説明

砒素含有排水の処理方法

【課題】簡単な反応で、工程数が少なく、砒素および他の重金属類を十分に除去することができる、砒素含有排水の処理方法を提供する。
【解決手段】砒素を含有する砒素含有排水に、微量の銅イオンと酸化剤を添加した後、石灰乳のようなカルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上、好ましくはpH10〜11に保持して反応させ、その後、固液分離する。また、必要に応じて、固液分離の前に、第二鉄イオンを添加して反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素含有排水の処理方法に関し、特に、砒素および他の重金属類を含有する排水を処理する砒素含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製錬工場や電子部品製造工場などからの排水には、有毒な砒素や砒素化合物が含まれている場合があり、このような場合には、河川に排出する前に排水から砒素を除去する必要がある。従来、砒素を含有する排水から砒素を除去する方法として、砒素を含有する排水に3価鉄を添加し、砒素を砒酸鉄[FeAsO]として固定することにより、あるいは生成する水酸化鉄[Fe(OH)]に砒素を吸着させることにより、排水から砒素を除去する水酸化鉄共沈法が知られている。
【0003】
このような水酸化鉄共沈法により排水中の砒素を除去して砒素濃度を環境基準値以下(<0.01mg/L)にする方法として、砒素を含有する排水に、pH3〜6の条件下でポリ硫酸第二鉄を添加し、生成する沈殿物から分離した上澄み液をろ過または酸化処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−290777号公報(段落番号0009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法は、砒素を含有する排水から砒素を除去して排水中の砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にする方法であるが、pH3〜6の条件下で反応させる方法であるので、排水中にZn、Cu、Pb、Cdなどの他の重金属イオンが共存している場合には、これらの重金属類を極低濃度になるまで除去することができず、これらの重金属類を除去する工程を別途設ける必要がある。そのため、Zn、Cu、Pb、Cdなどの重金属イオンが分離可能になるpH領域であるpH10〜11において砒素を十分に除去することができる方法が望まれている。
【0006】
また、特許文献1に記載された方法のように、砒素を十分に除去するために水酸化鉄共沈後の上澄み液を酸化すると、工程数が増加し、処理設備が増加し、工程管理が煩雑になる。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、簡単な反応で、工程数が少なく、砒素および他の重金属類を十分に除去することができる、砒素含有排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、砒素を含有する砒素含有排水に、銅イオンと酸化剤を添加した後、カルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上に保持して反応させ、その後、固液分離することにより、砒素含有排水が砒素以外の重金属類を含む場合でも、簡単な反応で、工程数が少なく、砒素および他の重金属類を十分に除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による砒素含有排水の処理方法は、砒素を含有する砒素含有排水に、銅イオンと酸化剤を添加した後、カルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上に保持して反応させ、その後、固液分離することを特徴とする。この砒素含有排水の処理方法において、固液分離の前に、第二鉄イオンを添加して反応させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、砒素および他の重金属類を含む排水から、簡単な反応で、工程数が少なく、砒素を十分に除去して環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、他の重金属類を十分に除去することができる。また、処理時に発生する殿物の量も少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による砒素含有排水の処理方法の実施の形態では、砒素を含有する砒素含有排水に、微量の銅イオンと酸化剤を添加した後、石灰乳のようなカルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上、好ましくはpH10〜11に保持して反応させ、その後、固液分離する。この砒素含有排水の処理方法において、固液分離の前に、第二鉄イオンを添加して反応させるのが好ましい。
【0012】
砒素含有排水に銅イオンを添加すると、砒酸銅(Cu(AsO)を形成してAsが除去されると考えられる。しかし、砒酸銅は、弱酸〜弱アルカリ(pH=約3〜8)で形成され易いが、pH10以上になると、極端に形成され難くなる。また、砒素含有排水にカルシウム系アルカリ剤を添加すると、砒酸カルシウム(Ca(AsO)を形成してAsが除去されると考えられる。一般に、砒酸カルシウムとしてAsを除去するためには、アルカリ性が強い方が効果的であると考えられているが、後述する比較例2に示すように、pH11でもAs濃度を0.01mg/L以下にすることができないことがわかった。これらのことから、本発明による砒素含有排水の処理方法の実施の形態のように、砒素含有排水に、銅イオンと酸化剤を添加し、カルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上に保持して反応させるという全ての構成要素を備える砒素含有排水の処理方法によって、砒素および他の重金属類を含む排水から、簡単な反応で、工程数が少なく、砒素を十分に除去して環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、他の重金属類を十分に除去することができることがわかった。
【0013】
砒素含有排水に銅イオンを添加するには、硫酸銅や塩化銅などの易溶性の塩を添加すればよい。銅イオンは、砒素含有排水に中性から弱酸性下で添加して溶かせばよい。添加する銅イオンの量は、砒素含有排水中の砒素の濃度が1mg/L程度の場合には、銅濃度として10mg/L以上であれば十分である。
【0014】
砒素含有排水に添加する酸化剤は、過酸化水素であるのが好ましいが、酸化試薬だけではなく、空気、酸素ガス、オゾンガス、オゾン水などでもよい。この酸化剤は、3価のAsを5価のAsに酸化するために添加される。添加する酸化剤の量は、砒素含有排水中の3価のAsの濃度が1mg/L以下であれば、(3価のAsを5価のAsに酸化する反応の)10倍当量以上であるのが好ましく、3価のAsの濃度が数mg/L程度であれば、3〜5倍当量以上であるのが好ましい。すなわち、3価のAsの濃度が高くなる程、酸化効率は高まるので、添加する酸化剤の量を適宜減少させることができる。なお、砒素含有排水中のAsが全て5価であれば酸化する必要はない。
【0015】
カルシウム系アルカリ剤としては、CaOやCa(OH)を使用することができる。カルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上にするのが好ましい。pH10以下であると砒素の除去能力が低下する。一方、pH11以上では殿物の量が徐々に増加し、pH11.5以上では殿物の量が急激に増加するので、pH10〜11であるのが好ましい。この範囲のpHは、砒素以外の重金属の除去にも望ましい。
【0016】
また、固液分離の前に、第二鉄イオン、すなわち、3価の鉄イオンを添加して反応させるのが好ましい。これは、砒素の除去のためではなく、砒素以外の共存する重金属類を十分に除去するために添加される。また、本発明による砒素含有排水の処理方法の実施の形態では、銅イオンを添加しており、砒素含有排水の元液より銅の濃度が増加する場合があるので、この銅の濃度を低下させるために第二鉄イオンを添加する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明による砒素含有排水の処理方法の実施例について詳細に説明する。
【0018】
[実施例1]
0.83mg/LのAsと、0.80mg/LのZnと、0.18mg/LのCdとを含み、pH5.3の砒素含有排水の元液1Lに、28℃で硫酸銅を銅濃度18mg/Lになるように添加して溶解させるとともに、酸化剤として過酸化水素(元液中のAsを全て3価とみなして、Asを酸化するのに必要な10倍当量の過酸化水素)を添加し、次いで、カルシウム系アルカリ剤として200g/LのCa(OH)を含む水溶液を添加することによりpH10.3にし、15分間攪拌して維持した後、吸引濾過した。また、同様に、カルシウム系アルカリ剤として200g/LのCa(OH)を含む水溶液を添加することによりpH10.8にし、15分間攪拌して維持した後、吸引濾過した。得られた濾液の品位を測定したところ、pH10.3にした場合には、As濃度が0.01mg/L未満、Cu濃度が0.21mg/L、Zn濃度が0.15mg/L、Cd濃度が0.04mg/Lになり、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、Zn濃度およびCd濃度も非常に少なくすることができることわかった。また、pH10.8にした場合には、As濃度が0.01mg/L未満、Cu濃度が0.84mg/L、Zn濃度が0.53mg/L、Cd濃度が0.02mg/Lになり、この場合にも、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、Zn濃度およびCd濃度も非常に少なくすることができることわかった。これらの結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
[実施例2]
実施例1において、吸引濾過の前に3価の鉄として硫酸第二鉄溶液をFe濃度15mg/Lになるように添加し、5分間攪拌した以外は、実施例1と同様の処理を行った。得られた濾液の品位を測定したところ、pH10.3にした場合には、As濃度が0.01mg/L未満、Cu濃度が0.08mg/L、Zn濃度が0.04mg/L、Cd濃度が0.01mg/L未満になり、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、Zn濃度およびCd濃度もさらに少なくすることができることわかった。また、pH10.8にした場合には、As濃度が0.01mg/L未満、Cu濃度が0.14mg/L、Zn濃度が0.21mg/L、Cd濃度が0.01mg/L未満になり、この場合にも、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、Zn濃度およびCd濃度もさらに少なくすることができることわかった。これらの結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例1および2から、砒素含有排水に少量の銅と酸化剤を添加するとともにpH10以上にすることにより、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にすることができるとともに、共存する重金属類の濃度も非常に少なくすることができ、3価の鉄を添加することにより、共存する重金属類の濃度もさらに少なくすることができることがわかる。
【0023】
[比較例1]
鉄共沈法の例として、0.75mg/LのAsを含み、pH5.8の砒素含有排水の元液1Lに、28℃で(30g/Lの鉄を含む)硫酸第二鉄溶液をそれぞれ3価の鉄濃度20mg/L、30mg/L、40mg/Lになるように添加し、次いで、カルシウム系アルカリ剤として200g/LのCa(OH)を含む水溶液を添加することによりpH10.8にし、15分間攪拌して維持した後、吸引濾過した。得られた濾液中の砒素濃度を測定したところ、鉄濃度が20mg/Lの場合に砒素濃度が0.11mg/L、鉄濃度が30mg/Lの場合に砒素濃度が0.02mg/L、鉄濃度が40mg/Lの場合に砒素濃度が0.01mg/L未満になり、砒素濃度を環境基準値の0.01mg/L以下にするには、3価の鉄濃度を40mg/Lにする必要があることがわかった。これらの結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
[比較例2]
砒酸カルシウム法の例として、0.75mg/LのAsを含み、pH5.8の砒素含有排水の元液1Lに、28℃でカルシウム系アルカリ剤として200g/LのCa(OH)を含む水溶液を添加することによりpH11.0にし、15分間攪拌して維持した後、吸引濾過した。得られた濾液中の砒素濃度を測定したところ、砒素濃度は0.75mg/Lであり、砒素が全く除去されていないことがわかった。
【0026】
[比較例3]
0.75mg/LのAsを含み、pH5.8の砒素含有排水の元液1Lに、28℃で酸化剤として過酸化水素(元液中のAsを全て3価とみなして、Asを酸化するのに必要な10倍当量の過酸化水素)を添加し、次いで、カルシウム系アルカリ剤として200g/LのCa(OH)を含む水溶液を添加することによりpH11.0にし、15分間攪拌して維持した後、吸引濾過した。得られた濾液中の砒素濃度を測定したところ、砒素濃度は0.08mg/Lであり、排水基準値の0.1mg/L未満を満足する濃度であったが、環境基準値の0.01mg/Lを満足する濃度ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素を含有する砒素含有排水に、銅イオンと酸化剤を添加した後、カルシウム系アルカリ剤を添加することによりpH10以上に保持して反応させ、その後、固液分離することを特徴とする、砒素含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記固液分離の前に、第二鉄イオンを添加して反応させることを特徴とする、請求項1に記載の砒素含有排水の処理方法。

【公開番号】特開2007−203239(P2007−203239A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26918(P2006−26918)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】