説明

石材の採掘方法

【課題】
残柱式採掘方法により形成された残柱から石材を採石する。
【解決手段】
残柱式採掘方法により形成された地下坑内の残柱2の上方に位置する天盤3から前記残柱2内へ延びる補強壁形成用の溝部8を形成する工程と、前記溝部8に残柱補強壁7を形成する工程と、前記残柱補強壁7に囲まれた領域を露天掘りして前記残柱2から採石する工程と、を備えた石材の採掘方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材の採掘方法に係り、詳しくは、残柱式採掘方法により形成された残柱の地盤支持の強度を損なうことなく、当該残柱から石材を採石する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大谷石の採石作業は、地盤沈下や地盤陥没等の事故を未然に防止し、地盤の安定性を図る見地から残柱式採掘方法が採用されている。しかし、採石作業により形成された地下空洞は、地震等の自然災害や地表面を頻繁に往来する重量物積載車両の振動により経時的に安定性が損なわれ、しばしば各種の地盤沈下や地盤陥没等の事故を引き起こしている。このため、その対策として、前記地下空洞を埋め戻す各種の充填工法が提案されているが、当該地下空洞には地下水が充満しているうえ、残柱の断面寸法は10m四方にも及ぶため相当量の大谷石が残存していることから、地下空洞を埋め戻す方法は妥当とは云えず、大谷石という貴重な地下資源を有効利用させることなく死蔵させてしまうことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、残柱式採掘方法により形成された残柱の地盤支持強度を損なうことなく、当該残柱から石材を採石することを課題とする。
【0004】
本発明の他の目的は、採石後に形成された空間を産業廃棄物の捨て場等に利用して、環境保全に寄与できる石材の採石方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題を解決するため、本発明が採用した採石方法は、残柱式採掘方法により形成された地下坑内の残柱の上方に位置する天盤から前記残柱内へ延びる補強壁形成用の溝部を形成する工程と、前記溝部に残柱補強壁を形成する工程と、前記残柱補強壁に囲まれた領域を露天掘りして前記残柱から採石する工程と、を備えた石材の採掘方法、である。
【0006】
一つの態様では、前記溝部を形成する工程は、残柱の上方に位置する天盤上に採掘領域を決定する工程と、前記採掘領域を囲むように溝部を形成する工程と、を備えている。採掘領域は、残柱の断面形状内に収まるように設定される。溝部は、天盤の上面から残柱に向けて、前記採掘領域の周囲に沿って、ボーリングマシンで連続状に孔を穿孔することで形成することができる。溝部は、一つの態様では残柱の下端にまで達するもの、あるいはさらには地下坑の床部内に達するものであり、他の態様では残柱の高さ方向の中途部位まで達するものである。溝部は連続状の溝部(自閉溝部ないし無端溝部)であり、一つの好ましい態様では溝部は円筒状に形成される。
【0007】
一つの好ましい態様では、残柱補強壁は鉄筋コンクリート壁であり、前記残柱補強壁を形成する工程は、前記溝部に鉄筋かごを建て込む工程と、鉄筋かごが建て込まれた溝部にコンクリート打設を行う工程と、を備えている。
【0008】
一つの態様では、前記溝部を形成する工程の前工程として、天盤上に積層されている表土を除去する工程を備えている。残柱の上方に位置する表土の所要面域を掘削して残土を除去し、残柱の上方に位置する天盤を露出させる工程である。一つの態様では、露出させた天盤の上面域に石材の掘削領域を区画する方形状の外枠をコンクリートで形成する。外枠は、土留壁としての機能をも有する。
【発明の効果】
【0009】
残柱の採掘領域の外周には、残柱補強壁が形成されているので、残柱の地盤支持強度を損なうことなく、安定した状態で採石作業ができ、従来、安全性の見地から困難とされていた残柱からの採石が可能となり、地下資源の有効利用に寄与することができる。また、採石後に形成された空間を産業廃棄物の捨て場等に利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
残柱式採掘方法により形成された大谷石の地下坑について説明する。図1は、過去に採掘された大谷石の廃坑の模式図であり、現状では大規模な地下空洞1となっている。地下空洞1には地下水が溜まっている場合が多い。地下空洞1には、複数の柱部が残柱2として残されており、残柱2によって、地盤、すなわち、地下空洞1の天井部を構成する天盤3およびその上の表土4、を支持している。多くの場合、残柱2のみならず、地下空洞1の天井部を構成する天盤3の下方部位、及び、地下空洞1の床部5も大谷石層から構成されている。図1は残柱式採掘方法により形成された大谷石の地下坑の構成を説明することを目的としており、天盤3や表土4の厚さや残柱2の寸法(高さや断面寸法)の相対的な寸法は、必ずしも実際の地下空洞の寸法を反映するものではない。大谷石の地下坑の寸法は現場毎に異なるが、一例を挙げると、表土4の層の厚さは10m程度であり、天盤3の層の厚さは30m程度であり、残柱2の寸法は、高さ30m程度、断面寸法は10〜20m四方である。
【0011】
図2は、図1において一つの残柱2を選択し、選択された残柱2の上方の表土4を所要面域において取り除いた状態を示している。一つの態様では、所要面域は、平面視において選択された残柱2の断面寸法を越える領域である。地下坑内の残柱2の上方に位置する表土4の所要面域を掘削して残土を除去し、露出させた天盤3の上面域に石材の掘削領域を区画する方形状の外枠6をコンクリートで形成する。
【0012】
外枠6内に位置して、残柱2の直上に位置して残柱2の断面寸法内に収まるように採掘領域Sを設定する。図9、図10に示す例では、残柱2の断面寸法は20m四方であり、残柱2の断面寸法内に設定した採掘領域を囲むように直径18mの円形領域が設定され、円形領域の円周に沿って、厚さ0.8〜1m程度の残柱補強壁7を形成する。また、表土4の層の厚さは12m、天盤3の層の厚さは34m、残柱2の高さは30mである。
【0013】
残柱補強壁7の形成方法について説明する。外枠6内に位置して、天盤3の上面から残柱2に向けて、ボーリングマシンで、前記円形領域の円周に沿って順次連続状に孔を穿孔することで、補強壁構成用の円筒状の溝部8が形成される(図3、図6)。溝部8は、一つの態様では残柱の下端にまで達するもの、あるいはさらには地下坑の床部内に達するもの(図3)であり、他の態様では残柱の高さ方向の中途部位まで達するもの(図6)である。次いで、溝部8内に図示しない鉄筋かごを建て込んで、コンクリート打設を行うことで円筒状の残柱補強壁7を形成する(図4、図7)。残柱補強壁7の形成方法自体は公知の手法を用いて行うことができ、例えば、補強壁は連続地中壁の施工法と類似の工法を用いて形成することができる。鉄筋かごは当業者において良く知られており、例えば、所要数の鉄筋を経緯方向に配筋して筒状の構造体を編成することで構成され、これをクレーン等の吊下手段で溝部8に建て込む。コンクリート打設も当業者において良く知られており、例えば、コンクリートミキサで、セメント、砂、砂利、水などを適当な割合で混練してなる材料を溝部8に圧入し、乾燥させて、鉄筋コンクリートからなる残柱補強壁7を構成する。残柱補強壁7の上端は、残柱2の上層の天盤3の表面にまで達している。残柱補強壁7と外枠6とはコンクリートを打設することで一体化されている。
【0014】
円筒状の残柱補強壁7で囲まれた採掘領域Sにおいて露天掘り採掘を行って、残柱2から採石する(図5、図8)。露天掘りは、表層から順次段階式に採石していく採石方法である。石材を採取するための露天掘り自体は当業者において良く知られているので、詳細な説明は省略する。本発明の採石方法は、残柱2からの採石を主目的としているが、天盤3に有用な石が存在する場合には、当該石を採取することもできる。
【0015】
残柱2を一ずつ選択しながら、残柱2から採石するが、残柱2の採掘領域の外周には、鉄筋コンクリートの残柱補強壁7が形成されているので、残柱2の地盤支持強度を損なうことなく、安定した状態で採石作業ができ、従来、安全性の見地から困難とされていた残柱からの採石も可能となり、地下資源の有効利用に寄与することができる。また、地下空洞に充満している地下水の採掘領域への浸入も、補強壁7で阻止できるので、採石作業が効率よく行うことができる。
【0016】
採石後の空間S1は、上方が開口状の巨大円筒状の凹部であり、凹部の側壁は、補強壁7からなり、凹部の底部は大谷石から構成されている。このような巨大凹部には多種多様な用途がある。例えば、巨大凹部に、溶融スラグ等の廃棄物を埋設することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
残柱式採掘方法により形成された残柱から石材を採石することに利用することができる。また、採掘後に得られる空間を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】過去に採掘された大谷石の廃坑の模式図である。
【図2】図1において、選択された一つの残柱の上方の表土を除去した状態を示す図である。
【図3】図2の状態から、残柱の下端にまで達する溝部を形成した状態を示す図である。
【図4】図3の溝部に補強壁を形成した状態を示す図である。
【図5】図4の補強壁で囲まれた領域から採石した後の状態を示す図である。
【図6】図2の状態から、残柱の中途部位にまで達する溝部を形成した状態を示す図である。
【図7】図6の溝部に補強壁を形成した状態を示す図である。
【図8】図7の補強壁で囲まれた領域から採石した後の状態を示す図である。
【図9】図4において、選択された残柱の部位の平面図である。
【図10】図9を縦方向に断面して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 地下空洞
2 残柱
3 天盤
4 表土
5 床部
6 外枠
7 補強壁
8 補強壁構成用の溝部
S 採掘領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残柱式採掘方法により形成された地下坑内の残柱の上方に位置する天盤から前記残柱内へ延びる補強壁形成用の溝部を形成する工程と、
前記溝部に残柱補強壁を形成する工程と、
前記残柱補強壁に囲まれた領域を露天掘りして前記残柱から採石する工程と、
を備えた石材の採掘方法。
【請求項2】
前記溝部を形成する工程は、
残柱の上方に位置する天盤上に採掘領域を決定する工程と、
前記採掘領域を囲むように溝部を形成する工程と、
を備えている請求項1に記載の石材の採掘方法。
【請求項3】
前記残柱補強壁を形成する工程は、
前記溝部に鉄筋かごを建て込む工程と、
鉄筋かごが建て込まれた溝部にコンクリート打設を行う工程と、
を備えている請求項1,2いずれかに記載の石材の採掘方法。
【請求項4】
前記溝部を形成する工程の前工程として、天盤上に積層されている表土を除去する工程を備えている、請求項1乃至3いずれかに記載の石材の採掘方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−163717(P2008−163717A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−379(P2007−379)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(599042326)