説明

眼科手術中に吸引された物質の粘度を同定するシステム

眼科手術用システム(10)は、眼(32)から吸引される物質の粘度の変化を検出する。システム(10)は、吸引ポンプ(20)に連結されたコントロールモジュール(18)、およびコントロールモジュール(18)および吸引ポンプ(20)に連結された流量計(19)を含む。流量計(19)は、吸引ポンプ(20)により眼(32)から吸引される物質の流速を提供する。吸引ポンプ(20)およびコントロールモジュール(18)に連結された手術用ハンドピース(24)は、手術中に眼(32)の中に挿入される。手術中、コントロールモジュール(18)は、眼(32)から吸引された物質の流速の段階的変化を検出し、さらにコントロールモジュール(18)により、手術用システム(10)は、吸引される物質の粘度に変化が検出されハンドピース(24)が第1の粘度の物質から第2の粘度の物質へ移動したことを示す警告を外科医に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼から吸引された組織および液体の流れの検出に関する。より詳細には、本発明は、吸引中の異なる物質間の粘度の違いの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科手術中、前部および後部の手術中に、一部は透明な様々の物質が吸引により眼から除去され、一方で他の透明な物質が同時に眼の中に注入される。前部の手術において、除去される物質は、白内障のまたは透明な水晶体、ガラス体、皮質物質を含み、注入される物質は、平衡塩類溶液(BSS)および粘弾性物質を含む。手術中の眼の圧潰は悲劇的な結果を生じ得るので、眼を確実に膨らんだままにするために、BSSおよび粘弾性物質が注入される。後部の手術で除去される物質は、ガラス体液(ガラス体)を含み、これは水晶体と網膜との間の空間を充填する透明なゲルである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
除去される様々の物質は、容易に同定される白内障の場合を除き、異なる物質間で視覚的違いがほとんどないので、しばしば区別が困難である。また、物質を視覚化する外科医の能力は、眼の構造および不十分な照明および倍率により弱められ得る。除去される物質間の区別ができないことにより、標的の天然組織ではなく眼に注入された液体の除去に時間の浪費が生じ得る。このことは、網膜の患部または断裂部分における作業前に全てのガラス体を確実に除去するためにBSSの除去にかなりの時間が使われ得る、ガラス体切除中の後部の手術において特に真実である。
【0004】
BSSとガラス体との間の1つの違いは粘度であり、BSSは水でありガラス体はずっと粘度の大きいゲルである。
【発明を解決するための手段】
【0005】
したがって、眼から物質を除去する器具が異なる物質に直面する場合、特に除去される物質の粘度の変化に直面する場合に、外科医に知らせることができるフィードバック機構または警告があれば所望である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明による眼科手術用システムの図式説明図
【図2】本発明の実施の形態で使用される手術用ハンドピースの正面図
【図3】本発明による方法の論理フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、本発明による眼科手術用システムの説明図である。手術用システム10は、好ましくはディスプレイ14、音源16、コントロールモジュール18、および吸引ポンプ20を有するコンソール12を含む。システム10は、様々の手術用パラメータおよび装置をコントロールするためのフット・コントローラ22を含んでもよい。
【0008】
以下の記載は、後部ガラス体切除手術の例に焦点を合わせるが、粘弾性物質が吸引される時のように吸引される物質に変化が検出されると外科医に警告するのが役に立つ場合である前部の手術を含む、他のタイプの眼科処置に本発明が同様に適用されることを当業者は理解するであろう。
【0009】
手術中、ゲル状のガラス体液を除去するのにガラス体(vit)カッター24を使用する。vitカッター24は、採取カセット21と連結する流量計19を含むポンプ20により生じる真空によって、カッターに入れられるガラス体を切断する。切断された組織は、チュービング26を介して採取カセット21に吸引され、その間に、速度、負荷サイクル、およびストロークがライン28を介してモジュール18によりコントロールされる。
【0010】
参照によりその全てが引用される、吸引流量計およびコントロールと題される2001年11月30日に出願された米国特許第6,599,277号(出願番号09/997,883)、眼科手術用システムにおいて流れを検出するための埋込み電極と題される2007年12月17日に出願された米国特許出願第11/957,841号、および眼科手術用システムのためのエアフィルタと題される2008年11月13日に出願された米国特許出願第12/270,209号に詳細が記載される、真空ベースのフロー吸引システムの開発において、上記の特許および特許出願に記載される流量計が、vitカッター24の先端が検査においてBSSからガラス体まで移動した際に明瞭に特定可能なステップ応答を示したことが発見された。上記に引用される特許および特許出願に開示および記載されるように、流量計19は、好ましくは、吸引される組織および液体のフローの流れに電極がさらされた電磁気フローセンサである。
【0011】
この観察を説明するために図1を使用すると、眼32の中でvitカッター24の先端がBSS28からガラス体30まで移動すると、ポンプ20と連結した流量計19においてステップ応答が容易に検出される。BSS28およびガラス体30はいずれも、BSS28とガラス体30との間の境界を示すのに使用される透明ライン34である。
【0012】
流速へのステップ応答は、vitカッター24(または他のタイプの手術のための、水晶体乳化装置のような他の器具)により接触される物質の粘度に直接関連する。粘度におけるこの変化の検出を使用して、vitカッターがガラス体を切断しているかまたは単にBSSを吸引しているかのリアルタイムの、実質的に瞬時のフィードバックまたは通知を外科医に提供することができる。外科医によっては、2つの物質間に視覚的違いがほとんどないので、vitカッターがガラス体またはBSS中にあるか否かを知ることは困難である。したがって、外科医は、ガラス体全体を摘出したことを確信するために、不必要にBSSを吸引するのに時間を浪費し得る。したがって、本発明は、流速におけるステップ応答の検出に基づいて、vitカッターが異なる粘度の物質に接触したことの警告を外科医に与える。この警告は、様々の形態を取ってもよく、そのいくつかは、ディスプレイ14上の視覚的または図式的警告または注意、音源16からの警告音または両方の組合せを含む。警告は、単純にアイコンまたはトーンでもよく、あるいは書かれたまたは言葉による警告でもよい。さらに、警告は、単に粘度に変化が検出されたことを示してもよく、またはより詳細にBSSからガラス体へまたは逆にvitカッターが移動したことを外科医に警告してもよい。
【0013】
さらに、注意は、vitカッターまたはフット・コントローラ中の振動等を介して触覚フィードバックの形態を取ってもよい。これは、図2に示されるように、手術用ハンドピース36中の圧電振動回路38の形態を取ってもよい。ハンドピース36は、vitカッターとして図示されるが、別のタイプの手術用器具でもよい。コントロールモジュール18は、流量計19におけるステップ応答の変化の検出に基づいて、ハンドピース36に信号を送り、回路38を振動させ、ハンドピース36が異なる粘度の物質を吸引中であることを外科医に警告する。
【0014】
視覚的フィードバックは、図2に示されるように、異なる色のLED40および42を介してvitカッターまたは他の手術用ハンドピース上に提供されてもよい。ある実施例は、LED40が赤色でありBSSのみが吸引されることを示し、LED42が緑色でありガラス体が切断および吸引されることを示すものである。
【0015】
検出されたステップ応答は、使用された流量計19について流速におけるおよそ10%以上の変化の程度で見られた。流速は、先端がBSSからガラス体へ移動した際に減少し、同様に先端がガラス体からBSSへ移動した際に増加した。言い換えると、先端が境界線34を超えるとステップ応答が検出される。流量計はvitカッターの先端から数フィート離れて流路に物理的に接続されているが、流速におけるこのステップ応答は、流量計により実質的に瞬時に(1秒未満)認識される。流速の変化におけるこの非常に素早い応答は、流量計19によるものであった。より応答の悪い流量計を使用すると、本発明は、より時宜に適わない態様でのみ、ユーザに有用な情報を提供するであろう。使用される流量計の時間応答は、ユーザに与えられる警告の有効性に直接関連する。流量計19より応答の悪いセンサは、外科医が、意図されたガラス体ではなくBSSを除去して応答時間の遅れを浪費したかもしれないことを意味するのみであろう。
【0016】
図3は、使用される手術用ハンドピースが第1の粘度の物質から第2の粘度の物質へ移動したために粘度の変化が検出されたことを外科医に警告するために、外科手術中に使用される方法の論理フローチャート50を示す。
【0017】
ステップ52は、システム10、および詳細にはポンプ20が、眼32からの物質の吸引を開始したことを特定する。ステップ54において、ポンプ20と連結された流量計19は、手術用ハンドピース24を介して眼32から吸引された物質の流速を検出する。次に、コントロールモジュール18は、ステップ56において、流速に段階的変化が検出されたか否かを特定する。
【0018】
ステップ56において、流速に段階的変化が検出されないと、システム10はステップ54へ戻り、引き続き流速を検出する。ステップ56において、段階的変化が検出されると、コントロールモジュール18により、システム10は、吸引される物質の粘度に変化が検出されたことの警告を外科医に与える。上記に概略されたように、警告はより詳細でもよく、外科医に、ガラス体からBSSへまたは逆にたった今移動したか否かを告げるまたは知らせてもよい。
【0019】
したがって、眼から吸引される物質の流速における段階的変化を検出し外科医に警告するシステムおよび方法が記載される。上記の教示を実施することにより、ガラス体またはBSSが吸引されているか否かの混乱または疑念を回避することを含め、多くの利点を達成することができる。
【符号の説明】
【0020】
10 手術用システム
18 コントロールモジュール
19 流量計
20 吸引ポンプ
24 手術用ハンドピース
28 BSS
30 ガラス体
32 眼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼から吸引される物質の粘度の変化を検出するための眼科手術用システムであって:
吸引ポンプに連結された少なくとも1つのコントロールモジュール、および該コントロールモジュールおよび前記吸引ポンプに連結され、前記吸引ポンプにより前記眼から吸引された物質の流速を提供する流量計と、
手術中に眼の中に挿入される、前記吸引ポンプおよび前記コントロールモジュールに連結された手術用ハンドピースと、
を含み、
手術中に、前記コントロールモジュールが、前記眼から吸引された物質の流速の段階的変化を検出し、さらに前記コントロールモジュールにより、前記手術用システムが、吸引される物質の粘度の変化が検出され前記ハンドピースが第1の粘度の物質から第2の粘度の物質へ移動したことを示す警告を外科医に与える、
ことを特徴とする眼科手術用システム。
【請求項2】
前記システムが、外科医に視覚的警告を与えるディスプレイをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記システムが、音により外科医に警告する音源をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記システムが、外科医に警告の触覚フィードバックを与えるためのフット・コントローラをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記手術用ハンドピースが、外科医に警告の触覚フィードバックを与えるための振動回路をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記手術用ハンドピースが、外科医への警告の視覚的フィードバックを含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記警告が、粘度の変化の検出に基づいて、前記ハンドピースが前記第1の粘度の物質から前記第2の粘度の物質へまたはその逆に移動したか否かをさらに示すことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記第1の粘度の物質が平衡塩類溶液であり、前記第2の粘度の物質がガラス体であることを特徴とする請求項7記載のシステム。
【請求項9】
手術用ハンドピースを介して吸引される物質の粘度が検出されると外科医に警告をする方法であって:
吸引ポンプにより眼から物質を吸引し;
前記吸引ポンプに連結された流量計により前記吸引される物質の流速を検出し;
前記流量計に連結されたコントロールモジュールにより前記流速の段階的変化が検出されたか否かを特定し;
前記流速の段階的変化が検出された場合に、吸引される物質の粘度に変化が検出されたことを外科医に警告する、
各工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記警告する工程が、ディスプレイ、音源、手術用ハンドピース、およびフット・コントローラの1つ以上により提供されることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記警告する工程が、前記手術用ハンドピースが第1の粘度の物質から第2の粘度の物質へまたはその逆に移動したか否かを外科医に知らせる工程を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−512717(P2012−512717A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542462(P2011−542462)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/068635
【国際公開番号】WO2010/080569
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED