説明

磁気テープ記録再生装置

【課題】磁気テープ上の異常な突起や異物から磁気抵抗効果型素子を含む記録再生ヘッドを保護する機構を備えた磁気テープ記録再生装置を提供する。
【解決手段】磁気テープ1に情報を記録再生可能な記録再生ヘッド13a,13bを備えた磁気テープ記録再生装置であって、記録再生ヘッド13a,13bの磁気テープ1の走行方向上流側に配され、磁気テープ1上の突起または異物の有無を検出可能な突起検出センサー21a,21bと、記録再生ヘッド13a,13bの近傍に配され、突起検出センサー21a,21bが所定の大きさを超える突起または異物を検出した際に磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間する方向に移動させる押し出しガイド部14a,14bとを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ記録再生装置に関する。さらに詳しくは、磁気テープ上の異常な突起や異物から磁気抵抗効果型素子を含む記録再生ヘッド保護する機構を備えた磁気テープ記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータ用データストレージとして利用されている磁気テープは、記録容量を増大させるために記録密度を向上させている。そのため、記録波長が小さくなってきているとともに、磁気テープの長手方向にデータトラックを有する磁気テープでは、データ信号が記録されるデータトラックの幅は極めて狭くなっている。例えば記録波長が0.4μm以下、トラック幅が20μm以下の記録フォーマットが提案されている。このように記録波長が短くなると、磁性層からの漏れ磁束を効率よく取り出すために、磁性層は0.2μm以下の薄層に設計されている。また、微小な漏れ磁束から信号を読み出せる磁気抵抗効果型素子(MR素子)が使用されている。
【0003】
特に最近、記録容量の増大はとどまるところを知らず、さらなる記録波長の短波長化、磁性層の薄層化に対応するために巨大磁気抵抗効果型素子(GMR素子)やトンネル磁気抵抗型素子(TMR素子)が提案されている。
【0004】
これらの磁気抵抗効果型素子は、極めて高感度である反面、磁性層の微小な突起や異物(例えば、磁性層表面に付着した塵埃や、磁性層からの剥離物)との衝突により摩擦熱が発生し、再生される信号にノイズが発生したり、甚だしい場合は素子が破損してしまう場合がある。
【0005】
このような問題を解消するために、磁気抵抗効果型素子を備えた磁気ヘッドが一般的に使用されるハードディスクドライブにおいては、ハードディスクの製造時にディスク表面の突起検査が慎重に行われている(例えば特許文献1参照)。また、ヘッドスライダの磁気ディスクからの浮上量がヘッド温度により変わり、ヘッド温度が上がって浮上量が小さくなり、ディスクの突起がヘッドに当たり易くなるのを防止するために、特許文献2には、磁気ヘッドの記録又は再生素子の近傍に温度検出手段と加熱・冷却手段を設けたヘッドスライダが開示されている。
【0006】
一方、磁気テープに情報を記録再生可能な装置においては、記録再生ヘッドが磁気テープ表面に当接しながら走行するために、記録再生ヘッドに含まれる磁気抵抗効果型素子は、磁気テープ表面の大小さまざまな突起や異物と接触または衝突しながら動作している。このような接触や衝突を軽減するため、非特許文献1には、磁気テープに用いられる磁気抵抗効果型素子を、磁気ヘッドの磁気テープとの摺動面から後退した位置に配した構成が開示されている。
【特許文献1】特開2006−344312号公報
【特許文献2】特開2003−297029号公報
【非特許文献1】W.W.Scott and Bharat Bhushan,J.Appl.Phys.91,8328(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気テープに情報を記録再生する装置においては、記録波長が小さくなるにつれて、記録再生ヘッドと磁気テープの磁性層とのスペーシングは小さくせざるを得ないため、前述の磁気テープとの摺動面からの後退量(PTR)は小さくなる傾向にあり、磁気テープに対する突起や異物の影響はますます大きくなる。
【0008】
本発明の目的は、磁気テープ上に存在する異常な突起や異物から記録再生ヘッドを保護することができる磁気テープ記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、磁気テープに情報を記録再生可能な記録再生ヘッドを備えた磁気テープ記録再生装置であって、前記記録再生ヘッドの前記磁気テープの走行方向上流側に配され、前記磁気テープ上の突起または異物の有無を検出可能な検出手段と、前記記録再生ヘッドの近傍に配され、前記磁気テープと前記記録再生ヘッドとを離間させるテープ離間手段とを備え、前記テープ離間手段は、前記検出手段が所定の大きさを超える突起または異物を検出した際に、前記磁気テープを前記記録再生ヘッドから離間する方向に移動させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気テープ上に突起や異物が存在することを検出した時、磁気テープと記録再生ヘッドとを離間させることにより、突起や異物が記録再生ヘッドに衝突することを防ぎ、記録再生ヘッドを保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の磁気テープ記録再生装置は、上記構成を基本として、以下のような様々な態様をとることができる。
【0012】
すなわち、前記記録再生ヘッドは、磁気抵抗効果型素子を含む構成とすることができる。本発明の構成は、磁気抵抗効果型素子を含む記録再生ヘッドに対して特に有効であり、磁気抵抗効果型素子の損傷を防ぐことができる。
【0013】
また、前記テープ離間手段は、前記記録再生ヘッドを備えたヘッドブロックに内蔵されている構成とすることができる。このような構成とすることで、テープ離間手段を配するスペースを特に確保する必要がなく、装置を小型化することができる。
【0014】
また、前記テープ離間手段は、前記磁気テープ上の突起または異物の大きさに応じて離間量が制御される構成とすることができる。このような構成とすることで、特に突起または異物が小さい時にテープ離間手段の移動量を少なくすることができるので、応答時間を短縮することができる。
【0015】
(実施の形態)
図1は、実施の形態の磁気テープ記録再生装置の構成を示す断面図である。図2は、ヘッドブロック10の平面図である。
【0016】
図1に示すように磁気テープ記録再生装置は、磁気テープ1を供給する第1のリール(不図示)と磁気テープ1を巻き取る第2のリール(不図示)とを備え、第1のリールと第2のリールとの間の走行経路に磁気テープ1を搬送する複数のガイドローラ2と、突起検出センサー21a,21bを含む突起検出部20a,20bと、ヘッドレール11a,11bとガイドレール12a,12bを含むヘッドブロック10とを備える。
【0017】
ヘッドブロック10は、磁気テープ1が矢印Aに示す順方向(FWD)に走行するときに主に機能する順方向用のヘッドブロック10aと、磁気テープ1が矢印Bに示す逆方向(BWD)に走行するときに主に機能する逆方向用のヘッドブロック10bとから構成される。ヘッドレール11a,11bは、磁気抵抗効果型素子を含む記録再生ヘッド13a,13bを備える。ガイドレール12a,12bは、アクチュエータ15a,15bにより駆動され磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間させる動作を行う押し出しガイド部14a,14bを備える。
【0018】
突起検出部20a,20bには、磁気テープ1と当接する部分に、少なくとも磁気テープ1の幅方向全域をカバーできるように突起検出センサー21a,21bが設けられている。突起検出センサー21a,21bは、磁気テープ1の表面に形成された突起や、磁気テープ1の表面に付着した異物を検出することができる。なお、突起検出センサー21a,21bは、例えば圧電素子などの周知のセンサーで構成することができる。圧電素子は、突起や異物などが当接することによって生じる圧力を電圧に変換して出力することができる。また、突起検出センサー21a,21bは、磁気テープ1の幅方向の一方のエッジ側から光を照射し、他方のエッジ側に配された受光素子で光を受光する構成とし、突起または異物によって遮られる光の量を検出することで、突起または異物を検出する構成も考えられる。また、突起検出センサー21a,21bは、検出手段の一例である。
【0019】
ガイドレール12a,12bには、押し出しガイド部14a,14bと、押し出しガイド部14a,14bを駆動するアクチュエータ15a,15bとを備えている。
【0020】
押し出しガイド部14a,14bは、ガイドレール12a,12bにおいて矢印CまたはDに示す方向に移動可能に配されている。また、押し出しガイド部14a,14bは、図1に示すようにヘッドブロック10a,10bに収納されている状態で、その先端がヘッドブロック10a,10bの表面と面一あるいはヘッドブロック10a,10bの表面から僅かに窪んだ位置にある。また、押し出しガイド部14a,14bは、図2に示すようにヘッドブロック10a,10bの幅方向全域に渡って配されているが、この構成には限らない。また、押し出しガイド部14a,14bの幅寸法は、磁気テープ1の幅寸法の1/2以上とすることが好ましい。
【0021】
アクチュエータ15a,15bは、磁気テープ1の表面に突起または異物があることを検出すると、押し出しガイド部14a,14bを磁気テープ1が記録再生ヘッド13a,13bから離間する位置まで駆動することができる。なお、アクチュエータ15a,15bは、ボイスコイル、ステッピングモータ、油圧シリンダ、空圧シリンダ等の従来公知の駆動手段で構成することができる。また、押し出しガイド部14a,14bおよびアクチュエータ15a,15bは、テープ離間手段の一例である。
【0022】
次に、本実施の形態の磁気テープ記録再生装置の動作について説明する。
【0023】
図3Aは、磁気テープ1とヘッドブロック10とが接触している状態を示す。図3Bは、磁気テープ1をヘッドブロック10から離間させている状態を示す。図4は、押し出しガイド部14a,14bを動作させるための制御ブロックを示す。
【0024】
図3Aに示すように、記録再生時、第1のリールから繰り出された磁気テープ1は、ガイドローラ2に案内されながら矢印Aに示す順方向(FWD)に走行し、第2のリールに巻き取られる。また、第2のリールから繰り出された磁気テープ1は、ガイドローラ2に案内されながら矢印Bに示す逆方向(BWD)に走行し、第1のリールに巻き取られる。
【0025】
磁気テープ1を矢印Aに示す方向へ走行中、記録再生ヘッド13aに対して磁気テープ1の走行方向上流側にある突起検出センサー21aは、磁気テープ1の幅方向全域にわたって、突起または異物の有無を検出する。図4において、突起検出センサー31(図1の突起検出センサー21a,21bに相当)は、磁気テープ1上に存在する突起または異物を検出した場合、突起または異物の大きさに応じた電気信号を演算部32に送る。演算部32は、突起検出センサー31から送られる電気信号に基づき突起または異物の大きさを演算し、所定の大きさ以上の突起または異物であると判断された場合には、制御部33に制御信号を送る。制御部33は、演算部32から制御信号が送られると、磁気テープ1における突起または異物が記録再生ヘッド13aに到達する前にアクチュエータ15a,15b(図4の符号34)を動作させ、押し出しガイド部14a,14b(図4の符号35)を図3Aに示す待機位置から図3Bに示す突出位置まで移動させる。これにより、磁気テープ1を図3Aに示す通常位置から図3Bに示す離間位置まで移動させることができ、磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間させることができる。その後、磁気テープ1において突起または異物が付着した部位が記録再生ヘッド13aの位置を通過する際には、突起または異物と記録再生ヘッド13a,13bに含まれる磁気抵抗効果型素子とが接触しないので、記録再生ヘッド13a,13bで再生される信号にノイズが発生するのを防止することができるとともに、磁気抵抗効果型素子の損傷を防ぐことができる。
【0026】
押し出しガイド部14a,14bは、突起検出センサー21a,21bにおける突起または異物の検出後、磁気テープ1を記録再生ヘッド13aから所定時間(例えば10msec)離間させ、所定時間経過後、押し出しガイド部14a,14bを矢印Dに示す方向へ移動させて待機位置へ移動させる。その後、突起検出センサー21aにおいて新たな所定の大きさ以上の突起または異物が検出されると、上記と同様の動作が繰り返される。なお、押し出しガイド部14a,14bが磁気テープ1を記録再生ヘッド13aから離間させている時間は一例であり、磁気テープ1の走行速度、突起検出センサー21a,21bから記録再生ヘッド13a,13bまでの距離などによって、適宜最適な時間に設定することが好ましい。
【0027】
また、磁気テープ1を矢印Bに示す方向へ走行中、記録再生ヘッド13bに対して磁気テープ1の走行方向上流側にある突起検出センサー21bは、磁気テープ1の幅方向全域にわたって、突起または異物の有無を検出する。突起または異物を検出すると、アクチュエータ15a,15bは押し出しガイド部14a,14bを矢印Cに示す方向へ移動させて、磁気テープ1を記録再生ヘッド13bから離間させる。押し出しガイド部14a,14bは、磁気テープ1を記録再生ヘッド13bから所定時間離間させ、所定時間経過後、押し出しガイド部14a,14bを矢印Dに示す方向へ移動させて待機位置へ移動させる。その後、突起検出センサー21bにおいて新たな所定の大きさ以上の突起または異物が検出されると、上記と同様の動作が繰り返される。
【0028】
以上のように本実施の形態によれば、突起検出センサー21a,21bが磁気テープ1上の突起または異物を検出すると、アクチュエータ15a,15bで押し出しガイド部14a,14bを駆動させて、磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間させることにより、突起または異物が記録再生ヘッド13a,13bに接触または衝突することを防ぎ、記録再生ヘッド13a,13bで再生される信号にノイズが発生するのを防止することができるとともに、磁気抵抗効果型素子の損傷を防ぐことができる。
【0029】
また、押し出しガイド部14a,14bをヘッドブロック10a,10bに内蔵したことにより、磁気テープ記録再生装置を小型化することができる。すなわち、押し出しガイド部14a,14bをヘッドブロック10a,10bの外部に配する構成とした場合、装置内に押し出しガイド部14a,14bを配置するスペースが必要となり、装置が大型化してしまう。本実施の形態では、押し出しガイド部14a,14bを配置するためのスペースを特別に確保する必要がないため、磁気テープ記録再生装置を小型化することができる。
【0030】
なお、本実施の形態では、ガイドレール12a,12bに順方向用、逆方向用の押し出しガイド部14a,14bをそれぞれ設ける構成としたが、順方向、逆方向用のヘッドレール11a,11bの間に、順方向、逆方向共用の1つの押し出しガイド部を設けて離間動作を行う構成としてもよい。
【0031】
また、本実施の形態では、突起または異物を検出した時、押し出しガイド部14a,14bの両方を駆動させる構成としたが、少なくとも磁気テープ1と記録再生ヘッド13a,13bとを離間させることができれば、いずれか一方のみを駆動させる構成としてもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、押し出しガイド部14a,14bの離間量は固定値(例えば500nm)としたが、突起または異物の大きさ(磁気テープ1の表面からの高さ)に応じて、離間量を可変としてもよい。つまり、突起または異物が大きい場合は離間量を大きくし、突起または異物が小さい場合は離間量を少なくする。このように構成することで、突起または異物が小さい場合、押し出しガイド部14a,14bの移動時間を短くすることができるので、応答時間を短縮することができる。
【0033】
また、押し出しガイド部14a,14bの離間量(本実施の形態では500nm)は一例であり、少なくとも磁気テープ1と記録再生ヘッド13a,13bから離間させることができれば、他の値であってもよい。
【0034】
また、本実施の形態では、磁気抵抗効果型素子を内蔵した記録再生ヘッドを一例として挙げ、磁気抵抗効果型素子の損傷を防ぐ構成を説明したが、他の形態の磁気ヘッドであっても、損傷を防ぐことができたり、異物によるヘッド目詰まりを防ぐことができるという効果が得られる。
【0035】
また、本実施の形態では、テープ離間手段は、磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間する方向に押圧する押し出しガイド部14a,14b及びアクチュエータ15a,15bで構成したが、少なくとも磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間させることができれば、他の形態であってもよい。例えば、磁気テープ1が記録再生ヘッド13a,13bから離間する方向に空気を噴射する構成を備え、磁気テープ1上に突起または異物を検出した時に、空気圧によって磁気テープ1を記録再生ヘッド13a,13bから離間させる構成が考えられる。また、ヘッドブロック10を磁気テープ1に対して離間する方向へ移動させて、磁気テープ1と記録再生ヘッド13a,13bとを離間させる構成も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態における磁気テープ記録再生装置の要部概略を示す断面図
【図2】実施の形態におけるヘッドブロックの平面図
【図3A】実施の形態における磁気テープ記録再生装置のヘッドブロックの断面図
【図3B】実施の形態における磁気テープ記録再生装置のヘッドブロックの断面図
【図4】実施の形態における磁気テープ記録再生装置のブロック図
【符号の説明】
【0037】
13a,13b 記録再生ヘッド
14a,14b 押し出しガイド部
15a,15b アクチュエータ
20a,20b 突起検出部
21a,21b 突起検出センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープに情報を記録再生可能な記録再生ヘッドを備えた磁気テープ記録再生装置であって、
前記記録再生ヘッドに対して前記磁気テープの走行方向上流側に配され、前記磁気テープ上の突起または異物の有無を検出可能な検出手段と、
前記記録再生ヘッドの近傍に配され、前記磁気テープと前記記録再生ヘッドとを離間させるテープ離間手段とを備え、
前記テープ離間手段は、
前記検出手段が、前記磁気テープの表面から所定の高さを超える突起または異物を検出した際に、前記磁気テープと前記記録再生ヘッドとを離間させる、磁気テープ記録再生装置。
【請求項2】
前記記録再生ヘッドは、
磁気抵抗効果型素子を含む、請求項1記載の磁気テープ記録再生装置。
【請求項3】
前記テープ離間手段は、
前記記録再生ヘッドを備えたヘッドブロックに内蔵されている、請求項1または2記載の磁気テープ記録再生装置。
【請求項4】
前記テープ離間手段は、
前記磁気テープ上の突起または異物の大きさに応じて離間量が制御される、請求項1から3のいずれかに記載の磁気テープ記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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