説明

硫黄系ガス消臭剤

【課題】従来の消臭剤の問題点を解消し、各種硫黄系ガスの悪臭成分、特に硫化水素などの成分に対する消臭効果が大きい材料を提供することを課題とするものである。
【解決手段】
特定の物性を有する非晶質ケイ酸金属が、硫黄系ガスの悪臭成分に対し優れた消臭性能を有することを見出し、本発明を完成した。即ち、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属とケイ素の元素組成(モル)比が0.60〜0.80の範囲であり、圧壊強度が1〜3Nの範囲である非晶質金属ケイ酸塩からなる硫黄系ガス消臭剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の悪臭、特に硫黄元素を含む化合物を主成分とする、いわゆる硫黄系ガスに対して優れた消臭性能を有する消臭剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、快適な生活に対する要求は急激に高まっており、その一つに身の回りに発生する悪臭を除去することができる消臭製品が注目されている。特に、硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄元素を含む化合物を主成分とする硫黄系ガスは、強い不快感を与えるものとして嫌われており、これらの硫黄系ガスの悪臭に有効な消臭剤が望まれている。しかし、従来から知られている一般的な消臭剤である、活性炭、芳香属第一級アミンを添着させた活性炭、pH調整をした活性炭、鉄化合物とアスコルビン酸とを組み合わせたもの、アミノ基やスルホン基を持つ高分子化合物などは、いずれも硫黄系悪臭の消臭能力の低いものであった。またこれらの消臭剤は、元々着色していたり、又は悪臭成分を吸着又は化学反応することによって着色や変色を起すため、用途によっては使用できないという問題もあった。
【0003】
これに対し、硫黄系悪臭に対する消臭機能を有する消臭剤として、ジルコニウムやランタノイド元素の水酸化物又は含水酸化物を有効成分とする脱臭剤が報告されている(例えば特許文献1参照)。
また、特定の金属イオンを含有する4価金属リン酸塩からなる消臭剤が提案されている(例えば特許文献2参照)。
また、特定の微粒子酸化亜鉛が硫化水素に対する高い消臭性能を有するものとして示されている(例えば特許文献3参照)。これらの消臭剤は消臭剤自身の着色又は変色がないという特長を有するものの、硫黄系悪臭ガス、特にメチルメルカプタンに対する消臭性能が十分ではない。
【0004】
また、ケイ酸塩である硫黄系ガス消臭剤としては、ケイ酸ゲル構造の内部に銅、亜鉛等の金属塩を包含した悪臭ガス消臭剤が提案されている(例えば特許文献4参照)。この消臭剤は,硫黄系ガスである硫化水素やメチルメルカプタンならびに塩基性ガスであるアンモニアやアミンの2種類のガス種類を両方消臭させるために、金属塩の含有量をあまり多くならないように抑制することで,消臭剤の比表面積が高く維持できるよう設定している。そのため、2種類のガスを消臭することが可能であるが、硫黄系ガスの消臭量は十分ではない。
【0005】
また、特許文献5には、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル等の金属塩とケイ酸塩の無定形複合体が、メチルメルカプタンに対して高い消臭性能を示すことが開示されている。この無定形複合体は、ケイ酸に対する金属の量が比較的少ないものであり、開示された製造方法はろ過や乾燥、粉砕等の生産性に改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−223968号公報
【特許文献2】特開平10―155883号公報
【特許文献3】特開2003−52800号公報
【特許文献4】特開平4−290546号公報
【特許文献5】特開2005−87630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来の金属ケイ酸塩系消臭剤の問題点を解消し、硫黄系ガスに対する消臭効果が大きい上に、粉砕し易く粒度が制御しやすい、生産性に優れる硫黄系ガス消臭剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の物性を有する非晶質金属ケイ酸塩が、硫黄系ガス、特に硫化水素に対し優れた消臭性能を有し、また、ろ過性と破砕性が高く生産性が良いということを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、金属/ケイ素の元素組成(モル)比が0.60〜0.80の範囲であり、圧壊強度が1〜3Nの範囲である、非晶質金属ケイ酸塩からなる硫黄系ガス消臭剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硫黄系ガス消臭剤は、メチルメルカプタンおよび硫化水素などの硫黄系ガスの消臭効果が高いので、排泄臭、生活臭、および生ゴミ臭など生活環境で発生する種々の臭気を除外するために有用であり、さらに、生産性が高いので、工業的に安価に製造して実用に供することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の硫黄系ガス消臭剤は、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属とケイ素の元素組成(モル)比が、金属/ケイ素=0.60〜0.80の範囲であり、圧壊強度が1〜3Nである、非晶質金属ケイ酸塩からなるものである。
【0011】
本発明の硫黄系ガス消臭剤は、金属/ケイ素の元素組成(モル)比が0.60〜0.80であり、非晶質金属ケイ酸塩の圧壊強度が1〜3Nである非晶質金属ケイ酸塩を製造する工程を必須として、上記の非晶質金属ケイ酸塩を粉砕、分級などの方法により、微粉末とする工程を含んでも良い製造方法によって製造することができる。非晶質金属ケイ酸塩は、金属塩とケイ酸アルカリ塩との調合により製造することができる。調合する両原料成分の配合比率と調合条件により、消臭剤の消臭性能と生産性が左右される。
【0012】
本発明の硫黄系ガス消臭剤の製造に用いる金属塩としては、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属の、硫酸、塩酸、硝酸等の無機塩および/またはギ酸、酢酸、シュウ酸などの有機塩を用いることができる。これらの内で、金属として好ましいのは銅(I)、銅(II)、亜鉛(I)であり、さらに好ましくは安定で可溶性の塩が得やすい銅(II)であり、工業的に安価に得られ、化学的に安定である無機塩である。具体的には硫酸銅(II)およびその水和塩が好ましく用いられる。
これらの金属塩を反応に用いる際にはあらかじめ水等の極性溶媒に溶解しておくことが好ましく、そのときの濃度は塩が析出しない程度で高濃度の方がスラリー濃度を上げることができ、生産効率を上げることができるので好ましい。
【0013】
本発明の消臭剤の製造に用いるケイ酸アルカリ塩は、式(1)で表される。

2O.nSiO2.xH2O (1)

(式(1)でMは1価アルカリ金属を表し、nは正数、xは0または正数である。) 本発明におけるケイ酸アルカリ塩は式(1)で表されるものを、いずれでも用いることができる。Mの具体例としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、リチウム、セシウムなどが挙げられるが、工業的に安価に得られる事からナトリウムおよびカリウムが好ましく、さらに好ましくは高い消臭容量が得られることからナトリウムである。また、nは1〜4のものが好ましく、さらに好ましくはnが1.3〜3、より好ましくは2〜2.5である。また、反応に用いるにはケイ酸アルカリ塩の水溶液が好ましく、その濃度はSiO2換算で、水溶液中のSiO2濃度が20〜40質量%が好ましく、さらには33から39質量%である。
【0014】
これらの金属塩とケイ酸アルカリ塩を、一定の条件下に混合して反応させることにより、非晶質金属ケイ酸塩が得られる。非晶質金属ケイ酸塩に含まれる金属とケイ素の元素組成比(モル比)は、Si元素の1モルに対する金属元素のモル数で定義され、モル比が概ね0〜0.80の間では、モル比が大きい方が消臭剤としての硫黄系ガスの消臭能力が大きくなる傾向があるが、0.80を超えると逆に消臭能力が小さくなる傾向があるため、好ましいモル比は0.60〜0.80であり、より好ましくは0.61〜0.75であり、さらに好ましくは0.62〜0.70である。
【0015】
非晶質金属ケイ酸塩の製造方法においては、金属塩とケイ酸アルカリ塩とを反応液中で混合するときのpHが、6.0〜9.0の範囲を超えないことが必須であり、より好ましいpH範囲としては、6.5〜8.5、さらに好ましくは7.0〜8.0である。例えば、特許文献4には、ケイ酸塩および亜鉛化合物をアルカリ水溶液に溶解してpHを9〜11に調整し、溶液を50〜70℃に保持することにより、溶液中のケイ酸分子が次第に重合してポリケイ酸分子ゾルが形成され、次に液を中和したときにケイ酸ゾルがゲルに相転移して沈降する、悪臭ガス吸着剤の製法の記載があるが、非晶質金属ケイ酸塩は、このような従来の高温アルカリ条件でケイ酸ゾルを熟成する製造方法とは全く異なる方法で製造されるものである。
【0016】
非晶質金属ケイ酸塩の製造方法において、金属塩とケイ酸アルカリ塩とが反応液に添加され混合される(この工程を調合と呼ぶ)ときのpH条件とは、金属塩とケイ酸アルカリ塩の組成で決まる調合終了後の最終pHではなく、調合開始から調合終了までの間の調合途中における反応混合液の実際のpHである。金属ケイ酸塩の沈殿は調合直後から生じるため、調合中のpHとは金属ケイ酸塩生成時におけるpHを意味する。酸性溶液である金属塩とアルカリ溶液であるケイ酸アルカリ塩の調合時にpH6.0〜9.0に保つためには、両原料を調合開始時から同時滴下することが好ましく、また、反応液のpHを適宜測定して、金属塩とケイ酸アルカリ塩の滴下速度を調整することが好ましい。ただし、pHが6.0〜9.0に保たれているならば調合工程の一部で一方の原料だけを供給したり、交互に供給したりすることも可能であり、全ての原料の供給が終了するまでを調合工程と呼ぶ。
【0017】
また、初期の滴下速度は小さく保った方が、急激なpHの変化に対応し易いので、全原料の滴下が完了するまでに30分以上、好ましくは1時間以上となる滴下速度で調合することが好ましい。調合時のpHを6.0〜9.0の範囲にたもったとき、ろ過や乾燥が容易で生産性がよく、圧壊強度が1〜3Nである、本発明の非晶質金属ケイ酸塩が生成する。なお、液のpHはガラス電極を用いる通常のpHメーター等で測定可能であり、測定したpH値を基に、原料の滴下速度を自動制御することなども公知の技術を応用して実施することができる。
【0018】
非晶質金属ケイ酸塩を調合するときの温度は、消臭剤の性能に影響を与えるので、5〜40℃の範囲が好ましく、より好ましくは10〜40℃である。原料調合直後は反応が完全には完了していないため、原料調合直後から10分〜24時間、さらに好ましくは1〜12時間程度の攪拌を継続して熟成させることが好ましい。温度は、反応液中に通常の温度計を浸すことによって測定可能である。
【0019】
非晶質金属ケイ酸塩は沈殿するので、遠心沈降、ろ過、デカンテーションなどの公知の方法で固液分離して得ることができ、洗浄することもできる。洗浄が十分に進んだことは、洗浄液の電気伝導度を測定することにより知ることができる。好ましくは洗浄液の電気伝導度が500μS/cm以下、さらに好ましくは200μS/cm以下、より好ましくは50μS/cm以下になるまで洗浄を行なうことである。なお、Sはジーメンス単位を意味する。
【0020】
非晶質金属ケイ酸塩の圧壊強度は高い方が極微粉の発生が抑えられてろ過が容易となり、また、粉砕して粉末の消臭剤製品とする際には圧壊強度が低い方が粉砕が容易となるので好ましい。本発明においては、圧壊強度は1〜3Nであり、好ましくは1.3〜2.6Nである。
【0021】
圧壊強度の測定方法は、JIS−Z8841−1993の造粒物−強度試験方法に準じて測定することが可能である。例えば、150℃で24時間乾燥した非晶質金属ケイ酸塩をASTM規格No.4の標準篩でふるってから、No.10の篩上となった約3mm程度の大きさの粒を、無作為に選び、圧壊強度試験機にかけて、粒が破壊するまでの最大指示値を記録し、好ましくは複数個の平均値、例えば20個の平均値を圧壊強度(単位N:ニュートン)とすることができる。
【0022】
非晶質金属ケイ酸塩の粒度は、たとえば粉砕と分級によって制御することができる。しかし、分級操作の実施の有無で生産性が著しく異なるので、特別な分級工程を行なう必要のないことが好ましい。特に様々な消臭加工製品に応用する場合は、大粒径の粒子は外観を悪くしたり、加工工程で詰まりや傷を引き起こす恐れもあるので少ない方が好ましい。本発明の消臭剤においては、例えば一般的に「d90」と称される、体積基準の粒度分布において、累積90%の粒子の粒径の値および、「d50」として、体積基準で累積50%の粒子径すなわちメジアン径を意味する値のそれぞれを小さくすることが好ましい。粒度分布は測定方法によって若干数値が異なるが、本発明においてはレーザー回折式粒度分布計による測定値を基準とし、他の測定原理の方法で測定する場合には、適宜、標準物質の測定等の方法によって補正係数を求めること等の方法によって測定値を応用することができる。
【0023】
本発明の消臭剤において好ましいd90は、50μm以下であり、d50は10μm以下である。この値のものは大粒径が少なく、繊維やフィルム等への加工がし易いことを意味する。非晶質金属ケイ酸塩の圧壊強度が1〜3Nである場合は、微粉砕することが容易であり、d50が10μm以下、d90が50μm以下の粒度のものを分級することなく得ることが可能である。なお、粉砕には、微粉砕機であるピンミル、アトマイザー、ボールミル、超微粉砕機であるジェットミルなどが使用できる。
【0024】
本発明における消臭剤のd50粒径は、大きいほうが凝集の問題が起きにくいので取り扱い易いが、逆に小さい方が薄いあるいは細い製品への応用が容易となるため、0.5〜10.0μmが好ましく、さらに好ましくは1.0〜8.0μmであり、より好ましくは2.0〜5.0μmである。また、d90粒径も同様の理由で1〜50μmが好ましく、さらに好ましくは2〜30μmである。d50とd90の値の関係は、近いほど消臭剤の粒度が揃っていることになり、加工性などに優れるため、好ましくはd90の値がd50の2倍から15倍の間、さらに好ましくは3倍から12倍の間である。
【0025】
本発明の消臭剤の比表面積は、大きいほうが消臭能力が高くなる傾向があって好ましいが、あまり大きいものは得ることが難しいため、好ましくは200〜400m2/gであり、より好ましくは250〜350m2/gである。そもそも、ケイ酸ソーダの中和反応において、中和、熟成の条件によって得られるシリカゲルの比表面積が変化することが知られているが、本発明では金属/ケイ素の元素組成(モル)比が0.60〜0.80と、ケイ素よりも金属の方が多い組成であり、単なるケイ酸ソーダの中和反応とは傾向が異なる。また、同じ条件で製造しても、金属の元素種によって比表面積が異なる。比較的大きな比表面積が得られる金属としては銅または亜鉛が好ましく、さらには銅が好ましい。
【0026】
本発明の消臭剤の消臭能力は、好ましくは25℃において消臭剤1gあたり、メチルメルカプタン40ml以上を発揮する。これを消臭能力40ml/g以上と表記する。同様に、好ましくは硫化水素に対して60ml/g以上の高い消臭性能を示す。
【0027】
硫黄系悪臭ガスを含む数種の悪臭源が混合している複合型悪臭を効率的に除去するために、本発明の消臭剤と公知の消臭剤とを混合または組み合わせて消臭組成物として使用することも可能である。公知の消臭剤としては活性炭、ゼオライト、シリカゲル、ケイ酸アルミニウム、含水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、酸化亜鉛、およびセピオライト等が挙げられる。
【0028】
これらの内で、好ましいのは酸化亜鉛、リン酸ジルコニウムであり、さらには層状リン酸ジルコニウムが好ましく、硫黄系ガスの消臭性能を妨げない上に塩基性ガスの消臭性能も格段に向上する。消臭組成物の中に占める本発明の硫黄系ガス消臭剤の好ましい割合は、対象となる悪臭ガスの組成によっても異なるが、通常は3質量%以上90質量%以下が好ましく、さらには10質量%以上70質量%以下である。
【0029】
○用途
本発明の消臭剤または消臭組成物は、粉末又は顆粒でそのままカートリッジなどの容器に入れた最終消臭製品として使用でき、室内や室外の悪臭発生源の近傍などに静置しておくことでその効果を発揮することが出来る。さらに、本発明の消臭剤または消臭組成物は、以下に詳述するように繊維、塗料、シート、または成型品などに配合し、消臭製品を製造するために利用できる。
【0030】
本発明の消臭剤または消臭組成物を用いた有用な消臭製品の1つは消臭性繊維である。この場合の原料繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれであっても良く、また、短繊維、長繊維及び芯鞘構造をもった複合繊維等いずれであっても良い。繊維に、本発明の消臭剤または消臭組成物を使用して消臭性能を付与する方法には特に制限はなく、例えば、本発明の消臭剤または消臭組成物を繊維に後加工で塗布する場合には、消臭剤または消臭組成物を含有した水系あるいは有機溶剤系懸濁液を、塗布やディッピング等の方法で繊維表面に付着させ、溶剤を除去することにより繊維表面にコーティングすることができる。また、繊維表面への付着力を増すためのバインダー入れて混合してもよい。消臭剤を含有する水系の懸濁液のpHは特に制限はないが、消臭剤の性能を十分に発揮させるためにはpHが6〜8付近であることが好ましい。
【0031】
また、溶融した液状繊維用樹脂又は溶解した繊維用樹脂溶液に、本発明の消臭剤または消臭組成物を練り込み、これを繊維化することによって消臭性能を付与した繊維を得ることができる。この方法で用いることができる繊維用樹脂は公知の化学繊維はいずれも使用することはできる。この好ましい具体例として、例えばポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリエチレン、ポリビニル、ポリビニリデン、ポリウレタン及びポリスチレン等がある。これらの樹脂は、単独ポリマーであっても共重合体であってもよい。共重合体の場合、各共重合成分の重合割合に特に制限はない。
【0032】
繊維用樹脂に含有させる本発明の消臭剤または消臭組成物の割合は、特に限定はされない。一般に含有量を増やせば消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは繊維の強度が低下することがあるので、好ましくは繊維用樹脂100質量部当たり0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。本発明の消臭剤または消臭組成物を使用した消臭繊維は、消臭性を必要とする各種の分野で利用可能であり、例えば肌着、ストッキング、靴下、布団、布団カバー、座布団、毛布、じゅうたん、カーテン、ソファー、カーシート、エアーフィルター、介護用衣類等、多くの繊維製品に使用できる。
【0033】
本発明の消臭剤または消臭組成物を用いた2番目の主要な用途は消臭塗料である。消臭塗料を製造するに際し、使用される塗料ビヒクルの主成分となる油脂又は樹脂に特に制限はなく、天然植物油、天然樹脂、半合成樹脂及び合成樹脂のいずれであっても良く、また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであっても良い。使用できる油脂及び樹脂としては、例えばあまに油、しなきり油、大豆油等の乾性油又は半乾性油、ロジン、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ベンジルセルロース、ノボラック型又はレゾール型のフェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びポリ塩化ビニリデン樹脂等がある。
【0034】
本発明の消臭剤または消臭組成物は液状塗料、粉体塗料のいずれにも使用可能である。又、本発明の消臭剤または消臭組成物を用いた消臭性塗料組成物はいかなる機構により硬化するタイプでもよく、具体的には酸化重合型、湿気重合型、加熱硬化型、触媒硬化型、紫外線硬化型、及びポリオール硬化型等がある。また塗料組成物中に使用される顔料、分散剤その他の添加剤は、微粒子酸化亜鉛やそれと併用する消臭性物質と化学的反応を起す可能性のあるもの以外を除けば、特に制限はない。本発明の消臭剤または消臭組成物を用いた塗料組成物は、容易に調製でき、具体的には、上記消臭剤または消臭組成物と塗料成分をボールミル、ロールミル、デイスパーやミキサー等の一般的な混合装置を用いて十分に分散、混合すればよい。
【0035】
消臭性塗料中に含有させる本発明の消臭剤または消臭組成物の割合は、特に限定はされない。一般に含有量を増やせば消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは塗装面の光沢がなくなったり、割れが生じたりするので、好ましくは塗料組成物100質量部当たり0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。本発明の消臭剤または消臭組成物を配合した消臭性塗料は、消臭性を必要とする各種の分野で利用可能であり、例えば、建物、車両、鉄道等の内壁・外壁、ゴミ焼却場施設、生ゴミ容器等で使用できる。
【0036】
また、本発明の消臭剤または消臭組成物の重要な別の用途の1つは消臭性シートである。原料となるシート材は、その材質、微構造等に制限はない。好ましい材質は樹脂、紙等、あるいはこれらの複合物であり、多孔質材質のものが好ましい。シート材の好ましい具体例として、和紙、合成紙、不織布、樹脂フィルム等があり、特に好ましいシート材は天然パルプ及び/又は合成パルプからなる紙である。天然パルプを使用すると、微細に枝分かれした繊維間に消臭剤粒子の粉末が挟まれ、特に結合剤を使用しなくても実用的な担持体となるという長所があり、一方、合成パルプは耐薬品性に優れるという長所がある。合成パルプを使用する場合には、繊維間に粉体を挟み込むことにより消臭剤粒子を担持することが困難となることがあるので、抄紙後の乾燥工程において繊維の一部を溶融し、粉末と繊維との間の付着力を増加させたり、繊維の一部に別の熱硬化性樹脂繊維を混在させることもよい。このように天然パルプと合成パルプとを適当な割合で混合して使用すると、種々の特性を調整した紙を得ることができ、一般に合成パルプの割合を多くすると、強度、耐水性、耐薬品性及び耐油性等に優れた紙を得ることができ、一方、天然パルプの割合を多くすると、吸水性、ガス透過性、親水性、成形加工性及び風合い等に優れた紙を得ることができる。
【0037】
シート材に本発明の消臭剤または消臭組成物を担持させる方法には特に制限はない。本発明の消臭剤または消臭組成物の担持は、シートの製造時又はシートの製造後のいずれでもよく、例えば、紙に担持する場合、抄紙工程のいずれかの工程において消臭剤を導入したり、バインダーと共に消臭剤を分散させた液体を予め製造した紙に塗布、浸漬又は吹き付ける方法がある。
以下、一例として、抄紙工程時に本発明の消臭剤を導入する方法について説明する。抄紙工程自体は公知の方法に従って行えばよく、例えば、まず、所定の割合で消臭剤とパルプとを含むスラリーに、カチオン性及びアニオン性の凝集剤をそれぞれ全スラリー質量の5質量%以下添加して凝集体を生成する。次いで、この凝集体を公知の方法によって抄紙を行うと共に、これを温度100〜190℃で乾燥させることにより、消臭剤を担持した紙を得ることができる。
【0038】
本発明の消臭剤または消臭組成物のシート材への担持量は、一般に担持量を増やせば消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に担持させても消臭効果に大きな差が生じないので、消臭剤または消臭組成物の好ましい担持量は、抄紙工程時に消臭剤または消臭組成物をシートの表面と内部の全体に担持させる場合、シート100質量部あたり0.1〜10質量部であり、コーティング等により後加工でシートの表面のみに消臭剤または消臭組成物を担持させる場合0.05〜10g/m2である。本発明の消臭剤または消臭組成物を使用した消臭性シートは、消臭性を必要とする各種の分野で利用可能であり、例えば、医療用包装紙、食品用包装紙、電気機器用梱包紙、介護用紙製品、鮮度保持紙、紙製衣料、空気清浄フィルター、壁紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー等がある。
【0039】
○樹脂成形品
本発明の消臭剤または消臭組成物の用途として樹脂成形品への適用が挙げられる。本発明の消臭剤を樹脂に添加する場合には、樹脂と消臭剤とをそのまま混合し成形機に投入し成型することも、消臭剤を高濃度含有したペレット状樹脂を予め調製し、これを主樹脂と混合後成型することも可能である。また、樹脂には物性を改善するために、必要に応じて顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、防湿剤及び増量剤等種々の他の添加剤を配合することもできる。本発明の消臭剤を用いた消臭性樹脂成形品を製造するための成型方法としては、射出成型、押出成型、インフレーション成型、真空成型など一般の樹脂成型方法が使用できる。本発明の消臭剤または消臭組成物を使用した消臭性樹脂成形品は、消臭性を必要とする各種の分野で利用可能であり、例えば、空気清浄器、冷蔵庫などの家電製品や、ゴミ箱、水切りなどの一般家庭用品、ポータブルトイレ等の各種介護用品、日常品等がある。
【実施例】
【0040】
本発明の消臭剤の粉末物性および消臭性能は、次の方法により測定した。
(1)d50およびd90粒径
レーザー回折粒度分布計で測定し、結果を体積基準で解析した。消臭剤の粒径d50およびd90の測定は、まずレッチェ社製「超遠心粉砕機 ZM200」を用い、80μmメッシュ、10000rpmの条件で粉砕した非晶質金属ケイ酸塩の粒子を脱イオン水に分散し、70Wの超音波で2分以上処理を行った後、レーザー回折式粒度分布計で測定し、結果を体積基準で解析した。なお、粒度分布の含有率%は、この解析方法から全粒子中の体積%であるが、非晶質金属ケイ酸塩の密度が一定であるので、質量%と同じ意味を持つ。具体的にはマルバーン社製レーザー回折式粒度分布測定装置「MS2000」により測定した。
【0041】
(2)比表面積
JIS Z8830-2001、「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」により、堀場製作所製 連続流動式表面積計「SA−6200」を用いて測定した。
【0042】
(3)組成(金属/ケイ素比)
リガク製ZSX100e型蛍光X線分析装置を用いて蛍光X線分析により測定し、結果を物質量基準で解析して、金属/ケイ素の元素組成(モル)比を算出した。
【0043】
(4)圧壊強度
150℃で24時間乾燥した非晶質金属ケイ酸塩の粒子をASTM規格No.4の標準篩でふるってから、No.10の篩でふるい、篩上となった約3mm程度の大きさの粒を、無作為に20個選出し、圧壊強度計により測定した結果を平均し圧壊強度とした。なお、圧壊強度の測定には、Pacific Transducer Corp.製「Model 306L TypeA Classic StyleDurometer」を用いた。
【0044】
(5)消臭性能
乾燥した消臭剤粉末0.01gをポリフッ化ビニルフィルムを用いて作製したバック(以下、テドラーバッグと称する)に入れ、ここにメチルメルカプタン(初期濃度600ppm)または硫化水素(初期濃度1500ppm)を1L注入し、30分後のテドラーバッグ中の残存ガス濃度をガス検知管で測定した。検知管には(株)ガステック製、No.4系(硫化水素用)またはNo.71(メチルメルカプタン用)を用いた。No.4系は測定濃度によってNo.4LL,4LT,4H等を使い分けた。検出下限はおよそ0.2ppmである。
【0045】
<実施例1>
300mlビーカーに入れた脱イオン水75mlを攪拌しながら、2号ケイ酸ソーダ(Na2O.2.5SiO2.xH2O、SiO2濃度35質量%)37.5gと、硫酸銅5水和物17.75gを各々脱イオン水100mlに加えて溶解させた2種類の溶液を1時間かけて同時に滴下した。滴下時の液温は23〜27℃の範囲内でpHが6〜7の範囲を保つように滴下速度を調整した。
なお、2号ケイ酸ソーダとは、JIS K1408-1966に基づく珪酸ソーダ2号の規格に適合するものであることを意味する。
【0046】
滴下終了後、さらに1時間攪拌を続けることで青色の沈殿生成物を含むpH6.8のスラリーを得た。目開き0.5μmのマイクロフィルターを載せたグラスフィルターでスラリーを減圧ろ過し、引き続き吸引ろ過器からオーバーフローしない程度の脱イオン水を流して沈殿を洗浄し、最後に吸引ろ過して沈殿を得た。このとき、流出するろ液の電気伝導度を測定して、電気伝導度が50μS/cm以下となるまで洗浄を行った。
【0047】
上記のスラリーの吸引ろ過の開始から、電気伝導度が50μS/cm以下となるまでの時間を測定して、ろ過・洗浄性の指標とした。吸引ろ過と電気伝導度が50μS/cm以下となるまでの洗浄が1時間以内で完了した場合は○、6時間かけても完了しない場合は×、その中間で完了した場合は△という基準で評価したが、実施例1ではろ過・洗浄は1時間以内に終了したので評価は○だった。洗浄終了後、沈殿生成物を150℃で24時間乾燥し、この乾燥品の圧壊強度を測定した。さらに、乾燥品の粉砕を行うことで硫黄系ガス消臭剤を得た。得られた消臭剤粉末の粒径d50およびd90を測定した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0048】
<実施例2>
実施例1と同じ仕込み原料を原料滴下時のpHを7〜8の範囲内とするように40分かけて滴下したが、原料のケイ酸ソーダ水溶液の滴下終了時に、未滴下の硫酸銅水溶液が余ったため、pH6〜9の範囲内で20分かけて全量滴下した。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは6.9であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0049】
<実施例3>
2号ケイ酸ソーダ41.0gと、硫酸銅5水和物17.75gとを各々脱イオン水100mlに加えて溶解させた2種類の溶液を原料滴下時のpHを8〜9の範囲内とするように、40分かけて滴下したが、原料のケイ酸ソーダ水溶液の滴下終了時に、未滴下の硫酸銅水溶液が余ったため、pH6〜9の範囲内で20分かけて全量滴下した。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは8.2であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0050】
<実施例4>
2号ケイ酸ソーダ37.5gと硫酸銅5水和物19.5gを用いた他は実施例1と同様の操作をして、pHが6〜7の範囲を保つように調合を行ない、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは6.0であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0051】
<実施例5>
ケイ酸ソーダの代わりに2号相当ケイ酸カリウム(K2O.3.5SiO2.xH2O、SiO2濃度20質量%)65.6gを使用した以外は実施例1と同様の操作をして、pHが6〜7の範囲を保つように調合を行ない、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは8.8であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0052】
<実施例6>
ケイ酸ソーダの代わりに2号相当ケイ酸カリウム(K2O.3.5SiO2.xH2O、SiO2濃度20質量%)65.6gを使用した以外は実施例2と同様の操作をして、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは8.0であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0053】
<実施例7>
硫酸銅5水和物17.75gのかわりに硫酸亜鉛7水和物20.45gを使用した以外は実施例1と同様の操作をして、pHが6〜7の範囲を保つように調合を行ない、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは7.2であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0054】
<比較例1>
原料の仕込み量は実施例1と同じだが、硫酸銅水溶液の滴下量を多めにすることにより、調合時のpHを5以上6未満の範囲として40分かけて調合を行なった。硫酸銅水溶液の滴下終了時に残存したケイ酸ソーダ水溶液はその後20分かけて滴下した。それ以外は実施例1と同様の操作をして、硫黄系ガス消臭剤を得た。調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは6.7であり、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0055】
<比較例2>
原料の仕込み量は実施例1と同じだが、ケイ酸ソーダ水溶液の滴下量を多めにすることによって、調合時のpHを10〜11の範囲内とし、40分かけて調合を行なった。原料であるケイ酸ソーダ水溶液の滴下終了時に残存した硫酸銅水溶液は、その後20分かけて滴下した。それ以外は実施例1と同様の操作をして、硫黄系ガス消臭剤を得た。
調合完了後1時間攪拌したスラリーのpHは7.4であり、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0056】
<比較例3>
硫酸銅5水和物17.75gを脱イオン水175mlに加えて溶解させた溶液(pH3.6)を300mlビーカーに入れて攪拌した。2号ケイ酸ソーダ37.5gを脱イオン水100mlに加えて溶解させた溶液(pH13.2)を、硫酸銅水溶液中に水温を約25℃に保った状態で1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌を続けて青色の沈殿生成物を得た。このときスラリーのpHは6.7であった。このスラリーをろ過し、さらにろ液の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで沈殿生成物の洗浄を行ったが、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。洗浄終了後、沈殿生成物を150℃で乾燥した後、粉砕し硫黄系ガス消臭剤を得た。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0057】
<比較例4>
硫酸銅5水和物23.0gを用いた他は実施例1と同様にしてpHを6〜7の間で40分かけて調合を行なった。原料であるケイ酸ソーダ水溶液の滴下終了時に残存した硫酸銅水溶液は、さらに20かけて滴下したところ、途中で反応液のpHは4.9まで下がった。滴下完了後1時間攪拌したスラリーのpHは5.5であり、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0058】
<比較例5>
2号ケイ酸ソーダ44.00gと、硫酸銅5水和物17.75gを用いた他は実施例1と同様にしてpHを6〜7の間で40分かけて調合を行なった、原料である硫酸銅水溶液の滴下終了時に残存したケイ酸ソーダ水溶液の滴下はその後20分かけて滴下したが、途中でpH10.3まで上昇した。滴下終了後のpHが10.0であったスラリーを10wt%硫酸水溶液でpH7.0に調整して1時間攪拌し、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0059】
<比較例6>
2号ケイ酸ソーダ32.75gと、硫酸銅5水和物21.50.gとした他は実施例1と同様にしてpHを6〜7の間で40分かけて滴下を行なった。原料であるケイ酸ソーダ水溶液の滴下終了時に残存した硫酸銅水溶液は、さらに20かけて滴下したところ、途中でpHは4.9まで下がり、滴下終了後のpHが5.1であった。調合終了後のスラリーを10wt%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整して1時間攪拌し、硫黄系ガス消臭剤を得た。なお、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0060】
<比較例7>
2号ケイ酸ソーダ37.5gを脱イオン水175mlに加えて溶解させた溶液(pH11.6)を300mlビーカーに入れて攪拌した。硫酸銅5水和物17.75gを脱イオン水100mlに加えて溶解させた溶液(pH3.2)を、硫酸銅水溶液中に水温を約25℃に保った状態で1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌を続けて青色の沈殿生成物を得た。このときスラリーのpHは6.7であった。このスラリーをろ過し、さらにろ液の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで沈殿生成物の洗浄を行ったが、ろ過・洗浄は6時間以上かかった。洗浄終了後、沈殿生成物を150℃で乾燥した後、粉砕し硫黄系ガス消臭剤を得た。硫黄系ガス消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0061】
<比較例8>
脱イオン水1リットルと2号ケイ酸ソーダ270g、硫酸亜鉛7水和物25g、硫酸アルミニウム6水和物507gを、2リットルビーカーに加え、水酸化ナトリウム溶液でpHを10に調製した。さらに50℃で20分間熟成した。次に攪拌しながら40%硫酸を加え、消臭剤を得た。なお、熟成後のスラリーのpHは7.1であり、ろ過・洗浄は1時間以内で完了した。この消臭剤の性状を表1、消臭性試験結果を表2に示した。
【0062】
<硫黄系ガス消臭剤の性状>
【表1】

【0063】
<消臭試験結果>
【表2】

【0064】
<実施例8および9>
○消臭繊維に対する消臭試験
純水100質量部に対して実施例1の消臭剤3質量部または実施例1の消臭剤3質量部と層状リン酸ジルコニウム2質量部の混合消臭剤をアクリル系バインダー(KB−1300、東亞合成(株)製)を3質量部に添加し懸濁液AおよびBを作製した。
これらの懸濁液AおよびBならびにアクリル系バインダーを各々50質量部をポリエステル繊維100重量部に対して塗布し、150℃で乾燥後、繊維A(実施例8)、繊維B(実施例9)および繊維C(消臭剤の含有量はポリエステル繊維100質量部に対して1.5質量部)を得た。
これらの繊維5gをテドラーバッグに入れ、ここにメチルメルカプタン(初期濃度15ppm)、硫化水素(初期濃度20ppm)、アンモニア(初期濃度100ppm)を1L注入し、30分後のテドラーバッグ中の残存ガス濃度を測定した。その結果を表3(単位ppm。NDは、検出できなかったことを示す)に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
以上の実施例が示すように、本発明の硫黄系ガス消臭剤は、ろ過洗浄性や易粉砕性などの生産性に優れたものであり、消臭剤あるいは消臭剤を用いた消臭組成物や消臭性品は硫黄系悪臭に対する消臭性能に優れるものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
実施例及び比較例における各種悪臭に対する消臭性能評価から明らかなように、本発明の消臭剤または消臭組成物はメチルメルカプタンおよび硫化水素などの硫黄系悪臭に対する消臭性能に優れる。このことから、本発明の消臭剤または消臭組成物を利用することにより、繊維、塗料、シート、および成形品等に優れた消臭性を付与でき、消臭製品として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属とケイ素の元素組成(モル)比が、金属/ケイ素=0.60〜0.80の範囲であり、圧壊強度が1〜3Nの範囲である非晶質金属ケイ酸塩からなる硫黄系ガス消臭剤。
【請求項2】
請求項1に記載の非晶質金属ケイ酸塩からなり、体積基準での粒度分布がメジアン径(d50値)で10μm以下であり、d90値で50μm以下である、硫黄系ガス消臭剤。
【請求項3】
金属塩を含む水溶液とケイ酸アルカリ塩の水溶液とを、pH6〜9の範囲内で調合することを特徴とする、請求項1または2に記載の硫黄系ガス消臭剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の硫黄系ガス消臭剤を含有する消臭性組成物。
【請求項5】
請求項1、2、4のいずれかに記載の硫黄系ガス消臭剤または消臭組成物を含有する消臭製品。

【公開番号】特開2011−104274(P2011−104274A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265454(P2009−265454)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】