説明

着色粘土鉱物粉末およびその製造方法

【課題】マイカ粉末あるいはタルク粉末等の表面を、色材としての金属酸化物で被覆して、この金属酸化物により着色すると共に、マイカ粉末あるいはタルク粉末等の表面特性の好適な発現を両立し得るようにした着色粘土鉱物粉末と、この着色粘土鉱物粉末の製造方法とを提供する。
【解決手段】基材の表面に金属有機化合物を吸着させた後に加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化により得られる金属酸化物を該表面に分散状態で存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末の表面に対して、色材として作用する金属酸化物を分散して存在させることで、金属酸化物による着色と、該粘土鉱物粉末の表面特性の保持とが好適に達成されている着色粘土鉱物粉末、およびこの着色粘土鉱物粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイカ(雲母)原鉱石またはタルク原鉱石の鉱脈は、世界中に広く分布し、またこれらの加工が容易であることから、古くから様々な用途に用いられ、かつその利用範囲も極めて多岐に渡るものである。このマイカ原鉱石は、俗に「千枚剥がし」と呼ばれ、細かい鱗片状に剥離しやすい特異的な層状構造を有すると共に、滑り性、弾力性、電気絶縁性および耐熱性等の良好な特性を有している。 一方、タルク原鉱石は、そのモース硬度が1と極めて柔らかい鉱物であり、また滑りが良いことから「滑石」や「ソープストーン」と俗に呼称されている。また、タルクについてもマイカほど顕著ではないが、その粒子構造は層状になっている。
【0003】
マイカあるいはタルク等の粘土鉱物(以下、マイカ等と云う)は、添加対象物等または用途に応じてフレークまたは粉末等の状態で使用されている。具体的には製紙、樹脂や塗料等に対して、工業製フィラーとして増量、物性や性能の改善、機能性の付与、加工性の改善を目的として添加され、また化粧品原料、医薬品原料、その他触媒や吸着材等の粉末製品としても用いられている。殊に化粧品原料としてのマイカ等の粉末は、その粒子が層状構造(鱗片状または板状)を呈するが故に、肌に適度な伸び、滑り性や密着感等をもたらすと共に、光沢感や仕上がり感を向上させる効果を奏する。また、他の滑り性等を示す有機材料と異なり無機材料であるから、細菌等に対する汚染に強く化粧品等自体の保存性を向上させるので広く採用されている。
【0004】
マイカ等粉末は、前記マイカ原鉱石またはタルク原鉱石を、例えば乾燥状態から直にアトマイザー等の粉砕機によって適当な粒径に粉砕し、得られた乾燥粉砕物について篩い等を用いて分級することで製造されている。このようなマイカ等粉末の製造方法は、乾燥状態のままで粉砕、分級等の処理を行なう乾式粉砕法と云われ、多量かつ安価に処理を実施し得る方法である。
【0005】
ところで近年、マイカ等粉末の表面に対して、他の物質を付与することで、マイカ等粉末に新たな機能を付与することがなされている。例えば、マイカ等粉末に色材を付与することで着色して得られる着色マイカ等粉末が、添加対象物に対して任意の色を付与する色材として使用されている。このマイカ等粉末の着色法としては、酸化鉄(ベンガラ)や酸化チタン微粉末等の無機顔料を単体、または有機顔料とを混練し、これを樹脂バインダでマイカ等粉末の表面に固着させる方法が知られている。また、マイカ粉末の表面に酸化チタン薄膜を形成したものは、入射する光が酸化チタン表面とマイカ表面とに当たって夫々で反射する光による干渉作用に起因して、特異な光沢(真珠光沢)を発現させる干渉色を得られ、所謂パールマイカ(パール色材)顔料として製造されている。この他、酸化鉄薄膜等の無機鉄塩がその表面に形成されたマイカ粉末は、見る角度や光の入射角によって色調が変化する、所謂カラーフロップ特性を有し、これも色材として製造されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、マイカ等粉末を着色した製品は、顔料をバインダで固着したものは言うに及ばず、酸化チタン、酸化鉄薄膜等の金属酸化物薄膜を形成したものにおいても、バインダで固着された顔料あるいは金属酸化物の立体構造に起因するマイカ等粉末表面の「ザラザラ感」と云った触感の悪化が目立つ欠点が指摘される。すなわち、マイカ等粉末が有する優れた滑り性等の表面物性を、その表面に薄膜を形成することで損ってしまうことになる。これはマイカ等粉末の表面が、図4に示す如く、金属酸化物等が局在化して固着すると共に、これら金属酸化物等が凝集して二次凝集粒子として存在していることに起因すると考えられている。そこでこの触感の悪さを改善するために、シラン剤(シリコン剤)等によるマイカ等粉末の表面処理が行なわれてきたが、このような表面処理はマイカ等粉末の表面特性を大きく変化させてしまい利用範囲を狭める問題があった。具体的には、薄膜の表面に形成されたシラン等の被膜が、干渉色の鮮明な発現を妨げてしまう等の難点が指摘される。
【0007】
また、染料によってマイカ等粉末を直接染色する方法も考えられるが、マイカ等粉末がなす層状構造間に染料を入り込ませることが難しく、現実的には困難である。更に、金属酸化物薄膜をマイカ等粉末の表面に形成する方法としては、特許文献1に開示されている如く、金属塩の希釈酸性水溶液中に雲母フレークを懸濁させて、この雲母フレークがその表面上に金属酸化物を生成させるための核として作用し得るような速度で緩やかに加水分解を起こさせることで、雲母フレークの表面に金属酸化物からなる薄膜を形成する、所謂加水分解法が知られている。しかし、マイカ等粉末に対する加水分解法による薄膜の形成は、温度、pHおよび試薬濃度等の条件について微妙な調整が必要であり、製造工程が煩雑になると共に、製造に多大なコストが掛かることから、高価格であり、それ故これまでの安価なマイカ等粉末の代替となり得ず利用範囲が限られたものとなっていた。
【特許文献1】特公昭43−25644号公報
【0008】
すなわちこの発明は、従来の技術に係る着色粘土鉱物粉末およびその製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、マイカ粉末あるいはタルク粉末等の表面を、色材としての金属酸化物で被覆して、この金属酸化物により着色すると共に、マイカ粉末あるいはタルク粉末等の表面特性の好適な発現を両立し得るようにした着色粘土鉱物粉末と、この着色粘土鉱物粉末の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る着色粘土鉱物粉末は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末であって、
前記基材の表面に金属有機化合物を吸着させた後に加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化により得られる金属酸化物が該表面に分散状態で存在して、該金属酸化物による着色および該基材の表面特性の保持がなされていることを特徴とする。
【0010】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の別の発明に係る着色粘土鉱物粉末は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末であって、
前記基材の表面に金属有機化合物を吸着させた後に加熱することで、該金属有機化合物の熱分解、酸化および焼成により得られる金属酸化物からなる複合体粒子が該表面に分散状態で存在して、該金属酸化物による着色および該基材の表面特性の保持がなされていることを特徴とする。
【0011】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の更に別の発明に係る着色粘土鉱物粉末の製造方法は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記基材と、金属有機化合物を含有する溶液とを混合することで、該基材の表面に対して金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物を熱分解および酸化に供して金属酸化物とし、
これにより個々の金属酸化物を前記表面に分散状態で存在させるようにしたことを特徴とする。
【0012】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の更に別の発明に係る着色粘土鉱物粉末の製造方法は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記基材と、金属有機化合物を含有する溶液とを混合することで、該基材の表面に対して金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化による金属酸化物化と、更なる加熱の進行に伴う焼成による該金属酸化物の複合体粒子化とを行ない、
これにより個々の金属酸化物の複合体粒子を前記表面に分散状態で存在させるようにしたことを特徴とする。
【0013】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の更に別の発明に係る着色粘土鉱物粉末の製造方法は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記粘土鉱物粉末の原鉱石を、金属有機化合物を含有する溶液とを混合させた状態で粉砕することで、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末からなる基材を得ると共に、該基材の表面に該金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物を熱分解および酸化に供して金属酸化物とし、
これにより個々の金属酸化物を前記表面に分散状態で存在させるようにしたことを特徴とする。
【0014】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の更に別の発明に係る着色粘土鉱物粉末の製造方法は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記粘土鉱物粉末の原鉱石を、金属有機化合物を含有する溶液とを混合させた状態で粉砕することで、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末からなる基材を得ると共に、該基材の表面に該金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化による金属酸化物化と、更なる加熱の進行に伴う焼成による該金属酸化物の複合体粒子化とを行ない、
これにより個々の金属酸化物の複合体粒子を前記表面に分散状態で存在させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る着色粘土鉱物粉末およびその製造方法によれば、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末、またはその表面に予め金属酸化物が付与されたマイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末の基材における表面に、金属有機化合物を加熱することで生成される金属酸化物やその複合体粒子を分散状態で存在させることで、金属酸化物による着色と、該基材の表面特性の好適な発現の保持とを両立し得る。また本発明に係る着色粘土鉱物粉末およびその製造方法は、着色した良質なマイカ粉末あるいはタルク粉末に関する製品製造に大きく貢献することに留まらず、マイカ原鉱石あるいはタルク原鉱石が有する有用な物性、すなわち絶縁性、耐熱性やマイカ原鉱石あるいはタルク原鉱石自体が有する独特の滑りの良い触感等を生かすことで、マイカあるいはタルクの利用範囲を大きく広げ、工業原料、医薬品または化粧品等の多数の業界に大きく貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る着色粘土鉱物粉末およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。本発明者は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末、またはその表面に予め金属酸化物が付与されたマイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末からなる基材と、金属有機化合物を主成分として含有する溶液とを混合することで、該金属有機化合物を基材の表面に吸着させた後、これを加熱することで、該金属有機化合物における有機物を除去すると共に、該表面に金属酸化物または該金属酸化物からなる複合体粒子を分散した状態で存在させ、これにより粘土鉱物の表面に存在する金属酸化物に由来する良好な着色と、粘土鉱物に由来する滑り性等の表面特性の保持とを両立し得る着色粘土鉱物粉末を製造できることを知見したものである。なお、本発明で云うマイカあるいはタルクとは、基材として選択する粘土鉱物として好適な例を挙げたものであって、マイカおよびタルクに限定するものでなく、他の層状構造を有する粘土鉱物も含み、例えばバーミキュライトまたはカオリン鉱物等、または他の粘土鉱物であってもよく、また本発明で云う粘土鉱物粉末は、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粒子からなるものであり、粉末の表現は粒子の意味を含むものとする。更に本発明において金属酸化物による基材の着色とは、基材の色相を変化させるのみでなく、元の基材が有する色相を保持したまま、色調(色の濃淡)を変化させる態様や、光の干渉作用による干渉色の発現等も含まれる。
【実施例】
【0017】
実施例に係る着色粘土鉱物粉末は、マイカあるいはタルク等の粘土鉱物(以下、マイカ等と云う)粉末を基材として、この表面に単一または2以上の金属酸化物が分散して存在し、この金属酸化物により元々基材が有する色相と異なる色相に発色すると共に、金属酸化物に種類または組合わせによっては金属酸化物とマイカ等粉末との干渉作用による複雑な干渉色を併せて奏する。前記基材は、使用される対象物、用途または後述する製造方法に応じて、マイカ等の原鉱石、あるいはこれら原鉱石を所要の方法で粉砕して得られたフレークまたは粉末等の任意の形態で用意され、この基材の形態および粒径により、得られる着色粘土鉱物粉末の形態等がおおよそ設定される。また前記基材としては、マイカ等の単体に限られず、マイカ等粉末の表面に金属酸化物が本発明の方法により予め存在するようにされたマイカ等の粉体も対象となる。前記金属酸化物としては、鉄、亜鉛、チタン、ジルコニウム、すず、アルミニウム、コバルト、クロムまたはバナジウム等の酸化物が挙げられるが、基材との関係による着色または干渉色の発現具合、人体等に対する安全性および価格等の観点から、鉄、亜鉛およびチタンが好適に使用される。
【0018】
前記基材をなすマイカ等は、主成分として層状の単斜晶系結晶構造を持つ含水珪酸塩鉱物であり、これらを粉砕して得られる粉末は、細かくても鱗片状または板状の相似形になって粒度が安定すると共に、良好な滑り性等を示す特異な表面状態を有している。このうちマイカとしては、マスコバイト(白雲母)、フロゴパイト(金雲母)、バイオタイト(黒雲母)等の天然に産出されるものや、または各成分を熱で溶かして合成したフッ素金雲母等の人造雲母等の各種あるが、これらの何れも採用し得る。これらのマイカは、SiOを主成分として、Al、MgO、KO、HO等の各種成分から構成され、種類によって化学成分およびその構成比率も異なっている。すなわち、マイカは種類によって呈する色相が相違しているから、その表面に形成する金属酸化物の被膜との関係で最終的に得たい色相、色調および干渉色を勘案して選択される。一方、タルクの基本的な化学構造式は、MgSi10(OH)であり、分子量が379.27、その内訳はSiO:約63.5%、MgO:約31.7%、HO:約4.8%であって、非常に柔らかい粘土鉱物である。
【0019】
前記マイカ等の基本的な結晶構造は、Si−O四面体が2次元的に繋がっている四面体シートと、Al−O、Mg−Oの八面体が繋がっている八面体シートとから構成される、所謂2:1型粘土鉱物構造を有し、基本的に電荷は帯びていない。またマイカ等は、化学的にも極めて安定であり、有機または無機の化学物質をこれらの表面に化学結合させて固着することは困難であることが知られている。しかし本発明では、マイカ等の表面に金属酸化物を存在させるにあたって、マイカ等の表面に吸着し得る金属有機化合物を選択することで、最終的に基材であるマイカ等の表面に金属酸化物を分散状態で存在させた着色粘土鉱物粉末を製造できることを見出した。すなわち、アルカリ金属や貴金属以外の金属有機化合物を加熱して熱分解することで、金属有機化合物から有機分子が除去されて金属酸化物を生成する化学変化を利用して、マイカ等の表面に分散した状態で結合した金属酸化物を得るものである。
【0020】
従来、マイカ等は化学物質を結合し難いと考えられていたが、本発明で使用される金属有機化合物は以下の理由でその吸着が可能であると考えられる。すなわちマイカ等は、その結晶構造中に−OH基(結晶水)を有しており、これらの微細粉末に水を添加すると、水分子を引き込んでゾル(粘土)状になる親水性を有することが知られている。ここで、基本的にマイカ等に金属有機化合物が吸着するためには、先ずマイカ等と金属有機化合物とが接触する必要があるが、この接触は前述の親水性によってなされる。そして接触したマイカ等と金属有機化合物とは、電気的な力により吸着されると共に、その状態に維持されることになる。この金属有機化合物におけるマイカ等の表面に対する吸着機構は、マイカ等の粉砕時に生じた破断面に存在する−OH基と、金属有機化合物の有機分子中に存在する官能基とが直接、あるいは水分子を介して配位結合、もしくは水素結合に近い状態で吸着していると考えられる。
【0021】
図1は、マイカ等粉末に対する金属酸化物の吸着に係る過程を示したマイカ等粉末の表面部分の拡大概略図である。前記金属有機化合物は、水等の溶媒に均一に分散させた溶液の状態で前記基材に混合・混練されて、この基材全体に一様に行き渡るようにされる。この際、混合された金属有機化合物は、前述した如く、基材をなすマイカ等が有する親水性によりその表面に引寄せられ、金属有機化合物において官能基と結合した金属原子側がマイカ等粉末の表面に吸着していると考えられる(図1(a)参照)。すなわち、金属有機化合物における有機分子は外側に位置し、かつ金属原子と比較して格段に大きい有機分子に邪魔されているため、隣り合う金属有機化合物は、その金属原子同士が一定の間隔を保持した状態でマイカ等粉末の表面に吸着されることになる(図1(b)参照)。そしてこの状態で加熱を施すことにより、金属有機化合物における有機分子部分が熱分解(燃焼)で除去され、この除去で該金属有機化合物から有機化合物が離脱して生成される複数の金属原子が当該加熱によって酸化して金属酸化物(一次粒子)となる(図1(c)参照)と共に、更なる加熱に伴う焼成により複合体粒子を構成し(図1(d)参照)、かつこの複合体粒子がマイカ等の表面に一定間隔で結合した状態となる。従って、加熱処理後のマイカ等粉末の表面は、個々の金属酸化物が凝集等を起こすことなく均質的に分散した状態になっている。なお有機分子部分が熱分解除去、金属原子の酸化および得られた金蔵酸化物の焼成による複合体粒子化が、連続的に進行することは云うまでもない。
【0022】
このように着色粘土鉱物粉末は、金属有機化合物を出発物質として、この金属有機化合物の熱分解、酸化および焼成によって金属酸化物の複合体粒子を生成させるため、マイカ等粉末の表面に結合した金属酸化物は広く均質的に分散し、従来の金属酸化物を利用した着色法のように、該金属酸化物が局在化または凝集塊(二次凝集粒子)となることはない。すなわち本発明に係る着色粘土鉱物粉末においては、金属酸化物がマイカ等粉末の表面に局在化等により、凝集した金属酸化物の複合体粒子がなす立体構造によるマイカ等の表面物性の阻害がないため、マイカ等の表面特性に由来する良好な滑り性等の好適な触感を損うことがない。
【0023】
また粘土鉱物粉末の表面に金属酸化物を存在させ、その表面に光を入射させた場合、該金属酸化物がその金属に特有の吸収スペクトルを示し、特定の波長域しか反射されず、またこの特定の反射光にマイカ等の表面で反射した光が干渉する現象が発生する。このため多様な金属酸化物毎に異なった色相または干渉色の発現が得られ、これにより多様な色相または干渉色の発現をなすマイカ等(粉末)が得られる。例えば、マイカ等(粉末)の表面に酸化鉄を存在させると、肌色に近い色相を示し、酸化鉄の存在量が多くなるほど赤味が増していく。また酸化亜鉛または酸化チタンは、紫外線領域に吸収スペクトルを示す。更に、酸化亜鉛または酸化チタンは可視光線に対し高い隠蔽性を示すから、得られたマイカ等(粉末)は白色を呈する。従って、これらの金属酸化物が表面に存在する着色粘土鉱物粉末を、例えばファンデーション等の粧材に混合させることで、該粧材に好適な紫外線防御機能を付与することができる。
【0024】
このように本発明に係る着色粘土鉱物粉末は、マイカ等粉末の表面に存在する金属酸化物に由来する良好な色相や干渉色等の発色と、マイカ等の物性に由来する滑り性等の表面特性の発現とを両立し得る。従って、その表面に存在する金属酸化物とマイカ等とが相まって良好な干渉色等を呈すると共に、マイカ等粉末の鱗片状の粒子形状により発現される肌に適度に付着する付着性、展延性や良好な滑り感等の特性が金属酸化物薄膜で阻害されないため、化粧品原料や医薬品原料等としては最適である。しかも得られた着色粘土鉱物粉末は、マイカ等粉末の表面に金属酸化物の複合体粒子が安定な化学構造を形成して強固に固着している。すなわち、前記着色粘土鉱物粉末を水またはアルコール等の有機溶剤に分散させたとしても、金属酸化物がマイカ等粉末の表面から脱離することがなく、所謂色落ちしないので塗料、その他の色材等の添加剤として広い範囲で利用し得る。
【0025】
前記金属有機化合物は、マイカ等粉末の表面に存在させて、所望の着色をなす金属酸化物との関係から選択され、好適には当該金属酸化物の金属成分の有機酸塩が好適に採用される。有機酸塩をなす有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボシキル基を有するものや、クロロフィル類やヘム鉄等の金属錯体等が使用される。このような金属有機化合物として、酢酸塩をはじめとする1価の有機酸を選択した場合、マイカ等粉末の表面に対する吸着が好適に進行することが知られており、有機酸であってもクエン酸等の多価のものでは、その吸着作用は小さいことから、1価の有機酸の使用が好適である。また2種以上の異なる金属有機化合物を併用することも可能である。すなわち、2種以上の異なる金属有機化合物から夫々対応して2種以上の金属酸化物が生成され、これらの複合した金属酸化物により異なる色相または複雑な干渉色の呈色や、機能性の向上等の作用を奏する。このように2以上の異なる金属酸化物、例えば酸化鉄と酸化亜鉛とを基材表面に存在させることで、夫々の金属酸化物に由来する吸収スペクトルの相違によって、単一の金属酸化物からなる場合と異なる色相や色調等を示す複雑な干渉色を有する着色粘土鉱物粉末を得ることができる。
【0026】
また金属有機化合物は、前述([0021])の如く、当該金属有機化合物を含有する溶液の形でマイカ等に対して混合されるが、該溶液については金属有機化合物を単体で混合する以外に、該金属有機化合物を主成分とすると共に、その他の成分として無機金属塩および/または金属酸化物を単体または混合して併用・混合するようにしてもよい。これらの無機金属塩および金属酸化物としては、使用に供される金属有機化合物と同一の金属原子を有するものを選択しても、または異なる金属原子を有するものを選択してもよい。具体的には、無機金属塩として硫酸塩等が挙げられ、一方金属酸化物としては、酸化鉄、酸化亜鉛または酸化チタン等が挙げられる。すなわち、金属有機化合物または無機金属塩等から夫々対応して金属酸化物が生成され、これらの複合した金属酸化物により異なる色相または複雑な干渉色の呈色や、機能性の向上等の作用を奏する。
【0027】
またマイカ等の表面に結合する金属酸化物は、前述した複合体粒子に限られず、650℃を越えるような高温での加熱によって進行する焼成以前の一次粒子の状態で存在してもよい。この場合、その金属原子同士が一定の間隔を保持した状態でマイカ等粉末の表面に吸着された金属有機化合物(図1(b)参照)は、加熱により金属有機化合物における有機分子部分が熱分解(燃焼)で除去され、この除去で該金属有機化合物から有機化合物が離脱した複数の金属原子の酸化により生成された金属酸化物(一次粒子)がマイカ等の表面に一定間隔で結合した状態となり(図1(c)参照)、この状態で加熱は完了となる。この金属酸化物(一次粒子)は、複合体粒子に比較しても小さく、該複合体粒子以上にマイカ等の表面特性に由来する良好な滑り性等の発現に寄与する。
【0028】
なお、その表面に予め金属酸化物が吸着され、焼成によって結合されたマイカ等粉末を、更に基材として用い、この表面に更に別の金属酸化物を存在させた構成も採用し得る。ここで前記別の金属酸化物とは、最初に形成した金属酸化物と同一または異なる金属酸化物(単一または2以上の複合物)を使用する態様の何れであってもよい。また多種類の金属酸化物を、後述([0030])する本発明に係る製造方法をその種類数に応じた回数実施して、多種類の金属酸化物をその表面に存在させるマイカ等粉末を製造するようにしてもよい。
【0029】
この他、最初に基材であるマイカ等粉末に対して結合された金属酸化物は、本発明に係る金属有機化合物を使用した後述する製造方法にて付与することが望ましいが、例えば加水分解法等の使用による従来の方法によって付与するようにしてもよい。しかしこの場合、付与した金属酸化物の均一分散による基材の表面特性の好適な発現を担保する表面状態の保持を考慮すると、従来の方法により付与したものは、その表面特性の発現を妨げてしまい、別の金属酸化物の付与に伴う作用効果を減じてしまう点に注意を要する。
【0030】
(実施例の製造方法の一例)
本発明に係る着色粘土鉱物粉末は、図2に示す如く、基本的に基材製造工程S1、混合工程S2、加熱工程S3および最終工程S4を実施することで基本的に製造される。そして、加熱工程S3および最終工程S4の間に、必要に応じて機能化工程S5を実施することも可能である。なお機能化工程S5については、本発明に係る着色粘土鉱物粉末を製造するための必須的な工程ではなく、例えば食品添加物または化粧品等として、更に特定の機能を発現し得る第3成分をマイカ等粉末に対して付与する場合や、金属酸化物が結合されたマイカ等粉末を中間的な生成物として、更なる粉砕(二次粉砕)等を実施して更に高いアスペクト比を有する、所謂薄片剥離型のマイカ等粉末を得る際に実施される工程である。
【0031】
基材製造工程S1は、粉砕段階S11と必要に応じて実施される分級・乾燥段階S12とに区分される。粉砕段階S11は、マイカ原鉱石またはタルク原鉱石に対して、ピンミル、ハンマーミル、ロールミルその他公知の粉砕手段による粉砕を実施して、着色粘土鉱物粉末の主体をなす基材として、所定粒径に調整したマイカ等粉末を得る段階である。ここで使用される粉砕手段や、この手段による粉砕時間等は、得るべきマイカ等粉末をなす粒子の径により略決定される。ここで粉砕方法としては、乾式粉砕または湿式粉砕の何れの方法であっても採用し得る。しかし、工業用途等に多用されるタルク粉末の原料であるタルク原鉱石は、原鉱石の段階では表面物性が親水性であるが、乾式粉砕法で得られるタルク粉末はそれらの有用な物性を継承せず疎水性を発現してしまう。すなわち、後述する混合工程S2において、タルク粉末に対して金属有化合物溶液を添加した際に、金属有機化合物が吸着し難くなる弊害が生じる。従ってタルク粉末は、湿式粉砕法で粉砕したものが好適に使用されるが、乾式粉砕法によって粉砕したものであっても、後工程において水に浸漬して水に馴染ませて親水性を予め回復させることで、混合工程S2における弊害を回避し得る。なおマイカについては、粉砕することまたは粉砕方法によってその表面における親水性が原鉱石との間で変化することはない。
【0032】
また湿式下で好適な粉砕等を実施する水流を利用した、所謂水流粉砕機や水中攪拌機等による粉砕も採用可能である。この水流粉砕機や水中攪拌機等の使用による粉砕は、後述する分級・乾燥工程における分級の同時実施もなし得るものであり、処理により一次粒子毎に分離したマイカ等粉末を得ることができる。
【0033】
前記分級・乾燥段階S12は、粉砕段階S11の実施により得られたマイカ等粉末を使用用途に応じた粒径に揃えると共に、湿式粉砕法で粉砕を実施した際に、粉砕に使用した水を除去等するための乾燥を施す段階である。従って、粉砕段階S11において乾式粉砕法を採用した場合は、乾燥は必要なくなる。この分級・乾燥段階S12において実施される分級は、最終的に基材として得るべきマイカ等粉末の粒径を考え、この粒径に対応したメッシュを有する通常の篩いによる分級等、従来公知の方法が適宜採用可能である。前記分級・乾燥段階S12における乾燥は、一般的に使用される熱風循環恒温乾燥炉等の従来公知の手段を使用することで実施され、またこのほか、例えば流動層乾燥機等の従来公知の乾燥機も使用し得る。なお、この乾燥によって加えられる熱量はさほど大きなものではなく、120〜160℃程度に設定される。この温度が高過ぎると、特にタルクに場合、得られた基材が保持しているタルク原鉱石の親水性等の有用な物性が失われる場合があるので注意が必要である。また、乾燥時間は90〜180分程度の製造効率を阻害しない範囲内で適宜選択的に設定される。また粉砕段階S11の実施により、充分に製品としての粒度となっている場合等は、必ずしも分級を実施する必要はない。
【0034】
前記混合工程S2は、基材であるマイカ等粉末に対して、その表面に結合させる金属酸化物となる金属有機化合物を混合・混練する工程である。金属有機化合物を、溶媒としての水に均一に分散させた含有溶液(以下、金属有機物含有溶液と云う)を、基材と混合して充分混練することで、マイカ等粉末の表面に金属有化合物をまんべんなく吸着させる。この混合工程S2では、リボン型、パドル型やスクリュー型ミキサー、ニーダーまたはその他公知の粉砕手段により充分に混合・混練される。この混合・混練時間は、マイカ粉末等の粒径や金属有機化合物含有溶液の添加量等の各要素によって変動するが、金属有機化合物をマイカ粉末等の表面に均一に吸着させるため、マイカ等粉末の全体に行き渡るように適宜設定される。すなわち、後述する如く後工程である加熱工程S3を経由して、マイカ等粉末の表面に結合する金属酸化物は、マイカ等粉末の表面に吸着した金属有機化合物から有機分子を燃焼除去することで生成されるから、マイカ等粉末の表面に対する金属有機化合物の分散度合が金属酸化物の分散状態に影響を与えることになる。また前記金属有機化合物含有溶液における金属有機化合物の濃度および基材に対する添加量は、基材となるマイカ等の種類や、表面に結合させる金属酸化物の種類、得たい色相、色調さおよび干渉色との関係等によって適宜調節され、この濃度を高くする程、マイカ等粉末の表面に金属酸化物が密に存在し、色調の濃くまたは干渉色を強く設定することができる。なお、金属有機化合物含有溶液を高濃度に設定し難い場合は、水に対して有機酸を混合させた混合液を溶媒として使用するとよい。
【0035】
前記混合工程S2において、2以上の異なる金属有機化合物を分散させた金属有機化合物含有溶液を調製し、これを基材に対して混合し、加熱工程S3等の後工程を経ることで、これらの異なる金属酸化物をマイカ等粉末の表面に結合・存在させることができる。また金属有機化合物含有溶液に対して、無機金属塩および/または金属酸化物を混合してもよい。金属有機化合物と無機金属塩または金属酸化物とは、その金属が必ずしも同一でなくてもよく、異なる金属からなるものを使用することが可能である。
【0036】
前記加熱工程S3は、混合工程S2の実施により得られ、その表面に金属有機化合物が吸着したマイカ等粉末に所要の熱を加え、該金属有機化合物の有機物成分を熱分解により除去すると共に、金属原子を酸化させて金属酸化物(一次粒子)となし、複数の金属酸化物を焼成させて複合体粒子の形で該表面に結合させて、分散状態で存在させるための工程である。そして前記加熱工程S3は、乾燥段階S31と焼成段階S32とからなり、該乾燥段階S31は、混合工程S2の実施により得られ、その表面に金属有機化合物が吸着したマイカ等粉末から余分な水分を除去等するための乾熱乾燥を施す段階である。乾燥段階S31における乾燥は、一般的に使用される熱風循環恒温乾燥炉等の従来公知の手段を使用することで実施され、またこのほか、例えば流動層乾燥機等の従来公知の乾燥機も使用し得る。なおこの乾燥によって加えられる熱量はさほど大きなものではなく、105〜160℃程度に設定される。また、乾燥時間は90〜180分程度の製造効率を阻害しない範囲内で適宜選択的に設定される。
【0037】
前記焼成段階S32は、マイカ等粉末の表面に吸着した金属有機化合物からの有機分子の脱離、有機化合物が離脱した金属原子の酸化および酸化された金属酸化物の焼成による複合体粒子化を行ない、この金属酸化物からなる複合体粒子をマイカ等粉末の表面に生成する工程である。焼成段階S32における焼成は、一般的に使用される電気炉、焼成炉等の従来の加熱手段を使用することで実施される。なお加熱温度は、400〜900℃程度に設定され、加熱時間は90〜180分程度の製造効率を阻害しない範囲内で適宜選択的に設定される。このように、その表面に金属有機化合物が吸着したマイカ等粉末を加熱すると、この金属有機酸塩を構成する有機分子部分が熱分解(燃焼)してマイカ粉末等の表面から脱離する結果、マイカ等粉末の表面には、金属酸化物が生成され、更なる加熱によりこの金属酸化物が表面において焼成に伴う立体構造の変化等により結合された複合体粒子となり、基体であるマイカ等粉末の表面に金属酸化物からなる複合体粒子が存在する着色粘土鉱物粉末が製造される。なお乾燥段階S31と、焼成段階S32とについては、連続加熱によって、連続的に実施することも可能であり、この場合、金属有機化合物含有溶液の溶媒である水の充分な乾燥を達成するため、120〜160℃程度の加熱を少なくとも60分程度保持する必要がある。また、前記焼成温度によって金属酸化物の複合体粒子の物理的な形や、酸化の度合い、すなわち価数や、配位の違いによる立体的な構造が変化し、得られる着色粘土鉱物粉末の色調を変化させることが可能である。
【0038】
例えば、焼成温度を850℃に設定し、1時間以上焼成することで、マイカ等粉末は、結晶水を失って変成するが、金属酸化物を安定な複合体粒子(例えば、ルチル型酸化チタン等)とするためには、900℃程度の焼成温度が必要である。すなわち、焼成温度として400〜800℃の比較的低温で焼成することで、マイカ等粉末を変成させずに着色した着色粘土鉱物粉末を得られる。一方、焼成温度を900℃程度に設定することで、マイカ等粉末を変成させて安定した金属酸化物の複合体粒子を得ることできる。
【0039】
前記最終工程S4は、前述の各工程を経ることで製造された着色粘土鉱物粉末に対して、出荷に必要な計量、包装その他様々な検査等を実施する工程である。そして本工程の終了後に着色粘土鉱物粉末は出荷等される。
【0040】
ここまでの説明では、金属有機化合物を加熱して、有機化合物を離脱させ、酸化により得られた金属酸化物(一次粒子)を、更なる高温処理に供し焼成させて粒成長に供し、金属酸化物からなる複合体粒子が、マイカ等粉末に結合する場合を説明しているが、前述の加熱工程S3における加熱の度合い、すなわち温度や加熱時間を制御することで、マイカ等粉末に対して一次粒子状態の金属酸化物が結合した状態にすることも可能である。これは、有機化合物の離脱および金属原子の酸化に必要であり、かつ金属酸化物の焼成に至らない加熱を施すことで達成される。具体的には、温度としては、250〜650℃程度、加熱時間は、温度によるが1時間程度以下に設定される。なお、このような状態で加熱を実施すると、有機化合物が離脱した金属原子の酸化が不完全となる(例えば金属原子が鉄である場合、その全てが酸化鉄(III)(三酸化二鉄;Fe2O3)とならずに酸化鉄(II)(酸化第1鉄;FeO)として残留する)ことになるが、通常は自然雰囲気下で徐々に酸化が進行するため、最終的には全て酸化鉄(III)となり、殊に問題は生じない。またこのように価数による色調の違いを意図的に利用して、単なる赤褐色や黒色だけではなく、それらの中間色を発現する着色粘土鉱物粉末を製造することも可能である。
【0041】
また前記焼成段階S32を経て得られた着色粘土鉱物粉末の表面に対して、更に同一または異なる金属酸化物を存在させたものも製造し得る。すなわち、焼成段階S32を経て得られた着色粘土鉱物粉末に対して、混合工程S2から焼成段階S32までの工程を反復実施することで、更に着色粘土鉱物粉末の表面に対して金属酸化物が結合され、複数回繰り返すことで同一または異なる金属酸化物が複数存在することになる。このように、煩雑な手間をかけずに、金属酸化物の呈する色調を濃くしたり、干渉色を強くしたり、異なる金属酸化物または立体的に層をなした金属酸化物によって、より複雑な干渉色を得ることができる。
【0042】
そして機能化工程S5は、加熱工程S3を経て得られた着色粘土鉱物粉末に対して、所要の機能を発現する第3成分を吸着させることで、更に機能化させた着色粘土鉱物粉末を製造する付加的な工程である。前記第3成分としては、生薬または薬草等の有効成分、殺虫、殺菌または抗菌成分、防臭または消臭成分、透湿、吸水、透湿抑制または防水成分、感温、保温、蓄熟、発熱または吸収成分、発光、蛍光または着色をなし得る色素成分あるいは撥水または撥油成分等が挙げられ、発現させる機能に応じて適宜選択して使用される。
【0043】
このようにして得られる本発明に係る着色粘土鉱物粉末は、製造過程において、温度、pH、試薬濃度等の各種条件について微妙な調整等の煩雑な過程を必要としないから、製造工程を簡略化し得ると共に、製造コストを軽減し得ることから、利用範囲を広くすることができる。
【0044】
(実施例の製造方法の別例)
前述した実施例の製造方法の一例では、基体製造工程S1で、マイカ等の原鉱石を所定の粒径まで粉砕した粉末を基体として予め準備したが、マイカ等の原鉱石に金属有機化合物を混合した後に粉砕する態様、または金属有機化合物を混合しつつ粉砕する態様であっても着色粘土鉱物粉末を製造し得る。図3は、実施例に係る着色粘土鉱物粉末の製造方法の別例を示す工程図である。別例に係る製造方法は、一例で説明した基体準備工程S1に変えて、混合・粉砕工程R1が実施される。混合・粉砕工程R1では、混合工程R11において、マイカ等の原鉱石と金属有機化合物とを混合する。この金属有機化合物の混合は、前述の製造方法の一例と同様に金属有機化合物含有溶液の状態で添加され、必要に応じて前述した混合手段にて混練される。次いで、粉砕工程R12に移行し、混合工程R11で得られた混合物を、所定の粒径まで粉砕すると共に、金属有機化合物を粉砕されて粉末状となったマイカ等粉末の表面に吸着させる。ここで混合工程R11および粉砕工程R12は同時に実施することができ、粉砕手段において原鉱石を粉砕している過程で金属有機化合物水溶液を添加することで、得られたマイカ等粉末の表面に金属有機化合物を吸着させることが同様にできる。そして、乾燥工程S2以降の工程は、一例で説明した工程と同様であるので省略するが、殊に焼成段階S32の後工程として、得られた着色粘土鉱物粉末を使用用途に応じた粒径に揃える分級工程R2を必要に応じて付加してもよい。なお、別例による製造方法であっても、一例として前に説明した製造方法と同様の作用効果を奏する。
【0045】
(実験例)
以下に、金属有機化合物を出発物質として、基材としてのマイカ等粉末の表面に対して金属酸化物を存在・結合させた着色粘土鉱物粉末について、色相および色調の目視観察、吸収スペクトル測定、基材に対する金属酸化物の結合性試験、官能試験によるマイカ等の表面特性の発現度合、マイカ等の表面に結合している金属酸化物の観察を実施すると共に、評価を行なった。
【0046】
本実験例で使用した実験例1〜実験例3に係る着色粘土鉱物粉末は、以下に記載の方法により製造した。なお、実験例2および実験例3において使用される機器は、実験例1と同一である。
実験例1:基材としてのマイカ粉末製品(株式会社山口雲母工業所製・Y−3000)20gに対し、金属有機化合物として酢酸鉄(和光純薬・試薬特級)を、1、2.5、5、7.5、10mM量をそれぞれ溶液として加えてよく混練し、105℃に設定した乾燥装置(三洋製・CONVECTION OVEN)で3時間乾熱乾燥させた。この完全に乾燥させた粉末を、900℃に設定した焼成炉(株式会社デンケン・KDF S−70卓上マッフル炉)で1時間焼成することで、マイカの表面に酸化鉄薄膜を形成した実験例1に係る着色粘土鉱物粉末とした。
実験例2:基材としてマイカ表面に酸化チタンを付与した、所謂パールマイカ製品(日本光研工業株式会社製・ME−100R)を基材とし、このパールマイカ製品20gに対し、酢酸鉄(和光純薬・試薬特級)10mMを溶液として加えてよく混練し、105℃に設定した乾燥装置で3時間乾熱乾燥させた。更に、完全に乾燥させた粉末を、900℃に設定した焼成炉で1時間焼成することで、酸化チタン被膜の上層に酸化鉄被膜を形成した実験例2に係る着色粘土鉱物粉末とした。
実験例3:基材としてのマイカ粉末製品(株式会社山口雲母工業所製・Y−3000)20gに対し、金属有機化合物として、酢酸鉄(和光純薬・試薬特級)および酢酸亜鉛2水和物(和光純薬・試薬特級)を使用し、夫々10mM量を溶液として、基材に加えて充分に混練し、105℃に設定した乾燥装置で3時間乾熱乾燥させた。そして、完全に乾燥させた粉末を、酢酸亜鉛の融点(244℃)付近の温度条件まで時間をかけて上昇させる目的で、焼成炉で400℃ まで2時間かけて加温した後、1時間焼成する。続いて、900℃ で1時間焼成させることで、基材の表面に酸化鉄と酸化亜鉛薄膜が形成された実験例3に係る着色粘土鉱物粉末とした。
【0047】
各試験および観察は、以下の要領で実施した。
・色相・色調観察:実験例1〜3に係る着色粘土鉱物材料の夫々について、目視観察により色相を評価した。また、実験例1〜3に係る着色粘土鉱物材料の夫々1gを秤量し、これにニトロセルローズラッカー(武蔵塗料・ニトロンクリヤー No.6341)15gを加えて、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社・TKホモディスパー)により2000rpmで1分間混合撹拌して、フイルムアプリケーター(株式会社中央精密器械・ドクターブレード8ミル)により隠蔽率測定紙(財団法人日本塗料検査協会検定)上に均一に塗布した。そしてこれを放置・乾燥させて、完全に乾燥させたものを目視で色調を評価した。
・吸収スペクトル測定:実験例1〜3に係る着色粘土鉱物材料の夫々1g秤量し、これに脱イオン水1mlを加えて混練した後に石英板上に均一に塗布した。これを分光光度計(島津製作所・Multi Spec−1500)により吸収スペクトルを測定した。
・結合性試験:実験例1〜3に係る着色粘土鉱物粉末において、水と有機溶剤としてエタノール(特級試薬;和光純薬製)との夫々で洗浄した際に、脱色の有無について目視により評価(脱色なし○、脱色有り×)した。
・官能試験:実験例1〜3に係る着色粘土鉱物粉末と、この実験例1〜3に係る着色粘土鉱物粉末に使用した基材を用意し、これら夫々について試験者が触感について相対評価を行なった。そして、元の基材に対して着色粘土鉱物粉末の触感が損われていない場合は、良(○)とし、触感が損われている、所謂「ザラザラ感」が感じられる場合は不可(×)とした。
・金属酸化物の分布度合観察:エネルギー分散型X線分析装置(堀場・EX−420)を併設した走査電子顕微鏡(日立 S−3600N)により、電子顕微鏡観察下において実験例1〜3に係る着色粘土鉱物粉末の基材であるマイカ表面の金属原子の存在状態を観察した。そして、マイカ表面に存在する金属原子が局在化せず、全体に広く分布している場合を良(○)として、金属原子が局在または凝集して、不均一になっている場合は不可(×)とした。
【表1】

【0048】
各種評価の結果を上記の表1に示す。この表1から分かるように、実験例1に係る着色粘土鉱物粉末は、酢酸鉄添加量の増加に伴って、得られた着色粘土鉱物粉末の色調は、薄い肌色から濃い肌色、そして赤味を帯びた肌色へと変化することが確認された。また吸収スペクトル測定の結果として、測定実験例1に係る着色粘土鉱物粉末では、酸化鉄(3価)の吸収帯である250〜500nmの広範囲の波長領域において、吸光度の上昇が確認された。そして実施例2に係る着色粘土鉱物粉末では、350〜600nmの可視波長領域において、酸化鉄(3価)の吸収に由来する吸光度の上昇が確認されると共に、全波長領域において光散乱が確認され、これはマイカ粉末表面に結合する酸化チタンの隠蔽性によるものと考えられる。更に、実験例3に係る着色粘土鉱物粉末では、300〜600nmの広い範囲の紫外可視波長領域に大きな吸収を有するスペクトルが得られ、酸化鉄の吸収帯に加えて、酸化亜鉛の光散乱および隠蔽性が加わったことによると考えられる。このように、各実験例の吸収スペクトル測定により、マイカ粉末の表面ら結合する金属酸化物に由来して着色されると共に、異なる金属酸化物の組合わせにより複雑な干渉色が得られることが確認された。
【0049】
実験例1〜3に係る着色粘土鉱物粉末は、基材の表面に金属酸化物が一次粒子として分散状態で存在するだけで、その全面が被覆されるわけではないため、金属酸化物の存在により基材の表面特性の発現が妨げられず、この基材の奏する滑り性等に起因する良好な触感を有することが確認された。また金属酸化物は基材に強固に結合して、水またはアルコールでは所謂色落ちしないことも確認された。更に走査電子顕微鏡による観察の結果、実験例1〜3の着色粘土鉱物粉末の何れについても、マイカ粒子に対して金属酸化物は、局在化せずに全体に広く分散して分布すると共に、二次凝集粒子の存在も確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の好適な実施例に係る着色粘土鉱物粉末について、マイカ等粉末に対する金属酸化物の付与過程を示すマイカ等粒子の表面部分を拡大した概略図である。
【図2】実施例の着色粘土鉱物粉末について、その製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】実施例の着色粘土鉱物粉末について、その製造方法の別例を示す工程図である。
【図4】従来の金属酸化物薄膜を形成したマイカ粉末の表面を示す拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末であって、
前記基材の表面に金属有機化合物を吸着させた後に加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化により得られる金属酸化物が該表面に分散状態で存在して、該金属酸化物による着色および該基材の表面特性の保持がなされている
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末。
【請求項2】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末であって、
前記基材の表面に金属有機化合物を吸着させた後に加熱することで、該金属有機化合物の熱分解、酸化および焼成により得られる金属酸化物からなる複合体粒子が該表面に分散状態で存在して、該金属酸化物による着色および該基材の表面特性の保持がなされている
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末。
【請求項3】
前記金属有機化合物として、2以上の異なる金属からなる金属有機化合物を使用し、前記表面に2以上の異なる金属酸化物を分散して存在させるようにした請求項1または2記載の着色粘土鉱物粉末。
【請求項4】
前記金属有機化合物の有機部分として、1価の有機酸が採用される請求項1〜3の何れかに記載の着色粘土鉱物粉末。
【請求項5】
前記金属有機化合物として、鉄、亜鉛またはチタンの有機酸塩が使用される請求項1〜3の何れかに記載の着色粘土鉱物粉末。
【請求項6】
前記有機酸塩を構成する有機酸として、酢酸またはプロピオン酸が使用される請求項4または5記載の着色粘土鉱物粉末。
【請求項7】
前記金属有機化合物は、金属無機化合物および/または金属酸化物と混合された状態で使用される請求項1〜6の何れかに記載の着色粘土鉱物粉末。
【請求項8】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記基材と、金属有機化合物を含有する溶液とを混合することで、該基材の表面に対して金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物を熱分解および酸化に供して金属酸化物とし、
これにより個々の金属酸化物を前記表面に分散状態で存在させるようにした
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項9】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記基材と、金属有機化合物を含有する溶液とを混合することで、該基材の表面に対して金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化による金属酸化物化と、更なる加熱の進行に伴う焼成による該金属酸化物の複合体粒子化とを行ない、
これにより個々の金属酸化物の複合体粒子を前記表面に分散状態で存在させるようにした
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項10】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記粘土鉱物粉末の原鉱石を、金属有機化合物を含有する溶液とを混合させた状態で粉砕することで、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末からなる基材を得ると共に、該基材の表面に該金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物を熱分解および酸化に供して金属酸化物とし、
これにより個々の金属酸化物を前記表面に分散状態で存在させるようにした
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項11】
マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末を基材とし、この基材の表面を色材として機能する金属酸化物で着色した着色粘土鉱物粉末の製造方法であって、
前記粘土鉱物粉末の原鉱石を、金属有機化合物を含有する溶液とを混合させた状態で粉砕することで、マイカまたはタルク等の粘土鉱物粉末からなる基材を得ると共に、該基材の表面に該金属有機化合物を吸着させ、
前記金属有機化合物を吸着した基材を加熱することで、該金属有機化合物の熱分解および酸化による金属酸化物化と、更なる加熱の進行に伴う焼成による該金属酸化物の複合体粒子化とを行ない、
これにより個々の金属酸化物の複合体粒子を前記表面に分散状態で存在させるようにした
ことを特徴とする着色粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項12】
前記金属有機化合物の加熱は、金属有機化合物を含有する溶液における溶媒の除去と、金属有機化合物からの金属酸化物の生成および該金属酸化物からの複合体粒子の焼成とを段階的に実施するようになされる請求項8〜11の何れかに記載の着色粘土鉱物粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45260(P2006−45260A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224275(P2004−224275)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(598031095)株式会社 山口雲母工業所 (7)
【Fターム(参考)】