説明

硝酸濃度低減方法

【課題】 食用植物中の硝酸濃度を安全に効果的に減少させる硝酸濃度軽減方法を提供する。
【解決手段】 本発明では、ヒトなどの動物が日常摂取する有機栄養液を食用植物に灌水および/または塗布することで、硝酸濃度を効果的に削減することができる。
また、有機栄養液は、ヒトなどの動物が日常摂取するので、残留しても問題にならない。さらに、有機栄養液に用いられる有機物は、極めて少量で有効である。このため、安価で、安全な硝酸濃度低減方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用植物中に存在する硝酸の低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、市販されている野菜には、多量の硝酸態窒素がふくまれていることが報告されている。野菜の中でもレタス、キュウリ、サラダ用ホウレンソウや玉葱、貝割れダイコンやモヤシなどのスプラウトは生食材のため、硝酸はそのまま体内に取り込まれる。本来、土壌では硝酸は多量には含まれていないが、肥料として収穫前に多量に施用することで野菜が萎れないため、店頭に並んだときに新鮮な印象を与えることができる。またスプラウトでも水のみより無機肥料を与えたときのほうが生育や品質が良いため一般に施用されている。
【0003】
硝酸は多量でなければ人体に取り込まれても害はないとされている。体内で亜硝酸に変る場合は問題となる。硝酸を過剰に摂取した場合は、血液中のヘモグロビンと亜硝酸とが結合されてメトヘモグロビンが作られ、酸素欠乏を生じるという中毒症(例えば、乳幼児に生ずるブルーベビー症)を引き起こす原因にもなる。欧米では、野菜の種類にもよるが硝酸は2000−3000ppm以下でなければならないとされている。
【0004】
このため、食用植物中に含まれる硝酸(特に、硝酸態窒素)を減少させる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、本明細書中で、硝酸というときは、一般的な硝酸に限られず、硝酸態窒素を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−65号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記文献に記載の方法でも、十分に硝酸濃度を減少させていない。このため、更に硝酸濃度を減少させる方法が要求される。
また、食用植物は、ヒトなどが摂取するものである。このため、硝酸濃度を減少させる方法に用いられるものは、より安全なものが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、通常の無機肥料を与えて培養・生育させた食用植物に有機栄養液を灌水および/または塗布することにより、連続族無機培養法に比較して硝酸濃度を削減できることを見出し、本発明を完成させた。
また、本発明は、食用植物中の硝酸濃度を低減する有機栄養剤であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ヒトなどの動物が日常摂取する有機栄養液を食用植物に与えることで、硝酸濃度を効果的に削減することができる。
また、有機栄養液は、ヒトなどの動物が日常摂取するので、残留しても問題にならない。さらに、有機栄養液に用いられる有機物は、極めて少量で有効である。このため、安価で、安全な硝酸濃度低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、スクロースを用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図2】図2は、クエン酸とスクロースを用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図3】図3は、クエン酸を用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図4】図4は、有機酸を用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図5】図5は、有機酸を用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図6】図6は、クエン酸とアミノ酸を用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸濃度の変化を測定したグラフである。
【図7】図7は、クエン酸を用いて、貝割れ大根の下胚軸中の硝酸塩含量の時間変化を測定したグラフである。
【図8】図8は、クエン酸を用いて、貝割れ大根の硝酸還元酵素の活性を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、食用植物に有機栄養液を灌水および/または塗布することにより、硝酸濃度を低減させる。
【0012】
本発明の硝酸濃度を低減させる対象となる植物は、ヒトや動物が食用する植物であれば、特に制限はない。たとえば、レタス、キュウリ、サラダ用ホウレンソウや玉葱、貝割れダイコンやモヤシなどの生食材が例示される。
【0013】
有機栄養液は、有機酸、アミノ酸、糖などを含む水溶液である。有機酸は、特に制限はないが、クエン酸、酢酸、乳酸、コハク酸などが例示される。アミノ酸は、特に制限はないが、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸などが例示される。糖は、特に制限はないが、スクロース、グルコースなどが例示される。これらは、単独であっても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
有機栄養液中の有機酸、アミノ酸の濃度は、2〜10mM、好ましくは4〜6mM、更に好ましくは、4.5〜5.5mMである。例えば、5mMの濃度のものが好適である。また、有機栄養液中の糖の濃度は、2〜4重量%である。
【0015】
有機栄養液は、食用植物に灌水および/または塗布することで供与することができる。灌水することで、根茎または切断した茎から植物内に吸収される。また、塗布することで葉部から吸収される。塗布には、散布を含む。
【0016】
有機栄養液は、例えば、食用に付す24時間程度前から食用植物に与える。具体的には、出荷前の24時間程度前、流通過程、あるいは保存中などに行えばよい。
【0017】
なお、本発明で使用する、有機栄養液である有機栄養剤は、等倍の液体に限られず、粉剤、錠剤、濃縮液、あるいはゲル状の形で供給されてもよい。使用に際し、希釈・溶解等により等倍液を作製する、あるいはゲル状のまま使用することとすればよい。
【実施例1】
【0018】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0019】
以下の実験は、貝割れ大根を用いて行った。貝割れ大根は、25℃の条件下で播種後1日間暗期におき、その後2〜4日は、14時間明期(40μmol photon.m−2・s−1)、10時間暗期に置いた。1〜4日間は、公知の無機栄養液を与えた。5日目は明期におき、本発明の有機栄養液を与え、24時間後に下胚軸を破砕し、細胞内物を抽出した。
【0020】
なお、貝割れ大根では、通常の生産中では、播種から4日目まで連続的に硝酸含量が増加し(約3800ppm)、その後この濃度のまま維持され、出荷されることを確認した。
【0021】
糖の濃度は、HPLCにより測定した。NO濃度は、硝酸テスト紙により測定した。また、硝酸還元酵素活性は、NADHにより測定した。
【0022】
(実施例1)
有機栄養液中のスクロースの濃度を変えて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図1に示す。図1から、スクロース濃度が、2.5〜3.5重量%の場合は、硝酸濃度が効果的に減少することがわかる。
【0023】
(実施例2)
有機栄養液の成分としてスクロース、グルコース、クエン酸、スクロース+クエン酸、グルコース+クエン酸として、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図2に示す。図2から、クエン酸単独の場合は、硝酸濃度が最も効果的に減少することがわかる。
【0024】
(実施例3)
有機栄養液の成分としてクエン酸を用い、濃度を変えて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図3に示す。図3から、クエン酸濃度が3〜8mMの場合は、硝酸濃度を効果的に減少することがわかる。
【0025】
(実施例4)
有機栄養液の成分として有機酸の種類を変え、濃度を変えて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図4に示す。図4から、有機酸は、硝酸濃度を減少することができることがわかり、特にクエン酸が好ましいことがわかる。
【0026】
(実施例5)
有機栄養液の成分としてアミノ酸の種類を変え、濃度を変えて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図5に示す。図5から、アミノ酸は、硝酸濃度を減少することができることがわかり、特にグリシンが好ましいことがわかる。
【0027】
(実施例6)
有機栄養液の成分としてグルタミン酸、グルタミン酸+クエン酸、クエン酸を用いて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図6に示す。図6から、両者を併用しても、硝酸濃度の減少に相乗作用はないことがわかる。
【0028】
(実施例7)
有機栄養液の成分としてクエン酸を用いて、処理時間を変えて、貝割れ大根下胚軸中の硝酸濃度を測定した。結果を図7に示す。図7から、クエン酸による処理は、処理時間が24時間を経過した後は硝酸濃度の減少は変わらないことがわかる。
【0029】
(実施例8)
有機栄養液の成分としてクエン酸、酢酸、グルタミン酸、グリシンを用いて、貝割れ大根中の硝酸還元酵素の酵素活性を調べた。結果を図8に示す。図6から、クエン酸において、硝酸還元酵素の酵素活性が向上していることがわかる。一方、グルタミン酸、グリシンでは、硝酸還元酵素の酵素活性は余り向上していないことがわかる。このことから、本発明の有機栄養液の効果は、単に硝酸還元酵素の酵素活性のみではないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
食用として安全な食用植物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用植物に有機栄養液を灌水および/または塗布することによる、硝酸濃度低減方法。
【請求項2】
食用植物中の硝酸濃度を低減する有機栄養剤。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182658(P2011−182658A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48467(P2010−48467)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】