説明

硝化抑制剤及びそれを含有する土壌改良剤並びに肥料

【課題】熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然由来の材料から容易に得られる、硝化抑制剤及びそれを含有する土壌改良剤並びに肥料を提供する。
【解決手段】ジュグロンを主成分とし、土壌の硝化を抑制する硝化抑制剤である。この硝化抑制剤を土壌改良剤や肥料に含有させることにより、土壌の硝化を効果的に抑制することができる。硝化抑制剤が、土壌改良剤及び肥料に20〜50重量%の範囲で含有されていれば好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の硝化を抑えることができる、硝化抑制剤及びそれを含有する土壌改良剤並びに肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌微生物の働きにより起きるアンモニアの酸化反応、即ち硝化は、農業や園芸などの生産に用いる窒素肥料の大幅な損失を引き起こし、土壌環境汚染の原因ともなっている。例えば、特許文献1には、このような土壌の硝化を抑制するため、従来、主にニトラピリン(2−クロロ−6−トリクロロメチルピリジン)及びジシアンジアミド等の合成薬剤が用いられていることが開示されている。
【0003】
合成薬剤のうち、ニトラピリンは揮発性が高く、地温が20℃以上の条件ではほとんど効果がないため、北米の冬季作等、限られた環境でのみ使用可能であった。
【0004】
一方、ジシアンジアミドは、ニトラピリンに比較して高い温度でも有効であるが、使用濃度が高く、かつ、高価であることから農業生産コストに大きく影響するため、利用されている地域は限られている。このような背景から、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用しうる、経済的な硝化抑制方法の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−278973号公報
【非特許文献1】Database RTECS Online, RTECS No. QJ5775000, Abstract (Dec. 2000)
【非特許文献2】Iizumi 他2名 Appl. Environment. Microbiol., vol. 64, p. 3656-3662, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
農地用や園芸用の土壌の硝化を抑制するため、従来、上記の合成薬剤などが用いられてきたが、各合成薬剤にはそれぞれ固有の欠点があり、利用される地域や対象作物は限られているという課題がある。
【0007】
このような背景から、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用し得る経済的な硝化抑制剤が得られていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然物由来の材料から低コストで得られる、硝化抑制剤及びそれを含有する土壌改良剤並びに肥料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、植物の根から分泌される種々のフェノール化合物を中心に幅広く天然界の硝化抑制物質を検索し、鋭意研究を行ってきた。その結果、ジュグロン(Juglone)(2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)が優れた硝化抑制効果をもたらすことを確認し、本発明の完成に至ったものである。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による硝化抑制剤は、ジュグロンを主成分とし、土壌の硝化を抑制することを特徴とする。
上記構成によれば、クルミをはじめとする多くのクルミ科の種子の殻、樹皮、葉、根など各部から抽出され安価で入手できるジュグロンを用いているので、土壌の硝化作用を阻害する硝化抑制剤を低コストで提供することができる。また、本発明の硝化抑制剤は、不揮発性でかつ化学的に安定なジュグロンを主成分とするので、従来から用いられてきた硝化抑制物質よりも使用できる地域が広く、従来から用いられてきた硝化抑制物質と同等又はそれ以上の優れた硝化抑制効果を長期間にわたり持続できる。
【0011】
本発明の土壌改良剤は、ジュグロンからなる硝化抑制剤を、好ましくは20〜50重量%の範囲で含有することを特徴とする。
この構成によれば、クルミをはじめとする多くのクルミ科の種子の殻、樹皮、葉、根など各部から抽出され安価で入手可能なジュグロンによる、低コストの硝化抑制剤を含有する土壌改良剤を提供することができる。本発明の土壌改良剤は、不揮発性でかつ化学的に安定なジュグロンからなる硝化抑制剤を含有しているので、使用できる地域が広く、長期間にわたり窒素成分の硝化を抑制し土壌環境の劣化を防止することができる。
【0012】
本発明の肥料は、ジュグロンからなる硝化抑制剤を、好ましくは20〜50重量%の範囲で含有することを特徴とする。
上記構成によれば、クルミをはじめとする多くのクルミ科の種子の殻、樹皮、葉、根など各部から抽出され安価で入手可能なジュグロンによる、低コストの硝化抑制剤を含有する肥料を提供することができる。また、本発明の肥料は、不揮発性でかつ化学的に安定なジュグロンからなる硝化抑制剤を含有しているので、使用できる地域が広く、長期間にわたり窒素成分の硝化を抑制し肥料の節約と土壌環境の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストかつ土壌中の有効窒素成分を保全し土壌環境の劣化を防止する硝化抑制剤が得られると共に、この硝化抑制剤を含有する肥料、または土壌改良剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
先ず、本発明の硝化抑制剤について説明する。
本発明の硝化抑制剤は、フェノール化合物であるジュグロン(2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)を主成分とし、土壌におけるアンモニアの酸化反応である硝化を抑制する作用を有している。
ジュグロンの化学構造を、下記化学式(1)に示す。
【化1】

【0015】
上記硝化抑制剤に係るジュグロンは、クルミをはじめとして、多くのクルミ科の種子の殻、樹皮、葉、根など各部から抽出される化合物であり、安価で入手可能である。また、ジュグロンは、1,5−ジヒドロキシナフタレン等を出発物質として公知の方法で化学合成することにより製造することが可能である。
【0016】
本発明の硝化抑制剤に係るジュグロンは、硝化能を有するニトロソモナス菌を用いた試験及び土壌を用いた試験において硝化作用を強く阻害する。この硝化抑制作用は、従来から用いられてきた硝化抑制物質と同等又はそれ以上の優れた効果を示す。
【0017】
本発明の硝化抑制剤に係るジュグロンは、不揮発性でありかつ化学的に安定である。このため、本発明の硝化抑制剤は、従来から用いられてきた硝化抑制物質よりも使用できる地域が広く、例えば、熱帯から温帯にかけて広い地域で利用することができる。また、本発明の硝化抑制剤を土壌に散布又は混合した場合、長期間にわたり土壌中で硝化抑制作用を持続させることが可能である。
【0018】
本発明の硝化抑制剤に係るジュグロンは、染料、色素等として広く使用され、通常使用する範囲において毒性は低いことから(非特許文献1参照)、安全性はきわめて高い。
【0019】
次に、本発明の土壌改良剤について説明する。
本発明の土壌改良剤は、ジュグロンからなる硝化抑制剤を含んで構成されている。本発明の土壌改良剤は硝化抑制剤の他に、石灰のような無機素材や、黒ボク土のような肥沃土などを含んで構成することができる。さらには、園芸用の土壌改良剤としては、肥料を含ませた培養土としてもよい。土壌改良剤に添加する本発明の硝化抑制剤の好ましい含有量は、20〜50重量ppm程度である。硝化抑制剤の含有量としては、50重量ppmで十分に硝化抑制ができるので、これ以上添加する必要はない。逆に、硝化抑制剤の含有量が20重量ppm以下では、硝化抑制の効果が小さく好ましくない。
【0020】
本発明の土壌改良剤は、不揮発性でかつ化学的に安定なジュグロンからなる硝化抑制剤を含有しているので、長期間にわたり窒素成分の硝化を抑制し土壌環境の劣化を防止することができる。また、硝化抑制剤に用いるジュグロンは安価で入手できる。このため、本発明の硝化抑制剤を含有する土壌改良剤は、低コストで製造することができる。
【0021】
次に、本発明の肥料について説明する。
本発明の肥料は、肥料に、さらに、ジュグロンからなる硝化抑制剤を含んで構成されている。
ここで、肥料としては、無機肥料や有機肥料が挙げられ、これらの混合肥料でもよい。このような無機肥料としては、尿素、硫安、塩安などの窒素質肥料、過リン酸石灰などのリン酸肥料、硫酸カリウム、塩化カリウムなどのカリ肥料を用いることができる。また、有機肥料としては、骨粉、たい肥などを用いることができる。肥料に添加する本発明の硝化抑制剤の好ましい含有量は、20〜50重量ppm程度である。硝化抑制剤の含有量としては、50重量ppmで十分に硝化抑制ができるので、これ以上の添加をする必要はない。逆に、硝化抑制剤の含有量が20重量ppm以下では、硝化抑制の効果が小さく好ましくない。
【0022】
本発明の肥料は、肥料成分と共に、不揮発性でかつ化学的に安定なジュグロンからなる硝化抑制剤を含有しているので、長期間にわたり窒素成分の硝化を抑制し肥料の節約と土壌環境の劣化を防止することができる。また、硝化抑制剤に用いるジュグロンは安価で入手可能である。このため、本発明の硝化抑制剤を含有する肥料は、低コストで製造することができる。
【実施例1】
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1の硝化抑制剤として、フェノール化合物である市販のジュグロンを用意した。
【0024】
(比較例1)
比較例1として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のo−クマル酸を用意した。
【0025】
(比較例2)
比較例2として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のピロガロールを用意した。
【0026】
(比較例3)
比較例3として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のヒドロキノンを用意した。
【0027】
(比較例4)
比較例4として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のケルセチンを用意した。
【0028】
(比較例5)
比較例5として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のレスベラトロールを用意した。
【0029】
(比較例6)
比較例6として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のカテコールを用意した。
【0030】
(比較例7)
比較例7として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のフェルラ酸を用意した。
【0031】
(比較例8)
比較例8として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のカフェ酸を用意した。
【0032】
(比較例9)
比較例9として、ジュグロンと同様にフェノール化合物である市販のバイカレインを用意した。
【0033】
(比較例10)
比較例10の化合物として、市販のカテキン、シナピン酸、没食子酸、サリチル酸、ケイヒ酸、3−フェニルプロピオン酸、アニス酸、フタル酸、バニリン酸、アスコルビン酸、エラグ酸を用意した。
【0034】
(比較例11)
比較例11の化合物として、市販のキナ酸、シリング酸、スチルベンを用意した。
【0035】
(比較例12)
比較例12の化合物として、市販のダイゼイン、p−ヒドロキシ安息香酸、クロロゲンサン、ゲンチジン酸、プロトカテク酸、クマリン、安息香酸、フマル酸、イソバニリン酸を用意した。
【0036】
(比較例13)
比較例13の化合物として、市販のゲニスタイン、バニリン、フロログルシン、オルシノール、レゾルシノールを用意した。
【0037】
(比較例14)
比較例14として、市販されている従来の合成薬剤からなる硝化抑制剤であるニトラピリンを用意した。
【0038】
(比較例15)
比較例15として、市販されている従来の合成薬剤からなる硝化抑制剤であるジシアンジアミドを用意した。
【0039】
次に、上記実施例1のジュグロン、比較例1〜9のフェノール化合物、比較例10〜13の化合物及び比較例14,15の硝化抑制剤の硝化抑制作用について説明する。
測定は、試験管内の硝化細菌を用いて行った。最初に、測定に用いた硝化細菌の懸濁液の調製について説明する。
細菌由来のルシフェラーゼ遺伝子(luxAB )を導入した硝化細菌(Nitrosomonas europaea IFO14298 、非特許文献2参照)を、カナマイシン25mg/1000cm3 を含むP培地中で、30℃において好気的に7〜9日間培養し、洗浄後、新鮮なP培地に懸濁して、硝化細菌懸濁液を調製した。この硝化細菌懸濁液は、実験前に30分以上暗所に静置した。
ここで、P培地の組成は、(NH4 )2 SO4 2.5g、KH2 PO4 0.7g、Na2 HPO4 13.5g、NaHCO3 0.5g、MgSO4 −7H2 O100mg、CaCl2 −2H2 O5mg、Fe−EDTA1mg、水1000cm3 からなり、そのpHは8.0であった。
【0040】
硝化作用は、上記の硝化細菌懸濁液0.25cm3 と水0.2cm3 からなる硝化細菌懸濁液の水溶液と、各実施例及び比較例の試料溶液0.01cm3 と、を試験管内で混合した後で、15℃で30分間培養する間における、硝化反応に伴う生物発光量を、ルミノメータ(ターナー・デザインズ社製、型名TD20/20)を用いて測定することにより評価した。硝化反応に伴う生物発光量は、各実施例及び比較例の試料溶液に、硝化抑制作用物質が存在すれば、発光量が減少する。このため、硝化細菌懸濁液の水溶液に各実施例及び比較例の試料溶液を添加した場合の発光量を、各実施例及び比較例の試料溶液を加えないで、菌体懸濁液の水溶液だけの場合の発光量で割った値を硝化抑制率とした。
【0041】
実施例1及び比較例1〜13の試料溶液について、試料溶液の濃度を変化させて上記の測定を行った。次に、測定の結果から、硝化抑制率の濃度依存性を調べた。その結果から各フェノール化合物の硝化抑制率が50%となる濃度(以下、適宜に、50%抑制濃度という。)を評価した。
【0042】
図1は、実施例1のジュグロン及び比較例1〜9のフェノール化合物の50%抑制濃度を示す表である。
図1から明らかなように、実施例1のジュグロンの50%抑制濃度は、0.03ppmであることがわかった。
実施例1のジュグロンに対して、比較例1〜9のフェノール化合物の50%抑制濃度は何れも、1.4ppm以上であることがわかった。
【0043】
図2は、実施例1のジュグロン及び比較例10〜13の化合物の50%抑制濃度を示す表である。
図2から明らかなように、比較例10の化合物の50%抑制濃度は、500ppm以上であり、硝化抑制作用が弱いことがわかった。比較例11の化合物は、硝化抑制効果が見られないことがわかった。比較例12の化合物は、硝化を促進することがわかった。比較例13の化合物は、比較例12の化合物よりも硝化が強く促進することがわかった。
以上より、実施例1のジュグロン、比較例1〜9のフェノール化合物及び比較例10〜13の化合物の中では、ジュグロンが最も強い硝化抑制作用を示すことが確認できた。
【0044】
次に、実施例1のジュグロンの硝化抑制率の濃度依存性についてさらに調べ、その結果から硝化抑制率が80%となる濃度(以下、適宜に、80%抑制濃度という。)を評価した。評価の結果、実施例1のジュグロンの80%抑制濃度は、0.08ppmであった。
一方、比較例14のニトラピリンの80%抑制濃度は4ppmであり、比較例15のジシアンジアミドの80%抑制濃度は185ppmであった。
これにより、実施例1の硝化抑制剤における80%抑制濃度は、比較例14のニトラピリンや比較例15のジシアンジアミドよりも、はるかに低濃度でも十分な硝化作用が得られることが判明した。実施例1のジュグロンによる硝化細菌の硝化反応を阻害するという事実は、新規の知見である。
【0045】
上記のように、実施例1の硝化抑制剤は、比較例14及び15の従来の合成薬剤からなる硝化抑制剤のニトラピリンやジシアンジアミドよりも強い硝化抑制効果を有することが判明した。また、実施例1の硝化抑制剤は、安価に入手できるジュグロンからなるものであるため、低コストで製造することができる。
【実施例2】
【0046】
実施例2として、肥料成分として硫酸アンモニウムと、硝化抑制剤としてジュグロンと黒ボク土とからなる肥料組成物を製造した。
黒ボク土は、茨城県つくば市八幡台にある独立行政法人国際農林水産業研究センター試験圃場の深さ0〜15cmの表土から採取し、粘土54.8%、シルト26.3%、砂18.9%より構成され、全炭素含量は30g/kg、全窒素含量は2.64g/kgであった。この黒ボク土を風乾して、2mmのふるいを用いて均一にして、乾燥した黒ボク土(以下、適宜、乾土と呼ぶ。)とした。
乾土あたりの添加量が200ppm N(ここで、Nは窒素を示す)である硫酸アンモニウムと、乾土あたりの添加量が10ppmのジュグロンとを乳鉢を用いて、均一に乾土と混ぜ合わせて、実施例2の肥料を得た。
【実施例3】
【0047】
乾土あたりの添加量が100ppmのジュグロンを乾土と混ぜ合わせた以外は、実施例2と同様にして、実施例3の肥料を得た。
【0048】
(比較例16)
硝化抑制剤を添加しない以外は、実施例2と同様にして比較例16の肥料を得た。
【0049】
(比較例17)
乾土あたりの添加量が4.5ppmのニトラピリンを乾土と混ぜ合わせた以外は、実施例2と同様にして、比較例17の肥料を得た。
【0050】
次に、実施例2,3及び比較例16,17の肥料の硝化抑制効果について測定した。
測定は、実施例2,3及び比較例16,17の肥料を、ガラス容器中に入れ、針穴を開けた樹脂製のフィルム、例えばパラフィルム(商品名)で蓋をして、恒温恒湿装置に設置した。そして、温度が20℃、肥料の土壌孔隙の水分飽和度が60%となるように制御した。
一定時間後に、肥料2gを取り出し、20cm3 の2M(モル/1000cm3 )塩化カリウムを加え、2時間振とうし、肥料中の硝酸を抽出してろ過した。このろ液に含まれる硝酸イオンを自動イオン分析装置(Brant+Luebbe社製、型番AAII)により定量した。
【0051】
図3は、実施例2,3及び比較例16,17の肥料における30日後及び60日後の硝酸濃度の測定結果を示す表である。
図3から明らかなように、実施例2の肥料においては、30日後及び60日後の硝酸濃度は、それぞれ29.3ppm N,134.9ppm Nであった。
実施例3の肥料においては、30日後及び60日後の硝酸濃度は、それぞれ、12.3ppm N,17.5ppm Nであった。
これに対して、比較例16の硝化抑制剤を添加していない肥料の場合には、30日後及び60日後の硝酸濃度は、それぞれ、53.9ppm N,208.5ppm Nとなった。この比較例10の30日後の硝酸濃度は、実施例2,3の硝化抑制剤を含む肥料の硝酸濃度の約2倍以上の値である。さらに、比較例14の60日後の硝酸濃度は30日後の硝酸濃度の約4倍となった。
比較例17の肥料においては、30日後及び60日後の硝酸濃度は、それぞれ、23.1ppm N,53.2ppm Nとなった。
以上より、実施例2及び3のジュグロンを含む肥料は、土壌中でも効果的に硝化を抑制し、その効果は比較例17のニトラピリンを含む肥料に匹敵した。
【0052】
上記のように、実施例2,3の肥料は効果的に硝化を抑制することができ、その硝化抑制効果は、従来の硝化抑制剤であるニトラピリンを含む肥料に匹敵することが判明した。また、実施例2,3の肥料は、安価に入手できるジュグロンを硝化抑制剤として含んでいることから、実施例2,3の肥料は低コストで製造できる。さらに、実施例2,3の肥料は、不揮発性であり化学的に安定であるジュグロンを硝化抑制剤として含んでいることから、実施例2,3の肥料は、従来の硝化抑制剤を含有させた肥料と同程度の硝化抑制効果を有し、かつその硝化抑制効果を長期間発揮させることができる。
【0053】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。例えば、本発明の硝化抑制剤を含む土壌改良剤や肥料の組成は、栽培する農産物や花木類に応じて適宜に設計すればよく、上記実施例に限らないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1のジュグロン及び比較例1〜9のフェノール化合物の50%阻害濃度を示す表である。
【図2】実施例1のジュグロン及び比較例10〜13の化合物の50%阻害濃度を示す表である。
【図3】実施例2,3及び比較例16,17の肥料における30日後及び60日後の硝酸濃度の測定結果を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジュグロンを主成分とし、土壌の硝化を抑制することを特徴とする、硝化抑制剤。
【請求項2】
ジュグロンからなる硝化抑制剤を含有することを特徴とする、土壌改良剤。
【請求項3】
前記硝化抑制剤が、20〜50重量%の範囲で含有されていることを特徴とする、請求項2に記載の土壌改良剤。
【請求項4】
ジュグロンからなる硝化抑制剤を含有することを特徴とする、肥料。
【請求項5】
前記硝化抑制剤が、20〜50重量%の範囲で含有されていることを特徴とする、請求項4に記載の肥料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63543(P2008−63543A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246082(P2006−246082)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(501174550)独立行政法人国際農林水産業研究センター (22)
【Fターム(参考)】