説明

眼鏡フレーム及び該眼鏡フレームへの光触媒無機酸化金属膜形成方法

【課題】 光触媒無機酸化物金属の粒子を繊維状超微粒子としているので光が乱反射し、比表面積が大きいのでさらにその乱反射を増幅させて光沢度を向上させ、膜厚が薄くかつ硬度が高く表面平滑であるので光沢度を鮮明にし、眼鏡フレームのような極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、SiO添加量が少ないので曇りが生じることなく、各種着色を有する眼鏡フレームの色調と光沢度を向上させ、それを長期にわたり維持する。
【解決手段】 液状光触媒中の無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、眼鏡フレーム基材面に定着させた酸化チタンを含む光触媒無機酸化金属膜の膜厚が約5nm〜2μm、膜硬度が鉛筆硬度で約3H以上、光沢保持率が約10年で80%以上とした。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡のレンズを保持するレンズ枠、耳かけ部のモダン、前記レンズ枠から蝶番を介してモダンに連接するテンプル、前記レンズ枠間を連接するブリッジ、鼻かけ部であるパッド等の部品基材からなる眼鏡フレームであって、このフレームに光触媒無機酸化金属膜を形成して眼鏡フレームの色の光沢を長期に亘り保持するようにした眼鏡フレームに関するものである。
【発明の背景】
【0002】
近時、酸化チタンの光触媒作用を利用した脱臭及び殺菌機能を備えた各種製品が開発されている。これらの製品は、酸化チタン等の光触媒作用により、製品表面に付着した微生物や臭気物質が分解されることによる防菌、防臭する効果をねらったものである。この酸化チタンの光触媒作用は、酸化チタン粒子に紫外線を照射することにより、光触媒の表面に発生した正孔が、光触媒表面の吸着水と反応して、ラジカルOH(水酸基ラジカル)が生成され、このラジカルOHが有機物の分子結合を切断することにより、これが粒子表面へ拡散して周囲の有機物質へ酸化又は還元作用としてはたらくためと考えられている。
【0003】
酸化チタンは、その化学的特性を利用した用途が広く、例えば酸素と適当な結合力を有すると共に耐酸性を有するため、酸化還元触媒あるいは担体、紫外線の遮断力を利用した化粧材料またはプラスティックの表面コート剤、さらには高屈折を利用した反射防止コート剤、導電性を利用した帯電防止材として用いられたり、これら効果を組み合わせて機能性ハードコート材に用いられたり、さらに光触媒作用を使用した防菌剤、防汚剤、超親水性被膜などに用いられている。
【0004】
光触媒として使用される酸化チタンは無定型酸化チタンのみならず、アナタース型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びこれらの混晶体、共晶体等の結晶性の酸化チタンが好ましく、特にアナタース型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタンはバンドギャップが高いので広く利用されている。
【0005】
また、前記酸化チタン粒子及び酸化チタンと酸化チタン以外の酸化物からなる酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルの濃度としては特に制限はないが、酸化物として5〜40重量%の範囲にあり、このような濃度範囲にあれば、ゾルは安定であり、アルカリ処理時に粒子が凝集することがなく、効率的に酸化チタン粒子を製造できることが知られている。
【0006】
また、このような光触媒作用を有する酸化チタン被膜は、製膜時に高温処理(150℃〜400℃以上)が必要であるため、耐熱性のないガラス、プラスティック、木材、繊維、布などへの製膜は困難である。このため、高温処理した酸化チタン粒子を用いて被膜形成用塗布液を調整し、この塗布液を基材上に塗布して被膜を形成することによって、比較的低温で硬化膜を形成することが試みられている。しかしながら、高温処理された酸化チタン粒子は一般に粒子径が大きく、屈折率が高いために被膜中での酸化チタン粒子による光の散乱が大きく、透明性にすぐれた酸化チタン被膜が得られない欠点がある。
【0007】
さらに、酸化チタン被膜の形成方法としては、酸化チタン塗布液を基材表面にスピナー法、バーコーター法、スプレー法、フレキソ法などで塗布した後、乾燥し、高温で過熱硬化することが知られている。
【背景技術】
【0008】
従来、例えば先行特許文献1には、「表面にコーティングされた眼鏡枠の製造方法において、光触媒酸化チタン剤のコーティングを物理蒸着法、例えばイオンプレーティング法、スパッタリング法或いは真空蒸着法により製膜して、光触媒酸化チタン剤のコーティングを、眼鏡枠に光触媒酸化チタン剤を加熱することなく強固に固着することができ、小さな衝撃により、或いは経年効果により光触媒酸化チタン剤が剥がれる問題が生じない眼鏡枠を得ることができる眼鏡枠とその製造方法」が提供されている。
【0009】
しかしながら、このような物理蒸着法によれば、眼鏡フレームの基材がプラスティック又は通電性の弱いものであれば充分な通電が得られないため蒸着が弱く強固な接着力が得らない。また、物理蒸着においては金属(Ti、Si、Zn等)としてのみの製膜は果たせても、無機物質(TiO SiO、ZnO等)の効能を含んだとして製膜は得られない。即ち、製膜する基材によっては、逆に膜剥離が生じ易くなる。また、この公報には、膜厚、膜硬度、光沢保持率に関する記載はされていない。
【0010】
また、先行特許文献2には、「銀系チタンのコーティングを行う対象物を準備し、第一の処理液で前記対象物の表面を洗浄し、この第一の処理液の乾燥処理後に、前記対象物の表面の少なくとも一部に第二の処理駅を噴霧又は塗布し、若しくは前記第二の処理液に前記対象物の少なくとも一部を浸して、所定温度でコーティング前処理を行い、このコーティング前処理を行った部分に銀系酸化チタン水溶液を噴霧又は塗布し、若しくは前記銀系酸化チタン水溶液に前記対象物を浸して、前記対象物の一部又は全部に銀系酸化チタンのコーティングを行う。前記第二の処理液は、アミノ酸、鉱石粉、金属粉、塩類、有用微生物を含む水溶液とする銀系酸化チタンのコーティング方法及び銀系酸化チタンのコーティング物」が記載されている。
【0011】
そして、「眼鏡レンズや眼鏡枠、携帯電話等の対象物に高い密着度で銀系酸化チタンをコーティングするため、対象物に銀系酸化チタン膜を形成する前に、所定の温度内で対象物の表面の少なくとも一部に第二の処理液を噴霧又は塗布し、若しくは第二の処理液に対象物の少なくとも一部を浸して、定着性改善のためのコーティング前処理を行う」旨、また、前記第二の処理液が「アミノ酸、鉱石粉、金属粉、塩類、有用微生物を含む」旨、さらに「前記銀系酸化チタンが、例えば対象物が眼鏡レンズである場合は、0.1μm〜1.0μm程度であることがこのましい」旨説明されている。
【0012】
しかしながら、この発明においては、対象物と銀系酸化チタン膜とに、第二の処理液である「アミノ酸、鉱石粉、金属粉、塩類、有用微生物を含む層」が介在すると対象物の色調が曇り、光沢度が劣化する可能性が高い。また、銀系酸化チタンの粒径が0.1μm〜1.0μm程度と粗いため膜の硬度及び密着性が劣る。
【0013】
また、先行特許文献3には、「眼鏡枠表面に光触媒酸化チタン剤をコーティングするもので、眼鏡枠を例えばPTAゾル中に浸漬するか、或いは眼鏡枠表面にPTAゾルをミスト状にして吹き付けるアンダーコート工程と、その吹き付けられたPTAゾルを強制乾燥する強制乾燥工程と、PTSゾルを噴霧蒸着により眼鏡枠のアンダーコート膜表面に吹き付ける2次処理工程と、強制乾燥又は自然乾燥による乾燥工程を順次行う眼鏡とその製造方法」が記載されている。
【0014】
そして、「アンダーコート用PTAゾルは粒子径が約10nm、トップコート用PTSゾルは粒子径が約10nm」である」旨説明されている。
【0015】
しかしながら、この発明においては、Agが添加されておらないため、膜の密着性、硬度に極めて大きな効果を奏する粒子形状が繊維状であるかどうか記載されていない。また、浸漬後の強制乾燥と噴霧蒸着後の強制乾燥とを繰返すため、形成した膜内に膜剥離の原因となるひずみやひび割れの発生しが易いとともに、そのため、膜の光沢が劣化する。
【0016】
また、先行特許文献4には、「微細薄片状物質に微粒子酸化チタンを被覆した微粒子酸化チタン被覆物からなる光触媒であって、光触媒活性率に優れ、塗膜として利用した場合に伸展性及び平滑性に優れたパール光沢を有する光触媒体」が記載されている。
【0017】
しかしながら、この発明においては、Ag、Si、Znを含む旨記載されているが、酸化チタンとの組成比率が記載されておらず、また、酸化チタンの粒子径が1〜125μmと粗く、粒子形状が繊維状であるかどうか記載されていない。さらに、雲母等に酸化チタンを被服するもので独自のパール光沢を有する光触媒体であって、各種着色を有する眼鏡フレームに被覆して光沢度を向上させるものではない。
【0018】
さらに、先行特許文献5には、「密閉室内の衣服等の繊維物質に液状光触媒を噴出する光触媒噴出手段と、前記繊維物質に付着する光触媒に紫外線を照射する紫外線照射手段と、前記繊維物質に付着する液状光触媒に熱風を送風して乾燥させる熱風乾燥手段とからなり、前記光触媒噴出手段において光触媒が繊維状酸化チタン超微粒子であり、該繊維状酸化チタン超微粒子を適量分散させた透明液状光触媒を噴出するようにし、前記熱風乾燥手段における熱風の温度を30〜120℃とし、密閉室内に充満する繊維状酸化チタン超微粒子を熱風により前記繊維物質の繊維全体へ均一に固着乾燥させるようにした光触媒脱臭殺菌方法」が記載されている。
【0019】
そして、「請求項2」には「液状光触媒中の無機元素が半定量値において、少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含む」旨、また、[請求項2]には「液状光触媒中の有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含む」旨、さらに、「請求項3」には「前記液状光触媒中における酸化チタンが繊維状の超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上である」旨記載されている。
【0020】
この発明における無機質光触媒酸化物の組成範囲及び粒子形状は本発明と略同様である。しかしながら、この発明においては、これら無機質光触媒酸化物の適用対象が衣服等の繊維物質であり、本発明の如き表面平滑かつ極湾曲棒体ではない。したがって、単に噴霧等の吹きつける熱風乾燥工法のみでは眼鏡フレームのような極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、眼鏡フレームの光沢度を長期にわたり維持するものではない。また、繊維と異なり眼鏡フレームのような極湾曲棒体面に対する無機質光触媒酸化膜の塗布した定着状態もまったく異なるものである。さらに、基材面への無機質光触媒酸化物の付着力及び硬度は各種製膜方法によっても大きく変化する。
【0021】
また、先行特許文献6には、「眼鏡のフレームや鼻パッド等の少なくとも人体に接触する部位に光触媒粒子単独からなる表面層または光触媒粒子を含む表面層を設けたので、光触媒粒子の酸化還元作用により、フレーム等に分泌物、垢、化粧品に由来する汚れが付着しにくく、付着した汚れも分解除去され、更に表面が親水性となるので付着した汚れを簡単に落とすことができる眼鏡」が記載されている。
【0022】
しかしながら、この発明においては、Si、Ag、Zn等を含む旨説明されているが、シリカ(SiO)の酸化チタンに対する混合割合が極めて多いのは光触媒膜の光沢化を大きく阻害する。また、酸化チタンの粒子形状が繊維状であり、かつ超微粒子(nm単位)である点について記載されていない。さらに、Agが添加されておらないため、光触媒本来の高度な親水性及び帯電防止等の効果の向上が期待できない。
【0023】
先行特許文献1 特開2005−122030号公報
先行特許文献2 特開2005−034685号公報
先行特許文献3 特開2003−066379号公報
先行特許文献4 特開平11−244709号公報
先行特許文献5 特開2010−069469号公報
先行特許文献6 特開平9−080357号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、眼鏡フレームのような極湾曲体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、各種着色を有する眼鏡フレームの色調が曇らず光沢度を向上させ、それを長期にわたり維持するようにした眼鏡フレームを提供するものである。
【課題を解決する手段】
【0025】
請求項1の発明は、液状光触媒中の無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、眼鏡フレーム基材面に定着させた酸化チタンを含む光触媒無機酸化金属膜の膜厚が5nm〜2μm、膜硬度が鉛筆硬度で約3H以上、光沢保持率が約10年で80%以上である眼鏡フレームを提供するものである。
【0026】
この発明においては、光触媒である無機酸化物金属の粒子を繊維状超微粒子としているので光が乱反射し、比表面積が大きいのでさらにその乱反射を増幅させて光沢度を向上させることができる。また、膜厚が薄くかつ硬度が高く表面平滑であるので光沢度を鮮明にすることができる。さらに、眼鏡フレームのような極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、SiO添加量が少ないので曇りが生じることなく、各種着色を有する眼鏡フレームの色調と光沢度を向上させると共に、それを長期にわたり維持することができる。膜厚が5nm未満では膜剥離が発生しやすく、2μmを超えると光沢度が劣化する。好ましくは、10nm〜100nmである。また、硬度が3H未満であると膜の剥離が生じ易い。
【0027】
また、請求項に示す前記繊維状超微粒子に対してAgを適当量含有することによりTi−Ag系光触媒においてもより光触媒活を向上させることができると共に、さらに、可視光においも被膜表面をより高度に親水化させるため、基材面に付着した水滴を崩し広がらせて曇りを防止する同時に、該繊維状超微粒酸化チタン粒子は比表面積が大きく相乗的に光触媒活性が向上する上に、Agを添加することと繊維状超微粒酸化チタン粒子が重なりあって定着することの相乗効果により酸化チタン金属膜が極めて電気を通し易い状態となるため、帯電防止効果が大幅に高くなる。そのため埃の基材面への付着がほとんど生じない。
【0028】
さらに、SiOの混合比率が大きいと曇りが生じるが、SiOの混合比率を低くできるので光触媒膜の光沢度を劣化させることなく、SiOの混合比率が低い分ZnOを適量添加してそれ自体の吸着性によりコーティング膜の眼鏡フレームの極湾曲体面への付着性を強固にすることができる。
【0029】
さらに、CHN比により低温で乾燥硬化できるため、基材がプラスティックのような熱に弱いものに対してでも、基材に対して熱の支障がなく使用できる。
【0030】
請求項2の発明は、無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、酸化チタン等の無機酸化物金属を有機バインダーと合わせた合計含量の約15%以上とした液状光触媒中に、透明光学基材を約1分以上浸漬した後、600℃以下で加熱乾燥させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させて、膜厚が5nm〜2μm、膜硬度が鉛筆硬度で約3H以上、光沢保持率が10年で80%以上となるように調整した眼鏡フレームへの光触媒無機酸化金属膜形成方法を提供するものである。
【0031】
この発明においては、請求項1と同様、光触媒である無機酸化物金属の粒子を繊維状超微粒子としているので光が乱反射し、比表面積が大きいのでさらにその乱反射を増幅させて光沢度を向上させることができる。また、膜厚が薄くかつ硬度が高く表面平滑であるので光沢度を鮮明にすることができる。さらに、眼鏡フレームのような極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、SiO添加量が少ないので曇りが生じることなく、各種着色を有する眼鏡フレームの色調と光沢度を向上させると共に、それを長期にわたり維持することができる。膜厚が5nm未満では膜剥離が発生しやすく、2μmを超えると光沢度が劣化する。好ましくは、10nm〜100nmである。また、硬度が3H未満であると膜の剥離が生じ易い。
【0032】
また、前記繊維状超微粒子に対してAgを適当量含有することによりTi−Ag系光触媒においてもより光触媒活を向上させることができると共に、さらに、可視光においも被膜表面をより高度に親水化させるため、基材面に付着した水滴を崩し広がらせて曇りを防止する同時に、該繊維状超微粒酸化チタン粒子は比表面積が大きく相乗的に光触媒活性が向上する上に、Agを添加することと繊維状超微粒酸化チタン粒子が重なりあって定着することの相乗効果により酸化チタン金属膜が極めて電気を通し易い状態となるため、帯電防止効果が大幅に高くなる。そのため埃の基材面への付着がほとんど生じない。また、SiOの混合比率が大きいと曇りが生じるが、SiOの混合比率を低くできるので光触媒膜の光沢度を劣化させることなく、SiOの混合比率が低い分ZnOを適量添加してそれ自体の吸着性によりコーティング膜の眼鏡フレームの極湾曲体面への付着性を強固にすることができる。さらに、CHN比により低温で乾燥硬化できるため、基材がプラスティックのような熱に弱いものに対してでも、基材に対して熱の支障がなく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の一実施例を示す眼鏡を図面に基づき説明する。図1に示す如く、眼鏡フレーム1はプラスティックレンズ10を保持するレンズ枠2を設けており、このレンズ枠2、2間を連結するブリッジ3と各枠2、2の外縁部に蝶番4、4を介してテンプル5、5と、このテンプル5、5に耳かけモダン6、6を設けている。また、各枠2、2の内縁部には鼻あてパッド7、7が金属製の棒状の脚8、8を介して取り付けられている。前記レンズ枠2、2及びブリッジ5、5は棒状又は管状の金属製、例えば、光沢度の高い金、プラチナ、チタン等の無機質金属素材であって、これら部品の有する元来の色調を意匠的に高い光沢度で長期に維持することが望まれる。前記モダン6、6及び鼻あてパッド7、7は合成樹脂製であるが、前記と同様これら部品の有する元来の色調を意匠的に高い光沢度で長期に維持することが望まれる。このように、眼鏡フレームの各構成部品は一般に金属製部材と合成樹脂部材とからなり、これら部品に対する光触媒のコーティング処理は、通常夫々別途に処理されてから組み立てられる。
【0034】
一方、液状光触媒の作成について、繊維状酸化チタン超微粒子の生成は、酸化チタン系複合酸化物が水に分散してなる水分散ゾルを、少なくともSiO、AgO、ZnOのアルカリ金属水酸化物の存在下で水熱処理することにより得られる。これら繊維状酸化チタンの粒子径は、繊維幅及び厚さが1〜50nm、繊維長さが10〜1000nm、アスペクト比が2〜100以上が好ましく使用され、酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルを用いる。上記粒子径であれば安定な水分散ゾルが得られ、非常に高いレベルで単独の粒子分散性に優れた繊維状酸化チタン超微粒子が得られる。
【0035】
前記酸化チタン粒子、酸化チタンと酸化チタン以外の酸化物からなる酸化チタン系複合酸化物粒子の水分散ゾルの濃度としては、酸化物として2〜50重量%の範囲にあることが好ましい。このような濃度範囲であれば、ゾルは安定であり、アルカリ処理時に粒子が凝集することもなく、効率的に繊維状酸化チタン超微粒子を生成させることができる。
【0036】
上記のように、特にSiO、AgO、ZnOのアルカリ金属水酸化物が含まれると、繊維状酸化チタン超微粒子が生成しやすく、繊維状酸化チタン超微粒子の紫外線吸収領域や光触媒活性を調整することができ、さらに熱的安定性や化学的安定性を得ることができる。上記酸化チタン以外の酸化物の含有量は1〜25重量%、好ましくは3〜8重量%である。このような範囲において繊維状酸化チタン超微粒子は高いレベルで生成する。
【0037】
本実施例では、複合酸化チタン超微粒子に対してチタン過酸化物または複合チタン過酸化物と、有機高分子化合物とからなるバインダーを使用する。このようなチタン過酸化物または複合チタン過酸化物は通常溶液状態(透明液状光触媒)となる。このようなチタン過酸化物または複合チタン過酸化物は、前記複合酸化チタン微粒子と同程度の屈折率を有しているので、被膜構成成分による光の散乱がなく、透明性に優れた液状光触媒とすることができる。
【0038】
塩化チタン水溶液を純水で希釈してTiOとして濃度5重量%の塩化チタン水溶液を調整した。この水溶液を、温度を5℃に調整した濃度15%のアンモニア水に添加して中和・加水分解した。ついで生成したゲルを濾過洗浄し、TiOとして濃度9重量%のオルソチタン酸のゲルを得た。
【0039】
このオルソチタン酸のゲル100gを純水2900gに分散させた後、濃度35重量%の過酸化水素水800gを加え、攪拌しながら85℃で3時間加熱し、ペルオキソチタン酸水溶液を調整した。得られたペルオキソチタン酸水溶液のTiOとして濃度は0.5重量%であった。ついで95℃で10時間加熱して酸化チタン粒子分散液とし、この酸化チタン粒子分散液に分散液中のTiOに対するモル比が0.016となるようにテトラメチルアンモニウムハイドロオキサドを添加した。ついで、SiO、AgO、ZnOを若干量添加して、230℃で5時間水熱処理して複合酸化チタン粒子分散液、即ち本発明で使用する透明液状光触媒を調整した。この時の酸化チタンは、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100の繊維状酸化チタン超微粒子であった。
【0040】
液状光触媒組成の測定;上記透明液状光触媒の無機元素及び有機元素の組成比の測定結果を以下に示す。尚、透明液状光触媒の組成を把握するために、この透明液状光触媒から水を蒸発させて、溶解成分のみを濃縮採取し、それに含まれる無機元素及び有機元素の量を調べた。試料溶液をビーカーに入れ、120℃のホットプレートを用いて水を蒸発させ、触媒成分を濃縮採取した。有機物の存在が予想されるのでCHN分析も追加した。
【0041】
無機元素の定性・半定量(蛍光X線法);
以下の装置・条件で測定し、含有元素の定性・半定量を行った。
装置;理学電気(株)製 全自動蛍光X線分析装置、RIX−3000
管球;Rh管球 測定径;25mmφ
【0042】

【0043】
CHNの定量(燃焼熱伝導度法);
装置;ヤナコ製 MT−700CN

【0044】
測定結果の解析
前記測定結果より、液状光触媒に含まれる元素量は、以下のように計算される。

【0045】
上記無機元素の含有量は、下記式で測定値から算出した。
無機元素含有量=無機元素測定×(100−CHN含有量)/100すなわち、有機物由来と考えられるCHNの含有量(約70%)を全量から除き、その残りの(約30%)を無機元素含有量で割り振った。ただし、本測定では、必ず含まれているO(酸素)の含有量を把握できないため、無機元素の含有量には“<”を付した。Tiの形態をTiOと仮定すると、含まれるTiとOとの重量比は100:67となり、上表の推算値は次表のように換算される。
【0046】

【0047】
CNは有機バインダーに由来する元素と判断され、含有物の約70%以上(その他、酸素Oが存在している可能性も高い)を占めている。Ti(TiO)は光触媒の主成分である。また、上記酸化チタン等の無機酸化物金属は有機バインダーと合わせた合計含量の約18%以上となるので、特に酸化チタンがバインダー成分中に埋もれるのを防止し、かつ表面に酸化チタンの繊維状微粒子が緻密重なり合って、基材面において互いに極めて高密度に結合させる。さらに、CNH比により低温で乾燥できるため、光学透明基材が、例えば、プラスティックのような熱に弱いものに対してでも、基材に熱の影響なく使用できる。
【0048】
実験例1;眼鏡フレームのプラチナ製枠2、2及びブリッジ5、5の基材面へ上記光触媒無機酸化物を塗膜した。即ち、無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、酸化チタン等の無機酸化物金属を有機バインダーと合わせた合計含量の約15%以上とした液状光触媒中に、眼鏡フレームの茶褐色のプラチナ製枠2、2及びブリッジ5、5の基材面へ約10分間浸漬した後、約300℃で焼成させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は約4nmであった。乾燥後さらに、前記液状光触媒中に、約10分間浸漬した後、約200℃で焼成させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は前記の膜厚と合わせ約5nmであった。乾燥後さらに、前記液状光触媒中に、約10分間浸漬した後、約80℃で乾燥させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は前記の膜厚と合わせ6nmであった。この操作(約10分間浸漬した後、約80℃で乾燥)をさらに3回繰り返して膜厚と合わせ約38nmとした。
【0049】
上記光触媒の金属塗膜面について、膜の硬度はJIS K5400(鉛筆硬度測定法)によって測定した結果4Hであったが、4日後同様に測定した結果は6Hであった。また、色差計と光沢度計(入射角度45度)で膜表面の数箇所を測定した結果、SiOが少ないせいか色差が大きく光沢度も高かった。過去の実験から推察すると約10年で80%の光沢保持率があるものと考えられる。
【0050】
実験例2;眼鏡フレームの前記合成樹脂であるモダン6、6及び鼻あてパッド7、7の基材面へ上記光触媒無機酸化物を塗膜した。即ち、無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、酸化チタン等の無機酸化物金属を有機バインダーと合わせた合計含量の約15%以上とした液状光触媒中に、眼鏡フレームの薄い茶褐色のプラチナ製枠2、2及びブリッジ5、5の基材面へ約10分間浸漬した後、約120℃で温風処理させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は約5nmであった。乾燥後さらに、前記液状光触媒中に、約10分間浸漬した後、約80℃で焼成させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は前記の膜厚と合わせ約10nmであった。乾燥後さらに、前記液状光触媒中に、約10分間浸漬した後、常温乾燥させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させるようにした。このときの光触媒膜厚は前記の膜厚と合わせ約15nmであった。
【0051】
上記光触媒の合成樹脂塗膜面について、膜の硬度はJIS K5400(鉛筆硬度測定法)によって測定した結果3Hであったが、4日後測定した結果は5Hであった。また、色差計と光沢度計(入射角度45度)で膜表面の数箇所を測定した結果、SiOが少ないせいか色差が大きく光沢度も高かった。過去の実験から推察すると約10年で80%の光沢保持率があるものと考えられる。
【0052】
前記実験例1は、眼鏡フレームのプラチナ製枠2、2及びブリッジ5、5の金属基材面への塗膜であり基材が茶褐色であり、膜厚が1.7μmで良好な光沢度を維持した。これに対し、実験例2は、眼鏡フレームの前記合成樹脂であるモダン6、6及び鼻あてパッド7、7の基材面への塗膜であり基材が薄い茶褐色であり、膜厚が約10nmで良好な光沢度を維持した。このことから、光沢度は、色が濃いほど膜厚が厚く、薄いほど膜圧が薄いほうがよいことが理解される。
【0053】
前記実験例1は、眼鏡フレームのプラチナ製枠2、2及びブリッジ5、5の金属基材面への塗膜であり加熱焼成温度が高くなるが、実験例2では、眼鏡フレームの前記合成樹脂であるモダン6、6及び鼻あてパッド7、7の基材面への塗膜であり加熱焼成温度が低くしなければならない。
【0054】
剥離試験の結果、無機酸化物金属を眼鏡フレームの細い極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、基材面に対して強固に付着力させることが出来るので膜剥離も抑制することができた。
【0055】
Znは光触媒の吸着性向上のために添加されたものである。酸性のTiOに塩基性のZnOを添加する場合もある。SiOの混合比率が低い分ZnOを適量添加することによりその吸着性により眼鏡フレームの細い極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制できる。
【0056】
Siはバインダー成分(シリカゾル)であり、粘度を低くすることができ、流動性も高めることができる。加えて、酸化チタン等の無機酸化物金属を有機バインダーと合わせた含量が約15%以上であり、酸化チタンがSiバインダー成分(シリカゾル)中に埋もれるのを防止し、したがって、基材面に酸化チタンの繊維状微粒子が緻密重なり合って、光触媒酸化金属繊維粒子が互いに極めて高密度に結合させると共に、光触媒活性作用(膜剥離抑制、表面摩擦計数、膜硬度向上、表面耐擦傷、可視光触媒活性、超親水性曇り防止、帯電防止効果等)をさらに向上させることが出来る。尚、SiOは高い温度(約500℃以上)で加熱焼成すると気泡が発生して多孔質体となるので上記光触媒活性作用がより活性化される。
【発明の効果】
【0057】
この発明においては、光触媒である無機酸化物金属の粒子を繊維状超微粒子としているので光が乱反射し、比表面積が大きいのでさらにその乱反射を増幅させて光沢度を向上させることができる。また、膜厚が薄くかつ硬度が高く表面平滑であるので光沢度を鮮明にすることができる。さらに、眼鏡フレームのような極湾曲棒体に高密度かつ強硬度に密着して膜剥離を抑制し、SiO添加量が少ないので曇りが生じることなく、各種着色を有する眼鏡フレームの色調と光沢度を向上させると共に、それを長期にわたり維持することができる。
【0058】
また、極めて高硬度に硬化できるので、基材表面の耐擦傷を向上させて基材面を保護することができ、かつ強固に付着力させることが出来るので膜剥離を抑制することが出来る。
【0059】
また、前記繊維状超微粒子に対してAgを適当量含有することによりTi−Ag系光触媒においてもより光触媒活を向上させることができると共に、さらに、可視光においも被膜表面をより高度に親水化させるため、基材面に付着した水滴を崩れ広がらせて曇りを防止する同時に、該繊維状超微粒酸化チタン粒子は比表面積が大きく光触媒活性が向上する上に、Agとの相乗効果により酸化チタン金属膜が電気を通し易い状態となるため、帯電防止効果が極めて高くなる。そのため埃の基材面への付着がほとんど生じない。
【0060】
さらに、SiOの混合比率が低い分ZnOを適量添加することによりその吸着性によりコーティング膜の付着性をさらに強固にすることができる。また、SiOは高い温度(約500℃以上)で加熱焼成した場合は気泡が発生して多孔質体となるので上記光触媒活性作用がより活性化される。
【0061】
CNH比により低温で乾燥できるため、基材が、例えば、プラスティックのような熱に弱いものに対してでも、基材に熱の支障なく使用できる。
【0062】
また、上記の酸化物が残存することにより得られる酸化チタンの紫外線吸収領域、誘電率、光触媒活性、プロトン導電性、固体酸特性等を調整することができ、さらに熱的安定性や化学的安定性等を調節することもできる。また、Agを添加することにより、暗い密閉室内であっても高い光触媒活性作用を得ることができる。さらに、Siを含むことにより、粘度を低くすることができほか光触媒液の流動性も高めることができる。
【0063】
また、CHNの有機元素が上記の範囲にあると、前記合成樹脂基材に対する乾燥手段において、熱風の温度を樹脂基材に支障のない120℃以下と極めて低い温度で繊維状酸化チタンを強固に固着させることができると共に、乾燥速度を極めて速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す眼鏡フレームの全体斜視図
【符号の説明】
1 眼鏡フレーム
2 レンズ枠
3 ブリッジ
4 蝶番
5 テンプル
6 モダン
7 鼻パッド
8 脚
10 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状光触媒中の無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、眼鏡フレーム基材面に定着させた酸化チタンを含む光触媒無機酸化金属膜の膜厚が5nm〜2μm、膜硬度が鉛筆硬度で約3H以上、光沢保持率が約10年で80%以上である眼鏡フレーム。
【請求項2】
無機酸化金属である少なくとも酸化チタンが繊維状超微粒子であり、平均繊維幅及び厚さが1〜50nm、平均繊維長さが10〜1000nm、平均アスペクト比が2〜100、比表面積が30m/g以上であり、光触媒中の無機元素が半定量値において少なくともTiが90〜97wt%、Siが2.3〜3.0wt%、Agが1.4〜2.2wt%、Znが0.2〜0.3wt%含み、有機元素が定量値において少なくともCが55〜65wt%、Hが8〜12wt%、Nが0.2〜0.4wt%含み、酸化チタン等の無機酸化物金属を有機バインダーと合わせた合計含量の約15%以上とした液状光触媒中に、透明光学基材を約1分以上浸漬した後、600℃以下で加熱乾燥させて無機酸化金属を基材面に高密度に定着させて、膜厚が5nm〜2μm、膜硬度が鉛筆硬度で約3H以上、光沢保持率が10年で80%以上となるように調整した眼鏡フレームへの光触媒無機酸化金属膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−103653(P2012−103653A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265728(P2010−265728)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(510313991)西日本緑化株式会社 (2)
【Fターム(参考)】