説明

石炭ガス化・肥料製造方法

【課題】多くの型に適用することができて、装置適合性の高い石炭ガス化・肥料製造方法を提供する。
【解決手段】石炭をガス化する噴流床石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグを珪酸系肥料又は苦土肥料として利用する。溶融床ガス化法を用いることで、装置構成が簡単であるため多くの型に適用することができ、フラックスの調整範囲も広い。前記フラックスのMgO、CaO、Na2O及びK2O含有率の合量を54質量%以上とすることができ、特に水稲に対して肥効が高く、水稲等の根群を発達させ、根の活力を高める作用にも優れた珪酸系肥料等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭ガス化・肥料製造方法に関し、特に、石炭をガス化する際に生成するスラグを珪酸系肥料等として有効利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭をガス化する際に生じる廃棄物を珪酸系肥料として有効利用するため、溶融塩を利用して石炭をガス化するにあたり、カリウムを含む溶融塩を使用し、溶融塩中のカリウムと石炭の灰分中の珪酸とを結合させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−155486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の石炭ガス化方法においては、高温の溶融体に石炭とガス化剤とを吹き込み、高温状態で石炭を酸化してガス化する溶融床ガス化法を用いているため、石炭ガス化装置が複雑かつ大型化し、装置適合性が悪いという問題があった。また、カリウム分にしても単にナトリウムの代替に過ぎず、偶々それがカリ肥料になるというだけで肥料成分の効能に関しての評価がないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来の石炭ガス化方法における問題点に鑑みてなされたものであって、多くの型に適用することができて、装置適合性の高い石炭ガス化・肥料製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、微粉炭を空気等によって搬送して炉内に供給し、高温下で反応させてガス化する噴流床ガス化法と添加フラックス成分の調整を用いることにより、最適な肥料成分の調整を行うことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、石炭ガス化・肥料製造方法であって、石炭をガス化する噴流床石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグを珪酸系肥料又は苦土肥料として利用することを特徴とする。
【0008】
このフラックスのMgO、CaO、Na2O及びK2O含有率の合量を54質量%以上とすることができる。これにより、特に小麦・水稲等のイネ科植物に対して肥効が高く、小麦等の根群を発達させ、根の活力を高める作用にも優れた珪酸系肥料等を提供することができる。
【0009】
また、前記スラグの結晶化率を10%以上90%以下とすることができ、これにより、該スラグを粉砕して得られた珪酸系肥料等をク溶性とすることができ、肥効の高い珪酸系肥料等を提供することができる。尚、ク溶性とは、2%クエン酸溶液に溶けるものをいう。
【0010】
さらに、前記フラックスのクロム、ヒ素及びホウ素含有率の各々を300ppm以下とすることができ、これにより、該フラックスを用いて生成したスラグを粉砕して得られた珪酸系肥料等のクロム及びヒ素含有率を低減し、環境に配慮した珪酸系肥料を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、現在、世界の石炭ガス化の主流である噴流床方式に適用することのできる石炭ガス化・肥料製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる石炭ガス化・肥料製造方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述のように、本発明は、石炭ガス化・肥料製造方法であって、石炭をガス化する噴流床石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグを、主として珪酸系肥料又は苦土肥料として利用することを特徴とする。
【0014】
噴流床石炭ガス化炉は、石炭ガス化複合発電設備等に用いられるものであって、図1に示すように、噴流床石炭ガス化炉に、石炭と、ガス化剤と、フラックスを供給し、高圧下で燃焼させ、生成ガスと蒸気を得るものであって、その際に溶融スラグが排出される。石炭ガス化複合発電設備では、前記生成ガスでガスタービンを回転させて発電するとともに、蒸気で蒸気タービンを回転させて発電を行う。ここで、ガス化剤に酸素を用いるのが酸素吹きガス化発電であり、ガス化剤に空気を用いるのが空気吹きガス化発電である。
【0015】
上記噴流床石炭ガス化炉では、炉内に投入するガス化剤空気の量を少なくし、空気比を下げた運転を行うことにより生成ガス発熱量が高くなるなどガス化性能が高くなる。しかし、噴流床石炭ガス化炉では、石炭中の灰分を溶融スラグとして排出させるため、炉内の温度を灰の融点以上になるように運転し、灰融点の高い石炭(高灰融点炭)をガス化する場合には、炉内温度を高温に保つためにガス化剤空気の投入量を増加させて高空気比で運転する。その結果、高灰融点炭ではガス化性能が低下する。
【0016】
そこで、高灰融点炭の灰融点を降下させ、低空気比運転を可能としてガス化性能を高く維持するため、フラックスを炉内に添加する。すなわち、フラックスは、高灰融点炭の灰融点を下げるために添加されるものであって、MgO、CaO、Na2O、K2O、Fe23等の塩基性成分を多く含有する。
【0017】
ここで、本発明では、上記フラックスが含有するMgO、CaO、Na2O及びK2Oの合量を54質量%以上とすることで、特にイネ科植物に対して肥効の高い珪酸系肥料又は苦土肥料を製造することができる。このようなフラックスとしては、例えば、表1の実施例1〜5に示すようなものが存在する。比較例1〜5は、MgO、CaO、Na2O及びK2Oの合量が54質量%未満のフラックスであって、これらを用いると、実施例1〜5に示すフラックスを用いた場合に比較して、得られた珪酸系肥料又は苦土肥料の水稲に対する肥効は高くないものの、通常の珪酸系肥料又は苦土肥料として使用することができる。尚、同表中のアルカリ分とは、MgO、CaO、Na2O及びK2Oの合量をいう。
【0018】
【表1】

【0019】
上記フラックスを用い、石炭を噴流床石炭ガス化炉において高圧下で燃焼させ、生成ガスと蒸気を得るとともに、溶融スラグを排出する。噴流床石炭ガス化炉で生成したスラグは、炉内で1400℃程度となっているが、このスラグを急冷した後、徐冷し、結晶化率を10%以上90%以下とする。次に、冷却されたスラグを粒径1mm程度に破砕し、表2に示すような組成を有する珪酸系肥料等を得ることができる。尚、スラグを破砕してもよいが、徐放性を発揮させるために顆粒化するので、却って粉砕しなくてよいことが多い。
【0020】
【表2】

【0021】
表2の実施例2のスラグ(肥料)と、市販の硫酸カリ肥料(比較例)を、径3cm長さ20cmのアクリル製パイプに別々に最適充填し、パイプの上方から0.1mm/minの速度で純水を滴下し、15分後にパイプの下方より得られた液中のカリウム濃度を比較したところ、実施例の10mg/l に対し、硫酸カリ肥料は720,000mg/lにも及び、実施例の肥料で徐放性が確保されていることが確かめられた。
【0022】
また、上記アクリル製パイプの片方を密封し、表2の実施例2のスラグ(肥料)と、市販の栽培用ゼオライト(比較例)を最適充填し、純水だけをパイプの上端まで充填し、表面に小麦農林61号の種を30粒ずつ置いた。このパイプを20℃の恒温室に置いたところ、両者とも略々5日目に発芽を始めた。20日目に、実施例では、高さ20cmに成長し、青汁製造が可能になったのに対し、比較例は最大高さが15cmに留まった。30日目で、カウンタにパイプごと移植し、阿蘇産クロボクを充填して、関東地区で屋外に秋から春まで自然降水だけで生育させたところ、実施例では7月に結実するものがあったのに対し、比較例では珪素分が足らないために結実したものはなかった。
【0023】
上述のように、本発明で得られた珪酸系肥料は、緩効性であり、雨水等による溶脱が少ないため、環境汚染の虞がなく、肥効が長続きする。また、作物体内のマグネシウム等のミネラル含有率を増加させ、作物の健全化に寄与する。特に、イネ科植物に適用することで、活性根が増加するとともに、食味が向上するという効果も奏する。
【0024】
また、フラックスにクロム、ヒ素及びホウ素の含有率の低いもの、例えば、各々の含有率を300pp以下とすることで、珪酸系肥料のクロム、ヒ素及びホウ素の含有率を低下させることができ、環境に配慮した珪酸系肥料を提供することができる。これらの成分、特にホウ素は一部植物の肥効成分であるものの、溶解性がある場合には他の生態系への影響が危惧されるからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭をガス化する噴流床石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグを珪酸系肥料又は苦土肥料として利用することを特徴とする石炭ガス化・肥料製造方法。
【請求項2】
前記フラックスのMgO、CaO、Na2O及びK2O含有率の合量が54質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の石炭ガス化・肥料製造方法。
【請求項3】
前記スラグの結晶化率が10%以上90%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭ガス化・肥料製造方法。
【請求項4】
前記フラックスのクロム、ヒ素及びホウ素の各々の含有率が300ppm以下であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の石炭ガス化・肥料製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222181(P2010−222181A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71160(P2009−71160)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】