説明

硬貨識別方法

【目的】 本発明の目的は類似硬貨を含む場合にも大規模回路を用いず、短い時間で確実に処理できる硬貨識別方法を提供することにある。
【構成】 硬貨の高密度画像から圧縮率の高いリング画像データを切出し、粗いピッチで1回転分の一致照合演算を行なって硬貨の回転角値を探し出し、次に当該硬貨の特徴を捉えた圧縮率の低い特徴エリア画像データを用いて上記回転角付近を更に詳細に一致照合演算を行なって判定する硬貨識別方法により上記目的は達成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表裏及び回転角自在で搬送されてくる硬貨に対して貨種、真偽、正損を識別する硬貨識別方法に関する。
【0002】
【従来の技術】硬貨等の真偽の識別等に関連した技術としては、例えば、特開平3−41577「円形物の判別方法」に記載されたものがある。これは、判別対象としての円形物の中心を演算し、算出した中心を中心としてリング状ウインドウを設定し、このウインドウ内の画像データと予め用意した判別データとを比較することにより円形物の判別を行なうものである。しかし、この発明は、瓶の蓋、缶のような模様が単純なものに対して有効であるが、硬貨の識別に応用した場合、扱うデータ量が多いため、実用化が難しかった。
【0003】また、特願平3−307481「円形パターン識別方法及び装置」に記憶されたものがある。これは、円形パターンを読取り、各画素の濃度をデジタルの信号として記憶し、円形パターンの中心座標を検出する。記憶された情報から円形パターンの少なくとも1部を中心座標を中心とする円形状もしくはリング状に切出して2次元の基礎データを得、この基礎データに必要な処理を行なってテンプレートと同サイズの識別用データ配列を得る。この識別用データ配列を、テンプレートのレベルを用いてレベル変換して比較パターンを得、比較パターンとテンプレートのマッチング演算を円形パターンの角座標に関して0から2πまで行ない、比較パターンとテンプレートとの類似度もしくは非類似度を検出する。検出された類似度もしくは非類似度に基づき、円形パターンがテンプレートに応じたパターンを含むか否かを判定する。この発明においては、比較パターンとテンプレートのマッチング演算を円形パターンの角座標に関し0から2πまで行なうが、処理速度を速くするためには、マッチング演算を行なう回転ピッチを大きくすれば良いが、この場合は、マッチング演算結果が類似度を満たさなくなるという欠点があった。
【0004】一般に偽造貨、変造貨、同一外形寸法貨の類似模様媒体(外国貨、ゲームコイン等)を正貨とせず排除するためには高密度画像処理を行なう必要が生じてくる。任意の回転角度に位置してなおかつ高密度画像処理を伴なう硬貨の識別は、従来高性能大型コンピュータまたは大規模制御装置が必要で、しかも長時間に亘る照合演算処理を要していた。各種金融機関で使用する普及型硬貨処理機の硬貨識別機への適用は難しかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来は画像処理速度を上げるためにリング状ウインドウを設定して画像を取出し、予め用意した判別データと比較している。硬貨が360度内の任意の回転位置にあるので、判別データと比較する際に所定角度ごとに回転させて一致を見ることにより鑑別を行ない、また鑑別精度(正貨を正貨として認識する能力)を上げるためにはこの所定回転角度を小さくしていくとよい。しかし、処理速度の制約より所定回転角度を小さくし360度分の判定データと比較するための演算回数を増やすことは難しい。鑑別精度を上げるための詳細画像の一致照合演算回数を増やすことと判定処理速度を上げることとは二律背反事項である。
【0006】実際には、一致照合演算時の画像回転ピッチは精度と処理時間及び制御回路の規模等の関係から実用的な値に設定される。小さいと一致照合精度が高くなるが演算時間、回路規模が大きくなり、他方大きいと一致照合精度が低くなるが演算時間、回路規模等は比較的小さく実現されることとなる。
【0007】従って、互いに類似した硬貨、例えば1円硬貨と10チョン硬貨とでは共に外径20mmのアルミ貨で出来ており、また500円硬貨と500ウオン硬貨の裏面のように共に中央に大きな500の数字があり、周辺部の年号や部分的な模様によって区別されるようなものでは円形パターンによる粗い回転ピッチの比較のみで両者を識別することは困難である。本発明は上述のような事情から成されたものであり、本発明の目的は、互いに類似する硬貨を含む場合にも大規模回路を用いず、短い時間で確実に処理できる硬貨識別方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は特に類似した硬貨を含む場合における硬貨識別方法に関するもので、本発明の上記目的は、識別すべき硬貨の表及び又は裏面の高密度画像から圧縮率の高いリング状画像と、互いに類似する異種硬貨の特徴部分を捉えた圧縮率の低い特徴エリア画像とを分割し、このリング画像と別途設けられた一致照合用の基準画像とのうち何れか一方の画像を所定角度ずつ順次回転させ、所定回転角度毎に一致照合演算を行ない、これら1周回転分の複数の一致照合演算値のうちの最低値である最類似照合演算値に対応する画像の回転角値を当該画像硬貨の回転角値とすると共に、この最類似照合演算値が予め決められた値以下である場合にのみ、前記回転角値の誤差範囲に対応する前記特徴エリア画像データを貨種、表裏毎に定めた画像切出しテーブルのデータアドレスから抽出して一致照合演算を行ない、得られた一致照合演算値の何れかが、前記特徴エリア画像の予め決められた値以下であるか否かを判定して硬貨の識別を行なうようにした硬貨識別方法によって達成される。
【0009】
【作用】本発明は、圧縮率の大きいリング画像データを用いて先ず粗い回転ピッチで1回転分の一致照合演算を行ない貨種候補とその回転角範囲を探し、次に類似硬貨を識別する特徴部分を指定する圧縮率の小さい特徴エリア画像データを用いて部分的に更に詳細な一致照合を上記回転角範囲内で行なうようにしており、このようにしたことによって少ない演算量で効果的に類似硬貨の識別を行なうようにしている。
【0010】
【実施例】以下本発明の方法による処理例を図1のフローチャートに沿って詳細に説明する。先ず、搬送される硬貨は表又は裏を上面にしてイメージセンサを通過し、図2に示されるようにx−y座標上に33mm平方の面積(256×256画素)の高密度画像1となるよう入力され(ステップS1)、この入力画像データはAD変換により明るさを例えば256階調に分解して多値化され(ステップS2)、明るさをZ軸とする3次元データとしてフレームメモリに格納される(ステップS3)。格納された画像データからx,yの各方向でそれぞれ画像硬貨2の検出境界が最大と最小である座標値を探し、その平均値を当該画像硬貨の中心座標(xc,yc)とし(ステップS4)、また、上記最大と最小座標値の差を当該画像硬貨の直径Dとして抽出する(ステップS5)。得られた直径Dから貨種を特定し、予め準備してある各貨種別の表側と裏側の画像データから当該特定貨種データを一致照合用基準画像データとして選択する(ステップS6)。このときは、硬貨の表裏が判明していないので、表側と裏側の2個の基準画像データを選択する。
【0011】次に、表1に示されるような第1切出しテーブルを用い、リング画像を切出す。
【表1】


例えば直径Dから500円の硬貨を特定した場合、500円の第1リング画像に対応する切出しデータアドレスA1,A2,A2……A10000はフレームメモリの中央を原点とした相対番地を示している。従ってこのアドレスに示されている座標(XA1,YA1)…(XA10000,YA10000)に実際の画像硬貨の中心座標(Xc,Yc)を加えて取出すべきデータの実アドレスを得、図3(A)のようなリング画像3を切出す。リング画像3はx,y方向に配列された画素として切出され、これを図3(B)に示すようにr,θ方向に配列したデータ配列4とする。リング状のデータを適宜抽出することにより、長方形のデータ配列になる様、予め切出しテーブルが示すアドレスを決定しておく。この例ではr方向に20個、θ方向に500個(10000バイト)の画素が含まれる(ステップS7)。これらの画素は以下に行なう一致照合演算を簡略化するため、上記基準画像データと同じ圧縮率になるよう隣り合った所定数の画素をそれらの平均的明るさをもった1つの画素に圧縮することにより、r方向10個、θ方向に100個(1000バイト)が配列したデータとする(ステップS8)。更に圧縮後の画像データの平均値が基準画像データの平均値と等しくなるよう所要の係数を乗算し、正規化されたリング画像データNij(i:θ方向1〜100,j:r方向1〜10)を得る(ステップS9)。なお、表側と裏側用の2種類の正規化演算を一度の正規化演算とするために、表側と裏側用基準画像データの平均値は同じになるよう設定してある。切出し画像の起点10とその基準画像の天点11とは通常一致しない。
【0012】このようにして得たリング画像データを回転角カウンタK=1と設定し(ステップS10)、リング画像データNijについて表裏両方の基準画像データRFij及びRBijとの一致照合演算を行なう。演算方法は表側基準画像データと対応するアドレスのリング画像データとを比較してその差|RFijーNij|を求め、これを全域(i=1〜100,j=1〜10)に亘って加算し、回転角カウンタKの時の表側一致照合演算値AFとし、裏側に対しても同様に|RBijーNij|を加算して裏側一致照合演算値ABを得るもので、これらの値はメモリに格納される(ステップS11)。回転角カウンタKで上記演算を行なった後回転角カウンタK+1で順次演算を繰返す(ステップS12)。この例では各回転演算の回転ピッチは360/100度=3.6度であり、各回転ごとに画像データの配列は図4のように変化する。
【0013】回転演算で画像を一周(K>100)したか否かをチェックし(ステップS13)、一周しない場合はステップS12に戻って回転演算を継続する。一周した場合には一周回転分の一致照合演算値AF及びABのうち最小のものを抽出し(ステップS14)、その値が予め決めた基準値以下であるか否かをチェックして(ステップS15)、基準値以下であれば次のステップに進み。基準値を超える場合には当該硬貨はリジェクト貨と判定して終了する(ステップS16)。本来、画像硬貨の回転角値と回転演算の回転角度とが一致した場合にはAF或はABは0になる筈であるが、汚れた硬貨や粗いピッチで一致照合する場合には必ずしも0にならないので予め許容範囲を設けて上記基準値とする。ステップS15で最小の一致照合演算値AF又はABが基準値以下であった場合はこれを最類似照合演算値とし、その時の回転角度Kminを画像硬貨の回転角値とする(ステップS17)。
【0014】次いで、当該硬貨の特徴部分を特定する特徴エリアを表2に掲げる第2切出しテーブルを用いて図5に示すような例えば2000画素の特徴エリア画像5を切出す(ステップS18)。
【表2】


特徴エリア画像5は特徴を捉えるのに十分な面積のものとし、形状は任意であって良い。これまでのリング画像における処理で既に当該画像硬貨の貨種、表裏、回転角値が決定されている。先ず、貨種、表裏、回転角度/回転ピッチから求まる回転角カウンタ値mから第2切出し起点アドレスを特定する。例えば図6の場合では回転角値は313.2度、回転ピッチ1.2度なので(リング画像からは3.6度ピッチで回転角度を特定している)、回転角カウンタ値は313.2°/1.2°=261となり、許容誤差範囲内をm±3とし、よって当該硬貨の特徴エリアの許容誤差範囲内の回転角カウンタ値mは258,259,260,261,262,263,264である。また、図6は500円硬貨の裏面であるので、表2においてR500−258〜R500−264に示されるアドレスが必要な起点アドレスとなる。この起点アドレスR500−258はX,Y座標系で(XR500−258,YR500−258)を示し、相対座標で示されている。従って実アドレスを求める場合には、表1でリング画像の切出しデータアドレスを求めた場合と同様に実際の画像硬貨の中心座標(Xc,Yc)を加えて求める。フレームメモリ上の第2切出し起点実アドレスが求められた後、別に準備してある表1と同様に構成された切出しテーブルに基づき200×10画素の画像データをメモリ上に展開する。このようにして切出されたデータは、特徴エリア基準画像データと同じ圧縮率(1/2)になるよう隣り合った所定数(この場合2個)の画素をそれらの平均的明るさをもつ1つの画素に圧縮することにより、縦横10×100個(1000バイト)が配列したデータとする(ステップS19)。更に、圧縮後の画像データの平均値が基準画像データの平均値と等しくなるよう所要の係数を乗じ、正規化された特徴エリア画像データNij*(i=1〜100,j=1〜10)とする(ステップS20)。
【0015】得られたNij*と別途設けてある特徴エリア基準画像データのアドレスが対応するデータRij*との差|Rij*ーNij|をエリア全域に亘って加算し、特徴エリア画像の一致照合演算値Pとする(ステップS21)。この一致照合演算値Pが予め決められた基準値以下であるか否かをチェックし(ステップS22)、以下であれば当該硬貨は正貨と判定し(ステップS23)、基準値を超えるときはリジェクト貨と判定して(ステップS24)処理を終える。ここで特徴エリア画像5による一致照合演算時の回転角ピッチは1.2度であり、一方リング画像3から特定した当該画像硬貨2の回転角値は回転角ピッチが3.6度で特定されているので許容誤差範囲は±3.6度であり、従って特徴エリアデータに対して回転角カウンタ値は±3となるので、設定した回転角値の誤差範囲からは複数のP(この場合7個)が得られ、そのうちの何れかが基準値以下であればステップS23で正貨と判定される。
【0016】特徴エリア画像の形状は任意とすることができ、図7に示すような画像硬貨2の中央を示す円環6であってもよい。この場合は起点アドレス7は天点11の位置を示している。切出す画素数は別途設けた切出しテーブルのアドレスに従うが、このときの切出しデータ数によって、次に100×10個の配列に圧縮する時の圧縮比を任意に求めることができる。例えば図7の場合、8000画素のデータを切出し1/8圧縮を行って100×10の配列の圧縮データを得る。
【0017】
【発明の効果】以上に述べたように本発明の硬貨識別方法によれば、粗い密度のリング画像データを用いて一致照合演算を行なって画像硬貨の回転角値を近似的に定め、次に類似硬貨を区別する特徴エリア画像データを用いて上記回転角値の誤差範囲をより詳細に一致照合演算を行なうようにしたため、類似硬貨を含む場合にも大規模回路を用いることなく、短時間で確実に硬貨の識別ができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法による処理例を説明するためのフローチャートである。
【図2】フレームメモリに取込まれた硬貨画像を示す図である。
【図3】リング画像の切出し及びデータ配列を示す図である。
【図4】回転演算におけるデータ配列の変化を示す図である。
【図5】特徴エリア画像例を示す図である。
【図6】特徴エリア画像の回転カウンタ値と起点アドレスの関係を示す図である。
【図7】特徴エリア画像の他の例を示す図である。
【符号の説明】
1 高密度画像
2 画像硬貨
3 リング画像
4 データ配列
5 特徴エリア画像
6 円環
7 起点アドレス
10 起点
11 天点

【特許請求の範囲】
【請求項1】 識別すべき硬貨の表及び又は裏面の高密度画像から圧縮率の高いリング状画像と、互いに類似する異種硬貨の特徴部分を捉えた圧縮率の低い特徴エリア画像とを分割し、このリング画像と別途設けられた一致照合用の基準画像とのうち何れか一方の画像を所定角度ずつ順次回転させ、所定回転角度毎に一致照合演算を行ない、これら1周回転分の複数の一致照合演算値のうちの最低値である最類似照合演算値に対応する画像の回転角値を当該画像硬貨の回転角値とすると共に、この最類似照合演算値が予め決められた値以下である場合にのみ、前記回転角値の誤差範囲に対応する前記特徴エリア画像データを貨種、表裏毎に定めた画像切出しテーブルのデータアドレスから抽出して一致照合演算を行ない、得られた一致照合演算値の何れかが、前記特徴エリア画像の予め決められた値以下であるか否かを判定して硬貨の識別を行なうようにしたことを特徴とする硬貨識別方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平6−236471
【公開日】平成6年(1994)8月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−43217
【出願日】平成5年(1993)2月8日
【出願人】(000001432)グローリー工業株式会社 (1,344)