説明

磁力回転装置

【課題】コイルの巻数を増やしたり電流値を大きくすることなく、しかも電磁石の大きさを変えることなく、効率を高めることが可能な磁力回転装置を提供する。
【解決手段】磁力回転装置10は、固定子12と回転体14を備える。固定子12のフレーム23に複数の電磁石17が固定されている。2つの電磁石17が、シャフト37の軸方向にそって並んで配置されている。各電磁石17の隣接する磁極34は磁性が異なるように配置されている。コイル32の外周面の外側には磁性プレート50が設けられている。磁性プレート50はコイル32と絶縁した状態でコイル32の外周面を覆うように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石等の界磁体が設けられた回転子と、上記界磁体の磁力に対して反発方向又は吸引方向の磁力を生じさせる電磁石を有する固定子とを具備する磁力回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石(界磁体)が配置された回転体(回転子)と、この回転体の永久磁石の磁荷に対して反発方向又は吸引方向の磁力を生じさせる電磁石とを備えた磁力回転装置が広く知られている(特許文献1乃至3参照)。この種の磁力回転装置では、回転体が回転することによって電磁石に最接近する位置に永久磁石が到達すると、電磁石が通電されて電磁石に磁束が発生する。これにより、電磁石と永久磁石との間に反発力又は吸引力が発生する。この力が回転体を回転させる方向に作用することによって回転体に対して回転トルクが発生し、回転体の回転軸から所望の回転力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−187080号公報
【特許文献2】特開2009−118705号公報
【特許文献3】特開2009−118706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、前掲の各特許文献に記載の磁力回転装置の効率を向上させる研究が盛んに行われている。磁力回転装置の回転力を高める単純な方法としては、コイルの巻数を増やしたり、コイルに流す電流を大きくしたりするなどして電磁石の磁力を大きくすることが考えられる。しかしながら、コイルへの通電量(コイルを流れる電流の1周期分の積分量)を多くすることは省電力化に反するため好ましくない。コイルへの通電量を一定にしてコイルの巻数を増やすと、電磁石の磁力が大きくなるが、巻数を増やすことにより電線が長くなって電気抵抗が増加し、却って効率が悪くなる場合がある。しかも、コイルの巻数が増えると、コイルの外径が大きくなり、装置が大型化するという問題がある。なお、本明細書においては、「電磁石の磁力」とは、磁気のクーロンの法則に従い生じるクーロン力と、電磁石のコイルを貫く磁界によってそのコイルに作用するBLI則(フレミングの左手の法則)に従い生じる電磁力とが複合的に作用する力のことである。
【0005】
本願発明者は、図9に示される電磁石100を用いて、コイルの巻数を変えずに、コイル104,105への通電量を一定にしたままの状態で電磁石100の磁力が大きくなる機構について鋭意研究を重ねてきた。ここで、図9は、磁力回転装置に用いられている電磁石100を示す模式図であり、(A)は電磁石100の正面図であり、(B)は、電磁石100の底面図である。この電磁石100は、一方側に磁極106,107(N極及びS極)が配置されるように形成された所謂C型のコア(鉄心)101と、コア101の脚部102,103に設けられたコイル104,105とを備えている。コア101は、支持プレート108によって支持されている。磁極106,107の形状は概ね正方形であり、そのサイズは22mm×22mmである。本願発明者は、各磁極106,107の中央部に測定エリアとし、電磁石100に様々な構成要素を付加させたうえで各構成毎に上記測定エリアにおける磁束密度をテスラメータ(ガウスメータとも言う。)で測定した。このときに使用したテスラメータは日本電磁測器株式会社製のもの(型番:GV−300)である。また、プローブは、検出部の外径が約3mmの同社製のもの(型番:CAL991 No.31279)を使用した。その結果、従来の電磁石よりも磁束密度が大きくなる新たな電磁石の構造を見出すことができた。
【0006】
つまり、本発明の目的は、コイルに流す電流値及びコイルの巻数を変えずに従来の電磁石よりも磁力を増加させることが可能な電磁石を採用することにより、効率(単位入力あたりの機械出力)を向上させることが可能な磁力回転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、界磁体が設けられ回転軸を中心に回転可能な回転子と、上記界磁体の磁極に対して同極性又は異極性の磁極が対向するように電磁石が設けられた固定子と、を具備する磁力回転装置として構成されている。この磁力回転装置は、上記界磁体及び上記電磁石のいずれか一方が他方に作用することによって上記回転子を回転させる。この磁力回転装置において、上記電磁石は、胴部と該胴部から上記回転軸へ延びる2つの脚部とを有するコアと、上記脚部それぞれに設けられたコイルと、上記コイルの外周面の外側に配置された磁性体とから構成されている。なお、コイルは絶縁塗料などで絶縁されているため、コイルと磁性体とは絶縁されている。
【0008】
本発明の磁力回転装置に用いられる上記電磁石は、上記脚部それぞれにコイルが設けられることによって、脚部の一方側の端部に磁極(N極又はS極)が形成される構成を有している。コアは、鉄或いは鉄の合金などの強磁性体で形成されている。2つの脚部それぞれに設けられたコイルに電流を流すと、一方の脚部の端部にN極が生じ、他方の脚部の端部にS極が生じる。N極から出た磁束は、空間を通って他方の脚部のS極に入る。しかし、、N極から出た磁束の全てが他方の脚部のS極に入るのではなく、その一部は、N極の脚部における上記胴部側の端部(以下「第1端部」と称する。)に戻る。このとき、N極から上記第1端部へ向かう磁束は、磁気抵抗の大きい空間ではなく磁気抵抗の小さい磁性体を通ることになる。また、S極側では、S極に入った磁束はコアを通って他方の脚部のN極へ向かう。しかし、S極に入った磁束の全てが他方の脚部のN極に向かうのではなく、その一部は、S極の脚部における上記胴部側の端部(以下「第2端部」と称する。)から出てS極に入る。このとき、上記第2端部からS極へ向かう磁束は、磁気抵抗の大きい空間ではなく磁気抵抗の小さい磁性体を通ることになる。
【0009】
このため、各磁極の磁束密度が増大され、電磁石の磁力が大きくなる。これにより、コイルに流す電流値及びコイルの巻数を変えずに、磁力回転装置の効率を向上させることが可能となる。なお、このような磁性体として、絶縁体が外周面に設けられたケイ素鋼板又はその重合板が考えられる。
【0010】
(2) 上記磁性体は、上記電磁石の磁極面から上記胴部側へ所定間隔を隔てられた位置に設けられていることが好ましい。なお、上記所定間隔としては、例えば、コイルが全体に設けられた上記脚部の半分の長さ、あるいは電磁石のコイル長の半分の長さが考えられる。
【0011】
これにより、電磁石の磁極から出た磁束がただちに磁性体に引き寄せられないため、電磁石と永久磁石等の界磁体との間に十分な大きさの磁力を生じさせることができる。
【0012】
(3) 上記磁性体は、上記電磁石の磁極面から上記胴部側へ所定間隔を隔てられた位置に設けられていることが好ましい。
【0013】
これにより、一般的な部品として市場に流通している巻鉄心を磁性体として流用できることになり、電磁石や磁力回転装置の製造コストを抑制することができる。
【0014】
(4) 上記回転軸の軸方向に沿って磁極が一列に並ぶように少なくとも2つの上記電磁石が設けられられており、上記軸方向に隣接する磁極は、互いに極性が異なるように配置されている構成が考えられる。この場合、上記磁性体は、各電磁石において隣接するコイルとコイルとの間に互いに対向するように設けられていることが好ましい。
【0015】
これにより、一方の電磁石のN極と他方の電磁石のS極とが近接するように隣り合わせに配置されていても、これら各磁極それぞれのコイルとコイルとの間に形成された間隙に、互いに対向するように磁性体が設けられることで、これら磁性体が新たな磁路となる。このため、一方の電磁石のN極から出た磁束の一部は、他方の電磁石へ入り込まずに、新たな磁路である上記磁性体を通って、胴部におけるN極側の端部に戻る。この結果、磁極の磁束密度Bが大きくなり、電磁石の磁力が大きくなる。
【0016】
(5) 本発明の磁力回転装置は、上記電磁石が少なくとも2つ設けられている。これらの電磁石は、上記回転軸の軸方向に沿って磁極が一列に並ぶように設けられている。上記軸方向に隣接する磁極は、互いに極性が異なるように配置されている。この構成において、一方の電磁石の上記胴部と他方の電磁石の上記胴部との間隙に上記磁性体が設けられていることが好ましい。
【0017】
隣接する磁極の極性が異なるように2つの電磁石が配置された構成においては、一方の電磁石のN極と他方の電磁石のS極とが隣接する。このN極から出た磁束の一部は他方のS極に入り込み、そのS極の脚部を通って更に磁性体を通って、一方のN極に戻る。したがって、電磁石間の間隙に設けられた磁気抵抗の小さい磁性体を磁束が通ることにより、磁極の磁束密度が増大され、電磁石の磁力が大きくなる。隣接する電磁石において、コイルが設けられていない胴部と胴部との間に間隙が形成されるので、この間隙に磁性体を設けることで、電磁石の大きさを変えることなく磁力を大きくすることができる。これにより、コイルに流す電流値及びコイルの巻数を変えずに、磁力回転装置の効率を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁力回転装置によれば、コイルの巻数を増やしたり電流値を大きくすることなく、しかも電磁石の大きさを変えることなく、電磁石の磁極面の磁束密度を大きくすることができる。これにより、電磁石の磁力が大きくなり、磁力回転装置の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る磁力回転装置10の概略構成を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1における切断線II−IIの模式断面図である。
【図3】図3は、電磁石17の構成を示す模式図であり、図1における切断線III−IIIの断面図である。
【図4】図4は、電磁石17の構成を示す模式図であり、図3における矢視IV−IVの底面図である。
【図5】図5は、電磁石17における一部の磁力線を示す模式図である。
【図6】図6は、電磁石17の他の構造を示す底面図である。
【図7】図7は、電磁石17の他の構造を示す底面図である。
【図8】図8は、本発明の変形例に係る磁力回転装置10の電磁石17の構成を示す模式断面図である。
【図9】図9は、従来の磁力回転装置に用いられている電磁石100を示す模式図であり、(A)は電磁石100の正面図であり、(B)は、電磁石100の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態に係る磁力回転装置10について説明する。
【0021】
[磁力回転装置10の概略]
図1及び図2に示されるように、磁力回転装置10は、主として、複数の電磁石17(本発明の電磁石の一例)を有する固定子12(本発明の固定子の一例)と、複数の永久磁石19(本発明の界磁体の一例)を有する回転体14(本発明の回転子の一例)と、磁力回転装置10を制御する制御装置21とを備えている。電磁石17は、後述するように、2つの磁極34(34A,34B)を有するものである。この制御装置21は、後述の位置検出センサ46からの信号に基づいてセンサ検出盤45の回転角度を算出し、永久磁石19が電磁石17の磁極34に最も接近したタイミングでコイル32に電流を一時的に供給する。これにより、電磁石17の磁極34の磁界と永久磁石19の磁界とが相互に作用することにより磁気反発力(磁極34の磁荷と永久磁石19の磁荷との磁気反発力)が生じる。そして、この磁気反発力が回転体14の回転方向へ作用することによって、回転体14が回転する。なお、磁力回転装置10は、駆動電流が供給されることによって電動機(モータ)として動作し、外力が供給されて回転体14が回転されることによって発電機として動作する。以下、磁力回転装置10の各構成要素について詳細に説明する。
【0022】
[回転体14]
図1に示されるように、回転体14は、回転軸の一例であるシャフト37と、シャフト37が中心を貫通する4つの支持円盤39(39A〜39D)とを備えている。それぞれの支持円盤39は同形同大に形成されており、これらはシャフト37に固定されている。それぞれの支持円盤39A〜39Dは、シャフト37の一方端(図1において上方向の端部)から順番に配列されており、スペーサ41を介して所定間隔を隔てて、互いに平行を保持した状態でシャフト37に固定されている。各支持円盤39の間隔は、電磁石17の各磁極34の間隔によって決定される。各磁極34の間隔が決まれば、永久磁石19は、隣の磁極34の磁界の影響を受けない程度の強度に設定され、電磁石17の磁極34は、永久磁石19に影響を与えない強度に設定される。
【0023】
図2に示されるように、支持円盤39の外縁部には複数の永久磁石19が取り付けられている。それぞれの支持円盤39には4個の永久磁石19が取り付けられている。4個の永久磁石19は、支持円盤39の一方の面(片面)のみに集約配置されている。全ての支持円盤39において、4個の永久磁石19は、シャフト37の周方向に沿って等ピッチに配置されている。具体的には、永久磁石19は、シャフト37を中心にして支持円盤39を周方向に4分割した角度間隔α(=90°)で取り付けられている。
【0024】
また、図2に示されるように、永久磁石19は、支持円盤39の各面において、周方向に4分割した角度間隔α(=90°)に対して40〜70%の割合の角度βを占めるように配置されている。つまり、角度間隔αが90°の場合は、角度βが36°〜63°になるように永久磁石19が配置される。図2では、角度βが36°のときの状態が示されている。なお、周方向に隣接する永久磁石19同士による永久減磁を考慮すると、角度間隔αに対して永久磁石19の占める割合を70%以下にするのが得策である。
【0025】
なお、この実施形態では、本発明の回転子の一例として、4つの支持円盤39それぞれに永久磁石19が取り付けられた回転体14を例示するが、本発明の回転子はこのような構成に限られない。例えば、両端に回転軸を有する円柱体又は筒状体を備え、その外周面に回転軸の周方向に沿って4個の永久磁石が取り付けられ、更にこの4個の永久磁石19からなる永久磁石群が軸方向に所定間隔を隔てて4つ設けられた構成の回転体(回転子)であってもかまわない。また、この実施形態では、シャフト37の周方向に4個の永久磁石19が配置されているが、永久磁石19の配置数は4個以上でも4個未満でも良く、6個でも5個でも3個でもよく、少なくとも1個の永久磁石19が設けられていればよい。ただし、支持円盤39に永久磁石19が1個だけ取り付けられた構成の場合は、回転体14の重量バランスを保つべく、シャフト37を挟んで反対側に同質量のバランサーを設ける必要がある。
【0026】
永久磁石19は、表面及び裏面に磁極が形成された概ね四角形の平板状のものである。この永久磁石19は、その一方の側端部が支持円盤39の外周縁において数mm程度埋め込まれることにより支持円盤39に固定されている。
【0027】
また、各永久磁石19は、図2に示されるように、支持円盤39の中心Oから永久磁石19の重心を結ぶ直線L1と、永久磁石19の磁極方向すなわち永久磁石19の表面及び裏面を貫く法線方向を示す直線L2とが交わる角度γが、30°以上60°以下となるように配置されている。
【0028】
永久磁石19は、N極又はS極のいずれかが支持円盤39の外方へ向けられた状態で支持円盤39の外縁部に取り付けられている。本実施形態では、図3に示されるように、支持円盤39A及び支持円盤39Cでは、S極が外方へ向けられた状態で永久磁石19が取り付けられている。また、支持円盤39B及び支持円盤39Dでは、N極が外方へ向けられた状態で永久磁石19が取り付けられている。このように永久磁石19が取り付けられているため、回転体14が回転して永久磁石19が電磁石17に最接近すると、永久磁石19の磁極と電磁石17の磁極34とが互いに向き合った状態となる。
【0029】
[固定子12]
図1に示されるように、固定子12は、回転体14の外側に設けられている。言い換えると、回転体14が固定子12の内側に設けられている。つまり、本実施形態の磁力回転装置10は、所謂インナーロータタイプの回転装置である。なお、本発明は、インナーロータタイプのものに限られず、アウターロータタイプのものやフラットロータタイプのものにも適用可能である。
【0030】
固定子12は、フレーム23と、フレーム23に保持された電磁石17とを備えている。フレーム23は、支持円盤39A及び支持円盤39Dそれぞれの更に外側に設けられた互いに平行な一対の側板25(25A,25B)と、一対の側板25間に架け渡されて側板25同士を軸方向に固定する複数の支持プレート31とを有する。シャフト37は、各側板25それぞれに形成されたベアリング(不図示)で回転可能に支持されている。
【0031】
フレーム23には、全部で8個の電磁石17が取り付けられている。後述するように、電磁石17は、側板25間に架け渡された4つの支持プレート31に固定されている。なお、本実施形態では、本発明の固定子の一例として、フレーム23に8個の電磁石17が取り付けられた固定子12を例示するが、本発明の固定子はこのような構成に限られず、少なくとも1つの電磁石17がフレーム23に設けられていればよい。
【0032】
側板25Bの外側には、センサ検出盤45が設けられている。センサ検出盤45は各支持円盤39と同軸で回転可能なように、シャフト37に固定されている。センサ検出盤45は、例えば透明なプラスチック板であり、周縁の所定部位に遮光テープ等が貼り付けられている。また、フレーム23には、フォトインタラプタ等の位置検出センサ46が設けられている。位置検出センサ46は、センサ検出盤45の周縁に検出光を照射するように配置されている。この位置検出センサ46によって、回転体14の永久磁石19の回転位置が制御装置21に通知される。制御装置21は、この回転位置に基づいて電磁石17のコイル32に通電する。
【0033】
[電磁石17]
図1に示されるように、シャフト37の軸方向に沿って4つの磁極34が一列に並ぶように2つの電磁石17が配置されている。2つの電磁石17は、隣接する磁極34(34A,34B)の磁性が異なるように配置されており、これにより、4つの磁極34は、図3に示されるように、N極34B及びS極34Aが交互となるように軸方向に沿って並んでいる。このように配置された2つの電磁石17を一組とした場合に、本実施形態では、合計で4組がシャフト37の周方向に角度間隔90°のピッチで等間隔に取り付けられている。各電磁石17は、配置位置が異なる以外は全て同じ構成となっている。
【0034】
図3に示されるように、電磁石17は、コア30(本発明のコアの一例)を有する。コア30は強磁性体で構成されており、本実施形態では、板状のケイ素鋼板が複数枚重ね合わされたものが用いられている。各ケイ素鋼板には、通電時に渦電流が発生し難いように絶縁塗料が塗布されている。コア30は、側面から見た形状がアルファベットのC字状、U字形状、又は片仮名のコの字状に形成されたものであり、C型コア又はU型コアとも称されている。このコア30は、概ねストレート形状の胴部28と、その胴部28の両方の端部28A,28Bそれぞれからシャフト37に直交する方向へ向けて延びる2つの脚部29A,29B(以下、脚部29A,29Bを総称して脚部29とも称する。)とから構成されている。このようなコア30が用いられることによって、コイル32が通電されたときに、コア30の一方側の端面(脚部29Bの端面)にN極34Bが現れ、コア30の他方側の端面(脚部29Aの端面)にS極34Aが現れる。
【0035】
1つの支持プレート31には、シャフト37の軸方向に並ぶ2つの電磁石17が固定されている。支持プレート31は、樹脂で形成された厚みのある長尺状の板状部材であり、その長手方向の両端は、一対の側板25それぞれにネジ等の連結具によって固定されている。支持プレート31には、電磁石17の胴部28側が嵌め入れられる2つの凹陥部(不図示)が長手方向に並んで形成されている。各凹陥部それぞれに電磁石17が嵌め込まれることによって、2つの電磁石17が支持プレート31に固定されている。具体的には、電磁石17の胴部28、コイル32の胴部28側の端部、及び後述する磁性プレート50の一部が上記凹陥部に嵌め入れられている。この支持プレート31は、電磁石17の胴部28側を覆うカバーの役割も担っている。
【0036】
コア30の各脚部29のそれぞれには、電線が巻回されてなる2つのコイル32(本発明のコイルの一例)が設けられている。コイル32の電線には絶縁塗料が塗布されている。各磁極のコイル32は、いずれも、同じ巻数となっている。コイル32の外周面には、絶縁テープ33が巻き付けられている。したがって、コイル32の外周面は、電線の絶縁塗料及び絶縁テープ33によって、外部と絶縁状態が保たれている。
【0037】
図3に示されるように、コイル32の外周面の外側には、コイル32の外周面を覆うように磁性プレート50(本発明の磁性体の一例)が設けられている。磁性プレート50は、磁性体で形成されている。磁性プレート50は、コア30と同じ材質で形成されている。磁性プレート50は、断面が概ねL字状に形成されており、コイル32の胴部28側の端面32Aに沿う第1平板部51と、コイル32の外周側面32Bに沿う第2平板部52とを有する。磁性プレート50は、第1平板部51が支持プレート31の凹陥部に嵌め入れられることによって、電磁石17と一体に支持プレート31に固定されている。本実施形態では、図4に示されるように、磁性プレート50は、コイル32の外周側面32Bのうち、コイル32同士が隣接する面を除く3面を覆うように、底面から見て概ねコの字形状に形成されている。なお、磁性プレート50は、コア30と同じ材質のものに限られず、フェライトなどの強磁性体で形成されたものであればよい。また、磁性プレート50は、圧粉磁心を形成する手法と同じように、強磁性体の微細な粉末を型枠に入れて加圧成形することにより形成されたものであってもよい。このように形成すれば、立体的な形状の磁性プレート50を容易に作成することができるし、また、粉末に戻しやすいため、容易に廃棄処理や再利用を行うことができる。
【0038】
磁性プレート50は、磁極34からコア30の胴部28側へ距離dだけ隔てられた位置に第2平板部52の下端52A(磁極34側の端部)が配置されるように設けられている。言い換えると、第2平板部52の下端52Aは、磁極34からコア30の胴部28側へ距離dだけ後退している。距離dは、N極34Bから出た磁束が永久磁石19に到達する前に磁性プレート50に引き寄せられない程度の距離に定められている。この距離dは、磁極34と永久磁石19との離間距離や、磁極34及び永久磁石19の磁荷、コイル32の巻厚などの要素によって決定されるものである。本実施形態では、距離dは、コイル32が巻かれている脚部29の長さL(図3参照)に対して0.5Lの長さに設定されている。
【0039】
[実施形態の作用・効果]
上述したように、磁力回転装置10においては、コア30の脚部29のそれぞれにコイル32が設けられることによって、それぞれの脚部29の端部に磁極34(N極及びS極)が配置される構成となっている。コイル32に電流が供給されると、コイル32の巻数により決まる起磁力が発生して、磁極34と永久磁石19の磁極との間のクーロン力やBLI則に従う電磁力等が生じる。図5に示されるように、N極34Bから出た磁束の一部は、電磁石17のN極34BからS極34Aへ向かう主磁路62を通らずに、図5の矢印61で示されるように、コイル32の外側に配置された磁性プレート50を通って、胴部28におけるN極34B側の端部29Bに戻る。また、胴部28におけるS極34A側の端部28Aから漏れ出た磁束の一部は、図5の矢印63に示されるように、コイル32の外側に配置された磁性プレート50を通って、S極34Aに入る。そのため、各脚部29それぞれの磁束φが大きくなり、各磁極34の磁束密度も大きくなる。電磁石17の起磁力Fはコイル32の巻数Nとコイル32に流れる電流Iとの積で決定されるが、起磁力Fと磁気抵抗Rと磁束φとの間にはF=φRの関係がある。本実施形態のように磁性プレート50が設けられると磁気抵抗Rが小さくなるため磁束φが大きくなり、その結果、磁極34の磁束密度Bも大きくなる。電磁石17の磁力は磁束密度Bに比例するため、磁束密度Bが大きくなれば、電磁石17の磁力が大きくなる。このように、本発明によれば、コイル32に流す電流値及びコイル32の巻数を変えることなく、磁性プレート50を設けるだけで、電磁石17の磁力を従来の電磁石よりも増加させることが可能となり、その結果、磁力回転装置10の効率が向上することになる。
【0040】
なお、上述の実施形態では、磁性プレート50がコイル32の外周面のうちの3面を覆う構成(図4参照)について説明したが、例えば、図6(A)に示されるように、それぞれのコイル32の外周面のうちの1面を覆うように磁性プレート50が設けられていてもよい。また、図6(B)に示されるように、一方の電磁石17のN極34Bと他方の電磁石17のS極34Aとが離れて隣り合わせに配置されている場合は、これら各磁極34それぞれのコイル32とコイル32との間に形成された間隙に、互いに対向するように磁性プレート50が設けられていてもよい。これにより、一方の電磁石17のN極34Bから出た磁束の一部は、他方の電磁石17のS極34Aへ入り込まなくても、磁性プレート50を通って、胴部28におけるN極34B側の端部29Bに戻る。このため、磁極34の磁束密度Bが大きくなり、電磁石17の磁力が大きくなる。
【0041】
また、図7(A)に示されるように、磁性プレート50は、コイル32の外周面のうちの2面を覆うようにコイル32の外周面の外側に設けられてもよい。また、図7(B)に示されるように、電磁石17が有する2つのコイル32を内部に包み込むように、各コイル32の外側から覆うように形成された環状の磁性プレート50を設けてもよい。この場合、環状の磁性プレート50は、表面を絶縁処理した薄い鋼板を帯状に圧延した所謂巻鉄心を流用することが考えられる。巻鉄心は、一般的な部品として市場に流通しているものであるため、これを流用することにより、電磁石17や磁力回転装置10の製造コストを抑制することができる。また、図示しないが、隣合う2つの電磁石17が有する4つのコイル32を内部に包み込むように、各コイル32の外側から覆うように環状の磁性プレートを設けてもかまわない。
【0042】
また、上述の実施形態では、磁性プレート50がコイル32の外周面の外側に設けられた構成について説明したが、例えば、図8に示されるように、一方の電磁石17と他方の電磁石17との間に形成された間隙55に、磁性ブロック57(本発明の磁性体の一例)が設けられた構成であってもよい。図8に示されるように、隣接するコイル32が間隙なく配置されている場合は、コア30の胴部28と胴部28との間に各コイル32の巻厚相当分の間隙55が形成される。この間隙55に磁性ブロック57が設けられている。磁性ブロック57は、コア30と同じ材質で形成されている。もちろん、磁性ブロック57は、コア30と同じ材質のものに限られず、フェライトなどの強磁性体で形成されたものであればよい。
【0043】
このように構成されているため、シャフト37の軸方向に隣接する磁極34の極性が異なるように2つの電磁石17が配置された磁力回転装置10においては、コイル32に電流が供給されると、コイル32の巻数により決まる起磁力が発生して、磁極34と永久磁石19の磁極との間のクーロン力やBLI則に従う電磁力等が生じる。図8に示されるように、一方の電磁石17(図8の右側)のN極34Bから出た磁束の一部は、隣接する他の電磁石17(図8の左側)のS極34Aに入り、このS極34Aの脚部29Aを通って胴部28のS極34A側の端部28Aから磁性ブロック57へ引き寄せられる。空間に比べて磁気抵抗が極めて小さい磁性ブロック57を通った磁束は、一方の電磁石17の胴部28のN極34B側の端部28Bに戻る。そのため、各脚部29それぞれの磁束φが大きくなり、各磁極34の磁束密度も大きくなる。電磁石17の起磁力Fはコイル32の巻き回数Nとコイル32に流れる電流Iとの積で決定されるが、起磁力Fと磁気抵抗Rと磁束φとの間にはF=φRの関係がある。本実施形態のように磁性ブロック57が設けられると一方の端部28Aから磁性ブロック57を経て他方の端部28Bに至る部分の磁気抵抗Rが小さくなるため磁束が大きくなり、磁極34の磁束密度Bも大きくなる。磁力は磁束密度Bに比例するため、磁束密度Bが大きくなれば、電磁石17の磁力が大きくなる。このように、本発明によれば、コイル32に流す電流値及びコイル32の巻数を変えることなく、磁性ブロック57を設けるだけで、電磁石17の磁力を従来の電磁石よりも増加させることが可能となり、その結果、磁力回転装置10の効率が向上することになる。
【0044】
なお、上述の実施形態では、所謂C型のコア30を有する電磁石17を備えた磁力回転装置10を例示して説明したが、言うまでもなく、C型のコア30以外のE型のコア或いはくし型のコアを有する電磁石を備えた磁力回転装置であっても、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10・・・磁力回転装置
12・・・固定子
14・・・回転体
17・・・電磁石
19・・・永久磁石
23・・・フレーム
28・・・胴部
29・・・脚部
30・・・コア
32・・・コイル
34・・・磁極
37・・・シャフト
39・・・支持円盤
50・・・磁性プレート
57・・・磁性ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁体が設けられ回転軸を中心に回転可能な回転子と、
上記界磁体の磁極に対して同極性又は異極性の磁極が対向するように電磁石が設けられた固定子と、を具備し、
上記界磁体及び上記電磁石のいずれか一方が他方に作用することによって上記回転子を回転させる磁力回転装置であって、
上記電磁石は、
胴部と該胴部から上記回転軸へ延びる2つの脚部とを有するコアと、
上記脚部それぞれに設けられたコイルと、
上記コイルの外周面の外側に配置された磁性体とから構成されている磁力回転装置。
【請求項2】
上記磁性体は、上記電磁石の磁極面から上記胴部側へ所定間隔を隔てられた位置に設けられている請求項1に記載の磁力回転装置。
【請求項3】
上記磁性体は、表面を絶縁処理した薄い鋼板を帯状に圧延した巻鉄心であり、該巻鉄心は、上記電磁石に設けられた2つのコイルを内部に覆うように設けられている請求項1又は2に記載の磁力回転装置。
【請求項4】
上記回転軸の軸方向に沿って磁極が一列に並ぶように少なくとも2つの上記電磁石が設けられ、上記軸方向に隣接する磁極は、互いに極性が異なるように配置されており、
上記磁性体は、各電磁石において隣接するコイルとコイルとの間に互いに対向するように設けられている請求項1から3のいずれかに記載の磁力回転装置。
【請求項5】
上記回転軸の軸方向に沿って磁極が一列に並ぶように少なくとも2つの上記電磁石が設けられ、上記軸方向に隣接する磁極は、互いに極性が異なるように配置されており、
一方の電磁石の上記胴部と他方の電磁石の上記胴部との間隙に上記磁性体が設けられている請求項1から4のいずれかに記載の磁力回転装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−51801(P2013−51801A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188054(P2011−188054)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【特許番号】特許第4988951号(P4988951)
【特許公報発行日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【出願人】(505001063)