説明

磁性素子

【課題】 通電動作により発生する振動が小さい磁性素子を提供する。
【解決手段】 磁性粉末と樹脂からなる第1の部材1及び巻き線3が一体で成形され、第1の部材1の一部が弾性率が異なる第2の部材2により構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性部材と巻き線とが一体で成形される磁性素子に関し、特に電気自動車やハイブリッド自動車等の車体駆動動力用モーターの電力変換装置である、インバータの昇圧回路などに用いられるリアクトル等の磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の磁性素子では、昇圧回路の動作により交流電流が流れるため巻き線の線間に発生するローレンツ力、および磁性体に発生する電磁力、磁歪等による振動や騒音を低減するための取り組みが種々なされている。
【0003】
例えば、磁性部材自体の弾性率を3000MPa以上とし振動を低減する方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、磁性素子を収納するケースとの間に低弾性層を設け、振動の伝達を低減する方法も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−4958号公報
【特許文献2】特開2007−27185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の磁性素子の振動の駆動源となる巻き線間のローレンツ力と磁性体に発生する電磁力、磁歪等は電流密度、磁束密度等に依存し、磁束の流れは基本的には磁性体の中を周回する3次元的な分布となるためその向きと大きさは複数のパターンを持つ。また、磁性素子の構造は主に巻き線と絶縁体と磁性体からなり、これらが複合してなる磁性素子としての固有振動モードも複数のパターンとなる。ここで回路動作により発生する振動駆動力のパターンと、磁性素子の構造に起因する固有振動のパターンが同じで、かつ前記駆動力の周波数と前記固有振動の周波数が近接する場合、特に磁性素子として生じる振動が大きくなり望ましくない。
【0007】
しかし、磁性素子に生じる振動を低減すべく、磁性素子の振動駆動力自体を低減することは、磁気回路と磁性材料自体を変更することとなり実際は、相当困難である場合が多い。また、構造体としての固有振動は質量と弾性により決定されるため、磁性部材の弾性率を変えれば各モードの固有振動数は一律な方向に変化させることが可能であるが、複数の固有振動パターンを別々に変えることはできず、全体として最適化することは難しく振動の発生を低減することは難しかった。
【0008】
さらに、特許文献2の技術では、ケースとの固定のため部材や放熱性を高めるためにアルミニウムなどの金属製の部材を内蔵する場合、その部材を通して振動が伝達してしまうため振動伝達の低減としては十分ではなく、振動源自体の振動レベルを低減することが重要となっていた。
【0009】
したがって、本発明は、上記の課題を解決し、通電動作により発生する振動が小さい磁性素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、磁性部材と巻き線とが一体で成形される磁性素子において、磁性部材の密度または弾性率が部分的に異なる磁性素子とする。
【0011】
即ち、本発明によれば、磁性粉末と樹脂からなる第1の部材及び巻き線が一体で成形され、前記第1の部材の一部を前記第1の部材と弾性率または密度が異なる第2の部材により構成することを特徴とする磁性素子が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記第2の部材は、磁性粉末と樹脂からなる磁性部材であることを特徴とする上記の磁性素子が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記第2の部材は、圧粉磁心または積層鋼板を含むことを特徴とする上記の磁性素子が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記第2の部材は、金属であることを特徴とする上記の磁性素子が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記金属はアルミニウムであり、ケースと一体であることを特徴とする上記の磁性素子が得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、磁性部材と巻線とが一体で成形される磁性素子の絶縁構造において、磁性部材の密度または弾性率を部分的に変えることにより、これらの構成により決定される固有振動数を部分ごとに変化させ複合化することができ、駆動源により発生する複数の振動モードに対し固有振動が一致することなく振動が生じにくい磁性素子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における磁性素子の説明図である。図1(a)は平面図である。図1(b)は縦断面図である。図1(c)は斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態2における磁性素子の縦断面図である。
【図3】従来例の磁性素子の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0019】
本発明において、磁性部材には例えば鉄系の磁性粉末と熱硬化性などの液状の樹脂を混合し、スラリー状としたコンポジット磁性部材を用いることができる。ここでコンポジット磁性部材を構成する熱硬化性樹脂の硬化後の弾性率が高い材質を用いれば、コンポジット磁性部材の弾性率は高くなり、逆に熱硬化性樹脂の硬化後の弾性率が低い材質を用いれば、コンポジット磁性部材の弾性率は低下させることができる。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態1における磁性素子の説明図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は縦断面図、図1(c)は斜視図である。巻き線からの2箇所の端末は省略して示している。図1に示すように、低弾性の第2の部材2を予め巻き線3の内径より小さく、巻き線3の高さより小さい円筒形状の型にて作製しておき、これを磁性素子10の注型する型(ケース4)内にて巻き線3の内周に配置した後、別の弾性率となる配合のコンポジット磁性体スラリーを流し込み硬化させ、高弾性の第1の部材1を作製することにより部分的に弾性率が異なり、つまりは部分的に固有振動を変えた磁性素子10を、磁気的な特性を変えることなく得ることができる。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態2における磁性素子の縦断面図である。巻き線からの2箇所の端末は省略して示している。図2に示すように、低弾性の第2の部材12を巻き線3の内外径に等しく、適当な高さの型にて作製しておき、これを磁性素子20の注型する型(ケース4)内にて巻き線3の上下に配置した後、別の弾性率となる配合のコンポジット磁性体スラリーを流し込み硬化させ、高弾性の第1の部材11を作製することにより部分的に弾性率が異なり、つまりは部分的に固有振動を変えた磁性素子20を、磁気的な特性を変えることなく得ることができる。この場合、巻き線の下部に適当な高さの弾性率が異なる磁性部材を配置できるため巻き線の位置決めを同時に行うことができる。
【0022】
本発明における第1の部材1、11、第2の部材2、12には、例えばFe−Si系、Fe−Si−Al系などの鉄系の磁性粉末と熱硬化性などの液状の樹脂を混合しスラリー状としたコンポジット磁性体を用いることができる。鉄系の磁性粉末は非鉄成分を含有することにより飽和磁歪および結晶磁気異方性が小さくなる組成があり鉄損は小さくできるが、逆に非鉄成分が多くなると飽和磁束密度が低下し、磁性素子としたときの磁気飽和が生じやすくなるため非鉄成分種と含有量は用途により適宜選択される。熱硬化性の樹脂はスラリーとしたときの流動性が十分であるよう低粘度のものが好ましい。また、熱硬化性樹脂の硬化後の弾性率、破壊強度、破断伸びなどの機械的性質は磁性素子として使用される通電条件による発熱と、使用環境、冷却機構などによる温度上昇に対し、十分な耐熱性と耐寒性を有するとともに、熱ストレスによる破壊が生じないことが必要であり、例えば破壊強度が高いエポキシ樹脂や破断伸びが大きいシリコーン樹脂などを用いることができる。
【0023】
磁性部材の弾性率は、1〜30GPa程度である。例えば、硬化後の弾性率が3000MPaであるエポキシ樹脂と1MPaであるエポキシ樹脂を用いて作製したコンポジット磁性部材を注型して硬化させることにより硬化後の磁性素子の弾性率を場所ごとに変えることができる。また、例えばアルミニウムは70GPaと大きいため、これらが一体となった素子の合成された弾性率はコンポジット磁性部材だけのものより高くなる。その結果、振動の駆動力に対し変形しにくい、つまり、振動しにくくなる。磁性素子は構成部材の弾性率が高いと固有振動数が高く、弾性率が低いと固有振動数は低くなるため、上記の構成である磁性素子は、固有振動数が場所により異なり、固有振動は分散し不鮮明なものとなるため共振が生じにくくなる。
【0024】
本発明における巻き線は平角線をエッジワイズ形状に巻回したものが占積率が高く小型化に適するが、丸線を巻回したものでも良い。また、巻き線の巻き形状は円形が一般的であるが、これに限ったものではなく長円形状やコーナーがRである矩形でもよい。
【0025】
本発明におけるケース4の材質は、弾性率、破壊強度、破断伸びなどの機械的性質は磁性素子として使用される通電条件による発熱と、使用環境、冷却機構などによる温度上昇に対し、十分な耐熱性と耐寒性を有するとともに、熱ストレスによる破壊が生じないことはもちろん、巻き線との組み付け、嵌合などのハンドリングにより容易に破壊しない材料であればよく、例えば破断伸びが比較的大きく、非磁性のアルミニウムを用いることができる。また、熱伝導率が十分に高く、線膨張係数が許容される範囲であればいずれでもよく、純鉄、ステンレス鋼、熱伝導性の高いプラスチックなどを用いることができる。また、ケース4は、例えば外形が角筒形状である。
【0026】
なお、予め作製する部材は円筒や円柱形状である必要はない。また、軸方向に垂直な断面が歯車状になるように軸方向の溝を設けたり、同様に径方向や周方向の溝を設け、後から注型するコンポジット磁性部材との接触面積を大きくし、部材間の結合の信頼性を高めることもできる。また、コンポジット磁性部材との接触面積を大きくするため、溝の代わりに、軸方向または径方向、あるいは両方に、貫通孔を設けて中を抜いた構成としてもよい。
【0027】
また、コンポジット磁性部材の弾性率を変えるには、熱硬化樹脂の弾性率を変えることにより可能であるが、シリコーン樹脂粉末などのより低弾性の粒子を配合することによっても可能である。
【0028】
さらに、コンポジット磁性部材が含有する磁性粉末や非磁性粉末の配合を変えることでも弾性率を調整することが可能である。さらには圧粉成形磁心や積層鋼板などの磁心を配置することもできる。また、アルミニウムなどの金属を配置することもできる。
【0029】
弾性率を変えたコンポジット磁性部材は上記のごとく別体として予め準備しても良いが、例えば巻き線の周囲にのみ配置されるよう別の型で予め巻き線とともに注型し固化してもよいし、磁性素子の注型する型で注型する際に底部と上部の弾性率が違うコンポジット磁性部材を順に注型してもよい。
【0030】
また、磁性素子を構成する巻き線または磁性素子を注型する型の外部に巻き回した巻き線等に電流を通電することにより発生する磁界により硬化前のコンポジット磁性部材中の磁性粒子を巻き線の近傍に多く分布させることにより部分的にコンポジット磁性部材中の磁性粉末密度を変化させてもよい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例の磁性素子を説明する。
【0032】
(実施例1)
図1に示す構造の磁性素子10を作製した。素線は厚さ0.8mm、幅9mmの平角銅線にAIW(ポリアミドイミド)被膜を施したものを用い、内径は60mmにてエッジワイズ形状で32ターン巻き回し、2箇所の端末が上方向となるように端末を曲げて巻き線3を作製した。巻き線3の寸法は、外径78mm、内径60mm、高さ32mmである。
【0033】
まず、低弾性の第2の部材2を予め巻き線3の内径より小さく、巻き線3の高さより小さい円筒形状の型にて作製した。第2の部材2の寸法は、直径50mm、高さ30mmである。第2の部材2は、磁性粉末としてFe6.5%Siのガスアトマイズ粉末を60体積%、残分が2液混合熱硬化型エポキシ樹脂であるジャパンエポキシレジン社製エピコート827とキュアWを所定の比率で混合し、硬化物の弾性率が18GPaとなるよう作製した。
【0034】
次いで液状の絶縁樹脂としてナガセケムテックス社製の2液混合熱硬化型エポキシ樹脂XNR4455と硬化剤XN1213を所定量混合したものを容器に取り、巻き線2を浸漬し、真空度4.0×10Paにて真空含浸を行い、これを引き上げた後120℃、3時間で硬化させた。
【0035】
絶縁樹脂を硬化させた巻き線3をケース4に配置し、また第2の部材2を磁性素子10の注型する型(ケース4)内にて巻き線3の内周に配置した後、別の弾性率となる配合のコンポジット磁性体スラリーを流し込み硬化させ、高弾性の第1の部材1を作製することにより、部分的に弾性率が異なる、即ち部分的に固有振動を変えた実施例1の磁性素子10を得た。磁性素子10の寸法は、直径93mm、高さ51mmである。また、ケース4の厚さは、5mmである。第1の部材1は、磁性粉末としてFe6.5%Siのガスアトマイズ粉末を60体積%、残分が2液混合熱硬化型エポキシ樹脂であるジャパンエポキシレジン社製エピコート814とキュアWを所定の比率とし混合し、硬化物の弾性率が3GPaとなるよう作製した。
【0036】
(実施例2)
図2に示す構造の磁性素子20を作製した。実施例1とは第2の部材12を設ける位置が異なるのみで、他は実施例1と同様に作製した。即ち、低弾性の第2の部材12を巻き線3の内外径に等しく、適当な高さの型にて作製しておき、これを磁性素子20の注型する型(ケース4)内にて巻き線3の上下に配置した後、別の弾性率となる配合のコンポジット磁性体スラリーを流し込み硬化させ、高弾性の第1の部材11を作製することにより、部分的に弾性率が異なる、即ち部分的に固有振動を変えた実施例2の磁性素子20を得た。
【0037】
(比較例)
比較例として、実施例1と同様にして、図3の従来例の磁性素子の縦断面図に示すような部材21、巻き線3、ケース4から構成される磁性素子30を作製した。
【0038】
上記のようにして作製した実施例及び比較例による磁性素子について、磁性素子の表面に加速度センサーを接着した状態で周波数1kHzから20kHzの範囲で電流スイープを行った結果、実施例では、共振点は多数の周波数で現れるがそのピーク値は低く振動値が低減していることが判明した。また、比較例にて作製した磁性素子は特定の周波数に共振点があるとともにそのレベルは高く振動が生じやすいものであった。
【0039】
なお、上記の実施例では、第2の部材に磁性粉末と樹脂からなる磁性体を用いた例を示したが、圧粉成形磁心や積層鋼板でも同様の効果が得られた。また、巻き線の上面より上の磁性部材と、巻き線の底面より下の磁性部材の弾性率を低下させた構成でも同様の効果が得られた。
【0040】
また、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、図1と図2における第2の部材の配置を合わせた配置としてもよい。さらに、巻き線の内側、外側、上下にそれぞれの位置、あるいは組み合わせて配置してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1、11、21 (第1の)部材
2、12 第2の部材
3 巻き線
4 ケース
10、20、30 磁性素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末と樹脂からなる第1の部材及び巻き線が一体で成形され、前記第1の部材の一部を前記第1の部材と弾性率または密度が異なる第2の部材により構成することを特徴とする磁性素子。
【請求項2】
前記第2の部材は、磁性粉末と樹脂からなる磁性部材であることを特徴とする請求項1記載の磁性素子。
【請求項3】
前記第2の部材は、圧粉磁心または積層鋼板を含むことを特徴とする請求項1記載の磁性素子。
【請求項4】
前記第2の部材は、金属であることを特徴とする請求項1記載の磁性素子。
【請求項5】
前記金属はアルミニウムであり、ケースと一体であることを特徴とする請求項4記載の磁性素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−254018(P2011−254018A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128171(P2010−128171)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)