説明

磁性を有する布帛及び磁性を有する布帛を用いた磁気分離装置

【課題】水中で酸化劣化を起さず、取り扱い性に優れた磁気分離用布帛及び磁気分離装置を提供する。
【解決手段】磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマーからなる磁性繊維を用いてなる磁気分離用布帛及び、これを用いてなる磁気分離装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性を有する布帛に関する。さらに、磁性を有する布帛を用いた磁気分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
染色工場、食品工場、製紙工場、半導体工場などから出る産業廃水や生活排水には、COD原因物質やBOD原因物質などの水質汚濁物質が懸濁状態やコロイド物質及び溶解状態にて存在している。この様な環境汚染物質の除去は環境浄化のため必要とされている。
【0003】
また上述の廃水中にはレアアースメタルが混入しており、これらの回収は省資源技術として期待されている。
【0004】
環境汚染物質の除去方法については、濾過、沈殿、吸着、磁気分離などの物理的処理方法、オゾン、過酸化水素、紫外線等による酸化分解を利用した化学処理法、活性汚泥法、生物処理法などが挙げられるが、たとえば活性汚泥法では曝気槽の必要性や余剰汚泥発生が問題となる。
【0005】
磁気分離法は環境汚染物質の除去、レアアースメタルなど希少資源の回収などに利用可能であり、特に超電導コイルの利用によりその技術は進んでいる(特許文献1)。現在、磁気分離法では磁性を有する物質を補修するための網、フィルターが必要であり、素材として鉄が多く使われている。しかしながら、鉄は水中で使用すると酸化劣化するという問題点がある。さらにマグネタイトに代表される非金属酸化物磁性体を用いた場合、脆いため取り扱い性・加工性に優れた網、フィルターとすることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−106854
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気分離システムに用いられる磁性を有する網、フィルターは現在、鉄など強磁性金属からなるものが使用されており、水中にて酸化劣化を起すことが問題であった。酸化劣化を起こさず、柔軟で、折れ・切断などの破損が起こりにくい磁性を有する網、フィルターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気分離用布帛は熱可塑ポリマー中に磁性粉体が含まれてなるため、水中での酸化劣化を起しにくい。また磁性粉体と熱可塑ポリマーの複合体であるため、本発明に用いる磁性粒子を有する繊維は柔軟であり、折れ・切断などの破損が起こりにくくなる。よって本発明の繊維を用いた布帛を磁気分離用として使用した際、設置時さらには使用中に破損を起しにくく、取り扱い性が良好である。また本発明の磁気分離性能を有する繊維は柔軟であるため、ニット、平織り、不織布などへの加工が可能である。これにより本発明の磁気分離用として使用される布帛は、網、フィルター等、目的に応じたさまざま形態に作製することが可能である。このような特性により、本発明は取り扱い性に優れた磁性を有する布帛及びこの布帛を用いた磁気分離装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来においては不十分であった、酸化劣化を起さず、取り扱い性に優れた磁性粒子を有する繊維を用い、磁気分離用として使用される布帛とすることが可能であり、さらにこの布帛を用いた磁気分離装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の磁気分離装置の一実施を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施の磁気分離網の模式図である。
【図3】芯鞘複合糸を紡糸する際の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは上記問題を解決するために、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
1.磁性を有する粒子を含有する熱可塑性ポリマーを用いた繊維からなる、磁性を有する布帛。
2.熱可塑性ポリマーがポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種類を含むことを特徴とする、上記1記載の布帛。
3.繊維が芯鞘型複合繊維構造を有し、芯、鞘の少なくとも一方に磁性を有する粒子を含有することを特徴とする上記1、2いずれか1に記載の布帛。
4.上記3記載の布帛を用いた磁気分離装置。
5.超電導磁石を利用してなることを特徴とする上記4記載の磁気分離装置。
【0012】
本発明の磁気分離用布帛は、磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマーからなる繊維を用いることが特徴である。本発明に用いる磁性粒子としては鉄、コバルト、ニッケルなどの鉄族磁性金属、ネオジウムなどのレアアース磁性金属、マグネタイト、酸化コバルトなどの酸化物磁性化合物などが挙げられる。特にマグネタイトなど磁性酸化物が望ましい。
【0013】
本発明における磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、セルロース、たんぱく質、ポリアミド、ポリサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテル、ポリケトン、アクリルなどが挙げられるが、耐久性・成型加工性・金属及び金属酸化物粒子分散性・金属及び金属酸化物粒子密着性からポリエステルが望ましいがこれに限定する必要はなく、これら複数のポリマーの混合体でもよい。また、水中での加水分解を防ぐ為、末端封止剤として、エポキシやカルポジイミドを添加しても良い。さらに、成型加工中の耐熱劣化性や、長期耐熱老化性を上げる為に、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を適宜使用しても良い。一方、必要な耐久性に応じて、金属粒子との接触による劣化を防ぐ為の、金属接触劣化防止剤を適宜使用しても良い。
【0014】
本発明における磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーとしては、結晶性ポリマー、非晶性ポリマーのいずれでもよいが、加工時および加工後の取扱いの簡便さから結晶性ポリマーが望ましい。
【0015】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は単一構造からなる繊維でも芯鞘構造からなる複合繊維でもよいが、芯鞘構造からなる複合繊維がより望ましい。
【0016】
本発明における磁性粒子を含有する繊維が芯鞘構造からなる複合繊維である場合、磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーは芯部分を構成していても、鞘部分を構成していても、その両方を構成していてもよいが、鞘部分に含まれる構造がより望ましい。
【0017】
本発明における磁性粒子を含有する繊維の製造方法として、磁性粒子と熱可塑ポリマーの混合方法は磁性粒子と熱可塑ポリマーを溶融混合する方法、溶液混合する方法、また鉄族錯塩を熱可塑ポリマーに溶解混合した上で化学反応によって磁性粒子を生成する方法が挙げられるが、そのいずれでもよい。しかし、製造方法の難度を考慮すると、磁性粒子と熱可塑ポリマーを溶融混合する方法が望ましい。また磁性を有する粒子と熱可塑ポリマーの混合後、紡糸しても、紡糸により繊維を作製した後、磁気粉を混入してもよいが、磁性粒子と熱可塑ポリマーの溶融混合法を採用する場合、前者が望ましい。紡糸方法としては溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸などあらゆる紡糸方法のいずれでもよい。
【0018】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は長繊維からなるモノフィラメント、マルチフィラメントいずれでも構わないが、マルチフィラメントが好ましい。また得られた繊維を、カバリングや巻縮加工やALY加工等の加工糸としてもよく、また短繊維として紡績糸などとして使用しても良いが、長繊維からなるモノフィラメント、マルチフィラメントがより望ましい。また前記磁性を含有する繊維は布帛とする際、その全体に用いても良いし、一部分に用いてもよい。
【0019】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は磁性粒子を含有しないポリマー繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維などの無機繊維と混合使用してもよい。
【0020】
本発明における磁気分離用として用いられる布帛は該磁性繊維を含んでなる布帛であるが、その形態は平織り、ニット、綾織、繻子織、不織布、短繊維集合体からなるフィルターなどいずれの形態でもよい。また、これら複数の形態の布帛を組み合わせてもよい。
【0021】
本発明における磁気分離用として用いられる布帛は該磁性繊維を含んでなる布帛であるが、ガラス繊維、ポリマー繊維、炭素繊維など他の繊維と混合したものでもよい。
【0022】
本発明における磁気分離装置は磁性を有する繊維を用いて構成された布帛を用いるが、磁場発生装置として永久磁石、電磁石、超電導磁石が利用できる。永久磁石としては鉄、コバルト、ニッケルなど鉄族金属、強磁性合金、ユーロピウム、ガドリニウムなど希土類金属などが挙げられるが、特にネオジウム磁石が望ましい。電磁石、超電導磁石では、そのいずれでも良いが、強磁場を発生する超電導磁石が望ましい。超電導磁石としてはNbTi, NbAl, NbSnなど金属系超電導線材を用いるマグネットコイル、ビスマス系酸化物、イットリウム系酸化物を用いる高温超電導コイル、またはバルク磁石などが上げられるが、これらに特に制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。
【0024】
本発明で用いた実験方法を以下に示す。本発明では超電導マグネットを利用した磁気分離装置を作製し、その分離特性の耐久性を測定した。以下にこれを具体的に示す。
【0025】
(1)実験装置
図1に実験装置概略を示す。実験装置は超電導マグネットと磁気微粒子を流す水路、これを捕集する磁気分離網とからなる。各部分について以下に記す。
i)超電導マグネット:コイル内径100mm, コイルボビン外径140mm, コイル高さ12mmのボビンにビスマス系超電導テープ(Bi−2223)線材を巻いてなる高温超電導マグネットを10段積み重ねたものである。これをGifford−Macmahon(GM)冷凍機(住友重機械工業製)にて冷却せしめ、超電導通電時に磁場を発生する。発生磁場は約5Tである。
ii)水流経路:内径30mmのプラスチック製パイプからなる。
iii)磁性分離網:外径30mm, 肉厚1.5mm、高さ10mmのパイプに磁気網を貼り付けたものである。これを図2に示す。これを図1に示すように水流経路中にセットする。
(2)測定方法:平均70ナノメーターの直径を有する酸化鉄(Fe)微粒子を0.5%濃度となるよう水に分散し、これを図1に示す実験系に投入し、5L/minの速度で24時間循環させ、磁性分離網に捕獲される磁気微粒子量を測定した。これを6ヶ月継続し、4ヶ月間の酸化鉄の濃度を1ヶ月経過ごとに測定することにより、捕獲量の変化率を観察した。以下に実施例を示す。
【0026】
(実施例1)
ポリプロピレン1kgとマグネタイト(平均直径0.23μm)を3kg混合してなるレジンを芯成分とし、ポリプロピレン・エチレン共重合体を鞘成分とし、芯/鞘断面積比=4/6で直径600ミクロンの糸を作製した。これを用いて、目付け300g/mの平織りシートを作製し、磁気分離用布帛とした。
【0027】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート3kgにストロンチウムフェライト2kgを混合したものを芯成分とし、ポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、芯/鞘断面積比=5/5で直径600ミクロンの糸を作製した。図3に使用した紡糸装置の略図を示す。これを用いて、ウェル=26本/インチ、コース=21本/インチのニット織物を作製し、これを2枚重ねて磁気分離用布帛とした。
【0028】
(実施例3)
ナイロン6を2.5kg, マグネタイト(平均直径0.23μm)2.5kgを混合したものを芯成分とし、ポリプロピレンを鞘成分とし、芯/鞘断面積比=5/5で直径600ミクロンの糸を作製した。これを用いて、目付け300g/mの平織りシートを作製し、磁気分離用布帛とした。図3に使用した紡糸装置の略図を示す。
【0029】
(比較例1)
直径300ミクロンの磁化した鉄のワイヤーを用いて3mmピッチのメッシュを作製し、これを磁気分離網として用いた。
【0030】
(比較例2)
直径300ミクロンの磁化した鉄のワイヤーを用いて2mmピッチのメッシュを作製し、これを磁気分離網として用いた。
【0031】
(比較例3)
直径30ミクロンの鉄のワイヤーの表面に厚み5ミクロンでポリエステルを塗布したものを磁気繊維とし、これを長さ8cmに切ったものを用いて目付け300g/mの不織布を作製して磁気分離布帛とした。
【0032】
(比較例4)
直径50ミクロンのネオジウムのワイヤーに厚み5ミクロンでエナメルを塗布したものを磁気繊維とし、これを用いて不織布を作製して磁気分離布帛とした。
【0033】
(比較例5)
直径500ミクロンの炭素鋼線からなる5mmピッチのメッシュを作成し、これを磁気分離布帛として用いた。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の磁気分離用布帛及び磁気分離装置は優れた磁気分離能を有し、且つ耐久性に優れるため、廃水処理などの環境改善、レアアースメタル回収などの省資源化技術に貢献するため、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0036】
10:磁気分離網
11:超電導マグネット
12:磁気微粒子を含む水の投入口
13:プラスチックパイプ
21:芯糸用ポリマー
22:鞘糸用ポリマー
23:芯糸用ノズル孔
24:鞘糸用ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する粒子を含有する熱可塑性ポリマーを用いた繊維からなる、磁性を有する布帛。
【請求項2】
熱可塑性ポリマーがポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種類を含むことを特徴とする、請求項1記載の布帛。
【請求項3】
繊維が芯鞘型複合繊維構造を有し、芯、鞘の少なくとも一方に磁性を有する粒子を含有することを特徴とする請求項1、2いずれか1項に記載の布帛。
【請求項4】
請求項3記載の布帛を用いた磁気分離装置。
【請求項5】
超電導磁石を利用してなることを特徴とする請求項4記載の磁気分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−223738(P2012−223738A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95727(P2011−95727)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】