説明

硬化型ワニス組成物

【課題】擬似エンボス印刷用の硬化型下刷りワニスとして有用な組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びアクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂から選択される1以上の樹脂と、
アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマーと、
シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂と、
炭素数が10〜35であるアルファオレフィンに由来する構造を有するポリアルファオレフィン樹脂と、を含有する、硬化型ワニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型ワニス組成物に関する。さらに、詳しくは、硬化型インキで印刷された絵柄上に下刷り層及び上刷り層を設け、下刷りワニス層と上刷りワニスのハジキ現象を利用して印刷物に凹凸感を付与する、擬似エンボス印刷用の硬化型下刷りワニスとして有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷物等とワニスとのハジキ現象を利用して疑似エンボスを形成する技術がある。例えば、特許文献1には、フタル酸ジエステルを撥液剤として印刷用のインクに添加し、このインクで形成した印刷部を有する印刷面に、不飽和ポリエステルを塗布し、印刷部上に凹部を形成して印刷面に凹凸を形成する方法が開示されている。
特許文献2には、撥液剤としてフッ素系樹脂を用い、アクリル系紫外線硬化樹脂をコートする、凹凸模様の化粧シートの製造法が開示されている。
特許文献3には、オフセット印刷により撥液剤を含有した電子線又は紫外線硬化型下刷りワニスを塗布し硬化させ、その上に上刷りワニスをコートし、下刷りワニスと上刷りワニスとのハジキ現象によって、凹凸感を付与する方法が開示されている。この方法では、コーター付きオフセット印刷機にて、一工程で擬似エンボス印刷物を製造できる。
しかしながら、上述の技術を利用した印刷物では十分な凹凸感が得られず、また、硬化時間が長い、皮膜強度が弱い等の欠点があった。
【0003】
上記の問題に対し、特許文献4には、シリコーンにパラフィンワックスを併用した紫外線硬化型下刷りワニスが開示されている。
また、特許文献5には、多価アルコールを添加した硬化型下刷りワニスが提案されている。
しかしながら、パラフィンワックスは融点が一点ではなく、かなり広い範囲に分布しているために、紫外線硬化樹脂やモノマーに分散できるものでは、常温で液状のものを多く含む。そのため、ワニスを紫外線で硬化した後の皮膜硬度が低かった。また、常温で固体であるパラフィンワックスを、ワニス中に分散するために加熱すると、紫外線硬化樹脂(モノマー)が熱重合するという問題があり、ワックスを分散させることができない。また、ワックスを熱安定性のある溶剤等に分散したコンパウンドにして、下刷りワニスに加えても、硬化皮膜を可塑化するために混合出来る量は非常に少量であるため、印刷物の凹凸感が不十分となる。
さらに、パラフィンワックスは紫外線硬化樹脂との相溶性が極端に低いことから、ワニスの硬化後、ワックスは下刷りワニスと上刷りワニスの接着層に多く分布する。そのため、下刷りワニスと上刷りワニスの接着性の劣化の原因となる。
【0004】
一方、多価アルコールの添加については、使用する多価アルコールがいずれも低分子量であり、硬化皮膜に低分子量のまま残存しているため、硬化度が劣る等、皮膜物性の劣化の原因となっている。また、多価アルコールは親水性物質であるため、ワニスのウェットオフセットにおける印刷適性が劣化する原因にもなる。
上記のような理由から、パラフィンワックスや多価アルコールを添加する場合には、添加量での量的制限が強いために、印刷面に満足な凹凸を得るには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48−58068号公報
【特許文献2】特開昭57−53355号公報
【特許文献3】特開2003−181370号公報
【特許文献4】特開2007−161998号公報
【特許文献5】特開2006−282921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、擬似エンボス印刷用の硬化型下刷りワニスとして有用な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の硬化型ワニス組成物が提供される。
1.アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びアクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂から選択される1以上の樹脂と、アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマーと、シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂と、炭素数が10〜35であるアルファオレフィンに由来する構造を有するポリアルファオレフィン樹脂と、を含有する、硬化型ワニス組成物。
2.前記ポリアルファオレフィン樹脂の、組成物全体に対する含有率が、1重量%〜15重量%である1に記載の硬化型ワニス組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硬化型ワニス組成物を使用することにより、擬似エンボスとして凹凸感が十分であり、マット部とグロス部のコントラストが大きく、安定したコントラストを有する高品位な印刷物を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の硬化型ワニス組成物は、少なくとも下記の成分(A)〜(D)を含有する。
(A)アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びアクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂から選択される1以上の樹脂
(B)アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマー
(C)シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂
(D)炭素数が10〜35であるアルファオレフィンに由来する構造を有するポリアルファオレフィン樹脂
【0010】
本発明の組成物は、特に、上記(D)成分であるポリアルファオレフィン樹脂を含有することを特徴とする。ポリアルファオレフィン樹脂を含有することにより、上刷りワニスを硬化させる際の光線等による硬化皮膜の軟化を防ぐことができる。これは、ポリアルファオレフィン樹脂が常温で固体であるためである。
また、ポリアルファオレフィン樹脂は、融点以下の温度において非常に硬度が高い。そのため、組成物を硬化して得られる皮膜は強く、また、常温では固体なので低い硬化エネルギーで固化でき、硬化エネルギーの節減ができる。さらに、硬化皮膜の物性を劣化させることなく、下刷りワニスの表面張力を低下させ、上刷りワニスのハジキ効果を向上することができる。
【0011】
さらに、ポリアルファオレフィン樹脂はパラフィンワックスよりも、ワニスの硬化時のモビリティーが小さいので、上刷りワニスをはじく強度のバラつきがない。そのため、印刷面上に安定した凹凸が得られる。
一方、ポリアルファオレフィン樹脂は親水性が小さく、多価アルコールよりウェットオフセット印刷工程で安定した皮膜を得られることで均一な凹凸で目的のマット効果とグロス効果のコントラストを容易に得られる。
また、少量添加でも凹凸が十分であり、マット部とグロス部のコントラストが大きく、安定したコントラストを有し、耐摩擦性や皮膜の耐剥離性の高い高品位な印刷物を得ることが可能である。
以下、本発明の組成物の構成成分を説明する。
【0012】
(A)アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びアクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂から選択される1以上の樹脂
アクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂の例としては、アクリル又はメタクリル変性アルキッド、エポキシアクリレート又はエポキシメタクリレート、ウレタンアクリレート又はウレタンメタクリレート、ポリエステルアクリレート又はポリエステルメタクリレート、ポリエーテルアクリレート又はポリエーテルメタクリレート等を挙げることができる。
【0013】
アクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂(ハードレジン)としては、ジアリルフタレートポリマー、水酸基過剰不均化ロジン変性アルキッド樹脂、カルボキシル基過剰アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステルレジン等の、個体でアクリル又はメタクリル系エステルモノマーに溶解できる樹脂を挙げることができる。
これらの樹脂は、印刷基材や用途によって適宜選択することができる。
【0014】
本発明の組成物全体に占める上記(A)成分の含有率は、10〜60重量%であることが好ましく、特に、20〜40重量%であることが好ましい。
【0015】
(B)アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマー
アクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーとは、分子中にアクリロイル基又はメタクリル基を1〜8個保有するモノマーを指す。
単官能モノマーとしては、アルキル(炭素数2〜18)アルコールのアクリル又はメタクリルエステルがあり、具体的には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
多官能モノマーとしては、エチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ノペンチルグリコール・ジ(メタ)アクリレート、1・6ヘキサンジオール・ジ(メタ)アクリレート、1・8オクタンジオール・ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチルジグリコール・ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノール・ジ(メタ)アクリレート、グリセリン・トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン・トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリグリコール・トリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン・テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール・トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール・テトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール・ヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトール・オクタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
上記の(B)成分のうち、ポリオールのアクリレートと低粘度の単官能アルコールのアクリレートが好ましく、これらを組み合わせて使用することが好ましく、特に、ジトリメチロールプロパン・テトラアクリレートが好ましい。
【0018】
本発明の組成物全体に占める上記(B)成分の含有率は、30〜80重量%であることが好ましく、特に、40〜70重量%であることが好ましい。
【0019】
(C)シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂
本発明で用いるシリコーン又はフッ素系樹脂としては、カルボキシル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、メルカプト変成シリコーン等の他官能基保持シリコーンや、光反応基を持つフッ化アクリレート等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物全体に占める上記(C)成分の含有率は、0.1〜10重量%であることが好ましく、特に、0.2〜3.0重量%であることが好ましい。尚、(C)成分の添加量が多いと、下刷りワニス層と、インキ層との接着力を低下させたり、上刷りワニスの転移性を低下させることがある。また、皮膜硬度の低下や、硬化に要するエネルギーの増加も必要となる。そのため、(C)成分の添加は、できるだけ少量に抑えることが望ましい。
【0021】
(D)ポリアルファオレフィン樹脂
本発明で使用するポリアルファオレフィン樹脂は、炭素数が10〜35、好ましくは炭素数14〜35、より好ましくは炭素数16〜35であるアルファオレフィンに由来する構造を有する。
ポリアルファオレフィン樹脂は、例えば、下記の重合用触媒(メタロセン系触媒)の存在下、炭素数10〜35の高級αオレフィン一種又は二種以上を単独重合又は共重合させたり、炭素数10〜35の高級αオレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合させることにより製造できる。
【0022】
・重合触媒
(A) 下記式(I)で表される遷移金属化合物
(B) (A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物、及びアルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分
【0023】
【化1】

【0024】
〔式中、Mは周期律表第3〜10族又はランタノイド系列の金属元素を示し、E及びEはそれぞれ置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,ヘテロシクロペンタジエニル基,置換ヘテロシクロペンタジエニル基,アミド基,ホスフィド基,炭化水素基及び珪素含有基の中から選ばれた配位子であって、A及びAを介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E,E又はYと架橋していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E,E又はXと架橋していてもよく、A及びAは二つの配位子を結合する二価の架橋基であって、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−Se−、−NR−、−PR−、−P(O)R−、−BR−又は−AlR−を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。qは1〜5の整数で〔(Mの原子価)−2〕を示し、rは0〜3の整数を示す。〕
詳細については、特開2005−75908号公報やWO2003/070790を参照すればよい。
【0025】
上記炭素数10〜35のアルファオレフィンとしては、例えば1−デセン、1-ウンデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらを一種又は二種以上用いてもよい。
炭素数10〜35の高級オレフィン一種以上と共重合される上記以外のオレフィンとしては、炭素数2〜30のオレフィンを用いることができ、特にアルファオレフィンが望ましい。例えば、エチレン、プロピレン、1−ペンテン、4−メチルペンテンー1、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデカン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコデセン等が挙げられ、これらのうち一種又は二種以上を用いることが出来る。
ポリアルファオレフィン重合体は、特に、2種以上の炭素数16〜35の高級αオレフィンに由来する構造を有する共重合体が好ましい。
【0026】
本発明で使用するポリアルファオレフィン樹脂は、下記(1)〜(7)の特性を有する側鎖結晶性ポリα‐オレフィン共重合体(CPAO)であることが好ましい。
【0027】
(1)融点
ポリアルファオレフィン樹脂の融点(Tm)は、30℃〜100℃であり、望ましくは50℃〜80℃である。融点が30℃より低いと、撥液効果が不十分となる。一方、100℃より高いと、硬化樹脂又はモノマーへの分散が非常に困難となる。
尚、融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、ポリアルファオレフィン樹脂を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、−10℃まで5℃/分で降温させ、−10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測された温度を意味する。
【0028】
(2)広角X線散乱強度分布
広角X線散乱強度分布の15deg<2θ<30degに、側鎖結晶化に由来する単一のピークが観測される。このような樹脂は、結晶化が側鎖に起因してのみ起こるので低融点でも硬い材料となる。
尚、広角X線散乱強度分布は、理学電機社製の対陰極型ロータフレックスRU−200を用い、30kV,100mA出力のCuKα線(波長=1.54Å)の単色光を1.5mmのピンホールでコリメーションし、位置敏感型比例計数管を用い、露光時間1分で得られる広角X線散乱(WAXS)強度分布である。
【0029】
(3)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が2,000以上であり、好ましくは8,000〜150,000の範囲にある。分子量分布(Mw/Mn)は5.0以下であり、好ましくは3.0以下である。
【0030】
(4)平均側鎖長
オレフィンの主鎖導入部分を除いた炭素数の平均値であり、好ましくは15以上、特に好ましくは15〜30である。例えば、ヘキサデセン(C16)/オクタデセン(C18)の90/10(モル比)共重合体の場合、側鎖長は(16−2)×0.9+(18−2)×0.1=16.2となる。
【0031】
(5)硬度
JIS K 2235に準拠し、温度25℃で測定した硬度は5以下が好ましく、特に好ましい範囲は2〜5である。
【0032】
(6)立体規則性指標値(M2)
「Macromolecules,24,2334(1991):T.Asakura,M.Demura,Y.Nishiyama」記載の方法に準拠して求めたM2は、50モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50〜90モル%である。M2が50モル%以上の場合、重合体がアイソタクチック構造をとり、結晶性が向上する。
【0033】
(7)融解吸熱カーブの半値幅(Wm)
示差走査型熱量計により測定されたWmは10℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは6℃以下、特に好ましくは2〜4℃である。半値幅が小さいほど、均一な結晶が形成されていることを意味する。
【0034】
上述した特性を有する側鎖結晶性ポリα‐オレフィン共重合体は、例えば、特開2005−75908号公報やWO2003/070790に記載された方法により製造できる。
【0035】
本発明の組成物全体に占める上記(D)成分の含有率は、1〜15重量%であることが好ましい。特に、擬似エンボスとして十分な凹凸感を付与するためには、5〜15重量%であることが好ましい。尚、ポリアルファオレフィン樹脂は上述した(A)成分や(B)成分との相溶性が乏しいため、添加量が15%重量より多い場合、スクリ−ン印刷以外では流動性が不足して、安定した塗布が困難となる。
【0036】
本発明の組成物には、上述した(A)〜(D)成分の他に、下記の成分を添加してもよい。
(E)体質顔料:0〜10重量%
体質顔料としては、例えば、水酸化アルミ、酸化ケイ素、沈降性硫酸バリウム、オルガチックベントナイト等を使用できる。
【0037】
(F)光重合開始剤:0〜15重量%
光重合開始剤としては、ベンゾイルエチルエーテル、ベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、2−メチル−1−(4−メチル−チオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルチオオキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ビス−2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルベンジルフォスフィンオキシド、1−[4−(2−ヒドロエトキシ)、フェニル]−2ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリネチルベンジル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等が挙げられる。
【0038】
さらに、本発明の組成物には添加剤として、組成物に保存安定性を付与する熱重合禁止剤や、印刷適性を付与するための増粘剤等を加えることが出来る。
熱重合禁止剤としてはハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン等のキノン系、ニトロソアミノアルミキレート等、公知の熱重合禁止剤が利用できる。
また、増粘剤としては、上述した体質顔料やシランカップリング剤等の公知のものが利用できる。
【0039】
本発明の硬化型ワニス組成物は、電子線や紫外線等を照射することにより硬化される。尚、電子線や紫外線が一般的であるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の硬化型ワニス組成物は、例えば、以下の方法で製造できる。
はじめに、上述した(A)〜(C)成分を混合し、さらに、熱重合禁止剤を配合する。得られた混合物に、(D)成分(ポリアルファオレフィン樹脂)を投入する。熱重合禁止剤を配合した後で(D)成分を加えることにより、組成物中において、(D)成分が微分散した状態とすることができる。尚、(D)成分を加える際に、光重合開始剤や添加剤も同時に添加し混合することができる。
混合時の温度は、ポリアルファオレフィン樹脂の融点より10℃程度高くする。これにより、ポリアルファオレフィン樹脂を溶融させ透明液体とし、混合物中に均一分散させる。その後、混合物を急冷して、ポリアルファオレフィン樹脂の結晶成長を防ぐことが必要である。
混合は、加温可能な混合釜、加温ニーダー、加熱サンドミル等の混合機を使うことができる。また、急冷機としては、三本ロール、円筒式熱交換機、二重円筒式スタティックミキサー等を使うことができる。
【0041】
本発明の硬化型ワニス組成物は、擬似エンボスを施した印刷物を印刷する際の下刷りワニスとして好適に使用できる。
具体的には、印刷物に本発明のワニス組成物を、下刷りワニスとして部分的に印刷する。その後、上刷りワニスを印刷物の全面に印刷する。尚、ワニスは、印刷機に内装したロールコーターやフレキソコーターで塗布できる。本発明のワニス組成物には撥液剤が添加されているため、下刷りワニスの画線上では上刷りワニスがハジかれ塗布できない。一方、下刷りワニスの画線以外(非画線部)の部分は、上刷りワニスによりコーティングされる。これにより、下刷りワニスの画線上はマット部となり、非画線部はグロス部となる。この結果、印刷物上に凹凸感が付与される。
【0042】
下刷りワニスの塗装(印刷)は、オフセット印刷機の最終印刷ユニットで印刷することが一般的であるが、凸版印刷(フレキソ印刷、レタープレス、ドライオフセット印刷)、スクリーン印刷、グラビア印刷での部分塗装(印刷)も可能である。塗装部がマット部分の基礎絵柄となる。
【0043】
本発明の硬化型ワニス組成物と組み合わせて使用する上刷りワニスは、特に限定はなく、一般の硬化型ワニスが利用できる。
硬化型ワニスの一般的な組成は、アクリル系又はメタクリル系モノマー又はオリゴマーが50〜80%重量%、光重合開始剤が0〜15重量%、その他添加剤が0.1〜10重量%である。
上刷りワニスは、撹拌機付き混合タンクにて60℃程度で撹拌混合・粘度調整して得られる。
上刷りワニスは、ロールコーター、フレキソコーター、グラビアコーター、チャンバーコーター等でコーティングできる。
【実施例】
【0044】
実施例で本発明を具体的に説明する。以下の実施例は発明の具体的理解を目的とするものであり、本発明は実施例によって何等限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例で使用した原料成分を以下に示す。
(A)成分(ハードレジン)
・ダイソーDAP:大阪ソーダ製ジアリルフタレート樹脂
(B)成分(モノマー)
・アロニックスM−408:東亜合成製ジトリメチロールプロパン・テトラアクリレート
(C)成分(撥液剤)
・TSF451−100:東芝製シリコーン
(D)成分(ポリアルファオレフィン)
・CPAO50:融点50℃の側鎖結晶性ポリα−オレフィン共重合体
・CPAO80:融点80℃の側鎖結晶性ポリα−オレフィン共重合体
ポリアルファオレフィンの製造方法は後述する。
○その他
・イルガキュアー907:Ciba Geigy製光重合開始剤
・ACポリエチレン430:アライドケミカル(株)社製のポリエチレン
融点は60℃であり、広角X線散乱強度分布の15deg<2θ<30degに、側鎖結晶化に由来するピークが観測されない。
【0045】
[下刷りワニス(本発明の硬化型ワニス組成物)の製法]
実施例1
表1に示す組成により、ダイソーDAP、アロニックスM−408、ハイドロキノンで構成されたUVインキ用ワニスと、CPAO50をフラスコに投入しCPAO50の融点より10℃高い温度、即ち、60℃にて30分撹拌して溶融分散した。その後、TFS451−100を加えて30℃に設定した円筒式熱交換機を通して急冷して下刷りワニスを製造した。
【0046】
【表1】

・ダイソーDAP:大阪ソーダ製ジアリルフタレート樹脂
・アロニックスM−408:東亜合成製ジトリメチロールプロパン・テトラアクリレート
・CPAO50:融点50℃の側鎖結晶性ポリα‐オレフィン共重合体
・CPAO80:融点80℃の側鎖結晶性ポリα‐オレフィン共重合体
・TSF451−100:東芝製シリコーン
・イルガキュアー907:Ciba Geigy製光重合開始剤。
【0047】
実施例2,3
表1に示すように配合を変更した他は、実施例1と同様にして下刷りワニスを製造した。尚、実施例3では、分散時の温度を90℃とした。
【0048】
比較例1−4
表2に示す組成にて下刷りワニスを製造した。具体的に、ダイソーDAP、アロニックスM408及びハイドロキノンからなるUVインキ用ワニスに、表2に示した残りの原料を加えて加熱混合した。
【0049】
【表2】

・ACポリエチレン430:アライドケミカル(株)社製のポリエチレン
【0050】
[評価]
上述した実施例及び比較例で製造した下刷りワニスを使用して印刷物にコーティングし、評価した。
コーティングされる印刷物は、RIテスターにてT&Kトーカ製ベストキャー161を市販AI蒸着紙に印刷し、UV硬化して作製した。
印刷物に、下刷りワニスをRIテスターにて塗布した。得られた印刷物を二等分した。その一方には、下刷りワニスを硬化させる前に、上刷りワニスをバーコーター#4で塗布し、UV硬化させた。
他方は、下刷りワニスをUV硬化させた後に、上刷りワニスをバーコーター#4にて塗布し、80W/cmの高圧水銀ランプ下10cmの距離でUV硬化させた。
【0051】
尚、上刷りワニスは以下の製法で得たものを使用した。
上刷りワニスは荒川化学製ビームセット700を15%、東亜合成製アロニックスM−408を60%、BASF製ラロマーLR8863を15%、Ciba Geigy製イルガキュアー907を10%、メチルハイドロキノンを0.3%の原料を撹拌機付きタンクで60℃、30分撹拌して製造した。
コーティング後の印刷物について、光沢値、マット部の均一性、下刷りワニスの硬化速度、及び皮膜強度を評価した。結果を表3に示す。評価方法を以下に示す。
【0052】
(A)光沢値(単位:%)
IGT製グロスメーターG60を用いて評価した。グロス部は下刷りワニスの非画線部であり、マット部は下刷りワニスの画線上である。
(B)マット部の均一性
目視により、以下のとおり評価した。
◎:500cmの印刷面全体が非常に均一
○:500cm当たり1、2個の光沢のあるスポットが認められた
△:500cm当たり3個以上の光沢のあるスポットが認められた
×:全体にムラが見られた
(C)下刷りワニスの硬化速度
試料をコンベアーに置き、80W/cmの高圧水銀ランプの下20cmを通過させて印刷面を硬化させた際の、印刷面が硬化するコンベアーの速度で評価した。
◎:26m/分以上
○:16m/分〜25m/分
△:2m/分〜15m/分
×:1m/分以下
(D)下刷りワニスの皮膜強度
サザーランド摩擦試験機を使用して、4ポンド加重の摩擦によって傷が付くまでの摩擦回数で測定した。
○:21回以上
△:10回〜20回
×:1回
【0053】
【表3】

【0054】
尚、下刷りワニスの硬化速度及び皮膜強度は、下刷りワニスが未硬化の状態で上刷りワニスを塗布する場合、印刷物製造工程において問題となる物性である。下刷りワニスが硬化した後に、上刷りワニスを塗布する場合には関係しない(上刷りワニス皮膜がカバーするため)。
【0055】
製造例1[CPAO50の製造方法]
加熱乾燥した1Lオートクレーブに、出光興産(株)製「リニアレン2024」(炭素数18、20、22、24のαオレフィンの5/47/33/15混合体)を400mL入れ、重合温度90℃まで昇温した後、トリイソブチルアルミニウム0.5mmol、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを1μmol、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを4μmol加え、水素を0.2MPa導入し、120分間重合した。
重合反応終了後、反応物をアセトンにて沈殿させた後、加熱、減圧下、乾燥処理することにより、ポリアルファオレフィン共重合体(CPAO50)200gを得た。得られたポリマーのGPCによる重量平均分子量(Mw)は23,000、融点は50℃であり、広角X線散乱強度分布の15deg<2θ<30degに、側鎖結晶化に由来する、単一のピークが観測された。
【0056】
製造例2[CPAO80の製造方法]
加熱乾燥した1Lオートクレーブに、炭素数26、28のαオレフィンの35/65%混合体を400mL入れ、重合温度140℃まで昇温した後、トリイソブチルアルミニウム0.5mmol、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを1μmol、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを4μmol加え、水素を0.2MPa導入し、120分間重合した。
重合反応終了後、反応物をアセトンにて沈殿させた後、加熱、減圧下、乾燥処理することにより、ポリアルファオレフィン共重合体(CPAO80)180gを得た。得られた重合体のGPCによる重量平均分子量(Mw)は8,000、融点は80℃であり、広角X線散乱強度分布の15deg<2θ<30degに、側鎖結晶化に由来する、単一のピークが観測された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の硬化型ワニス組成物は、擬似エンボス印刷用の硬化型下刷りワニスとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及びアクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーに溶解する樹脂から選択される1以上の樹脂と、
アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマーと、
シリコーン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂と、
炭素数が10〜35であるアルファオレフィンに由来する構造を有するポリアルファオレフィン樹脂と、を含有する、硬化型ワニス組成物。
【請求項2】
前記ポリアルファオレフィン樹脂の、組成物全体に対する含有率が、1重量%〜15重量%である請求項1に記載の硬化型ワニス組成物。