説明

磁気テープ

【課題】 データエリアの面積を減少させることなくサーボトラッキングを行い得る磁気テープを提供すること
【解決手段】 バックコート層を、テープ長手方向に対して平行な3本以上のサーボトラックが予め磁気的に形成されている磁気記録可能な層となし、該バックコート層の保磁力を磁性層側のすべての層全体の保磁力よりも高くし且つその飽和磁束密度を磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度よりも低くしたことを特徴とする磁気テープ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気的サーボトラックを有する磁気テープに関し、更に詳しくはデータトラックの記録面と反対側の面に磁気的サーボトラックを有する磁気テープに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、パソコンネットワークの規模増大、データ管理のセキュリティ面の重要性等から、データのバックアップ用媒体である磁気テープに対して大容量化の要求が高まってきた。大容量化の手段としては、記録密度を向上させる方法とテープ長を長くする方法とがある。
【0003】テープ長を長くする方法では、巻回されたテープがテープカートリッジに収容可能なテープ長が記録容量の上限であることから、大容量化を図るためにはテープ厚みを薄手にしなければならない。従って、この方法には自ずと大容量化に限界がある。一方、記録密度を向上させる方法に関しては、ハードディスクドライブの記録密度に対して磁気テープの記録密度は低いことが知られており、特にサーペンタイン方式の磁気テープの記録密度は低いものである。サーペンタイン方式の磁気テープの記録密度が低い理由は、トラック密度が低いためである。これに対して、もう一方の記録方式であるヘリカルスキャン方式の磁気テープはサーペンタイン方式の磁気テープよりもトラック密度が高いことが知られている。この理由は、ヘリカルスキャン方式の磁気テープではATF(Automatic Track Finding )と呼ばれるサーボトラッキング方式を採用しているためである。
【0004】サーペンタイン方式の磁気テープにおいてもトラック密度を向上させるための手段としてサーボトラッキング方式が採用されており、そのようなサーボトラッキング方式として磁気記録面のデータトラックと同じトラックにサーボ信号を書込む方式(埋め込みサーボ方式)や、磁気記録面に専用のサーボトラックを設ける方法等が提案されてきた。特にデータトラックのピッチが数十μmになった場合のサーボトラッキング方式として、特公平7−82626号公報においては磁気記録面に専用のサーボトラックを設け且つ複数のサーボ信号再生ヘッドによってサーボ信号を読み出してトラッキングする方式が提案されている。しかしながらこの方法では、トラック数の増加に伴いサーボ信号再生ヘッドの数を増やさなければならず、それを避ける為にはサーボトラックを増やさなければならない。このように従来のサーボトラッキング方式は、磁気記録面のデータエリアと同じエリアをサーボトラッキングのためのエリアとして使用するため、データエリアの面積が減少してしまうという問題がある。特に特公平7−82626号公報記載のサーボトラッキング方式では、トラック密度が約30tpmm(トラック/mm)以上といった高トラック密度になるとその問題が著しくなる。
【0005】従って、本発明の目的は、データエリアの面積を減少させることなくサーボトラッキングを行い得る磁気テープを提供することにある。また、本発明の目的は、トラック密度が向上した磁気テープを提供することにある。更に、本発明の目的は、高記録容量を有する磁気テープを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討した結果、磁気テープにおけるバックコート層に磁気的にサーボトラックを形成することにより、磁性層のデータエリアの面積を減少させることなくサーボトラッキングを行い得ることを知見したが、その場合には磁気テープの諸特性に関して問題が生じることが判明した。そこで更に検討を重ねたところ、バックコート層の保磁力および飽和磁束密度を、磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度との関係において、それぞれ特定の値以上および特定の値以下とすることによって、バックコート層に磁気的にサーボトラックを形成することに伴い生じる種々の問題を解消でき且つ上記目的を達成し得る磁気テープが得られることを知見した。
【0007】本発明は上記知見に基づきなされたものであり、支持体の一方の面上に磁性層が設けられ、他方の面上にバックコート層が設けられてなる磁気テープにおいて、上記バックコート層を、テープ長手方向に対して平行な3本以上のサーボトラックが予め磁気的に形成されている磁気記録可能な層となし、該バックコート層の保磁力を上記磁性層側のすべての層全体の保磁力よりも高くし且つその飽和磁束密度を上記磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度よりも低くしたことを特徴とする磁気テープを提供することにより上記目的を達成したものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の磁気テープを、その好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。ここで、図1は、本発明の磁気テープの一実施形態の構成を示す概略図であり、図2は、バックコート層に形成されたサーボトラックを示す模式図であり、図3は、本発明の磁気テープの記録・再生に用いられるドライブの模式図であり、図4は、本発明の磁気テープを使用した場合のサーボトラッキングの方法を示す概略図である。
【0009】図1に示す実施形態の磁気テープ1においては、支持体2上に中間層3が設けられており、中間層3に隣接して最上層としての磁性層4が設けられている。また、支持体2の他方の面上にバックコート層5が設けられている。
【0010】図1に示す磁気テープ1は、サーペンタイン記録方式に用いられるものであり、磁性層4には、磁気テープ1の走行方向と平行に複数本のデータトラックが形成されている。この磁気テープ1の使用時には、所定個数の磁気ヘッドを備えたヘッドユニットを磁気テープ1の幅方向に順次移動させてデータトラックの切り替えを行いながら、各磁気ヘッドにより対応するデータトラックに対して記録または再生が行われる。そして、データトラックの切り替えの際ならびに記録および再生の際に、各磁気ヘッドが適正なデータトラック上に位置するようにサーボトラッキングが行われる。
【0011】バックコート層5は、磁性粉末が結合剤中に分散されて形成された磁気記録可能な層となされている。そして図2に示すように、バックコート層5には、テープ長手方向(=走行方向)に対して平行な直線状の3本のサーボトラック10a,10b,10cが予め磁気的に形成されている。これらのサーボトラックは、それぞれ磁気テープ1の全長に亘って形成されている。これらのサーボトラックには、それぞれ磁気的にサーボ信号が予め記録されており、このサーボ信号を磁気的に読み取ることによって磁性層4のデータトラックのサーボトラッキングが行われるようになされている。各サーボトラックのトラック幅はwとなされており、トラックピッチも同様にwとなされている。尚、上述の通り、磁性層4におけるデータトラックもサーボトラックと同様に磁気テープ1の長手方向に平行に形成されているが、データトラックとサーボトラックとの相対的な位置関係については特に制限はない。
【0012】サーボトラック10a,10b,10cに記録されたサーボ信号を読み取ってのサーボトラッキングを図3を参照して説明する。図3は、図1及び図2に示す磁気テープ1の記録・再生に用いられるドライブ20を示す模式図であり、ドライブ20は、磁気ヘッドユニット21、一対の位置決めガイドロール22,23並びに順方向用サーボ信号読み取りヘッド24及び逆方向用サーボ信号読み取りヘッド25を備えている。磁気ヘッドユニット21は三個の磁気ヘッドがテープ走行方向に沿って直線状に並設されたものから構成されており、中央に記録ヘッド26が位置し、その両側に順方向用再生ヘッド27及び逆方向用再生ヘッド28がそれぞれ位置している。尚、図示していないが、ドライブ20には、これらの部材の他に、通常の磁気テープ用ドライブに備えられている各種部材と同様のものが備えられていることはいうまでもない。
【0013】ドライブ20を用いた磁気テープ1の記録・再生時においては、その磁性層4側の面が磁気ヘッドユニット21における各ヘッドと当接し且つバックコート層5側の面が各サーボ信号読み取りヘッドと当接するようになされている。そして、磁気テープ1が、例えば順方向(図中、矢印Fで示す方向)に走行する場合には、先ず、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24によってバックコート層5のサーボトラックに記録されたサーボ信号の読み取りが行われる。このサーボ信号から磁気テープ1の位置情報が得られ、この位置情報はドライブ20に備えられたサーボトラッキング処理装置29において処理されて、記録ヘッド26又は順方向用再生ヘッド27が、磁性層4のデータトラックに対して適正な位置にあるか否かが判断される。判断の結果は、磁気ヘッドユニット21及び/又は位置決めガイドロール22,23それぞれの駆動装置(図示せず)にフィードバックされてサーボトラッキングが行われる。その結果、記録ヘッド26及び順方向用再生ヘッド27は、磁性層4における適正なデータトラック上に位置することになり、該記録ヘッド26によってデータの記録がなされるか又は該順方向用再生ヘッド27によってデータトラックに記録されたデータの再生が行われる。
【0014】上述のサーボトラッキングの方法を、図4を用いて更に説明すると、図4(a)〜(c)に示すように、3本のサーボトラック10a,10b,10cには、それぞれサーボ信号Sa,Sb,Scが周期的に記録されている。それぞれのサーボ信号Sa,Sb,Scの記録波長は互いに異なることが好ましく、また記録長はほぼ同じであればよい。各サーボ信号が各サーボトラックに書き込まれる周期は、サーボ信号Sa,Sb,Scの記録長の和に等しくなされており、また、各サーボ信号は、Sc、Sb、Saの順で且つ互いに重複しないように記録されている(順方向の場合)。
【0015】図4(a)〜(c)に示すように、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24は、そのギャップの部分における幅が一本のサーボトラックのトラック幅wよりも広くなされていると共にトラックピッチの3倍よりも小さくなされている。その結果、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24は、3本のサーボトラック10a,10b,10cにそれぞれ記録されたサーボ信号Sa,Sb,Scを同時に読み取ることができるようになされている。
【0016】サーボ信号の読み取りについて、図4(a)〜(c)を参照して更に詳述すると、磁気テープは順方向Fに走行しており、先ず、サーボトラック10cに記録されたサーボ信号Scが順方向用サーボ信号読み取りヘッド24によって読み取られる。次に、サーボトラック10bに記録されたサーボ信号Sbが読み取られる。更にテープが走行すると、サーボトラック10aに記録されたサーボ信号Saが読み取られる。このようにして読み取られたサーボ信号Sa,Sb,Scの出力波形は図4(d)〜(f)のようになる。ここで、図4(d)〜(f)はそれぞれ、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24が図4(a)〜(c)に示す位置にある場合の出力波形に対応している。
【0017】図4(d)〜(f)に示す出力波形を参照してサーボトラッキングについて更に説明すると、図4(d)は、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24が図4R>4(a)示す位置にある場合の出力波形であり、サーボ信号Sbの出力波形に関して、サーボ信号Sa,Scの出力波形が対称形となっている。このような出力波形が得られる状態は、図4(a)に示すように順方向用サーボ信号読み取りヘッド24が、3本のサーボトラック10a,10b,10cの幅方向における中央部に位置している状態、即ち、オントラックの状態に対応しており、記録ヘッド26及び順方向用再生ヘッド27は磁性層における所定のデータトラック上に適正に位置していることになる。
【0018】一方、図4(e)及び(f)に示すような出力波形が得られる場合、即ち、サーボ信号Sbの出力波形に関して、サーボ信号Sa,Scの出力波形が非対称形となっている場合には、順方向用サーボ信号読み取りヘッド24が、図4(b)及び(c)に示すように、サーボトラック10a又は10b何れかの方向にオフセットしている状態となっている。この状態はオフトラックの状態であり、記録ヘッド26及び順方向用再生ヘッド27は磁性層におけるデータトラック上に適正に位置していないことになる。そこで、図3に示すように、ドライブ20に備えられたサーボトラッキング処理装置28は、磁気ヘッドユニット21及び/又は位置決めガイドロール22,23それぞれの駆動装置(図示せず)に対して、記録ヘッド26及び順方向用再生ヘッド27が適正な位置となるように指令を発する。その結果、駆動装置(図示せず)によって記録ヘッド26及び順方向用再生ヘッド27は適正な位置、即ちオントラックの状態に復帰する。
【0019】サーボトラック10a,10b,10cの幅w及びピッチpについて図2を参照して説明すると、各サーボトラックは何れも同幅であり、その値は10〜500μm、特に20〜100μmであることが好ましい。サーボトラックの幅wが10μmに満たないとシステム(サーボ信号読み取り部、走行系)が精度的に追従しきれず、トラッキング不能となることがあり、500μmを超えると十分なトラッキングの精度が得られない可能性が高いので上記範囲内とすることが好ましい。一方、ピッチpに関しては、隣り合うサーボトラック間に空隙が存在していないため、ピッチpはトラック幅wに等しい。尤も、隣り合うサーボトラック間に空隙を設けることに何ら支障はなく、その場合のピッチpは11〜600μm、特に21〜150μmであることが好ましい。
【0020】サーボトラックは、トラッキングの精度を高める上で、バックコート層5に3本以上形成される。この場合、上述したトラッキング方式に従い3本のサーボトラック一組でサーボトラッキングを行うことが好ましい。
【0021】3本のサーボトラックを一組として用い、これを一組以上用いてサーボトラックを行う場合には、各サーボトラックの組は磁気テープ1の幅方向全域に亘り所定間隔をおいて存在していてもよく、或いは、磁気テープ10の幅方向に関して一部分にのみ、例えば幅方向中央部に所定間隔をおいて一組以上存在していてもよく、また左右何れかの側方部にのみ所定間隔をおいて一組以上存在していてもよい。更には磁気テープ10の幅方向に関して二カ所またはそれ以上の箇所に所定間隔をおいて存在していてもよい。例えば、左右両側方部に同一または異なる組数でそれぞれ一組以上、中央部および左右何れかの側方部に同一または異なる組数でそれぞれ一組以上、或いは中央部および左右両側方部に同一または異なる本数でそれぞれ一組以上存在していてもよい。そして、これら何れの場合においても、サーボトラックの組数は磁性層4におけるデータトラックの本数の整数分の1であることが好ましい。
【0022】磁気テープのバックコート層を磁気記録可能な層となし、該バックコート層にサーボトラックを磁気的に形成することに関しては、以下の問題等が伴う。即ち、磁性層およびバックコート層の何れもが磁性を有する層であるため、磁気テープを巻回した際に、両層が磁気的に作用し合って磁気転写の現象が発生する。即ち、磁性層の磁気によってバックコート層が磁化され、またバックコート層の磁気によって磁性層が磁化される現象が発生する。その結果、磁性層に記録されているデータ信号およびバックコート層に記録されているサーボ信号の出力が何れも低下し、十分な再生出力が得られず且つ確実なサーボトラッキングが行われなくなるおそれがある。しかし、本発明においては、バックコート層の保磁力および飽和磁束密度を、磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度との関係において、それぞれ特定の値以上および特定の値以下とすることによって上記の問題が解消され、データエリアを減少させることなくサーボトラッキングを行い得る磁気テープが得られる。
【0023】更に詳細に説明すると、本発明の磁気テープ1においては、バックコート層5の保磁力(以下「Hcb」という)は磁性層側のすべての層全体の保磁力(以下「Hcm」という)よりも高くなされている。HcbがHcm以下であると、磁気テープ1を巻回した際に、磁性層側の層全体の磁気によってバックコート層5が磁化されてしまい、バックコート層5に記録されているサーボ信号の出力が低下し、確実なサーボトラッキングが行われなくなる。Hcbは、Hcmの110%以上であることが好ましく、更に好ましくは110〜200%、特に好ましくは120〜180%である。Hcbの具体的な値としては、90〜400kA/m、特に120〜300kA/mであることが好ましい。これに対して、Hcmの具体的な値としては、80〜350kA/m、特に100〜250kA/mであることが好ましい。本明細書において、「磁性層側のすべての層全体の保磁力」とは、磁性層側に設けられているすべての磁性の層からの寄与による全体としての保磁力を意味する。従って、図1に示す磁気テープ1を例にとると、中間層3が非磁性の層である場合には、「磁性層側のすべての層全体の保磁力」とは磁性層4の保磁力を意味し、中間層3が磁性の層である場合には、磁性層4及び中間層3全体の保磁力を意味する。その測定は、支持体2上に磁性層4及び中間層3のみが設けられた状態の磁気テープ(即ち、バックコート層5が設けられていない状態の磁気テープ)について行う。
【0024】一方、バックコート層5及び磁性層の飽和磁束密度に関しては、バックコート層の飽和磁束密度(以下「Bsb」という)は、磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度(以下「Bsm」という)よりも低くなされている。BsbがBsm以上であると、磁気テープ1を巻回した際に、バックコート層5に記録されているサーボ信号から発生する磁束によって、磁性層4が磁化されてしまい、磁性層4に記録されているデータ信号が低下し、エラーレートが上昇してしまう。Bsbは、Bsmの90%以下であることが好ましく、更に好ましくは90〜10%、特に好ましくは80〜30%である。Bsbの具体的な値としては、30〜350mT、特に50〜200Tであることが好ましい。これに対して、Bsmの具体的な値としては、100〜400T、特に120〜300mTであることが好ましい。本明細書において、「磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度」とは、磁性層側に設けられているすべての磁性の層からの寄与による全体としての飽和磁束密度を意味する。従って、図1に示す磁気テープ1を例にとると、中間層3が非磁性の層である場合には、「磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度」とは磁性層4の飽和磁束密度を意味し、中間層3が磁性の層である場合には、磁性層4及び中間層3全体の飽和磁束密度を意味する。その測定は、上述した保磁力の測定の場合と同様に、支持体2上に磁性層4及び中間層3のみが設けられた状態の磁気テープ(即ち、バックコート層5が設けられていない状態の磁気テープ)について行う。
【0025】バックコート層5の保磁力および飽和磁束密度が、磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度との関係において、それぞれ上述した関係を満たすようにするための方法の一つとして、バックコート層5を構成する各種成分の配合、特に磁性粉末の種類および配合量を調整する方法が挙げられる。以下、バックコート層を構成する各種成分について説明する。
【0026】バックコート層5は、磁性粉末および結合剤を含有している。上記磁性粉末としては、通常磁気テープに用いられているもの、例えば、強磁性六方晶系フェライト粉末、強磁性金属粉末および強磁性酸化鉄系粉末等を用いることができる。特に、強磁性六方晶系フェライト粉末は高保磁力で且つ低飽和磁化の物質なので、これを磁性粉末として用いると、バックコート層5の保磁力および飽和磁束密度が、磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度との関係において、それぞれ上述した関係を容易に満たすようになるので好ましい。
【0027】上記強磁性六方晶系フェライト粉末としては、微小平板状のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト並びにそれらのFe原子の一部がTi,Co,Ni,Zn,Vなどの原子で置換された磁性粉末などが挙げられる。該強磁性六方晶系フェライト粉末は高保磁力で且つ低飽和磁化のものであるほど好ましく、具体的には、その保磁力(Hc)は100〜400kA/m、特に150〜350kA/mであることが好ましい。一方、その飽和磁化(σs)は20〜100Am2 /kg、特に30〜70Am2 /kgであることが好ましい。
【0028】上記強磁性六方晶系フェライト粉末は、磁化遷移領域を狭くし、表面粗さを小さくする点から、小粒径であることが好ましく、具体的には、その板径が20〜100nm、特に30〜70nmであることが好ましい。また、板状比(板径/板厚)は、1〜10、特に3〜6であることが好ましい。また、上記強磁性六方晶系フェライト粉末のBET比表面積は30〜70m2 /gであることが好ましい。
【0029】上記磁性粉末と併用される結合剤としては、磁気テープに用いられるものであれば制限なく使用することができる。例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び反応型樹脂並びにこれらの混合物などが挙げられる。具体的には、塩化ビニルの共重合体及びその変成物、アクリル酸、メタクリル酸及びそのエステルの共重合体、アクリロニトリルの共重合体(ゴム系の樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、繊維素系樹脂、ポリアミド樹脂などを使用できる。上記結合剤の数平均分子量は2,000〜200,000であることが好ましい。また、バックコート層5に含まれる各種粉末の分散性を向上させるために、上記結合剤に水酸基、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基又はその塩、リン酸基又はその塩、ニトロ基または硝酸エステル基、アセチル基、硫酸エステル基またはその塩、エポキシ基、ニトリル基、カルボニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルアンモニウム塩基、スルホベタイン、カルボベタインなどのベタイン構造などの分極性の官能基(いわゆる極性基)を含有させてもよい。該結合剤は、上記磁性粉末100重量部に対して10〜50重量部、特に12〜30重量部配合されることが好ましい。
【0030】バックコート層5には、上述の成分に加えて、研磨材粒子、カーボンブラック、潤滑剤および硬化剤等が含まれていてもよい。
【0031】上記研磨材粒子としては、例えばアルミナ、シリカ、ZrO2 、Cr2 3 等のモース硬度が7以上の物質の粉末が好ましく用いられる。該研磨材粒子の一次粒径は、走行時の摩擦係数の低下および走行耐久性の向上の点から0.03〜0.6μmであることが好ましく、0.05〜0.3μmであることが更に好ましい。上記研磨材粒子は、上記磁性粉末100重量部に対して、2〜15重量部、特に5〜10重量部配合されることが好ましい。
【0032】上記カーボンブラックは、帯電防止剤および固体潤滑剤等として機能するものである。該カーボンブラックの種類に特に制限はないが、一次粒径15〜80nm、BET比表面積10〜80m2 /g、DBP吸油量100〜300cm3 /100gのカーボンブラックを用いると、バックコート層5の表面形状を良好なものとすることができるので好ましい。該カーボンブラックは、上記磁性粉末100重量部に対して2〜50重量部、特に2〜10重量部配合されていることが、バックコート層5の表面形状を一層良好なものとし得る点から好ましい。
【0033】上記潤滑剤としては、一般に脂肪酸及び脂肪酸エステルが用いられる。上記脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノレン酸、オレイン酸、エライジン酸、ベヘン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸等が挙げられる。一方、上記脂肪酸エステルとしては、例えば、上記脂肪酸のアルキルエステル等が挙げられ、総炭素数12〜36のものが好ましい。これらの潤滑剤は、上記磁性粉末100重量部に対して0.5〜20重量部、特に1〜10重量部、更には2〜8重量部配合されることが好ましい。
【0034】上記硬化剤としては、一般に、日本ポリウレタン工業(株)製のコロネートL(商品名)に代表されるイソシアネート系硬化剤やアミン系硬化剤が用いられる。該硬化剤は、上記磁性粉末100重量部に対して1〜20重量部、特に3〜10重量部配合されることが好ましい。
【0035】バックコート層5は、上述の各成分が溶剤に分散されてなるバックコート塗料を支持体2上に塗布することによって形成されている。該溶剤としては、ケトン系の溶剤、エステル系の溶剤、エーテル系の溶剤、芳香族炭化水素系の溶剤及び塩素化炭化水素系の溶剤などが挙げられる。上記溶剤は、上記結合剤100重量部に対して400〜2000重量部、特に500〜1500重量部配合されることが好ましい。
【0036】上記バックコート塗料を塗布して形成されるバックコート層5の厚さは、磁性層4及び中間層3の厚さとのバランス等を考慮して0.1〜2μm、特に0.2〜1.5μm、とりわけ0.2〜1.0μmとすることが好ましい。
【0037】また、バックコート層の表面粗さに関しては、磁気テープ1の巻回時にバックコート層の表面形状が磁性層に転写することを防止し且つ磁気テープ1の走行を安定化させるために、その中心線平均粗さRaを8〜30nm、特に10〜20nmとすることが好ましく、十点平均粗さRzを40〜200nm、特に80〜150nmとすることが好ましい。バックコート層5のRa及びRzをこのような好ましい範囲とするためには、例えば上述の物性を有するカーボンブラックを上述の量で以てバックコート層5に配合すればよい。
【0038】中心線平均粗さRaは下記式(1)で定義され、また十点平均粗さRzはJIS−B0601−1994の定義に準拠し、両者ともにZygo社製Laser Interferometric Microscope Maxim 3D Model 5700を用い以下の条件で測定される。
・Filter:Fixed・Remove:Cylinder・Filter Freg :4.0(1/mm)
・Filter Wavelength :0.250(mm)
・Trim:0・Trim Move :All・レンズ:Fizeau ×40
【0039】測定片は、顕微鏡用のJIS−R−3502を満足する物性のスライドグラス〔本明細書では、松浪硝子(株)製のスライドグラスを使用したがこれに限定されない〕上に、水又はエタノールにて貼付け測定する。この際、過剰の水又はエタノールがあると再現性の良い結果が得られないので、ある程度の水又はエタノールが蒸発し、スライドグラスの裏側から見て干渉縞が見える状態の間に測定したものをRa及びRzの値とする。
【0040】
【数1】


【0041】次に、バックコート層にサーボ信号を記録する方法を、図5を参照して説明する。ここで、図5は 磁気テープのバックコート層にサーボ信号を記録する装置を示す概略図である。図5に示す装置30は、繰り出しリール31、巻き取りリール32、サーボ信号記録装置33を備えている。そして、サーボ信号記録装置33には、サーボ信号記録ヘッド34が備えられている。
【0042】繰り出しリール31には、磁気テープ原反をスリットして得られた磁気テープ1が巻回されている。そして、磁気テープ1は所定速度で繰り出される。この時点では、磁気テープ1のバックコート層に磁気記録はなされていない。繰り出された磁気テープ1は、サーボ信号記録装置33内に導かれ、該装置33内に設置されているサーボ信号記録ヘッド34によって、バックコート層5にサーボ信号が記録される。図5においては簡便のためにサーボ信号記録ヘッド34は一個しか描かれていないが、実際にはバックコート層5に形成されるサーボトラックの数と同数の記録ヘッド34が磁気テープ1の幅方向に亘って設置されている。そして、バックコート層5における各記録ヘッド34が当接した部分に、所定のサーボ信号が記録され、このサーボ信号が記録されたサーボトラックは磁気テープ1の長手方向(=走行方向)と平行に且つ磁気テープ1の全長に亘って形成される。最後に、サーボ信号が記録された磁気テープ1は巻き取りリール32に巻回される。尚、図示していないが、上記装置33における磁気テープ1の走行系の何れかの位置に、磁気テープの何れかのエッジを規制する手段を設け、テープ走行時におけるテープの幅方向への変動を防止して、該エッジから各サーボトラックまでの距離がそれぞれ一定になるようにすることが好ましい。
【0043】次に、本発明の磁気テープにおける一般事項について説明する。
【0044】図1に示す磁気テープ1においては、磁性層4は、強磁性粉末および結合剤を含む磁性塗料を塗布することにより形成されている。即ち、上記磁気テープ1は塗布型の磁気テープである。
【0045】上記強磁性粉末としては、例えば針状または紡錘状の強磁性粉末および板状の強磁性粉末を用いることができる。該針状または紡錘状の強磁性粉末としては、鉄を主体とする強磁性金属粉末や、強磁性酸化鉄系粉末などが挙げられる。一方、該板状の強磁性粉末としては、強磁性六方晶系フェライト粉末などが挙げられる。特に、バックコート層5に上述した強磁性六方晶系フェライト粉末が配合される場合には、上記強磁性粉末として高飽和磁化のものを用いることが好ましく、具体的には針状または紡錘状の強磁性金属粉末や強磁性酸化鉄系粉末を用いることが好ましい。
【0046】上記強磁性金属粉末としては、金属分が50重量%以上であり、該金属分の60%以上が鉄である強磁性金属粉末が挙げられる。該強磁性金属粉末の具体例としては、例Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Al、Fe−Ni−Al,Fe−Co−Ni、Fe−Ni−Al−Zn、Fe−Al−Siなどが挙げられる。また、上記強磁性酸化鉄系粉末としては、γ−Fe2 3 、Co被着γ−Fe2 3、Co被着FeOx (4/3≦x<1.5)などが挙げられる。これら針状または紡錘状の強磁性粉末は、その長軸長が0.05〜0.2μm、特に0.05〜0.16μmであることが好ましく、針状比(即ち、長軸長/短軸長)が3〜15、特に3〜10であることが好ましい。これら針状または紡錘状の強磁性粉末の保磁力および飽和磁化の値は、バックコート層5及び磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度に関して上述した関係が容易に満たされるようにするために、それぞれ以下の範囲内であることが好ましい。即ち、上記針状または紡錘状の強磁性粉末の保磁力(Hc)は100〜400kA/m、特に150〜350kA/mであることが好ましい。また、その飽和磁化(σs)は100〜200Am2 /kg、特に120〜170Am2 /kgであることが好ましい。また、これら針状または紡錘状の強磁性粉末のBET比表面積は30〜70m2 /g、特に40〜70m2 /gであることが好ましい。
【0047】上記強磁性粉末には、必要に応じて希土類元素や遷移金属元素を含有させることができる。更に、上記強磁性粉末には、その分散性などを向上させるために表面処理を施してもよい。この表面処理は「Characterization of Powder Surfaces 」(T.J.Wiseman ら著,Academic Press,1976)に記載されている方法などと同様の方法により行うことができ、例えば上記強磁性粉末の表面を無機質酸化物で被覆する方法が挙げられる。この際用いることができる無機質酸化物としては、Al2 3 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb2 3 、ZnOなどが挙げられ、使用に際してはこれらを単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。なお、上記表面処理は上記の方法以外にシランカップリング処理、チタンカップリング処理及びアルミニウムカップリング処理などの有機処理によっても行うことができる。
【0048】上記結合剤としては、バックコート層5の形成に用いられる結合剤として例示したものと同様のものを用いることができる。従って、該結合剤の詳細については特に説明しないが、バックコート層5に関して詳述した説明が適宜適用される。該結合剤は、上記強磁性粉末100重量部に対して10〜40重量部、特に15〜25重量部配合されることが好ましい。
【0049】磁性層4は、上述の成分に加えて、研磨材粒子、カーボンブラック、潤滑剤、硬化剤等を含んでいてもよい。これらの成分としては、バックコート層5に配合されるものと同様のものを用いることができる。従って、これらの成分の詳細については特に説明しないが、バックコート層5に関して詳述した説明が適宜適用される。これらの成分の好ましい配合量は、上記強磁性粉末100重量部に対して、それぞれ以下の通りである。
・研磨材粒子:2〜20重量部、特に5〜15重量部・カーボンブラック:0.1〜10重量部、特に0.1〜5重量部・潤滑剤:0.5〜10重量部、特に0.5〜5重量部・硬化剤:1〜6重量部、特に2〜5重量部
【0050】磁性層4には、上述の成分の他に、磁気テープに通常用いられている分散剤、防錆剤、防黴剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することもできる。
【0051】磁性層4は、上述の各成分を溶剤に分散させた磁性塗料を中間層3上に塗布することによって形成されている。該溶剤としては、バックコート塗料に用いられる溶剤として例示したものと同様のものを用いることができる。上記磁性塗料における該溶剤の配合量は、該磁性塗料に含まれる上記強磁性粉末100重量部に対して、80〜500重量部、特に100〜350重量部であることが好ましい。
【0052】上記磁性塗料を調製するには、例えば、強磁性粉末および結合剤を溶剤の一部と共にナウターミキサー等に投入し予備混合して混合物を得、この混合物を連続式加圧ニーダー等や二軸スクリュー混練機により混練し、次いで上記溶剤の一部で希釈し、サンドミル等を用いて分散処理した後、潤滑剤等の添加剤を混合して、濾過し、更に硬化剤や上記溶剤の残部を混合する方法等を挙げることができる。
【0053】磁性層4の厚さは、S/Nの向上や自己減磁の防止の点から0.1〜3μmであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2μmである。
【0054】また、磁性層4の保磁力および飽和磁束密度の値は、バックコート層5及び磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度に関して上述した関係が容易に満たされるようにするために、それぞれ以下の範囲内であることが好ましい。即ち、磁性層4の保磁力(Hc)は80〜350kA/m、特に100〜250kA/mであることが好ましい。また、その飽和磁束密度(Bs)は100〜400mT、特に120〜300mTであることが好ましい。
【0055】次に、中間層3について説明する。中間層3は、磁性を有する層であってもよく、非磁性の層であってもよい。中間層3が磁性を有する層である場合には、該中間層3は磁性粉末を含有する磁性の層であり、磁性粉末、非磁性粉末、結合剤および溶剤を主成分とする磁性の塗料を用いて形成される。一方、中間層3が非磁性の層である場合には、該中間層5は非磁性粉末、結合剤および溶剤を主成分とする非磁性の塗料を用いて形成される(以下、これらの塗料を総称して「中間層塗料」という)。
【0056】上記磁性粉末としては、強磁性粉末が好ましく用いられ、該強磁性粉末としては硬磁性粉末および軟磁性粉末の何れもが好ましく用いられる。
【0057】上記硬磁性粉末としては、例えば、磁性層4に用いられる強磁性六方晶系フェライト粉末、強磁性金属粉末および強磁性酸化鉄系粉末などが挙げられる。これらのうち、強磁性六方晶系フェライト粉末、特に板径が0.1μm以下の強磁性六方晶系フェライト粉末を用いることが特に好ましい。これらの磁性粉末の詳細については、磁性層4に用いられる強磁性粉末と同様であり特に説明しないが、該強磁性粉末に関する説明が適宜適用される。
【0058】一方、上記軟磁性粉末としては、特に制限されないが、通常磁気ヘッドや電子回路などのいわゆる弱電機器に用いられているものが好ましく、例えば近角聡信著「強磁性体の物理(下)磁気特性と応用」(裳華房、1984年)368〜376頁に記載されているソフト磁性材料(軟磁性材料)を使用でき、具体的には酸化物軟磁性粉末や金属軟磁性粉末を使用することができる。
【0059】上記酸化物軟磁性粉末としては、スピネル型フェライト粉末が好ましく用いられ、該スピネル型フェライト粉末としては、MnFe2 4 、Fe3 4 、CoFe2 4 、NiFe2 4 、MgFe2 4 、Li0.5 Fe2.5 4 や、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、Li−Zn系フェライト、Zn系フェライト、Mn系フェライト等を挙げることができる。これら酸化物軟磁性粉末は単独で用いても二種以上併用してもよい。また、上記金属軟磁性粉末としては、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金(Alperm, Alfenol, Alfer)、パーマロイ(Ni−Fe系二元合金およびこれにMo、Cu、Crなどを添加した多元系合金)、センダスト(Fe−9.6wt%Si−5.4wt%Al)、Fe−Co合金等を挙げることができる。これら金属軟磁性粉末は単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0060】上記酸化物軟磁性粉末の保磁力は通常8〜12000A/mであり、飽和磁化は通常30〜90Am2 /kgである。また金属軟磁性粉末の保持力は通常1.6〜8000A/mであり、飽和磁化は通常5〜500Am2 /kgである。
【0061】上記軟磁性粉末の形状は特に制限されないが、球状、板状、針状などが挙げられ、その大きさは5〜800nmであることが好ましい。
【0062】上記磁性粉末には、磁性層4に含まれる強磁性粉末と同様に、必要に応じて希土類元素や遷移金属元素を含有させることができ、また、該強磁性金属粉末に施される表面処理と同様の表面処理を施してもよい。
【0063】次に、上記非磁性粉末について説明すると、該非磁性粉末としては、例えば、非磁性の酸化鉄(ベンガラ)、硫酸バリウム、硫化亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、二酸化マグネシウム、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、二酸化錫、炭化珪素、酸化セリウム、コランダム、人造ダイヤモンド、ザクロ石、ケイ石、窒化珪素、炭化モリブデン、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化チタン、ケイソウ土、ドロマイト、樹脂性の粉末などが挙げられる。これらの中でも非磁性の酸化鉄(ベンガラ)、酸化チタン、窒化ホウ素などが好ましく用いられる。これら非磁性粉末は単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。上記非磁性粉末の形状は、球状、板状、針状、無定形の何れでもよい。その大きさは球状、板状、無定形のものにおいては5〜200nmであることが好ましく、針状のものにおいては長軸長が20〜300nmで針状比が3〜20であることが好ましい。上記非磁性粉末は、上記磁性粉末と併用される場合(即ち、中間層3が磁性の層の場合)には、該磁性粉末100重量部に対して、好ましくは30〜70重量部、更に好ましくは40〜60重量部用いられる。一方、上記磁性粉末が用いられない場合(即ち、中間層3が非磁性の層の場合)には、該非磁性粉末100重量部に基づいて他の成分の配合量が決定される。上述した各種非磁性粉末には、必要に応じて、上記磁性粉末に施される表面処理と同様の処理を施してもよい。
【0064】中間層3は、磁性であると非磁性であるとを問わず、上述した成分に加えて結合剤を含み、更に研磨材粒子、潤滑剤、カーボンブラックおよび硬化剤等を含んでいてもよい。これらの成分としては、特に説明しないが、バックコート層5及び磁性層4に用いられる成分と同様のものが用いられる。これらの成分の好ましい配合量は、上記磁性粉末および非磁性粉末の合計量100重量部(中間層3が磁性の層である場合)または該非磁性粉末100重量部(中間層3が非磁性の層である場合)に対して、それぞれ以下の通りである。
・結合剤:16〜40重量部、特に20〜28重量部・研磨材粒子:6〜30重量部、特に8〜12重量部・潤滑剤:2〜20重量部、特に5〜7重量部・カーボンブラック:5〜30重量部、特に12〜20重量部・硬化剤:2〜12重量部、特に4〜8重量部また、中間層3には、必要に応じて磁性層4に配合される添加剤と同様のものを配合することもできる。
【0065】中間層3は、上述の成分および溶剤を含む中間層塗料を支持体2上に塗布して形成される。該溶剤としては、上述したバックコート塗料や磁性塗料に含有される溶剤と同様のものが用いられる。該溶剤の使用量は、上記磁性粉末および非磁性粉末の合計量100重量部(中間層3が磁性の層である場合)または該非磁性粉末100重量部(中間層3が非磁性の層である場合)に対して、100〜700重量部とすることが好ましく、特に300〜500重量部とすることが好まし。
【0066】中間層3の厚さは、磁気テープ1の耐久性に影響する潤滑剤の保持能力を制御する点から、ある程度の厚みが必要であり、一方、厚すぎると変形時にクラックが発生しやすくなることから、0.5〜10μm、特に0.1〜3μmであることが好ましい。
【0067】中間層3が磁性を有する層である場合、その保磁力および飽和磁束密度の値は、バックコート層5及び磁性層側のすべての層全体の保磁力および飽和磁束密度に関して上述した関係が容易に満たされるようにするために、それぞれ以下の範囲内であることが好ましい。即ち、中間層3の保磁力(Hc)は90〜400kA/m、特に120〜300kA/mであることが好ましい。また、その飽和磁束密度(Bs)は30〜350mT、特に50〜200mTであることが好ましい。
【0068】支持体2を構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート及びポリエチレンビスフェノキシカルボキシレート等のポリエステル類;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン類;セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体;ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂;ポリアミド;ポリイミド;ポリカーボネート;ポリスルフォン;ポリエーテル・エーテルケトン並びにポリウレタン等のような高分子樹脂等の非磁性材料が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの材料から構成される上記支持体には、必要に応じて一軸または二軸の延伸処理や、コロナ放電処理、易接着処理等が施されていてもよい。
【0069】非磁性支持体2の厚さには特に制限はなく、2〜100μm、特に2〜76μmが好ましい。
【0070】次に図1に示す磁気テープ1を製造する好ましい方法の概略を述べる。まず、支持体2上に磁性層4を形成する磁性塗料と中間層3を形成する中間層塗料とを、各層が所定の厚さとなるようにウエット・オン・ウエット方式により同時重層塗布を行い、磁性層4および中間層3の塗膜を形成する。即ち、磁性層4は、中間層3の湿潤時に塗設・形成されていることが好ましい。次いで、これらの塗膜に対して、磁場配向処理を行った後に乾燥処理を行い巻き取る。この後、カレンダー処理を行い、更にバックコート層5を形成する。あるいはバックコート層5を形成した後に磁性層4および中間層3を形成してもよい。次いで、40〜80℃下で6〜100時間エージング処理し、所望の幅にスリットする。そしてスリット後、上述した方法によってバックコート層5にサーボ信号を磁気的に記録して上記磁気テープ1が得られる。
【0071】上記ウエット・オン・ウエット方式による重層塗布は、特開平5−73883号公報の第42欄31行〜第43欄13行に記載されており、中間層塗料が乾燥する前に磁性塗料を塗布する方法であり、この方法によりドロップアウトが少なく、高密度記録に対応でき、且つ塗膜の耐久性にも優れた磁気テープが得られる。
【0072】上記磁場配向処理は、各塗料が乾燥する前に行われ、上記磁性塗料の塗布面に対して平行方向に約40kA/m以上、好ましくは約80〜800kA/mの磁界を印加する方法や、上記磁性塗料が湿潤状態の内に約80〜800kA/mのソレノイド等の中を通過させる方法により行うことができる。このような条件下で磁場配向処理を行うことで、磁性層4に含まれている上記強磁性粉末を磁気テープ1の長手方向に配向させることができる。尚、磁場配向処理後の乾燥処理中に、該強磁性粉末の磁場配向状態が変化しないようにするために、磁場配向処理直前に、30〜50度の温風を磁性層4の上方から吹き付けて、その予備乾燥を行い、各層中の残存溶剤量をコントロールすることも好ましい。
【0073】上記乾燥処理は、例えば30〜120℃に加熱された気体の供給により行うことができ、この際、気体の温度とその供給量を制御することにより塗膜の乾燥の程度を制御することができる。
【0074】上記カレンダー処理は、メタルロールとコットンロール若しくは合成樹脂ロールとの間、又は二本のメタルロールの間を通すスーパーカレンダー法等により行うことができる。カレンダー処理の条件は、例えば温度60〜140℃、線圧100〜500kg/cmとすることが好ましい。
【0075】尚、上記磁気テープ1の製造に際しては、必要に応じ、磁性層4の表面の研磨やクリーニング工程等の仕上げ工程を施すこともできる。また、磁性塗料および中間層塗料の塗布は、通常公知の逐次重層塗布方法により行うこともできる。
【0076】以上、本発明の磁気テープをその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、サーボトラックに記録するサーボ信号として図4に示すような信号に代えて他の信号を用いてよい。また、図1に示す磁気テープ1において、支持体2と中間層3又はバックコート層5との間にプライマー層を設けてもよい。また、上述した実施形態は塗布型の磁気テープであるが、これに代えて金属蒸着型の磁気テープを用いても同等の効果が奏される。
【0077】
【実施例】以下、実施例により本発明の磁気テープを更に詳細に説明すると共にその有効性を例証する。しかしながら、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。尚、特に断らない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
【0078】〔実施例1〕下記の配合成分を(硬化剤を除く)を、それぞれニーダーにて混練し、次いで撹拌器にて分散し、更にサンドミルによって微分散し、1μmのフィルターにて濾過後、硬化剤を最後に添加して下記組成のバックコート塗料、磁性塗料および中間層塗料をそれぞれ調製した。
【0079】
<バックコート塗料の配合>・磁性粉末A(種類および部数は表1及び表2参照)
・スルホン酸基含有塩化ビニル共重合体(結合剤) 20部・スルホン酸基ポリウレタン樹脂(結合剤) 20部・アルミナ(研磨材、一次粒径:0.18μm) 10部・カーボンブラック 5部(一次粒径:54nm、BET比表面積:32m2 /g、DBP吸油量:180cm3 /100g)
・ステアリン酸(潤滑剤) 1部・ブチルステアレート(潤滑剤) 3部・メチルエチルケトン(溶剤) 100部・トルエン(溶剤) 100部・シクロヘキサノン(溶剤) 100部
【0080】
<磁性塗料の配合>・強磁性粉末a(種類および部数は表1及び表2参照)
・アルミナ(研磨材、一次粒径:0.15μm) 8部・カーボンブラック 0.5部(帯電防止剤、一次粒径:0.018μm)
・塩化ビニル共重合体(結合剤) 10部(平均重合度:280、エポキシ基含有量:1.2重量%、スルホン酸基含有量:8×10-5当量/g)
・ポリウレタン樹脂(結合剤) 7部(数平均分子量:25000、スルホン酸基含有量:1.2×10-4当量/g、ガラス転移点:45℃)
・ステアリン酸(潤滑剤) 1.5部・2−エチルヘキシルオレート(潤滑剤) 2部・ポリイソシアネート(硬化剤) 5部〔日本ポリウレタン工業(株)製のコロネートL(商品名)〕
・メチルエチルケトン 120部・トルエン 80部・シクロヘキサノン 40部
【0081】
<中間層塗料の配合>・非磁性粉末イ(種類および部数は表1及び表2参照)
・磁性粉末I(種類および部数は表1及び表2参照)
・アルミナ(研磨剤、一次粒径:0.15μm) 3部・塩化ビニル共重合体(結合剤) 12部(平均重合度:280、エポキシ基含有量:1.2重量%、スルホン酸基含有量:8×10-5当量/g)
・ポリウレタン樹脂(結合剤) 8部(数平均分子量:25000、スルホン酸基含有量:1.2×10-4当量/g、ガラス転移点:45℃)
・ステアリン酸(潤滑剤) 1部・2−エチルヘキシルオレート(潤滑剤) 4部・ポリイソシアネート(硬化剤) 4部〔日本ポリウレタン工業(株)製のコロネートL(商品名)〕
・メチルエチルケトン 90部・トルエン 60部・シクロヘキサノン 30部
【0082】厚さ4.5μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる支持体上に、中間層塗料および磁性塗料を、中間層および磁性層の乾燥厚さがそれぞれ1.5μm及び0.2μmとなるように、ダイコーターにて同時重層塗布を行い、それぞれの塗膜を形成した。次いで、これらの塗膜が湿潤状態にある間に400kA/mのソレノイドにより磁場配向処理を行った。更に、乾燥炉にて80℃の温風を10m/分の速度で塗膜に吹きつけ乾燥した。乾燥後、塗膜をカレンダー処理し、中間層および磁性層を形成した。引き続き、上記支持体の反対の面上に上記バックコート塗料を塗布し、更に90℃にて乾燥し厚さ0.5μmのバックコート層を形成した。このようにして得られた磁気テープの原反を12.7mm幅にスリットした。
【0083】次に、図5に示す装置を用いて、スリットした磁気テープのバックコート層に、テープの全長に亘ってサーボ信号を記録した。この際のトラック数は30本であり、トラック幅は30μmであった。このようにして、バックコート層にサーボ信号が記録された磁気テープを得た。
【0084】〔実施例2〜5及び比較例1〜3〕実施例1で用いたバックコート塗料における磁性粉末ならびに磁性塗料における強磁性粉末および中間層塗料における磁性粉末と非磁性粉末の種類および配合量を表1及び表2に示す通りとする以外は実施例1と同様にしてバックコート層にサーボ信号が記録された磁気テープを得た。
【0085】実施例および比較例で得られた磁気テープについて、バックコート層ならびに磁性層および中間層の保磁力および飽和磁束密度をそれぞれ測定した。また、磁性層および中間層全体の保磁力および飽和磁束密度も測定した。これらの結果を表2に示す。尚、バックコート層、磁性層および中間層それぞれの保磁力および飽和磁束密度の測定は、粘着テープを用いて各層を剥離して行った。また、磁性層および中間層全体の保磁力および飽和磁束密度の測定は、粘着テープを用いて、磁気テープからバックコート層のみを剥離した後の磁気テープについて行った。
【0086】実施例および比較例で得られた磁気テープの性能を評価するために、磁気テープの再生出力、バックコート層の中心線平均粗さRa、十点平均粗さRz、動摩擦係数および表面電気抵抗を測定した。更に、磁気テープを巻回して3ヶ月保存後にトラッキングテストを行った。それらの結果を表2に示す。尚、上記測定のうち、バックコート層の中心線平均粗さRaおよび十点平均粗さRzは上述した方法により行い、その他の測定は下記の方法により行った。
【0087】<再生出力>ヘッドテスター法を用い、記録波長0.6μmの信号を記録して、その再生出力を測定し、比較例1を基準(0dB)として表わした。
【0088】<動摩擦係数>磁気テープをステンレスポールに10g(T1)の張力で接触させて、この条件でテープを14.3mm/sの速度で走行させるのに必要な張力(T2)を測定した。この測定値から磁気テープの動摩擦係数μを次式より算出した。
μ=(1/π)1n(T2/T1)
【0089】<表面電気抵抗>24カラットの金メッキが施され、粗さがN4(ISO 1302参照)に仕上げられている、半径10mmの2本の電極を用い、これらの電極を、磁性層上に、中心間の距離d=12.7mmとなるように水平状態で平行に置く。磁気テープの両端に0.25Nの力を加え、且つ電極に100V±10Vの直流電圧を印加して、電極間電流を測定する。この値から表面電気抵抗を求める。
【0090】<トラッキングテスト>実際にバックコート層に記録されたサーボ信号を利用してトラッキングを行った。そして、磁性層に記録された信号の出力変動およびテープの幅方向への位置変動を測定し、トラッキングの優劣を判断した。
【0091】
【表1】


【0092】
【表2】


【0093】表1及び表2に示す結果から明らかなように、実施例の磁気テープ(本発明品)は、バックコート層本来の機能が損なわれることなく、確実なサーボトラッキングが行われることが判る。これに対して、比較例の磁気テープでは、磁気転写が発生したために、再生出力が低いものとなり、更にサーボトラッキングを行うこともできなかった。
【0094】
【発明の効果】以上、詳述した通り、本発明によれば、データエリアの面積を減少させることなくサーボトラッキングを行い得る磁気テープが得られる。また、本発明によれば、バックコート層本来の機能が損なわれることなくサーボトラッキングを行い得る磁気テープが得られる。また、本発明によれば、トラック密度が向上した磁気テープが得られる。更に、本発明によれば、高記録容量を有する磁気テープが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気テープの一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】バックコート層に形成されたサーボトラックを示す模式図である。
【図3】本発明の磁気テープの記録・再生に用いられるドライブの概略図である。
【図4】本発明の磁気テープを使用した場合のサーボトラッキングの方法を示す概略図である。
【図5】磁気テープのバックコート層にサーボ信号を記録する装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1 磁気テープ
2 支持体
3 中間層
4 磁性層
5 バックコート層
10a,10b,10c サーボトラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持体の一方の面上に磁性層が設けられ、他方の面上にバックコート層が設けられてなる磁気テープにおいて、上記バックコート層を、テープ長手方向に対して平行な3本以上のサーボトラックが予め磁気的に形成されている磁気記録可能な層となし、該バックコート層の保磁力を上記磁性層側のすべての層全体の保磁力よりも高くし且つその飽和磁束密度を上記磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度よりも低くしたことを特徴とする磁気テープ。
【請求項2】 上記バックコート層の保磁力が上記磁性層側のすべての層全体の保磁力の110%以上であり且つ該バックコート層の飽和磁束密度が該磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度の90%以下である請求項1記載の磁気テープ。
【請求項3】 上記バックコート層の保磁力が90〜400kA/mで且つ上記磁性層側のすべての層全体の保磁力が80〜350kA/mである請求項1又は2記載の磁気テープ。
【請求項4】 上記バックコート層の飽和磁束密度が30〜350mTで且つ上記磁性層側のすべての層全体の飽和磁束密度が100〜400mTである請求項1〜3の何れかに記載の磁気テープ。
【請求項5】 上記バックコート層が、磁性粉末、結合剤およびカーボンブラックを含有し、該結合剤が該磁性粉末100重量部に対して10〜50重量部含有され、該カーボンブラックが該磁性粉末100重量部に対して2〜50重量部含有される請求項1〜4の何れかに記載の磁気テープ。
【請求項6】 上記磁性粉末が、板径20〜100nmである板状の強磁性六方晶系フェライト粉末からなる請求項1〜5の何れかに記載の磁気テープ。
【請求項7】 上記支持体と上記磁性層との間に一層以上の磁性または非磁性の中間層が設けられており、該磁性層には長軸長0.05〜0.2μmの針状もしくは紡錘状の強磁性金属粉末または板径0.1μm以下の板状の強磁性六方晶系フェライト粉末が含有されている請求項1〜6の何れかに記載の磁気テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開平11−126327
【公開日】平成11年(1999)5月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−288973
【出願日】平成9年(1997)10月21日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)