硬軟試験方法、硬軟試験装置、及び硬軟測定装置
【課題】相対的に柔らかな表層下部に存在する下層52(筋肉など)の硬軟を評価することを可能とする。
【解決手段】測定対象物50の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重Wと接触圧子の押込深さxを使用して測定対象物50の硬軟を評価する。予め設定した荷重設定W1での、押込深さxの変化Δxに対する押込荷重Wの変化ΔWの割合で表される傾きθの値によって硬軟を評価する。
【解決手段】測定対象物50の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重Wと接触圧子の押込深さxを使用して測定対象物50の硬軟を評価する。予め設定した荷重設定W1での、押込深さxの変化Δxに対する押込荷重Wの変化ΔWの割合で表される傾きθの値によって硬軟を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康管理や品質管理などの目的で、筋肉の疲労やコリの状況を評価したり、高分子材料や食品などの弾性、硬軟、柔らかさなどを評価したり、家畜や水産物等の生育、成育度、鮮度などを評価したりするために、測定対象物の硬軟を評価、測定する硬軟試験方法及び硬軟測定装置に関する技術分野である。特に、表層部とその下に存在する下層とを備え、表層部が下層よりも柔らかい測定対象物における、下層の硬軟評価に有効な硬軟試験方法及び硬軟測定装置に関する技術分野である。
【背景技術】
【0002】
少なくとも表層部側が粘弾性体からなる測定対象物の硬軟を測定するための、従来の硬軟測定装置としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されるものがある。
すなわち、接触圧子を軸方向に移動可能に支持すると共に、その接触圧子が軸方向にバネ部材によって付勢されて構成される。そして、その接触圧子の変位量や押込荷重によって硬度を測定して測定対象物表層の硬軟を評価している。
【0003】
例えば、一般に市販されているポータブルまたは簡易な筋硬度計は、接触圧子にバネ部材による与圧を掛け、測定対象物表面に押し付けた際における、接触圧子の変位や与圧の変化を数値化して測定するものであり、接触圧子が完全に加圧盤まで押込まれた場合を「数値100」とした指標で筋肉の弾性、筋肉の硬軟として評価している。
なお、押込荷重の大きさが一定でないと誤差が大きく再現性が劣るため、自重で荷重を掛けて計測する装置もある。
【特許文献1】特開2004−85548号公報
【特許文献2】特開2006−329935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、生体の筋肉の硬軟を測定する場合を想定すると、筋肉の上層(表層)には、脂肪層がある。この脂肪層が数mm以下の薄い場合には、上記従来のような硬軟測定装置であっても筋肉弾性の硬軟を測定して評価可能と思われる。しかし、脂肪層が厚い場合などにあっては深層の筋肉弾性の硬軟の測定は、難しいとされている。
すなわち、既存の筋硬度計(筋肉組織緊張度合い、筋肉の固さの度合い、弾性の大小の度合い、これらを定量化する計測機器)の原理は、一定の荷重で押込んだ圧子の変位量または変位に応じた荷重の大きさから判定しており、スポンジ、ゴムやプラスチックなど高分子材料の硬軟を測定するデュロメータ(JIS、ISOに準拠)と同じである。これらの計測では、測定試料の条件が表面平滑で相応の厚さと均質な組成を有するような条件下で、かつ表層から数ミリ下の下層の硬軟、柔らかさを捉える程度の機能しかない。この条件から外れた、人体のような皮膚を含む脂肪層の厚さや粘弾性の違いによる上層の影響を除去して、その下層にある筋肉組織の弾性の程度を捉えることは困難であることから、従来の装置で得られた数値の客観性が疑問とされるなど、解決すべき点が多い。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、相対的に柔らかな表層下部に存在する下層(筋肉など)の硬軟を評価することが可能な硬軟試験方法及び硬軟測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷される押込荷重と接触圧子の押込深さから測定対象物の硬軟を評価する硬軟試験方法であって、
予め設定した設定押込荷重となったときの、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きの値によって硬軟を評価することを特徴とするものである。
【0006】
次に、請求項2に記載した発明は、測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重と接触圧子の押込深さとに基づき、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きを求め、予め設定した設定傾きの値になったときの押込荷重の値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法である。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記測定対象物は、硬軟の異なる複数層から構成され、表層の下部に当該表層よりも弾性係数が大きな測定層を有し、その測定層の硬軟を評価することを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項4に記載した発明は、軸方向に進退可能に装置本体に支持されて測定対象物表面に先端部を接触可能な接触圧子と、上記装置本体に対する接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、上記相対変位検出手段及び荷重検出手段の検出信号に基づき、相対変位の変化に対する荷重の変化の割合で表される傾きを算出すると共に、予め設定された設定荷重となったときの上記傾きを算出する演算装置とを、備えることを特徴とする硬軟試験装置である。
【0008】
次に、請求項5に記載した発明は、測定対象物の表面に接触させる当接部及びその当接部に先端部を連結した棒状部からなる接触圧子と、上記接触圧子を中空部に配置して当該接触圧子を軸方向に案内する内筒体と、その内筒体外径面側に入れ子状に配置されて内筒体に対し上記軸方向へ進退可能に支持される外筒体と、上記内筒体と外筒体との間に介装されて上記軸方向に弾性力を発生して内筒体に対し外筒体が離れる方向へ相対的に付勢するバネ部材からなる位置決め手段と、上記外筒体の中空部内で上記棒状部の後端部に連結して接触圧子に負荷されている荷重を検出する荷重検出手段と、外筒体の中空部内でその荷重検出部を上記軸方向に移動可能に案内する荷重検出部案内手段と、上記荷重検出部と外筒体の底部との間に介在されて上記軸方向に弾性力を発生する第2バネ部材と、上記内筒体に対する上記軸方向への接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、備えることを特徴とする硬軟測定装置である。
次に、請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した構成に対し、上記外筒体の底部は、その外径面が外筒体の筒部内径面に対して螺合によって固定される円柱状のプラグ部材であって、外筒体の内径面に対する軸方向位置を調整可能となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記傾きと押込荷重との関係で硬軟を評価することで、相対的に柔らかな表層の下側にある測定層(筋肉など)の硬軟を、表層の弾性や当該表層の厚さの影響を抑えて、評価することが可能となる。
なお、例えば、対象とする測定対象物に応じて、実験その他によって押込荷重−押込深さの曲線を想定して、その曲線の傾きが立ち上がる位置に上記設定押込荷重を設定すればよい。
また、例えば設定押込荷重を低く設定すれば、若干精度は落ちるものの、表層の硬軟を評価することも出来る。
また、請求項5又は請求項6に記載する硬軟測定装置を使用することで、上記傾きと、それに対応する押込荷重を測定することを行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(硬軟測定装置)
図1は、本実施形態の硬軟試験方法に使用される、硬軟測定装置の一部透視図的に図示した断面図である。
硬軟測定装置は、接触圧子1と、その接触圧子1を軸方向Sに進退可能に案内する内筒体7と、その内筒体7の外周側に入れ子状に支持される外筒体12と、その内筒体7と外筒体12との間に介装される第1バネ部材16と、上記内筒体7に対する接触圧子1の軸方向Sへの変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子1に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、その荷重検出手段を接触圧子1側に付勢する第2バネ部材21と、を備える。
【0011】
上記接触圧子1は、測定対象物の表面に接触させる当接部2と、その当接部2に先端部を連結して当接部2と同軸に配置された棒状部3と、から構成される。
上記棒状部3は、断面円形の棒状体からなっている。ただし、本実施形態では、軸方向S中途部が小径となって、相対変位検出手段が外径方向にできるだけ張り出さないように設計している。すなわち、棒状部3は、先端部側から、第1棒状部4、その第1棒状部4よりも小径の第2棒状部5、及び第1棒状部4と同径の第3棒状部6を同軸に連結して構成される。図1では、第1棒状部4の後端部に対して第2棒状部5の先端部をネジ止めで固定し、同様に、第3棒状部6の先端部に対して第2棒状部5の後端部をネジ止めで固定することで一体となっている。
【0012】
そして、第1棒状部4の先端部に対し半円球の突起が一体的に形成され、その突起が上記当接部2を構成する。
上記内筒体7は、その中空部が、上記第1棒状部4及び第3棒状部6が摺動可能な径の内径面に形成されている。ただし、上記第2棒状部5と対向可能な部分は大径の中空部となっていて、その大径の中空部に相対変位検出手段を構成する、リニアゲージ11(変位計)が設置されている。このリニアゲージ11は、上記第2棒状部5の軸方向S変位を検出し、その検出信号を後述の演算装置30に出力する。上記内筒体7は、装置本体を構成する。
【0013】
ここで、本実施形態では、内筒体7は、軸方向Sに沿って3つの筒体、つまり先端部側から第1内筒体8、第2内筒体9、及び第3内筒体10の順に配置され、それぞれが螺合によって同軸に締結されている。そして、第2内筒体9の内径面の内径が、第1及び第3内筒体8,10の内径よりも大径に形成され、その第2内筒体9に対して、上述のように上記リニアゲージ11が固定されている。また、第1棒状部4が第1内筒体8に摺動自在に支持され、且つ第3棒状部6が第2内筒体9に摺動可能に支持されることで、棒状部3は、その軸方向S両端部が内筒体7の中空部に対し案内、つまり軸方向Sに進退可能な状態で案内させる。
【0014】
なお、第1内筒体8の先端部には外向きフランジ8aが形成されて、測定対象物の表面への接触面積を大きくして内筒体7先端部の面圧を下げている。
また、上記内筒体7の長さは、上記接触圧子1の長さよりも短い。つまり、内筒体7先端と接触圧子1の先端とが面一の状態では、接触圧子1の後端部側は、内筒体7の後端部から突出した状態となる。
また、上記第3内筒体10の後端部側は、内径面が大径となって、第1バネ部材16の座面10aを形成している。
【0015】
上記外筒体12は、先端部側から、第1外筒体13、及び第2外筒体14の2つの筒体から構成される。第1外筒体13は、先端部側の内径面が、第3内筒体10外径面に摺動可能な径に設定されることで、第3円筒体の外径面に対して入れ子状に摺動自在に嵌め込み可能となっている。また、その第1外筒体13内径面の後端部側には内向きに張り出す内向きフランジ13aが形成されている。上記内向きフランジ13aは、第3内筒体10の後端部と対向配置されるが、その先端部に形成される開口は、上記第3棒状部6を余裕を持って通過可能な大きさに設定されている。
【0016】
その第1外筒体13における上記内向きフランジ13aよりも後端部側に、第2外筒体14が同軸にネジ15によって締結されている。
そして、第1外筒体13の先端部側内径面に、第3内筒体10が軸方向Sに摺動可能に嵌め込まれることで、内筒体7と外筒体12とが軸方向Sへ進退可能に一部入れ子状となっている。また、第1外筒体13の先端部側内径面内に、コイルバネからなる第1バネ部材16が同軸に配置されている。第1バネ部材16は、一方の端部を第3円筒体の後端側に設けた座面10aに当接させ、他方の端部を上記第1外筒体13の内向きフランジ13aに当接させている。なお、第1バネ部材16は、位置決め手段を構成する。
【0017】
ここで、第1外筒体13の一部には、軸方向Sに延びる長穴状のスリット13bが形成され、そのスリット13b位置で、第3内筒体10にネジ17が取り付けられている。このネジ17は、スリット13bの端部に当接することで、第1外筒体13の抜け止めストッパとなって内筒体7に対する外筒体12の相対ストローク量を規制し、第1バネ部材16の初期状態でのバネ力を規制する。
【0018】
また、第1外筒体13の内向きフランジ13aよりも後端側内径面内にロードセル18が配置され、先端部側の面を上記第3棒状部6の後端部に連結している。ロードセル18は、荷重検出手段を構成する。
そのロードセル18はセル支持部材19に連結している。セル支持部材19は、短寸の円柱状部材であって、上記第2外筒体14の内径面に同軸に且つ軸方向Sに進退可能に配置されている。
【0019】
そのセル支持部材19は、上記内向きフランジ13aから突出した棒体20に軸方向Sに移動可能に案内されている。すなわち、内向きフランジ13aから外筒体12の軸と平行に棒体20が突出し、その棒体20は、セル支持部材19に開口した貫通穴を貫通している。棒体20及び上記貫通穴は、荷重検出部案内手段を構成する。
そのセル支持部材19の後端部側面には、第2バネ部材21の端部を着座させるための凹部19aが形成されている。
【0020】
また、上記第2外筒体14の後端部側内径面には、雌ねじが刻設されている。その雌ねじに螺合する雄ねじが形成されたプラグ部材22が螺合によって取り付けられている。このプラグ部材22によって外筒体12の後端部側が閉塞されている。
そのプラグ部材22にも、第2バネ部材21を着座させる凹部22aが形成されている。そして、第2外筒体14内に同軸に第2バネ部材21が配置され、一方の端部をセル支持部材19の凹部19aに着座させ、他方の端部をプラグ部材22の凹部22aに着座させている。この第2バネ部材21の弾性力によって、ロードセル18を介して接触圧子1に予圧が負荷される。
【0021】
上記ロードセル18及びリニアゲージ11が検出した各検出信号は、演算装置30に出力される。
演算装置30は、連続的に入力される検出信号に基づき、所定時間間隔毎(例えば、0.1秒毎)における、棒状部3の変位量つまり押込深さxと、そのときの押込荷重Wのデータを記憶部31に記憶する。また、表示部32にその結果を加工して表示する。
なお、演算装置30は、例えば、ロードセル18が検出した荷重が初期予圧よりも大きくなったときや、リニアゲージ11による相対変位量が発生したことを検知したら、計測開始点と判断する。
【0022】
そして、予め設定してある設定押込荷重W1と同じ荷重値に対し、その前回値の荷重値との差である単位時間当たりの荷重変化量ΔWと、上記設定押込荷重W1のときの押込深さxと、その前回値の押込深さxとの差である単位時間当たり変位変化量Δxとを求め、下記(1)式によって傾きθを算出する。
θ=tan−1(ΔW/Δx) [°] ・・・(1)
そして、求めた傾きθを表示部32に表示したり、印字したりする。
ここで、上記演算装置30は、演算した押込深さxと押込荷重Wとの関係を図2のように表示すると共に、押込荷重Wと押込深さxの時系列の変化についても表示する。
押込荷重Wの変化速度が早い場合には、測定誤差が大きくなる可能性があるので、警告を出力する。
ここで、例えば、上記予め設定してある設定押込荷重W1は、上記硬軟測定装置の最大荷重より若干小さな値に設定しておく。
【0023】
図3に、内筒に対し外筒を押し込んだときの状態を示す。図3は、接触圧子1の先端部を無負荷状態(測定対象物に非接触状態)の場合であって、内筒体7からの接触圧子1の突出量が最大の状態である。この状態から、接触圧子1を押し込んだときの状態を図4に示す。この状態では、例えば最大荷重33Nがロードセル18からの検出信号によって測定される。すなわち、この状態で接触圧子1に負荷される荷重が硬軟測定装置の最大荷重となる。
【0024】
また、この状態から、図5のように、プラグ部材22の螺合量を増やして、外筒体12の内径面に対する軸方向位置を調整すると、図5(a)のように初期荷重を増加出来ると共に、図5(b)のように、最大荷重を増加させることが可能となる。すなわち、プラグ部材22の螺合量を調整することで、測定対象物の硬軟に応じた、負荷荷重となるように調整することが出来る。
【0025】
(使用方法)
図6のように、測定対象物は、表面から所定深さまでが粘弾性体の特性を有する物体とし、人体のように、表面側から表層部とその下部の下層52とを有し、表層部よりも下層52の方が弾性力が大きいものとする。下層52は測定層となる。
まず、初期設定として、ネジ17の取付け位置で装置のストローク量(内筒体7に対する外筒体12のストローク量)を設定する。また、プラグ部材22の螺合量を調整することで、第2バネ部材21による初期荷重を調整する。
【0026】
そして、接触圧子1の先端部及び内筒体7の先端部、つまり硬軟測定装置の先端部を測定対象物50の表面に当て、続いて押込荷重Wの変化速度が所定値以下となるように気をつけながら、外筒体12を測定対象物50側に押していく。押すことによって、第1バネ部材16のバネ力に抗して、内筒体7に対する外筒体12の入れ子量(重なり)が増加する。すなわち、内筒体7の後端部側の端面が外筒体12に内向きフランジ13aに当接するまで、相対的に外筒体12が移動し、その動作によって、第2バネ部材21のバネ力によって、徐々に接触圧子1に負荷される押込荷重Wが増加すると共に、その増加に伴い、接触圧子1の先端部が、測定対象物50からの反力に抗して測定対象物50内に押し込まれる。図6に、測定対象物50の下層52の硬軟による、接触圧子1の押込み量の違いを示す模式図を示す。
【0027】
その押込荷重W及び押込深さxの検出信号が、ロードセル18及びリニアゲージ11から演算装置30に出力されて、演算装置30で所定時間間隔(例えば0.1秒間隔)毎に押込荷重W及び押込深さxを算出する。また、押込荷重Wの変化に対する押込深さxの変化の割合である傾きθも算出する、それらの算出値は、表示部32に表示されると共に、設定押込荷重W1となったときの傾きθが求められる。
なお、上記計測は、複数回行って、傾きθの平均値を取ることが好ましい。
そして、その傾きθの大きさによって、表層部の下にある下層52の硬軟を評価する。
【0028】
(測定原理)
ここで、本硬軟評価方法の測定原理について説明する。
本測定原理は、静的粘弾性測定法、つまり試料に一定歪み(応力)を与え、応力(歪み)変化を測定する方法を応用したもので、試料が固くなる(ストレスが大きい)と傾きθの角度が大きくなる性質を利用している。また傾きθが立ち上がる部分の傾きθに着目して、下層52の定量化を検討したものである。
【0029】
まず、図7(a)のような、それぞれ均一な材質で同一厚さの板状部材であって、弾性係数(硬軟)が異なる試料A〜Eを使用して、以下の考察を行った。
各試料A〜E単体の硬軟については、JISやISOに準拠した従来例のような硬軟測定装置によって、それぞれの硬軟を求めることが出来、その試料A〜Eの硬軟の序列を容易に得ることが出来る。
次に、図7(b)〜(d)のように、試料を複数の層となるように積層した場合を考える。なお、(b)は上層51と下層52の厚さが等しい2層構成で下層52が試料A〜Eで弾性が異なり、(c)は上層51が下層52よりも2倍厚い場合で、(d)は下層52が上層51よりも2倍厚い場合である。
【0030】
ここで本件発明で達成すべき目的は次の2点である。
1)上層51の弾性体の下部にある下層52の弾性体の変化が定量化でき、その序列も整理できる。
2)下層52の弾性体の大きさの違いと変化が定量化でき、これを絶対値として表せる。絶対値とは上層51の弾性体を除去し、直接に下層52の弾性体の大きさを定量化することであり、下層52の弾性そのものを測定したことと等しい結果を得る。すなわち、図7(a)のような、単体で測定した場合と同等な数値として得る。
【0031】
まず、 下層52の弾性体が1つに対して上層51の厚さを図7の(b)と(c)の2種類を考える。また、下層52の弾性係数は上層51の弾性体よりも大きいとする。
この場合における、押込荷重W−押込深さxの線図(W−x線図)は図8に示すようになる。そして、そのW−x線図の曲線は、上層51の厚さが薄い図7(b)の場合はY軸に近く、上層51が厚い図7(c)はY軸から離れる曲線となる。
【0032】
そして、上層51の条件は、設定押込荷重W1の値を適切に調整すれば、その設定押込荷重W1のライン40よりも下側の挙動(このライン40以下のW−x線図)で吸収してしまうので、θの判定には影響しないか影響が小さくなる。すなわち、下層52が同じ弾性体の場合には、押込深さxは異なるものの、傾きθは同じ値若しくはほぼ同じ値となる。なお、設定押込荷重W1は、傾きθが立ち上がっていると想定される範囲で設定すればよい。
【0033】
すなわち、設定押込荷重W1に対する押込深さxは、上層51の弾性体やその厚さに影響を受けるが、設定押込荷重W1の値を適切に調整すれば、設定押込荷重W1に対する傾きθで見れば、上層51の影響を抑えることが可能となる。
また、図7(b)の例において、下層52の弾性体が異なる場合には、同じ設定押込荷重W1における、傾きθは、下層52の弾性体が硬いほど大きくなる。
【0034】
このように、傾きθの大きさから、次の評価が可能になる。
なお、傾きθの範囲は、0°<θ≦90°となる。
1)θ→大:下層52の弾性体は硬い。
2)θ→小:下層52の弾性体は軟らかい。
3)θ=90°→対象物が完全な剛体。
4)θ≒0°→対象物が完全な軟体と想定される。
なお、従来のように、押込荷重Wが一定に近い設定で測定した場合には、押込荷重Wと押込深さxの最大値から、これらの変化を捉えることが出来ない。
【0035】
ここで、相対的に柔らかい上層51と硬い下層52とからなる測定対象物50に対して、押込荷重Wを負荷した場合に、当該押込荷重Wが小さいときには、その変形は、柔らかい上層51での変形が支配的となり、このときの傾きθは相対的に小さい。更に、押込荷重Wが増加するにつれて、全体としての変形は下層52の変形が支配的となり、傾きθが立上ってそのときの傾きθは相対的に大きくなる。
【0036】
従って、上記設定押込荷重W1を小さく設定すれば、上層51の硬軟に応じた傾きθを得ることができて上層51の硬軟を評価することが出来る。一方、設定押込荷重W1を高めに設定すれば、上述のように下層52の硬軟を評価することが出来る。
なお、対象とする測定対象物50によって上記設定押込荷重W1は異なるが、例えば、一度、押込荷重Wと押込深さxの対応を求めてみて、傾きθの立ち上りが大きくなっていると想定されるところに設定押込荷重W1を設定すればよい。対象とする下層52の弾性体の弾性力の値が推測できれば、その弾性体の弾性力から上記設定押込荷重W1を経験値などに基づいて設定すればよい。
【0037】
(効果)
(1) 以上のように、上層51の弾性力や厚さによる影響を抑えて、上層51よりも硬い粘弾性体からなる下層52の硬軟を、傾きθを指標として求めることが出来る。そして、この傾きθの大きさによって下層52の硬軟の序列が付けられ、つまり下層52の硬度の定量的な評価が可能となる。
従来、筋肉の疲労度や炎症によりその内圧が上昇することが分かっており、治療により疲労や炎症が収まり回復した場合には内圧が降下することも分かっている。その確認方法は、従来では細い針を直接患部に刺入していたが、一般の検診ではできなくなっている。可能なのはアスリートなどに限られ、病院で診察した後に本人の同意を得て実施されている。
【0038】
そこで、筋肉内圧の上昇や降下は筋肉の張り(緊張度=弾性)の大小と同じであり、弾性の大小に表れる筋肉の硬軟が測定でき、内圧の変化と硬軟の変化との相関性が得られれば、硬軟測定だけで診療計画が実施できれば飛躍的な診断技術と言われている。
すなわち、定量化はもちろん評価方法や測定方法は全く確立されていないのが現状である。これに対し、本発明を使用することで、この課題が解消する。
なお、内筒体7の先端部も測定対象物50表面に押し付けられるが、外向きフランジ8aによって、その圧は小さくなると共に、表層の変位で吸収されて、下層52の硬軟測定に影響はないか小さい。
(2)また、設定押込荷重W1を小さく設定すれば、上層51の硬軟も評価することが可能となる。
【0039】
(応用)
上記説明では、予め設定した設定押込荷重W1での傾きθで評価しているが、これは逆に見れば、所定の傾きθとなる押込荷重Wで評価したのと、同等の関係にある。すなわち、予め所定の傾きθを設定傾きθ1として設定しておき、その設定傾きθ1となる押込荷重Wの大きさで評価するようにしても構わない。
【実施例】
【0040】
[第1実施例]
上記実施形態で説明した硬軟測定装置及び硬軟評価方法を評価するために、人体の筋肉組織を計測してみた。
人体の試験部位として、僧帽筋(上部線維)、僧帽筋(中部線維)、上腕二頭筋、大腿直筋の4箇所を選定して実施した。選定理由は、僧帽筋は「肩こり」に代表されるところ、上腕二頭筋は「力こぶ」が容易に再現可能であること、大腿直筋は試験する際に硬軟測定装置を押し当てるのにあまり慣れを必要としないためである。なお、日頃運動をしている大学生を被験者としている。
ここで、この試験の初期設定値は以下のように設定した。
・設定押込荷重W1(30N)
・押込時間(7秒)
・接触圧子1の当接部2(外径φ40)
・押込ストローク(13mm)
・押込圧子寸法(SR4)
【0041】
(試験結果)
演算装置30で算出した値に基づき以下の検討を行った。
(1)押込深さx−押込荷重Wからの検討
最大押込荷重Wに対する、各部位の押込深さxを求めたところ図9に示す結果を得た。
また、各部位の押込荷重Wを求めたところ図10に示す結果を得た。この図9及び図10からは、対象部位の筋肉弾性の序列は同じ関係となっていて、以下のような序列となっている。
僧帽筋(上部線維) >僧帽筋(中部線維 )>大腿直筋 >上腕二頭筋
また、図9及び図10には、大腿直筋と上腕二頭筋に力を入れて筋肉を硬くした場合の測定結果も併記した。同図から分かるように、「力有り」では弾性(緊張度)は大きくなり、その比較は次にようになる。
大腿直筋(力有り) >上腕二頭筋(力有り)
【0042】
(2)傾きθからの検討
押込荷重Wの変化ΔWと押込深さxの変化Δxとの関係から、任意の(ΔW/Δx)を与えた各対象部位の傾きθの角度を求めた。その結果を図11に示し、これを図10との対比が分かり易いように整理したものが図12である。
横軸の「1から5」及び「5から7」は荷重の範囲設定番号を表している。
設定方法は押込最大荷重Wに対するΔWを与える割合として、例えば次のように設定した。
番号1: 0.2〜0.5
番号2: 0.3〜0.6
番号3: 0.4〜0.7
番号4: 0.5〜0.8
番号5: 0.6〜0.9
番号6: 0.7〜0.9
番号7: 0.8〜0.9
【0043】
番号5〜7は、装置の押込終了に近い辺りの番号5を2分割した6と7である。すなわち、最大押込荷重Wが与えられる辺りを分割して、皮膚や脂肪層下部の筋肉弾性を捉えられるのではないかと考え、これがW−x線図の傾きθの角度の大きさに変化が見られると予測したためである。番号1から番号7に示すΔWの割合は一例を示したもので、対象部位の小さな硬軟の変化を捉えるためΔWの番号はW−x線図の最大荷重Wの1.0まで任意に設定可能としている。
【0044】
図12から分かるように、傾きθで評価すると、例えば荷重範囲番号5の傾きθの角度の大小を比較すれば、押込荷重Wの大小でみた図10中の筋肉の部位2と5の僧帽筋(中部線維)と大腿直筋が入れ替わり、次のような序列である。
僧帽筋(上部線維)>大腿直筋>僧帽筋(中部線維)>上腕二頭筋
また、「力有り」でも、押込荷重Wの大小でみた図10中の筋肉の部位4と6が入れ替わり、以下の関係にある。
上腕二頭筋(力有り)>大腿直筋(力有り)
このように、傾きθで評価すると、押込荷重Wによる序列とは異なる序列の部位が存在している。すなわち、押込荷重Wによる評価と、傾きθでの評価とは一致しない部分がある。
なお、上述のように押込深さxによる評価と、押込荷重Wによる評価とは同じ序列となっている。
【0045】
(3)W−x線図の形から検討
図11と図12からは、押込初期から終了までの各部位の序列は変わっていないため、W−x線図の傾きθは各部位により異なっていると見られる。
ここに、各部位のW−x線図の代表例を図13及び図14に示す。押込荷重Wによる評価である図10では、僧帽筋(中部線維)が大腿直筋(力無し)より大きいが、図12の傾きθの角度での評価では逆転しており、図13から、押込荷重10Nから最大値までの傾きは大腿直筋(力無し)が大きくなっていることが分かる。従って、この逆転現象に注目する必要がある。
【0046】
次に、「力有り」の上腕二頭筋(力有り)と大腿直筋(力有り)との区別は、図14のように、押込荷重10Nから最大値までの傾きが異なり、傾きθから求めた序列になる判断は可能である。単に押込荷重や押込深さのみで硬軟を評価する方法は正しく判断出来ないため、このW−x線図を用いる測定は効果的な方法である。この点も注目すべき点がある。
【0047】
[第2実施例]
そこで、更に詳しく検証すべく、人体の筋肉部位を弾性体と見立てた固さ(緊張)程度を試作品により計測した結果から、先に示した注目すべき点の要因やどちらの評価が正しく対象部位の弾性を捉えているのか検討してみた。
ここで、不確定要素が多い人体部位では測定や解析が複雑になるため、皮膚や脂肪層の下部にある筋肉層の弾性変化を定量化する基本的な試験を行う必要から、以下では試料をスポンジ弾性体に置き換えて、これらの点を検証してみた。
【0048】
(1)試料
人体の筋肉組織は上層51に皮膚や脂肪及び血管からなる層が有り、その下に筋肉組織が有り、筋肉組織の緊張度は上層51にも影響があると思われるが、簡便化して、図15のような脂肪層の厚さを変えたモデルを想定した。皮膚や脂肪層は軟質スポンジ、下層52の筋肉は硬質スポンジ、骨部はアルミ板の金属板とした試料を作成する。
スポンジの硬度特性を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この表1で、C型硬度(度)は、デュロメータTypeC硬度計により測定された値(カタログ値)で、C型は日本ゴム協会規格(SRIS 0101)である。
また、各スポンジの寸法は、幅100mm×長さ50mm×厚さ5mmの板部材とする。このスポンジから図15のモデルから図16に示す4種類の試験試料の組合せを検討した。
【0051】
組合せは次の通りである。
(a)1層(t):厚さ5mmで、試料A〜Eの5種類
(b)2層(t×t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm
(c)2層(2t×t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm×2/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm
(d)2層(t×2t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm×2
【0052】
(2)試験方法
上記と同じ方法及び解析を実施した。
まず、既存の硬度計を使用した2例の場合の例を比較のために示す。
(3)デュロメータによる試験(比較のための試験)
(ア)試験方法
この試験方法は、JIS K 6253 加硫ゴムの硬軟試験方法に準拠した市販品である。その仕様を以下に示す。
・デュロメータTypeE硬度計使用
・ミツトヨ社製ハードマチックHH−300
・準拠規格JIS K 6253 加硫ゴムの硬軟試験方法
(イ)試験結果
試験は、図16に示す4種について行った。
図17にその結果を示す。図中、斜めに傾斜した線が図16(a)の試料A〜Eの硬度値である。その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
この表2の「測定値[度]」表示の説明は次の内容である。
・E :デュロメータE型
・数字:硬度の大きさ(単位:度)、測定値の中央値
・±数字:中央値に対するバラツキ
・数字:加圧面押し付け測定時間(単位:秒)
表2の硬度値は試料A〜Eのスポンジ硬軟(表1のメーカー測定値)に近似する結果である。この値は試料質感の表面からの値である。図17(a)は試料Aを上層51として下層52に試料A〜E(表2の硬度値を示す)に変えた硬度値である。同様に(b)と(c)からも、試料A−A−Aの組合せだけが僅かに小さくなるが、その他は判別が困難である。すなわち、上層51試料Aの上から下層52の硬軟変化を捉えることはできない。
すなわち、この従来の試験では、次のようなことが言える。
・下層52試料は上層51試料の層の硬軟質感に支配される。
・下層52試料は上層51試料の厚さの影響を受けた硬軟質感になる。
・下層52試料の硬軟の評価が困難である。
【0055】
(4)筋硬度計NEUTONEによる試験(比較のための試験)
(ア)試験方法
この試験方法は、筋硬度計として市販されている製品を用いてデュロメータTypeE硬度計と同じ試料を用いてその得失を検討するために実施した。その仕様を以下に示す。
・NEUTONE TDM−N1硬度計を使用
・有限会社トライオール社製
(イ)試験結果
試験は、図16の4種について行った。その結果を、図18に示す。図中、斜めに傾斜する線が図16(a)の試料A〜Eの硬度値である。その結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
ここで、表3の「測定値[N硬度]」表示の説明は次の内容である。
・N : NEUTONE TDM−NIのN
・数字:指示値の読み、測定値の中央値
・±数字: 中央値に対するバラツキ
1層のN硬度値は表3の結果となった。試料A〜Eのスポンジ硬度は、表1のメーカー測定値とは異なるが、硬軟の序列は表2と同じである。図17と図18の2層の傾向は全く同じであり、試料A−A−Aの組合せだけが僅かに小さくなるが、その他は判別が困難である。すなわち、上層51試料Aの上から下層52の硬軟変化を捉えることはできない。
【0058】
(5)押込深さxと押込荷重Wとの関係について
(ア)試験方法
上記実施形態で説明した硬軟測定装置を使用して、各種の試料で押込深さxと押込荷重Wとを測定した。
その押込荷重Wと試料との組合せの関係を図19に示す。
なお、図16(b)のようにt10mm(2枚重ね)とした試料を標準とした。試料A−A〜E−Eが図17と図18の試料A〜Eに対応する。
(イ)試験結果
試料A−A〜E−Eの両者の関係から、上記実施形態で説明した硬軟測定装置の機構が正常に機能していたことが分かる。
【0059】
また、図19についてデュロメータ及び筋硬度計の場合と対比して観れば、硬軟の序列は、先の2種と全く同じであり筋硬度計での測定と酷似している。
次に、図19(a)の試料A−A〜A−Eから分かるように、図17(a)と及び図18(a)と比較して、試料A−A〜A−Eの序列が判別できるようになり、他の2種には備わっていない機能が確認できた。
【0060】
同じく、図19(b)と(c)についても比較すると、(c)は(a)と同じく序列が判別でき、標準とした序列と大きさをそのまま下方に移した結果になっている。これも他にはない機能である。
図19(b)では、上層51の厚さの影響によって下層52の変化を少し捉え難くなっているが、試料の序列は表れており、硬軟測定装置の機能が、上記従来例の種に比べ有効性、有用性の点で高い機能性があることが分かる。
【0061】
(6)傾きθと硬軟
(ア)試験方法
次に、上述に示したΔWの変化の割合による範囲と同じものを使用し、番号1から番号7で整理してみた。そして、W−x線図の形から検討も行い、傾きθの角度と下層52試料の硬軟との相関性について解析してみた。
ここでは、図17、図18及び図19における、2層組合せた下層52試料の硬軟序列が判別可能な方法について検討した。
【0062】
(イ)試験結果
図19の(a)、(b)と(c)に対応する傾きθの角度で整理すると、図20に示す結果を得る。
図20(a)から試料A−AはA−BとA−Cとの違いが分かるが、試料A−BとA−Cとの違いは小さく同程度と考えられ、図19(a)の序列と一致している。つまり、押込荷重Wの大小は傾きθの角度の大小と一致することが分かる。この考え方は、図20(c)と図19(c)でも同じ傾向になっているため、傾きθから下層52の硬軟判別は可能であることが分かる。
【0063】
このように、押込荷重Wで判別や序列が分かれば、傾きθからの判定は追確認として有用である。また、押込荷重Wで序列や硬軟の違いが判別可能な試料においては、傾きθの序列も押込初期から終了まで変わらない点は新たな発見である。
また、図19(b)の序列は大まかに捉えているが、その判定に有用な資料が有れば序列の断定が可能になる。図20(b)において番号5〜7の序列は図19(b)の序列を明確に表しており、その判別に有効であることが分かる。そして、押込荷重Wでは下層52の硬軟序列の判定が曖昧または難しい場合であっても、この傾きθによって評価した方がより精確に評価出来ることが分かる。
【0064】
(7)以上のことをまとめると次のようになる。
(ア)工業用硬度計として、スポンジやゴムの硬軟試験のデュロメータの結果である図17と筋硬度計NEUTONEで市販されている結果の図18における押込荷重Wによる方法では同図(a)、(b)と(c)の2層構成(上層51が下層52より軟らかい質感)では、試料1層と比べ下層52の硬軟の大きさや序列は困難または全く捉えられない。もっとも、上層51の厚さが薄い数mm以下では可能のようである。
【0065】
(イ)また、上述のような既存の2種と比べ、本件発明に基づく硬軟測定装置を使用すると、図19から分かるように、図19(a)と(c)のような形態であれば、押込荷重Wだけでも下層52の硬軟変化を捉えられることが分かる。
(ウ)また、図19(b)の場合には、押込荷重Wによる序列の判別が難しいが、傾きθで評価すると、図20にように、下層52の硬軟変化を捉えられることが分かる。
このように、本実施形態の硬軟試験を使用すると、上層51に比較的軟らかな厚い層が存在しても傾きθの角度から、従来判別が不可能であった上層51下部の下層52の硬軟を定量的に評価することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
ここで、本発明に基づく硬軟試験方法は、例えば下記のような分野で使用可能と思われる。
・医療福祉:リハビリ、手技療法、理学療法、成形外科
・競技スポーツ:スポーツドクター、トレーナー
・一般家庭:健康管理、疲労、コリ、料理など
・工業製品:高分子材料、品質管理など
・食品加工:弾性、硬軟、柔らかさ、品質管理など
・農 業:野菜、果物、穀物、生育、品質管理など
・畜 産:家畜の成育、品質管理など
・林 業:樹木、生育など
・水産業:成育、鮮度、品質管理など
・土木・建設業:土圧、老朽化、施工管理、水分・湿度吸収率、検査など
【0067】
その適用例の一例を挙げれば次のようなものがある。
1)筋肉組織の緊張度測定(張りの具合)、診断時の治療前や治療後の回復程度を定量化する。筋肉は脂肪を介して存在するため脂肪層の厚さを取り除いた筋肉の硬軟を定量化する必要がある。
2)僧帽筋の緊張度(一般に言われている肩こり)と精神的なストレスによる因果関係とを定量化する。
3)肩こり時の値とこれが回復したときの値との違いを定量化する。最終目標として、指圧療法士が指先で感じるこりの大小が定量化できる性能に作り込む。
【0068】
4)スポーツトレーナーやスポーツドクターが選手の筋肉の張りを測定することで、身体的な健康管理や回復力を定量化し、メンタル面を含めた総合評価に利用可能である。
5)理学療法士においては、リハビリの成果を数値化して患者への励みや治療の効果について、患者や療法士の主観的な判断ではなく客観的な判断に利用できる。
6)押込み条件や小型化により、肌の張り(弾性)が測定でき肌年齢や化粧水により肌の回復力にも利用できる。化粧品会社や店頭ブースで使ってもらうことによる装置の効果も期待できる。
7)その他、多くの産業分野では粘弾性に近い対象物の弾性、粘性、硬軟を定量化したり品質管理したりする計測が行われており、これらの分野にも応用や適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図2】表示例を示す図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図6】下層の硬軟が異なる測定対象物について、押し込んだときの違いを示す模式図である。
【図7】試料を示す図である。
【図8】測定原理を説明するW−x線図である。
【図9】押込深さでの評価を示す図である。
【図10】押込荷重での評価を示す図である。
【図11】傾きでの評価を示す図である。
【図12】傾きでの評価を示す図である。
【図13】筋肉の各部位におけるW−x線図を示す図である。
【図14】力を入れた筋肉の各部位におけるW−x線図を示す図である。
【図15】人体でのモデルを示す図である。
【図16】人体モデルでの試料を示す図である。
【図17】デュロメータによる試験結果を示す図である。
【図18】従来の筋硬度計での試験結果を示す図である。
【図19】本実施形態の硬軟測定装置を使用した押込荷重の試験結果を示す図である。
【図20】傾き角度での試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 接触圧子
2 当接部
3 棒状部
7 内筒体
12 外筒体
16 第1バネ部材
18 ロードセル
21 第2バネ部材
30 演算装置
50 測定対象物
51 上層
52 下層(測定層)
W 押込荷重
W1 設定押込荷重
θ 傾き
θ1 設定傾き
ΔW 荷重変化量
Δx 変位変化量
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康管理や品質管理などの目的で、筋肉の疲労やコリの状況を評価したり、高分子材料や食品などの弾性、硬軟、柔らかさなどを評価したり、家畜や水産物等の生育、成育度、鮮度などを評価したりするために、測定対象物の硬軟を評価、測定する硬軟試験方法及び硬軟測定装置に関する技術分野である。特に、表層部とその下に存在する下層とを備え、表層部が下層よりも柔らかい測定対象物における、下層の硬軟評価に有効な硬軟試験方法及び硬軟測定装置に関する技術分野である。
【背景技術】
【0002】
少なくとも表層部側が粘弾性体からなる測定対象物の硬軟を測定するための、従来の硬軟測定装置としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されるものがある。
すなわち、接触圧子を軸方向に移動可能に支持すると共に、その接触圧子が軸方向にバネ部材によって付勢されて構成される。そして、その接触圧子の変位量や押込荷重によって硬度を測定して測定対象物表層の硬軟を評価している。
【0003】
例えば、一般に市販されているポータブルまたは簡易な筋硬度計は、接触圧子にバネ部材による与圧を掛け、測定対象物表面に押し付けた際における、接触圧子の変位や与圧の変化を数値化して測定するものであり、接触圧子が完全に加圧盤まで押込まれた場合を「数値100」とした指標で筋肉の弾性、筋肉の硬軟として評価している。
なお、押込荷重の大きさが一定でないと誤差が大きく再現性が劣るため、自重で荷重を掛けて計測する装置もある。
【特許文献1】特開2004−85548号公報
【特許文献2】特開2006−329935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、生体の筋肉の硬軟を測定する場合を想定すると、筋肉の上層(表層)には、脂肪層がある。この脂肪層が数mm以下の薄い場合には、上記従来のような硬軟測定装置であっても筋肉弾性の硬軟を測定して評価可能と思われる。しかし、脂肪層が厚い場合などにあっては深層の筋肉弾性の硬軟の測定は、難しいとされている。
すなわち、既存の筋硬度計(筋肉組織緊張度合い、筋肉の固さの度合い、弾性の大小の度合い、これらを定量化する計測機器)の原理は、一定の荷重で押込んだ圧子の変位量または変位に応じた荷重の大きさから判定しており、スポンジ、ゴムやプラスチックなど高分子材料の硬軟を測定するデュロメータ(JIS、ISOに準拠)と同じである。これらの計測では、測定試料の条件が表面平滑で相応の厚さと均質な組成を有するような条件下で、かつ表層から数ミリ下の下層の硬軟、柔らかさを捉える程度の機能しかない。この条件から外れた、人体のような皮膚を含む脂肪層の厚さや粘弾性の違いによる上層の影響を除去して、その下層にある筋肉組織の弾性の程度を捉えることは困難であることから、従来の装置で得られた数値の客観性が疑問とされるなど、解決すべき点が多い。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、相対的に柔らかな表層下部に存在する下層(筋肉など)の硬軟を評価することが可能な硬軟試験方法及び硬軟測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷される押込荷重と接触圧子の押込深さから測定対象物の硬軟を評価する硬軟試験方法であって、
予め設定した設定押込荷重となったときの、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きの値によって硬軟を評価することを特徴とするものである。
【0006】
次に、請求項2に記載した発明は、測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重と接触圧子の押込深さとに基づき、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きを求め、予め設定した設定傾きの値になったときの押込荷重の値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法である。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記測定対象物は、硬軟の異なる複数層から構成され、表層の下部に当該表層よりも弾性係数が大きな測定層を有し、その測定層の硬軟を評価することを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項4に記載した発明は、軸方向に進退可能に装置本体に支持されて測定対象物表面に先端部を接触可能な接触圧子と、上記装置本体に対する接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、上記相対変位検出手段及び荷重検出手段の検出信号に基づき、相対変位の変化に対する荷重の変化の割合で表される傾きを算出すると共に、予め設定された設定荷重となったときの上記傾きを算出する演算装置とを、備えることを特徴とする硬軟試験装置である。
【0008】
次に、請求項5に記載した発明は、測定対象物の表面に接触させる当接部及びその当接部に先端部を連結した棒状部からなる接触圧子と、上記接触圧子を中空部に配置して当該接触圧子を軸方向に案内する内筒体と、その内筒体外径面側に入れ子状に配置されて内筒体に対し上記軸方向へ進退可能に支持される外筒体と、上記内筒体と外筒体との間に介装されて上記軸方向に弾性力を発生して内筒体に対し外筒体が離れる方向へ相対的に付勢するバネ部材からなる位置決め手段と、上記外筒体の中空部内で上記棒状部の後端部に連結して接触圧子に負荷されている荷重を検出する荷重検出手段と、外筒体の中空部内でその荷重検出部を上記軸方向に移動可能に案内する荷重検出部案内手段と、上記荷重検出部と外筒体の底部との間に介在されて上記軸方向に弾性力を発生する第2バネ部材と、上記内筒体に対する上記軸方向への接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、備えることを特徴とする硬軟測定装置である。
次に、請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した構成に対し、上記外筒体の底部は、その外径面が外筒体の筒部内径面に対して螺合によって固定される円柱状のプラグ部材であって、外筒体の内径面に対する軸方向位置を調整可能となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記傾きと押込荷重との関係で硬軟を評価することで、相対的に柔らかな表層の下側にある測定層(筋肉など)の硬軟を、表層の弾性や当該表層の厚さの影響を抑えて、評価することが可能となる。
なお、例えば、対象とする測定対象物に応じて、実験その他によって押込荷重−押込深さの曲線を想定して、その曲線の傾きが立ち上がる位置に上記設定押込荷重を設定すればよい。
また、例えば設定押込荷重を低く設定すれば、若干精度は落ちるものの、表層の硬軟を評価することも出来る。
また、請求項5又は請求項6に記載する硬軟測定装置を使用することで、上記傾きと、それに対応する押込荷重を測定することを行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(硬軟測定装置)
図1は、本実施形態の硬軟試験方法に使用される、硬軟測定装置の一部透視図的に図示した断面図である。
硬軟測定装置は、接触圧子1と、その接触圧子1を軸方向Sに進退可能に案内する内筒体7と、その内筒体7の外周側に入れ子状に支持される外筒体12と、その内筒体7と外筒体12との間に介装される第1バネ部材16と、上記内筒体7に対する接触圧子1の軸方向Sへの変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子1に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、その荷重検出手段を接触圧子1側に付勢する第2バネ部材21と、を備える。
【0011】
上記接触圧子1は、測定対象物の表面に接触させる当接部2と、その当接部2に先端部を連結して当接部2と同軸に配置された棒状部3と、から構成される。
上記棒状部3は、断面円形の棒状体からなっている。ただし、本実施形態では、軸方向S中途部が小径となって、相対変位検出手段が外径方向にできるだけ張り出さないように設計している。すなわち、棒状部3は、先端部側から、第1棒状部4、その第1棒状部4よりも小径の第2棒状部5、及び第1棒状部4と同径の第3棒状部6を同軸に連結して構成される。図1では、第1棒状部4の後端部に対して第2棒状部5の先端部をネジ止めで固定し、同様に、第3棒状部6の先端部に対して第2棒状部5の後端部をネジ止めで固定することで一体となっている。
【0012】
そして、第1棒状部4の先端部に対し半円球の突起が一体的に形成され、その突起が上記当接部2を構成する。
上記内筒体7は、その中空部が、上記第1棒状部4及び第3棒状部6が摺動可能な径の内径面に形成されている。ただし、上記第2棒状部5と対向可能な部分は大径の中空部となっていて、その大径の中空部に相対変位検出手段を構成する、リニアゲージ11(変位計)が設置されている。このリニアゲージ11は、上記第2棒状部5の軸方向S変位を検出し、その検出信号を後述の演算装置30に出力する。上記内筒体7は、装置本体を構成する。
【0013】
ここで、本実施形態では、内筒体7は、軸方向Sに沿って3つの筒体、つまり先端部側から第1内筒体8、第2内筒体9、及び第3内筒体10の順に配置され、それぞれが螺合によって同軸に締結されている。そして、第2内筒体9の内径面の内径が、第1及び第3内筒体8,10の内径よりも大径に形成され、その第2内筒体9に対して、上述のように上記リニアゲージ11が固定されている。また、第1棒状部4が第1内筒体8に摺動自在に支持され、且つ第3棒状部6が第2内筒体9に摺動可能に支持されることで、棒状部3は、その軸方向S両端部が内筒体7の中空部に対し案内、つまり軸方向Sに進退可能な状態で案内させる。
【0014】
なお、第1内筒体8の先端部には外向きフランジ8aが形成されて、測定対象物の表面への接触面積を大きくして内筒体7先端部の面圧を下げている。
また、上記内筒体7の長さは、上記接触圧子1の長さよりも短い。つまり、内筒体7先端と接触圧子1の先端とが面一の状態では、接触圧子1の後端部側は、内筒体7の後端部から突出した状態となる。
また、上記第3内筒体10の後端部側は、内径面が大径となって、第1バネ部材16の座面10aを形成している。
【0015】
上記外筒体12は、先端部側から、第1外筒体13、及び第2外筒体14の2つの筒体から構成される。第1外筒体13は、先端部側の内径面が、第3内筒体10外径面に摺動可能な径に設定されることで、第3円筒体の外径面に対して入れ子状に摺動自在に嵌め込み可能となっている。また、その第1外筒体13内径面の後端部側には内向きに張り出す内向きフランジ13aが形成されている。上記内向きフランジ13aは、第3内筒体10の後端部と対向配置されるが、その先端部に形成される開口は、上記第3棒状部6を余裕を持って通過可能な大きさに設定されている。
【0016】
その第1外筒体13における上記内向きフランジ13aよりも後端部側に、第2外筒体14が同軸にネジ15によって締結されている。
そして、第1外筒体13の先端部側内径面に、第3内筒体10が軸方向Sに摺動可能に嵌め込まれることで、内筒体7と外筒体12とが軸方向Sへ進退可能に一部入れ子状となっている。また、第1外筒体13の先端部側内径面内に、コイルバネからなる第1バネ部材16が同軸に配置されている。第1バネ部材16は、一方の端部を第3円筒体の後端側に設けた座面10aに当接させ、他方の端部を上記第1外筒体13の内向きフランジ13aに当接させている。なお、第1バネ部材16は、位置決め手段を構成する。
【0017】
ここで、第1外筒体13の一部には、軸方向Sに延びる長穴状のスリット13bが形成され、そのスリット13b位置で、第3内筒体10にネジ17が取り付けられている。このネジ17は、スリット13bの端部に当接することで、第1外筒体13の抜け止めストッパとなって内筒体7に対する外筒体12の相対ストローク量を規制し、第1バネ部材16の初期状態でのバネ力を規制する。
【0018】
また、第1外筒体13の内向きフランジ13aよりも後端側内径面内にロードセル18が配置され、先端部側の面を上記第3棒状部6の後端部に連結している。ロードセル18は、荷重検出手段を構成する。
そのロードセル18はセル支持部材19に連結している。セル支持部材19は、短寸の円柱状部材であって、上記第2外筒体14の内径面に同軸に且つ軸方向Sに進退可能に配置されている。
【0019】
そのセル支持部材19は、上記内向きフランジ13aから突出した棒体20に軸方向Sに移動可能に案内されている。すなわち、内向きフランジ13aから外筒体12の軸と平行に棒体20が突出し、その棒体20は、セル支持部材19に開口した貫通穴を貫通している。棒体20及び上記貫通穴は、荷重検出部案内手段を構成する。
そのセル支持部材19の後端部側面には、第2バネ部材21の端部を着座させるための凹部19aが形成されている。
【0020】
また、上記第2外筒体14の後端部側内径面には、雌ねじが刻設されている。その雌ねじに螺合する雄ねじが形成されたプラグ部材22が螺合によって取り付けられている。このプラグ部材22によって外筒体12の後端部側が閉塞されている。
そのプラグ部材22にも、第2バネ部材21を着座させる凹部22aが形成されている。そして、第2外筒体14内に同軸に第2バネ部材21が配置され、一方の端部をセル支持部材19の凹部19aに着座させ、他方の端部をプラグ部材22の凹部22aに着座させている。この第2バネ部材21の弾性力によって、ロードセル18を介して接触圧子1に予圧が負荷される。
【0021】
上記ロードセル18及びリニアゲージ11が検出した各検出信号は、演算装置30に出力される。
演算装置30は、連続的に入力される検出信号に基づき、所定時間間隔毎(例えば、0.1秒毎)における、棒状部3の変位量つまり押込深さxと、そのときの押込荷重Wのデータを記憶部31に記憶する。また、表示部32にその結果を加工して表示する。
なお、演算装置30は、例えば、ロードセル18が検出した荷重が初期予圧よりも大きくなったときや、リニアゲージ11による相対変位量が発生したことを検知したら、計測開始点と判断する。
【0022】
そして、予め設定してある設定押込荷重W1と同じ荷重値に対し、その前回値の荷重値との差である単位時間当たりの荷重変化量ΔWと、上記設定押込荷重W1のときの押込深さxと、その前回値の押込深さxとの差である単位時間当たり変位変化量Δxとを求め、下記(1)式によって傾きθを算出する。
θ=tan−1(ΔW/Δx) [°] ・・・(1)
そして、求めた傾きθを表示部32に表示したり、印字したりする。
ここで、上記演算装置30は、演算した押込深さxと押込荷重Wとの関係を図2のように表示すると共に、押込荷重Wと押込深さxの時系列の変化についても表示する。
押込荷重Wの変化速度が早い場合には、測定誤差が大きくなる可能性があるので、警告を出力する。
ここで、例えば、上記予め設定してある設定押込荷重W1は、上記硬軟測定装置の最大荷重より若干小さな値に設定しておく。
【0023】
図3に、内筒に対し外筒を押し込んだときの状態を示す。図3は、接触圧子1の先端部を無負荷状態(測定対象物に非接触状態)の場合であって、内筒体7からの接触圧子1の突出量が最大の状態である。この状態から、接触圧子1を押し込んだときの状態を図4に示す。この状態では、例えば最大荷重33Nがロードセル18からの検出信号によって測定される。すなわち、この状態で接触圧子1に負荷される荷重が硬軟測定装置の最大荷重となる。
【0024】
また、この状態から、図5のように、プラグ部材22の螺合量を増やして、外筒体12の内径面に対する軸方向位置を調整すると、図5(a)のように初期荷重を増加出来ると共に、図5(b)のように、最大荷重を増加させることが可能となる。すなわち、プラグ部材22の螺合量を調整することで、測定対象物の硬軟に応じた、負荷荷重となるように調整することが出来る。
【0025】
(使用方法)
図6のように、測定対象物は、表面から所定深さまでが粘弾性体の特性を有する物体とし、人体のように、表面側から表層部とその下部の下層52とを有し、表層部よりも下層52の方が弾性力が大きいものとする。下層52は測定層となる。
まず、初期設定として、ネジ17の取付け位置で装置のストローク量(内筒体7に対する外筒体12のストローク量)を設定する。また、プラグ部材22の螺合量を調整することで、第2バネ部材21による初期荷重を調整する。
【0026】
そして、接触圧子1の先端部及び内筒体7の先端部、つまり硬軟測定装置の先端部を測定対象物50の表面に当て、続いて押込荷重Wの変化速度が所定値以下となるように気をつけながら、外筒体12を測定対象物50側に押していく。押すことによって、第1バネ部材16のバネ力に抗して、内筒体7に対する外筒体12の入れ子量(重なり)が増加する。すなわち、内筒体7の後端部側の端面が外筒体12に内向きフランジ13aに当接するまで、相対的に外筒体12が移動し、その動作によって、第2バネ部材21のバネ力によって、徐々に接触圧子1に負荷される押込荷重Wが増加すると共に、その増加に伴い、接触圧子1の先端部が、測定対象物50からの反力に抗して測定対象物50内に押し込まれる。図6に、測定対象物50の下層52の硬軟による、接触圧子1の押込み量の違いを示す模式図を示す。
【0027】
その押込荷重W及び押込深さxの検出信号が、ロードセル18及びリニアゲージ11から演算装置30に出力されて、演算装置30で所定時間間隔(例えば0.1秒間隔)毎に押込荷重W及び押込深さxを算出する。また、押込荷重Wの変化に対する押込深さxの変化の割合である傾きθも算出する、それらの算出値は、表示部32に表示されると共に、設定押込荷重W1となったときの傾きθが求められる。
なお、上記計測は、複数回行って、傾きθの平均値を取ることが好ましい。
そして、その傾きθの大きさによって、表層部の下にある下層52の硬軟を評価する。
【0028】
(測定原理)
ここで、本硬軟評価方法の測定原理について説明する。
本測定原理は、静的粘弾性測定法、つまり試料に一定歪み(応力)を与え、応力(歪み)変化を測定する方法を応用したもので、試料が固くなる(ストレスが大きい)と傾きθの角度が大きくなる性質を利用している。また傾きθが立ち上がる部分の傾きθに着目して、下層52の定量化を検討したものである。
【0029】
まず、図7(a)のような、それぞれ均一な材質で同一厚さの板状部材であって、弾性係数(硬軟)が異なる試料A〜Eを使用して、以下の考察を行った。
各試料A〜E単体の硬軟については、JISやISOに準拠した従来例のような硬軟測定装置によって、それぞれの硬軟を求めることが出来、その試料A〜Eの硬軟の序列を容易に得ることが出来る。
次に、図7(b)〜(d)のように、試料を複数の層となるように積層した場合を考える。なお、(b)は上層51と下層52の厚さが等しい2層構成で下層52が試料A〜Eで弾性が異なり、(c)は上層51が下層52よりも2倍厚い場合で、(d)は下層52が上層51よりも2倍厚い場合である。
【0030】
ここで本件発明で達成すべき目的は次の2点である。
1)上層51の弾性体の下部にある下層52の弾性体の変化が定量化でき、その序列も整理できる。
2)下層52の弾性体の大きさの違いと変化が定量化でき、これを絶対値として表せる。絶対値とは上層51の弾性体を除去し、直接に下層52の弾性体の大きさを定量化することであり、下層52の弾性そのものを測定したことと等しい結果を得る。すなわち、図7(a)のような、単体で測定した場合と同等な数値として得る。
【0031】
まず、 下層52の弾性体が1つに対して上層51の厚さを図7の(b)と(c)の2種類を考える。また、下層52の弾性係数は上層51の弾性体よりも大きいとする。
この場合における、押込荷重W−押込深さxの線図(W−x線図)は図8に示すようになる。そして、そのW−x線図の曲線は、上層51の厚さが薄い図7(b)の場合はY軸に近く、上層51が厚い図7(c)はY軸から離れる曲線となる。
【0032】
そして、上層51の条件は、設定押込荷重W1の値を適切に調整すれば、その設定押込荷重W1のライン40よりも下側の挙動(このライン40以下のW−x線図)で吸収してしまうので、θの判定には影響しないか影響が小さくなる。すなわち、下層52が同じ弾性体の場合には、押込深さxは異なるものの、傾きθは同じ値若しくはほぼ同じ値となる。なお、設定押込荷重W1は、傾きθが立ち上がっていると想定される範囲で設定すればよい。
【0033】
すなわち、設定押込荷重W1に対する押込深さxは、上層51の弾性体やその厚さに影響を受けるが、設定押込荷重W1の値を適切に調整すれば、設定押込荷重W1に対する傾きθで見れば、上層51の影響を抑えることが可能となる。
また、図7(b)の例において、下層52の弾性体が異なる場合には、同じ設定押込荷重W1における、傾きθは、下層52の弾性体が硬いほど大きくなる。
【0034】
このように、傾きθの大きさから、次の評価が可能になる。
なお、傾きθの範囲は、0°<θ≦90°となる。
1)θ→大:下層52の弾性体は硬い。
2)θ→小:下層52の弾性体は軟らかい。
3)θ=90°→対象物が完全な剛体。
4)θ≒0°→対象物が完全な軟体と想定される。
なお、従来のように、押込荷重Wが一定に近い設定で測定した場合には、押込荷重Wと押込深さxの最大値から、これらの変化を捉えることが出来ない。
【0035】
ここで、相対的に柔らかい上層51と硬い下層52とからなる測定対象物50に対して、押込荷重Wを負荷した場合に、当該押込荷重Wが小さいときには、その変形は、柔らかい上層51での変形が支配的となり、このときの傾きθは相対的に小さい。更に、押込荷重Wが増加するにつれて、全体としての変形は下層52の変形が支配的となり、傾きθが立上ってそのときの傾きθは相対的に大きくなる。
【0036】
従って、上記設定押込荷重W1を小さく設定すれば、上層51の硬軟に応じた傾きθを得ることができて上層51の硬軟を評価することが出来る。一方、設定押込荷重W1を高めに設定すれば、上述のように下層52の硬軟を評価することが出来る。
なお、対象とする測定対象物50によって上記設定押込荷重W1は異なるが、例えば、一度、押込荷重Wと押込深さxの対応を求めてみて、傾きθの立ち上りが大きくなっていると想定されるところに設定押込荷重W1を設定すればよい。対象とする下層52の弾性体の弾性力の値が推測できれば、その弾性体の弾性力から上記設定押込荷重W1を経験値などに基づいて設定すればよい。
【0037】
(効果)
(1) 以上のように、上層51の弾性力や厚さによる影響を抑えて、上層51よりも硬い粘弾性体からなる下層52の硬軟を、傾きθを指標として求めることが出来る。そして、この傾きθの大きさによって下層52の硬軟の序列が付けられ、つまり下層52の硬度の定量的な評価が可能となる。
従来、筋肉の疲労度や炎症によりその内圧が上昇することが分かっており、治療により疲労や炎症が収まり回復した場合には内圧が降下することも分かっている。その確認方法は、従来では細い針を直接患部に刺入していたが、一般の検診ではできなくなっている。可能なのはアスリートなどに限られ、病院で診察した後に本人の同意を得て実施されている。
【0038】
そこで、筋肉内圧の上昇や降下は筋肉の張り(緊張度=弾性)の大小と同じであり、弾性の大小に表れる筋肉の硬軟が測定でき、内圧の変化と硬軟の変化との相関性が得られれば、硬軟測定だけで診療計画が実施できれば飛躍的な診断技術と言われている。
すなわち、定量化はもちろん評価方法や測定方法は全く確立されていないのが現状である。これに対し、本発明を使用することで、この課題が解消する。
なお、内筒体7の先端部も測定対象物50表面に押し付けられるが、外向きフランジ8aによって、その圧は小さくなると共に、表層の変位で吸収されて、下層52の硬軟測定に影響はないか小さい。
(2)また、設定押込荷重W1を小さく設定すれば、上層51の硬軟も評価することが可能となる。
【0039】
(応用)
上記説明では、予め設定した設定押込荷重W1での傾きθで評価しているが、これは逆に見れば、所定の傾きθとなる押込荷重Wで評価したのと、同等の関係にある。すなわち、予め所定の傾きθを設定傾きθ1として設定しておき、その設定傾きθ1となる押込荷重Wの大きさで評価するようにしても構わない。
【実施例】
【0040】
[第1実施例]
上記実施形態で説明した硬軟測定装置及び硬軟評価方法を評価するために、人体の筋肉組織を計測してみた。
人体の試験部位として、僧帽筋(上部線維)、僧帽筋(中部線維)、上腕二頭筋、大腿直筋の4箇所を選定して実施した。選定理由は、僧帽筋は「肩こり」に代表されるところ、上腕二頭筋は「力こぶ」が容易に再現可能であること、大腿直筋は試験する際に硬軟測定装置を押し当てるのにあまり慣れを必要としないためである。なお、日頃運動をしている大学生を被験者としている。
ここで、この試験の初期設定値は以下のように設定した。
・設定押込荷重W1(30N)
・押込時間(7秒)
・接触圧子1の当接部2(外径φ40)
・押込ストローク(13mm)
・押込圧子寸法(SR4)
【0041】
(試験結果)
演算装置30で算出した値に基づき以下の検討を行った。
(1)押込深さx−押込荷重Wからの検討
最大押込荷重Wに対する、各部位の押込深さxを求めたところ図9に示す結果を得た。
また、各部位の押込荷重Wを求めたところ図10に示す結果を得た。この図9及び図10からは、対象部位の筋肉弾性の序列は同じ関係となっていて、以下のような序列となっている。
僧帽筋(上部線維) >僧帽筋(中部線維 )>大腿直筋 >上腕二頭筋
また、図9及び図10には、大腿直筋と上腕二頭筋に力を入れて筋肉を硬くした場合の測定結果も併記した。同図から分かるように、「力有り」では弾性(緊張度)は大きくなり、その比較は次にようになる。
大腿直筋(力有り) >上腕二頭筋(力有り)
【0042】
(2)傾きθからの検討
押込荷重Wの変化ΔWと押込深さxの変化Δxとの関係から、任意の(ΔW/Δx)を与えた各対象部位の傾きθの角度を求めた。その結果を図11に示し、これを図10との対比が分かり易いように整理したものが図12である。
横軸の「1から5」及び「5から7」は荷重の範囲設定番号を表している。
設定方法は押込最大荷重Wに対するΔWを与える割合として、例えば次のように設定した。
番号1: 0.2〜0.5
番号2: 0.3〜0.6
番号3: 0.4〜0.7
番号4: 0.5〜0.8
番号5: 0.6〜0.9
番号6: 0.7〜0.9
番号7: 0.8〜0.9
【0043】
番号5〜7は、装置の押込終了に近い辺りの番号5を2分割した6と7である。すなわち、最大押込荷重Wが与えられる辺りを分割して、皮膚や脂肪層下部の筋肉弾性を捉えられるのではないかと考え、これがW−x線図の傾きθの角度の大きさに変化が見られると予測したためである。番号1から番号7に示すΔWの割合は一例を示したもので、対象部位の小さな硬軟の変化を捉えるためΔWの番号はW−x線図の最大荷重Wの1.0まで任意に設定可能としている。
【0044】
図12から分かるように、傾きθで評価すると、例えば荷重範囲番号5の傾きθの角度の大小を比較すれば、押込荷重Wの大小でみた図10中の筋肉の部位2と5の僧帽筋(中部線維)と大腿直筋が入れ替わり、次のような序列である。
僧帽筋(上部線維)>大腿直筋>僧帽筋(中部線維)>上腕二頭筋
また、「力有り」でも、押込荷重Wの大小でみた図10中の筋肉の部位4と6が入れ替わり、以下の関係にある。
上腕二頭筋(力有り)>大腿直筋(力有り)
このように、傾きθで評価すると、押込荷重Wによる序列とは異なる序列の部位が存在している。すなわち、押込荷重Wによる評価と、傾きθでの評価とは一致しない部分がある。
なお、上述のように押込深さxによる評価と、押込荷重Wによる評価とは同じ序列となっている。
【0045】
(3)W−x線図の形から検討
図11と図12からは、押込初期から終了までの各部位の序列は変わっていないため、W−x線図の傾きθは各部位により異なっていると見られる。
ここに、各部位のW−x線図の代表例を図13及び図14に示す。押込荷重Wによる評価である図10では、僧帽筋(中部線維)が大腿直筋(力無し)より大きいが、図12の傾きθの角度での評価では逆転しており、図13から、押込荷重10Nから最大値までの傾きは大腿直筋(力無し)が大きくなっていることが分かる。従って、この逆転現象に注目する必要がある。
【0046】
次に、「力有り」の上腕二頭筋(力有り)と大腿直筋(力有り)との区別は、図14のように、押込荷重10Nから最大値までの傾きが異なり、傾きθから求めた序列になる判断は可能である。単に押込荷重や押込深さのみで硬軟を評価する方法は正しく判断出来ないため、このW−x線図を用いる測定は効果的な方法である。この点も注目すべき点がある。
【0047】
[第2実施例]
そこで、更に詳しく検証すべく、人体の筋肉部位を弾性体と見立てた固さ(緊張)程度を試作品により計測した結果から、先に示した注目すべき点の要因やどちらの評価が正しく対象部位の弾性を捉えているのか検討してみた。
ここで、不確定要素が多い人体部位では測定や解析が複雑になるため、皮膚や脂肪層の下部にある筋肉層の弾性変化を定量化する基本的な試験を行う必要から、以下では試料をスポンジ弾性体に置き換えて、これらの点を検証してみた。
【0048】
(1)試料
人体の筋肉組織は上層51に皮膚や脂肪及び血管からなる層が有り、その下に筋肉組織が有り、筋肉組織の緊張度は上層51にも影響があると思われるが、簡便化して、図15のような脂肪層の厚さを変えたモデルを想定した。皮膚や脂肪層は軟質スポンジ、下層52の筋肉は硬質スポンジ、骨部はアルミ板の金属板とした試料を作成する。
スポンジの硬度特性を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この表1で、C型硬度(度)は、デュロメータTypeC硬度計により測定された値(カタログ値)で、C型は日本ゴム協会規格(SRIS 0101)である。
また、各スポンジの寸法は、幅100mm×長さ50mm×厚さ5mmの板部材とする。このスポンジから図15のモデルから図16に示す4種類の試験試料の組合せを検討した。
【0051】
組合せは次の通りである。
(a)1層(t):厚さ5mmで、試料A〜Eの5種類
(b)2層(t×t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm
(c)2層(2t×t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm×2/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm
(d)2層(t×2t):上層51は軟質スポンジ試料A、厚さ5mm/下層52は試料A〜Eの5種類、厚さ5mm×2
【0052】
(2)試験方法
上記と同じ方法及び解析を実施した。
まず、既存の硬度計を使用した2例の場合の例を比較のために示す。
(3)デュロメータによる試験(比較のための試験)
(ア)試験方法
この試験方法は、JIS K 6253 加硫ゴムの硬軟試験方法に準拠した市販品である。その仕様を以下に示す。
・デュロメータTypeE硬度計使用
・ミツトヨ社製ハードマチックHH−300
・準拠規格JIS K 6253 加硫ゴムの硬軟試験方法
(イ)試験結果
試験は、図16に示す4種について行った。
図17にその結果を示す。図中、斜めに傾斜した線が図16(a)の試料A〜Eの硬度値である。その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
この表2の「測定値[度]」表示の説明は次の内容である。
・E :デュロメータE型
・数字:硬度の大きさ(単位:度)、測定値の中央値
・±数字:中央値に対するバラツキ
・数字:加圧面押し付け測定時間(単位:秒)
表2の硬度値は試料A〜Eのスポンジ硬軟(表1のメーカー測定値)に近似する結果である。この値は試料質感の表面からの値である。図17(a)は試料Aを上層51として下層52に試料A〜E(表2の硬度値を示す)に変えた硬度値である。同様に(b)と(c)からも、試料A−A−Aの組合せだけが僅かに小さくなるが、その他は判別が困難である。すなわち、上層51試料Aの上から下層52の硬軟変化を捉えることはできない。
すなわち、この従来の試験では、次のようなことが言える。
・下層52試料は上層51試料の層の硬軟質感に支配される。
・下層52試料は上層51試料の厚さの影響を受けた硬軟質感になる。
・下層52試料の硬軟の評価が困難である。
【0055】
(4)筋硬度計NEUTONEによる試験(比較のための試験)
(ア)試験方法
この試験方法は、筋硬度計として市販されている製品を用いてデュロメータTypeE硬度計と同じ試料を用いてその得失を検討するために実施した。その仕様を以下に示す。
・NEUTONE TDM−N1硬度計を使用
・有限会社トライオール社製
(イ)試験結果
試験は、図16の4種について行った。その結果を、図18に示す。図中、斜めに傾斜する線が図16(a)の試料A〜Eの硬度値である。その結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
ここで、表3の「測定値[N硬度]」表示の説明は次の内容である。
・N : NEUTONE TDM−NIのN
・数字:指示値の読み、測定値の中央値
・±数字: 中央値に対するバラツキ
1層のN硬度値は表3の結果となった。試料A〜Eのスポンジ硬度は、表1のメーカー測定値とは異なるが、硬軟の序列は表2と同じである。図17と図18の2層の傾向は全く同じであり、試料A−A−Aの組合せだけが僅かに小さくなるが、その他は判別が困難である。すなわち、上層51試料Aの上から下層52の硬軟変化を捉えることはできない。
【0058】
(5)押込深さxと押込荷重Wとの関係について
(ア)試験方法
上記実施形態で説明した硬軟測定装置を使用して、各種の試料で押込深さxと押込荷重Wとを測定した。
その押込荷重Wと試料との組合せの関係を図19に示す。
なお、図16(b)のようにt10mm(2枚重ね)とした試料を標準とした。試料A−A〜E−Eが図17と図18の試料A〜Eに対応する。
(イ)試験結果
試料A−A〜E−Eの両者の関係から、上記実施形態で説明した硬軟測定装置の機構が正常に機能していたことが分かる。
【0059】
また、図19についてデュロメータ及び筋硬度計の場合と対比して観れば、硬軟の序列は、先の2種と全く同じであり筋硬度計での測定と酷似している。
次に、図19(a)の試料A−A〜A−Eから分かるように、図17(a)と及び図18(a)と比較して、試料A−A〜A−Eの序列が判別できるようになり、他の2種には備わっていない機能が確認できた。
【0060】
同じく、図19(b)と(c)についても比較すると、(c)は(a)と同じく序列が判別でき、標準とした序列と大きさをそのまま下方に移した結果になっている。これも他にはない機能である。
図19(b)では、上層51の厚さの影響によって下層52の変化を少し捉え難くなっているが、試料の序列は表れており、硬軟測定装置の機能が、上記従来例の種に比べ有効性、有用性の点で高い機能性があることが分かる。
【0061】
(6)傾きθと硬軟
(ア)試験方法
次に、上述に示したΔWの変化の割合による範囲と同じものを使用し、番号1から番号7で整理してみた。そして、W−x線図の形から検討も行い、傾きθの角度と下層52試料の硬軟との相関性について解析してみた。
ここでは、図17、図18及び図19における、2層組合せた下層52試料の硬軟序列が判別可能な方法について検討した。
【0062】
(イ)試験結果
図19の(a)、(b)と(c)に対応する傾きθの角度で整理すると、図20に示す結果を得る。
図20(a)から試料A−AはA−BとA−Cとの違いが分かるが、試料A−BとA−Cとの違いは小さく同程度と考えられ、図19(a)の序列と一致している。つまり、押込荷重Wの大小は傾きθの角度の大小と一致することが分かる。この考え方は、図20(c)と図19(c)でも同じ傾向になっているため、傾きθから下層52の硬軟判別は可能であることが分かる。
【0063】
このように、押込荷重Wで判別や序列が分かれば、傾きθからの判定は追確認として有用である。また、押込荷重Wで序列や硬軟の違いが判別可能な試料においては、傾きθの序列も押込初期から終了まで変わらない点は新たな発見である。
また、図19(b)の序列は大まかに捉えているが、その判定に有用な資料が有れば序列の断定が可能になる。図20(b)において番号5〜7の序列は図19(b)の序列を明確に表しており、その判別に有効であることが分かる。そして、押込荷重Wでは下層52の硬軟序列の判定が曖昧または難しい場合であっても、この傾きθによって評価した方がより精確に評価出来ることが分かる。
【0064】
(7)以上のことをまとめると次のようになる。
(ア)工業用硬度計として、スポンジやゴムの硬軟試験のデュロメータの結果である図17と筋硬度計NEUTONEで市販されている結果の図18における押込荷重Wによる方法では同図(a)、(b)と(c)の2層構成(上層51が下層52より軟らかい質感)では、試料1層と比べ下層52の硬軟の大きさや序列は困難または全く捉えられない。もっとも、上層51の厚さが薄い数mm以下では可能のようである。
【0065】
(イ)また、上述のような既存の2種と比べ、本件発明に基づく硬軟測定装置を使用すると、図19から分かるように、図19(a)と(c)のような形態であれば、押込荷重Wだけでも下層52の硬軟変化を捉えられることが分かる。
(ウ)また、図19(b)の場合には、押込荷重Wによる序列の判別が難しいが、傾きθで評価すると、図20にように、下層52の硬軟変化を捉えられることが分かる。
このように、本実施形態の硬軟試験を使用すると、上層51に比較的軟らかな厚い層が存在しても傾きθの角度から、従来判別が不可能であった上層51下部の下層52の硬軟を定量的に評価することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
ここで、本発明に基づく硬軟試験方法は、例えば下記のような分野で使用可能と思われる。
・医療福祉:リハビリ、手技療法、理学療法、成形外科
・競技スポーツ:スポーツドクター、トレーナー
・一般家庭:健康管理、疲労、コリ、料理など
・工業製品:高分子材料、品質管理など
・食品加工:弾性、硬軟、柔らかさ、品質管理など
・農 業:野菜、果物、穀物、生育、品質管理など
・畜 産:家畜の成育、品質管理など
・林 業:樹木、生育など
・水産業:成育、鮮度、品質管理など
・土木・建設業:土圧、老朽化、施工管理、水分・湿度吸収率、検査など
【0067】
その適用例の一例を挙げれば次のようなものがある。
1)筋肉組織の緊張度測定(張りの具合)、診断時の治療前や治療後の回復程度を定量化する。筋肉は脂肪を介して存在するため脂肪層の厚さを取り除いた筋肉の硬軟を定量化する必要がある。
2)僧帽筋の緊張度(一般に言われている肩こり)と精神的なストレスによる因果関係とを定量化する。
3)肩こり時の値とこれが回復したときの値との違いを定量化する。最終目標として、指圧療法士が指先で感じるこりの大小が定量化できる性能に作り込む。
【0068】
4)スポーツトレーナーやスポーツドクターが選手の筋肉の張りを測定することで、身体的な健康管理や回復力を定量化し、メンタル面を含めた総合評価に利用可能である。
5)理学療法士においては、リハビリの成果を数値化して患者への励みや治療の効果について、患者や療法士の主観的な判断ではなく客観的な判断に利用できる。
6)押込み条件や小型化により、肌の張り(弾性)が測定でき肌年齢や化粧水により肌の回復力にも利用できる。化粧品会社や店頭ブースで使ってもらうことによる装置の効果も期待できる。
7)その他、多くの産業分野では粘弾性に近い対象物の弾性、粘性、硬軟を定量化したり品質管理したりする計測が行われており、これらの分野にも応用や適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図2】表示例を示す図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る硬軟測定装置を示す断面図である。
【図6】下層の硬軟が異なる測定対象物について、押し込んだときの違いを示す模式図である。
【図7】試料を示す図である。
【図8】測定原理を説明するW−x線図である。
【図9】押込深さでの評価を示す図である。
【図10】押込荷重での評価を示す図である。
【図11】傾きでの評価を示す図である。
【図12】傾きでの評価を示す図である。
【図13】筋肉の各部位におけるW−x線図を示す図である。
【図14】力を入れた筋肉の各部位におけるW−x線図を示す図である。
【図15】人体でのモデルを示す図である。
【図16】人体モデルでの試料を示す図である。
【図17】デュロメータによる試験結果を示す図である。
【図18】従来の筋硬度計での試験結果を示す図である。
【図19】本実施形態の硬軟測定装置を使用した押込荷重の試験結果を示す図である。
【図20】傾き角度での試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 接触圧子
2 当接部
3 棒状部
7 内筒体
12 外筒体
16 第1バネ部材
18 ロードセル
21 第2バネ部材
30 演算装置
50 測定対象物
51 上層
52 下層(測定層)
W 押込荷重
W1 設定押込荷重
θ 傾き
θ1 設定傾き
ΔW 荷重変化量
Δx 変位変化量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷される押込荷重と接触圧子の押込深さから測定対象物の硬軟を評価する硬軟試験方法であって、
予め設定した設定押込荷重となったときの、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きの値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法。
【請求項2】
測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重と接触圧子の押込深さとに基づき、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きを求め、予め設定した設定傾きの値になったときの押込荷重の値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法。
【請求項3】
上記測定対象物は、硬軟の異なる複数層から構成され、表層の下部に当該表層よりも弾性係数が大きな測定層を有し、その測定層の硬軟を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した硬軟試験方法。
【請求項4】
軸方向に進退可能に装置本体に支持されて測定対象物表面に先端部を接触可能な接触圧子と、上記装置本体に対する接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、上記相対変位検出手段及び荷重検出手段の検出信号に基づき、相対変位の変化に対する荷重の変化の割合で表される傾きを算出すると共に、予め設定された設定荷重となったときの上記傾きを算出する演算装置とを、備えることを特徴とする硬軟試験装置。
【請求項5】
測定対象物の表面に接触させる当接部及びその当接部に先端部を連結した棒状部からなる接触圧子と、上記接触圧子を中空部に配置して当該接触圧子を軸方向に案内する内筒体と、その内筒体外径面側に入れ子状に配置されて内筒体に対し上記軸方向へ進退可能に支持される外筒体と、上記内筒体と外筒体との間に介装されて上記軸方向に弾性力を発生して内筒体に対し外筒体が離れる方向へ相対的に付勢するバネ部材からなる位置決め手段と、上記外筒体の中空部内で上記棒状部の後端部に連結して接触圧子に負荷されている荷重を検出する荷重検出手段と、外筒体の中空部内でその荷重検出部を上記軸方向に移動可能に案内する荷重検出部案内手段と、上記荷重検出部と外筒体の底部との間に介在されて上記軸方向に弾性力を発生する第2バネ部材と、上記内筒体に対する上記軸方向への接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、備えることを特徴とする硬軟測定装置。
【請求項6】
上記外筒体の底部は、その外径面が外筒体の筒部内径面に対して螺合によって固定される円柱状のプラグ部材であって、外筒体の内径面に対する軸方向位置を調整可能となっていることを特徴とする請求項5に記載した硬軟測定装置。
【請求項1】
測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷される押込荷重と接触圧子の押込深さから測定対象物の硬軟を評価する硬軟試験方法であって、
予め設定した設定押込荷重となったときの、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きの値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法。
【請求項2】
測定対象物の表面に接触圧子を押し付け、その接触圧子に負荷する押込荷重と接触圧子の押込深さとに基づき、単位時間当たりの押込深さの変化に対する押込荷重の変化で表される傾きを求め、予め設定した設定傾きの値になったときの押込荷重の値によって硬軟を評価することを特徴とする硬軟試験方法。
【請求項3】
上記測定対象物は、硬軟の異なる複数層から構成され、表層の下部に当該表層よりも弾性係数が大きな測定層を有し、その測定層の硬軟を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した硬軟試験方法。
【請求項4】
軸方向に進退可能に装置本体に支持されて測定対象物表面に先端部を接触可能な接触圧子と、上記装置本体に対する接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、上記接触圧子に負荷される荷重を検出する荷重検出手段と、上記相対変位検出手段及び荷重検出手段の検出信号に基づき、相対変位の変化に対する荷重の変化の割合で表される傾きを算出すると共に、予め設定された設定荷重となったときの上記傾きを算出する演算装置とを、備えることを特徴とする硬軟試験装置。
【請求項5】
測定対象物の表面に接触させる当接部及びその当接部に先端部を連結した棒状部からなる接触圧子と、上記接触圧子を中空部に配置して当該接触圧子を軸方向に案内する内筒体と、その内筒体外径面側に入れ子状に配置されて内筒体に対し上記軸方向へ進退可能に支持される外筒体と、上記内筒体と外筒体との間に介装されて上記軸方向に弾性力を発生して内筒体に対し外筒体が離れる方向へ相対的に付勢するバネ部材からなる位置決め手段と、上記外筒体の中空部内で上記棒状部の後端部に連結して接触圧子に負荷されている荷重を検出する荷重検出手段と、外筒体の中空部内でその荷重検出部を上記軸方向に移動可能に案内する荷重検出部案内手段と、上記荷重検出部と外筒体の底部との間に介在されて上記軸方向に弾性力を発生する第2バネ部材と、上記内筒体に対する上記軸方向への接触圧子の相対変位量を検出する相対変位検出手段と、備えることを特徴とする硬軟測定装置。
【請求項6】
上記外筒体の底部は、その外径面が外筒体の筒部内径面に対して螺合によって固定される円柱状のプラグ部材であって、外筒体の内径面に対する軸方向位置を調整可能となっていることを特徴とする請求項5に記載した硬軟測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−52912(P2009−52912A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217367(P2007−217367)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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