磁性素子
【課題】高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する磁性素子を提供する。
【解決手段】所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、磁性体を用いて構成された複数の線材2が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、線材2は、D<4δ・μsとなる太さDを有する。但し、δは取り扱い対象となる波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは線材2の比透磁率である。
【解決手段】所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、磁性体を用いて構成された複数の線材2が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、線材2は、D<4δ・μsとなる太さDを有する。但し、δは取り扱い対象となる波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは線材2の比透磁率である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の波長を有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属面にマイクロ波のような高周波の電磁波が入射した場合、電界及び磁界は表皮効果により金属の極く薄い表皮厚(skin depth)にのみ、存在する。表皮厚δは、以下の式(1)で与えられ、透磁率が大きくなると表皮厚δは小さくなるという関係にある。
【0003】
【数1】
【0004】
すなわち、比透磁率μsが増大すると表皮厚δが減少してしまうため、マイクロ波に対する表皮厚δは数nm〜数百nm程度となり、金属が磁性体の場合、マイクロ波において発生する磁束はほとんど磁性体内部を透過できないために、ほとんど磁性体として機能しない。
【0005】
そのため従来、マイクロ波に対して磁性体として機能するようにされたいわゆるマイクロ波磁性体として、球体や扁平体等の磁性体微粒子をバインダーで固定し、磁性体の表面積を増大させることで、磁束と作用する部分を増大させるようにしたものが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】日刊工業新聞社「工業材料」平成10年10月発行Vol−46,No−10、p54〜58、フレキシブル電波吸収体「軟磁性デュアルラバーシート」(大同特殊鋼(株))
【非特許文献2】オーム社刊 内藤嘉之著 電波吸収体
【非特許文献3】森北出版 橋本修著 高周波領域に於ける材料定数測定法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体は、磁性体微粒子を保持するために用いられるバインダーが誘電体であり、また、磁性体微粒子間には隙間が有るため静電容量が生じる結果、全体として容量性となり、等価的な誘電率が増大する。例えば上述の非特許文献1に記載のマイクロ波磁性体は、1GHzにおいて得られる等価的な比透磁率が8であるのに対し、等価的な比誘電率が80を超えることが示されている。このように、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、マイクロ波に対してある程度の透磁率が得られるものの、透磁率よりも遙かに大きな誘電率が付随的に生じてしまうため、純粋に透磁率のみが得られるマイクロ波磁性体を実現することが困難であるというという不都合があった。
【0007】
一方で、磁性体を工学的に用いようとする場合、例えば電波吸収体やアンテナ等、磁性体としての性質を利用した種々の磁性素子においてマイクロ波を取り扱う場合、磁性体には、入射インピーダンスZiを調節する機能が期待されている。上述のような磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の入射インピーダンスZiは、下記の式(2)で表される(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照。)。
【0008】
【数2】
【0009】
式(2)において、Z0は大気の波動インピーダンスで377Ω、μrはマイクロ波磁性体の複素透磁率で、μr=μ’−jμ”であり、εrはマイクロ波磁性体の複素誘電率で、εr=ε’−jε”であり、λはマイクロ波磁性体に入射する電磁波の波長であり、tはマイクロ波磁性体の厚さである。
【0010】
式(2)に示すように、上述のようなマイクロ波磁性体の入射インピーダンスZiは、透磁率μrが増大すると増大し、誘電率εrが増大すると減少する。そのため、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、透磁率μrを増大して入射インピーダンスZiを増大させようとしても、上述のように透磁率μrよりも大きな誘電率εrが付随的に生じてしまうため、入射インピーダンスZiを増大させることが困難である。このような観点からも、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する磁性素子の実現が望まれている。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する磁性素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁性素子は、所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、磁性体を用いて構成された複数の線材が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、前記線材は、D<4δ・μsとなる太さDを有することを特徴としている。但し、δは波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは前記線材の比透磁率を示す。
【0013】
この構成によれば、磁性体を用いて構成された線材の長さ方向の反磁界係数はゼロとなることから、このような線材を少なくとも二方向で交差して配置すると、二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、反磁界係数がゼロとなる二方向にベクトル分解されて反磁性効果が低減される。そして、磁性体を用いて構成された太さDの線材は、D<4δ・μsの条件を満たすことにより、線材単体での波長λの電磁波に対して実効的に得られる等価透磁率が1を超えるので、このように構成された磁性素子は、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能することができる。さらに、磁性体の線材は導体であるから磁性素子全体としても導体となり、誘電率が生じない。
【0014】
また、前記電磁波の周波数は、少なくとも1GHzを含むことが好ましい。この場合、当該磁性素子が磁性体として機能する周波数範囲にマイクロ波が含まれるので、当該磁性素子は、マイクロ波に対して磁性体として機能するいわゆるマイクロ波磁性体となる。
【0015】
また、前記線材の太さDは、50μm以下であることが好ましい。線材の太さDが50μm以下であれば、当該磁性素子は、1GHzの電磁波に対して磁性体として機能する
また、前記複数の線材は、互いに直交して配置されていることが好ましい。この場合、直交する二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、直交する二方向に効率よくベクトル分解されるので、効率よく反磁性効果が低減される。
【0016】
また、前記複数の線材は、互いに交差する点において導通する網にされていることが好ましい。この構成によれば、網の目にループ状の電流経路ができるので、外部から印加された磁界に対して循環電流が流れ、この循環電流により磁界が生じる結果、当該磁性素子に等価的なインダクタンスが付与されて、磁性体としての磁気的効果が増大する。
【0017】
また、前記網の目の大きさは、前記波長λの1/4以下であることが好ましい。網の目の大きさが波長λの1/4以下であれば、網の目を構成する線材は誘導性となり、磁性体として機能する。
【0018】
さらに、前記網の目の大きさは、前記波長λの1/36以下であることが好ましい。網の目の大きさが波長λの1/36以下であれば、網の目を構成する線材のインピーダンスが周波数に対して振動することが低減されるので、磁性素子により得られる磁気的効果を広帯域化することが容易となる。
【0019】
また、前記網と対向配置された導体板をさらに備え、前記網と前記導体板とは、複数箇所で接触していることが好ましい。この構成によれば、導体板を挟んで網の反対側に、網の鏡像が等価的に現れる。そうすると、網と導体板との複数の導通箇所で、網とその鏡像とが接続され、網と鏡像とで構成されるループ状の電流経路が生じる。そのため、外部から印加された磁界に対して当該電流経路に循環電流が流れ、この循環電流により磁界が生じる結果、当該磁性素子に等価的なインダクタンスが付与されて、磁性体としての磁気的効果が増大する。
【0020】
また、前記網は、織物であり、前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることが好ましい。この構成によれば、複数の線材が織物にされることにより、互いに異なる方向に交差する構造が保持される。そして、複数の線材が、織物にされることにより互いに交差する点において突出するので、この突出する箇所を導体板と接触させることが容易となる結果、織物として構成された網を、複数箇所で導体板と導通させることが容易となる。
【0021】
また、前記網は、編物であり、前記互いに交差する点が、前記導体板と接触しているようにしてもよい。この構成によれば、複数の線材が編物にされることにより、互いに異なる方向に交差する構造が保持される。そして、複数の線材が、編物にされることにより互いに交差する点において突出するので、この突出する箇所を導体板と接触させることが容易となる結果、編物として構成された網を、複数箇所で導体板と導通させることが容易となる。
【0022】
また、前記線材は、線状の非磁性体の表面に、前記表皮厚δ以上の厚さの磁性体の層を有するものであることが好ましい。この構成によれば、線材の表面に表皮厚δ以上の厚さで磁性体の層が設けられるので、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能し得る。そして、線材の芯となる部分に非磁性体を用いることができるので、材料選択の自由度が増し、例えば柔軟性の高い材料を選択して磁性素子の製造を容易にしたり、例えば安価な材料を選択して磁性素子のコストを低減したりすることが容易となる。
【0023】
また、前記線材は、磁性体を用いて構成された前記太さDの単線材を所定本数束ねたものであることが好ましい。この構成によれば、線材の損失抵抗を低減することができる。
【0024】
また、前記線材は、所定本数の前記単線材を撚り合わせたものであることが好ましい。この構成によれば、太さDの所定本数の線材が撚り合わされることにより束ねられるので、複数の線材を束にすることが容易となる。
【発明の効果】
【0025】
上述のように構成された磁性素子によれば、磁性体を用いて構成された線材の長さ方向の反磁界係数はゼロとなることから、前記線材を少なくとも二方向で交差して配置すると、二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、反磁界係数がゼロとなる二方向にベクトル分解されて反磁性効果が低減される。そして、磁性体を用いて構成された太さDの線材は、D<4δ・μsの条件を満たすことにより、線材単体での波長λの電磁波に対して実効的に得られる等価透磁率が1を超えるので、磁性素子は、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能することができる。さらに、磁性体の線材は導体であるから磁性素子全体としても導体となり、誘電率が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す模式図である。また、図2は、図1に示す磁性素子1の拡大写真である。図1に示す磁性素子1は、磁性体で構成された線材2を縦方向のたて糸及び横方向のよこ糸として用い、二方向のたて糸及びよこ糸を交互に交差させて平織にされた織物であり、たて糸として用いられた複数の線材2と、よこ糸として用いられた複数の線材2とが直交配置されて、その交差点が接触して導通する網にされている。
【0028】
なお、磁性素子1は、複数の線材2が互いに異なる方向に交差して網状にされていればよく、例えばたて糸とよこ糸の他に斜め方向の線材2を交差させて三方向の線材2によって網状にされていてもよい。また、磁性素子1は、平織に限らず、斜文織、朱子織、綾織等、種々の織物とすることができる。また、磁性素子1は、織物に限らず、編物であってもよく、例えば平編、ゴム編、パール編等、種々の編物とすることができる。磁性素子1が編物として構成されている場合、複数の線材2が、例えば互いにループ状にされた状態で、互いに異なる方向に交差するようにして編み込まれていてもよい。
【0029】
図3は、線材2の一例を示す断面図である。図3に示す線材2は、例えば7本の単線材3が撚り合わされて束にされている。なお、線材2は、複数の単線材3が束にされていればよく、必ずしも撚り合わされている必要はないが、複数の単線材3が撚り合わされて束にされていることにより、線材2を一本の糸として取り扱うことが容易となり、線材2を用いて磁性素子1を織ったり、編んだりすることが容易となる。なお、図2に示す磁性素子1は、線材2が単線で構成されている例を示している。
【0030】
単線材3は、例えばナイロン糸により構成された芯材4の表面に、磁性体層5が設けられて構成されている。芯材4は、単線材3の芯となって、磁性素子1の機械的な構造を支えるための物で、機械的な強度を有していればよく、ナイロン糸の他、例えばポリエステル繊維やガラス繊維、カーボンファイバー等の非磁性体材料を用いてもよく、導体線を用いてもよい。
【0031】
また、芯材4の表面には、例えばニッケルからなる磁性体層5が、メッキ、蒸着、塗布等により設けられている。磁性体層5としては、磁性体、すなわち直流の比透磁率μs>1となる材料を用いることができ、より好ましくはニッケル、鉄、コバルト、Permalloy、Amorphousその他の合金や化合物等、種々の強磁性体を用いることができる。
【0032】
磁性体層5は、磁性素子1を磁性体として機能させようとする対象となる電磁波の周波数範囲、すなわち磁性素子1による取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数f(波長λ)の電磁波により生じる表皮厚δ以上の厚さにされている。これにより、表皮効果によって単線材3の表面に集中する磁束や電流を磁性体層5内に浸入させて、磁性素子1による取り扱い対象の周波数範囲において、磁性体としての磁気的効果が得られるようにされている。
【0033】
このように、単線材3を、芯材4と磁性体層5とから構成することにより、磁性体の線材をそのまま用いて単線材3とする場合と比べて単線材3が柔軟になり、磁性素子1を織物や編物として構成することが容易となる。また、磁性体の線材をそのまま用いて単線材3とする場合と比べて磁性体材料の使用量を減少させることができるので、コストを低減することが容易となる。
【0034】
なお、単線材3として磁性体の線材をそのまま用いてもよく、線材2を磁性体の単線によって構成してもよい。また、線材2を磁性体の単線とした場合には、本明細書における単線材3についての説明を線材2に適用でき、例えば単線材3と同様、線材2を芯材4と磁性体層5とから構成してもよい。また、線材2、単線材3の断面形状は、円形に限らない。
【0035】
単線材3の直径(太さ)Dは、周波数f(波長λ)の電磁波により生じる表皮効果における表皮厚をδ、単線材3の直流における比透磁率をμsとした場合に、D<4δ・μsの条件を満たす値にされている。すなわち、単線材3の比透磁率μs、周波数fの電磁波に対して実効的に得られる比透磁率を等価透磁率μe、単線材3の半径をdとすると、等価透磁率μeは、以下の式(3)で与えられる。ここで、磁性体層5は、周波数fにおける表皮厚δ以上の厚さにされているから、単線材3の比透磁率μsは磁性体層5の比透磁率で近似できる。
【0036】
【数3】
【0037】
そうすると、式(3)から単線材3の半径dが小さく(細く)なるほど等価透磁率μeは増大する。また、周波数fにおいて単線材3が磁性体として機能するためには、等価透磁率μeが1より大きくなければならないから、直径D(=2d)は以下の式(4)を満たす必要がある。
【0038】
μe≒4δ・μs/D > 1
4δ・μs > D ・・・(4)
例えば、単線材3をニッケルにより構成し、1Hz〜10GHzの範囲で単線材3を磁性体として機能させるには、ニッケルの比透磁率μs=600、ニッケルの抵抗率ρ=6.90×10−8Ω・m、取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数f=10GHzであるから、式(1)に基づき、表皮厚δ=0.054μmが得られる。そうすると、式(4)に基づき、直径D<130μmとなる。
【0039】
なお、線材2が単線であれば線材2の直径Dが、式(4)の条件を満たす必要がある。また、単線材3の断面形状が円ではない場合であっても、円に近似して円の直径に相当する線材の太さDが、式(4)の条件を満たすようにすればよい。
【0040】
磁性素子1は、メッシュ数Mが、例えば20メッシュにされている。メッシュ数Mは、1インチ当たりの線数を表し、20メッシュは、たて糸、よこ糸の間隔、すなわち網の目の大きさである網の目の一辺の長さAが1.25mmであることを示している。なお、磁性素子1の網の目の、たての辺とよこの辺の長さが異なる場合には、短い方の辺の長さを網の目の一辺の長さAとすればよい。また、磁性素子1が、例えば編物として構成されている場合のように、網の目の形状が円に近い場合には、網の目の形状に近似された円の直径を網の目の大きさとしてもよい。
【0041】
網の目の一辺の長さAは、取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数fに対する波長λの1/4以下にされている。すなわち、長さAの単線材3のインピーダンスZは、長さAが波長λに近づくと、下記の式(5)で示される。
【0042】
【数4】
【0043】
式(5)において、長さAがλ/4を超えると極性が反転して誘導性から容量性になり、磁性体として機能しなくなる。
【0044】
従って、網の目の一辺の長さAは、λ/4以下にされており、例えば網の目の一辺の長さAが1.25mmであれば、波長λ=5mm、およそ60GHzまで磁性体として機能し得ることを示している。また、式(5)において、Tanhの項は、Aがλ/36以下となる範囲で微少近似することができ、ほぼTanhの項の影響を無視することができる。Tanhの項は、周期関数であるから、Tanhの項の影響が大きいと単線材3のインピーダンスZが周波数に対して振動するため、磁性素子1により得られる磁気的効果を広帯域化することの困難性が増大する。しかし、網目の一辺の長さAをλ/36以下とすれば、Tanhの項の影響を無視することができ、インピーダンスZが周波数に対して振動することが低減されるので、磁性素子1により得られる磁気的効果を広帯域化することが容易となる。
【0045】
次に、このようにして構成された磁性素子1の動作について説明する。図4は、磁性体に磁界が作用することにより生じる反磁界(demagnetizing field)について説明するための説明図である。図4に示すように、磁性体6に外部から加えられた磁界Hoが作用すると、磁性体6の両端にNとSの磁極が形成される。この磁極により生じる磁界は、磁界Hoと方向が逆向きの反磁界Hdとなり、磁界Hoが反磁界Hdにより打ち消される結果、磁性体6の内部磁界、すなわち有効磁界Hは、H=Ho−Hdとなる。
【0046】
ここで、磁界Hoにより磁性体6に生じた磁化の強さをJ(T)、真空の透磁率をμ0とすると、Hd=N・J/μ0で表される。ここでNは、反磁界係数と呼ばれ、磁性体における反磁界Hdの生じ易さを示している。反磁界係数Nは、磁性体6の形状や、外部磁界Hoが加えられる方向によって異なる。
【0047】
図5(a)は、図1に示す線材2及び図3に示す単線材3における反磁界係数Nを説明するための説明図である。また、図5(b)は、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の球体の磁性体微粒子101における反磁界係数Nを説明するための説明図である。磁性体の三つの主軸x,y,z方向の反磁界係数Nx,Ny,Nzは、Nx+Ny+Nz=1の関係が有る。
【0048】
そして、図5(b)に示すように、背景技術に係る磁性体微粒子101では、反磁界係数Nx,Ny,Nzは、1/3,1/3,1/3となり、すなわちいかなる方向の外部磁界Hoに対しても、反磁界Hdが生じて磁性体微粒子101内部の有効磁界Hが弱められる結果、磁性体微粒子101の磁気的作用が弱められる。一方、図5(a)に示すように、図1に示す磁性素子1で用いられる線材2、単線材3のような線状の磁性体、すなわち全体の長さ>>直径となるような線材2、単線材3に対しては、磁性体の長さ方向に対して垂直な反磁界係数Nx,Nyが1/2,1/2となり、磁性体の長さ方向の反磁界係数Nzがゼロとなることが知られている((株)学献社刊 山田、宮沢、別所著 基礎磁気工学)。
【0049】
ここで、印加磁界をHo、真空の透磁率をμ0、磁性体微粒子101や線材2、単線材3等の磁性体の直流での比透磁率をμs、等価透磁率をμe、反磁界係数をNとすると、磁性体内の磁束密度Bは、以下の式(6)で与えられる。
【0050】
【数5】
【0051】
背景技術に係る磁性体微粒子101では、磁性体微粒子101を強磁性体で構成すると、比透磁率μsは、ニッケルで600、鉄で5000、PermalloyやAmorphousでは1万を超え、式(6)における1/μsの項は微少近似により無視でき、N=1/3であることから、下記の式(7)が得られる。
【0052】
【数6】
【0053】
よって、背景技術に係る球体の磁性体微粒子101単体では、例え比透磁率μsが600以上になるような強磁性体を用いたとしても、反磁性効果により等価透磁率μeは3となり、さらに表皮効果により等価透磁率μeが減ぜられ、等価透磁率μeは、3に満たない値となってしまう。
【0054】
一方、図1に示す磁性素子1で用いられる単線材3単体では、式(6)にN=0を代入すると、μ0μeHo=μ0μsHoとなり、μe=μsが得られる。すなわち、図1に示す磁性素子1で用いられる単線材3単体では、線材の長さ方向における等価透磁率μeは、反磁性効果によっても磁性体材料の比透磁率μsがそのまま得られ、例えば磁性体材料として、ニッケルを用いれば等価透磁率μeは600、鉄を用いれば等価透磁率μeは5000となり、表皮効果による透磁率の低下を考慮しても、背景技術に係る球体の磁性体微粒子101単体の場合と比べて大幅に等価透磁率μeを増大させることができる。
【0055】
図6は、磁界が印加された単線材3における磁束の状態を説明するための説明図である。図6に示すように、磁界が印加されると、単線材3の外部に磁束Beが生じ、単線材3の表皮厚δ内に磁束Biが生じる。ここで、単線材3が強磁性体であれば、Bi>>Beとなり、磁束Beは無視できる。そうすると、単線材3のインダクタンスは表皮厚δの総断面積に比例することとなる。
【0056】
また、上述のように、単線材3単体において、反磁界係数Nがゼロとなるのは長さ方向の反磁界係数Nzだけである。そうすると、磁性素子1では、複数の単線材3が束ねられて線材2にされ、さらに複数の線材2が、たて糸とよこ糸とで互いに直交して配置されているので、いかなる方向の磁束も、たて糸における反磁界係数Nzがゼロとなる長さ方向と、よこ糸における反磁界係数Nzがゼロとなる長さ方向とにベクトル分解されて反磁性効果が低減され、磁性体材料の比透磁率μsに対する等価透磁率μeの低下を抑制することができる。
【0057】
上述のように構成された磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数範囲は、以下のようになる。すなわち、磁性素子1は、直流に対しては線材2が磁性体を有するからそのまま比透磁率μsの磁性体として機能し、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の下限はゼロ(直流)である。一方、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の上限は、単線材3の直径DがD<4δ・μsの条件を満たし、かつ網目の一辺の長さAが、波長λの1/4以下となる周波数で与えられる。従って、磁性体材料の比透磁率μs、直径D、及び長さAを適宜設定することで、例えば直流からマイクロ波周波数(1GHz〜1THz)まで、磁性体として機能させることができる。
【0058】
なお、たて糸とよこ糸とは、互いに異なる方向に交差して配置されていれば、いかなる方向の磁束であってもベクトル分解して処理することができるが、直交配置されていれば、磁束を効率よくベクトル分解することができるので、反磁性効果を低減することが容易となる。
【0059】
また、線材2は導体であるため磁性素子1には誘電率が存在せず、従ってこのように構成された磁性素子1は、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する。
【0060】
そして、たて糸の線材2と、よこ糸の線材2とは、互いに交差する点において接触し、導通している。従って、図1に示すように、磁界が印加された磁性素子1の各網の目において循環電流Iが流れる。ここで、略方形の網の目の各辺を構成する線材2は、それぞれインダクタンスLとして機能する。さらに、循環電流Iによって磁界が生じるため、等価的なインダクタンスが生じることとなる。この場合、網の目の一辺の長さAは、λ/4以下、望ましくはλ/36以下の範囲内で、大きくなるほど循環電流Iのループが大きくなり、等価的なインダクタンスが増大し、従って磁性素子1の磁気的効果が増大する。
【0061】
また、上述のように、単線材3の半径dが小さく(細く)なるほど等価透磁率μeは増大するが、単線材3が細くなるにつれて損失抵抗が増大する。しかし、線材2は、複数の単線材3が撚り合わされて構成されているため、単線材3の撚り合わせ本数をKとすると、線材2の損失抵抗は単線材3の1/Kとなる。一方、線材2のインダクタンスは、複数の単線材3が撚り合わされることにより単線材3のインダクタンスが並列接続されて1/Kになるものの、単線材3における表皮厚δの合計がK倍になるため全体としてインダクタンスはほとんど変化しない。
【0062】
そうすると、単線材3を細くしても、単線材3の撚り合わせ本数Kを調節することにより損失抵抗を低減し、磁性体として機能させることができるので、単線材3の直径Dとして用いることのできる範囲に下限はないが、例えば直径Dを1μmとすることができる。また、単線材3の直径Dの上限は、D<4δ・μsにより与えられ、マイクロ波磁性体として実用的には、例えば50μmである。
【0063】
図7は、直径0.5mm、長さ59mmのニッケル線におけるインピーダンスを、撚り合わせ本数Kを変化させて測定を行った実験結果を示す表形式の説明図である。図7に示すように、撚り合わせ本数Kを、1本、2本、3本、5本と増加させると、抵抗値R(インピーダンスの実部)は1/Kとなる一方、インダクタンス(インピーダンスの虚部)は、ほぼ一定となり、単線材3の撚り合わせ本数をKにすると、損失抵抗を1/Kにさせつつインダクタンスをほぼ一定に保てることが実験的に確認できた。
【0064】
このようにして構成された磁性素子1の入射インピーダンスZiは、下記の式(8)で表される。
【0065】
【数7】
【0066】
但し、Rは網目の一辺(長さA)における線材2の周波数fの電磁波に対する抵抗値、Kは線材2における単線材3の撚り合わせ本数、Lは線材2の網目の一辺(長さA)でのインダクタンス、μeは線材2単体での等価透磁率、φは単線材3を撚り合わせた線材2の仕上り外径である。
【0067】
ここで、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、入射インピーダンスZiは、式(2)によって与えられ、透磁率μrを増大させると透磁率μrよりも大きな誘電率εrが付随的に生じてしまうため、入射インピーダンスZiを増大させることが困難であったが、図1に示す磁性素子1では、入射インピーダンスZiは、式(8)で与えられ、かつ誘電率を有さないから、単線材3の等価透磁率μeや抵抗R、単線材3の撚り合わせ本数K、単線材3の半径d、網目の一辺の長さA(メッシュ数M)等のパラメータを調節して所望の入射インピーダンスZiを得ることが容易である。
【0068】
また、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、式(2)において、Tanhの項は、波長λに対して周期関数となるため、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、周波数に対して入射インピーダンスZiが振動する結果、広帯域において所望の入射インピーダンスZiを得ることが困難であるという不都合があった。
【0069】
一方、図1に示す磁性素子1では、入射インピーダンスZiは、式(8)で与えられ、単調関数となって周波数に対する周期性を有さないため、広帯域において所望の入射インピーダンスZiを得ることが容易であり、磁気的効果の広帯域化が容易である。
【0070】
また、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、式(2)において、入射インピーダンスZiが磁性体の厚さtの関数となっているため、所望の入射インピーダンスZiを得るためには磁性体の厚さtを確保する必要がある。一方、図1に示す磁性素子1では、式(8)に磁性体の厚さtが含まれず、厚さtと無関係に入射インピーダンスZiが得られるので、磁性素子1を薄くすることが容易である。
【0071】
図8は、ニッケルの単線材3の直径D、メッシュ数M、撚り合わせ本数Kを変化させた場合の磁性素子1の入射インピーダンスZiを示すグラフである。グラフG1は、直径D=50μm、メッシュ数M=200、撚り合わせ本数K=1(線材2は単線)の場合を示し、グラフG2は、直径D=12μm、メッシュ数M=26、撚り合わせ本数K=38の場合を示している。
【0072】
図8に示すように、グラフG1,G2のいずれにおいても1GHz〜4GHzのマイクロ波に対してある程度の入射インピーダンスZiが得られ、磁性体として機能することが確認できた。また、グラフG1よりも、単線材3が細く、メッシュ数Mが小さく(循環電流ループが大きい)、撚り合わせ本数Kが多いグラフG2の方が、入射インピーダンスZiが100倍程度増大することが確認でき、上述のように、これらのパラメータを調節することにより、所望の入射インピーダンスZiが得られることが確認できた。図8には、1GHz〜4GHzの周波数範囲しか示していないが、網の目の一辺の長さAが、波長λの1/4以下、好ましくは1/36以下となる範囲で、1GHz未満の周波数や、4GHzを超える高周波数の領域においても適用できる。
【0073】
なお、線材2をたて糸及びよこ糸として用い、たて糸とよこ糸とを交互に交差させて織物にした例を示したが、たて糸とよこ糸とを交互に交差させる例に限らず、例えば図9に示すように、線材2のたて糸とよこ糸とを交互にすることなく交差させた構成であってもよく、交互に交差させて平織にする代わりに接着剤で接着するなどして構成してもよい。また、線材2のたて糸とよこ糸との間に例えば間隔を空けて導通させない構成としてもよく、たて糸とよこ糸とが直交せず、斜めに交差する構成としてもよい。
【0074】
線材2のたて糸とよこ糸との間に例えば間隔を空けて導通させない構成とした場合には、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の上限は、単線材3の直径DがD<4δ・μsの条件を満たしていればよく、磁性体材料の比透磁率μs、及び直径Dを適宜設定することで、例えば直流からマイクロ波周波数(1GHz〜1THz)まで、磁性体として機能させることができる。
【0075】
また、磁性素子1を、線材2で織ったり、編んだりすることにより構成する例を示したが、複数の線材2は、同一平面内で、互いに異なる方向に交差点を共有するように交差して配置されることにより網にされていてもよく、例えば板状の磁性体にプレス加工やエッチングを施すことにより、網の目となる複数の開口部を形成し、残余の部分が同一平面内で互いに異なる方向に交差する網にされる構成としてもよい。この場合、残余の網が、互いに交差する線材に相当している。さらに、このように構成された網を積層することにより、複数の線材が束にされた構成としてもよい。
【0076】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る磁性素子について説明する。図10は、本発明の第2の実施形態に係る磁性素子1aの構成の一例を示す斜視図である。図10に示す磁性素子1aは、図1に示す磁性素子1の背面に、導体板7が対向配置されて構成されている。そして、磁性素子1と導体板7とは、磁性素子1における線材2が相互に交差する点において導体板7と接触し、導通している。
【0077】
すなわち、磁性素子1は、織物として構成されているため、図2に示すように、線材2が相互に交差する点において線材2が凸状に突出するので、磁性素子1と導体板7とを密着させることにより、この突出箇所を導体板7と接触させて導通させるようになっている。なお、磁性素子1を編物として構成した場合であっても同様に、磁性素子1と導体板7とを密着させることにより、編み目において線材2が凸状に突出する箇所を導体板7と接触させて導通させることが容易である。
【0078】
図11は、図10に示す磁性素子1aの断面図である。図10に示すように、磁性素子1における線材2のたて糸21は、線材2のよこ糸22と交差する点、特によこ糸22によってたて糸21が導体板7側に押しつけられて突出する位置P1において導体板7と接触し、導通している。そうすると、導体板7を挟んで反対側に、たて糸21の鏡像8が等価的に現れる。そして、たて糸21と鏡像8とでループが構成され、循環電流Imが生じる。そうすると、循環電流Imによって磁界が生じるため、磁性素子1aに等価的なインダクタンスが生じることとなる。よこ糸22についても、たて糸21と同様に、循環電流Imが生じて磁界が生じるため、磁性素子1aに等価的なインダクタンスが生じることとなる。
【0079】
このように、磁性素子1aにおいては、磁性素子1に加えてさらに導体板7の鏡像効果によるインダクタンスが付加されるので、磁性素子1aにおける入射インピーダンスZiを磁性素子1のみの場合よりさらに増大させ、磁気的効果を増大させることができる。
【0080】
なお、図11においては、たて糸21がよこ糸22によって導体板7に押しつけられる位置P1で導通する例を示したが、たて糸21は、よこ糸22と交差する位置P2においてもよこ糸22を介して導体板7と導通するので、たて糸21とよこ糸22との接触抵抗が十分小さければ、位置P1と位置P2との間で循環電流Imが生じ得る。
【0081】
このようにして得られた磁性素子1aの入射インピーダンスZiを実験的に測定したところ、φ50μmの単線を線材2として用い、200メッシュの平織にした磁性素子1と、Zi=2Ω+j1230の導体板7とで構成された磁性素子1aでは、Zi=4.6Ω+j1258となり、磁性素子1aのインピーダンスZiが導体板7に対して増大することが確認できた。特にインピーダンスZiの実数部は、導体板7の2倍以上となり、顕著な効果が得られた。
【0082】
さらに、φ12μmの単線材3を36本撚り線にした線材2を用い、28メッシュの平織にした磁性素子1と、Zi=2Ω+j1230の導体板7とで構成された磁性素子1aでは、Zi=6Ω+j1320となった。すなわち、単線材3を細くしてさらに撚り線にした線材2を用いて編み目を大きくすることで、インピーダンスZiが増大することが確認できた。特にインピーダンスZiの実数部は、導体板7の3倍となり、顕著な効果が得られた。
【0083】
なお、入射インピーダンスZiの測定方法としては、空間定在波法が知られているが、空間定在波法による入射インピーダンスZiの測定には電波暗室が用いられ、1m近いアンテナを使用するため、入射インピーダンスZiを測定しようとする試料は、このアンテナを覆うような大きさ、例えば3m×3m程度以上の試料が必要となり、測定が極めて困難である。そのため、本明細書において、入射インピーダンスZiの測定には、以下の方法を用いた。
【0084】
すなわち、接地した導体板7の上に磁性素子1を配置して磁性素子1aを構成し、磁性素子1から所定の距離hだけ離れた位置に、一端が開放端にされ、他端が50Ωの伝送線路に接続された共振線を対向配置する。共振線としては、長さがλ/4(λは波長)に相当する56.5mm、幅が9mmのものを用いた。そして、50Ωの伝送線路を介してこの共振線に高周波信号を印加し、この高周波信号の周波数を変化させながら50Ωの伝送線路で生じる減衰量を測定する。そうすると、共振線と磁性素子1aとの共振周波数で減衰量が最大となるので、減衰量のピーク点を検出することで、共振周波数が検出できる。この共振周波数は、磁性素子1aの入射インピーダンスZiにおけるリアクタンス成分に応じて変化し、減衰量のピークは、入射インピーダンスZiの損失抵抗成分に応じて変化するので、共振周波数と減衰量のピークとを測定することで、入射インピーダンスZiを算出することができる。
【0085】
また、図7におけるニッケル線のインピーダンスについては、長さがλ/4(λは波長)に相当する59mmのニッケル線(被測定物)を、上述の共振線として用い、導体板と距離hを離して対向配置することで、上述の磁性素子1aと同様の方法でインピーダンスを測定した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す磁性素子の代用写真である。
【図3】図1に示す線材の一例を示す断面図である。
【図4】磁性体に磁界が作用することにより生じる反磁界について説明するための説明図である。
【図5】(a)は、図1に示す線材における反磁界係数を説明するための説明図である。(b)は、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の球体の磁性体微粒子における反磁界係数を説明するための説明図である。
【図6】磁界が印加された線材における磁束の状態を説明するための説明図である。
【図7】直径0.5mm、長さ59mmのニッケル線におけるインピーダンスを、撚り合わせ本数Kを変化させて測定を行った実験結果を示す表形式の説明図である。
【図8】図1に示す磁性素子の入射インピーダンスを示すグラフである。
【図9】図1に示す磁性素子の変形例を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す斜視図である。
【図11】図10に示す磁性素子の断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1,1a 磁性素子
2 線材
3 単線材
4 芯材
5 磁性体層
6 磁性体
7 導体板
8 鏡像
21 たて糸
22 よこ糸
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の波長を有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属面にマイクロ波のような高周波の電磁波が入射した場合、電界及び磁界は表皮効果により金属の極く薄い表皮厚(skin depth)にのみ、存在する。表皮厚δは、以下の式(1)で与えられ、透磁率が大きくなると表皮厚δは小さくなるという関係にある。
【0003】
【数1】
【0004】
すなわち、比透磁率μsが増大すると表皮厚δが減少してしまうため、マイクロ波に対する表皮厚δは数nm〜数百nm程度となり、金属が磁性体の場合、マイクロ波において発生する磁束はほとんど磁性体内部を透過できないために、ほとんど磁性体として機能しない。
【0005】
そのため従来、マイクロ波に対して磁性体として機能するようにされたいわゆるマイクロ波磁性体として、球体や扁平体等の磁性体微粒子をバインダーで固定し、磁性体の表面積を増大させることで、磁束と作用する部分を増大させるようにしたものが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】日刊工業新聞社「工業材料」平成10年10月発行Vol−46,No−10、p54〜58、フレキシブル電波吸収体「軟磁性デュアルラバーシート」(大同特殊鋼(株))
【非特許文献2】オーム社刊 内藤嘉之著 電波吸収体
【非特許文献3】森北出版 橋本修著 高周波領域に於ける材料定数測定法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体は、磁性体微粒子を保持するために用いられるバインダーが誘電体であり、また、磁性体微粒子間には隙間が有るため静電容量が生じる結果、全体として容量性となり、等価的な誘電率が増大する。例えば上述の非特許文献1に記載のマイクロ波磁性体は、1GHzにおいて得られる等価的な比透磁率が8であるのに対し、等価的な比誘電率が80を超えることが示されている。このように、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、マイクロ波に対してある程度の透磁率が得られるものの、透磁率よりも遙かに大きな誘電率が付随的に生じてしまうため、純粋に透磁率のみが得られるマイクロ波磁性体を実現することが困難であるというという不都合があった。
【0007】
一方で、磁性体を工学的に用いようとする場合、例えば電波吸収体やアンテナ等、磁性体としての性質を利用した種々の磁性素子においてマイクロ波を取り扱う場合、磁性体には、入射インピーダンスZiを調節する機能が期待されている。上述のような磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の入射インピーダンスZiは、下記の式(2)で表される(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照。)。
【0008】
【数2】
【0009】
式(2)において、Z0は大気の波動インピーダンスで377Ω、μrはマイクロ波磁性体の複素透磁率で、μr=μ’−jμ”であり、εrはマイクロ波磁性体の複素誘電率で、εr=ε’−jε”であり、λはマイクロ波磁性体に入射する電磁波の波長であり、tはマイクロ波磁性体の厚さである。
【0010】
式(2)に示すように、上述のようなマイクロ波磁性体の入射インピーダンスZiは、透磁率μrが増大すると増大し、誘電率εrが増大すると減少する。そのため、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、透磁率μrを増大して入射インピーダンスZiを増大させようとしても、上述のように透磁率μrよりも大きな誘電率εrが付随的に生じてしまうため、入射インピーダンスZiを増大させることが困難である。このような観点からも、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する磁性素子の実現が望まれている。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する磁性素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁性素子は、所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、磁性体を用いて構成された複数の線材が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、前記線材は、D<4δ・μsとなる太さDを有することを特徴としている。但し、δは波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは前記線材の比透磁率を示す。
【0013】
この構成によれば、磁性体を用いて構成された線材の長さ方向の反磁界係数はゼロとなることから、このような線材を少なくとも二方向で交差して配置すると、二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、反磁界係数がゼロとなる二方向にベクトル分解されて反磁性効果が低減される。そして、磁性体を用いて構成された太さDの線材は、D<4δ・μsの条件を満たすことにより、線材単体での波長λの電磁波に対して実効的に得られる等価透磁率が1を超えるので、このように構成された磁性素子は、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能することができる。さらに、磁性体の線材は導体であるから磁性素子全体としても導体となり、誘電率が生じない。
【0014】
また、前記電磁波の周波数は、少なくとも1GHzを含むことが好ましい。この場合、当該磁性素子が磁性体として機能する周波数範囲にマイクロ波が含まれるので、当該磁性素子は、マイクロ波に対して磁性体として機能するいわゆるマイクロ波磁性体となる。
【0015】
また、前記線材の太さDは、50μm以下であることが好ましい。線材の太さDが50μm以下であれば、当該磁性素子は、1GHzの電磁波に対して磁性体として機能する
また、前記複数の線材は、互いに直交して配置されていることが好ましい。この場合、直交する二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、直交する二方向に効率よくベクトル分解されるので、効率よく反磁性効果が低減される。
【0016】
また、前記複数の線材は、互いに交差する点において導通する網にされていることが好ましい。この構成によれば、網の目にループ状の電流経路ができるので、外部から印加された磁界に対して循環電流が流れ、この循環電流により磁界が生じる結果、当該磁性素子に等価的なインダクタンスが付与されて、磁性体としての磁気的効果が増大する。
【0017】
また、前記網の目の大きさは、前記波長λの1/4以下であることが好ましい。網の目の大きさが波長λの1/4以下であれば、網の目を構成する線材は誘導性となり、磁性体として機能する。
【0018】
さらに、前記網の目の大きさは、前記波長λの1/36以下であることが好ましい。網の目の大きさが波長λの1/36以下であれば、網の目を構成する線材のインピーダンスが周波数に対して振動することが低減されるので、磁性素子により得られる磁気的効果を広帯域化することが容易となる。
【0019】
また、前記網と対向配置された導体板をさらに備え、前記網と前記導体板とは、複数箇所で接触していることが好ましい。この構成によれば、導体板を挟んで網の反対側に、網の鏡像が等価的に現れる。そうすると、網と導体板との複数の導通箇所で、網とその鏡像とが接続され、網と鏡像とで構成されるループ状の電流経路が生じる。そのため、外部から印加された磁界に対して当該電流経路に循環電流が流れ、この循環電流により磁界が生じる結果、当該磁性素子に等価的なインダクタンスが付与されて、磁性体としての磁気的効果が増大する。
【0020】
また、前記網は、織物であり、前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることが好ましい。この構成によれば、複数の線材が織物にされることにより、互いに異なる方向に交差する構造が保持される。そして、複数の線材が、織物にされることにより互いに交差する点において突出するので、この突出する箇所を導体板と接触させることが容易となる結果、織物として構成された網を、複数箇所で導体板と導通させることが容易となる。
【0021】
また、前記網は、編物であり、前記互いに交差する点が、前記導体板と接触しているようにしてもよい。この構成によれば、複数の線材が編物にされることにより、互いに異なる方向に交差する構造が保持される。そして、複数の線材が、編物にされることにより互いに交差する点において突出するので、この突出する箇所を導体板と接触させることが容易となる結果、編物として構成された網を、複数箇所で導体板と導通させることが容易となる。
【0022】
また、前記線材は、線状の非磁性体の表面に、前記表皮厚δ以上の厚さの磁性体の層を有するものであることが好ましい。この構成によれば、線材の表面に表皮厚δ以上の厚さで磁性体の層が設けられるので、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能し得る。そして、線材の芯となる部分に非磁性体を用いることができるので、材料選択の自由度が増し、例えば柔軟性の高い材料を選択して磁性素子の製造を容易にしたり、例えば安価な材料を選択して磁性素子のコストを低減したりすることが容易となる。
【0023】
また、前記線材は、磁性体を用いて構成された前記太さDの単線材を所定本数束ねたものであることが好ましい。この構成によれば、線材の損失抵抗を低減することができる。
【0024】
また、前記線材は、所定本数の前記単線材を撚り合わせたものであることが好ましい。この構成によれば、太さDの所定本数の線材が撚り合わされることにより束ねられるので、複数の線材を束にすることが容易となる。
【発明の効果】
【0025】
上述のように構成された磁性素子によれば、磁性体を用いて構成された線材の長さ方向の反磁界係数はゼロとなることから、前記線材を少なくとも二方向で交差して配置すると、二方向に対して反磁界係数がゼロとなるように線状の磁性体が配置される。そうすると、外部から印加されたいかなる方向の磁束も、反磁界係数がゼロとなる二方向にベクトル分解されて反磁性効果が低減される。そして、磁性体を用いて構成された太さDの線材は、D<4δ・μsの条件を満たすことにより、線材単体での波長λの電磁波に対して実効的に得られる等価透磁率が1を超えるので、磁性素子は、波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能することができる。さらに、磁性体の線材は導体であるから磁性素子全体としても導体となり、誘電率が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す模式図である。また、図2は、図1に示す磁性素子1の拡大写真である。図1に示す磁性素子1は、磁性体で構成された線材2を縦方向のたて糸及び横方向のよこ糸として用い、二方向のたて糸及びよこ糸を交互に交差させて平織にされた織物であり、たて糸として用いられた複数の線材2と、よこ糸として用いられた複数の線材2とが直交配置されて、その交差点が接触して導通する網にされている。
【0028】
なお、磁性素子1は、複数の線材2が互いに異なる方向に交差して網状にされていればよく、例えばたて糸とよこ糸の他に斜め方向の線材2を交差させて三方向の線材2によって網状にされていてもよい。また、磁性素子1は、平織に限らず、斜文織、朱子織、綾織等、種々の織物とすることができる。また、磁性素子1は、織物に限らず、編物であってもよく、例えば平編、ゴム編、パール編等、種々の編物とすることができる。磁性素子1が編物として構成されている場合、複数の線材2が、例えば互いにループ状にされた状態で、互いに異なる方向に交差するようにして編み込まれていてもよい。
【0029】
図3は、線材2の一例を示す断面図である。図3に示す線材2は、例えば7本の単線材3が撚り合わされて束にされている。なお、線材2は、複数の単線材3が束にされていればよく、必ずしも撚り合わされている必要はないが、複数の単線材3が撚り合わされて束にされていることにより、線材2を一本の糸として取り扱うことが容易となり、線材2を用いて磁性素子1を織ったり、編んだりすることが容易となる。なお、図2に示す磁性素子1は、線材2が単線で構成されている例を示している。
【0030】
単線材3は、例えばナイロン糸により構成された芯材4の表面に、磁性体層5が設けられて構成されている。芯材4は、単線材3の芯となって、磁性素子1の機械的な構造を支えるための物で、機械的な強度を有していればよく、ナイロン糸の他、例えばポリエステル繊維やガラス繊維、カーボンファイバー等の非磁性体材料を用いてもよく、導体線を用いてもよい。
【0031】
また、芯材4の表面には、例えばニッケルからなる磁性体層5が、メッキ、蒸着、塗布等により設けられている。磁性体層5としては、磁性体、すなわち直流の比透磁率μs>1となる材料を用いることができ、より好ましくはニッケル、鉄、コバルト、Permalloy、Amorphousその他の合金や化合物等、種々の強磁性体を用いることができる。
【0032】
磁性体層5は、磁性素子1を磁性体として機能させようとする対象となる電磁波の周波数範囲、すなわち磁性素子1による取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数f(波長λ)の電磁波により生じる表皮厚δ以上の厚さにされている。これにより、表皮効果によって単線材3の表面に集中する磁束や電流を磁性体層5内に浸入させて、磁性素子1による取り扱い対象の周波数範囲において、磁性体としての磁気的効果が得られるようにされている。
【0033】
このように、単線材3を、芯材4と磁性体層5とから構成することにより、磁性体の線材をそのまま用いて単線材3とする場合と比べて単線材3が柔軟になり、磁性素子1を織物や編物として構成することが容易となる。また、磁性体の線材をそのまま用いて単線材3とする場合と比べて磁性体材料の使用量を減少させることができるので、コストを低減することが容易となる。
【0034】
なお、単線材3として磁性体の線材をそのまま用いてもよく、線材2を磁性体の単線によって構成してもよい。また、線材2を磁性体の単線とした場合には、本明細書における単線材3についての説明を線材2に適用でき、例えば単線材3と同様、線材2を芯材4と磁性体層5とから構成してもよい。また、線材2、単線材3の断面形状は、円形に限らない。
【0035】
単線材3の直径(太さ)Dは、周波数f(波長λ)の電磁波により生じる表皮効果における表皮厚をδ、単線材3の直流における比透磁率をμsとした場合に、D<4δ・μsの条件を満たす値にされている。すなわち、単線材3の比透磁率μs、周波数fの電磁波に対して実効的に得られる比透磁率を等価透磁率μe、単線材3の半径をdとすると、等価透磁率μeは、以下の式(3)で与えられる。ここで、磁性体層5は、周波数fにおける表皮厚δ以上の厚さにされているから、単線材3の比透磁率μsは磁性体層5の比透磁率で近似できる。
【0036】
【数3】
【0037】
そうすると、式(3)から単線材3の半径dが小さく(細く)なるほど等価透磁率μeは増大する。また、周波数fにおいて単線材3が磁性体として機能するためには、等価透磁率μeが1より大きくなければならないから、直径D(=2d)は以下の式(4)を満たす必要がある。
【0038】
μe≒4δ・μs/D > 1
4δ・μs > D ・・・(4)
例えば、単線材3をニッケルにより構成し、1Hz〜10GHzの範囲で単線材3を磁性体として機能させるには、ニッケルの比透磁率μs=600、ニッケルの抵抗率ρ=6.90×10−8Ω・m、取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数f=10GHzであるから、式(1)に基づき、表皮厚δ=0.054μmが得られる。そうすると、式(4)に基づき、直径D<130μmとなる。
【0039】
なお、線材2が単線であれば線材2の直径Dが、式(4)の条件を満たす必要がある。また、単線材3の断面形状が円ではない場合であっても、円に近似して円の直径に相当する線材の太さDが、式(4)の条件を満たすようにすればよい。
【0040】
磁性素子1は、メッシュ数Mが、例えば20メッシュにされている。メッシュ数Mは、1インチ当たりの線数を表し、20メッシュは、たて糸、よこ糸の間隔、すなわち網の目の大きさである網の目の一辺の長さAが1.25mmであることを示している。なお、磁性素子1の網の目の、たての辺とよこの辺の長さが異なる場合には、短い方の辺の長さを網の目の一辺の長さAとすればよい。また、磁性素子1が、例えば編物として構成されている場合のように、網の目の形状が円に近い場合には、網の目の形状に近似された円の直径を網の目の大きさとしてもよい。
【0041】
網の目の一辺の長さAは、取り扱い対象の周波数範囲における上限の周波数fに対する波長λの1/4以下にされている。すなわち、長さAの単線材3のインピーダンスZは、長さAが波長λに近づくと、下記の式(5)で示される。
【0042】
【数4】
【0043】
式(5)において、長さAがλ/4を超えると極性が反転して誘導性から容量性になり、磁性体として機能しなくなる。
【0044】
従って、網の目の一辺の長さAは、λ/4以下にされており、例えば網の目の一辺の長さAが1.25mmであれば、波長λ=5mm、およそ60GHzまで磁性体として機能し得ることを示している。また、式(5)において、Tanhの項は、Aがλ/36以下となる範囲で微少近似することができ、ほぼTanhの項の影響を無視することができる。Tanhの項は、周期関数であるから、Tanhの項の影響が大きいと単線材3のインピーダンスZが周波数に対して振動するため、磁性素子1により得られる磁気的効果を広帯域化することの困難性が増大する。しかし、網目の一辺の長さAをλ/36以下とすれば、Tanhの項の影響を無視することができ、インピーダンスZが周波数に対して振動することが低減されるので、磁性素子1により得られる磁気的効果を広帯域化することが容易となる。
【0045】
次に、このようにして構成された磁性素子1の動作について説明する。図4は、磁性体に磁界が作用することにより生じる反磁界(demagnetizing field)について説明するための説明図である。図4に示すように、磁性体6に外部から加えられた磁界Hoが作用すると、磁性体6の両端にNとSの磁極が形成される。この磁極により生じる磁界は、磁界Hoと方向が逆向きの反磁界Hdとなり、磁界Hoが反磁界Hdにより打ち消される結果、磁性体6の内部磁界、すなわち有効磁界Hは、H=Ho−Hdとなる。
【0046】
ここで、磁界Hoにより磁性体6に生じた磁化の強さをJ(T)、真空の透磁率をμ0とすると、Hd=N・J/μ0で表される。ここでNは、反磁界係数と呼ばれ、磁性体における反磁界Hdの生じ易さを示している。反磁界係数Nは、磁性体6の形状や、外部磁界Hoが加えられる方向によって異なる。
【0047】
図5(a)は、図1に示す線材2及び図3に示す単線材3における反磁界係数Nを説明するための説明図である。また、図5(b)は、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の球体の磁性体微粒子101における反磁界係数Nを説明するための説明図である。磁性体の三つの主軸x,y,z方向の反磁界係数Nx,Ny,Nzは、Nx+Ny+Nz=1の関係が有る。
【0048】
そして、図5(b)に示すように、背景技術に係る磁性体微粒子101では、反磁界係数Nx,Ny,Nzは、1/3,1/3,1/3となり、すなわちいかなる方向の外部磁界Hoに対しても、反磁界Hdが生じて磁性体微粒子101内部の有効磁界Hが弱められる結果、磁性体微粒子101の磁気的作用が弱められる。一方、図5(a)に示すように、図1に示す磁性素子1で用いられる線材2、単線材3のような線状の磁性体、すなわち全体の長さ>>直径となるような線材2、単線材3に対しては、磁性体の長さ方向に対して垂直な反磁界係数Nx,Nyが1/2,1/2となり、磁性体の長さ方向の反磁界係数Nzがゼロとなることが知られている((株)学献社刊 山田、宮沢、別所著 基礎磁気工学)。
【0049】
ここで、印加磁界をHo、真空の透磁率をμ0、磁性体微粒子101や線材2、単線材3等の磁性体の直流での比透磁率をμs、等価透磁率をμe、反磁界係数をNとすると、磁性体内の磁束密度Bは、以下の式(6)で与えられる。
【0050】
【数5】
【0051】
背景技術に係る磁性体微粒子101では、磁性体微粒子101を強磁性体で構成すると、比透磁率μsは、ニッケルで600、鉄で5000、PermalloyやAmorphousでは1万を超え、式(6)における1/μsの項は微少近似により無視でき、N=1/3であることから、下記の式(7)が得られる。
【0052】
【数6】
【0053】
よって、背景技術に係る球体の磁性体微粒子101単体では、例え比透磁率μsが600以上になるような強磁性体を用いたとしても、反磁性効果により等価透磁率μeは3となり、さらに表皮効果により等価透磁率μeが減ぜられ、等価透磁率μeは、3に満たない値となってしまう。
【0054】
一方、図1に示す磁性素子1で用いられる単線材3単体では、式(6)にN=0を代入すると、μ0μeHo=μ0μsHoとなり、μe=μsが得られる。すなわち、図1に示す磁性素子1で用いられる単線材3単体では、線材の長さ方向における等価透磁率μeは、反磁性効果によっても磁性体材料の比透磁率μsがそのまま得られ、例えば磁性体材料として、ニッケルを用いれば等価透磁率μeは600、鉄を用いれば等価透磁率μeは5000となり、表皮効果による透磁率の低下を考慮しても、背景技術に係る球体の磁性体微粒子101単体の場合と比べて大幅に等価透磁率μeを増大させることができる。
【0055】
図6は、磁界が印加された単線材3における磁束の状態を説明するための説明図である。図6に示すように、磁界が印加されると、単線材3の外部に磁束Beが生じ、単線材3の表皮厚δ内に磁束Biが生じる。ここで、単線材3が強磁性体であれば、Bi>>Beとなり、磁束Beは無視できる。そうすると、単線材3のインダクタンスは表皮厚δの総断面積に比例することとなる。
【0056】
また、上述のように、単線材3単体において、反磁界係数Nがゼロとなるのは長さ方向の反磁界係数Nzだけである。そうすると、磁性素子1では、複数の単線材3が束ねられて線材2にされ、さらに複数の線材2が、たて糸とよこ糸とで互いに直交して配置されているので、いかなる方向の磁束も、たて糸における反磁界係数Nzがゼロとなる長さ方向と、よこ糸における反磁界係数Nzがゼロとなる長さ方向とにベクトル分解されて反磁性効果が低減され、磁性体材料の比透磁率μsに対する等価透磁率μeの低下を抑制することができる。
【0057】
上述のように構成された磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数範囲は、以下のようになる。すなわち、磁性素子1は、直流に対しては線材2が磁性体を有するからそのまま比透磁率μsの磁性体として機能し、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の下限はゼロ(直流)である。一方、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の上限は、単線材3の直径DがD<4δ・μsの条件を満たし、かつ網目の一辺の長さAが、波長λの1/4以下となる周波数で与えられる。従って、磁性体材料の比透磁率μs、直径D、及び長さAを適宜設定することで、例えば直流からマイクロ波周波数(1GHz〜1THz)まで、磁性体として機能させることができる。
【0058】
なお、たて糸とよこ糸とは、互いに異なる方向に交差して配置されていれば、いかなる方向の磁束であってもベクトル分解して処理することができるが、直交配置されていれば、磁束を効率よくベクトル分解することができるので、反磁性効果を低減することが容易となる。
【0059】
また、線材2は導体であるため磁性素子1には誘電率が存在せず、従ってこのように構成された磁性素子1は、高周波の電磁波に対して、誘電率を増大させることなく磁性体として機能する。
【0060】
そして、たて糸の線材2と、よこ糸の線材2とは、互いに交差する点において接触し、導通している。従って、図1に示すように、磁界が印加された磁性素子1の各網の目において循環電流Iが流れる。ここで、略方形の網の目の各辺を構成する線材2は、それぞれインダクタンスLとして機能する。さらに、循環電流Iによって磁界が生じるため、等価的なインダクタンスが生じることとなる。この場合、網の目の一辺の長さAは、λ/4以下、望ましくはλ/36以下の範囲内で、大きくなるほど循環電流Iのループが大きくなり、等価的なインダクタンスが増大し、従って磁性素子1の磁気的効果が増大する。
【0061】
また、上述のように、単線材3の半径dが小さく(細く)なるほど等価透磁率μeは増大するが、単線材3が細くなるにつれて損失抵抗が増大する。しかし、線材2は、複数の単線材3が撚り合わされて構成されているため、単線材3の撚り合わせ本数をKとすると、線材2の損失抵抗は単線材3の1/Kとなる。一方、線材2のインダクタンスは、複数の単線材3が撚り合わされることにより単線材3のインダクタンスが並列接続されて1/Kになるものの、単線材3における表皮厚δの合計がK倍になるため全体としてインダクタンスはほとんど変化しない。
【0062】
そうすると、単線材3を細くしても、単線材3の撚り合わせ本数Kを調節することにより損失抵抗を低減し、磁性体として機能させることができるので、単線材3の直径Dとして用いることのできる範囲に下限はないが、例えば直径Dを1μmとすることができる。また、単線材3の直径Dの上限は、D<4δ・μsにより与えられ、マイクロ波磁性体として実用的には、例えば50μmである。
【0063】
図7は、直径0.5mm、長さ59mmのニッケル線におけるインピーダンスを、撚り合わせ本数Kを変化させて測定を行った実験結果を示す表形式の説明図である。図7に示すように、撚り合わせ本数Kを、1本、2本、3本、5本と増加させると、抵抗値R(インピーダンスの実部)は1/Kとなる一方、インダクタンス(インピーダンスの虚部)は、ほぼ一定となり、単線材3の撚り合わせ本数をKにすると、損失抵抗を1/Kにさせつつインダクタンスをほぼ一定に保てることが実験的に確認できた。
【0064】
このようにして構成された磁性素子1の入射インピーダンスZiは、下記の式(8)で表される。
【0065】
【数7】
【0066】
但し、Rは網目の一辺(長さA)における線材2の周波数fの電磁波に対する抵抗値、Kは線材2における単線材3の撚り合わせ本数、Lは線材2の網目の一辺(長さA)でのインダクタンス、μeは線材2単体での等価透磁率、φは単線材3を撚り合わせた線材2の仕上り外径である。
【0067】
ここで、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、入射インピーダンスZiは、式(2)によって与えられ、透磁率μrを増大させると透磁率μrよりも大きな誘電率εrが付随的に生じてしまうため、入射インピーダンスZiを増大させることが困難であったが、図1に示す磁性素子1では、入射インピーダンスZiは、式(8)で与えられ、かつ誘電率を有さないから、単線材3の等価透磁率μeや抵抗R、単線材3の撚り合わせ本数K、単線材3の半径d、網目の一辺の長さA(メッシュ数M)等のパラメータを調節して所望の入射インピーダンスZiを得ることが容易である。
【0068】
また、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、式(2)において、Tanhの項は、波長λに対して周期関数となるため、磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、周波数に対して入射インピーダンスZiが振動する結果、広帯域において所望の入射インピーダンスZiを得ることが困難であるという不都合があった。
【0069】
一方、図1に示す磁性素子1では、入射インピーダンスZiは、式(8)で与えられ、単調関数となって周波数に対する周期性を有さないため、広帯域において所望の入射インピーダンスZiを得ることが容易であり、磁気的効果の広帯域化が容易である。
【0070】
また、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体では、式(2)において、入射インピーダンスZiが磁性体の厚さtの関数となっているため、所望の入射インピーダンスZiを得るためには磁性体の厚さtを確保する必要がある。一方、図1に示す磁性素子1では、式(8)に磁性体の厚さtが含まれず、厚さtと無関係に入射インピーダンスZiが得られるので、磁性素子1を薄くすることが容易である。
【0071】
図8は、ニッケルの単線材3の直径D、メッシュ数M、撚り合わせ本数Kを変化させた場合の磁性素子1の入射インピーダンスZiを示すグラフである。グラフG1は、直径D=50μm、メッシュ数M=200、撚り合わせ本数K=1(線材2は単線)の場合を示し、グラフG2は、直径D=12μm、メッシュ数M=26、撚り合わせ本数K=38の場合を示している。
【0072】
図8に示すように、グラフG1,G2のいずれにおいても1GHz〜4GHzのマイクロ波に対してある程度の入射インピーダンスZiが得られ、磁性体として機能することが確認できた。また、グラフG1よりも、単線材3が細く、メッシュ数Mが小さく(循環電流ループが大きい)、撚り合わせ本数Kが多いグラフG2の方が、入射インピーダンスZiが100倍程度増大することが確認でき、上述のように、これらのパラメータを調節することにより、所望の入射インピーダンスZiが得られることが確認できた。図8には、1GHz〜4GHzの周波数範囲しか示していないが、網の目の一辺の長さAが、波長λの1/4以下、好ましくは1/36以下となる範囲で、1GHz未満の周波数や、4GHzを超える高周波数の領域においても適用できる。
【0073】
なお、線材2をたて糸及びよこ糸として用い、たて糸とよこ糸とを交互に交差させて織物にした例を示したが、たて糸とよこ糸とを交互に交差させる例に限らず、例えば図9に示すように、線材2のたて糸とよこ糸とを交互にすることなく交差させた構成であってもよく、交互に交差させて平織にする代わりに接着剤で接着するなどして構成してもよい。また、線材2のたて糸とよこ糸との間に例えば間隔を空けて導通させない構成としてもよく、たて糸とよこ糸とが直交せず、斜めに交差する構成としてもよい。
【0074】
線材2のたて糸とよこ糸との間に例えば間隔を空けて導通させない構成とした場合には、磁性素子1が磁性体として機能し得る周波数の上限は、単線材3の直径DがD<4δ・μsの条件を満たしていればよく、磁性体材料の比透磁率μs、及び直径Dを適宜設定することで、例えば直流からマイクロ波周波数(1GHz〜1THz)まで、磁性体として機能させることができる。
【0075】
また、磁性素子1を、線材2で織ったり、編んだりすることにより構成する例を示したが、複数の線材2は、同一平面内で、互いに異なる方向に交差点を共有するように交差して配置されることにより網にされていてもよく、例えば板状の磁性体にプレス加工やエッチングを施すことにより、網の目となる複数の開口部を形成し、残余の部分が同一平面内で互いに異なる方向に交差する網にされる構成としてもよい。この場合、残余の網が、互いに交差する線材に相当している。さらに、このように構成された網を積層することにより、複数の線材が束にされた構成としてもよい。
【0076】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る磁性素子について説明する。図10は、本発明の第2の実施形態に係る磁性素子1aの構成の一例を示す斜視図である。図10に示す磁性素子1aは、図1に示す磁性素子1の背面に、導体板7が対向配置されて構成されている。そして、磁性素子1と導体板7とは、磁性素子1における線材2が相互に交差する点において導体板7と接触し、導通している。
【0077】
すなわち、磁性素子1は、織物として構成されているため、図2に示すように、線材2が相互に交差する点において線材2が凸状に突出するので、磁性素子1と導体板7とを密着させることにより、この突出箇所を導体板7と接触させて導通させるようになっている。なお、磁性素子1を編物として構成した場合であっても同様に、磁性素子1と導体板7とを密着させることにより、編み目において線材2が凸状に突出する箇所を導体板7と接触させて導通させることが容易である。
【0078】
図11は、図10に示す磁性素子1aの断面図である。図10に示すように、磁性素子1における線材2のたて糸21は、線材2のよこ糸22と交差する点、特によこ糸22によってたて糸21が導体板7側に押しつけられて突出する位置P1において導体板7と接触し、導通している。そうすると、導体板7を挟んで反対側に、たて糸21の鏡像8が等価的に現れる。そして、たて糸21と鏡像8とでループが構成され、循環電流Imが生じる。そうすると、循環電流Imによって磁界が生じるため、磁性素子1aに等価的なインダクタンスが生じることとなる。よこ糸22についても、たて糸21と同様に、循環電流Imが生じて磁界が生じるため、磁性素子1aに等価的なインダクタンスが生じることとなる。
【0079】
このように、磁性素子1aにおいては、磁性素子1に加えてさらに導体板7の鏡像効果によるインダクタンスが付加されるので、磁性素子1aにおける入射インピーダンスZiを磁性素子1のみの場合よりさらに増大させ、磁気的効果を増大させることができる。
【0080】
なお、図11においては、たて糸21がよこ糸22によって導体板7に押しつけられる位置P1で導通する例を示したが、たて糸21は、よこ糸22と交差する位置P2においてもよこ糸22を介して導体板7と導通するので、たて糸21とよこ糸22との接触抵抗が十分小さければ、位置P1と位置P2との間で循環電流Imが生じ得る。
【0081】
このようにして得られた磁性素子1aの入射インピーダンスZiを実験的に測定したところ、φ50μmの単線を線材2として用い、200メッシュの平織にした磁性素子1と、Zi=2Ω+j1230の導体板7とで構成された磁性素子1aでは、Zi=4.6Ω+j1258となり、磁性素子1aのインピーダンスZiが導体板7に対して増大することが確認できた。特にインピーダンスZiの実数部は、導体板7の2倍以上となり、顕著な効果が得られた。
【0082】
さらに、φ12μmの単線材3を36本撚り線にした線材2を用い、28メッシュの平織にした磁性素子1と、Zi=2Ω+j1230の導体板7とで構成された磁性素子1aでは、Zi=6Ω+j1320となった。すなわち、単線材3を細くしてさらに撚り線にした線材2を用いて編み目を大きくすることで、インピーダンスZiが増大することが確認できた。特にインピーダンスZiの実数部は、導体板7の3倍となり、顕著な効果が得られた。
【0083】
なお、入射インピーダンスZiの測定方法としては、空間定在波法が知られているが、空間定在波法による入射インピーダンスZiの測定には電波暗室が用いられ、1m近いアンテナを使用するため、入射インピーダンスZiを測定しようとする試料は、このアンテナを覆うような大きさ、例えば3m×3m程度以上の試料が必要となり、測定が極めて困難である。そのため、本明細書において、入射インピーダンスZiの測定には、以下の方法を用いた。
【0084】
すなわち、接地した導体板7の上に磁性素子1を配置して磁性素子1aを構成し、磁性素子1から所定の距離hだけ離れた位置に、一端が開放端にされ、他端が50Ωの伝送線路に接続された共振線を対向配置する。共振線としては、長さがλ/4(λは波長)に相当する56.5mm、幅が9mmのものを用いた。そして、50Ωの伝送線路を介してこの共振線に高周波信号を印加し、この高周波信号の周波数を変化させながら50Ωの伝送線路で生じる減衰量を測定する。そうすると、共振線と磁性素子1aとの共振周波数で減衰量が最大となるので、減衰量のピーク点を検出することで、共振周波数が検出できる。この共振周波数は、磁性素子1aの入射インピーダンスZiにおけるリアクタンス成分に応じて変化し、減衰量のピークは、入射インピーダンスZiの損失抵抗成分に応じて変化するので、共振周波数と減衰量のピークとを測定することで、入射インピーダンスZiを算出することができる。
【0085】
また、図7におけるニッケル線のインピーダンスについては、長さがλ/4(λは波長)に相当する59mmのニッケル線(被測定物)を、上述の共振線として用い、導体板と距離hを離して対向配置することで、上述の磁性素子1aと同様の方法でインピーダンスを測定した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す磁性素子の代用写真である。
【図3】図1に示す線材の一例を示す断面図である。
【図4】磁性体に磁界が作用することにより生じる反磁界について説明するための説明図である。
【図5】(a)は、図1に示す線材における反磁界係数を説明するための説明図である。(b)は、背景技術に係る磁性体微粒子を用いたマイクロ波磁性体の球体の磁性体微粒子における反磁界係数を説明するための説明図である。
【図6】磁界が印加された線材における磁束の状態を説明するための説明図である。
【図7】直径0.5mm、長さ59mmのニッケル線におけるインピーダンスを、撚り合わせ本数Kを変化させて測定を行った実験結果を示す表形式の説明図である。
【図8】図1に示す磁性素子の入射インピーダンスを示すグラフである。
【図9】図1に示す磁性素子の変形例を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る磁性素子の構成の一例を示す斜視図である。
【図11】図10に示す磁性素子の断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1,1a 磁性素子
2 線材
3 単線材
4 芯材
5 磁性体層
6 磁性体
7 導体板
8 鏡像
21 たて糸
22 よこ糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、
磁性体を用いて構成された複数の線材が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、
前記線材は、D<4δ・μsとなる太さDを有することを特徴とする磁性素子。
但し、δは波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは前記線材の比透磁率を示す。
【請求項2】
前記電磁波の周波数は、少なくとも1GHzを含むことを特徴とする請求項1記載の磁性素子。
【請求項3】
前記線材の太さDは、50μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁性素子。
【請求項4】
前記複数の線材は、互いに直交して配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項5】
前記複数の線材は、互いに交差する点において導通する網にされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項6】
前記網の目の大きさは、前記波長λの1/4以下であることを特徴とする請求項5記載の磁性素子。
【請求項7】
前記網の目の大きさは、前記波長λの1/36以下であることを特徴とする請求項6記載の磁性素子。
【請求項8】
前記網と対向配置された導体板をさらに備え、
前記網と前記導体板とは、複数箇所で接触していることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項9】
前記網は、織物であり、
前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることを特徴とする請求項8記載の磁性素子。
【請求項10】
前記網は、編物であり、
前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることを特徴とする請求項8記載の磁性素子。
【請求項11】
前記線材は、線状の非磁性体の表面に、前記表皮厚δ以上の厚さの磁性体の層を有するものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項12】
前記線材は、磁性体を用いて構成された前記太さDの単線材を所定本数束ねたものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項13】
前記線材は、所定本数の前記単線材を撚り合わせたものであることを特徴とする請求項12記載の磁性素子。
【請求項1】
所定の波長λを有する電磁波に対して磁性体として機能する磁性素子であって、
磁性体を用いて構成された複数の線材が、少なくとも二方向で交差して配置されるものであり、
前記線材は、D<4δ・μsとなる太さDを有することを特徴とする磁性素子。
但し、δは波長λの電磁波により生じる表皮効果における表皮厚、μsは前記線材の比透磁率を示す。
【請求項2】
前記電磁波の周波数は、少なくとも1GHzを含むことを特徴とする請求項1記載の磁性素子。
【請求項3】
前記線材の太さDは、50μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁性素子。
【請求項4】
前記複数の線材は、互いに直交して配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項5】
前記複数の線材は、互いに交差する点において導通する網にされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項6】
前記網の目の大きさは、前記波長λの1/4以下であることを特徴とする請求項5記載の磁性素子。
【請求項7】
前記網の目の大きさは、前記波長λの1/36以下であることを特徴とする請求項6記載の磁性素子。
【請求項8】
前記網と対向配置された導体板をさらに備え、
前記網と前記導体板とは、複数箇所で接触していることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項9】
前記網は、織物であり、
前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることを特徴とする請求項8記載の磁性素子。
【請求項10】
前記網は、編物であり、
前記互いに交差する点が、前記導体板と接触していることを特徴とする請求項8記載の磁性素子。
【請求項11】
前記線材は、線状の非磁性体の表面に、前記表皮厚δ以上の厚さの磁性体の層を有するものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項12】
前記線材は、磁性体を用いて構成された前記太さDの単線材を所定本数束ねたものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の磁性素子。
【請求項13】
前記線材は、所定本数の前記単線材を撚り合わせたものであることを特徴とする請求項12記載の磁性素子。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【公開番号】特開2007−305874(P2007−305874A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134171(P2006−134171)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(597077654)株式会社イー・エム・テクノ (5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(597077654)株式会社イー・エム・テクノ (5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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