説明

磁気テープ装置

【課題】安定して磁気テープの繰り返し使用が可能な磁気テープ装置を提供する。
【解決手段】磁気テープTに磁気記録・再生を行う磁気テープ装置10であって、磁気テープと摺接するように設けられ、磁気テープに磁気記録・再生可能な磁気ヘッド4と、磁気ヘッドからの再生出力を検出するための出力検出部と、を備え、出力検出部に検出された磁気テープの出力に基づいて、磁気ヘッドを磁気テープの表面に対して進退駆動可能なヘッド位置調整機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種情報を記録および再生可能な磁気テープ装置に関する。特に、磁気抵抗効果型(MR)ヘッドを用いた磁気テープ装置に関する、また、コンピューターテープなどの高容量磁気テープに各種情報を記録または再生可能な磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターに搭載されたハードディスクに記録されているデータをバックアップするものとして、磁気テープが多く用いられている。データバックアップ用の磁気テープの分野では、ハードディスクの大容量化に伴い、1巻あたり数百GB〜数TBの記憶容量を有する磁気テープが商品化されている。今後、さらなるハードディスクの大容量化に対応するため、データバックアップ用の磁気テープの高容量化は不可欠である。
この高容量化を果たしていくためには、磁気テープの線記録密度を上げることが必須であり、そのためにデータ転送速度の向上のためにテープ走行速度が上がる一方、磁気テープの磁性層表面は極めて平滑に仕上げられている。よって、磁性層と磁気ヘッドのテープ摺動面との摩擦係数が高くなる傾向にある。
【0003】
そのため、磁気テープの摺動スピードを一定に保つことが困難になったり、磁気テープが磁気ヘッドのテープ摺動面に貼り付いたりする問題が避けられない状況になってきた。
このような問題に対して、例えば特許文献1には、磁気テープの搬送速度を検出するための搬送速度検出部を備え、検出された磁気テープの搬送速度に基づいて、磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動可能なヘッド位置調整機構が設けられた磁気記録再生装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−107637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、特に磁気テープにおける、磁気記録・再生時に走行が一旦停止して、折り返される部分(折り返し部)である磁気テープの記録開始部(BOT(Beginning of Tape)部)及び記録終了部(EOT(End of Tape)部)では、磁気ヘッドと磁気テープとが摺接する面同士の静止摩擦力が大きく、磁気テープを繰り返し走行させることで、磁気ヘッド及び磁気テープの表面が損傷してしまう点に鑑みたもので、走行が一旦停止する際に磁気ヘッドの突き出し量を減じて静止摩擦係数を小さくすることが可能な磁気記録再生装置が提案されている。
【0006】
しかし、近年の高記録密度テープにあっては、その磁性層表面はますます平滑に仕上げられており、走行が一旦停止する個所でなくとも磁性層と磁気ヘッドのテープ摺動面は貼り付き易くなる傾向があり、走行を重ねるに連れて磁性層表面がさらに平滑化されるので、使用中に貼り付き現象が発生して走行速度が不安定になったり、磁気テープが切断したりする懸念がある。
【0007】
本発明では、上記従来技術の問題点を解決し、安定して磁気テープの繰り返し使用が可能な磁気テープ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、磁気テープ装置の構成について鋭意検討を行なった結果、磁気テープ装置を下記の構成とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、磁気テープに磁気記録・再生を行う磁気テープ装置であって、前記磁気テープと摺接するように設けられ、前記磁気テープに磁気記録・再生可能な磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドからの再生出力を検出するための出力検出部と、を備え、該出力検出部で検出された前記磁気テープの出力に基づいて、前記磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動可能なヘッド位置調整手段が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、磁気ヘッドで磁気テープに磁気記録・再生を行う磁気記録再生方法であって、前記磁気テープの記録開始部(BOT(Beginning of Tape)部)と記録終了部(EOT(End of Tape)部)との間の区間以外の領域にて前記磁気テープの再生出力V0を検出する工程と、
前記BOTと前記EOTとの間の区間の前記磁気テープの再生出力V1を検出する工程と、
R=20log(V1/V0)の値を求める工程と、
前記Rの値に基づいて前記磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動制御する工程と、を含み磁気記録・再生を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
磁気テープを繰り返し走行させると、磁性層表面が平滑化して、磁気ヘッドの磁気テープとの摺動面と磁気テープとの摩擦(動摩擦)係数が大きくなって貼り付き現象が起こり易くなって、走行速度が不安定になったり、磁気テープが切断したりする問題に対して、磁気テープの繰り返し走行により平滑化している部分の再生出力(V1)と繰り返し走行していない部分の再生出力(V0)とを比較して、その違いが大きい場合には、磁気ヘッドを磁気テープの表面に対して進退駆動してV1をV0に近づけるように制御するので、再生出力によって平滑化を判断し、平滑化によって再生出力が高い場合は磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動制御し、繰り返し走行していない部分と同程度の出力に調節することで、磁気ヘッドの磁気テープとの摺動面と磁気テープとの摩擦(動摩擦)係数が好ましい範囲に制御され、貼り付き現象を防ぐことができるので、走行速度が安定し、切断等の事故も防ぐことができる。
【0011】
本発明によれば、磁気テープと磁気ヘッドとの貼り付きや磁気テープが損傷することを防止できる磁気記録再生装置及び磁気記録再生方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一例の本発明の磁気テープ装置の構成を示すイメージ図である。
【図2】磁気テープの全長の各領域を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る磁気記録再生装置及び磁気記録再生方法の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、一例の本発明の磁気テープ装置の構成を説明するイメージ図である。図1 に示すように、磁気記録再生装置10は、磁気テープT をローディングし、搬送経路によって搬送させる搬送機構を有している。
【0015】
磁気記録再生装置10は、巻き出しリール1 と巻き取りリール2 とを備えている。巻き出しリール1は、予め磁気テープTを巻回させた磁気テープカートリッジ5に収納されている。磁気テープTを搬送させる際には、該磁気テープTの先端を巻き取りリール2に巻き付け、巻き出しリール1及び巻き取りリール2 を、不図示の駆動モータによって、それぞれ回転させる。
【0016】
磁気記録再生装置10には、巻き出しリール1と巻き取りリール2との間で搬送される磁気テープTの搬送方向に沿って順に、磁気テープTを案内するガイド3 と、搬送される磁気テープTに摺接する磁気ヘッド4と、ガイド3とが設けられている。なお、本実施形態において、磁気テープTを案内するガイド3、3の数は特に限定されず、搬送経路における他の箇所に設けて3個以上としてもよい。
【0017】
磁気テープTは、その長手方向に沿ってデータトラックが形成されているもので、また、予めサーボ信号が書き込まれている構成である。
【0018】
磁気ヘッド4 は、磁気テープTの磁性層に磁気情報を書き込む磁気記録機能と、磁気テープTの磁性層に書き込まれた磁気情報を読み込む磁気再生機能と、磁気テープTに予め書き込まれたサーボ信号を読み込むサーボ信号読み取り機能と、を有しているものである。また、磁気ヘッド4 は、複数の磁気ヘッド素子を配設してユニットとしたマルチチャンネルヘッドであって、トラッキングサーボ技術によって、各磁気ヘッド素子が磁気テープTのデータトラック上を正確に追従するように位置制御可能な構成としてもよい。本実施形態の磁気記録再生装置10には、磁気テープTの再生出力に基づいて、磁気ヘッド4 を磁気テープT の表面に対して進退駆動させる不図示のヘッド位置調整手段が設けられている。ヘッド位置調整手段としては、微小に磁気ヘッドを移動できる機構であれば特に制限はなく、従来公知の位置調整手段を用いることができ、例えば圧電素子、超音波モータ等を用いることができる。
【0019】
図2に磁気テープ全長の各領域を示す。磁気テープTは、先頭から所定の長さ後方にデータが書き込まれる領域の最初の部分であるBOT(Beginning of Tape)部があり、末尾から所定の長さ前方にデータが書き込まれる領域の最後の部分であるEOT(End of Tape)部がある。BOT部からEOT部に挟まれた領域Bがデータが書き込まれる領域であり、データの記録再生に当っては、この領域を磁気ヘッド4が繰り返し摺動しながら記録再生が行なわれる。また、先頭からBOT部までの領域AとEOT部から末尾までのC領域がある。
【0020】
磁気テープが繰り返し使用されると、磁気ヘッド4の磁気テープとの摺動面4aが磁性層を少しずつ研磨するので、この領域Bの磁性層の表面は少しずつ平滑化されていき、磁気ヘッド4の磁気テープとの摺動面4aと磁気テープTとの摩擦係数が徐々に大きくなって貼り付き現象が出易い傾向となる。
また、磁気テープTの領域Aは、磁気テープカートリッジ5が磁気テープ装置に装着されたり磁気テープ装置から取り出される度に磁気ヘッド4と摺動する領域である。本発明の磁気テープ装置10は、上記のこのような問題を解決するものである。
【0021】
本発明の磁気テープ装置10の一例の動作について説明する。磁気テープ装置10は、磁気テープが収納されている磁気テープカートリッジ5が装着されると、磁気テープTの先頭が磁気テープカートリッジ5から引き出され、ガイド3、磁気ヘッド4、ガイド3を経由して、巻き取りリール2に巻き付けられて、磁気ヘッド4が磁気テープTのBOT部に対峙するように巻き出される。その後、初期設定位置にある磁気ヘッド4にて、BOT部とEOT部の間の領域Bにおいて所定のデータの記録再生を行う。前述したように、磁気ヘッド4はマルチチャンネルヘッドなので、複数のトラックに同時に記録再生が行なわれる。所定のデータの容量が十分大きい場合には、磁気ヘッド4は磁気テープTのBOT部とEOT部の間の領域Bを複数回往復しながら、BOT部とEOT部とで折り返し時に磁気テープTの幅方向にトラック位置ずらせながら、所定のデータ量を記録再生し終えるまで記録再生を行なう。
【0022】
領域Bにデータを記録再生する際、最初のBOT部からEOT部へ記録再生時に、EOT部から少し領域Cに入った所に所定の信号を記録再生し、この領域Cに記録した信号の再生出力V0と領域Bの再生出力V1とを検出して比較する。R=20log(V1/V0)で定義されるRの値を求めて、Rが所定の値R1(閾値)を超えると所定の値R2(補正値)の範囲内に入るように不図示のヘッド位置調整手段を動作させる。使用初期においては、V1=V0で、R=0である。再生出力V0は、磁気テープカートリッジ5に付属するメモリに記録される。また再生出力V0は磁気ヘッド4を用いて領域A或いは領域Bのどちらか一方、或いは両方に記録することもできる。
【0023】
Rの閾値R1の好ましい範囲は使用する磁気テープ装置10および磁気テープTの種類により異なるが、通常0.2〜2.0の範囲に設定するのが好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2未満であると、頻繁にヘッド位置調整手段が動作して、わずらわしい場合があったり、2.0を超えると、貼り付きが十分防止できない場合があるからである。
Rの補正値R2の好ましい範囲は使用する磁気テープ装置10および磁気テープTの種類により異なるが、通常0〜0.5の範囲に設定するのが好ましい。
またテープとヘッドの貼り付き減少を未然に防止するためには、補正値R2が閾値R1より小さいことが好ましい。
【0024】
磁気テープTが繰り返し使用されるにつれて、磁気ヘッド4が往復走行する領域Bは磁気ヘッド4との摺接が繰り返されて初期状態よりも徐々に平滑化してくるので、摺動面4aと磁気テープTとのスペーシングが小さくなって、記録再生時のスペーシングロスが小さくなるので、使用当初よりも領域Bの再生出力V1は徐々に大きな値になり、同時に貼り付き易い状態に近づいてくる。本発明の磁気テープ装置10は、この領域Bの再生出力V1の値を常にモニターしており、メモリや領域A、領域Cに記録されたV0と比較することにより、貼り付き現象の発生を予知するようになっている。V1の値が大きくなり、Rの値が所定の値R1(閾値)(例えば0.5)より大きくなると、ヘッド位置調整手段が動作して図1に示したように磁気ヘッド4を実線で示した位置から破線で示した位置まで僅かに後退させることにより、摺動面4aにおける磁気テープの当りを弱くしてV1を小さくしてRの値R2(補正値)を例えば0.1未満になるようにするとともに、貼り付き現象を未然に防止することができる。
【0025】
EOT部から少し領域Cに入った所の再生出力V0は、磁気ヘッド4の磁気テープTのBOT部からEOT部への走行、またはEOT部からBOT部への走行を1ラップとすると1000〜5000ラップ毎に、所定の信号を記録再生して新たに設定しなおすようになっている。この時の記録再生は、磁気ヘッド4を初期設定位置にして行うようになっている。再設定されたV0は、メモリや領域A、領域Cに再記録される。このようにすることにより、磁気ヘッド4の状態変化(ヘッド汚れ等による出力変化)を加味した。V1とV0との比較が可能となる。
【0026】
また、磁気テープカートリッジが、使用の途中で別の本発明の磁気テープ装置で使用される場合は、その磁気テープ装置での使用の始めに再生出力V0は再設定されるようになっている。この時の記録再生は、磁気ヘッド4を初期設定位置にして行うようになっている。再設定されたV0は、メモリや領域A、領域Cに再記録される。この動作が必要なのは、磁気テープ装置により再生出力が異なる場合があるからである。また、この場合、磁気テープの使用ラップ数は、それまでの使用ラップ数から継続してカウントするようになっている。また、磁気テープカートリッジが、使用中の本発明の磁気テープ装置から取り出され、再度同じ磁気テープ装置で使用される場合も同様に再生出力V0が再設定されるようになっている。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ヒューレット・パッカード社製LTO4ドライブを、前述のV0、V1の測定、リール駆動モータの負荷電流を測定できるように改造した。また、前述のRの値を所定の範囲に制御するために、磁気ヘッドを磁気テープの表面に対して進退駆動するための超音波モータを配設した。LTO規格に準拠した試作テープを作製し、29℃、80%RHの環境下で全長、全トラック記録再生走行試験を行なった。ヘッドを進退駆動させるときのRの閾値および、Rが閾値を超えた時に、磁気ヘッドを進退駆動してRの値を所定の値に補正するRの補正値は、表1に示したように変えて実施例1〜4の走行試験を行なった。また、磁気ヘッドを進退駆動制御しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の走行試験を行なった。
【0028】
【表1】

【0029】
表から明らかなように、Rの値に基づいて閾値R1=0.2(*印)で進退駆動した実施例1、閾値R1=0.5(*印)で進退駆動した実施例2,閾値R1=1.0(*印)で進退駆動した実施例3、閾値R1=2.0(*印)で進退駆動した実施例4では、56000ラップ走行でも、まだ走行可能状態であった。しかし磁気ヘッドを進退駆動制御せずR=2.5(*印)となるまで走行試験を行った比較例1では、32000ラップで磁気テープと磁気ヘッドが張り付いて、駆動モータの駆動電流が非常に高くなったので走行試験を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、磁気テープを繰り返し使用しても貼り付き現象を防止することができるため、長期に渡って安定して磁気テープを使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 巻き出しリール
2 巻き取りリール
3 ガイド
4 磁気ヘッド
4a 摺動面
5 磁気テープカートリッジ
T 磁気テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープに磁気記録・再生を行う磁気テープ装置であって、前記磁気テープと摺接するように設けられ、前記磁気テープに磁気記録・再生可能な磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドからの再生出力を検出するための出力検出部と、を備え、該出力検出部に検出された前記磁気テープの出力に基づいて、前記磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動可能なヘッド位置調整手段が設けられていることを特徴とする磁気テープ装置。
【請求項2】
磁気ヘッドで磁気テープに磁気記録・再生を行う磁気記録再生方法であって、前記磁気テープの記録開始部(BOT(Beginning of Tape)部)と記録終了部(EOT(End of Tape)部)との間の区間以外の領域にて前記磁気テープの再生出力V0を検出する工程と、
前記BOTと前記EOTとの間の区間の前記磁気テープの再生出力V1を検出する工程と、
R=20log(V1/V0)の値を求める工程と、
前記Rの値に基づいて前記磁気ヘッドを前記磁気テープの表面に対して進退駆動制御する工程と、を含み磁気記録・再生を行なうことを特徴とする磁気記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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