説明

磁場処理装置

【課題】 電源容量に対する制約を軽減するとともに、磁場範囲の拡大を図り、処理物の処理量を増加させることができるようにする。
【解決手段】 液状の処理物Sが入れられる容器1と、容器1に磁場を印加するコイル3を備えた磁場印加部2とを備え、磁場印加部2のコイル3を、処理物Sが入れられる容器1内に配置して、容器1内の処理物Sに浸漬させるようにし、コイル3による磁場の印加により容器1内の処理物Sの性状を変えることができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の処理物に対して磁場を印加して処理物の性状を変える磁場処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の磁場処理装置としては、例えば、液状の処理物として種類の異なる細胞が混在する細胞群に磁場を印加して細胞を処理する磁場処理装置(特許文献1)がある。
これは、図3に示すように、癌細胞等の標的細胞が混在する細胞群を含有する液状の処理物Sが入れられる容器100と、容器100にパルス磁場を印加するコイル101を備えた磁場印加部102とを備え、このコイル101による磁場の印加により容器100内の処理物Sの性状を変えるものであり、具体的には、パルス磁場を印加し、この癌細胞等の標的細胞を選択的に死滅させようとするものである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−49105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この従来の磁場処理装置においては、磁場範囲に限界があり、処理物Sの処理量の増加を図ることが困難になっているという問題があった。それは、処理物Sの量を増やそうとすると、大口径のソレノイドコイルを必要とし、電源容量が増して電源装置が大きくなったり、コイルからの発熱が多くなり、逆に支障が生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、電源容量に対する制約を軽減するとともに、磁場範囲の拡大を図り、処理物の処理量を増加させることができるようにした磁場処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明の磁場処理装置は、液状の処理物が入れられる容器と、該容器に磁場を印加するコイルを備えた磁場印加部とを備え、該コイルによる磁場の印加により上記容器内の処理物の性状を変える磁場処理装置において、上記磁場印加部のコイルを、上記処理物が入れられる容器内に配置し、該容器内の処理物に浸漬させるようにした構成としている。
【0007】
これにより、処理物を処理するときは、容器に処理物を収容し、磁場印加部を作動させる。この場合、コイルが容器内の処理物に浸漬し、処理物に対してコイルの磁場が直接作用するので、磁場処理効率が向上させられる。そのため、電源容量をさほど大きくしなくても、磁場強度や磁場範囲の拡大を図ることができ、処理物の処理量を増加させることができるようになる。また、コイルを用いた場合に発生するジュール熱を処理物に利用することもできるようになる。
【0008】
そして、上記コイルの印加する磁場強度を、0.01≦T(テスラ)≦3とした構成としている。常電動コイルにより実現することができる。
また、必要に応じ、上記磁場印加部は、上記コイルに変動磁場を発生させる構成としている。変動磁場による処理を実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁場処理装置によれば、コイルが容器内の処理物に浸漬し、処理物に対して直接磁場を作用させることができるので、電源容量をさほど大きくしなくても、磁場強度や磁場範囲の拡大を図ることができ、処理物の処理量を増加させることができるようになる。また、コイルを用いた場合に発生するジュール熱を処理物に利用することもできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る磁場処理装置について説明する。
この実施の形態に係る磁場処理装置は、液状の処理物として人体から採取された血液中の特定細胞を処理する装置である。特定細胞としては、白血病等の各種癌細胞,ウイルス感染細胞等の悪性細胞が対象となる。
【0011】
図1に示すように、この磁場処理装置Kの基本的構成は、人体から取り出され特定細胞を含む液状の処理物Sとしての血液が入れられる容器1を備えている。
また、磁場処理装置Kは、容器1に磁場を印加するコイル3を備えた磁場印加部2を備えている。磁場印加部2のコイル3は、処理物Sが入れられる容器1内に配置され、容器1内の処理物Sに浸漬させられる。このコイル3による磁場の印加により容器1内の処理物Sの性状が変えられる。コイル3には、例えば耐液性の樹脂コーティングが施されている。
【0012】
磁場印加部2は、容器1内の処理物Sに磁場強度0.01≦T(テスラ)≦3の変動磁場を印加する。また、磁場印加部2は、パルス電源4により、パルス周波数1〜250Hzのパルス磁場をコイル3に発生させる。実施の形態では、例えば、50Hz,0.15Tに設定される。図2には、実施の形態に係るパルス磁場電流波形を示す。
【0013】
更に、磁場処理装置Kは、容器1内の温度を一定範囲に保持する温度保持部5を備えている。温度保持部5は、容器1内の処理物Sを攪拌する撹拌羽根7と、処理物Sを加熱冷却する加熱冷却部8とを備えて構成されている。そして、図示外の制御部により、容器1内の温度を一定範囲に保持し、容器1内の温度tを所定温度範囲に保持する。例えば、4℃≦t≦37℃の範囲、望ましくは、25℃≦t≦37℃に保持する。実施の形態では、例えば、t=25℃に設定される。
【0014】
そして、磁場処理装置Kにより、容器1内の処理物Sは所定時間変動磁場中に保持される。時間としては、5min〜240min間、変動磁場を印加する。実施の形態では、例えば、180min(3時間)に設定してある。
【0015】
従って、この実施の形態に係る磁場処理装置Kにより血液中の悪性細胞を処理するときは、まず、血液を容器1に入れる。それから、コイル3を作動させて、所定時間変動磁場中に保持する。
これにより、分裂速度の速い悪性細胞に対して変動磁場が作用すると、分裂能が失活されていく。即ち、悪性細胞の分裂刺激時には核の分裂を伴う細胞の分化が行なわれるが、イオンを主体とする核内物質が磁場中で移動する際に磁場から磁気力を受け、正規の分裂過程から外れるようになって、細胞障害が生じ、これにより、分裂能が失活していくのである。そして、悪性細胞は分裂速度が速く、分裂時の磁場刺激の機会が多くなることから、悪性細胞は死滅しあるいは無秩序な分裂増加が妨げられて減少していく。
【0016】
一方、例えば、Tリンパ球,Bリンパ球,ナチュラルキラー細胞等の免疫細胞においては、設定された磁場強度,温度,停留時間の範囲においては、ほとんど影響がなく、即ち、免疫機能変化,細胞障害性などの影響が防止される。
【0017】
この場合、コイル3が容器1内の処理物Sに浸漬し、処理物Sに対してコイル3の磁場が直接作用するので、磁場処理効率が向上させられる。そのため、電源容量をさほど大きくしなくても、磁場強度や磁場範囲の拡大を図ることができ、処理物Sの処理量を増加させることができるようになる。また、コイル3を用いた場合に発生するジュール熱を処理物Sに利用することもできるようになる。
【0018】
また、上記の実施の形態においては、必要に応じ、特定細胞の分裂速度を促進する分裂速度促進剤を添加することが有効である。例えば、免疫系の細胞において、異常をきたした特定の免疫細胞(特定細胞)があって、これを除去したい場合に、分裂速度促進剤として、phytohemagglutinin(PHA),concanavalin A(ConA),リンパ球特異的ペプチド,リンパ球特異的モノクローナル抗体,ガラクトシルセラミド,セラミド,ガンクリオシド,ジアシルグリセオール,テトラデカノイル ホルボールアセテート(TPA)の少なくとも1つの物質を用いることが有効である。
【0019】
一般に、それぞれの免疫細胞(T細胞やNK細胞)は特定の分子(ペプチド,たんぱく質,抗体あるいは糖,脂質)より活性化されるものの他の分子による活性化をほとんど受けない。そのため、異常をきたした特定の免疫細胞(特定細胞)を活性化させて(分裂増殖刺激を与える)変動磁場を負荷すれば、正常の免疫細胞に障害を与えることなく異常な免疫細胞のみを選択的に、副作用なく取り除くことが可能となる。従って、この分裂速度促進剤の添加により、特定細胞が活性化(細胞分裂が刺激)され、より強力かつ効果的に異常細胞を除去することができるようになる。
【0020】
そしてまた、上記の実施の形態においては、特定細胞を失活させる失活補助剤を添加することが有効である。例えば、癌細胞を除去したい場合に、失活補助剤として、ビタミンA,甲状腺ホルモン,グルココルチコイド,シクロフォスファミド,アザチオプリン,アドリアマイシン,ブレオマイシン,代謝拮抗薬,アルキル化薬,植物アルカロイド(ビンアルカロイド),細胞骨格障害薬の少なくとも1つの物質を用いることが有効である。これらは、癌の治療に用いられる薬物として知られており、これらの物質の添加により、主に、癌細胞の失活処理を高効率で行なうことができるようになる。即ち、磁場による特定細胞の失活に加えて、失活補助剤による失活も行なわれるので、効果が相乗的になり、より一層特定細胞の除去効率が向上させられる。
【0021】
尚、上記実施の形態においては、処理物Sとして血液について本発明を適用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、血液以外のものでも良いことは勿論である。
例えば、食品加工へも適用できる。食品への磁場効果としては、油脂結晶の結晶型変化への効果、醸造食品(食酢等)の熟成効果等がある。
また、上記実施の形態では、磁場印加部は、パルス磁場を発生させるが、必ずしもこれに限定されず、正弦波状の変動磁場を発生させ、あるいは、静磁場を発生させるよう構成してもよく、適宜変更して差支えない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁場処理装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るパルス磁場電流波形を示す図である。
【図3】従来の磁場処理装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
K 磁場処理装置
S 処理物
1 容器
2 磁場印加部
3 コイル
4 電源
5 温度保持部
7 撹拌羽根
8 加熱冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の処理物が入れられる容器と、該容器に磁場を印加するコイルを備えた磁場印加部とを備え、該コイルによる磁場の印加により上記容器内の処理物の性状を変える磁場処理装置において、
上記磁場印加部のコイルを、上記処理物が入れられる容器内に配置し、該容器内の処理物に浸漬させるようにしたことを特徴とする磁場処理装置。
【請求項2】
上記コイルの印加する磁場強度を、0.01≦T(テスラ)≦3としたことを特徴とする請求項1記載の磁場処理装置。
【請求項3】
上記磁場印加部は、上記コイルに変動磁場を発生させることを特徴とする請求項1または2記載の磁場処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−115753(P2006−115753A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306566(P2004−306566)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】