
21 3-ヒドロキシ-5-テトラデカン酸
22 3-ヒドロキシ-5,8-テトラデカン二酸
23 3-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸
24 3-ヒドロキシ-2-メチルペンタン酸
25 3-ヒドロキシ-2,6-ジメチル-5-ヘプタン酸
26 3-ヒドロキシ-4-メチルヘキサン酸
27 3-ヒドロキシ-5-メチルヘキサン酸
28 3-ヒドロキシ-4-メチルオクタン酸
29 3-ヒドロキシ-5-メチルオクタン酸
30 3-ヒドロキシ-6-メチルオクタン酸
31 3-ヒドロキシ-7-メチルオクタン酸
32 3-ヒドロキシ-6-メチルノナン酸
33 3-ヒドロキシ-7-メチルノナン酸
34 3-ヒドロキシ-8-メチルノナン酸
35 3-ヒドロキシ-7-メチルデカン酸
36 3-ヒドロキシ-9-メチルデカン酸
37 3-ヒドロキシ-7-フルオロヘプタン酸
38 3-ヒドロキシ-9-フルオロノナン酸
39 3-ヒドロキシ-6-クロロヘキサン酸
40 3-ヒドロキシ-8-クロロオクタン酸
41 3-ヒドロキシ-6-臭化ヘキサン酸
42 3-ヒドロキシ-8-臭化オクタン酸
43 3-ヒドロキシ-11-臭化ウンデカン酸
44 7-シアノ-3-ヒドロキシヘプタン酸
45 9-シアノ-3-ヒドロキシノナン酸
46 3-ヒドロキシコハク酸メチルエステル
47 3-ヒドロキシアジピン酸メチルエステル
48 3-ヒドロキシコハク酸メチルエステル
49 3-ヒドロキシコハク酸エチルエステル
50 3-ヒドロキシピメリン酸プロピルエステル
51 3-ヒドロキシセバシン酸ベンジルエステル
52 4-ヒドロキシブタン酸
53 4-ヒドロキシペンタン酸
54 4-ヒドロキシヘキサン酸
55 5-ヒドロキシペンタン酸
56 3,12-ジヒドロキシドデカン酸
57 リンゴ酸
58 3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸

[補酵素およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素]
ヒドロキシカルボン酸の重合触媒として本発明ではPHA重合酵素を使用する。PHA重合酵素は、水素細菌(Ralstonia eutropha)などの細菌由来ものを使用することができる。例えば、ポリ-3-ヒドロキシブタン酸重合酵素などが挙げられる。PHA重合酵素の具体例としては、図5のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。当業者であれば容易に理解できるように、本発明で使用できるPHA重合酵素は図5のアミノ酸配列を有するものに限定されず、これには、図5のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなりかつPHA重合酵素活性を有するものも含まれる。
【0021】
本発明ではPHA重合酵素と共に補酵素を使用することが必要である。補酵素としては、補酵素A(コエンザイムA)などを挙げることができる。
補酵素はヒドロキシカルボン酸と複合体を形成していてもよく、この複合体の例としては、3-ヒドロキシブチリル補酵素Aが挙げられる。
【0022】
[重合反応]
重合反応の概略をポリ-3-ヒドロキシブタン酸を例として以下の化学反応式で説明する。
【0023】
【化1】

【0024】
上記化学反応式において、Rはメチル基であり、nはポリ-3-ヒドロキシブタン酸の重合度であり、(R)-3HA-CoAは3-ヒドロキシブタン酸と補酵素Aとの複合体(3-ヒドロキシブチリル補酵素A)であり、PhaCはポリ-3-ヒドロキシブタン酸重合酵素であり、CoA-SHは補酵素Aである。PHAの重合反応は、上図のように補酵素Aがアシル運搬体となってポリ-3-ヒドロキシブタン酸の重合度を増加させる。
【0025】
[樹脂基材]
本発明で親水化させる樹脂基材は、ヒドロキシカルボン酸の重合体が表面に物理的に付着或いは化学的に結合することによって、その表面の親水性が高まるものであれば特に制限されない。樹脂基材は、合成樹脂でも天然樹脂でもよく、また熱可塑性樹脂でも、熱硬化性樹脂でもよい。
【0026】
樹脂基材の具体例としては、医療機器用樹脂基材、特に眼用レンズ、などが挙げられる。眼用レンズの内でも装用時の不快感、水濡れ性の悪さが問題となっている酸素透過性ハードコンタクトレンズやシリコーンハイドロゲルレンズなどに特に本発明は有用である。
【0027】
[その他の成分]
本発明の親水化処理は、穏やかな反応条件で行うことが必要なので、緩衝剤の存在下で行うことが好ましい。緩衝剤としては、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)、TE緩衝液、トリス緩衝生理食塩水などが挙げられる。
【0028】
本発明の反応系には、眼用レンズ用ケア用品に含まれる成分、特に多価アルコール成分(ポロキサマー等の水酸基を含むノニオン性界面活性剤、PEG等の増粘剤、プロピレングリコール(PG)等の等張化剤等が挙げられる。)を存在させてもよい。このような成分の存在によって重合反応後により高い親水効果が得られる。
【0029】
ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(POE)n−ポリオキシプロピレン(POP)mブロックコポリマー系非イオン系界面活性剤であり、このn、mにより、分子量等を変化させた化合物が種々存在する。ポロキサマーの内でも、両末端がOH基のものが多価アルコールとなり、本発明の樹脂基材の親水化に寄与する。
【0030】
[眼用レンズ用ケア用品]
本発明において眼用レンズ用ケア用品とは、日本コンタクトレンズ協会の定めたコンタクトレンズ用洗浄剤、保存剤、洗浄保存剤等に関する安全自主基準第2条に定められた各種ケア用品、即ちコンタクトレンズ用洗浄剤、保存剤、洗浄保存剤、溶解水を指すが、上記自主基準に示されている通り、用時調整用の顆粒、粉末、タブレット、ゲル等の形態をとっていてもよい。
【0031】
本発明の眼用レンズ用ケア用品は、ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体、およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素を含む。眼用レンズ用ケア用品がCL洗浄液、CL保存液などの液状ケア用品である場合、ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体の配合量は液状ケア用品中の濃度で10nM〜10mMであり、好ましくは100μM程度であり、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の配合量は液状ケア用品中の濃度で1pM〜10mMであり、好ましくは100nM程度である。眼用レンズケア用品が粉末、タブレット、フィルムなどの固体ケア用品である場合、固体ケア用品中のヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体、およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の配合量は、液体に溶解した際に濃度が液状ケア用品と同じになるような配合量である。
【0032】
本発明の好適な眼用レンズケア用品を以下に例示する。
補酵素およびPHA重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
緩衝剤、補酵素およびPHA重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
【0033】
増粘剤、補酵素およびPHA重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
増粘剤、緩衝剤、補酵素およびPHA重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
【実施例】
【0034】
コンタクトレンズ表面の親水化
(試験試料)
トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン55重量部、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート35重量部、エチレングリコールジメタクリレート10重量部を混合し、ここへ重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3重量部加え、よく撹拌して混合した。前記混合物をプラスチック製成形型(直径12 mm、深さ5 mm)に注入し、窒素雰囲気とされた循環式乾燥器中で、50℃で2時間予備重合を行ったのち、90℃へ昇温して30分間加熱保持し、重合を完結させた。
【0035】
(前処理)
試験試料をコンタクトレンズ用洗浄・保存剤(O2ケアネオ(メニコン製))に一晩浸漬し、レンズ表面を洗浄した。翌日、洗浄液が残らないよう純水で丁寧に洗浄し、キムワイプで軽く水分を拭き取った後、実験に使用した。
【0036】
(試験方法および結果)
以下の記載において、反応溶液の濃度はすべて終濃度である。また、%表示は特に断らない限り重量%を意味する。結果を表1及び表2に示す。
【0037】
コントロール反応(比較例1〜4):
前処理後の試験試料を下記表1及び2に示される溶液にそれぞれ浸漬し、室温で一晩放置した。表面を純水で洗浄後、キムワイプで水分を吸い取った。このレンズ表面にH2Oを滴下、CCDカメラで撮影し静止接触角を測定した。一つのレンズ表面につき3回測定を行い、平均値を測定結果とした。
【0038】
PHA重合反応:
(1) 重合酵素PhaCReと(R)-3HB-CoAを同時に添加する系(実施例1)
50 mM Tris-HClまたはO2ケアネオにレンズを浸漬し、そこに100 μM (R)-3-ヒドロキシブチリルCoA [(R)-3HB-CoA (モノマー)] と100 nM PhaCReを添加し、室温で一晩インキュベート(約16時間)することでPHA酵素重合反応を行った。比較例と同様に静止接触角を測定した。
【0039】
<PhaCReの調製方法>
Ralstonia eutropha由来のPHA重合酵素(PhaCRe)の発現および精製
pET15b::phaCReをE. coli BL21 (DE3)に導入した株(図4参照)を、100 μg/mLのアンピシリンを含むLB試験管培地中、37℃で15時間振とう前培養した。100 μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(100 ml)に前培養液1 mLを加え、本培養を開始した。37℃で2時間振とう培養した後、終濃度が0.1 mMとなるようにisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside (IPTG)を添加し、さらに30℃で4時間振とう培養を行なった。培養後、遠心分離により菌体を回収し-80℃で保存した。
【0040】
凍結した菌体を氷上で解凍した。解凍した菌体を20 mM イミダゾール、500 mM 塩化ナトリウム、5% グリセロール、0.05% 6-O-(N-Heptylcarbamoyl) methyl α-D-glucopyranoside(HECAMEG)を含む 20 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に懸濁した。懸濁後、フレンチプレスにより菌体細胞を破砕した(3回)。破砕後の粗酵素溶液を15000 gで30分間遠心分離した。上清を0.45 μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック社)でろ過した。ろ液をアマシャムバイオサイエンス社製Ni Sepharose High Performance packed HiTrapTM column(5 mL)に注入した。AKTA explorer 10Sシステム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いてイミダゾールの20〜500 mMの直線濃度勾配(100 ml)で溶出させた。流速は1 ml/minで行った。なお、精製は4℃を保ちながら行った。精製したサンプルは、エッペンに分注し、液体窒素で凍結させ-80℃で保存した。
【0041】
得られた酵素のアミノ酸配列(配列番号1)を図5に示す。

(2) PhaCReと(R)-3HB-CoAを別々に添加する系(実施例5〜7)
50 mM Tris-HCl (pH7.5)に100 nM PhaCReを先に添加し、10〜30分室温でインキュベートした後、100 μM (R)-3HB-CoAを加えてPHAを重合。また、(R)-3HB-CoAを先に添加し10〜30分室温でインキュベートした後、PhaCReを加え、室温で一晩インキュベートすることでPHA酵素重合反応を行った。比較例と同様に静止接触角を測定した。
【0042】

(3) PEG200及びPx-PGの影響(実施例2〜4、8〜10)
(R)-3HB-CoA、PhaCRe、PEG200を同時に添加する系、PhaCReを先に添加した後、(R)-3HB-CoAおよびPEG200を添加する系、およびPHA重合後にPEG200を添加する系を行った。PHA重合後にPEG200を添加した系においては、50 mM Tris-HCl中に浸漬したレンズに100 nM PhaCReと100 μM (R)-3HB-CoAを同時に添加し室温で一晩インキュベートしPHAを重合した後、PEG200を添加した。ポリプロピレングリコールを含むPx-PG溶液についてもPEG200と同様に検討した。いずれの例も室温で一晩インキュベートすることでPHA酵素重合反応を行った。比較例と同様に静止接触角を測定した。PHA酵素重合反応後にPEG200、Px-PGを添加する場合、接触角の測定はPEG200、Px-PGを添加後、4時間後に行った。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1及び表2に示された実験結果から、本発明の親水化方法を行ったコンタクトレンズ表面は、その方法を行っていないコンタクトレンズ表面よりも水の接触角が低く、高い親水性を有していることがわかる。
【0046】

(参考例)
PHA重合後の試験試料にNile Red(脂質やPHAに吸着する蛍光色素)を添加し、室温で30分インキュベートした後、紫外線照射下で観察を行った(図1)。その結果、Tis-HClに浸漬しただけの試料は蛍光を発しなかった(図1A)のに対して、PHA重合を行った試料の表面は蛍光を発した(図1B)ことから、試料表面にPHAのコーティングが形成されていることがわかった。
【0047】
また、PHA重合後のレンズを原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した(図2及び図3)。PHA重合前後の試験試料表面をAFMで観察した結果、明らかな差が見られた。試験試料自体の厚さが10 nm前後だとすると、それよりも高く見えている部分はPhaCReまたは重合されたPHAが吸着したものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体、およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素を含む眼用レンズ用ケア用品。
【請求項2】
該ヒドロキシカルボン酸と補酵素との複合体がヒドロキシアルカン酸と補酵素Aとの複合体である請求項1の眼用レンズ用ケア用品。
【請求項3】
補酵素およびポリヒドロキシアルカン酸(PHA)重合酵素の存在下、樹脂基材表面上でヒドロキシカルボン酸を重合することを特徴とする樹脂基材の親水化方法。
【請求項4】
前記補酵素と前記ヒドロキシカルボン酸とが複合体を形成している請求項3の方法。
【請求項5】
さらに多価アルコールの存在下、前記重合が行われる請求項3又は4の方法。
【請求項6】
該樹脂基材が眼用レンズである請求項3〜5のいずれかの方法。
【請求項7】
請求項6の方法により親水化された眼用レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−286513(P2010−286513A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137937(P2009−137937)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】