説明

硫化工程の反応制御方法

【課題】ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、反応容器内面への生成硫化物の付着を抑制するとともに、反応終点のニッケル濃度を低い水準で安定させ、ニッケル回収率を高めることができる高効率な硫化工程の反応制御方法を提供する。
【解決手段】ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、種晶として、該硫酸水溶液(A)に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍のニッケル量に当たる該硫化物(B)を循環使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化工程の反応制御方法に関し、さらに詳しくは、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、反応容器内面への生成硫化物の付着を抑制するとともに、反応終点のニッケル濃度を低い水準で安定させ、ニッケル回収率を高めることができる高効率な硫化工程の反応制御方法に関する。特に、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、ニッケルとコバルトを含む硫酸水溶液の硫化工程の反応制御方法として用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル製錬においては、硫化ニッケル鉱を乾式製錬することにより、ニッケル品位が30重量%程度のマットを得て、その後、塩素浸出−電解採取法により電気ニッケルを製造する方法が行われている。
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であることとともに、ニッケル品位を50重量%程度まで向上させたニッケル硫化物を得ることができるという利点を有している。このニッケル硫化物は、通常、浸出液を浄液した後、硫化工程において硫化水素ガスを吹き込むことにより、沈殿生成される。
【0003】
ところで、ニッケルの湿式製錬の分野においては、ニッケル硫化物の生成のほか、液中の亜鉛、銅、鉄等の不純物元素を微加圧下で硫化して分離する方法が行なわれていた。しかしながら、従来の技術では、硫化の反応温度を100℃前後に設定することにより、反応温度を高めて反応速度を大きくして、反応効率の向上を図っていた。しかしながら、従来の技術では反応容器内面への生成硫化物の付着が発生しやすいという問題点があり、かつ操業コストが高いという問題もあった。
【0004】
この解決策として、ニッケル酸化鉱の高温加圧浸出プロセス(例えば、特許文献1参照。)において、硫化工程で硫化物種晶を添加すること、及び硫化工程で得られたニッケル及びコバルト混合硫化物を繰返し循環して使用することが開示され、前記硫化物の添加量としては、液中のニッケル量の1〜3倍量が好ましいとしている。
ところで、一般に、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液に、硫化水素ガスを吹き込み、ニッケル含む硫化物を得る工程においては、反応後に得られる液(以下、貧液と呼称する場合がある。)は微量のニッケルを含んでいる。この貧液は、この工程後に最終中和工程へと送られ処理されるため、貧液に含まれているニッケルは回収することが困難であった。したがって、この貧液中のニッケル濃度を低下させることが、ニッケル回収率を高めるため重要な技術課題であった。
【0005】
しかしながら、上記の繰返し循環量では、反応容器内面への生成硫化物の付着を十分に抑制することが困難であるとともに、貧液中のニッケル濃度を十分に低下させることが困難であった。以上の状況から、硫化工程において、反応終点のニッケル濃度を低い水準で安定させ、ニッケル回収率を高めることができる高効率な硫化工程の反応制御方法が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−350766号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、反応容器内面への生成硫化物の付着を抑制するとともに、反応終点のニッケル濃度を低い水準で安定させ、ニッケル回収率を高めることができる高効率な硫化工程の反応制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ニッケルを含む硫酸水溶液に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物と貧液を形成する硫化工程について、鋭意研究を重ねた結果、硫化工程に際し、種晶として、該硫酸水溶液に含まれるニッケル量に対し、特定のニッケル量に当たる該硫化物を循環使用したところ、反応容器内面への生成硫化物の付着を十分に抑制するとともに、貧液中のニッケル濃度をこれまで以上に低い水準で安定させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、
種晶として、該硫酸水溶液(A)に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍のニッケル量に当たる該硫化物(B)を循環使用することを特徴とする硫化工程の反応制御方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記硫化工程の反応温度は、70〜95℃であることを特徴とする硫化工程の反応制御方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記硫酸水溶液(A)は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程、固液分離工程、及び中和工程を経て回収されるニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液からなる母液であることを特徴とする硫化工程の反応制御方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記母液は、ニッケル濃度が2〜5g/L、及びコバルト濃度が0.1〜1.0g/Lであって、pHが3.2〜4.0であることを特徴とする硫化工程の反応制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硫化工程の反応制御方法は、反応容器内面への生成硫化物の付着を十分に抑制するとともに、貧液中のニッケル濃度をこれまで以上に低い水準で安定させることができる反応制御方法として、その工業的価値は極めて大きい。特に、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、ニッケルとコバルトを含む硫酸水溶液に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルとコバルトを含む硫化物と貧液を形成する硫化工程の反応制御方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の硫化工程の反応制御方法は、ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、種晶として、該硫酸水溶液(A)に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍のニッケル量に当たる該硫化物(B)を循環使用することを特徴とする。
【0015】
本発明において、種晶として、硫酸水溶液(A)に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍、好ましくは4〜5倍のニッケル量に当たる硫化物(B)を循環使用することが重要である。これによって、反応容器内面への生成硫化物の付着を十分に抑制するとともに、貧液中のニッケル濃度をこれまで以上に低い水準で安定させることができる。
すなわち、硫化工程に循環された硫化物は、新規に発生する硫化物の発生の核となるので、反応速度が遅い比較的低温であっても、充分な硫化物の発生速度を維持することができる。また、硫化物発生の核が存在することにより、生成する硫化物の粒子は比較的大きな粒子となるため、反応槽内における滞留時間が短くなるとともに、反応槽内に付着することもなくなる。ここで、循環使用量が4倍未満では、貧液中のニッケル濃度が上昇し、ニッケル回収率が低下する。一方、循環使用量が6倍を超えると、それ以上の効果は期待できない。
【0016】
上記硫化工程に用いる設備としては、特に限定されるものではないが、硫化工程内で所定量の硫化物の循環使用がなされる方式のものが用いられる。
図1は、硫化工程の設備配置の一例を表す概略図である。図1において、撹拌反応槽1で、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液からなる始液4中に、循環硫化物スラリーからなる種晶6を添加し、さらに硫化水素ガス5を吹き込みながら、硫化反応が行なわれる。反応後のスラリーは、シックナー等の沈降槽2へ流送され、ニッケルを含む硫化物は底部から、濃縮物スラリー7として分離され、中継槽3を経て、所定割合で分配され、撹拌反応槽1へ循環される。一方、中継槽3から、回収硫化物8が抜き出され次工程で処理される。ここで、硫化工程への始液流量を測定、調整し、それが変動した場合には、シックナーより得られる硫化物スラリーの流量を調節することにより、貧液のニッケル濃度を維持するように制御する。
【0017】
上記硫化工程の反応温度は、特に限定されるものではなく、70〜95℃が好ましく、80℃程度の比較的低温度がより好ましい。すなわち、硫化反応自体は一般的に高温ほど促進されるが、95℃を超えると、温度を上昇するためにコストがかかること、反応速度が速いため反応容器への硫化物の付着起こること等の問題点も多い。
【0018】
上記硫酸水溶液(A)としては、特に限定されるものではなく、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫酸水溶液に広く適用されるが、この中で、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程、固液分離工程、及び中和工程を経て回収されるニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液からなる母液が好ましく用いられる。
【0019】
以下に、ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法において、本発明の硫化工程の反応制御方法を用いた場合について説明する。
図2は、本発明の方法を用いたニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法の実施態様の一例を表す製錬工程図である。
図2において、ニッケル酸化鉱石15は、最初に、浸出工程11で硫酸を用いた高温加圧浸出に付され、浸出スラリー16が形成される。浸出スラリー16は、固液分離工程12に付され、多段洗浄された後ニッケル及びコバルトを含む浸出液17と浸出残渣18に分離される。浸出液17は、中和工程13に付され、3価の鉄水酸化物を含む中和澱物スラリー19とニッケル回収用の母液20が形成される。母液20は、硫化工程14に付され、ニッケル等が除去された貧液22とニッケル及びコバルトを含む硫化物21とに分離されるが、生成された硫化物21を循環使用する。
【0020】
次に、上記高温加圧酸浸出法の各工程の概略を説明する。
(1)浸出工程
上記浸出工程は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、220〜280℃の温度下で撹拌処理して、浸出残渣と浸出液からなる浸出スラリーを形成する工程である。この工程では、高温加圧容器(オートクレーブ)が用いられる。
【0021】
浸出工程で用いるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。前記ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0022】
浸出工程においては、下記の式(1)〜(5)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応によって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。しかしながら、鉄イオンの固定化は、完全には進行しないので得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほか、2価と3価の鉄イオンが含まれるのが通常である。
【0023】
「浸出反応」
MO+HSO ⇒ MSO+HO (1)
(式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2Fe(OH)+3HSO ⇒ Fe(SO+6HO (2)
FeO+HSO ⇒ FeSO+HO (3)
【0024】
「高温熱加水分解反応」
2FeSO+HSO+1/2O ⇒ Fe(SO+HO (4)
Fe(SO+3HO⇒ Fe+3HSO (5)
【0025】
浸出工程におけるスラリー濃度は、特に限定されるものではないが、浸出スラリーのスラリー濃度が15〜45重量%になるように調製することが好ましい。
浸出工程で用いる硫酸量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられるが、例えば、鉱石1トン当り300〜400kgであり、鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。
【0026】
(2)固液分離工程
上記固液分離工程は、上記浸出工程で形成される浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣を得る工程である。
【0027】
上記固液分離工程における多段洗浄としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させるCCD法が好ましい。これによって、系内に新たに導入する洗浄液を削減するとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
【0028】
(3)中和工程
上記中和工程は、上記浸出液の酸化を抑制しながら、pHが4以下となるように炭酸カルシウムを添加し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液を形成する工程である。これによって、高温高圧酸浸出工程で用いた過剰の酸の中和を行うとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去を行うものである。
【0029】
上記中和工程のpHは、4以下であり、特に3.2〜3.8が好ましい。すなわち、pHが4を超えると、ニッケルの水酸化物の発生が多くなる。
上記中和工程において、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去に際して、溶液中に2価として存在する鉄イオンを酸化させないことが肝要である。したがって、空気の吹込みは勿論、溶液の酸化を極力防止することが重要である。これによって、2価の鉄の除去にともなう炭酸カルシウム消費量と中和澱物生成量の増加を抑制することができる。すなわち、中和澱物量の増加による澱物へのニッケルロスの増加を抑えることができる。
【0030】
上記中和工程の温度は、50〜80℃が好ましい。すなわち、50℃未満では、澱物が微細となり、固液分離工程へ悪影響を及ぼす。一方、80℃を超えると、装置材料の耐食性の低下や加熱のためのエネルギーコストの増大を招く
【0031】
(4)硫化工程
上記硫化工程は、上記母液に硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物と貧液を形成する工程である。ここで、種晶として、母液に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍のニッケル量に当たる硫化物を循環使用する。
【0032】
上記母液中に亜鉛が含まれる場合には、ニッケル及びコバルトを硫化物として分離する工程に先だって、亜鉛を硫化物として選択的に分離する工程を用いることができる。すなわち、硫化反応の際に弱い条件を作り出すことで硫化反応の速度を抑制し、亜鉛と比較して濃度の高い共存するニッケルの共沈を抑制することにより、亜鉛を選択的に除去する。
【0033】
上記母液としては、例えば、pHが3.2〜4.0で、ニッケル濃度が2〜5g/L、コバルト濃度が0.1〜1.0g/Lであり、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等を含む。これら不純物成分は浸出の酸化還元電位、オートクレーブの操業条件及び鉱石品位により大きく変化するが、一般的に、鉄、マグネシウム、マンガンが数g/L程度含まれている。ここで、不純物成分は回収するニッケル及びコバルトに対して比較的多く存在するが、硫化物としての安定性が低い、鉄、マンガン、アルカリ金属、及びマグネシウム等アルカリ土類金属は、生成する硫化物には含有されない。
【0034】
上記硫化工程によって、不純物含有の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物とニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液が得られる。前記貧液は、pHが1〜3程度、硫化されずに含まれる鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含んでいる。また、回収ロスになるニッケル及びコバルトは、僅かであり、例えば、ニッケル及びコバルトの含有量はそれぞれ40mg/L以下、5mg/L以下である。この貧液は、ニッケルをほとんど含まず、かつpHが低いので、固液分離工程で洗浄液として使用しても水酸化物の生成を引き起こさない。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析方法はICP発光分析法で行った。
また、実施例及び比較例で用いたニッケル硫酸水溶液は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程、固液分離工程、及び中和工程を経て回収されたニッケルを含む硫酸水溶液からなる母液であり、ニッケル濃度が4g/Lであり、pHが3.5であった。
【0036】
(実施例1)
図1に示す硫化設備を用いて、次の硫化方法にしたがって行なった。上記ニッケル硫酸水溶液を始液として用いて、撹拌反応槽に装入し、反応温度を70〜80℃に制御しながら、始液中に、種晶として硫化反応により生成されたニッケル硫化物を添加し、さらに硫化水素ガスを吹き込みながら、硫化反応を行なった。反応後のスラリーを、沈降槽へ流送し、ニッケル硫化物は底部から、濃縮物(Ni、Co硫化物スラリー)7として分離され、中継槽を経て、所定割合を撹拌反応槽へ循環した。ここで、ニッケル硫化物の循環量としては、始液に含まれるニッケル量に対し、4.0〜5.0倍のニッケル量に調節した。反応が安定した後、貧液のニッケル濃度を分析し、ニッケル回収率を求めた。ここで、硫化工程への始液流量を200〜450m/hの範囲で変更し、それに連動して、沈降槽より得られる硫化物スラリーの撹拌反応槽への循環流量を調節した。結果を図3に示す。
【0037】
(比較例1)
ニッケル硫化物の循環量を、始液に含まれるニッケル量に対し、2.0倍未満のニッケル量に調節したこと以外は実施例1と同様に行い、反応が安定した後、貧液のニッケル濃度を分析し、ニッケル回収率を求めた。結果を図3に示す。
【0038】
(比較例2)
ニッケル硫化物の循環量を、始液に含まれるニッケル量に対し、6.0倍を超えるニッケル量に調節したこと以外は実施例1と同様に行い、反応が安定した後、貧液のニッケル濃度を分析し、ニッケル回収率を求めた。結果を図3に示す。
【0039】
図3より、実施例1では、ニッケル硫化物の循環量が、始液に含まれるニッケル量に対し、4.0〜5.0倍のニッケル量に調節され、本発明にしたがって行なわれたので、始液処理量の変化にかかわらず、高いニッケル回収率が維持、制御されることが分かる。
これに対し、比較例1、2では、ニッケル硫化物の循環量がこれらの条件に合わないので、ニッケル回収率において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上より明らかなように、本発明の硫化工程の反応制御方法は、反応容器内面への生成硫化物の付着を十分に抑制するとともに、貧液中のニッケル濃度をこれまで以上に低い水準で安定させることができる反応制御方法であり、ニッケルを含む硫酸水溶液に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物を回収する際に、有効な方法であり、さらにニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、ニッケルとコバルトを含む硫酸水溶液からニッケルとコバルトを含む硫化物を回収する硫化工程の反応制御方法として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】硫化工程の設備配置の一例を表す概略図である。
【図2】本発明の方法を用いたニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法の実施態様の一例を表す製錬工程図である。
【図3】ニッケル硫化物の循環量による、始液流量とニッケル回収率の関係を表す図である。(実施例1、比較例1、2)。
【符号の説明】
【0042】
1 撹拌反応槽
2 沈降槽
3 中継槽
4 始液
5 硫化水素ガス
6 種晶
7 濃縮物スラリー
8 回収硫化物
11 浸出工程
12 固液分離工程
13 中和工程
14 硫化工程
15 ニッケル酸化鉱石
16 浸出スラリー
17 浸出液
18 浸出残渣
19 中和澱物スラリー
20 母液
21 硫化物
22 貧液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む硫酸水溶液(A)に、硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケルを含む硫化物(B)と貧液を形成する硫化工程において、
種晶として、該硫酸水溶液(A)に含まれるニッケル量に対し、4〜6倍のニッケル量に当たる該硫化物(B)を循環使用することを特徴とする硫化工程の反応制御方法。
【請求項2】
前記硫化工程の反応温度は、70〜95℃であることを特徴とする請求項1に記載の硫化工程の反応制御方法。
【請求項3】
前記硫酸水溶液(A)は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程、固液分離工程、及び中和工程を経て回収されるニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液からなる母液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硫化工程の反応制御方法。
【請求項4】
前記母液は、ニッケル濃度が2〜5g/L、及びコバルト濃度が0.1〜1.0g/Lであって、pHが3.2〜4.0であることを特徴とする請求項3に記載の硫化工程の反応制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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