説明

眼鏡フレームの染色方法及び眼鏡フレーム

【課題】 二色以上の彩色を可能とする金属フレームの染色方法を提案し、金属フレームのデザインを拡大し、商品価値を高める。
【解決手段】 防染におけるマスク剤として、活性炭素を含むタール系の糊料を用いる。捺染又は着色防染の捺染糊として、活性炭を含むタール系の糊料と染料溶液との混合物を用いる。染料溶液の溶剤として、エーテル、アルコール、エステル又は芳香族溶剤の単独品やこれらの混合液を用いる。染料として分散性染料又は昇華性印刷インキを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属製の眼鏡フレームを染色する方法及び眼鏡フレームに関し、特に、二色以上の彩色を可能とする染色方法及び眼鏡フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡フレームは、その素材に金属又はプラスチックが多く用いられ、主要部の素材によって金属フレーム、プラスチックフレーム、及び両者の組み合わせによるコンビネーションフレームに区別される。最近では、強度及び弾力性に優れて軽量化もできることから、チタン等を主体とした金属フレームが多く用いられている。
【0003】
しかし、プラスチックフレームが多様な彩色によって豊富な装飾デザインができるのに対して、金属フレームの彩色は非常に困難である。このため、金属フレームでは形状的なデザインが多く用いられ、色彩的なデザインは非常に限定されている。すなわち、金属フレームの塗装については、塗料と金属面との密着力が弱いために剥がれやすく、また、均一な塗膜を形成することが難しいという問題がある。また、金属フレームの染色については、金属の染色に優れた染料が見当たらず、不可能とされている。
【0004】
このため現状では、金属メッキ又は電着メッキによる着色表面にFC加工又は転写を施して装飾した眼鏡が市販されているが、これらの方法では曲面や凸面に対する加工が困難であり加工費も高価となることから、あまり普及していない。そこで、金属フレームの表面にプラスチックのコート膜を形成し、この上に染色する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法は、3〜5ミクロンの薄い染色膜を形成することができるために、金属フレームの素材色や光沢面を生かすことが可能である。しかしながら、プラスチックのコート膜に形成される染色膜は強度が弱く、染色膜の表面にプラスチックの保護膜を形成する必要があり、また、二色以上に彩色することは非常に困難である。
【特許文献1】特開2002−148566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、二色以上の彩色を可能とする金属フレームの染色方法を提案することであり、豊富な色彩を組み合わせることによって金属フレームのデザインを大幅に拡大することである。また、これによって、強度及び弾力性に優れて軽量な金属フレームの商品価値を一層拡大することである。
【0006】
本発明者らは、金属フレームの彩色について研究の結果、電着メッキを施した表面については比較的容易に染色できるという知見を得た。そこで、形成される染色膜の堅牢度(耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐光性)の強化について研究を重ねると共に、繊維と同様の染色方法(防染、捺染、染色防染)についても鋭意研究を重ねた結果、多彩な彩色が施された金属フレームを安価に提供できる染色方法を確立し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る眼鏡フレームの染色方法は、金属製の眼鏡フレームを防染により染色する方法において、マスク剤として活性炭素を含むタール系の糊料を用いる手段を採用している。また、本発明の請求項2に係る眼鏡フレームの染色方法は、金属製の眼鏡フレームを捺染又は着色防染により染色する方法において、捺染糊として活性炭素を含むタール系の糊料と染料溶液との混合物を用いる手段を採用している。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る眼鏡フレームの染色方法は、請求項2に記載の染色方法において、前記染料溶液の溶剤として、エーテル、アルコール、エステル又は芳香族溶剤の単独品、又はこれらの混合液を用いる手段を採用している。また、本発明の請求項4に係る眼鏡フレームの染色方法は、請求項2又は3に記載の染色方法において、前記染料溶液の染料として、分散性染料を用いる手段を採用している。
【0009】
また、本発明の請求項5に係る眼鏡フレームの染色方法は、請求項2又は3に記載の染色方法において、前記染料溶液の染料として、昇華性印刷インキを用いる手段を採用している。また、本発明の請求項6に係る眼鏡フレームの染色方法は、請求項1乃至5の何れかに記載の染色方法において、予め樹脂被膜層を形成した後に染色する手段を採用している。さらに、請求項7に係る眼鏡フレームは、請求項1乃至6の何れかに記載の染色方法を用いて製造された眼鏡フレームである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の眼鏡フレームの染色方法は、上記の手段を採用することにより、二色以上に彩色された金属フレームを安価に提供することが可能である。そして、豊富な色彩を組み合わせることにより金属フレームのデザインを大幅に拡大することができる。また、これによって、強度及び弾力性に優れて軽量な金属フレームの商品価値を一層拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、金属製の眼鏡フレームを染色する方法である。眼鏡フレームには予め電着メッキ又は塗装等を施して、樹脂被膜層を形成することが好ましい。樹脂被膜層の上に染色を施すことにより、染料で着色された染色層を形成することができる。そして、樹脂被膜層の彩色と染色層の彩色により、眼鏡フレームの全体又は一部が二色以上に彩色された眼鏡フレームとすることができる。
【0012】
電着メッキは、金属製眼鏡フレームの一般的な装飾方法であり、通常は金属による下地メッキの上に形成される。下地メッキの種類としては、パラジウム、クローム、錫―コバルト、錫―ニッケル等である。また、電着メッキで得られる色彩としては、光沢のあるものでは、ピンク、ブルー、トパーズ、マロン、ローズ、ワイン、ブラウン、グリーン、バイオレット等があり、艶消しとしては、ミスティピンク、モダンブルー、シャンパン、オリーブ、ルージュ等がある。
【0013】
染色方法としては、低温染色、高温染色、又は高温高圧染色があるが、染料の種類が豊富で安価であり、また染色皮膜が安定している等の点から高温染色(液温80〜85℃、時間10〜120秒)が最も好ましい。染料としては一般的な繊維用の分散性染料を使用するが、次の点で優れた染料を選定する必要がある。
イ)樹脂被膜層によく染着して、均染性に優れていること
ロ)安価に入手しやすく、公害を起こさないこと
ハ)染色浴において、染色濃度が経時変化を起こさず一定であること
ニ)耐温水、耐光性、耐熱性(190℃、20分)、耐薬品性(ヘアートニック、アルコール、アセトン、人工汗)、等に優れていること。
【0014】
具体例を挙げると、黄色染料としてMiketon Fast Yellow GL(三井化学)、又はSumikaron Yellow SE−RPD(住友化学)、赤色染料としてSumikaron Red S−GG(住友化学)、青色染料としてSumikaron Blue SE−RPD(N)(住友化学)等を使用することができる。
【0015】
また、染料と共に、染色速度を促進する、均染性を高めて染め斑をなくす、染色膜の堅牢度(耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐光性)を高める等の目的で各種の染色助剤を併用する必要がある。例えば、染料を分散溶解し染色斑を少なくするためにはデモールSSL(花王アトラス)等が有効である。また、洗浄脱色の目的にはノニオン界面活性剤であるマーポン(松本油脂)等が有効である。さらに、染色の染色速度を速めるためにベンジルアルコール(試薬)等を使用する。
以上の染色方法は、これにより単純な浸染を行うことも勿論できるが、本発明ではこの方法を防染又は着色防染に使用する。
【0016】
防染は、染めない部分に防染膜(マスク)を形成した状態で浸染して染色する方法である。このため、防染膜を形成するためのマスク剤が必要であり、上述したように高温染色を行うためには、これに適したマスク剤の開発が必要となった。研究の結果、高温染色に対しては油性の糊料が好ましく、ニューレジストインキE(シミズ社)等のタール系の糊料がより好ましく、これに活性炭素を加えたものが特に好ましいことを発見した。
【0017】
具体的には、ニューレジストインキE100部に粒子径38μm以下の活性炭素を練りこんだ後、レジューサーE(シミズ社)等の希釈剤により粘度を調整してマスク剤とすることができる。防染による染色方法は、防染部分にディスペンサー等でマスク剤を塗布し、自然乾燥及び乾燥機乾燥により溶剤を揮発させた後、前述の高温乾燥等により染色を施す。染色が完了した後、キシレン等の芳香族系溶剤で洗浄してマスク剤を除去する。
【0018】
防染により二色以上の彩色を施す場合を図1に示す。図1(a)はフレーム材10の表面に下地メッキ及び電着メッキ等を施すことにより、下地メッキ層21及び樹脂被膜層20を形成した状態を示している。図1(b)は、樹脂被膜層20の上にマスク剤を塗布して防染膜31を形成した状態を示す。この状態で防染を施すことにより、防染膜31が施されていない部分のみが染色される。図1(c)は、染色完了後に防染膜31を除去した状態を示す。防染膜31で保護された部分は染色されずに樹脂被膜層20がそのまま残り、その他の部分には染色層30が形成される。したがって、図1(c)は樹脂被膜層20と染色層30とによりツートンに彩色された眼鏡フレームを示す。
【0019】
捺染は、糊料と染料とを混合した捺染糊を作成し、これを対象物に塗布した後に乾燥及び熱処理により染着する染色方法である。この場合に問題となるのは、糊料、染料及び染料の溶剤の選定である。糊料については防染の場合と同様の糊料が好ましい。また、溶剤については、研究の結果、エーテル、アルコール、エステル及び芳香族溶剤の単独品又はこれらの混合液が好ましく、例えばメタノール25部、酢酸エチル20部及びトルエン55部を混合した三者混合液が好ましいことを発見した。
【0020】
染料については、上述した分散性染料を使用することができる。例えば、黄色染料を使用する場合には、Sumikaron Yellow Brown S−BRF(住友化学社)10部をアセトン20部に溶解した後、三者混合液40部に溶解して黄色染料溶液とする。そして、ニューレジストインキE100部に黄色染料溶液20部を加え、必要であればさらに粘度調整のため3部程度の三者混合液を加えて混練することにより黄色の捺染糊とすることができる。
【0021】
また、染料として昇華性印刷インキを使用することもできる。例えば、紺色染料を使用する場合には、Dispers Navy Blue SE−R 300(紀和化学社)10部をアセトン20部に溶解した後、三者混合液40部に溶解して紺色染料溶液とする。そして、ニューレジストインキE100部に紺色染料溶液20部を加え、必要であればさらに粘度調整のため3部程度の三者混合液を加えて混練することにより紺色の捺染糊とすることができる。捺染による染色方法は、着色部分にディスペーサー等で捺染糊を塗布し、自然乾燥及び乾燥機乾燥により溶剤を揮発させた後、170〜180℃、10分程度の熱処理により染着する。染色が完了した後、キシレン等の芳香族系溶剤で洗浄して糊料を除去する。
【0022】
捺染により二色以上の彩色を施す場合を図2に示す。図2(a)はフレーム材10の表面に下地メッキ及び電着メッキ等を施すことにより、下地メッキ層21及び樹脂被膜層20を形成した状態を示している。図2(b)は、樹脂被膜層20の上に捺染糊41を塗布した状態を示す。そして、乾燥及び熱処理により染着した後に、糊剤を除去した状態を図2(c)に示す。捺染糊41を塗布した部分は染色されて染色層40が形成され、その他の部分は樹脂被膜層20がそのまま残る。したがって、図2(c)に示す眼鏡フレームは、樹脂被膜層20と染色層40とによりツートンに彩色された眼鏡フレームとすることができる。或いは、色彩の異なる二以上の捺染糊41を塗布することにより、三色以上に彩色された眼鏡フレームとすることができる。
【0023】
着色防染は、上記の捺染を施した後に、捺染糊をマスク剤として前述の防染を施す染色方法であり、これを図3に示す。図3(a)はフレーム材10の表面に下地メッキ及び電着メッキを施すことにより、下地メッキ層21及び樹脂被膜層20を形成した状態を示している。図3(b)は、樹脂被膜層20の上に捺染糊41を塗布した状態を示す。そして、捺染を施した後にさらに防染を行い、糊剤を除去した状態を図3(c)に示す。捺染糊41を塗布した部分は捺染による染色層40が形成され、その他の部分は防染による染色層30が形成される。したがって、図3(c)に示す眼鏡フレームは、染色層30及び染色層40によりツートンに彩色された眼鏡フレームとすることができる。或いは、色彩の異なる二以上の捺染糊41を塗布することにより、三色以上に彩色された眼鏡フレームとすることができる。
【0024】
防染と着色防染とを併用する染色も可能であり、これを図4に示す。図4(a)はフレーム材10の表面に下地メッキ及び電着メッキを施すことにより、下地メッキ層21及び樹脂被膜層20を形成した状態を示している。図4(b)は、樹脂被膜層20の上にマスク糊を塗布して防染膜31を形成するとともに捺染糊41を塗布した状態を示す。そして、捺染を施した後にさらに防染を行い、防染膜31及び糊剤を除去した状態を図4(c)に示す。
【0025】
防染膜31で保護された部分は染色されずに樹脂被膜層20がそのまま残り、捺染糊41を塗布した部分は捺染による染色層40が形成され、その他の部分は防染による染色層30が形成される。したがって、図4(c)に示す眼鏡フレームは、樹脂被膜層20と染色層30及び40により三色に彩色された眼鏡フレームとすることができる。或いは、色彩の異なる二以上の捺染糊41を塗布することにより、四色以上に彩色された眼鏡フレームとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の眼鏡フレームの彩色過程を示し、防染を施した場合を示す概略断面図である。
【図2】本発明の眼鏡フレームの彩色過程を示し、捺染を施した場合を示す概略断面図である。
【図3】本発明の眼鏡フレームの彩色過程を示し、着色防染を施した場合を示す概略断面図である。
【図4】本発明の眼鏡フレームの彩色過程を示し、防染及び着色防染を併用した場合を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 フレーム材
20 樹脂被膜層
21 下地メッキ層
30 染色層
31 防染膜
40 染色層
41 捺染糊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の眼鏡フレームを防染により染色する方法において、マスク剤として活性炭素を含むタール系の糊料を用いることを特徴とする眼鏡フレームの染色方法。
【請求項2】
金属製の眼鏡フレームを捺染又は着色防染により染色する方法において、捺染糊として活性炭素を含むタール系の糊料と染料溶液との混合物を用いることを特徴とする眼鏡フレームの染色方法。
【請求項3】
前記染料溶液の溶剤として、エーテル、アルコール、エステル又は芳香族溶剤の単独品、又はこれらの混合液を用いることを特徴とする請求項2に記載の眼鏡フレームの染色方法。
【請求項4】
前記染料溶液の染料として、分散性染料を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡フレームの染色方法。
【請求項5】
前記染料溶液の染料として、昇華性印刷インキを用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡フレームの染色方法。
【請求項6】
予め樹脂被膜層を形成した後に染色することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の眼鏡フレームの染色方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の染色方法を用いて製造された眼鏡フレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−25486(P2007−25486A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210247(P2005−210247)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(392024529)株式会社美装ジャパン (2)
【Fターム(参考)】